山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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ライス「ライス!自信満々さんになりたい......!」

 

 

 

 

 

 初秋の九月。秋、という名を冠してはいるものの、先月の照りに照った太陽光がまだ地上を支配しているこの季節は、先月以上に精神的暑さを感じさせる。

 それは一年の半分が過ぎたという焦りか、それとも、若者のバイタリティに当てられて熱くなるのかは定かでは無い。

 

 

ニコロ「.........もうすぐだな」

 

 

桜木「ああ、11月8日.........大勝負の日だ」

 

 

 チームルームのカレンダーを見ながら、俺はそう呟いた。そう。その日こそ、俺が受け持つ担当ウマ娘の一人。ミホノブルボンの最終通過点。菊花賞が開催される日だ。

 ここまで彼女は頑張ってきた。だがそれでも、レースというのは何があるか分からない。特に、今回は.........

 

 

桜木(.........心苦しいな。夢ってのは)

 

 

 手に持つのはミホノブルボンのデータ。そして、このレースに出る、もう一人のチームメンバーのライスシャワーの物だ。ステイヤーとしてのトレーニングを重ねたことで、彼女は以前とは大きく変わった。

 どちらかが勝つ。どちらかが負ける。夢と言うのはそういうもので、特に、レースと言うのは残酷なものだと知っている。

 

 

ニコロ「.........浮かない顔だな」

 

 

桜木「.........生憎、俺も勝ち負けに一喜一憂していたバカの一人だ。不安なんだよ。どっちが勝っても負けても」

 

 

 俺は彼女達を支えられるのか.........そんな弱気になる言葉が出かけたが、それは逃げだ。そんな事を言っても、現状が変わる訳がない。

 それでも、やらなければ行けない。そう思いながら、俺はココアシガレットを口に咥えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライス「タキオンさん.........は、話ってなに.........?」

 

 

 どこか怯えを感じる彼女の表情と仕草を感じながら、私は彼女の方へ身体を向ける。彼女を呼んだのは他でもない。彼女が[菊花賞で勝てる可能性を高める]為だ。

 

 

タキオン「そんなにオドオドしなくていいよ。もっとリラックスしたまえ」

 

 

ライス「は、はひ!!」ピーン!

 

 

タキオン「.........気を張れとも言ってないんだよ?」

 

 

 そう言うと、彼女は申し訳なさそうに伸ばした背筋をまた、怯えを感じさせるような雰囲気を出す体勢に戻す。

 私が懸念しているのは[これ]だ。彼女の素質.........いや、トレーニングで得た賜物だ。これは能力と言おう。

 とにかく、彼女のこの[緊張]するか、[怯える]かの二極化された行動が、その能力を阻害し、勝利までの道のりを邪魔しているように思える。

 

 

タキオン「ライスくん。一つ質問だが、今度の菊花賞、勝つ見込みはあるのかい?」

 

 

ライス「え.........?」

 

 

タキオン「.........ああ、言い方を変えよう。根拠は無くても良い。ただ、[勝てる自信]はあるのかな?」

 

 

 私は、前から気になっていた事を聞いてみた。レースに出場するという事は当然、少ないながらも勝てる見込み、勝てる自信があるという事だ。それさえあれば、小さな可能性を拾うことが出来る。

 だが.........彼女の示した答えは、涙であった。

 

 

ライス「ご、ごめんなさい.........!」

 

 

タキオン「あ、あああ!!別に責めてるわけじゃ無いんだ!!ただ、私としてはブルボンくんと同じくらい、君にも勝って欲しいからね!!」

 

 

ライス「.........うぅ」

 

 

 少し気恥ずかしいが、これは私の本心だ。チームという他の者とは少し近しい存在。いくら私と言えども、多少の情は移る。

 だが.........これは難問だ。どうやら彼女には、勝ちたいという意思はあっても、勝てる自信や見込みはほぼ無いに等しい。それは、このやり取りで分かってしまった。

 

 

タキオン「.........こういう問題は、彼らの方が得意だねぇ」

 

 

ライス「?」

 

 

 普段ならば、この実験室に人を入れるような真似はしたくは無いが、この際背に腹は変えられない。彼女の為に、私は応援を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「なるほどねぇ.........」

 

 

マック「確かに、ライスさんは少々自信が足りない気がしますわ」

 

 

