帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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図鑑集めとポケモンの育成が終わったので投稿しました。


おしおき

 

 

 

「やっぱりこの島が一番ですね」

 

稲荷島に上陸して開口一番、智代子はそう言って踊るように回る。

振り返った彼女の顔は月明かりに照らされている。

もう既に日は沈み、出歩く島民や観光客の姿もなく、港に見える明かりは食堂とフェリー乗り場。

蝉の声すら聞こえない二人だけの世界に、そっと白い獣が近寄ってきた。

 

「きゅっ」

 

不意にそんな鳴き声が聞こえたかと思うと、胸に飛び込んでくる白い毛玉。慌てて受け止めるとそのまま腕を駆け上がり、肩の上に乗るや甘えるように頰を擦り付ける。

 

「迎えに来たのか?」

「きゅぅぅ〜ん」

「心配性なやつだな」

「……あの、先輩。その白狐はなんて?」

「あぁ、またいなくなると思って心配してたらしい」

 

慣れたようにコミュニケーションを取っていると智代子から呆れた視線を向けられる。もう離れないと言わんばかりに身を寄せられるので、身体を撫でて返答をしてると怪訝な顔をされてしまう。

 

「まぁ、今に始まったことではありませんよね」

 

納得したように一人頷くと、智代子は気を取り直す。

 

「さて、じゃあ帰るか」

「あ、先輩」

「どうした?」

「今日は先輩の家に泊まるので、送って行く必要はありませんよ」

 

さて智代子を家に帰すか、というところで突然そんなことを言われる。一応、家主であるはずの俺ですら寝耳に水なのだが、そんなこと知ったことではないと言わんばかりに当然のように智代子は宣告した。

 

「俺聞いてないんだけど」

「琴音先輩には言いましたよ?」

 

–––だから俺聞いてないんだけど。

 

「隣にいるんだけどなぁ」

 

どうして先に琴音に許可を取りに行くのか。

断る理由はないけれど、釈然としなかった。

 

「それに……」

 

智代子は視線を落として、俺が持っているレジ袋を見る。

 

「そんなものを使って、琴音先輩にどんなお仕置きをするのか気になりますし」

 

一緒に視線を落としたハクアは覗き込むようにレジ袋を見て首を傾げている。そういえば彼女は、人間の世界についてはどれくらいの知識があるのだろうか。

やがて興味を失ったのか首に身体を巻きつけて定位置に居座ると、そのまま寛ぎ始めてしまう。

 

「まぁ、それは知らない方がいいだろうな」

「えっ、本当に何する気なんですか……?」

「それは後のお楽しみということで」

「こんな不安なお楽しみ聞いたことありませんよ」

 

お仕置きされる琴音からすればまったく楽しいことにはならないと思いながら、俺はお仕置きの内容を濁して誤魔化すのだった。

 

 

 

 

 

 

「……おかえり」

 

帰宅すると出迎えてくれた琴音は若干不機嫌そうである。

理由について思い当たる節がなく、何か気に障ることがあったか記憶を探るもそれらしき記憶は見当たらない。

 

「なんか不機嫌そうだな」

「……だって圭が遅いんだもん」

 

可愛い理由に頰を弛めてしまうが忘れることなかれ。原因を作ったのは誰だったか。一つフェリーに乗り遅れなければ、夕方日が沈む前には家にはついていたはずなのだ。

 

「誰のせいだろうな?」

「……」

 

あくまで認める気はないらしい琴音に、背中に隠れる智代子が慌てていた。

 

「はわわっ、ちょこのせいでなんか険悪な雰囲気に……!」

「少なくともおまえのせいじゃないから気にするな」

 

険悪な雰囲気に見えるがただ拗ねているだけである。

ここで引くと取り返しのつかないことになるため、俺も引けない。

具体的に言うと、島への軟禁を認めてしまうことになる。

それは困る。

 

「少なくとも今は出て行く予定なんかないから心配するなよ」

 

玄関で靴を脱ぎ、拗ねている琴音の頭を撫でる。

すると途端に彼女の機嫌が直る。

 

