【完結】エレベーターチャージ   作:sawa

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こんな子がいたらいいなと…。


2話

 

私の名前は橋本加奈。今年で24歳になる。

 

大手商社になんとか就職できて、やっと仕事にも慣れてきたところだ。

 

会社に入ったら社交性を大事にしなくてはと思い、なるべく周りの環境に合わせて愛想よく振りまいた。

飲み会の誘いがあれば必ず参加したし、引退する方に花束を渡す役目を頼まれれば引き受けた。

 

そのおかげか分からないが、同性の後輩からも慕われし、幾人かの男性から告白も受けた。

他の人から見たら人生をバラ色に生きているように見えたと思う。

 

しかし実際の私は何の能力もなくいつも周りに気を使って生きているだけの八方美人であり、そんな毎日に疲れを感じていた。

 

 

「加奈ちゃん、今日みんなでランチ行くけどどう?おいしいとこ見つけちゃったのよ!」

 

「わぁ、行きたいです~!ちょっと午前中に片付けなくてはいけない仕事があるので

後からすぐ追いつきますのでお店の名前教えておいてください!」

 

会社のお局的存在の先輩女性からの誘いに関しては絶対に断れないので基本はYESだ。

 

(はぁ…。毎日高い所でランチしてると出費も馬鹿にならないのよね。かといって今さらお弁当にしましたなんて言えないし…。

 しかも今日は早く帰らないといけないから仕事を少しでも早く終わらせたいのに)

 

しかし、お局にマークされれば私のような人間は生きていけないだろう。

 

それには根拠があった。

 

以前にお局からの誘いを1回断った契約社員の子がいたが、それ以降はお誘いを受けることはなかった。

 

それぐらいならまだ良かったが、お局にとって煙たい存在だったのか、私はよくその子の悪口を聞かされた。

 

また、ほんの小さなミスも上司に告げ口していたらしい。

結局、それが直接的要因かは分からないがその契約社員の子は数か月で退社してしまった。

 

私の場合、よく周りの男達から容姿端麗ともてはやされるが、実はこんな顔は少し化粧の腕があれば誰でも作れてしまうのだ。

たぶん周りの女性はその辺は理解しており、お局も例外ではないと思う。

あくまで一般的な容姿の私が男達に言い寄られ目立ってしまうと裏で何を言われるかも分からない。

 

だからこそ、日ごろから立ち回りには十分注意しなければならないのだ。

 

急いで仕事を片付け、お財布を持ってフロアを出てエレベーターに向かうと、既に誰かが一人エレベーターを待っていた。

 

(あ、この人名前は思い出せないけど、たしかトラブル案件を抱えていていつも遅くまで残っている人だ)

 

しかし今はそんなことより早く合流しないと。

 

(ここのエレベーターすっごく遅いのよね)

 

チーン。

 

(やった!いつもより早い!この人が先に押しててくれたからね。ありがとうございます!)

 

私は心の中でお礼を言って男の人と共にエレベーターに乗り込んだ。

 

エレベーターはゆっくり下降し1階にたどり着いた。

 

私が「開ける」ボタンを押している間に男の人は会釈をして出ていった。

 

(こういう時でも礼儀正しい人って素敵ね)

 

飲食店街を小走りに歩いて教えてもらったお店を見つけた。

中ではもうお局たちが座って談笑していた。

 

(よかった。もう座っちゃっているけどまだ食事は運ばれてきてないようね)

 

私に気づいたお局がこっちに向かって手を振ってきた。

 

私は少し息を切らした感じでそれに答えた。

 

「遅れてすみません~。やっと仕事終わりました」

 

「大丈夫よ~。今座れたとこだから」

 

女同士の他愛のない会話が始まる。

 

その時、後ろのテーブルから会話が聞こえてきた。

 

「お、SSレア来た!」「まじで!?見せて?」「うっわ、ゴブリンゾンビ水着verじゃん!羨ましい!」

 

それを聞いたお局がすぐさま反応する。

 

「あれゲームの話よね?いい歳してレベルがなんだの、SSレア出ただの、気持ちわるって感じ。

 あんな男ども絶対嫌よね~…」

 