 突然、タキオンからの呼び出しに応じてみると、それはライスの事についてだった。確かに言われてみれば、彼女の自信の無さは、出会った時から変わってない気もする。

 

 

桜木「.........ていうかなんでマックイーンもいるの?」

 

 

マック「貴方がコソコソとどこかへ向かう姿を見たので、また何か企んでいるのかと.........」

 

 

桜木「お前がなるべくこっそり来るようにっていったのが裏目に出たぞ」

 

 

タキオン「いや?計画通りだが?」

 

 

 如何にも予想通りと言ったような口調で、そして何を言っているんだという表情で俺の方を見るタキオン。全てお前の手のひらの上だったわけだ。全く、油断も隙もありゃしない。

 

 

桜木「作戦は考えるが.........時間稼げよ。そんなポンポン思いつく程頭は良くない」

 

 

タキオン「.........はぁ、仕方が無い」

 

 

 そう言いながら、彼女はこの実験室の机に置いてあるウマ娘のぬいぐるみ。恐らく黒津木の私物だろう。それを持ち、ライスの前で自分の顔を隠すようにそれを手で持った。

 

 

タキオン「私!ミニタキオン!(超絶裏声)」

 

 

桜木「な、え.........」

 

 

マック「まぁ.........」

 

 

 俺は絶句し、マックイーンは驚きの表情を浮かべる。なぜなら、普段の彼女からは考えられない程の超高音の声が聞こえてきたからだ。いやでも、どこかで聞いたことあるな.........?

 

 

タキオン「私はタキオン博士の研究で生まれたスーパーウマ娘なの!!」

 

 

タキオン「そうともさ!お砂糖、スパイス、素敵なものいっぱいかき混ぜた所に、間違えてケミカルUが混入してしまってねぇ!」

 

 

桜木「あっ、パ〇ーパフガールズかぁ.........」

 

 

 何ともまぁ懐かしい話だ。幼い頃にハマった作品だが、それに出てくる三人組の女の子の一人に声が似ている。まぁ天下のカー〇ゥーンネットワークだ。彼女も昔に嗜んでいたのだろう。他の二人は分からないと言うような顔を見せているが.........

 

 

タキオン「貴女はとってもすごい!!その気になればどんな相手でもレースで勝てる力があるの!!」

 

 

ライス「ほ、本当?」

 

 

タキオン「もちろん!!」

 

 

ライス「じ、じゃあ!生徒会長さんにも勝てるかな?」

 

 

タキオン「.........あー、うん!!ゴール手前の競り合いになったらね!!」

 

 

 少し困ったようにタキオンはそう言うが、実際。今の会長殿に勝つにはそれしかないだろう。なんせヘル化持ちだ。大きく引き離した際にどうなるかなんて知りたくもない。

 

 

ライス「.........ち、ちょっと自信湧いてきたかも.........!」

 

 

タキオン「.........ふふん」ドヤァ

 

 

 どうだい?なんて声が聞こえてくるようなドヤ顔。実際、彼女は良くやってくれた。あんな事を恥ずかしがりもせずにやってのけるとは思っても無かった。彼女は案外、手があるならなんでもやるタイプなのかもしれない。

 しかし、まだ足りない。ちょっとではまだ、彼女が安心して実力を出し切れるほどでは無い。

 

 

桜木「.........よしっ、思い付いたぞ!対策方法が!」

 

 

タキオン「本当!!?」

 

 

桜木「.........あー。タキオン、もう裏声は良い。耳がキンキンする」

 

 

タキオン「おや残念。こう見えても昔は超音波のプリンセスとも呼ばれていたのだが、試しに聞いてみるかい?」

 

 

全員「結構(です)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「それで、チームの皆さんにライスさんの良い所を聞こうという事ですか?」

 

 

 そう言いながら、椅子に座り首を傾げるブルボン。全くその通りだと肯定するように、俺は首を縦に振る。目の前にはブルボン以外にも、ウララ、デジタルが座っている。

 

 

ライス「き、急に言われても、出てこないよね.........」

 

 

ウララ「そんな事ないよ!!ライスちゃんの良い所!!たーっくさんあるよ!!」

 

 

 晴れやかな笑顔を見せつつ、ウララは勢い良く立ち上がった。優しい所、遊んでくれる所、お話を聞いてくれる所、長く走れる所.........その一つ一つを指を折り曲げて教えてくれるウララに、不覚にも涙がこぼれそうになる。

 

 

マック(.........貴方が泣いてどうするんですの?)コソコソ

 

 

桜木(ごめん.........年取ると涙脆くなるんだ.........)ヒソヒソ

 

 

マック(気持ちは分からなくも無いですが.........)

