SCAPEGOAT~他者の命を踏みにじることでしか能力を使えない~   作:アフロマリモ

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1-4 対決

 扉に蹴りを入れ、中に入ると部屋の中央には女に馬乗りになった半裸の男がいた。

 表口からはカレンが突入していた。

 そして男の背中には、トカゲのような生物が目玉をしゃぶっているような、奇怪な模様が漆黒で描かれていた。

 

「姉さん! 男が業魔だ! 」

 

 ライアンはカレンに向かって叫ぶ。

 

 男は扉が壊された音に反応し、ライアンとカレンを交互に見比べていた。

 

「なんだテメェら!」

 

 そう叫ぶ男、しかしそんなことお構いなしで、カレンは、常人では反応できないようなスピードで間合いを詰め斬りかかろうとするが、

 

「こっち来んな!」

 

 ギリギリのところで男は女性を盾にするように自分の前に持ってくる。

 女性の眼は空洞だった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 女性は混乱し、ただ懇願していた。男は女性の背後に隠れ、こちらと目を合わせないようチラチラと周りの様子を伺っていた。

 

「最悪だぁ、いいところなのにぃ、クソぉ」

 

 悪態をつきながらキョドっている。男と女の素肌は触れ合っていた。

 女性もろとも殺すしかない……このままでは業魔化する。ライアンがそう結論を出したとき、カレンはすでに行動していた。

 カレンはもう一度踏み込み、剣を女性の心臓目がけて突き立てようとする。が

 

「いやあああ」

 

 カレンの踏み込み音に驚いた女性が暴れたため、狙いは心臓から外れ右胸を貫き、裏の男まで届くが殺し損ねてしまう。

 

「いっっってええ、"アマルティアァァ"」

 

 男は、激痛に悶えながら呪文を唱えた。

 

「まずい!」

 

 カレンは後ろへ飛び退く。ライアンも急いで裏口から脱出する。

 女の体はデロデロに溶け男を包み込むと、風船のように一気に膨らんだ。

 

 

 

「業魔とは、どういった能力を持っているか知っていますか?」

 

 板書書き終えた先生が、振り返り生徒達に質問する。体力訓練の後で俺を含め多くの生徒がクタクタになっている中、優等生風の女生徒が手を挙げ答える。

 

「簡単ですわ! 業魔は業魔化しなければ人と同じ身体能力ですけど、他者と素肌で触れ合い呪文を唱えることでその者の命を犠牲にし、業魔化、巨体の化け物になることができるんですわ!」

 

「そうその通り、 そして犠牲となってしまった人間が多ければ多いほど、より大きくより強大になることができますね」

 

 疲労による睡魔と戦いながらライアンはその話を聞いていた。将来は業魔と戦うために鍛錬を重ね知識をつけ、いつか対面した業魔を撃破することを夢見て。

 

 

 ライアンは急いで、裏口から飛び出す。

 表口の方からカレンの叫び声が聞こえる。

 

「クソッ、仕留め損ねた! 中の男は業魔だ! 業魔化した!」

 

 それと同時に家屋の天井を押しのけ、肉風船が膨れ上がった。一瞬で大人6~7人近くの大きさになると、瞬く間に形状を変える。

 トカゲのような見た目、肌は青々とした緑色で、身体中に目玉が点在していた。

 これが業魔!

 ライアンは、初めて対面するその巨躯が放つプレッシャーに押しつぶされそうになる。

 業魔は全身の目玉をギョロギョロとさせ、周りを伺ったかと思うと次の瞬間、街の外壁へと走り出した。

 

「逃げる気か!」

 

 フリードがいち早く反応し、追いかけ始める。ライアンとカレンを含め他の異端審問官も遅れてそれに続いた。

 業魔は、その巨体からは想像もつかないほど身軽に屋根を伝い、外壁へと猛進していく。フリードは業魔と併走しながら、空中へ浮かせた剣たちでその巨体を斬りつけようとする。

 しかし業魔は全身の目玉でその剣たちを把握出来るのか、上手く躱しながら逃走を続ける。

 フリードは浮かせた剣を大げさに動かす。剣を囮に何としてもハチ針を刺そうとしているように、ライアンには見えた。

 一瞬でも隙を見せれば、フリードは確実にハチ針刺すだろう。

 フリードが攻撃を続ける中、業魔は一瞬、ほんの少しだけスピードを抑え、逃走ではなく別のことに動作を割こうしているように見えた、次の瞬間、業魔はいきなり目の前の家屋に突っ込み倒壊させた。

