山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「マックイーンは今何歳かな〜?」まっくいーん「3さい!!!」

 

 

 

 

 

「.........?ふぇ?じいや.........?」

 

 

 目を覚ましたのは、黒い髪にチラホラと白い色が目立つウマ娘の少女。目元を擦りながら、大きなあくびを見せ、ゆっくりと上半身を起こす。

 

 

桜木「よ、よう.........」

 

 

「ひっ.........だれ......?だれなの?」

 

 

 俺の顔を見て、強い恐怖を抱く少女。無理もない。彼女からしてみれば、いつも寝ている筈の家から、今は記憶にないチームルームで目を覚まし、目の前には知らない俺と、ある程度大人のウマ娘達が居る。

 目に見えて怯え、後ろに後ずさる姿を見るのは結構心に来るものだ。それが、苦楽を共にした彼女であるならば、尚更だろう。

 さて、なんと伝えようか.........俺は後ろの子達を見て答えを仰ごうとするものの、皆それぞれ困った表情でそこに居た。普通は、こんな状況を受け入れる訳ない。俺がおかしいだけだ。

 

 

桜木「あー、その。俺は「じいやあああ!!!(ウワァーン!)」「お嬢様!!!(ドガァ!!!)」うちのドアが!!?」

 

 

「グスッ......じいやあああ!!!」

 

 

爺や「お嬢様ご無事ですか!!!お怪我は......あり.........ません...............か」

 

 

 説明しよう。まず、うちのチームルームの入口である扉が爆発した。破壊じゃない、爆発だ。そこを間違われたら困る。そして煙の中から颯爽と爺やさんが現れた。どっから現れたとか言わない。メジロ家従者はニンジャ。それは以前ハッキリと体験している。

 そしてその爺やさんはと言うと、想定していた彼女が抱きついて来た腕の位置と、実際のその場所の誤差を感じ、それを視認し、現実を疑い始めている。俺は額に音を立てて手を当てた。

 

 

桜木「さよならタキオン」

 

 

タキオン「ちょ!!!ちょっと待ちたまえ!!!なんで私がさよならなんだ!!!さよならは君だこの問題児トレーナー!!!」

 

 

桜木「うるせェ!!!マックイーンがあんなになっちまってんだ!!!お前はこれから警察に突き出されて実験室隈無く捜査されて薬見つかって晴れて薬事法違反で逮捕だ!!!ついでに宗也もだ!!!」

 

 

黒津木「呼んだ!!?」

 

 

二人「呼んでない!!!捕まりたくなかったら帰れ(帰りたまえ)!!!」

 

 

 まるで獣のような唸り声を上げ、ドアがあったはずの場所から横に顔を出す奴に警告する。すると奴は静かに顔を出した方からスライドして消えていった。

 

 

爺や「こ、これは一体.........?」

 

 

桜木「.........タキオン、せめて説明はお前がしてくれ.........予測不可の事態だったとはいえ、アレはお前の所有物を飲んだ結果だ」

 

 

タキオン「分かっているよ.........ゴールドシップくんには頭痛薬の領収書を後で切る事にする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっく「はなして〜!!!」

 

 

桜木(くぅ〜!!?なんだこの子は.........!!!マジでマックイーンなのか!!?本当にそこら辺に居る駄々っ子な女の子じゃないか!!!)

 

 

 爺やさんに状況を説明した後、彼は事実を何とか自分に納得させ、その時のマックイーンを何とか泣き止ませた。そして物の見事にどこかの映画の設定を用い、マックイーンは未来に来てしまったと説明したのだ。流石メジロ家。説得もどこかぶっ飛んでいる。

 

 

桜木「子供とは言え流石ウマ娘.........!!!縄で縛って連れてってもまさかここまで苦戦を.........うおぉ.........!!!」

 

 

まっく「わたしはとれーなーさんにあいたいのおおお!!!」

 

 

 未来の世界、彼女はその世界でトレセン学園に入ったと爺やさんに聞かされた。という事は、自分にはトレーナーが居ると気付くのは時間の問題だった。

 ではなぜ、俺がそのトレーナーだと進言しないのか?それについては理由がある。それは、爺やさんが言っていたとある事だ。

 

