ファースト―エコヒイキ―レイと大喧嘩を繰り広げ、あたしは点滴を打たれながら入院していた。あいつがあそこまで感情を見せ、そして殴り合いをしたのはなかったと思う。そもそも、文字通り人形みたいな奴だったからイラついたのだが、もうそんな言葉は合わないのは一目瞭然だった。なのにあたしは―。
「アスカ?」
突如聞こえた声にあたし達は振り向いた。そこにいたのは、間違えるはずのない姿と声―あたしのママー惣流・キョウコ・ツェッペリンーだった。
「「ママ!?」」
声が重なると同時にあたしはママの元に駆け出した。ママはあたしを抱きしめた。一方、
「どうしたの?アスカ?」
「あ…あたしは…そのアスカとは…」
「何を言ってるの?貴女もアスカなんでしょ?なら私の子供じゃない。来ていいのよ?」
その言葉を聞いた瞬間、
「ママ?どうしたの?」
「…ごめんなさい。あなた達を傷付けて、苦しめてしまった。守ってあげられなかった。ユイさんみたいに出来なかった。何のために、エヴァに残ったのかしらね…」
「あれは事故だったんでしょ!?だからママは身体だけ残して…」
「でも、アスカがいたのに何も力になれなかった。ごめんね、ダメなママで…」
「「違うわ!!あたしが悪かったの!!」」
「ずっと自分が張り合う事しか考えてなかった!自分の事だけだった!ママがいる事にも気づけなかった!」
「あたしがずっとガキだったから!素直になれなかったから!結局一人でやろうとしたから!本当の気持ちに気づけなかった!」
「「だから、ママは何も悪くない!!」」
「アスカ…許して…くれるの?」
「「当たり前じゃない!!」」
ママはあたし達を強く抱きしめ、一緒に泣いた。自分が言った「ガキに必要なのは母親」という言葉を、あたしは強く実感した。あたしの言葉はブーメランばかりだとつくづく思う。さらに言えば、マザコンである所も。
「アスカ、約束して」
「?」
「あなた達がケンカするのは仕方ないとしても…仲良くして。アスカ同士で殺し合うなんて、耐えられない」
「!!…ママ、知ってたの?」
「そりゃあ、アスカの事だもの。本当に酷いことするわよね…アスカがいっぱいいたら、賑やかで楽しいのに」
「ちょっとママ!?」
「だってアスカが子沢山なママになったようなものでしょ?あ、だったら私はお祖母ちゃん?」
「あ、そうか!『あたしがママだ』って言ってたし!」
「あ、あれは…」
しまった。あんな事言うんじゃなかった。いや間違いでもないけど。
「ママが言うなら仕方ないわね…仲良くしようね、ママ♡」
「うう…」
「ふふっ。仲直りね♪」
ママはあたし達に笑顔を向けた。
「それと…シンジ君を信じてあげて。レイちゃんも言ってたけど、必ず帰ってくるわ」
「!!…でも…」
「あら?幼馴染じゃなくても、アスカとシンジ君はお似合いだと思うけどなあ…」
「幼馴染って…」
「それに、何だかんだ言って助けて面倒みてたじゃない?」
「面倒なんてみてない…八つ当たりしてただけよ…」
「でもシンジ君の事ずっと見に行ってたし、シンジ君が寝てた布団で…」
「ちょっとやめてよ!!ママ!!」
「ホント…ここまでやってんのに何で大人ぶるんだか…」
「あんたが言うな!!」
「アスカ。貴女が戦ってシンジ君やあのレイちゃんを助けたから終わらせる事が出来た。それは誇っていいことよ。落ち込むことなんてないわ」
「ママ…」
レイにも言われた事だったが、ママが言ってくれた。心が軽くなったのがわかった。
「それに、あの子…マリちゃんはちゃんとやってくれるわ」
「ママ!?あのコネメガネ…マリの事知ってるの!?」
「あ…えっと…どこで会ったかしらぁ?」
そうだった。ママは天然な所があった。本気で忘れてるのか、惚けてるのかわかんなくなる。多分これ以上聞いても無駄だ。
「…とにかく。あなた達はずっとシンジ君の事を思ってたんでしょう?だから戦ってこれたし、帰ってこれた。もうあなた達の好きにしていいの。ただ…他の子にシンジ君をとられちゃっていいの?」
「「そんなわけない!!!シンジはあたしのモノ!!誰にも渡さない!!!」」
「ふふ…やっと元気になった。アスカ、忘れないで。私はー。」
目が覚めたあたしの前に、知らない天井が見える。あたしはようやく「寝た」というのを実感した。寝れるようになったのに、寝れない事ばかりだったから。ママが寝れるようにしてくれたような気がした。そう言えば、13号機に対し2号機はATフィールドを張っていた。2号機が怯えていると思ったが、もしかして…いや、でもあの2号機には…。
(ママはあたし達のそばにいる。見守ってくれてる。それでいいじゃない。)
「アスカ?」
ファースト―レイだ。あの喧嘩の後、普通にあたしの事を名前で呼んでる。あたし自身もあの後いろいろなわだかまりなどが晴れて何だかスッキリしたような感じがした。
「心配したわ、ずっと寝てたから。もう退院できるって鈴原君とかが言ってたけど、まだ寝るの?」
「…」
