その龍、奇しき赫耀の兇星につき、絶望の星。龍は溢れ出る己が力に飲まれ目に写るもの全ての命を狩り尽くさんと暴れた。だがある時、龍は里の英雄である狩人に討伐され、その命を落とす。
狩人は力尽き横たわる龍の頭をそっと撫で、すまないなと一言、龍への手向けのつもりかそう告げて去っていく。
狩人がなんといっていたのかは分からないが龍は不思議と悪い気はしなかった。これが死か、と去り行く狩人の背を見つめながらまだ僅かに息があった龍は本能的にそう悟る。
薄れ行く意識の中、死にたくないというのも生き物の本能として有りはしたが一番思うことは……。
瞬間、瞳を閉じたと共にすっと身体から痛みが消えた。
閉じたはずの目を再び開くとそこは暗闇が織り成す何もない黒い空間。そこにポツンと龍は横たわっていた。龍は先ほどの戦闘もあり警戒心を一気に高め身体を即座に起こすと臨戦態勢を取った、がなにかがおかしい。
感覚が自分の身体の感覚ではない。なにより二本の足で立っていた。付け加え己の力である龍気に支配されていたはずの自我がハッキリとしている。
一体どうなっているのか、龍は困惑する。周りに生き物はおらずここには自分だけ。しばらく混乱したのちハッとして自身の身体を見回した。おかしなことに受けたはずの傷は無く、それどころかその身体はもはや龍ではなく
「人としての身体。気に入ってくれたかな?とはいってもその姿は龍の君が人であった姿を投影したものになるのだからこの言い方少しはおかしいか」
目の前に突如として白い髪の少女が現れた、それも言葉通り幼い人間の。しかしそれよりも驚くべき事は己の身体である。
少女の言う通り、龍の身体は迷うことなき人の姿。強いて違う点を上げるとすれば生前の龍の身体であったであろう胸に龍気を生成するための気管が存在すること、それに付け加え背から翼脚が生えていることである。
「グゥウウウ……」
少女の言う通り、まだ人の身体に馴れないのか声は言葉にならず咆哮すら出来ない龍はただ唸る。
こんな状況、普通ならば少女に翼脚を変形させ槍翼を突き刺しているところだが不思議と龍は襲おうとはしなかった。が警戒はしている、龍は感じていた。
この少女からとてつもないほどの何かを。そしてここでさらにあることに気がつく、少女の発した言葉の意味が分かることに。
「まぁそんな警戒するな、聞きたいこともあるだろうがお前には少々無理やり人間の知識と肉体を与えたからな。会話するにはもう少し時間が掛るだろう」
目の前の少女はその証拠にまだ馴れんだろう?と付け足して人の姿と化した龍を前に淡々と喋りながら指を鳴らした。するとどこからともなく円形のテーブルと椅子が現れ龍は目を見開く。
可愛げのある反応をするな、と笑いながら椅子に腰かけもう一方の椅子に指を指し龍を座るように促した。警戒心は解かず、けれども言うことは聞く龍は促されたまま覚束無い動きで椅子に座り少女と対面する。
「ふむ、とりあえずその様子だと言葉は理解できているようだな。なら大人しく私の説明を聞いていてくれ」
少女は自身を睨む龍に対して臆することなく事情やことの顛末を説明した。己のいた世界はまた別の世界が存在し魔王と呼ばれるこちら側で言うモンスターの長のような者が悪さを働いているから討伐してこいとのこと。
「なるほど、だが何故ハンターではなくモンスターである俺を呼んだ?」
すると説明を黙って聞いていた龍がいつの間にか警戒心を薄め初めて言葉を喋ったのだ。少女は少し驚いた表情を浮かべるとすぐに笑みに表情を張り替える。
「ほう、もう言葉を話せるようになったとは。ずいぶんと早いな?」
「あなたが人の知識とやらをくれたからか一度冷静になり少し思考するだけでこうして人の言葉を喋ることが出来た。人とはこうも冷静に緻密に物事を考えることが出来るとは、通りで彼らが俺を含めたモンスターを狩り、生きていける訳だ」
