鬼殺隊員ほのぼのログ 作:柚吏
主人公はあの子…!(いやどの子)それではどうぞっ
(どうでも良かった。何もかも、感情を持ったところで無駄だから。)
幼い頃から気づけばそんなふうに考えていた。でも仕方がない、と自分で思ってしまう。
何もしていなくても殴られる。打ち所が悪く、次の日には冷たくなっている兄弟たちもいた。
私はそれを、ただ見つめることしかできなかった。
痛い・お腹がすいた・悲しい・虚しい・苦しい・寂しい_そんな日々だった。
だけどある日、プツンと音がして_何もつらくなくなった。
それからずっと、感情を持つことはなかった。
「…ナヲ様、カナヲ様!!」
名を何度か呼ばれてハッとする。振り返ると、そこには蝶屋敷で働く神崎アオイの姿があった。
「何かございましたか?なんども呼んでいたのですが…」
『…心配しないで。少し考え事をしていただけだから。』
「そうでしたか。胡蝶様がお呼びですので、書斎へ向かってください!」
アオイはそう言って、足早に戻っていった。
(師範が私を…何かあったのかしら)
少し考えつつ、しのぶの書斎へと急ぐ。
書斎では、しのぶが薬の調合をしていた。
【ああ、来ましたね。急に呼び出してしまってすみません。そのへんに腰掛けてください。】
しのぶに言われるまま、近くにあった椅子に座る。
ここに呼ばれる、ということは、なにか大切な用があるのだろう。
少し緊張しながら、しのぶを見つめる。
そんなカナヲの心境が伝わったのだろうか。しのぶは少しくすっと笑って、
【そんなに固くならないで良いですよ。少しカナヲと話がしたかっただけなので。】
と言った。
(私と話…?一体なぜ…)
疑問でいっぱいになるカノヲの前に、お茶と茶菓子を置く。
【最近私もカナヲも任務で忙しかったので、あまり顔を合わせられなかったと思いまして。嫌でしたか?】
カナヲは急いで首を振る。
『…わ、私も師範とお話したかったので嬉しいです。』
それを聞いたしのぶはにっこり微笑む。
【それなら良かった!最近のカナヲはとても楽しそうなので何よりです。】
『…?』
(私が楽しそう…?)
少し首を傾げる。
【あら、自分では気づいていませんでした?私にはそう見えました。特に竈門くんたちと会ったときから。】
思いもよらないしのぶ一言に、思考回路が一時停止する。
と、それもつかの間。直ぐに様々な考えが脳内を駆け巡る。
(炭治郎たち…確かに私はあの時から少し変わった。で、でも楽しそうになんか…?何か変な行動でも…?なぜ師範が気づいて…?)
((あらあら、図星でしたか…))
急に顔を赤らめ、無言になったカナヲを見て、しのぶに少し悪戯な心が芽生えた。
【あの時から、カナヲは姉さんがくれたコインを使わなくなりましたからね。何か彼らとあったのですか?】
もう何もかもをしのぶに見透かされているような気分になったカナヲは、この複雑な気持ちを打ち明けることにした。
『…彼らが任務に出ていくときに、た、炭治郎が最後に挨拶に来てくれて…』
ウンウン、と頷き、先を促すしのぶ。
『…っ、そ、そのときに私は私の心のままに生きて良いんだ、って…』
(は、恥ずかしい…!!)
((成程…竈門くんはなかなかやりますねぇ…))
カナヲの話を聞いて納得し、感心するしのぶ。
【そうだったのですね!そんなことが。それで、カナヲはコインを投げなくても気持ちを伝えられるようになったのですね。とても良いことです。】
カナヲは恥ずかしさMAXの状態を少しでも隠すために、下を向きながらコクンとうなずく。
【カナヲ。あなたは昔から何事にも諦めず、一生懸命に取り組んでいます。時に私には、それが少し寂しくも見えました。】
『寂しく…?』
【そうです。自分に意見を言わず、聞き分けよく動くあなたは、本当の自分を押し殺しているようで。】
そうしのぶ言われ、カナヲはドキッとする。
脳裏をよぎるのは、幼き頃の自分。声を発するだけで殴られる。自分の気持を伝えるなど以ての外。
―でも、今は違う。優しく接してくれる
何より大きいのは炭治郎の存在だろう。
私の人生を大きく変えてくれた人。大袈裟なんかじゃなく、本当に。
【でも、今は違う。そうでしょう?】
そう言ってしのぶは微笑む。
『…はい。』
少し、胸の奥の何かがスッキリした気がする。
やはり、仲間がいたからこそ、私は変わることができた。
そんな彼らに恩を返せるよう、これからも精進していかなければ。
《カァァァァァァ!ツユリカナヲヘノデンレイィィィ!ヒガシノマチデ、オオキクヒガイガデハジメテイルゥゥゥ!ゲンザイカマドタイシ、オヨビカマドネズコモムカッテイルゥゥ!ゴウリュウシ、オニヲメッセェェェ!》
突如、鎹鴉が伝令に来た。
(任務…しかも炭治郎たちと…!)
【あら、竈門くんたちも!ではお二人と協力して頑張ってください。くれぐれも気をつけてくださいね。】
『…ありがとうございます、頑張ります…!』
そう言ってカナヲは一礼し、書斎を出ていった。
その姿からは、強い決心が感じられた。
((本当に、以前とは別人のようです…。))
"きっと好きな男の子ができれば変わるわよ_”
ふと、そんな姉の言葉が蘇る。
((確かにそうかもしれませんね、姉さん。まるで蕾だった花が開いたよう―))
準備が整ったカナヲは、屋敷を出る。
ふと足を止め見上げると、そこには青々とした空が広がっていた。
今日もまた、美しく蝶が舞い続けるのであった。
如何だったでしょうか?
また新しいお話も書くので、ぜひ読んでください!
これまでに投稿したお話もぜひぜひっ♪