「…そう。なら碇くんは私がもらう。寝てる間に帰ってくるかもしれないし。私のこと『正妻』って言ったんだから、文句ないわよね?」
レイは立ち去ろうとするが、あたしは奴の手を掴み、起き上がった。
「待ちなさいよ、レイ…あんたなんかに渡さない!!分捕ってでもあたしがもらう!!」
あたしを見てレイは微笑んだ後、両肩に手を置いて言った。あたしに見せたことのない満面の笑みで。
「ふふ…わかったわ。じゃあまず…」
「働いて♪」
「式波・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします。」
「よろしくね、アスカちゃん。」
「レイちゃんから新しい子が来るって言ってたけど、また可愛い子が来たねえ。」
「ほんと、別嬪さんが続いて嬉しいわあ。」
あたしはレイの紹介であの初期ロットみたいに農作業をして働くことになった。田植えは終わっていたが、雑草や虫を取ったりとやる事はまだあった。害虫に対しては気持ち悪くて触れなかったが、レイは平然と取っておりあたしの姿を見る度に得意気な顔をしてくるため、あたしは対抗心を燃やし、虫や雑草を取り続けた。転倒して顔が泥まみれになったり、腰が痛くなったりしたが。
田んぼの他にもやる所は多く、畑を耕したり、同じように雑草や虫を取ったり、収穫し作物を洗ったり。エヴァに乗ってた時は殆ど知らない世界だった。土や植物の匂いが心地よくも感じる。ミサトが言っていた「この世界はあなたの知らない面白い事で満ちている」という言葉をあたしは実感した。木材などを切ったり大工みたいな事をした時も、レイは相変わらずあたしに対し得意気な顔をしていた。あんただって初期ロットのおかげじゃないのよ。連れてきたのはあたしだけど。
仕事が終わり、お風呂に入るのも気持ちよくなっていた時、レイが話しかけてくる。
「アスカ、今日草取りの時間掛かり過ぎよ。」
「レイだって、あたしばかり見て草見てないんじゃないの!?」
「貴女が変な事しないか心配なの。間違えて稲取っちゃったりとか。」
「それ位見分けつくわよ!」
「レイちゃんとアスカちゃん、仲いいねえ。」
「前に大喧嘩した二人だって言うから心配したけど、大丈夫ね。」
「雨降って地固まる、ってやつね。」
小母さん達があたし達を見て笑っている。というかあの喧嘩やっぱり噂になっていたのね…。
「荒療治です。引きこもりの」
「引きこもってない!あんたが余計な事言うから!」
「そう言う時点で認めてるわ」
レイが小声で「28歳引きこもり…」と呟いたのが聞こえたあたしは、反射的に頭を叩いていた。なおレイも「お母さんみたいだねえ」と言われたら「まだ若いです…」と少しショックを受けていたが。
「ふふっ…いやあ、あんた達みたいな若い子を見てると、こっちも頑張ろうって気になるわあ。」
「そうだねえ。熱心に働いてるのを見ると負けてられないって張り合いが出てくるのよねえ。」
「増して、綺麗な子を見ると、気持ちが若返ってくるというかさ。」
小母さん達は、あたし達を見て張り合いが出ると言った。あたしも、一人で勝手に張り合ってたあの頃とは違い、感情豊かになったレイや、小母さん達など心地よい張り合い相手がいる事は、気持ちを落ち込ませずに済む事を感じていた。
お風呂から上がり、小母さん達と別れると西瓜を持った女の子が立っていた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん達…仲直りできたの?」
「ええ、そうよ」
「そう。ならあげる」
女の子はレイに西瓜を渡すとそのまま立ち去っていった。この村で西瓜を育てていた事を初めて知ったが、西瓜と聞くと思い出すのは加地さんだった。今回も死んでしまった加地さん。ミサトも死んでしまったが、二人は仲良くやっているんだろうか。あたしとレイは火照った身体を冷ますように西瓜を切って食べた。
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―す~いかを食べてた~、夏休み~♪…ああごめん、急に歌いたくなっちゃって。シンジ君、君は物語を終わらせた。あえて言うなら、君の中の「神様」がさ。色々あったけど、投げ出さずに。その「神様」はさ、こうも言ってるんだ。「私は好きにした。君らも好きにしろ」ってね。つまり、もう物語の役割に囚われなくていい。君の好きにしていいってことだよ。無論、アスカや他の人達もね。私はさ、そのために付け足されたのさ。…まあ、どう捉えるかは人によるけどね。
―人との繋がりって、いろいろあるよ。一度別れたけどまた付き合ったり、何回も告白や別れを繰り返して結局一緒になったり。だから一回くらいの別れの言葉に囚われることなんかないと思うよ。何より、一番大事なのは君が好きかどうかさ。ただ、これは言えるよ。アスカはずっと思っていた人を簡単に割り切れる子じゃないって。危ないくらい重いしね。前も言ったけど、君とアスカは似ている。だから彼女を救えるのは君しかいない。さて、どうするのかにゃ?