 

爺や『くれぐれも、マックイーンお嬢様にご自身がトレーナーであると伝えないで下され』

 

 

桜木『え?なんでですか?』

 

 

爺や『この頃のお嬢様は.........非常に、その手の事に、手がかかりまして.........』

 

 

 苦笑いと汗混じりの表情が強烈に印象に残っている。あの人があんな顔をするんだ。相当に違いない。

 

 

まっく「どこにいくのおおお!!!」

 

 

桜木「今トレセンに居るメジロ家の皆のところだよぉぉぉぅぅうわっ!!?」ドシンッ

 

 

 突然抵抗する事を止めたマックイーンのせいで、尻もちを着いた。中々大きな音がなった気がする。痛みで顔を顰めていると、心配そうに顔を覗き込んできた。

 

 

まっく「だ、だいじょうぶ.........?」

 

 

桜木「お、おう.........」

 

 

 流石はウマ娘。どんなに幼かろうがその美しさは変わらない。まるでお人形さんみたいだ。しかも庶民には手が出せないくらいのやつ。

 って、いかんいかん。相手がいくらいつか告白しようとしている相手で、しかも先日初恋を塗り替えられた相手だとしても、今はまだ子供、そんなのに恋愛感情なんざ抱いたら本当に犯罪者だ。それに確実に俺の妹より年下.........ん?

 

 

桜木(ちょっと待てよ、普段のマックイーンから既に俺の妹より年下では.........?)

 

 

まっく「?あたまいたいの?」

 

 

桜木(鬱だ。死のう)

 

 

 父さん、あおちゃん。姉ちゃん。そして最近会っていない妹よ。どうやら俺は気付かぬ間に妹より年下の女の子に恋しちまうような気持ちの悪い男になっていたらしいです.........

 そんな事を思いながら、俺はしばらく、幼いマックイーンに見られながら身体を縮こまらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっく「ふわぁぁぁ.........!!!」

 

 

 キラキラとした目で、目の前にいるウマ娘達を見るマックイーン。その目を向けられている者達は、その視線に汗を流したり、苦笑いを浮かべたり、キョトンとしていたり、びっくりしていたり、嬉しそうにしていたり.........まぁ、色々だ。

 

 

ドーベル「ちょっと.........これマックイーン?」アセアセ

 

 

ライアン「うわぁ.........あの頃のマックイーンそのものだね.........」タハハ

 

 

ブライト「マックイーン様.........?少し見ない間に随分お姿が.........」キョトン

 

 

アルダン「も、もしかして、バックトゥザナンチャラーという事でしょうか.........?」オドオド

 

 

パーマー「うわぁ〜!あの頃のマックイーンだぁぁ〜!!」ギュ〜

 

 

まっく「ぱ、パーマ〜.........苦しい〜」

 

 

 目の前の状況に、最近疲れ気味だった疲労と現実を見る目が癒される。やはり、可愛いものは全てを救うと言うのは過言では無い。

 マックイーンを抱きしめながら、その頬に強く頬擦りをするパーマー。どうやら相当、この頃のマックイーンが大好きだったようだ。

 

 

桜木「あー.........取り込み中悪いんだけど、今日一日マックイーンの子守り的なアレを頼める?」

 

 

全員「え」

 

 

桜木「.........え?」

 

 

 それを聞いた瞬間、皆の顔から血の気が引いた気がした。なんだ、なんだなんだ。皆この頃のマックイーンに何かしらトラウマでも抱いているのか?さっきまで嬉しそうに抱きしめてたパーマーも遠慮気味にマックイーンを降ろしたぞ.........

 

 

ライアン「す、すみません。今日はトレーニングが.........」アセアセ

 

 

ドーベル「アタシも」アセアセ

 

 

ブライト「わたくしもですわ〜」アセアセ

 

 

アルダン「私も少し、トレーニングが.........」アセアセ

 

 

パーマー「右に同じくってやつです」ダラダラ

 

 

桜木「マジかよ.........」

 

 

 俺はそのまま視線を、未だにその目をキラキラさせて彼女達を見るマックイーンの方へと向ける。無尽蔵の体力を持つウマ娘達がこぞって御遠慮するこの状況.........一体この頃のマックイーンはどういう子なんだ.........?

