「始まりはオストマルクの小さな勝利でした」
ヘルムートはそう話し出すと、静かに食事を始めた。
「ああ、ネウロイの根拠地はオストマルクだったな」
アンドリューが黒パンをちぎりながら言う。
「ええ、1939年にネウロイはオストマルクを踏みにじり、そして欧州全土に疫病のように勢力を拡大し、今に至ります」
ヘルムートが淡々と説明を始める。
「私とヨアヒムはオストマルクで東部国境の監視軍にいたんですが、そこから独立して特殊作戦に従事していたんですよ。司令部からの命令ってやつです」
ヘルムートが葡萄酒を傾けながら話す。そして時は、1939年に巻き戻る。
「ムート!ヘルムート!呼んでいるのよ!ヘルムート・ヴィッツ!」
ヨアヒムがヘルムートを呼ぶ。
「なんだ?聞こえてるよ!」
ヘルムートが作業してうぃたてを止め、振り返る。
「またユニットの整備?整備兵にやらせればいいでしょう。そんなこと」
ヨアヒムが油まみれの作業着に身を包んだヘルムートを見下ろしながら、ため息交じりに言った。
「好きでやってるんだ!ほっといてくれ。で?何の用だ?」
油まみれの手をふきながら、ヘルムートは聞き返す。
「新しい指令よ!早く司令部に出頭してちょうだい」
ヨアヒムが短く、明確に言った。
「あいあい、わかったよ」
ヘルムートはけだるそうに返事をした。
「ああ、ちゃんと着替えてから来てね。その汚い格好で来ないでよね」
ヨアヒムはヘルムートを指さし、口をとがらせながら言った。
「へいへい」
ヘルムートが短く言った。
「ヨアヒム・ベルリッヒ、ヘルムート・ヴィッツ!出頭しました」
二人が司令部に出頭する。
「二人ともよく来てくれた、長い話になる。着席したまえ」
口にひげを蓄えた、初老の男性が二人に言った。どうやら彼が指揮官のようだ。
「で?新しい指令は?大将?」
ヘルムートが軽口をたたく。
「まったく、すみません、大佐殿」
あきれながらヨアヒムが言う。
「いやいや、かまわないよ。さて、今の戦況についてだが、これを見てくれ」
大佐が戦略地図を指す。
「現在、オストマルクはネウロイの抑え込みに失敗し、カルパチア山脈に築いた防衛線も崩壊、散り散りになった陸軍は、各地で敗走を続けている」
「あたしたちがこの間までいた、ネウロイ監視軍の奴らはどうしたんだ?まさか墜とされたわけじゃないだろう?」
だらしなく椅子に腰かけていた、ヘルムートが言った。
「無論、彼女たちは今も善戦している。だがこのままではいけない、とても手が足りない」
大佐が疲れ切った様子で言った。
「もはやオストマルクの陥落は決定事項でしょう。その前に、私たちにはできることがある、そうでしょう?大佐殿?」ヨアヒムが落ち着いた様子で言った。
「そうだ、今の我々にできること、いや!必要なのは!ささやかな勝利だ!」
大佐は興奮した様子で、立ち上がりながら言った。
「勝利?この戦況で?」ヨアヒムが首をかしげながら言った。
「どんなささやかの勝利でもいいんだ!故国を踏みにじられ、難民になりさまよう国民の希望になるような勝利が!私たちオストマルク人には必要なんだ!」
大佐が机を大きくたたきながら叫ぶ。
「そんなこと言われてもな。どうするよ?ヨアヒム?」
ヘルムートが後ろ手を組みながら言った。
「わかりました、引き受けましょう。勝利と栄光はカールスラントの主要輸出品目に入っていますから。ただ、確認しておきたいことが一つ」
ヨアヒムが指をすっと一つ立てながら言う。
「なんだね?ヨアヒム少佐?」大佐が短く尋ねる。
「仮に私たちがここ、オストマルクで小さな勝利を得たとしても、私たちの名前が新聞の見出しを飾ることはない。そうでしょう?」ヨアヒムが頬杖を突きながら、いじわるそうな笑みを浮かべていった。