 倒壊した家がもうもうと砂埃をあげ、フリードの目の前に立ち昇る。フリードの後方をつけていたライアンや他の審問官は、何が起きたのかすぐには理解できなかった。

 一人を除いて。

 ライアンと並走するカレンが叫ぶ 。

 

「フリード避けろ! 反転して攻撃する気だ!」

 

 カレンには何か見えているようだったが、ライアンには何も見えなかった。

 がその瞬間、埃の中から不可視の攻撃がフリードを捉える。

 

「隊長!」

 

 フリードが吹き飛ばされ、家屋に突っ込む。すぐにまた、カレンが叫ぶ。

 

「こっちに向かってくるぞ! 散開しろ!」

 

 砂埃を突き抜け何かが近づいてくるような気配を感じる。が誰の目にも映ることはなかった。

 不可視の攻撃が目の前の屋根に立っていた異端審問官を捉え、叩き潰す。カレンの声に反応したライアンと数名はその場から離れるように回避するが、反応に遅れた者たちが次々と見えない何かに殺されていく。

 

 ライアンはカレンに向かって叫ぶ。

 

「姉さん! 何も見えない! 業魔がいるのか目の前に!」

 

「あぁ! 目の前にいる! 見えないのか!?」

 

 この業魔は、透明化しているようで、その姿はカレンにしか見えていなかった。ライアンはカレンを見る。カレンはただ静かに覚悟を固めているように見えた。

 カレンは右手に剣を構え、左手にハチ針を持ち叫ぶ。

 

 

「こい! 業魔! 私が相手だ! 私には貴様の醜い姿が見えているぞ!」

 

 透明な視線が突き刺さり、不気味な業魔の声がどこからか聞こえる。

 

「俺の事が見えてるのか? 俺の事を見てるのか?」

 

 カレンに近づく気配を感じる。

 

「見られたくないのにぃ。どいつもこいつも、俺のことを見て瞳の奥で軽蔑してるんだぁ」

 

 業魔の怒りが大気を震わす。

 

「目玉をくり抜かなきゃ……、その時だけだよぉ。安息を享受できるのはぁ!」

 

 業魔が意味の分からない文言を叫んでいる。カレンがそれと同時へ後ろに飛び退くと、カレンがもといた場所は、見えない衝撃に粉砕された。

 

 

 殺された者たちの血によって、屋根が赤々と染められていく中、ライアンはただ見えない恐怖に震えていた。

 数十m先では、カレンが不可視の怪物と対峙している。

 目に見えない攻撃を回避しながら、カレンも負けじと斬りつけているが、浅い。業魔のとてつもない再生力に打ち消されていく。

 致命打が……、 魔法が必要だ。そう思うがライアンにはなかった、この状況を打開できる力も奇跡も何も

 無力感に打ちのめされながら、カレンの戦いを眺めることしかできなかった。

(また背負われるのか…… 少しでも姉さんの手助けをしたかったのに……また背負われるのか!)

 ライアンは不意に出てきた涙を拭いながら、戦いを見つめ続ける。

(俺にも何か……何かできるはずだ、俺にも)

 そしてライアンの瞳は捉えた。不可視の怪物に刺さっているハチ針を。

 

(フリード隊長が、あの一瞬で刺したんだ! 起動はしていないが刺さっている!)

 

 ライアンは走り出した。不安や恐怖も置いて。カレンがこちらに向かって叫んでいるが何も聞こえなかった。

 ライアンはハチ針の柄に飛び付き、回転させ起動させる。

 

「よし!」

 

 ライアンの心が高揚で満たされていく。

 

「姉さん! やったよ! 俺!」

 

 子供のようにカレンの方を見て叫ぶライアン。きっと姉も喜んでいだろうと。そのライアンの思いとは裏腹にカレンは泣いていた。

 次の瞬間、ライアンの体を見えない何かが貫いた。

 そしてゴミのように投げ捨てられた。

 

「ライアン!」

 

 カレンの悲痛な叫び声が聞こえた。

 

 

 

 爆音を2度聞いた。もう何も見えないが、あの業魔の叫び声が聞こえる。

 貫かれた体から止めどなく血が流れ、死を身近に感じた。

 

(直接見たかった……なぁ)

 

 薄れゆく意識の中、ライアンはこちらに誰かが近づいてくる気配を感じた。そいつはライアンに近づき素肌に触れる。

 

「ごめん、俺…… 俺もこんなことしたくない。けど…… これしか…… 父さんを救うためには……」

 

 知らない声だった。けれどその口調は優しかった。

 そいつは泣いていた、ただ嘆いていた。何故かは分からなかった。ただ一言、こう呟いた。

 

「“アマルティア”」

 

 次の瞬間、ライアンの体は溶け、そいつを包み込んだ。

 

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