―そうだね。愚問だったね。さあ、行こう!
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季節が流れた。もう少しで稲刈りが出来ると思う。あたしとレイは鈴原家にて衣服の整理をしており、その中から懐かしい服―黄色のワンピースが出てきた。あたしは着てみたくなり、鏡の前に立っていた。
「懐かしいわね…シンジにパンツみられてビンタしたっけ…」
「碇くんって何でそういう体質なのかしらね…」
そういうレイは第壱中学の制服を着ており、ロングヘアのおかげで違った印象を与えるがある意味見慣れた姿だった。
「あんたもさ、その制服かプラグスーツしか見た事ない気がするんだけど」
「服にあまり興味なかったから…この制服は小母さん達にもらったやつだけど」
あたし達が懐かしさに浸っている中、電話が鳴った。ケンケンだ。ちなみに滅茶苦茶にした家はあたしとレイも手伝いちゃんと直した。
「今すぐ湖の所に来てくれ!急に電車が現れて…」
その報せを聞いた瞬間、あたしとレイは確信し、頷いた。恐らくそれしかない。すぐに全速力で走りだした。
湖に着くと、一両だけの、この村にも点在している物と同型の車両が佇んでいた。ケンケン曰く、この周辺を見回っていたら、どこからともなく現れたという。電車の扉が開き、出てきたのは忘れるはずのない二人だった。
「ちょっと~!電車を運転していくなんて無茶苦茶じゃないかい!?」
「早く着けると思ったんですよ。それに、電車も新幹線も同じじゃないですか!」
「あのね!いくら君がメカゴジラや新幹線運転した事あるからってさ…あ!」
「バカシンジーーーーー!!!!!」
あたしはシンジとコネメガネ―マリの姿を見た瞬間、湖に飛び込むように駆け出していた。浅瀬の所であたしとシンジは足を止め、あたしは足払いを掛け、シンジを転倒させると腕をつかみ、ビンタを喰らわせた。なおその時ワンピースの裾が舞い上がってパンツが見えていたと思う。
「アスカ…ごめん。」
「…見物料と…慰謝料よ。安すぎるでしょ!バカ、バカ、バカ、バカ、バカシンジ!!!!」
「うん…ずっと君を傷付けてた。だから離れようとした。でも違ってた。君への落とし前を着けてなかった。だから、着けさせてほしいんだ。」
「アスカ、君が好きだ!今もずっと!愛してるんだ!もう離したりしない!!」
「!!!…バカシンジ…あんたバカぁ!?初めからそう言いなさいよ!!!あたしだってもう離さないわ!!!あんたがいないならあたしは何もいらないの!!!あんたが好きなんだから!!!」
あたしはもう無我夢中でシンジに抱き着いていた。そこに、もう一人気配がした。レイだった。
「碇くん」
「綾波…」
「ごめんなさい…今まであなたを苦しめてた。守ったのに、苦しめてしまった」
「綾波…そんな事ないよ」
「!…ありがとう。それと…先に謝っておくわ。ごめんなさい」
レイはそう言って拳を振り上げ、シンジの頬を殴った。あたし以外のこの場にいた全員が驚いていた。
「…アスカや私達を泣かせた罰よ。次アスカを泣かせたら許さないから」
「うん…わかったよ、綾波」
レイは笑顔を見せると、あたしと声が重なった。ユニゾンは意識してなかったけど。
「「おかえり、シンジ(碇くん)!」」
「…ただいま!」
シンジがあたし達に笑顔を見せた直後、あたしはシンジにキスをし、シンジもそれに応えてくれた。ケンケンはビデオカメラを回しており、いつの間に来ていた鈴原やヒカリ、そしてサクラも、マリも赤面していたが最早関係なかった。ようやく結ばれたんだから。慰謝料を全人生かけて支払わせてやるんだから。
「ところで…あの電車なんなの?」
「ああ、早くアスカの所に行きたいって思ってたらあの電車が空いてたんだ。運転すればいけるかなあって」
「あんたバカぁ!?エヴァと電車の運転は違うでしょうが!!」
「でも新幹線とは似てるかなあって。だからやってみたんだ」
「あの新幹線もまた違うヤツでしょ!?本当にバカじゃないの!?」
(ふう…ユイさん、キョウコさん、これでいいんですよね。いや、まだか…縛るものがなくなっただけだから。二人の人生はまだこれからなんですから、見守っててくださいよ…お母さん方!それと…慰謝料って一生分で足りるかにゃあ~?)
二人の喧騒を聞きながらマリは空を見上げ、笑った。なおその後、この電車が止まった辺りは、様々な出来事を経て恋愛の聖地として名を馳せる事になったとかならなかったとか。
終劇