先程までしていた獣の様な顔つきから打って代わりいまはとても冷静で人らしい顔つきをしていた。
また己の攻撃を防ぎ、また己の身体を刻んだ防具や武器。それらは人々が織り成す叡知の結晶。付け加え緊迫した戦闘において臆せず焦らない冷静さと手と手を取り合うことで強大な力を持った自分たちモンスターを討伐してきたこと。
龍は過去、己に挑んできた彼らハンター達の姿を思い返しながらその知識を得ることでそれを深く理解することができた。
「まぁよい、理由だが大きく分けて4つある。一つは優秀なハンターは基本死なんし死ぬやつもおるが無論それは下っ端に限る、二つは人ではなくモンスターを人間にして転生させると言う初の試みをやってみようという、上からの指示だな。三つ目はお前が強力な個体である古龍種だからだ、四つ目はお前以外に普通の人間を何人も転生して送り込んでいるが誰も決定打となる戦果を上げられていないと、まぁこんなところか」
「色々とツッコミどころがあるが、いやそれよりも上からの指示とは?」
記憶にも経験にもない言葉が無意識に飛び出して違和感を覚えるがそれよりも人間の知識上、いま目の前に立っている少女はいわゆる神とか言う存在のはず。であれば上と下もないと考えたが経験でも聞いた知識でもないため上手く考えが纏まらず聞き返した。少女は深いため息をついて、そしてどこか虚ろな瞳を見せた。
「神様にもね、社会ってのがあるのさ」
どうやら触れてはならなかったらしいとこの一言で悟った。そして龍はこれが空気を読むと言うことか、とどこか間違っているようで合ってるような理解の仕方をしその言葉を言葉通りの意味で飲み込んだ。
「今さら聞くのも何だが結局俺は死んだと言う事で言いのか?」
「ん?あぁ、死んだな。だがここは俗に言う天国とか地獄と言うわけではない、言うならばその間に位置する場所という方が正しいな」
少女の言葉に龍は納得したような仕草をすると格好的にこれは人前に出ても問題ないのか?と問う。おっと、それもそうかと少女は指を鳴らす。すると先程まで実は全裸だった龍は黒いジャージが着せられ、そうだがそうじゃなくてとジャージから飛び出している背の槍翼を動かす。
「自分で仕舞えんのか?」
「仕舞えるのものではないと思うのだが……」
だがまぁあなたが言うならば仕舞えるのだろうと試しにやってみる。すると槍翼は散ったように消え、背の重みが無くなり軽くなった感覚を覚える。
消え方が消え方なため龍はなんとも言えない表情を浮かべて少女を見つめた。当の少女は消えてよかったじゃないかと笑っていたが龍のなんとも言えない表情はそのままである。
今から行くのは異世界な訳で、知識にある魔力やら何やらが関係してこんな芸当が出来るようになるのだろうが、なんだが己の力の本質である龍気が若干変わってそう、そんな理由で竜はなんとも言えない表情を浮かべていた。
無理もない、龍気のおかげで生前は暴走して暴れまわっていたのだからそれで龍気が魔力やらなんやらでパワーアップされて再び暴走した際にはもはやどうなるかわからない。と言うか暴走すると死ぬ程疲れる、疲れてもなお動き続けるのでもう勘弁してくれと心の中龍はひっそりと叫んだ。
他の者は知らないが少なくとも自分はそこまで争いは好まない、だから出来る限り彼ら人と会わないよう高い場所を縄張りにして過ごしていたのだ。とはいっても暴走する以前は空からの景色を楽しむのも一興としていたのでたまにバレない高度から人々の町を眺めたりしていたがまぁそれは希である。
「暴走の心配はない、お前には私の加護を掛けておいた。ゆえに龍気はお前がリミッターであるこの加護を外さない限り一再び暴走することはない」
「そうか、それは助かる。礼を言っておく」