 

 

まっく「みんなきれいになってる.........!!!わたしもきれいになってるよね!!!」

 

 

桜木「そ、それはもちろん!!!」

 

 

まっく「みんなみたいにおむねもおっきくなって!!!おおきくなってる?!!」

 

 

桜木「ああ!!!(大嘘)」

 

 

 やばい、つい勢い余って肯定してしまった。普通のマックイーンは別にその、胸は慎ましやかだし、身長も.........ドーベルとブライトより若干は高いが、平均だ。少なくともライアンよりかは無い。

 だがこうしてみるとおかしい。実におかしい。なぜ彼女だけ.........その、一部分が他の子と違い、発達していないのだろう?いや、俺はどちらかと言えばスレンダーな子が好きではあるが.........

 

 

まっく「あっ!そうだ!みんなわたしのとれーなーさんのことしってる!!?」

 

 

桜木「.........あー。実はなマック―――んむ!!?」

 

 

 もうこの際どうなってもいい。彼女が大人しくしてくれるのならバラしてしまっても問題は無い。そう思っていたが、不意に口元を無理やり押さえられ、発言を途中で止められる。

 誰がやったのだろうと見てみれば、ライアンが酷く焦った状況で俺の発言を止めていた。

 

 

まっく「?らいあん?」

 

 

ライアン「あ、アハハ.........そ、そうだマックイーン!!未来のこと、アルダンさんとブライトから聞いてみなよ!!」

 

 

まっく「!そ、そうしてみる!!」トテトテ

 

 

 そう息を巻きながら、彼女は二人の手を引いて、椅子へと座った。その様子を見て、今この場にいるメジロ家のウマ娘達は全員、ホッと一息ついた。そして、そのまま俺を一睨みする。

 

 

ドーベル「ちょっと!今のマックイーンにアンタがトレーナーなんて言ったら大変な事になるわよ!!」

 

 

桜木「いぃ!!?た、大変な事って.........?」

 

 

ライアン「そ、それは.........た、大変な事は大変な事ですよ!!!///」

 

 

 顔を酷く紅潮させ、捲し立てるようにそう言い切るライアン。それだけでは何が起こるか分からないが、まぁとにかく大変な事になるというのは分かった。だが、それでも納得出来ていない俺を見たのか、パーマーはヒソヒソと耳打ちをしてくる。

 

 

パーマー「ああ見えてマックイーン、嫉妬深いって言うか、独占欲強いからさ.........」

 

 

桜木「ああ〜.........そういえば天皇賞前にライアンが来たら、怒ってチームルーム出てっちゃったなぁ.........」

 

 

 懐かしい思い出が蘇る。あの時のマックイーンは確かに、この時の子供のような雰囲気を感じ取れた。やっぱり、この子はマックイーンで、本人なりに努力して成長した姿が今のマックイーンだと察せられる。

 

 

桜木(やっぱり、頑張り屋さんなんだな.........)

 

 

ブライト「マックイーンさんのトレーナーさんは〜」

 

 

ライアン「ブライト!!?」ガシッ!

 

 

アルダン「貴方のトレーナーさんですけど、実は」

 

 

パーマー「アルダン!!?」ガバッ!

