「それじゃあ、作戦を説明するわ!」
壁一面に貼られている、オラーシャ全域の地図を手のひらでたたきながら、ヨアヒム・ベルリッヒが言った。
「おい!私はまだやるって言ってないぞ!」
ヘルムートが戦略地図をにらみながら、噛みつくように言った。
「あら、あなたはスカイトレインに乗らなかった。それはやるってことでしょ?それとも、マンネハイムの時みたいに、私たちを見つけるのかしら?」
ヨアヒムは黄金色の瞳でヘルムートの青灰色の瞳を刺すように見つめる。
「あの時のこと、まだ恨んでいるのか?」
苦しそうに、ヘルムートが言う。
「いいえ、私はあなたを愛しているもの。お父様と同じようにね」
甘ったるい声を出しながら、ヨアヒムはヘルムートの左頬をそっと撫でる。
「あの~私は何をすればいいでしょうか?」
恥ずかしそうにナタリア・ベトリャコーヴァが手を挙げ言う。
「あら?あなたまだいたの?」
不機嫌そうな顔をし、ヨアヒムが言った。
「私が呼んだんだよ!ごめんな、今日から実戦訓練をするはずが、こんなことになって」
恥ずかしそうに顔をかきながら、ヘルムートが言った。
「まぁいいわ、こういう「いいこ」はいくらでも使い道があるもの」
涼しい顔で言うヨアヒム。
「本人がいる前で言うなよ」
ヘルムートはぽつりと言った。
「話が大分それてしまったわね、仕切り直し。今現時点の戦況を改めて説明するわ、ネウロイはドニエプルラインを突破、現在敗走したカールスラント中央軍集団とオラーシャ中央方面軍は真っ二つに引き裂かれ、二つに割れた軍団は北のサンクトペテルブルグと南のツァーリツィンに敗走中、モスクワを守る兵力はカールスラント、オラーシャ両軍にほとんど残されていないわ」
ヨアヒムが事実をとうとうと語る。
「だから、モスクワを捨てて尻尾を巻いて逃げるってか、気に入らん」
ヘルムートが口を尖らせ言った。
「ほかに方法がないのよ」
つまらなそうにヨアヒムが言った。
「あっ!あの!ウィッチ隊は!ウィッチは来てくれるんですよね!」
ナターシャは必死に言う。
「残念ながら望みは薄いわね、司令部はモスクワを守るためにスモレンスク-ブリャンスク防衛ラインを敷いて、そこを新編したウィッチ隊に守らせてるけど、いつまで持つか」
「ついこの間まで離発着の訓練をしていたひよっこ共だぞ!持つわけがない!皆ネウロイに焼かれる!一人でも多く、ウラルに送ってやれ!その魔法の命令書を使ってな」
ヘルムートが怒りをあらわにしながらそう言った。
「あなたが彼女たちの代わりに闘うなら、それも出来るけど、それでもいいの?」
ヨアヒムがヘルムートの顔を覗き込みながら言う。
「いいさ!やってやる!新兵が大勢死ぬよりはましだ!」
ヘルムートが銀色の義手で握りこぶしを作りながら言う。
「いったね、言質とったよ、ムート」
ヨアヒムがいたずらを思いついた子供の様な笑みを浮かべる。
「え?」
ヘルムートが間の抜けた声を上げる。
「じゃぁ、私の作戦を説明しるわ!」
そう言うとヨアヒムは机に地図と資料を広げ始める。
「今ネウロイはここ!で、この場所に廃村があるの!」
「ちょっと待て!」
ヘルムートが慌てて止めようとする。
「待たないわ!あなたにはこの廃村から飛び立って、ネウロイの背後を突いてちょうだい!」
張り切り、作戦を言い切るヨアヒム。
「はぁ!どれ?この廃村から私が飛び立つだって!そんなことをしてどうする!ネウロイの大群にまた押しつぶされるだけだぞ!ブリタニアの時と同じように」
ヘルムートは激昂する。
「あなた一人ならね、でもこの子たちとならどうでしょう?」
そう言うとヨアヒムの影から風船のようなものが、5個浮かび上がる。その風船は少しずつ色を変え形を変え、やがてウィッチそっくりな見た目となった。
「すごい。陰からウィッチ隊が」
ナターシャが思わず声を上げる。
「この風船はただ浮かぶだけで、飛べはしないだろう」
ヘルムートは落ち着いた様子で言った。
「私もあなたと同じように固有魔法を鍛えているのよ、だからこんな芸当もできる」
そう言ってヨアヒムが指を鳴らすと、ウィッチの風船は狭い部屋の中で、一斉に編隊飛行を披露したかと思えば、ロールや宙返りを披露した。
「ほぉ、大したもんだ」
ヘルムートが関心する。
「この子たちは私から離れていても、自分で考えて行動してくれる。攻撃はできないけど、一応シールドは張れるから、耐久力はあるの。これを100人あなたのもとにつける、これでどう?いけそう?」
ヨアヒムがヘルムートに聞いた。
「ああ、これだけウィッチが居れば、ネウロイは背中にナイフを突きつけられたも同じだ!」
ヘルムートが嬉しそうに言った。
「では決まりね!ヘルムートあなたは廃村に向かって、ウィッチ風船はもうそこに送ってあるわ。警戒網が敷かれていないのは確認済みだから、低空で飛べば見つからないはず、納屋に無線機と食料を用意したから、作戦を開始するまではそこにいてちょうだい」
ヨアヒムが矢継ぎ早に指示を出す。
「わかった!すぐに出発しよう!この地図はもらっていくぞ!」
そう言うとヘルムートは地図を丸めて持っていき、部屋を飛び出していった。
「あの~私は?」
ナタリアが申し訳なさそうに声を上げる。
「早く追いかけなさいよ!おいていかれますよ!」
ヨアヒムがナターシャの尻を叩き、部屋から追い出す。
「ひぅ!しっ失礼します!」
ナターシャは尻を噛みつかれた兎のように飛び跳ね、ヘルムートを追いかけるのだった。
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