「ご飯できてるわよ」

 

服の袖を摘んでくる彼女の顔は、少し弛みだらしのない感じになっていた。

 

 

 

「いいなぁ。ボクも行きたかったな、デート」

 

お茶を飲みながら美咲が羨ましそうに智代子を見る。その視線に智代子はたじろぎながら視線を逸らし、助けを求めるようにこちらを見てきた。

夕食を終えた後、根掘り葉掘り今日のデートについて質問攻めをした二人。何故誘わなかったのかと問われれば、返答に困るので誤魔化しつつなんとか二人を宥めたものの、まだ不満がある様子。

今更ながら形だけでも二人を誘っておくべきだっただろうか。琴音が来れるかは別として。

 

「じゃあ、今度誘うよ」

「本当っ!?」

 

軽い口約束をして美咲の機嫌を取れば、今度は別のところから不満が上がる。琴音が「あたしも」と抗議するような視線を向けてきていた。

 

「祭が終わったらな」

「そうよね。……制服デートとか、してみたいかも」

 

年頃の女の子らしく琴音もそういうことに興味があったようで、予定は先延ばしだが確約できたことに喜んでいる様子で、グラスに残ったお茶を飲み干していた。

 

島で送る平凡な日常にほのぼのとしてしまいがちだが、琴音さんは何かお忘れではないだろうか。

 

「ところで琴音さんや」

「なによ?」

「許可証の件についてなんだが……」

「撤回はしないと思うわよ」

 

あくまでおばあちゃんの許可がないと、という体を装う琴音。しかし、発端が琴音なら彼女さえ撤回の意思を示せばすんなりと事が進むはずだが、まるで自分は関係ないとでも主張しているかのようである。元凶のはずなのに。

 

「おまえさえこっちの味方なら撤回されると思うんだが」

「……伝えておくわね」

 

口ではそう言うが味方をするとは明言していない。言葉巧みに誤魔化されそうになるが、俺もそれで騙されるほど馬鹿じゃない。嘘を吐いていることはすぐにわかった。

 

「ほう、撤回するつもりはないと」

「別にそんなこと言ってないわよ」

「じゃあ、撤回するように婆さん達に伝えてくれるか?」

「……」

「約束できない、と」

 

すぐに応えなかった理由は単純に、彼女にそのつもりがないということである。

 

「おまえ俺に嘘が通用すると思ってんのか。……どうやらお仕置きが必要みたいだな」

 

反省しているなら今回のことは水に流そうと思ったが、琴音にその気がないなら仕方がない。お仕置きを執行しなければならない。主に俺の今後の発言権のために。

 

「お、お仕置きってなにする気よ……?」

 

ごくり、と三人分の喉を鳴らす音が居間に響く。

虫の声さえ聞こえない夜に、その音はよく聞こえた。

 

「じゃあ、取り敢えずこれを飲んでもらおうか」

 

緊張した様子の三人を無視して机の下に置いておいたレジ袋から取り出したのは、500mlのペットボトルに入った市販の珈琲。ドンと机の上に置くと、ついでとばかりに条件を追加しておく。

 

「あ、そうそう一気飲みな」

「……まさか変なものが入ってるんじゃないでしょうね」

 

何を想像したのか琴音の頬が赤い。警戒しながら伸ばした手でペットボトルを掴み、蓋を開ける動作は何か期待しているようでもある。でも残念ながら新品の商品だ。細工はしていない。

 

「安心しろよ、何も入れてないから。ちゃんと新品だったろ?」

「……そうね」

 

新品を開けた時の感触で一応の納得は見せたようである。そのまま口をつけてこくこくと喉を鳴らしながら、指示通りに一気飲みしていく。全部飲み干したところで、蓋を閉めて机の上に置いた。

 

「これでいいの?」

「あぁ、準備OKだ」

 

まだお仕置きの内容を理解していないらしく、なんだ簡単じゃないと安心しているところ悪いがまだこれは下準備にすぎない。

 

