帰郷したら許嫁が束縛系ヒロインになっていた。   作:黒樹

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間に何か一話くらい挟みたいなと考えてたら一週間経っていた。
※加筆修正しました。


美桜と一夏の思い出

 

 

 

「そういやおまえらいつ帰るんだ?」

 

崩来祭、二日前の夜のことだった。

いつものように美咲の手料理を美味しいと言って食べる九条兄妹に、俺は最近気になっていた疑問を口にする。そう言うと美桜は魚介たっぷりの塩焼きそばを食べていた手を止めて、身を乗り出すように机を叩いた。

 

「それって早く帰れって意味ですか!?」

「いや、夏休みもあと少しだろう。単純に気になっただけだ」

「–––と、言われても僕としてはいつでもいいんだけどね」

 

九条兄妹に温度差があるのも無理はない。晶からすればいつでもいいのだろうが、美桜が駄々を捏ねてこの島に長居しようとしているのだろう。この反応を見ればわかる。

 

「ただ、親父は早く帰って来いって煩いけど、母さんの方がな……」

「なるほど。片方から、許可は出ているんだな」

 

親父さんは美桜を溺愛しているから、娘には早く帰ってきて欲しいのだろう。それも男の家に転がり込んでいるとなれば、いくら知っている相手とはいえ面白くないに違いない。

母親は逆に、美桜の心情を知り援護でもしていそうだ。そういう意味では美桜でも母親を丸め込めるため、あとは父親の方を母親が抑えるだけである。磐石の体制であった。

 

「圭さんは私にいて欲しいんですか?いて欲しくないんですか!?」

 

好意を隠さず、露骨に迫ってくる美桜に俺は苦笑い。

なんというか答えづらい質問であった。

俺にとって九条美桜という人間は、友人の妹である。それと同時にかけがえのない大切な存在でもあった。

前はここまでアプローチは激しくなかったが、確かに美桜を異性として意識していたこともある。友人の妹でさえなければ、と何度思ったことか。

 

「う〜ん。と、言われてもなぁ」

 

本当に答えづらい問題だ。

好意とは言うけれど、それを“恋”と呼ぶべきかもわからない。

可愛さもあって、特別な感情を抱いているのは確かだ。

帰らないでくれと言うのは簡単だが、それでは俺が好意を持っているようにも聞こえる。

美桜は間違いなく、そう捉えるだろう。

 

「……帰るのは、いつなんだ?」

 

だから、話を逸らして話題を転換する。

美桜はあからさまに拗ねて不貞腐れた。

 

「三十日。夏休みが終わる一日前には、帰ってきなさいって」

 

母親に譲歩された条件を口にしながら、俺の顔を窺う。

何かを言って欲しいような、懇願するような顔。

そうしていつまでも俺の顔を見つめていたが、何か思いついたように顔を綻ばせた。

 

「そうだ!圭さん、デートしてください!」

「「「デート?」」」

 

約三人がその単語に反応する。続けて美桜は爆弾を投下した。

 

「本土ではよく私とデートしてくれたじゃないですか」

 

凍りつく空気。夏の暑さも逃げ出す絶対零度に、俺と晶は身を震わせて耐える。その原因は琴音達から発せられる冷たい空気であった。

 

「圭、したのデート?」

「ふーん。そうなんだ」

「圭先輩、やることはちゃっかりやってたんですね」

「「「そういう関係ではないと言っておきながら」」」

 

まるで示し合わせたようにハモる三人に、「圭の嫁怖っ」と晶が戦慄する。うちの妹はこれに挑むのか、と半分楽しそうであったが。

 

「もちろん、二人っきりでお願いしますね。一夏の思い出が欲しいので」

 

怯む様子もなく、三人の視線をスルーする美桜はお願いを最後まで言い切る。

当然、いい顔をする琴音ではなかった。

 

「却下」

「え〜?なんでですかぁ?」

 

あざとく聞き返す美桜に、琴音は微笑を崩さない。

 

「なんででもよ」

「夏休みの思い出を好きな人と作って何が悪いんです?もう私は、一週間も一緒にいられないんですよ。そうしたらまた、離れ離れになるんです。その気持ちわからないわけじゃないですよね?」

「……っ」

 

琴音にも思うところがあったのか、美桜の説得に動揺する。表情を僅かばかりに歪めて、美咲の方へ視線を動かした。すると美咲も同じように視線を合わせており、肩を竦めて首を横に振った。

 

「……仕方ないわね。明日くらいは独り占めさせてあげる」

「やった!」

 

こうして美桜は、独占デート権を獲得したのであった。

 

 

 

 

 

 

翌日、午後六時過ぎ。

傾き始めた太陽が茜色に海を彩る頃に、俺は一人フェリー乗り場にいた。

海水浴場近くには出店の列ができており、二日間に渡る“白狐祭”の前夜祭として出店が開かれていた。

この時期になると観光客に向けて、島民達が稼ごうと躍起になるのである。だから、祭当日だけではなく、前夜にも出店の殆どが開かれている状態なのだ。

 

