山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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間違えて消してしまいました.........おバカな作者です.........


マックイーン「トレーナーさんは今何歳ですか〜?」とれーなー「3さい......」

 

 

 

 

 

 憂鬱とした気分で廊下を歩きながら、溢れ出そうになる溜息を何とか我慢している朝のトレセン学園。

 先日、ライスシャワーさんを慰める為にパーティを開いたものの、それは物の見事に失敗してしまいました。その後、トレーナーさんは何とかライスさんを探し当てたものの、解決する事は出来ませんでした。

 もちろん、それを責めるつもりはありません。彼なら何とかしてくれるという勝手な期待をして、彼一人に任せてしまった自分が情けない。そう思いながら、廊下を歩いていました。

 

 

マック(.........それにしても、一体どうしたのでしょう?タキオンさん)

 

 

 先程頭を悩ませていた問題をひとまず置き、今は新たに発生した問題を解決するべく、頭を働かせます。

 早朝、普段であるならばトレーニングがある筈なのですが、本日は無くなり、代わりに実験室に来るようにと、タキオンさんから連絡が来たのです。トレーナーさんからではなく.........

 一体何があったのでしょう?あの人から連絡が来るなんて、あまり滅多のことではありませんから、ついつい悪い方向に考えてしまいます。

 そんなことを考えながら歩いていると、不意に廊下の横の扉が開きました。

 

 

黒津木「うお、もう来たのか.........」

 

 

マック「へ?.........ああ」

 

 

 そこから出てきたのは、保健室医である黒津木先生でした。彼の言葉に首を傾げましたが、その部屋を見て納得します。目的のアグネスタキオンさんの実験室です。

 

 

マック「他の皆さんは.........」

 

 

黒津木「まだだ。マックイーンが一番乗りで、ある意味助かったよ.........」

 

 

 そう言って、彼は私に対してその体を横にし、部屋に入るように促しました。私も恐る恐る、その部屋の中へと足を踏み入れます。

 電気からの光が照らされ、部屋の雰囲気は実験道具で喧騒的な.........感じがあった以前とは程遠く、少し殺風景になりました。

 ここで待っていればいいのでしょうか?その考えが過ぎった時、私の耳に微かな物音が聞こえてきました。

 

 

マック「.........誰かいるんですの?」

 

 

黒津木「あ〜.........まぁ、な?」

 

 

 とても答えにくそうに、出来ればはぐらかしたいと言うような口調で、彼はこの場を乗り切ろうとします。

 だったら、こちらが見つけるまでです。音がしたのは、棚の隣。確かそこには、ダンボールがあったはずです。実験用具をまとめてあるそこもきっと、片付けられて空になっているはず。

 恐らく、小動物の類でしょう。タキオンさんはああ見えて、カラスのお世話もしていましたから。

 

 

マック(子猫か子犬当たりでしょうか.........)

 

 

「.........?」

 

 

マック「え.........?」

 

 

「.........」シクシク

 

 

 そこに居たのは、子猫や子犬、ましてや、カラス等の鳥類ではありませんでした。

 いえ、小動物と言えば小動物です。こんなに小さかったら、そう思っても無理はありません。ですが、これは列記とした.........人の子供、女の子でした.........

 

 

マック「.........ゆ、誘拐.........?」

 

 

黒津木「.........言いたい気持ちも分かる。けど、とりあえずみんな揃ってから話すから.........あやしててくれ、俺じゃ手に負えん」

 

 

 そう言って、両手を上げてお手上げのポーズを取る彼。視線を子供にしては静かに泣くその子に向け直し、恐る恐る抱っこをしてみます。

 

 

マック(.........あったかい)

 

 

「.........?」

 

 

マック「ふふ、どこから来たんですの〜?お名前は〜?」

 

 

「.........れお」

 

 

マック「ふふふ、そうですかそうですか、れおちゃんですか〜.........ん?」

 

 

 その名前を聞き、思わず顔を埋ませていた胸から離します。良くじっくり見てみると、その可愛らしい少女のような容姿から、その名から連想される姿の面影がある事が認識されます。

 私はギコギコと音が鳴るように首を動かし、黒津木先生の方を見て見ます。彼は何の変哲もない無表情から徐々に汗を流し、口笛を吹き始めました。

 

 

マック「ど、どういう事ですの.........?」

 

 

「.........///」テレテレ

 

 

 もう一度、その子の顔を見ようとすると、可愛らしい反応で恥ずかしがりました。この子がまさか.........いえそんな.........でも.........