 

 

まっく「ええ〜!!?いいところだったのに〜!!!」プクー

 

 

 知らぬ間に俺がトレーナーであると暴露しようとしていた二人を見て、呆気に取られる。何をやっているんだと思っていたが、その時の二人の表情はどこか必死に笑顔を作っているようで、なんかそれも許せてしまうくらい可哀想だった。

 

 

ブライト「も、もう無理です〜!マックイーン様のお話は大好きなのですが〜、この頃のマックイーン様の想像はお砂糖が口から溢れ出てしまいます〜!!」

 

 

アルダン「ごめんなさいみんな.........もう、無理なの.........うぅ」サトウダバー

 

 

桜木「口から砂糖が!!?」

 

 

ドーベル「早くマックイーンを連れてここから出て!!!幼い頃ならよく分かんなくて耐えられてたけど今の大人になったアタシ達には耐えられないの!!!」

 

 

 ものすごい剣幕で俺に迫ってくるドーベル。男性恐怖症だとマックイーンから聞いていたが、そんな事すら忘れさせる程に接近し、そう言葉を強く発する。

 目の前で砂糖を吐く(物理)アルダンの姿を見て、この子のただならぬ想像力というよく分からない力に恐怖を抱きつつも、俺は急いで、メジロ家のウマ娘達を救う為にこの場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「へー、これがマックイーンの小さい頃かぁ.........」

 

 

まっく「は、はじめまして!メジロマックイーンです!」

 

 

 ピシッと背筋を伸ばし、頑張って敬語を使うマックイーン。その姿を見て、この場に居る大人達は微笑ましい表情を浮かべる。

 メジロ家を招集した教室から離脱した俺は、とにかく人の目の届く場所へと思い、ベテラントレーナーの職員室へと足を運んだ。

 

 

まっく「わ、わたしのとれーなーさんはいますか!!!」

 

 

沖野「ん?何言ってんだ?マックイーンのトレーナーならそこに.........」

 

 

桜木「.........?居ないじゃないっすか」

 

 

沖野「.........お前」

 

 

 呆れたような表情で俺を見る沖野さん。だって仕方ないじゃないか。俺は砂糖を吐きたくない。あのおしとやかでこの学園で本物のお嬢様と言えばアルダンとまで言われる程お嬢様力のある彼女が俺の前で砂糖を吐いた。その事実が俺の演技力を取り戻したのだ。

 そんな俺のただならぬ反応に察したのだろう。沖野さんはため息を付いて、嘘をついてくれた。

 

 

沖野「今マックイーンのトレーナーは.........そのぉ、そう!海外!!今のマックイーンと一緒に海外に行ってる!!!」

 

 

まっく「ほんとう!!?」

 

 

沖野「ああ!!!栄えある凱旋門賞を取りにフランスに行っててな!!!レースは終わったんだが.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

沖野「.........今は、ハネムーン旅行中だ」

 

 

 なんてこと言ってんだこの人は。そんな無茶苦茶な話、子供じゃなかったら信じてないぞ。もっとマシな嘘は付けなかったのか?

 だいたいなんだハネムーンって、今のマックイーンは普通に学生だし、なんなら中等部だ。止めてくれ沖野さん。その話は今の俺に効く。

 

 

沖野「.........ああもう!!!大体だなぁ桜木!!!お前はトレーナーなんだから!!!そこら辺の説明くらいしてやれ!!!」

 

 

まっく「え!!?とれーなーさんなの!!?」

 

 

桜木「君俺の事今まで何の人だと思ってたの!!?」

 

 

まっく「た、たびげいにんさん.........?」

 

 

桜木「た、旅芸人.........」

 

 

 ショックだ。まさか学園の職員ですらないと俺は思われていたのか.........周りから吹き出したような笑い声や、静かな笑い声が聞こえてくる中、窓の外から一際デカい笑い声が聞こえてきた。

 

 

白銀「どっひゃ〜〜〜www旅芸人さんだってよ〜www」

 

 

黒津木「いつの時代だよwwwお前にはお似合いだなぁ玲皇ォ!!!www」

 

 

神威「」(笑いすぎて失神)

 

 

ゴルシ「だ〜っはっはー!!!www良い身分になったなぁおっちゃん!!!www」

 

 

 コイツら.........人が黙ってりゃ好き放題笑いやがって.........!!!調子に乗りやがってよォ!!!

