苦しい。
寝るのが苦しい。
寝る必要がなかった時の方がマシなくらいに。
理由はわかってる。
アイツがいないのと、
コイツがいるからだ。
「相変わらず寝れないのね。お馬鹿さん?」
「その口調やめろ。ムカつく。」
「…バカにはちょうどいいと思ったんだけど。馴れない口調はするもんじゃないわね。」
今日も嗤いにくる。あたしのオリジナル―惣流・アスカ・ラングレーが。
あの戦いの後、あたしはクローンの上に使徒が寄生した身体から再構成され、リリン―純粋な人間の身体となったのだが、同時に様々な事が流れ込んできた。それを自覚した瞬間から、コイツはあたしをほぼ毎日嘲笑するようになった。あたしのオリジナルかどうか聞いた時には「そういう事にしといてあげる」と含みを持たせた言い方をされ、腹が立ったが。
「だから何回も言ってるでしょうが。あたしはあんたの中にずっといたのよ。あんたが式波アスカになった時からね。」
「じゃあなんであの時13号機の中にいたのよ。罠にかけてくれてさ。」
「そんな事どうでもいいでしょ。それに、あたしがいようがいまいが結果は同じだったわよ。むしろ、グロ死体にならなかった分感謝しなさいよ。」
「あんたと同じになってたまるかっての。今のあんたみたいにさ。」
今のオリジナルは、傷ついた赤いプラグスーツに右腕に包帯、左目に白い眼帯といった痛々しい姿であり、そうなった経緯は知っている。あたしが眼帯をする事になったのもコイツのせいかと一瞬思った時、舌打ちをしながら忌々し気に言ってくる。
「…大体さあ、何が『好きだったと思う』よ。バカシンジを
「な、に…」
「『一緒に戦って一緒に死んで』くらい言えってのよ。シンジが覚悟決めてヴンダーに乗ったってのにさあ。」
「あの時シンジに乗れる機体はなかったわよ…だからあたし達が出撃したんじゃない!」
「2号機に一緒に乗るなりすればよかったじゃないのよ。あたしはそうしたわ。それに、その方が罠にも引っかからなかったかもねえ?」
確かにコイツは、弐号機にシンジを同乗させて戦った事があった。それと、近くに誰かいれば冷静になれたと言う事か。だが、状況的に不可能だった。コイツはそれを解った上で言っているのが腹立たしい。
「結果は同じって言ったのはあんたでしょ!ならシンジがいても同じよねえ!?」
「一緒に死ねる分だけマシよ…ああ、ファーストみたいに二人でエヴァに取り込まれるコースが本命よね。あんた、羨ましかったんでしょ?」
「っ…あたしはシンジが戦わなくてもいいように…あのバカに頼らなくてもって…!」
「それがあのザマ?まんまと罠に嵌まって、結局バカシンジが決着を着けて、挙句
「うるさい…!!」
「ああ~…でも確かに…何もわからないのにいきなり暴力振るわれて、メンタルボロボロなのにガキ同然の八つ当たりされたらあっという間に冷めるわよ、普通は。」
「うっさい!!!あんたが言うな!!!あんたこそシンジに突っかかって、酷い事言って、勝手にブッ壊れて!!!あんたの方がよっぽどガキよ!!」
「ああ、そうよ!!ガキよあたしは!だけどあたしの倍生きててガキの奴に言われたくないわ!!」
コイツ、開き直りやがった。
「あ~あ~…あんたならバカシンジと上手くやると思ったのに、嫌な所はしっかり引き継いで…どこで間違ったんだか…このあたしのクローンだってのに…」
「あんたが直す気なかったからでしょ!試験管産まれのマザコンが!!」
「ああ!?あたしがいなかったら造られやしなかったくせに!!ママに感謝しなさいよ!!ほ~ら、あたしがママよ~♡」
「気持ち悪い…!」
「あんたが言うか、それ…気持ち悪いって言えば、使徒なんかに寄生されて変な身体になってさ。自分でも嫌だったならどうしてさっさと死ななかったのよ。」
また話題を変えてきた。聞かれたくない事ばかり。
「…周りが許さなかったからよ。」
「はい嘘~。チョーカー付けてたくせに。死ぬのが嫌だったって言えばいいのに。代わりはいないんだからさ。」
「…アイツに会って一言言うかぶん殴るまでは死ねないって思ってた…アイツがいなくなったって思おうとしたけど出来なかったから…」
「それで14年も…頑張ったわねえ。味方が殆どいない中でさ。」
皮肉を込めてコイツが言う。
「…だけど結局シンジは振り向いてくれなかった。あんたさあ、14年間も何してたの?無駄にズルズルと生きてただけじゃん。とっとと死ねばよかったのよ。」
黙れ。
「はっ…さっさとあたしの事思い出してればよかったのよ。そうすれば死んででもシンジを手に入れたわ。アイツのために死ぬ覚悟もないなんてホント貧弱なクローンよね。」
うるさい。黙れ。黙れ。
「まあ…所詮プログラムされた感情程度じゃそんなもんよね。ママのお腹から生まれてよかったわ、あたし。最初からまともなリリンだったもの。」
黙れ、黙れ!黙れ!!黙れ!!!
あたしは気が付けば目にも止まらぬ速さでオリジナル―惣流の首を掴み、押し倒していた。アイツがコイツにやったように。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええええええ!!!!!!!」
「
あたしは両腕に力を込め、首を絞め始めた。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる…」とコイツも唱えた呪詛の言葉と共に。
その時のあたしは狂気に満ちた表情をしていただろう。そして惣流も嗤ったままだ。まだあたしを嘲笑うのか。その時、惣流の右腕があたしの顔に触れ、思わず両手を離してしまった。あたしは大きく息を乱し、そしてコイツは苦しそうな声と共に呟いた。
「…そうよ…あたしがこんなんだからこうなるのよ…アイツのいない、姿がない世界なんて死んでも嫌なのに…だからどう変わっても追いかけてるのに…結局…もういい…殺してよ…あたしが消えればあんたが…」
コイツはそう言うが、あたしは、いやコイツもわかっていた。どんなに自分が嫌いでも、自分で自分は殺せないのだと。あたしはあたしなのだから。あたしたちは大粒の涙で顔を濡らし、泣いた。
目が覚めても、顔は涙で濡れていた。寝てみる夢は、こればかりだ。あたしがあたしをひたすら嘲笑い続け、そして殺そうとして殺せない夢。どうしてあんな事を言ったのか、あんな態度をとったのか。後悔ばかりだ。
「シンジ…バカシンジ…」
あたしが安心して眠れる日は、本当に来るのか。それすらわからなかった。
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―ねえ、ワンコ…シンジ君。姫…アスカの事、あれでよかったの?私も「お達者で」とは言ったけどさ、あれは無事に戻れるようにって事だったから…。
―君しかいないよ。アスカの心を救えるのは。君とアスカは似ているからさ。
―居場所って、いくつあってもいいんじゃないの?安心して寝れる場所が居場所ならさ。
―さあ、行こう!