 そんな否定に肯定を重ね、その上から否定を繰り返しながら、時間は過ぎていきました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この子がトレーナー(さん)!!?」

 

 

タキオン「ええい!だからそう言ってるだろう!!!大声を出さないでくれ!!!私は彼の奇行でもう頭が痛いんだ!!!」

 

 

 チーム全員が揃ったタキオンさんの実験室。一通り説明されて、分かったことがあります。

 それは、トレーナーさんが自ら進んで子供になったこと。そして、それはライスさんを説得するためだと言うことです。

 その点に関しては、責めるつもりは全くありません。これはきっと、彼の決断力と行動力でしか導き出せない物でしたから。

 

 

れお「.........ぱっ」

 

 

全員(うっ、可愛い.........)

 

 

 突然、両の手のひらをこちらに向けて開きました。全く.........!!!この子は可愛すぎます!!!なんでこんな女の子みたいな子があんな男性になるんですか!!?こ、この世の法則は乱れています!!!

 

 

ウララ「れおちゃん可愛い〜♪」

 

 

れお「.........みゃぅ(*´︶`*)」

 

 

マック(だ、ダメよマックイーン.........!相手は子供よ.........!)

 

 

 くぅ.........小さいからと言って油断はできません.........この天然由来の破壊力.........成長しきった彼とはまた違うときめきを感じてしまいます.........!

 

 

ライス「お、お兄さまにも、こんな時があったんだ.........」

 

 

ブルボン「とても可愛らしいですね、手とかもこう、柔らかくて.........」

 

 

れお「?.........」ギュ

 

 

ブルボン「!!?」

 

 

れお「.........(*´ ˘ `*)」スリスリ

 

 

 ああ.........なんということでしょう。あのミホノブルボンさんが、突然の出来事にオーバーヒートを起こしています.........まさか、手を掴んでそこに頬ずりするだなんて.........やはり油断なりません.........

 

 

テジ「あの〜、まず自己紹介からしません?記憶も小さい頃のままでしたら多分、デジたん達の事知らないでしょうし.........」

 

 

マック「そ、そうですわね.........コホン、私はメジロマックイーンと申します」

 

 

れお「?.........お名前?」

 

 

マック「はい。お好きに呼んでください、トレ.........じゃなくて、れおちゃん」

 

 

 未だに彼の事を名前で呼ぶのは少々慣れませんが、この際仕方ありません。それと、名前を呼ぶように仕向けている風に見えるかもしれませんが気の所為です。

 決して、今の彼に名前を呼んでもらいたいなどという下心はありません。ええ、そんなもの微塵もありませんとも。

 

 

れお「お.........」

 

 

マック「お?」

 

 

れお「おねえちゃんじゃ.........ダメ?」テレテレ

 

 

全員「な、ぁ.........」

 

 

 な、なんという破壊力を持っているのですかこの子は.........こんな子が成長したら.........って、それが今のトレーナーさんなのでした.........本当、一体何がどうなったらあんな朴念仁に.........

 

 

タキオン「お姉ちゃんでは、ここに居る皆の区別がつかないだろう?」

 

 

れお「.........マックイーンおねえちゃん?」

 

 

マック「はうわ!!?」

 

 

 ウルウルとした瞳で上目遣いをしながら、この子は私を、[マックイーンお姉ちゃん]と呼びました。その瞬間、今まで感じた事の無いような幸福感と、安心感で心が埋め尽くされます。

 気が付けば、私はこの子を抱きしめていました。

 

 

マック「今、ようやく分かりました.........」

 

 

マック「これが、母性なのですね.........ふふふ♪」

 

 

全員「えぇ.........」

 

 

れお「?」テレテレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「これが.........おっちゃん.........!!?」

 

 

マック「[おっちゃん]ではありません!![れおちゃん]です!!ね〜♪」

 

 

れお「?ね〜」

 

 

マック「はぅ.........♡」

 

 

 何やってんだこの親バカウマ娘.........自分で促してダメージ受けてんのかよ.........鋼の意思はどうしたんだ一体、ぶっ倒れるレベルで必死に習得したんじゃねーのかよ.........