 

 

タキオン「んっん゛ん゛!!」

 

 

二人「!」ピシッ!

 

 

 マックイーンとヒソヒソと内緒話をしていると、背中を見せているタキオンから明らかに俺達に向けた咳払いの声が聞こえてきた。それを聞いた俺達は二人同時に、背筋をピンと張り、真っ直ぐ立つ。

 

 

タキオン「今はライスくんの大事な話なのだよ?分かってるのかい?え?」

 

 

桜木「はっ!承知しております!タキオン閣下!」ピシッ!

 

 

マック「この度は誠に申し訳ありませんでしたわ!」ピシッ!

 

 

 両かかとをしっかりと着け、敬礼して謝罪をする。何故かマックイーンも同じように敬礼して謝罪していた。なんなんだ。一心同体ってそういう事なのか?

 まぁとにかく、疑り深いタキオンの目がようやくいつもの様に気だるげな濁った目になり、二人で安堵する。

 

 

ライス「あ、ありがとうウララちゃん!」

 

 

ウララ「えっへへ〜♪良かった〜!!」

 

 

デジ「ふわぁ〜.........ライスしゃんの良い所は、こういうやり取りを目の前で見せてくれることでしゅ〜.........」

 

 

 液状化を果たしつつも、自分の役割もしっかりとこなすデジタル。お前のそう言う姿勢がチームにも貢献されているのだぞ、我がチームマネージャーよ。

 そんな優しい雰囲気が漂いつつも、一人真剣な表情で考えている人物が一人いる。それは、ライスと共に菊花賞を走る事になっているミホノブルボンだ。

 自らの顎に手を添え、静かに目を閉じているその姿に、場の雰囲気はやがて、彼女と同じように静かになっていく。

 

 

ブルボン「.........私が思うに、ライスさんの素晴らしい点は、常に上を見ている所だと感じます」

 

 

 そう言葉を口にしたブルボン。その静けさは彼女が真剣であると言うことを感じさせる。ここに居る誰もが、彼女が嘘偽りなく、ライスの良い所を褒めていると感じた。

 しかし、ライスの表情は浮かない。きっと、彼女が言ったことを理解しきれていないのだろう。その感情はやがて、疑問となって口から出た。

 

 

ライス「上を見ているって.........?」

 

 

ブルボン「ライスさんは常に、何があったとしても自分に非があると思い込みます」

 

 

ブルボン「それはつまり、自分が何とか出来ればという上昇志向の現れだと、私は思っています」

 

 

桜木(.........なるほど、よく見てるな)

 

 

 流石、菊花賞をこれから走る.........いや、このクラシック級のGIを共に走り抜いた仲。ライスの事を良く知ってくれている。二人の事はきっと、お互い俺以上に理解しているだろう。

 

 

ライス「.........ありがとう!ブルボンさん!」

 

 

ブルボン「私の言葉が力になるのなら、いつでも言いますよ。ライスさん」

 

 

マック「成長しましたね.........二人とも」グスン

 

 

 友情が確かに感じられる場面を目の前にして、俺の隣に居るマックイーンは流れそうになる涙を人差し指で拭う。

 二人とも、最初の頃とは大違いだ。片や臆病、片やサイボーグだった二人が、今はこうして、笑っている。

 チームというのは良い物だ。それを教えてくれたのは他でもない、隣にいるマックイーンだ。彼女が居なければ、この集まりは無いと言ってもいいかも知れない。俺はそんな彼女を労わるように、背中を撫でた。

 

 

桜木「.........ようしっ!見たところ、あともう少しってとこだな!!」

 

 

タキオン「おや、その様子だと、また何か案が思い付いたようだね」

 

 

マック「ふふ、期待していますわね、トレーナーさん」

 

 

 期待の眼差しを一身に受ける。今この場にいる皆が、俺の次に期待してくれている。そう思うだけで、その案が成功すると確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコロ(なんだ、これは.........)

