それだけのお話です。
「こちらクルーゲル「郵便局」応答せよ!!「郵便局」聞こえているのか!!」
北風に銀髪をなびかせながら、ヘルムート・ヴィッツは「廃村」に向かって飛んでいた。
「なんですか?「郵便局」って?」
ヘルムートと編隊を組んでいた、茶色い髪の少女、ナタリアは間の抜けた質問をした。
「パルチザンと無線で交信しているんだ!インカムで割り込むな!」
ヘルムートは今までに見せないような、恐ろしい顔をすると怒鳴る。彼女の頭から、銀色の狼の耳が姿を現す。彼女の二つ目の使い魔の、「銀狼のレヴォフ」だ。
「は!はい!すみません!」
驚いたナタリアが委縮して、謝った。
「その「すみません」が!私の邪魔をしている!それ以上!口を開くな!」
銀色の狼になったヘルムートが、ナタリアを鋭くにらみつける。彼女は焦っているのだ。
ナタリアが両手で口を覆い、苦しそうに飛び二人が鉛色の空に下を、重たそうに飛んでいると、巨大な湖が姿を現す。湖面は凍っていて、等間隔に光る杭が打ち込んであるではないか。
「こちら郵便局。クルーゲル聞こえますか?」
ヘルムートの無線に、ゆっくりと落ち着いた女性の声が入る。
「こちらクルーゲル!!郵便局か!探したぞ!!」
ヘルムートは嬉しそうに応答する。すると、頭の狼の耳がしぼみ、カラスの羽が生えてくる。彼女は感情によって、使い魔を切り替えることができるのだ。
「こちら郵便局。感度良好。クルーゲル湖の上の焚火が見えますか?」
郵便局のコードネームを使うその女性は、淡々と言った。
「こちらクルーゲル、黒い杭が打ち込んであるのが見える、湖の周りと真ん中に線が2本」
「クルーゲル、真ん中の線に沿って着陸してくれ!それが滑走路の目印だ!」
今度は、野太い男の声がする。
「ああこれか?クルーゲル了解した。ナタリア先に降りろ、もう話して大丈夫だぞ」
ヘルムートはナタリアに優しく微笑み、着陸を促す。
「ダー!先に着陸します!」
威勢よく返事をし、ナタリアが着陸コースを取り、姿勢制御を細かく行いながら、ゆっくりと着陸を始める。
「さて、お手並み拝見!1回!2回!跳ねて!!着陸!冷や冷やさせるな~新兵は」
腕組みをしながら見守っていたヘルムートは、凍った湖に降り立つナタリアを見て、ほっと胸をなでおろした。
「クルーゲル、着陸していいぞ!」
今度は無線から、若い少女の声がする。「黒い杭の飛行場」の横で、黒髪の少女が手を振っている。
「ん?こちらクルーゲル!了解した」
そう言うと、クルーゲルは着陸を始める。ナタリアよりも旋回半径は小さく、ずっと低空で飛行場に進入すると、「バシ!」と音を立てて、カラスのように飛行場に舞い降りた。
「ようこそ!英雄さん!見捨てられた農場に!」
黒髪の少女が拍手でヘルムート達を迎える。彼女の名前はノルド・アイリーンだ。
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