 アタシは頬杖を着きながら、マックイーンの膝の上にいる幼い子供を見た。最初はどっからこんな女の子連れてきたんだよ。誘拐か?なんて思ったけど、蓋を開けてみればタキオンの禁薬を飲んだおっちゃんだった。頭がどうにかなりそうだった。

 

 

沖野「それにしても.........これが本当にあの桜木かぁ〜?」

 

 

テイオー「だよね〜。サブトレーナーって言えばさ、逆立った髪と、ちょ〜っと目に力入れたらヤンキーに見えちゃうくらい強面なのに.........」

 

 

マック「誰がな〜んと言おうと、れおちゃんはれおちゃんですもの。ね〜?」

 

 

れお「ね〜」

 

 

マック「ひぅ.........♡」

 

 

全員(この親バカウマ娘.........)

 

 

 目の前に居る親バカに頭を抱えては居るけど、アタシ達はこの行動は直ぐに正解だと思った。あのおっちゃんが、こんなだったなんて、誰もわかんねーだろ?これなら、ライスも説得出来ると思ったんだ。

 

 

ゴルシ「知ってたか?白銀」

 

 

白銀「いや?俺会った時は小5だし、そん時はもうスーパーサイヤ人だったし」

 

 

神威「俺も仲良くなったのは小6だかんな〜」

 

 

黒津木「俺も知らなかったわ。会った時はもう変な奴だったし」

 

 

 とまぁ、こんな具合に皆知らなかった訳だ。おっちゃんの思惑は晴れて成功って事になる。

 スピカのチームルームでそんなおっちゃんを取り囲んで、皆がほっぺやら手やらを触りまくる。おっちゃんも恥ずかしそうだ。

 

 

ゴルシ「つーかよー?どう説明したんだよこの状況。記憶ねーんだろ?」

 

 

タキオン「本人からの意向でそのまま説明したら、鵜呑みにしたよ。理解力と言うか、受け入れ力はこの頃からあったらしい」

 

 

スズカ「嘘でしょ.........」プニプニ

 

 

 おっちゃんのほっぺをムニムニこねながら、スズカはいつも通りショックを受けてた。けど絵面がシュールだぞ。せめてその手を離したらどうなんだ。

 

 

ウオッカ「まぁでもよー。男だったら車とか好きだろ?寮からなんか持ってくっかなー」

 

 

ダスカ「良いわねそれ!!丁度新しいインテリア置きたかったからアンタのおもちゃ全部あげちゃいなさい!!」

 

 

ウオッカ「はぁ!!?やれるわけねーだわろ!!!」

 

 

 そして予定調和のように始まるスカーレットとウオッカの喧嘩.........アタシ達はそれを見て、ため息をつこうと思った。

 けれど、それをする前に、先に行動した奴が居たんだ。

 

 

れお「.........」ムスッ

 

 

二人「な、なんだよ(なによ).........?」

 

 

れお「けんかはダメよ!!!」

 

 

 二人の間に割って入って、泣きそうな顔でそういう小さい頃のおっちゃん。その姿を見て、流石にいたたまれなくなったのか、二人はお互いに謝って離れた。

 正直、びっくりした。おっちゃん自身、友達と喧嘩すんのが楽しいって感じてた節もあったし、小さい頃も同じかと思ってた。けど実際は、喧嘩のけの字も嫌いなくらいだった。

 

 

タキオン「.........ああ、さっきのウオッカくんの提案だが、苦労に終わると思うよ」

 

 

全員「え?」

 

 

タキオン「本人曰く、興味なんて存在しないって言っていい程の無頓着さだったらしいからね。それも、自分にすら興味が湧かないような、ね」

 

 

マック「.........トレーナーさん」

 

 

れお「?」

 

 

 とてとてと自分で歩いて、マックイーンの膝元まで戻ったおっちゃん。そんなおっちゃんを、皆悲しむような目で見ていた。

 物心を着いた頃なんて、覚えちゃ居ない。けどアタシは結構、ワガママとか言ってた筈だ。今に比べちゃ可愛い方だけど、それでも、言ってた方だ。

 [自分]が存在して居ない。だから、他人の存在をより強く肯定する。そうしなきゃ、誰も自分を見つけてくれない。おっちゃんが優しい理由が、何となく分かった気がする。

 

 

タキオン「.........まぁ、彼にとっても遠い記憶の話だからねぇ。違う部分もあると言いたいが.........」

 

 

れお「.........?」

 

 

タキオン「この、他人に簡単に懐いてしまう所を見てしまうと、全てを否定は出来ないかな」

 

 

 確かに、人懐っこい。けれど、それ以上に人見知りで、なんだかとても不安定に思えてくる。近付くけれど、自分の存在を認識したら、それだけで嬉しくなって.........

