SCAPEGOAT~他者の命を踏みにじることでしか能力を使えない~   作:アフロマリモ

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2-5 現の悪夢

 ガタガタと揺れる馬車の中、ひたすら目の前の男はしゃべり続けていた。

 今まで何人殺したかとか、その中でも一番楽しかった殺しとか、事細かく。

 その話を通して、ひたすら自分が優れていること、自分がどれほど業魔として最強かを自慢し尽くしていた。

 俺は、ほとんどを聞き流していた。まともに聞いていたら不快感と怒りで吐き散らしていただろう。それに荷物呼ばわりされたこの人たちのことが、気になって仕方なかった。

 

「それでよぉ。俺のこと追ってきた異端審問官30人全員を殺したってわけ。しかもそいつらは大都市屈指の精鋭で……何? どうした? 荷物なんかチラチラみて、誰か欲しいの?」

 

 自慢話を聞いてもらえないのが不愉快なのか、不満そうに問いかけてくる。

 

「大事な商品なんで、勝手に盗らないでくださいよ」

 

 ティモが、こちらに振り返り言う。

 

「……この人たちは、これからどうなる?」

 

 質問をぶつけると、大笑いしながら“鎧鼠”は答える。

 

「アハハハハハ! おまwお前顔に似合わず鬼畜だな! これからどうなるかこいつらに聞かせるのかよ。いいぜ、詳細に語ってやるよ!」

 

「こいつらは商品だ、人間に向けてじゃねぇ、各地の業魔に向けて売られる。俺らみたいなね」

 

 ヒラヒラと右手の甲を左右に振る。当たり前のように人権印が刻まれている。

 

「そんでもって、そいつらの“趣味”に使ってもらうってわけだ。俺は買ったことねぇけど。俺は現地調達派だからな!」

 

 聞くんじゃなっかった。最悪だ。俺は最悪なことに加担している。押さえつけていた罪悪感が溢れそうになる。

 

「ホント、業魔ってのは、どいつもこいつも粋な“趣味”持ってるからな! かくいう俺もだな……」

 

 また自分の話をしようとし始めていた。話を遮り、思わず口をはさむ。

 

「なぜお前は、自分が業魔であることをそんなに嬉々として話せる?」

 

 前々から抱いていた質問だった。

 俺は、自分が業魔だと知った時から一度も業魔であることに正の感情を抱いたことが無い。負の感情しか抱かなかった。

 だが会う業魔、会う業魔、全員が業魔に生まれたことに対して一切の後悔や疑問を抱いていなようだった。それどころか謳歌している。他人の人生を踏みにじれることに。

 

「まさか、お前、業魔に生まれたことを悔いてる系? 珍しい“業魔”だなぁ」

 

 興味深そうに驚き、顔を緩ませながら皮肉を込めて返される。

 

「俺は業魔に生まれたことを悔いている。人の命を踏みにじらなきゃ、使うことの赦されないこの力を憎んでいる!」

 

「そして他人の命を、物のように消費するお前ら業魔を嫌悪している!」

 

 俺は強い口調でまくし立てる。だが“鎧鼠”はそのニタニタと顔を緩ませるのをやめなかった。

 

「ずいぶんな物言いだね。つまり俺らみたいな自己中心の塊の業魔が大っ嫌いってわけだ。けどさ、それって業魔だけじゃないと思うんだよね。人間もそうだと思うんだけど」

 

「それは違う、人は他人を思いやって行動することが出来る!」

 

「いやいや、人は誰しも心の中では自分が一番大切だし、自分の快楽のために他人を犠牲にするぜ。そういう自己中心さが人間の本質だと思うけどな、キンモもそう思うだろ?」

 

「……ティモです。まぁ私も常々そう感じますね」

 

 "鎧鼠"の問いに、ティモはため息交じりに同意する。

 

「そう考えるとさぁ、ある意味、業魔は人間よりも“人間らしい”と思うんだよね」

 

 業魔が人間らしいだと!? 怒りで腸が煮えくり返る。

 

「違う! 人は他人を愛し、その人のために自分を犠牲にできる。お前ら業魔とは違う!」

 

 俺は立ち上がり大声で反論する。その反論に“鎧鼠”は不思議そうな顔をする。

 

「お前ら、お前らって……何? 自分は業魔じゃないっていうのか? お前も業魔だろ? 自分の目的のために他人を犠牲にできるそうだろ?」

 

「違う!」

 

 俺は……、心だけは人なんだ! 人であり続けるんだ。

 

「じゃあ、なんで"黒ヤギ"くんはさ、この仕事受けてんだ? 自分の目的のためだろ? こいつら犠牲にしてさ」

 

 後ろの9人を指している。どれもが衰弱し、絶望した顔をしていた。これからの地獄を想像して。

 俺は……俺は……

 

「俺は……、業魔なんかじゃ……」

 

 瞬間馬車が急に止まり、転びそうになる。

 

「どうしたキンモ!」

 

 突然の急停止に、驚いた“鎧鼠”はティモに確認をとろうとする。

 

「どうして異端審問官が……」

 

 幌をめくり、前を覗く。森を抜け、平原に入るところだった。平原には多くの明りと、それに照らされる異端審問官たちがいた。しかも彼らは自分の良く知る顔たちだった。

(ダンさんたちの部隊!? なんでここに?)