「これがお仕置き?」

「なんというか拍子抜けですね。相応の仕返しをしないと割に合わないと思うんですけど……」

 

同じ被害を受けた智代子の疑念は正しい。

俺もこれで終わらせる気はない。

 

「ところで珈琲には何が入ってるか知ってるか?」

「カフェインよね」

「その効果は?」

「確か眠気を覚ます効果があるわよね」

 

一般的に知られるカフェインの効果は確かにそれだが、今回利用するのはその効果ではない。

 

「はっ、まさか今夜は寝かせないってこと!?」

 

美咲の閃きに琴音の頬が赤くなる。つられて智代子の頰も真っ赤になった。

 

「な、ななな、なに考えてるのよ二人の前でっ!?」

「んー、ちょっと惜しいな」

 

客観的に見てエロいことかもしれないが、三人が考えるほど優しいお仕置きではない。

 

「カフェインは眠気を覚ます効果の他にもう一つあるんだよ。なんだと思う?」

「え、何かあった?」

「うーん、思いつきません」

「なんだっけ?」

 

三人が首を捻る中、俺は笑顔で正解を口にした。

 

「利尿作用」

 

たった一言で場が凍りつく。だが、まだお仕置きの内容には至っていない。

 

「琴音には今から二、三時間、トイレに行くのを我慢してもらいます」

「あ、あのね、その前にトイレ行っていい?」

「ダメです」

 

無慈悲な宣告に琴音の顔は真っ青。

 

「も、漏れちゃったらどうするのよ!?」

「子供の頃はよく森でしてたろ」

 

子供の頃、森を駆け回って時間を忘れては帰れなくて森で用を足したものである。それは琴音達だって例外ではない。

 

「い、いやよ!」

「俺も嫌だよ。将来のお嫁さんが森でトイレするなんて。わざわざ外に出て監視とかしたくないし」

「監視するの!?」

「当然だろう」

「圭の変態!えっち!」

 

–––残念ながらそんな趣味はない。

 

「まぁ、外が嫌なら我慢するしかないな」

「だから漏れちゃったらどうするのよ!」

「大丈夫だろ。もしそうなったとしても、風呂場なら問題ないだろ?」

 

俺の言わんとすることに逃げ場がないと理解したようである。最初は抗議の声を上げていたが、今は声もなく意気消沈してただ座り込んでいた。

 

「それが嫌なら許可証の件、撤回するか?」

「……それは嫌」

 

頑なに拒否する琴音。

何が彼女をそうまでさせるのか。

 

「あ、そうだ。美咲あんた圭と一緒にお風呂入ってきなさいよ」

「ごめんねー、ボク先にお風呂入ってくるね」

 

美咲を釣るための餌までぶら下げたのに、美咲は反応することなく琴音を地獄に叩き落とす。利益より、俺の求めることを理解してくれる実に良い幼馴染だ。

 

「ね、ねぇ、智代子。圭と一緒にお風呂入ってくれない?」

「すみませんが嫌です」

「ちょこちゃんお先にどうぞー。間に挟まれると面倒だよ?」

「ありがとうございます。美咲先輩」

 

二人はそそくさと去って行く。

親友であるはずの、琴音を見捨てて。

 

「ね、ねぇもしかして……」

「監視するんだから、一緒に入るに決まってるだろ」

 

当然、逃すはずもなかった。

 




おまけ

美咲「遅いね。二人とも」
智代子「そうですね。喧嘩してないといいんですが……」
美咲「大丈夫だよ。圭君だって引き際は弁えてるし。琴音ちゃんって圭君にいじめられるの好きだし」
智代子「……今のは聞かなかったことにします」
美咲「ねぇ、ちょこちゃん。どっちだと思う?」
智代子「どっち、とは?」
美咲「琴音ちゃんが漏らしたのか、漏らしてないのか」
智代子「触れないようにしてたのに直球ですね!?」
美咲「ねぇ、どっち?」
智代子「黙秘していいですか?」

※ご想像にお任せします。
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