 もっとこう、抱っこして欲しいとか、遊んで欲しいとか、あるんじゃねーのか?おもちゃ買って欲しいとか、ご飯食べさせて欲しいとか、自分のして欲しい事は言わないで、人がニコニコしてればそれで.........

 

 

マック「.........もしかして」

 

 

全員「?」

 

 

マック「彼が役者を夢見ていたのも、そういう事なのかも知れませんわね.........」

 

 

全員「.........」

 

 

 [役者]。他人が存在して、ようやく成り立つ存在。自分一人だけでは成り立たず、役と自分だけでも成り立たない。見てくれる誰かが居て、初めて成り立つ存在。

 結局、どこまで考えてたのかは知んねーけど、おっちゃんは最初から今まで、人の事ばっかみたいだ。

 その時だった。皆がどこか悲しみに浸っている静かな時間に、いきなり轟音が鳴り響いた。地震とか天変地異を疑うレベルの大きさだったけど、不思議と周りの景色はいつもと変わらなかった。

 

 

スペ「.........えへへ、お腹が空いちゃいました.........」テレテレ

 

 

全員「.........はぁ」

 

 

 シリアスな空気が一瞬で和んじまった。まー、実際助かったんだけどよー。今考えた所で、この暗い気持ちを解決する方法なんて思いつかねーし。大人のおっちゃんは明るいから、べつに考えなくても良いだろ!

 

 

ゴルシ「うっし!カフェテリアでおっ.........じゃなかった。れおに美味いもん食わせてやるぞ!!!」

 

 

全員「おー!」

 

 

れお「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

れお「けぷ.........」

 

 

マック「沢山食べましたわね〜♪」

 

 

ゴルシ「いや、お茶碗一杯分しか食ってねーだろ.........」

 

 

 小さいこの子を抱っこして、背中をとんとんしておくびを促します。普段の彼から考えて食事量を調整しましたが、明らかに少なかったです。

 この頃はこんなに少食だったのですね.........この子があんなに大きく、そして立派に成長するだなんて.........

 

 

マック「ママは嬉しいです.........」グスン

 

 

ゴルシ「いつからママになったんだよ.........」

 

 

 先程から横でちゃちゃを入れてくるゴールドシップさんを一睨みします。全く、人が我が子の成長に一喜一憂しているというのに、そういうのは無粋だと思います。

 

 

マック「楽しかったですか?れおちゃん」

 

 

れお「うん!ごはんいっぱいでてきた!あんなにいっぱいなのはじめて!」

 

 

マック「.........そうですかそうですか」ヨシヨシ

 

 

れお「♪」

 

 

 無邪気に笑う彼の頭を撫でると、彼はくすぐったそうにその目を細め、顔をすりすりと私にしてきました。そんな彼に嬉しさと恥ずかしさと同時に、やはり不憫さを感じてしまいます。

 この頃の彼は、無口であまり喋りません。そんな彼がこんなに喋るほどに、あの料理量はすごく感じたのでしょう。

 実際は、カフェテリアのシェフに無理を言って、三歳児の通常の食事量に、大人の頃の彼の食事量を参考に調整した物でした。この子供の頃の彼が、どんなに貧乏だったのかが目に見えて、感じてしまいます。

 

 

ライス「.........」

 

 

マック「?.........ライスさん?」

 

 

ライス「あっ、ご、ごめんなさいマックイーンさん!ちょっと、考え事してて.........」

 

 

 彼を撫でる私を、じーっと見つめて居たライスさんに声を掛けました。彼女は慌てたように取り乱しましたが、言っているうちに、その表情に影を落としました。

 

 

ライス「.........ライス、お兄さまに酷い事言っちゃった」

 

 

ライス「皆の事、最初からすごいって決めつけて.........変わった事が無いなんて勝手なこと言って.........」

 

 