 昼間のエマさんの会話を思い出いし合点がいく。おそらくこの仕事のことが筒抜けだったんだ。でもなぜ? 俺と同じように“鎧鼠”も覗き込むと満面の笑みをこぼす。

 

「お! やっとお出ましか! かなりの数いるなぁ、こりゃチクった甲斐があったぜ! キンモ何人まで使っていい?」

 

「まさか“鎧鼠”あなたまた! ……はぁ、もういいです。二人までです。それが限界です。あと私の名前はティモです」

 

「はいはい、分かった分かった。さてと」

 

 振り返り品定めしようとする“鎧鼠”の前に立ち塞がり、強い口調で疑問をぶつける。

 

「どういうことだ、何が起こってる!? 異端審問官を殺すきか!?」

 

「当たり前じゃん、そのために呼んだんだし」

 

 あっけらかんと"鎧鼠"は答える。あきれながらティモは補足するように言葉を付け加える。

 

「その人が、自分で異端審問官にチクったんですよ。自分の力に浸るために。これで3度目ですよ、3度目! 一緒に仕事する度にこんなことするんですよ! もう勘弁してほしいです」

 

「そうそう、これが俺の粋な“趣味”ってわけだ。てことでどいてくんね?」

 

 その言葉を無視して、立ちふさがり続ける。

 

「意味が分からない! なぜこんなことをするんだ!」

 

「気持ちいもん、人殺すの」

 

 まともに話すのも馬鹿らしい。

 ダンさんと殺し合いなんかさせる訳にはいかない。俺はひたすら叫んだ。

 

「今からでも遅くない。別の道から行くべきだ! 異端審問官とやりあうなんてリスクが高すぎる!」

 

 ひたすら聞こえの言い代案を並べる。

 何とかしなければ……、ダンさん達が傷ついたり、殺されたりするのなんて絶対見たくない! そんなこと起きてはならない! 

 “鎧鼠”は少し考えた後、ニコッと笑う。

 

「確かにそうだな、危険かもしれん。それにそもそも俺たちの目的は荷物の護衛だしな! 別の道から迂回するか。俺が間違ってたよ」

 

 俺の両肩に両手を乗せる。こいつ分かってくれ……

 

「って言うわけねぇだろ! この俺様がよぉ!」

 

 そう言い放ち、両手で俺を引き寄せ、みぞおちに膝蹴りが食い込ませてくる。

 

「かはっ!」

 

 腹部を襲う激痛に悶え、崩れ落ちる。内臓がひっくり返るようだった。

 苦しむ俺に容赦なく蹴りを加え続ける。

 

「俺の! 楽しみを! 奪うんじゃ! ねぇ! クソが! よ!」

 

 ひとしきり蹴り続けた後、息をふーっと吐くと、膝を曲げ俺の顔を覗き込む。

 

「俺様は最強なんだ。ここで安心して、よーく見とけ、この平原が異端審問官の臓物で飾られていく様をよぉ」

 

(やめ……ろ、お願いだ、やめてくれ)

 

 痛みで声の出ない俺をよそに、“鎧鼠”はおびえる荷物の品定めを再開する。そして子供を抱き寄せる女性の前まで行く。

 

「この子供にするか」

 

 女性から子供を奪い取る。女性は懇願し"鎧鼠"の足に縋りつく。

 

「お願いします! 息子だけは息子だけはどうか」

 

 “鎧鼠”はわざとらしく考えると、あっ! と何かを閃いたようなそぶりを見せた後、ニタニタと笑う。

 

「そうだね。“子供だけ”じゃ、かわいそうだから、君とこの子にするね!」

 

 女性の腕をつかみズルズルと引きずり、馬車を降りる。馬車の外から子供と女性の泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

「"アマルティア"」

 

 幌の向こうから肉が溶け合い、ボコボコとその形を変えていく音だけが聞こえる。

 

 悪夢が始まる。




ここまで読んでいただきありがとうございます。これで2話目は終了です。第3話は濃厚な戦闘を見せれるように頑張ります。
好評でも批判でも遠慮なく感想に書き込んでいただけるとありがたいです。
これからもよろしくお願いします。
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