島の外から来る客も、島の子供達も交ざって出店を覗いている。特に催し物はないものの、数少ない娯楽として島民達は大いに楽しみ、大人達はお酒を片手につまみを購入していた。この日ばかりは、奥さんの財布の紐も緩むのである。

 

フェリー乗り場の前でその様子を眺めていると、木を打ち鳴らしたような音が近づいてくる。喧騒に紛れて気づかなかったが、その音はすぐ側まで近寄ってきていた。

 

「圭さん、ごめんなさい。待ちました?」

 

視線をふとそちらに向けると、白い生地に華をあしらった模様の浴衣に身を包み、下駄を履いた美桜がいた。髪は丁寧に結い上げられて、頸を曝け出した彼女は中学生とは思えない色気が漂っており、思わず言葉を失うほど見惚れてしまった。

 

「あぁ、いや、全然」

「ふふ、よかった」

 

くすくす小さく笑う美桜に、また見惚れる。その視線に気づいて悪戯っぽく微笑んだ。

 

「これ、琴音さんに借りたんです。圭さんは暗色の甚兵衛を着るだろうから、白い方がいいかもって」

「そうか。道理で見覚えがあるわけだな」

 

古い家柄だからか着物の類は沢山ある。琴音だって寝間着は和服なのだから、浴衣も複数持っていてもおかしくなかった。しかし、それを貸してくれるなどどういった風の吹き回しか。

俺の考えていることに気づいたのか、美桜もまた困惑したような表情を浮かべていた。

 

「変ですよね。あんなにいがみ合ってたのに、着物を貸してくれるなんて」

「まぁ、あいつにも思うところがあったんだろ」

「そうですね。でも、まぁ、感謝してます。これで圭さんと夏祭りに行くっていうお願いが叶いましたから」

 

本当に嬉しそうに笑う美桜は、そっと手をこちらに差し出した。

 

「本土の祭りには劣るけどな」

「圭さんが一緒ならどこだっていいですよ」

 

俺は美桜の手を掴んで、祭の最中へと繰り出した。

 

 

 

美桜を伴って歩く。下駄を履き慣れていない美桜が転ばないよう腕を貸しながら、ゆっくりと人混みの中に足を進めた。

祭前夜とあって前夜祭と呼ばれているが、屋台もあれば規模は少なくとも花火も上がる。本土には劣るが歴とした祭の一つであった。

メインは“白狐祭”であるから仕方ない点もあるが、この小さな祭りに参加しに本土から観光客が来ることもある。

 

「取り敢えず、どうする?」

「そうですね。まずは、何か軽く食べませんか?」

 

慣れたように美桜をエスコートしながら、屋台を巡り歩く。

実際、毎年のように美桜と祭りに行ったので間違いではなかった。

下駄と浴衣に慣れない彼女の面倒を見ていたのだ。

晶と三人で来たにも関わらず、あいつはいつも友達を見つけたと言って離れていった。

やはり、あれも仕組まれたことであったのだろう。

俺と美桜を二人きりにするために、気がつけばはぐれていることは数回じゃなかった。あいつの自由奔放さに呆れていたが、まさかそれが仕組まれたこととは露にも思わなかったが。

 

「お、たこ焼きがあるぞ。塩焼きそばも」

「こういう屋台のたこ焼きって、中身詐欺みたいにたこが小さかったりしません?」

「この島に限ってそれはないな。まぁ、説明するより食った方が早いだろ」

 

論より証拠とばかりに、屋台でたこ焼きと塩焼きそばを一つ買う。二人で半分こするのも当たり前。どちらかといえば俺と美桜の方が兄妹としては上手くいっているのではないだろうか。

 

「ほら」

「ありがとうございます。圭さん」

 

割り箸を渡すと、上品に縦に割った。しかし、その反動で着物ですら抑えきれない巨乳が揺れた気がして、俺は一瞬凝視したあとすぐに視線を逸らす。

 

「熱いから気をつけろよ」

 

注意しながら、俺も割り箸を割った。

そして、一つたこ焼きを摘むと口に放り込む。

熱々とろとろのたこ焼きで口内を焦がしながら、俺は作りたてのたこ焼きを味わった。

大きいたこを噛み締めて、飲み込む。

 

「あ、あふっ、あ…おっき…」

 

隣を見るとたこ焼きに挑んでいる美桜の姿が。

何故か、艶っぽく悶える美桜に、別の意味で身体が熱くなってくる。

たこ焼きの熱とも、夏の暑さとも違う。

そんな光景は、美桜がたこ焼きを飲み込むまで続いた。

 

「た、確かに、すごく大きかったです……中もとろとろで熱くて……美味しかったです」

 