マック「.........本当、こんな小さくて、若干無口で、何に興味を持つのか分からないこの子が」

 

 

マック「あんなにハチャメチャで、子供の様な好奇心と、凛々しい大人らしさのある男性に変わるなんて、誰にも分かりません」ナデナデ

 

 

れお「?」

 

 

 彼の頭をまた、優しく撫でます。今度は、哀れみの感情ではなく、愛おしみの感情だけで、彼のまだ、発達しきっていない心に触れるような手つきで、そっと撫でます。

 

 

マック「.........貴女がどう変わるかも、きっと誰にも、貴女自身にもわからないです」

 

 

マック「だから、なりたい自分に、精一杯頑張りましょう?」

 

 

ライス「.........うん!」

 

 

 まだ少し、不安が残りますが、彼女は大きく頷いて 私の言葉を受け入れました。彼のこの姿が、大きく影響した結果だと思われます。

 そんないつもの日常と、子供の姿の彼というちょっと非日常が混ざったこの時間は、あっという間に過ぎていきました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「今日も疲れた〜.........」

 

 

ライス「お疲れ様!ウララちゃん!」

 

 

 いつも通りのトレーニング。今日はトレーナーさんがこのような状況なので、沖野トレーナーに見てもらっていましたが、特にトラブルも無く、何とか終える事が出来ました。

 

 

れお「.........ん」

 

 

マック「あら?私にくれるのですか?」

 

 

 彼が差し出してきたのは、水の入ったプラスチック製の水筒でした。無口で、普段より感情の起伏は見受けられませんが、その優しさに、いつもの彼を思い出してしまいます。

 

 

『お疲れ様、マックイーン』

 

 

マック(.........この姿も素敵で可愛らしいですけど、やっぱり大人の貴方の方が良いです)

 

 

 ずっとこの姿を享受し、悶えていた自分が何を言っているんだと私は私にツッコミを入れてしまいます。大人の彼が居ない寂しさを感じつつも、私はこの少年から水筒を受け取り、お礼を言いました。

 

 

ブルボン「.........そういえば、マスターはいつ元の姿に.........?」

 

 

タキオン「解除薬は人体遡行薬とは違い、飲み薬では効果を発揮しないからねぇ。恐らく、寝た所に注射を打つしか無いだろう」

 

 

デジ「.........でも見た所、寝そうな雰囲気はありませんよ?」

 

 

 皆さんがれおちゃんを取り囲みながら、そのような相談をしています。確かにデジタルさんのように眠そうでは.........と言うより、朝の時より何故か動きが活発なように感じられます。

 私は嫌な予感がし、思わず彼に問いました。

 

 

マック「れ、れおちゃん?いつも何時に寝てますか?」

 

 

れお「.........?10じ?」

 

 

マック「え」

 

 

タキオン「.........これは、チームルームで寝かせて薬を打つ作戦は使えないねぇ」

 

 

 一体どうしたら.........そんな事を考えていると、皆さんの視線が私の方へと向きました。その目は真剣とも、おふざけとも取れない真顔でしたが、不意に皆さん、どこか示し合わせたように立ち上がりました。

 

 

マック「あ、あの.........?皆さん?」

 

 

タキオン「.........マックイーンくん、後は頼んだよ!!!」ダッ!!!

 

 

マック「え!!?あの、ちょっと!!?」

 

 

 突如、チームルームの外へと走り出す皆さん。タキオンさんは分かります。あの人はそう言うことする人ですから。

 でもまさか、デジタルさんやブルボンさん。果てにはライスさんとウララさんまで私に押し付けるとは思っても居ませんでした.........

 

 

れお「.........おねえちゃんたち、かえっちゃったの?」

 

 

マック「ええ.........どうやら、そのようです。はぁ」

 

 

れお「さみしいの.........?」ナデナデ

 

 

マック「.........ふふ、ありがとうございます。れおちゃん」

 

 

 最早、この子を寮へ連れて行くしかありません。どうにか寮長であるフジキセキさんに頭を下げて、彼の事を許してもらいましょう。

 そんな事を、彼に頭を撫でてもらいながら、考えておりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フジ「うーん.........そういう事なら、仕方ないね.........うん。君がしっかり面倒見るなら、今日だけ特別に良いよ」

 

 

マック「ありがとうございます.........」

 

 

