SCAPEGOAT~他者の命を踏みにじることでしか能力を使えない~   作:アフロマリモ

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2-3 静かな説教

 俺はひたすら、閑散とした教会で一人、苦悩していた。

 もう何にも分からなくなってきた。何が正しいのか、何が悪なのか。これから何をするべきなのかわからない。けどすることは決まっている。決意が揺らぎ、思考が巡る。

 顔を上げる。そこにはエレツィア様の石像があった。

 中央でエレツィア様が膝を抱え丸くなり、その後ろを十字が通っている。

 

(エレツィア様、俺はどうすれば……)

 

 答えが返ってくるはずもなく。相変わらず静寂がこの教会を支配していた。

 一番前の長椅子の、一番真ん中。この場所に座っていると、元気だったころの父さんが、礼拝の説教している記憶が蘇る。

 ここが好きだった。カッコイイ父さんが良く見えるから。

 

 急に後ろの扉が開かれる。振り返るとそこには見知った顔がいた。

 その人物はこちらに気づくと笑顔になり、こちらに手を振り、近づいてくる。

 

「カイン君! 礼拝のない日に教会に来るなんて、珍しいじゃん」

 

「少し祈りたい気分で……」

 

「さすがイサイヤさんの息子! 信心深いね」

 

 イサイヤは父さんの名前だ。彼女は長髪の金髪を揺らしながら頷いている。

 

「ははは……、ところで、エマさんは何を?」

 

「私は、ちょっと恥ずかしいんだけど……次の礼拝の説教の練習しようと思って……大勢の前でしゃべるの、まだ慣れなくてね」

 

 エマさんは、司祭助手という立場で、簡単に言うと司祭である父さんの手伝いさんだ。病気で教会に来れない父さんに代わって、礼拝を進行することになっている。

 

「意外ですね、エマさん人と話すの得意そうじゃないですか」

 

「人とおしゃべりするのと、大勢の前で話すは全然違うよ! もう緊張しちゃって噛みまくっちゃったよ」

 

 ため息をつきながら、俺の隣に座る。

 

「ダンさん達にお願いして、練習手伝ってもらおうと思ってたんだけど、明日まで任務だって言って、魔法団も連れて全員出てっちゃったんだよね」

 

 道理で街中、異端審問官の誰とも会わなかったわけだ。この町は小さい、どうやったって鎧を着た集団は目立つから、見かけると印象に残る。

 

「イサイヤさんみたいにカッコよく、バシッ! と出来るようになりたいなぁ」

 

「イサイヤさん……どう病気?」

 

 心配そうな顔でこちらを見る。

 

「良くはないです。日に日に悪くなっています。医者の言った通りでした。時間がないと。早く水の国イェルマイムにいる医者に治療を受けろと」

 

 水の国は、とある大司教のおかげで、ここ数十年のうちに急激に医療が発展したらしく、大勢の人々を毎日救っていて、腕は確からしい。が、どの医者も高額な治療費を要求してくるといっていた。治療費がどれくらいかかるかも聞いたが、とても払える額でも、1,2年で稼げるような額でもない。それに水の国への渡航費もばかにならない。けれど時間は待ってくれない。

 

「時間、無いのかぁ……そっか」

 

 悲しそうな顔で、エレツィア様の像を見上げていた。

 

「イサイヤさんにね、言ったんだ。町の人に協力をお願いしようって、イサイヤさんのためならきっと助けてくれるって。けどね、断られちゃった。みんなからお金を集めても足りない額だから、それに私のせいでみんなに苦しい思いをさせられないって」

 

 父さんはいつもこうだ。どんな人にも分け隔てなく、自分の身を裂いて人助けするのに、自分に対する誰かの自己犠牲は嫌がる。その人に苦労を掛けたくないと。

 俺はそんな父さんのことを尊敬している。

 

「父さんらしいです」

 

 少し間をおいて話す。

 

「俺、ここに来たのは、父さんと、もめたというか何というか……とにかく苦しくて家を出てきちゃったみたいなのが、本当の理由なんです」

 

「俺、どうしたらいいのか分かんなくて……何が正しいのか分からなくなって」

 

 ポロポロと心からこぼれたものが言葉になって口から溢れ出す。

 エマさんを見据える。

 

「エマさん、大切な人のために誰かを犠牲にすることって悪だと思いますか?」

 

 子供っぽい質問だっただろうか、そんなの悪いことだよ! と一蹴されてしまうだろうか。

 エマさんは、少し考えた後、こう答えた。

 

「それは、見方によるよね。自分からすると大切な人のためだし、しょうがないって思う。けど犠牲にされる側からすると納得いかないよね。正しい正しくないは視点が変われば、一緒に変わる」

 

「私は、そこで大切になってくるのが、その大切な人や、犠牲になる人がそれを望んでいたか、だと思うの。どちらかが望んでなかったら、大切な人への救いは自己中心的で自己満足なものになってしまう。それでもお構いなしに救いを与えようとするのって……」

 

「それって、業魔とやってる事同じのように感じる」

 

 罪悪感が、体の隅々まで広がる。頭が真っ白になり、呼吸がうまくできない。苦しい。心臓が暴れだす。俺はどんな犠牲を払っても、救いたいと思っている。けど父さんは望んでなかった。殺めてしまった異端審問官も。

 俺は業魔だけど心は人であると思っていた。自分のために誰かの命を踏みにじり、その命を軽んじる。おぞましい業魔達とは違う存在だと。

 けど俺のしてきたことはそいつらと何にも変わらないんじゃないか? 

 俺はどこまでも業魔だった。背中の黒ヤギが嗤う。

 

「お! なんかバシッと説教できたっぽくなかった? ……ってねぇ! カインくんどこ行くの? ねぇ!」

 

 俺は無言で教会を出る。認めるわけにはいかなかった。俺の中にいる怪物の存在を。

 そろそろ時間だ、あいつも来ているだろう。

 動揺を押さえつけながら俺はいつもの場所へ向う。

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