 

 

 今、俺がこの身を置いている状況に疑問を抱く。場所はトレセン学園の体育館であるが、今俺が立っているのはマットの上であり、そのまわりを囲うようにバレーボールのネットが張られている。

 もしかしてなくても、これはリングなのだろう。ヘッドギアとグローブをつけ(つけられ)、角の方で待機させられている俺と、真正面には同じように待機しているウマ娘。ライスシャワーが居た。

 

 

桜木「赤ァァコーナァァァ.........ライィィィスゥシャゥワァァァ!!!」

 

 

ライス「むん!」グッ

 

 

 名前を呼ばれ、それに応えるように力を入れるライス。ガッツポーズのつもりなのだろう。しかし、その力強い上半身とは裏腹に、足は子鹿のように震えている。

 

 

桜木「青ォォコーナァァァ.........ニコォォrrrrrrオーエッブァァァァンス!!!」

 

 

ニコロ「.........」スッ

 

 

ライス「ひあっ.........」ビクッ

 

 

 大丈夫なのだろうか?こっちは構えをとっただけなのだが、反応が明らかに大袈裟だ.........本当に俺は一体何をやらされているのだ?

 

 

桜木「レディ!ファイトッ!!!」

 

 

タキオン「良いかいライスくん!!?一発当てれば良いんだよ!!!一発だけで良いんだ!!!軽くね!!?」

 

 

マック「貴方!!!ライスさんに手を出したら承知しませんわよ!!?いくら元ヒットマンだかなんだか知りませんがメジロ特殊部隊の前では手も足も出ませんわよ!!!大人しくサンドバックになりなさい!!!」

 

 

 なんなんだ。あのウマ娘は、初めて会った時は年齢に合わないほど大人びた少女だと思っていたが、今は俺に手を出すなと言う一言を言うだけで聞いてもいない情報がぽんぽんと口から出てくるぞ。メジロ家と言うのはそれほどまで凄い家なのか.........?

 

 

ライス「え、えっと。ぱんちってどうすれば良いんだろう.........!」

 

 

ニコロ(.........そこからか)

 

 

ニコロ「まず、両手で拳を作ってから、自分の胸の前で固定する」

 

 

ライス「こ、こうかな.........?」

 

 

 俺は一体何をやっているんだ。これからスパーリングをする相手に、パンチの方法を教えるなんて、人生で初めて体験したぞ.........

 しかも、いくらアスリートとは言えそこら辺は素人。ポーズはしているが、はっきり言って弱々しいの一言に限る。

 

 

ニコロ「.........そのまま利き手を前の方に真っ直ぐ突き出す。やってみろ」

 

 

ライス「う、うん!.........えい!」

 

 

ニコロ「.........!!!こ、これは.........」

 

 

 驚いた。まさかこの世にこんな存在がいるとは思いもしなかった。俺とこの子とでは、住む世界がまるで違う.........このパンチ。明らかに―――

 

 

ニコロ(弱すぎる.........!!?)

 

 

 なんだこれは!!!こんなもの止まっている蚊さえ仕留められないぞ!!!虫も殺さないなどという慣用句は日本でよく使われると聞くが、それはあくまで例えだと思っていたが、まさか本当に虫も殺せない存在が居たとは.........!!!

 あまりにも予想外すぎた為、俺は思わず視線を桜木の方へ送る。奴は声は出さずにジェスチャーで大袈裟にやられろ。という指示を俺に送ってきた。

 

 

ニコロ「.........ぬぅぅぉぉおおおおおお!!!!!???」ゴロゴロゴロゴロ

 

 

ライス「ひゃっ.........!!?」

 

 

マック「っ!!!今助けますわよ!!!ライスさん!!!」

 

 

全員「え!!?」

 

 

 奴に指示された通り、大袈裟に痛がった後、俺は元の隅っこの方へと転がりながら後退した。後退した。後退したはずだ。後退したんだ。

 だと言うのに、何故かメジロマックイーンはライスシャワーの怯えた声に反応し、その身でリングへと上がり込んできた。

 

 

マック「メジロ殺法48ある護身技の一つ!!![五所蹂躙絡み]ッッ!!!」ガシッ!

 

 

ニコロ「なにィィィィィ!!!!!???」

 

 

桜木「やめろめろメジロめろ!!!」ガバッ!

 

 

マック「離して!!!絶対許さないわ!!!ライスさんを怖がらせるなんて!!!」ジタバタ

 

 

桜木「マックイーン口調!!!変な風になってるから!!!」ギュー

 

 

マック「ふーっ!ふーっ!」

 

 

 あ、危ない所だった.........両足首を掴まれて視界が逆さになった時はもう終わったと思ったが、なんとか桜木が助けてくれた.........