たこ焼きには満足したようだ。気に入ったのかまた口にたこ焼きを放り込む。その度に、艶かしい声で喘ぐものだから、俺は立ち上がれなくなってしまった。

 

「そういえば、塩焼きそばなんですね」

 

美桜はこっちの気も知らず、何かに気づいたように塩焼きそばを見下ろす。

屋台といえば、ソース焼きそばが主流だろう。しかし、この島はソース焼きそばより塩焼きそばを売る傾向にある。その理由が気になったというところだろうか。

 

「ああ、それは“島”だからだな」

「“島”だから?」

「ここって田舎だし、本土とも離れてるだろ。だから、肉じゃなくて漁で獲れる魚の方が消費量が多いし、魚介類なら新鮮なのが毎日手に入るからな。魚介類を使った塩焼きそばの方が人気なんだ。島の外から来る観光客にもな」

「へー、そうなんですね」

 

塩焼きそばのパックを開けて、美桜は具材と一緒に麺を口にする。すると目の色を変えた。

 

「え、なにこれ、すごく美味しい!?」

「塩焼きそばばっか作ってるからな。ここの島民は。そんじょそこらの屋台じゃ満足できない体になるぞ」

 

おかげで島の外の焼きそばがあまり美味しく感じられず、郷愁の念に駆られた原因の一つでもあったりする。そういう意味では、美桜もこの島に既にどっぷり浸かっていた。

 

「圭さん、はいあーん」

「むっ。やっぱりこの島の塩焼きそばが一番だな」

 

美桜に塩焼きそばを食べさせてもらいながら、帰ってきたんだなーと感慨に耽る。

 

「圭さん、今度は食べさせてください」

「ほら、口開けろ」

「ん〜、美味しい〜!」

 

リクエスト通りに食べさせてやると、より一層美味しそうに塩焼きそばを食べた。

それから屋台を練り歩き、狐揚げ等の料理を楽しみつつかけがえのないこの時間を楽しんだ。

 

 

 

デートを始めてから一時間半。

輪投げ、射的などの遊びに興じて時間を潰したあと、移動を始めた頃に最初の一発目が空に上がった。ひゅるひゅると音を立てて、天に昇る火花は、後に大きな音を立てて破裂した。

ドンッ、という腹の底から、心臓に響きそうな音を立てる花火に振り返った。

 

「圭さん、始まりましたよ」

「少し急ぐか」

 

美桜を連れて来たのは、森の中だ。

登山道から進み、暗闇に足元も見えない道を進む。

背中には美桜を背負っていた。

歩けると言ったが、下駄の美桜を夜の暗い山道を歩かせるわけにはいかなかった。

怪我をさせても申し訳ないし、晶に顔向けできなくなる。

それに彼女を預かっている以上、何かあった時、二人の両親にどう説明すればいいものか。まず間違いなく親父さんには殺される。

 

「ついたぞ」

 

それから十分ほど歩いて、目的地へ到着する。

明日、崩来祭のスタート位置となる、大きな赤い鳥居。

その下で、俺は美桜を下ろして倒れ込む。

 

「はぁ、さすがにキツかったかぁ〜」

 

後悔はない。ただ、美桜に見せたかったのだ。

より空に近い場所で見る、花火を。

この島で一番の、花火を見る場所で。

それがこの赤い鳥居だ。

 

「……綺麗」

 

静かな場所で、誰もいない空間で観る花火に美桜は見惚れていた。何度も見ているはずの、本土よりは劣る花火なのに、それでもどうやらお気に召したようで食い入るように見つめていた。

 

「だろ。子供の頃、見つけた場所なんだ」

 

自慢するように言って、草原の上に寝転ぶ。

疲れ切って動けない俺に、影が覆い被さった。

花火が破裂するたびに、照らされる影。

唇に触れる感触と、至近距離にある美桜の顔はとても綺麗で、脳が蕩けるようなその快感に抗えず。

ふと離れた悪戯っぽい美桜の笑顔に、現実に引き戻された。

 

「……圭さんがあまりにも手を出してくれないから、自分から出しちゃいました」

 

夜空に咲く火の花よりも、真っ赤な顔。

頰どころか耳まで染めたその顔は、夜だというのにその色がよくわかる。

あまりにも突然唇を塞がれたために呆けていると、彼女がさらに悪戯っぽく笑った。

 

「もう一回していいですか?」

「いや、そのな……」

「私が友人の妹だとか、そういうのはナシです」

 

拒んでいる理由に、そういうのを含めるのを禁止されて、俺は返す言葉がなくなる。

 

「したいですか?したくないんですか?」

 

あくまで俺から唇を奪って欲しい美桜に、俺は無言で行動を示した。

 

–––ほっぺに。

 

「これで勘弁してくれ」

「……次こそは、ここに頂きますからね」

 

唇を指先でなぞり、妖艶に微笑む。

そのまま二人で、花火を見続けたのだった。

 

 




友人の思い通りになっているような気がしてならない主人公であった。
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