登場人物
ナタリア・ルキーニーシュナ・ペトリャコーヴァ
階級:中尉
本名:ヘルムートビッツ
ワイト島付近でネウロイと交戦し、相打ち、撃墜され漂流した経験がある。
現在はその時の名前と身分を隠し、オラーシャに亡命している。
ペトリャコフ中佐の姪として開発主任に抜擢される。
年齢16歳
出身:カールスラント西部
ロイ・カロラー
設計主任を務める
ガリアからモスクワの設計局に出向してきた。
35歳の時に彼にロシア語を教えていた若い女性講師と結婚、子供はなし。
年齢40代
出身:ガリア東部
アレクセイ・ヒョードルヴィチ・スタルノフ
ストライカーユニットの試作を担当、年齢40代
オストマルクマルク出身の若い女性と結婚
本人は一生独身を貫ぬくつもりだったが、移民の女性とモスクワで出会い、
面倒を見ているうちに仲が深まる。周囲の勧めもあり最近結婚した。
しかし、飲んだくれで中々家に帰らないため、妻にさみしい思いをさせている。
オラーシャ人
「よし!組立図を確認しました。問題ありません。試作はこれで行きましょう」
うっすらと東の空から日の出の気配が感じ始めるころ、ナタリアは机に広げられた組み立て設計図に朱書きをし終え、微笑んだ。
「良かった、今何時です?」
設計主任のロイ・カロラーは憔悴しきった顔で言った。
「え~と、5時ですね、日の出の前に、間に合いました」
ナタリアは胸ポケットから取り出した銀色の懐中時計見ながら言う。それは彼女の死んだ父親から送られた形見だ。
「良かった、今帰れば、妻と一緒に朝食がとれる」
そういうと、ロイ・カロラーは帰り支度を始める。
「13時からアレクセイさんと試作開始の打ち合わせをやるので、出席してくださいね~」
ナタリアは床に突っ伏したままロイに言った。
「わかりました、場所は?」
ロイ・カロラーは一瞬足を止め、ナタリアに聞く。
「試作工房の黒板があるとこです」
机に突っ伏したまま、ナタリアが続けて言う。
「試作工房に13時ですね。ナタリアさん、図面の保管と複製をお願いしますね」
そういうと、ロイ・カロラーは足早に設計室を後にした。
「うぅ、そうだった、図面の複製をしなきゃ。もうひと頑張り!」
そう言うとナタリアはトレーシングペーパーに線を引き始めるのだった。
これがストライカーユニットか、む!おい!プロペラがないじゃんかよ!」
アレクセイが工房の黒板に貼られたブループリントを指さし言った。
「え~と、アレクセイさん」
気怠そうにナタリアが説明しようとするが、それを遮るように、ロイがきのう知ったばかりに知識をアレクセイにひけらかす。
「アレクセイ、ストライカーユニットにはプロペラが必要ないんだ、ウィッチは魔力でプロペラを作れるからな」
「ん!?そうなのか、知らなかったぞ。この長靴みたいな部品は足を入れるための物か?」
アレクセイは図面を指さしナタリアに聞く。
「その通り!理解が早くて助かります!」
ナタリアが嬉しそうに答える。
「で?こいつをいつまでに作ればいいんだ?」
腕組みをしながら、アレクセイがナタリアに聞いた。
「2週間でお願いします」
ナタリアは親指と人差し指で2を作ってアレクセイの前に突き出す。
「無理だな、急いで3か月だ」
アレクセイは自分の指で3つ数えながらそう返す。
「じゃぁひと月で!初飛行まで!」
ナタリアが食らいつかんばかりの勢いでアレクセイに言った。
「無理だと言ってるだろ!部品図があるならまだしも!組図だけでひと月は無理だ!」
アレクセイはナタリアにつばを吹きかけるような勢いで叫ぶ。
「アレクセイ、何とかひと月でできないか?試作1号機が早くできれば、それだけいいものが開発できるだろう?」
ロイが落ち着いた様子で、アレクセイにさとす。
「お嬢さんが試作の舵取りをしてくれるなら、やってもいい、若い連中もやる気を出すだろう。だが、そのためにはその左腕を何とかしないとな」