 まぁ代わりにその桜木が先程俺がやられるはずだったプロレス技の様なものを受けてマットに倒れ伏しているのだが.........まぁ、仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライス「.........えへへ」

 

 

 トレーニングが終わって、寮へ帰る支度をしている途中で、今日あったことを思い出して思わず笑っちゃった。

 みんな、ライスの為に色々してくれた。みんなのお陰で、少しは勝てる.........ううん、勝ちたいって思いが強くなった。

 

 

ライス『ねぇねぇお兄さま.........?ライス、菊花賞勝ったら、みんな喜んでくれるかな.........?』

 

 

桜木『あったりまえだ!俺たちだけじゃないぞ〜?きっと、ライスのファンもみんな喜んでくれるに決まってるさ!』

 

 

 今までずっと、勝てたらいいなぁ、変われたらいいなぁって、そんな思いでレースに出てた。でも、きっとそれだけじゃダメなんだ。勝ちたい、変わりたいって思わなきゃ、きっと何も変わらない。

 

 

「まだ残ってるのか?」

 

 

ライス「あ、ご、ごめんなさい!すぐ帰るね!ニコロさん!」

 

 

ニコロ「構わない。本国に送るレポートを書かなきゃいけないからな。ゆっくりして行くといい」

 

 

 うぅ.........ライスのにやけた顔、見られてなかったかなぁ.........?ち、ちょっと恥ずかしい.........

 でも、この一年過ごしてみて、この人は良い人だって分かったから、ちょっとは大丈夫!最初は怖かったけど.........

 

 

ライス「.........あ、あの」

 

 

ニコロ「?」

 

 

ライス「し、質問しても良い、ですか.........?」

 

 

ニコロ「ああ、構わない。それと敬語も良い。いつも通りに話してくれ」

 

 

 そう言われて、大丈夫かな?って少し考えたけど、思い切ってやってみようと思った。まだ少し怖いけど.........

 

 

ライス「.........ライスね?ずっと変わりたいと思ってたの。レースに出るのも、今までのライスから、変われるかなって.........」

 

 

ライス「.........変われる......かな.........?」

 

 

ニコロ「.........」

 

 

 言いながら少し、怖くなってきたけど、ライスはそう言った。するとニコロさんは、書いていた本国へのレポートの作業を、一旦止めたの。

 何を言ってくれるんだろう?そう思いながら、少し考える素振りを見せるニコロさんの表情を、ライスは見守った。

 

 

ニコロ「.........変わらない」

 

 

ライス「え.........?」

 

 

ニコロ「と、[昔の俺]だったら、何も考えずに言っていただろう」

 

 

 最初は、険しい表情だった。でも、直ぐにそれを訂正した彼の顔は、なんだかとても嬉しそうで、優しい物だった。

 

 

ニコロ「例え道が定められていたとしても、行くべき所があったとしても」

 

 

ニコロ「人間の足は自由だ。どこにだって行ける」

 

 

ニコロ「.........奴は、俺にそれを教えてくれた」

 

 

『この[デトロイト]でッ!テメェを[ビカムヒューマン]させてやらァッッ!!!』

 

 

 

 

 

 ―――自分の頭に聞こえてくる声はまるで、つい先程聞いたばかりのような鮮明さを帯びながら、記憶の奥底から呼び起こされた。

 あの日、奴に言われた通りに、[デトロイト]で俺は[人間になった]。いや、[人間にされた]。

 

 

ニコロ「.........だが俺は、変わる事はあまりおすすめしない」

 

 

ライス「え!!?」

 

 

ニコロ「面倒な事が山ほどある。明確な道の上から外れ、獣道とも呼べない場所を歩き、見えない物を追い求める程過酷なものは無い」

 

 

 最初は、そうだ。後悔の連続だ。俺はクリーンな存在では無い。足を洗う為に、組織を壊滅させる為の情報を警察に渡し、名前を変え、一般常識を身に付けてきた。

 だが、そのどれもこれもが苦痛に等しかった。今まで何も知らずに生きてきた。そして、そのまま生きていたらこれ程楽な事は無いと思った。

 結局、どこも同じだと思った。自分は駒で、組織に良い様に扱われ、使えなくなったら捨てられる。そんな匂いが、何処からでも感じ取れた。

 それでも.........