 秋の寒さが強さを帯びる、帳の降りた夕暮れの寮前。何とか寮長であるフジキセキさんの了承を得て、本日限り彼の寮への立ち入りを許して貰えました。流石に、こんな幼い子を放っては置けないと感じたのでしょう。

 ホッと安堵のため息を吐いていると、目の前の彼女の視線は私から、私の抱える幼い彼へと移っており、ゆっくりと近付いてきました。

 

 

フジ「見ててねぇ?」

 

 

れお「?」

 

 

フジ「.........はいっ」ポンッ

 

 

れお「.........」

 

 

フジ「.........アハハ、ここまで無反応だと、流石にちょっと傷付くなぁ」

 

 

 彼女は得意であるマジックを、この子に見せました。何も無い手のひらを少しこねた後、そこからまるで生まれたように、綺麗な花が姿を見せました。

 けれど、彼はうんともすんとも言う事は無く、それをただ無表情で見ていただけでした。

 

 

れお「.........すごいね?」

 

 

マック「.........そうですわね。ありがとうは言いましたか?」

 

 

れお「!.........ありがとう!」

 

 

フジ「ふふ、そういう真っ直ぐな所は変わらないんだね。どういたしまして」

 

 

 彼女が出した花を受け取り、この子はそのお礼を言いました。その姿を見届けて居ると、学園のチャイムが響いて来ます。時間を見ると、そろそろ門限です。

 

 

フジ「さぁ、そろそろ良い子は帰る時間だよ。悪〜い狼さんに食べられちゃうから、お布団に入ろうね」

 

 

れお「!ま、マックイーンおねえちゃん!はやくねよ!」グイッ

 

 

マック「怖いのが苦手なのも、変わらないのですね.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりとした時間が黙々と過ぎ去って行く布団の中、抱いているこの子の呼吸が、時折くすぐったさを感じて、睡眠に入ろうとするのを邪魔してきます。

 

 

れお「.........おねえちゃん」

 

 

マック「.........?はい?」

 

 

 唐突に呼ばれ、何かあったのかと思い、彼の顔を見ました。薄暗い上に布団の中でしたから、良くは見えませんでしたが、少なくとも、嫌な表情はしていませんでした。

 

 

れお「おとなのぼくって、どんなの.........?」

 

 

 それは純粋な疑問でした。不安も期待も無い、ただ降って湧いた様な疑問が、この子から私にぶつけられます。

 その疑問に対して、私は、彼との思い出を振り返りました。

 

 

マック「.........そうね」

 

 

 目を瞑ってみると、そこに居るのは大人の彼でした。いつもいつも、大人とは思えない軽率さと、無責任にも感じる滅茶苦茶さ。そして、誰彼構わず巻き込む彼の行動。決して良い所では無いはずなのに、それを最初に思い出して、そしてそれを.........素敵に感じて。

 

 

マック「.........今の貴方より、お喋りで、顔に現れて、皆が手を離せば、すぐどこかに行ってしまうような行動力のある人」

 

 

マック「それなのに、真っ直ぐで、心の内は読めなくて、どこかに行っても、きっと帰ってきてくれると思わせるような人かしら.........」

 

 

 真剣に考えて、言葉を選んで、気が付けば、心の中でも使うよう心掛けていた言葉遣いも忘れて、この子にそれを言ってしまいました。

 けれど彼は私の回答で満足したのか、私の顔を見るのを止め、その顔をもう一度私の身体へと埋めました。

 

 

れお「.........楽しかった」

 

 

マック「.........ふふ、そうですか」

 

 

れお「うん.........お姉ちゃん達も、お兄ちゃん達も好き」

 

 

 その言葉を聞いて、思わず笑ってしまいました。だって、普段の彼なら私達には言うと思いますが、あの方達には絶対口が裂けても言う事なんてありませんもの。

 

 

れお「でもね.........?」

 

 

マック「.........?」

 

 

れお「マックイーンお姉ちゃんが.........一番好き///」

 

 

マック「.........そうですか」モソモソ

 

 

れお「.........?どこ行くの?」

 

 

マック「ちょっと御手洗に.........すぐ戻ってきますから」

 

 

 ベッドから出て、その足で立つ事が出来ました。彼の頭を撫でて、少々おぼつかない足取りで部屋から退出します。

 

 

 扉を閉め、その扉に背を預けて何とか体勢を保とうとします。何とか身体の状態を平常にしようと努力します。それでも.........