「絶対好きになることはないわね。まぁ営業部の池上さんだったらゲームしてても許せるかなぁ」

 

「あははは、あんた結局イケメンならOKなんじゃない!」

 

「えーー!あなた達、池上なんかがいいの?あいつただのヤリチンよ!?」

 

お局の下ネタ発言により、周りはドン引きしてその場の話は終了したが、私も内心この話は面白く感じずに聞いていただけだったので、話を終わらしてくれたお局には感謝した。

 

「そういえば加奈は誰か好きな人とかいないの?もしかして池上さん?」

 

「そうよぉ、加奈ちゃん可愛いからフロア中の男達が寄ってくるでしょう?」

 

「いいえ、そんなことないです」

 

正直、好きな人は社外に既にいたし、みんなが狙っている池上さんを始めとするイケメン勢には興味がなかった。なので適当に答えてその場を凌ぐことにしたのだ。

 

(さて、今日は確実に定時上がりするため一気に仕事を片付けないとっ。)

 

そして、勤務終了時間が近づ来つつある頃。

今日の仕事はおおかた片付き、後は誰にも捕まらずに帰宅の途につくだけでだった。

 

「加奈~、今日の夜、暇?」

 

同期の里美が話しかけてきた。

 

「空いてたらさヘルプお願いしたいんだけどっ!合コンのメンバーが一人急きょ欠席になっちゃって、相手がお医者さんだからこっちもきちんとしなくちゃいけないのよ~。本当は私より美人な子は連れていきたくないんだけどねぇ」

 

「あ、えっと…今日は…」

 

「あっもしかして例の日?」

 

「うん…ごめん」

 

「おっけー。しょうがないよ、あの人も来るんでしょ?」

 

里美にだけは打ち明けられた。私の秘密。

 

始めは学生の頃に勧められたのがきっかけだった。

 

今では完全にはまってしまっている。

 

間違っているとは思う。でももう戻れない。

 

急いでエレベーターに乗り込みビルの外に出る。

 

電車で移動している間、次第に気持ちが高揚していく自分を感じる。

 

コンビニでお酒とつまみを購入し、辿り着いたその先は

 

自宅だった。

 

鍵を取り出しドアを開ける。そして冷蔵庫から冷凍ご飯を取り出し温め始める。

 

ジャージに着替え、髪をヘアバンドで束ねながらPCを起動するとロゴが表示される。

 

--モンスター・ザ・ワールド--

 

そしてゲームは動き出す。

 

「みんないるかな」

 

ログイン処理をして、キーボードを叩き始める。

 

「こんばんわ、と」

 

(*′σ∀`)p[☆。・:+*こんばんゎ*:+:・゚☆]

 

( ゚▽゚)/こんばんわ

 

コンバンハーヾ(・∀・`o)ノ))

 

様々な挨拶のチャットが飛び交う。

 

今日はオンラインゲーム内で大規模イベントが開催されている。

 

そう。現実で演じ続けることに疲れていた私は、奇しくもゲームという仮想世界でキャラクターになりきることで安らぎを得ていたのだ。

 

そして

 

「あれ、まだマスターは来てないんですか?」

 

「最近忙しいみたいですねぇ。間に合わなかったら先に始めててくれって言ってました」

 

「そうですか」

 

マスターとはゲーム内におけるチームの長のような存在だ。

 

私がゲーム初心者の頃に今のマスターには色々手取り足取り教えてもらっていたのだ。

 

そしていつしか…私はこの人に恋心をいただくようになってしまっていたのだ。

 

初めは私も自分自身を疑った。

 

しかし、この人と同じ時間を過ごすことによって、気持ちは確信に変わる。

 

私は画面上にいるプレイヤーを好きになっていたのだ。

 

見ず知らずの人がどこかの画面から演じているだけのプレイヤーに。

 

里美からは何回も止められた。

 

やめようと思っていたけど、それでも今の私にはこれがかけがえのない全てだった。

 

もう夜が更けゲーム内でのイベントはとっくに終わり、既にチームのメンバーも全員ログオフして眠りについているような時間帯だった。

 

『マスター:コゴローがログインしました』

 

私は待ち続けたチャットメッセージが表示され心が満たされていくのを感じていた。

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