 

 

ニコロ「.........ああ」

 

 

ライス「.........?」

 

 

ニコロ「変わらない方が[楽な人生]だとは思うが.........変わった方が、[良い人生]だと思えるのは間違いないな」フッ

 

 

ライス「!」

 

 

 夜空に浮かぶ[三日月(クレセントムーン)]に、あの日出会った人々の姿を思い出す。あまりいい思い出ではないと思っていたが、こうして自然に頬の変化を感じ取れるということは、あながちそうでも無いということだろう。

 視線を小柄な少女に戻し、その姿を改めて見る。明らかに子供だ。桜木に教えてもらった実年齢より遥かに幼く見える。

 それでも、彼女は俺達人間より強く、なんならそこら辺のウマ娘より高いポテンシャルを持っている。そんな彼女が.........何故か、昔の自分と重なってしまう。

 

 

ニコロ「変わりたいのなら、その為の覚悟と、努力をする事だ」

 

 

ニコロ「変わる為の努力を、変わる事で生じる壁を超える覚悟を.........」

 

 

ライス「覚悟と、努力.........!」

 

 

 力強く、まるで自分に言い聞かせるようにそう呟くライスシャワーの姿にはもう、あのスパーの時に感じた弱々しさや、迷いは無くなっていた。

 これで、彼女は殻を破り、多くの人々にその名の通り、祝福されるだろう.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時はそう、本当に思っていたんだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........遂に、決戦か)

 

 

 静かに物思いにふけながら、瞼の裏側に記憶をゆっくり投影する。時計の針を逆回転させれば、景色はいつでもあの頃へと戻っていく。

 菊花賞。それは三冠と呼ばれる栄光に辿り着くための、最後の旅路。その旅路を一番早く終えた者だけが、その栄光を掴み取る事が出来る。

 片や臆病者。片やサイボーグ。そんな第一印象を持った彼女達は今や、この大舞台で拮抗した実力を見せ、更にはこのレースの主役にまで上り詰めた。

 

 

桜木「.........正に、[山あり谷ありウマ娘]だな」

 

 

ブルボン「.........?」

 

 

ライス「お、お兄さま.........?」

 

 

 しまった。心配そうに声を掛けてくる彼女達の呼び声で、思っていた事が口から出ていた事に気がついてしまった。

 .........ダメだな。こんなんじゃ。俺がしっかりしなきゃ、二人とも安心して走りきれないだろう。

 

 

桜木「いや、何でもない。昔を思い出してただけさ.........」

 

 

桜木「さぁ、そろそろ始まるぞ。気合い入れてけよ」

 

 

 薄暗い地下バ道。出口から差し込んでくる光は、彼女達の栄光を表すように、二人の背中を照らしている。ここまで来るのに、これほどまでにするのに、俺は.........いや、俺達は努力をしてきた筈だ。

 泣いても笑っても、これが彼女達にとって最初で最後の、クラシック級における最後のレース.........

 

 

ブルボン「.........では」

 

 

ライス「行ってくるね!」

 

 

「マスター(お兄さま).........!」

 

 

桜木「!.........ああ!」

 

 

 光を浴びていた背中を、今度はこちらに向け、彼女達はその一身に、光を享受する。眩しくて、綺麗で、切なくて、ちょっと苦しい光。

 .........そんな彼女達に掛ける言葉が、今の今まで見つからなかったけど、今ようやく、見つかった。

 

 

桜木「.........二人とも!!!」

 

 

二人「.........?」

 

 

 俺の声に反応して、その道の出口まで歩いていた二人は、ゆっくりと振り返った。その顔に迷いはなく、どちらも、強い決心によって揺るぎない物になっていた。

 

 

桜木「.........頑張ってこい」

 

 

桜木「例え、どっちかが勝って、どっちかが負けてしまっても.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はお前らを、誇りに思う.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから帰ってこい。俺達は、いつもここで待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の本心。熱された鉄のように熱くなった心の本音。それを肯定するように、俺の隣にいるマックイーンとタキオンは返事をした。そして、ウララとデジタルはその手を彼女達に振った。

 そんな俺達を見て、二人は笑顔を浮かべてから、もう一度背中を向けた。この大決戦。きっと日本中は、その結末に大きく熱狂するだろう。あの、マックイーンとテイオーの天皇賞の様に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、その時が来るまでは、そう思っていたんだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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