 

 

マック「うぅぅぅ.........///」ヘニャヘニャ

 

 

 もう足に力が入りません。身体はいつもの体温から急激に熱を上げます。私ははしたなくその廊下に、へにゃりと座り込んでしまいました。

 

 

マック(子供の姿とはいえこの威力.........)

 

 

マック(彼の方から告白されたいとは言え.........大人の姿で言われたらどうなっちゃうの.........?)

 

 

 頭のてっぺんから蒸気が登っていく感覚を確かに感じながら、私は両手を頬に添えました。うぅ.........絶対、人に見せちゃ行けない顔をしている気がします.........

 今日はもう、寝れる気がしません.........そう思いながら、私は少し時間を置いて、部屋へと戻りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........んぁ?」

 

 

 ふとした瞬間に、意識が覚醒する。久々に起きたような感覚だ。鳥のさえずりと朝日が、俺の身体に気持ちの良い朝だと言うことを伝えてくる。

 ゆっくりと起き上がって見ると、かけられたタオルケットの下からおはようしているのは自分の肌。しかも全身分。何が何だかよく分からない。

 

 

桜木「.........チームルームか、ここ」

 

 

 部屋の状況を察するに、ここはチームルームだと結論づいた。しかし、未だに何故自分は裸で、こんな所で寝ていたのか検討も付かない。

 不意に感じた眠気に欠伸の予感がし、促されるようにそれに流される。その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マックイーンお姉ちゃんが.........一番好き///』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「」

 

 

桜木「う、うわぁぁぁぁああぁぁあああっっっ!!!!!?????」

 

 

「トレーナー君!!?何が(ガチャ)「開けるな!!!俺はまだ裸だ!!!」失礼した!!!(パッ)」

 

 

 突如蘇る記憶。幸い、開けようとしてきたアグネスタキオンの行動を止める事は出来た。よくやったぞ桜木。

 それにしても何ともまぁ都合の良くない薬だ。ガキの頃の感性のまま口に出した言葉が、大人になった翌日にも覚えてるだなんて.........ハイパークソ喰らえだクソ。

 

 

桜木(.........いや、今は最新の黒歴史なんかどうでもいい)

 

 

 ため息を吐きたくても吐けない。それはとある事実が、それをする程の体力を奪っているという事だ。俺はもうどうしようもなくて、片手で頭を抱えた。

 

 

桜木(あん頃の俺の感じからして、三歳児だ。色恋覚えてた感覚は当時なかった筈だ.........だからはっきり言えちまう.........)

 

 

桜木(初恋が.........塗り変わっちまった)

 

 

 それが何時の頃で、相手は誰だったのかは覚えては居ない。だがそれでも他人に自分の存在を認識し、それで自分を肯定していた上で、他人に興味を抱かなかったという矛盾を抱えていたあの当時に、そんなものは無かった。

 だが、今、それが、できてしまった。あの薬のせいで、感性も記憶も身体も何もかもあの頃に戻った上で、俺は.........

 

 

桜木「.........これが、恋」

 

 

 久方ぶりに呟いたそのセリフに乗せたのは、呆れにも似た諦めだった。もう、これはどうしようも無い。最近そのつもりになっていたものがより強くそうなりたいとなっただけだ.........

 俺は億劫になりながらも、まずは寝ていたソファーの傍にあった着替えに目を付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........なんか、迷惑掛けたな」

 

 

タキオン「いやいや、存外楽しめたよ。そうだろう?マックイーンくん?」

 

 

マック「.........?」ポワポワ

 

 

 ホームルームが始まる前の時間帯。俺は何とかチームメンバーくらいには謝罪をしようとみんなを集めた。

 だが、マックイーンはどう見ても寝不足だ。もしかしたら、昨日俺が言った事が効いているのかもしれない.........申し訳ない。

 

 

桜木「その、昨日言った事は気にしなくていいからな?マックイーン」

 

 

マック「はあ.........れおちゃんがそう言うのなら.........あっ」

 

 

桜木「〜〜〜!!?」グニッ

 

 

 悶えちぎれそうになりながらも、俺は二の腕をつねって何とか耐え忍ぶ。マックイーンはどうやら、頭が働いていない状況らしい.........

