帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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短め


九条兄妹

 

 

 

「んぅ……?」

 

朝もまだ早い時間にスマホが震えた。僅かな振動に目を覚ました俺は、身を起こそうとして–––断念する。両腕は痺れたように動かず、また起きあがろうと身を起こそうとしても少し浮くだけ。そこで諦めて布団の上に身を投げて、両隣を確認してみると琴音と美咲の二人が俺の腕を枕に眠っていた。

 

腕の痺れの理由に納得すると同時に、小さくため息を吐き出す。なんとか腕に力を入れて二人の頭をかき抱くように動かすと、髪を少し撫でてからそっと腕を抜き出した。

 

密着が解かれて少し残念に思うも、あとでまたこっそりくっついておけばいいかと思い直してスマホに手を伸ばす。待ち受け上部に届いたSNSのメッセージの一文を見て、俺は目を覚ました。

 

『ついた』

 

この言葉の意味することに気づくのに数分、意味を反芻して俺は朝から頭を抱えていた。

 

「あの、バカ」

 

独り愚痴を飛ばすと隣の二人を優しく揺り起こす。肩を揺すると寝間着の隙間から谷間が溢れ出してしまったが、欲情しているような暇はない。しばらくは見られないであろう至福の光景を存分に拝んでおいて、一分ほどして二人が目を覚まして身を起こし始めた。

 

「んんぅ。……どうしたの?」

「ボクまだ眠いよ〜」

 

まだ時刻は朝の六時過ぎ、昨日は夜遅くまで夜更かしして戯れあっていたためか二人とも眠そうに身を寄せてくる。美咲は俺の膝の上にダイブして膝枕を堪能、琴音は俺の肩に頰を置いてしなだれ掛かる。

 

「九条がもう“ついた”らしい」

 

その言葉に二人は目をパチクリとさせ、言葉の意味を咀嚼して飲み込むのに数十秒。

 

「確か泊まりに来る圭の友達よね?」

「えっと、前日に連絡が来るんじゃなかったっけ」

 

そう。出発する前日に連絡が来るはずだったのだ。それが“ついた”である。

 

「大変ね。急いで支度しないと」

「本当に圭君の言った通りになったね」

 

普通、怒るところなのだが二人は焦らず布団から這い出る。それもそのはず、俺が事前にその可能性を示唆しておいたのだ。伊達にあいつの友人を長い間やっているわけじゃなかった。

 

「取り敢えず、俺が時間を引き伸ばすから二人は着替えてくれ。俺は迎えに行ってくるから」

 

適当に返信を打ちながら、そこを動かないようにメッセージを打つ。動くなよ。絶対だからな。フリじゃないぞ。と、念を押して友人に返信しておいたから多分動かないと思うが、確証はない。

 

「一時間あれば十分か?」

「うん。それだけあればお風呂にも入れるから」

「急いで入らないとね」

 

俺はさくっと箪笥から甚兵衛を取り出して、寝間着から着替えるとそのまま部屋を出ようとする。すると袖を引かれて振り返れば、頰を染めた琴音が袖を引っ張っていた。

 

「なんだ?」

「いってらっしゃい」

 

送り出す言葉と共に、唇に触れる柔らかい感触。

たった一瞬の感触はとても甘く、いつまでも浸っていたくなるような夢のような味で。

数秒呆けてから、俺はようやく言葉を絞り出した。

 

「あぁ、行ってくる」

 

 

 

フェリー乗り場には既に始発のフェリーが着港していた。乗客の下船は済んでいるようで動きはない。俺は下駄をカタカタ鳴らしながらゆっくりと歩き、チケット売り場の前まで来ると腕を組んで周りを見渡した。

 

「……何処行きやがった」

 

迎えに来たはいいが姿のない友人に呆れつつ、出来うる限り目で姿を探してみる。すると漁港の方にそれらしき二人組を見つけて近づいていった。

 

「おいし〜い♡」

「本当、いいなぁ。この島じゃこんなのが毎日食べられるなんて」

 

サザエの壺焼きを頬張り、現地民と楽しそうに会話している九条兄妹。その姿を確認すると、俺は自然な足取りで背後に忍び寄ると九条兄の方の頭を平手打ちした。

 

「いたっ!?」

「いたっ、じゃねぇよ。バカ」

「うぅ。久しぶりに再会した親友に酷くない?」

「一月も経ってねぇよ」

「今生の別を覚悟したのに」

「会えなくなるような距離でもないだろ」

 

頭を摩りながら振り返った九条兄–––晶が俺を見上げて、恨めしそうに睨む。

そんな兄の姿を無視して、隣からもう一人の人物が抱きついてきた。

 

「圭さん!」

 

赤髪を腰まで伸ばした少女、美桜が中学三年生らしからぬ大きな谷間を押し付けてくる。雰囲気も何処か艶やかで幼さを残しながらも、可愛らしい感じだった。

 

「美桜も久しぶりだな」

「はい、圭さん。お変わりないですか?」

「俺は元気だよ」

「私心配したんですからね。急に故郷に帰るって言うから」

「あー、ごめんな。言ってなかったっけ」

 

頭を優しく撫でながらそんな会話をしていると、恨めしそうに俺を睨む視線が二つ。

 

「団長、また団長の女か」

「リーダー、この件についてはしっかりとあの二人に報告させてもらう」

「いたのかおまえら」

「きゃっ、圭さんの女、だなんて……!」

 

恨めしそうな視線の正体は亮介と真広の二人だった。今まで漁港で魚を売っているだけの漁師かと思っていた晶が、首を傾げて尋ねてくる。

 

「あれ、圭知り合い?」

「幼馴染だ」

「まさかこの二人がいいなずっ–––」

「おい。冗談でもそれ以上言ってみろ。海に放り込むぞ」

 

晶がふざけたことを言うものだから、俺は殺気を全身全霊で叩きつけて口を閉じさせる。

 

「それよりリーダー」

「なんだ真広。こいつの処分の方法、思い浮かんだか?」

「いや、そうじゃなくてリーダーの客なんだろう。それなら歓迎会なんてどうかなと思うのだが……」

「ちょこだってバカ騒ぎするのは好きだからな。最近、そういうのもないし喜ぶと思うぜ」

 

可愛い後輩の名前まで出されては考えないわけにはいかない。

 

「わかった。あいつらに伝えておく」

 

俺は真広と亮介にそう答えて、俺は九条兄妹を連れて漁港を離れた。

 

「それで晶、おまえ一体どういうつもりだ?」

 

ある程度、人の往来から離れてから晶に詰問する。

 

「どういうつもりって?」

「俺言ったよな。家出る前日に連絡しろって」

 

あらかじめ決めていた約束を指摘すると、あははと苦笑いする晶。

 

「忘れてた」

「忘れるなバカ」

 

笑って流そうとする兄の姿に、妹の冷たい視線が刺さる。俺の腕にしがみつきながら、侮蔑の表情を浮かべていた。

 

「連絡してなかったのバカ兄貴!?–––ごめんなさい圭さん、兄さんがバカで」

「いいよ。元から知ってる」

「二人が酷い……」

「罰として、私の荷物持ってよね」

 

自業自得なので同情する気も起きず、俺は美桜を連れて家路へと戻る。そのあとを、妹に荷物を押し付けられた晶が必死についてくるのだった。

 

 

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