少女はどういたしてと龍に返すと咳払いをして改まった。
「さて、もうあまり時間もない。読者の皆も前置き長過ぎでブラウザバックしてるかも知らんしとっとと異世界へと送らせてもらう」
「何を言ってるのかはよくわからないが……まだ完全には馴染んでいない。付け加えて俺自身の力の使い方もわからないぞ?」
「それだけ切羽詰まっていると言うことさ。それに立って歩けるならば問題なかろう?言葉も喋れるんだ、何か生活していく上で不自由なことなどないだろう」
と少女は言い終えると龍の言葉を無視して指を鳴らし異世界へ行くためのゲートとなる魔方陣を開き、それと共になにかを龍に投げ渡した。
「これは、あの者たちが使っていた武器か?それも俺の素材を用いて作られている……確か太刀と言っていたか」
「彼らの扱っていた太刀比べるとみた通り短いがね」
投げ渡されたのは己の鱗や甲殻から作られた銀に輝く赤みを帯びた太刀。大きさ的にはギリギリ腰からぶら下げられる程度。柄は赤い布であしらわれ、その銀の鞘から引き抜かれた刀身は黒く、鞘と同じく赤みを帯びていた。
無論筋力なんかは普通の人間の倍以上あるので特に問題ないように。龍はそのまま彼らの動きを思いだし真似るように太刀を片手で振るった。
少女は付け足して、その通りそいつは剥がれ落ちた素材で私が生成した物になると言ってあ、っと声を漏らす。
「どうした?」
「伝え忘れていたことがあってね。異世界に着いたらアクアというまぁバカっぽい全体的に青い女と恐らくどこかで会うだろう。そうしたらそいつの手助けをしてやってくれ、そいつは我の友人でね」
龍はその友人の状態に眉を潜めどこか訝しげな表情を浮かべながらも了承するとその友人女神が行ったなら何故自分も行かない?と聞く。少女は龍の問いに苦笑いを浮かべ、確かに私も女神ではあるがあれはなんというか……と何処か言いにくそうに場を濁す。
「まぁいい、その友人とやらの件はとりあえず承った」
「そうか、ありがとう。これで彼女も少しは楽になるかな」
どちらにせよ断るつもりのない龍は友人の件を承り、少女は礼を言った。
少女はでは送るぞと声をかける。龍は静に頷く。
「ではな、天彗龍バルファルク。お前が二度目の生を楽しめるよう祈っている。あ、ついでに魔王も討伐できるようにも祈っているぞ、それと」
これでもう一度空へ飛べるな、その言葉を最後に言い終えると共に龍、バルファルクは魔方陣の光に包まれそしてその場から消えた。
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バルファルクを異世界へ送る作業を終え、ふぅと一息ついていると少女は後ろにいる銀髪の女神に今送ったところだと言いながら振り返る。
「一応ミラルーツ先輩の、孫って扱いなんですか?彼」
「なんだエリスか。まぁ一体孫という字がどれくらい要るかは分からんが我はあの世界に存在する龍、その全ての祖である。故にあれも一応孫だ」
ミラルーツはエリスに付け足して自慢の孫だとどや顔で語る。天彗龍バルファルクですか……とエリスは呟く、するとこんな質問を投げ掛けてみた。
「それでミラルーツ先輩は行かないのですか?先輩が来てくれれば神器集めが捗るのですが」
「孫にも聞かれたよ。お前のように力を隠し人としてというのは生憎我は好かん。このまま行けるなら行ってやりたいところがそれをするとどうなるかなど……言うまでもなかろう?」
手を顔の前で振りながらエリスの断るといつの間にか用意したポテトチップスの袋をあけ頬張る。
その姿にかつて世界の全ての龍、その祖先でありほぼ神と同格かそれ以上の力を持つと言われたミラルーツの現在のこの姿に現代のそれを知るとこうも堕落してしまうのだと別の青い先輩を思い出して一人エリスは思うのだった。