 

 

ウララ「トレーナー!!とっても可愛かったー!!」

 

 

ライス「う、うん!!ちっちゃい頃のお兄さまって、あんな感じだったんだね!!」

 

 

ブルボン「あんな小さい子が、今のマスターに.........ステータス、[感傷]を確認」

 

 

桜木「勘弁してくれ.........」

 

 

 あの頃の俺が可愛いと言われるのはまだ良い.........ああ、それはまだ良いさ。俺が写真で見ても可愛いなって思える位には別の存在だ。

 でも、可愛らしさで言えば頂点なこんな子達に、あの小さい頃の俺に向けていた目で今の俺にそれを言ってくるのは、耐えられない物がある。

 そんな俺を静かに笑いを噛み殺しているのが一人居る。お前だタキオン。今回は自業自得ではあるがその反応は酷いぞ。

 

 

デジ「お疲れ様ですね。トレーナーさん。デジたんは労わってあげます」

 

 

桜木「ありがとうデジタル.........」

 

 

 そんな俺を哀れんでくれているのはデジタルだけだ。その心遣いに思わず涙まで出てきてしまう程にだ.........

 はぁっとため息を吐き、気持ちを切り替えてから、少し早いが今日のトレーニングの予定を伝えようと顔を上げる。目の前にはチームメンバーの皆が揃って居るが、その中で一人、この季節にそぐわない仕草をする者が一人居た。

 

 

桜木「.........マックイーン?暑いのか?」

 

 

マック「ええ.........何だか急に体温が.........」

 

 

タキオン「.........ん?マックイーンくん、君ここに来る前に何か飲んだかい?」

 

 

 手をパタパタと自分の顔に扇ぐマックイーンの口元を見て、タキオンはそう指摘した。確かに、若干口元が濡れている様な気がする。

 

 

マック「ええ.........ここに来る直前、ゴールドシップさんに眠気覚ましに飲み物を渡されて.........」

 

 

桜木「ゴールド.........」

 

 

タキオン「シップ.........」

 

 

 嫌な予感がする。その名前の存在が、俺の身に起こった昨日の状況を踏まえて、何をしでかすのかという可能性に汗が止まらない。

 いやいや、流石にあのゴールドシップでもそこまではしないだろう。いくらなんでもこの隣にいるマッドサイエンティスト炊飯器マスターあだ名は目が濁ってるが禁止にしてる薬を、そんな了承も得てない人間に.........

 

 

デジ「.........あの、因みにどこでそれを調達したとか.........?」

 

 

マック「.........?ああ、金庫がどうとか.........」

 

 

桜木「ゴールド.........!!!」ビキビキ

 

 

タキオン「シップ.........!!!」ギリギリ

 

 

 間違いない。あの薬だ。金庫に入ってるなんて言ったらもうそれしか無い。折角土から悩みの種を掘り起こしたと思ったら、隣でバカ深い穴にバカでかい悩みの種を埋めていきやがった。

 

 

マック「ふわぁ.........何だか眠くなってきました.........」

 

 

桜木「.........幸い、ホームルームまで時間あるから、ちょっと寝てても良いよ」

 

 

タキオン「それが.........最善だね」

 

 

マック「.........?では、お言葉に甘えさせて頂きますわね.........」

 

 

 そう言いながら、彼女は先程まで俺が寝ていた場所に寝そべった。ウララ達はそんな彼女に枕替わりのクッションと、掛け布団替わりのタオルケットを渡している中で、俺とタキオンはチームルームの外へ出た。

 

 

タキオン「.........私は、幼児化した時に着る洋服を取ってくるよ.........」

 

 

桜木「俺、マックイーンの担任に諸事情説明して休みにするわ.........」

 

 

 お互いため息を吐きながら、タキオンは着替えを取りに寮へ、俺は電話をかけるべく一旦学園の外へと向かう。

 一体、幼い頃の彼女はどのような感じなのだろう。以前聞いた話では、今のようなお嬢様をしようとしている感じではなく、普通の女の子として暮らしていたと言っていた。

 

 

桜木(.........なんか、ちょっと楽しみになってきたけど、マックイーンには悪いよな)

 

 

 少しニヤついてきた口元を片手で解し、何とか真面目を装いながら、俺は学園の校舎から出て、マックイーンの担任の先生に電話を掛けたのであった。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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