「ん?それはどういう意味だ?」ヘルムートが眉をひそめる。
「そ、それは」大佐が言いよどんだ。
「筋書きはこうです。このオストマルクを支配しているハプスブルク家、この名門貴族から排出された二人の優秀なウィッチが、オストマルクを救うため、華々しく戦う。新聞各社はこう書きたてるでしょうね。「ハプスブルクの双頭の鷲!!戦場に奇跡か!」と。そしてオストマルクが陥落するタイミングで戦死したことにして、「この死を無駄にしてはならない!」と叫び、国民の愛国心を煽り、ハプスブルク家に人々の心を繋ぎ止めたい。ありふれたプロパガンダ、英雄商法ってやつです。どうです?当たってるでしょう?」
ヨアヒムはその場でワルツを踊るように演説する。
「ひどい話だな、くせぇよ、お前さん。ベルリンの下水道のほうがまだましな匂いがするぜ」
いつの間にかタバコをふかしていたヘルムートがそう言い放つ。
「汚いと言われようが、これが我々の戦い方だ!それで!引き受けてくれるのか!?」
大佐は興奮した様子で言った。
「見返りは?それ次第です」ヨアヒムが自分の爪を眺めながら言う。
「報奨金は十分な額を用意している。もちろん前払いだ!あと、作戦行動に必要な物資と人員は可能な限り用意させる」焦った様子で大佐は答える。
「爆撃機一個飛行隊が欲しいです」ヨアヒムが聞く。
「温存していた部隊を回そう!カールスラント製の最新型だ!」反射的に大佐が答える。
「ウィッチ隊は?」ヘルムートが聞いた。
「それだけはだめだ、君たち二人以外のウィッチはかかわらせるのはまずい」大佐が気後れした様子で言った。
「チッ!使えないな!」ヘルムートが毒づいた。
「問題ないでしょう、最新の情報が欲しいですね、諜報員は?」ヨアヒムが聞いた。
「わが軍が使用している諜報網が使えるように指示しよう!オストマルクに展開しているすべての軍の状況が、手に取るようにわかるぞ!」嬉々として大佐が説明する。
「いいでしょう、引き受けましょう。すぐにそちらが持っている情報をこちらに渡してください。手配リストを作成しますから、すぐに必要なものを送ってください」
得意げにヨアヒムが言う。
「そうか!その返事を持っていたよ!すぐに行動を開始しなければ!ネウロイは待ってはくれないからね!」大佐は無邪気な子供のように、指令室から飛び出していった。
「おい!私はやるって言ってないぞ!」ヘルムートが激昂する。
「あら、戦闘狂のあなたならどんな厳しい戦いでも、やるんでしょう?私と一緒なら」
ヨアヒムがいたずらっぽく、笑いながらいう。
「そんなわけないだろう!こんな汚い戦争に加担するつもりはない!」ヘルムートが叫ぶ。
「リストに最新式のストライカーユニットを追加しておくわ。それでどう?」
ヘルムートの口先にそっと人差し指を添えると、ヨアヒムが甘くささやく。
「新型のメッサーかスピットファイアがいい」ヘルムートがプレゼントをねだる子供のように言った。
「決まりね!じゃあ始めましょう!私たちの戦争を!」ヨアヒムが叫ぶ。その姿は荘厳な音楽を奏でる指揮者のようであった。
さてさて、いかがだったでしょうか?
いきなりですが、私はここいらで筆を折りたいと思います。
というのも、ストライクウィッチーズの世界観は、ウィッチ隊についての掘り下げはすごいのですが、戦史や戦略について、全然描かれておらず、大きく改変されているんですよね。だから私が描こうとしている物語と相性が悪く。書いていてどんどん苦しくなってしまいます。なのでいっそのこと、一からオリジナルの世界観と物語を自分で作ろうと思います。つまらないと思いますが、そのほうが楽しいんですよ。私が。てなわけでこの物語はここで終わりです。今までありがとうございました。