アレクセイは肘から先のない、ナタリアに左腕を見て言った。
「本物の手のように指まで動く義手があれば、試作を手伝えるんですが」
ナタリアがまた困ったような愛想笑いを浮かべ、アレクセイに言った。
「なら、作りましょう!その義手。図面は手が空いている私が書きましょう」
ロイが少年のように目を輝かせながら言った。
「それだ!お嬢ちゃんはウィッチだろ?だったら魔法力で動く義手を作ればいい!」
アレクセイがにやりと笑いロイの提案に乗る。
「確かに私にはまだ魔法力があります、ですが魔法力で動く義手なんて聞いたことありませんよ!もしできたら、世界最小のストライカーユニットになる」
ナタリアがはっきりと無理だと二人に告げた。
「世界最小のストライカーユニットか、いいじゃないか!こう見えて俺は手先が器用でね、趣味で腕時計を作ってるんだよ、図面をロイに引いてもらってな」
アレクセイがいたずらを考え付いた子供の様に笑いながら言った。
「腕時計と魔法力で動く、いわゆる魔動機械では勝手が違います」
ナタリアが大きめな声を出してアレクセイに言った。
「やってみなきゃ分からんだろ?やる前から諦めてどうする」
アレクセイはまたニヤニヤと笑いながらナタリアに言った。
「1週間です、それ以上時間はかけられませんよ」
ナタリアがため息をつきながら言った。
「よし!俺は使えそうな部材を集める、お前らはポンチ絵でも書いといてくれ」
アレクセイは鼻歌交じりで、鉄くずの山を漁りだ、必要な工具を机に並べ始める。
「では、私たちは魔法力学の計算とポンチ絵の描き始めましょう」
そう言うとロイはノートとケントを広げ始める。
「ではまずは外形の大きさを決めましょう。巻き尺は、あった。これで腕を図っていきます」
ナタリアは上着を脱ぎ、下着姿になると、短くなった腕の長さを図り始める、それを見たロイはもう驚いたりはしなかった。
カタカタカタ、高級時計の様な丁寧の音を立てながら、ジュラルミン製の義手の指が正確に動いている。ナタリアの新しい腕が出来上がったのだ。
「よし!指の稼働はピアノ線で引っ張る形にして正解だな!巻き取り機もうまく動いてる」
アレクセイが出来上がった義手の挙動を見て満足そうに言った。
「まさか趣味の時計作りが役に立つとは、ナタリアさん新しい腕の具合どうですか?」
ロイが驚いた様子でナタリアに聞く。自分たちが作った義手がここまで正確に動くとは思っていなかったのだ。
「すごいです!元の腕よりも自由に!それに正確に動きます!!指が動くだけでもすごいのに!手首やひじの関節まで動くなんて!!」
ナタリアは新しい自転車をプレゼントされた少年のように、興奮しはしゃぐ。
「それはあんたが作った「最小のストライカーユニット」のおかげで出来たことだ。すごいのはあんただよ、ナターシャ」
アレクセイが初めてなナターシャの名前を呼んだ。
「そう褒めても何も出てきませんよ。あれ?そういえばこれ作るのに何日かかりました?」
ナタリアがあることに気づく、この義手の開発に2週間もかかっていたのだ。
「よし!ひと仕事終わったんだ。飲みに行くかな」
アレクセイが工具を片付け、帰り支度を始める。
「私は家に帰られてもらうよ、もう2週間も家に帰ってないんだ、奥さんに何か買って帰るかな、あ!」
ロイが作業着から普段着に着替え始めたあと、気づく。
「そうですよ!2週間です!2週間たったのにユニットの試作が手付かずです!」
重大な問題に気付いたナタリアが2人を引き留めようとする。
「「また明日!!」」
ロイとアレクセイは息を合わせたかのように言うと、逃げるように走り出し、帰っていった。
「ちょっと!帰らないで!逃げないで!裏切者~~」
モスクワの街に差す夕焼けに、消えてゆく二人の影を見ながら、ナタリアは叫ぶのだった。
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