 俺は怒りを静かに滲ませながら、ゆっくりと窓の方へと近付き、笑いすぎて涙をうかべた三人。笑いすぎて地べたとキスしてる一人に向かって声を上げた。

 

 

桜木「なんだァ!!!!!マックイーンちゃんからの主観的な俺の評価がそんなにおかしいか!!!!!」

 

 

白銀「まぁまぁそう怒んなよ.........旅......w芸人......wさんwww」

 

 

ゴルシ「あぁぁぁぁwwwww」

 

 

黒津木「ドwwwラwwwクwwwエwww9wwwかwwwよwww」

 

 

神威「」(返事が無い。ただのしかばねのようだ)

 

 

 マジでぶっ殺してやろうかなコイツら.........特にゴールドシップ。お前今度という今度は容赦しねぇぞ.........今まで何度も親近感と言うか変な感じがして許してやってたが、今度という今度は許さん.........!!!

 

 

桜木「.........マックイーンちゃ〜ん?」

 

 

まっく「な、なぁに.........?」

 

 

桜木「このお姉ちゃんが、マックイーンちゃんのお話をた〜っくさん聞きたいんですって〜」

 

 

ゴルシ「お?おう!!!アタシで良ければ幾らでも聞いてやるぜ!!!」

 

 

桜木「へへへ.........砂糖を吐いて苦しめゴールドシップ」ダキッ

 

 

ゴルシ「.........?」ダキッ

 

 

 了承したゴールドシップに天誅が下る姿を思い浮かべながら、俺はマックイーンを抱き上げ、窓からゴールドシップに手渡した。以前感じたいい匂いのシャンプーと共に、子供特有のふわりとした柔らかい匂いが鼻をくすぐる。

 

 

桜木「.........んでぇ?お前らはどうする?死ぬか?消えるか?土下座してから火山から叩き落とされるか?」ボキボキ

 

 

白銀「旅芸人にそんな力あっかよwww」

 

 

黒津木「ファーーーーwwwwwww」

 

 

神威「」(若者に未来を託し息絶える)

 

 

桜木「ドォォォラグォンインストォォォ―――ルッッ!!!」レディオー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっく「いっぱいおはなしできてたのしかった〜!!!」

 

 

桜木「そうかそうか〜、俺も久々に格ゲーごっこ(学園の壁使ってDループ)して楽しかった〜」

 

 

 あの後、ゴールドシップは目論見通り、というより目論見を通り越して全身砂糖に埋もれた存在へと成り代わっていた。ウマ娘は甘味が好きで、角砂糖をおやつ代わりにしている子も居る。しばらく学園は安泰だろう。

 そしてあのバカ共はDループでSLASH!!した。黒津木と白銀はDESTROYされ、神威は寝ていたので丁寧に捕まえて壁端に位置変えし、バーストしそうだったのでそれを読んでからコンボを決めてやった。気分はさながらウメハラだ。

 

 

まっく「つぎはどこいくの?」

 

 

桜木「ああー、ビデオルームとかどう?結構前のレースとかならあるし、暇潰しには持ってこいだと思うよ?」

 

 

まっく「まえの.........おばあさまのレースもある!!?」

 

 

桜木「そりゃもちろん。ビデオがある時代に現役してたら、ここの学生じゃなくてもあるからね」

 

 

 俺の言葉を聞いて、ウキウキしながらマックイーンはその足取りを軽やかにしていく。こうしてみると、この時からメジロのおばあちゃんの事が大好きだったのが分かる。

 そんな彼女に微笑ましい視線を送っていると、階段の踊り場で電話をしているニコロを見つけた。

 

 

ニコロ「だから.........俺は今トレーナーであって、ヒットマンでもなければお前達の犬でも無いんだ。小遣い稼ぎになる?ふざけるな。ちょっとの小遣いと、俺の命と隠した経歴を天秤にかけられるかっ!!!」ピッ!

 

 

桜木(うわぁ、誘ってやろうと思ったけど、今ピリビリしてっし、やめとくかぁ.........)

 

 

 声を掛けようと思ったが、もう既にめんどくさい事に巻き込まれてそうな奴を見て、それは止めた。こっちも相当面倒だからだ。

 

 

まっく「.........かっこいい」

 

 

桜木「だろ〜?外国の人は日本人と違ってスタイリッシュだからな〜」

 

 

まっく「わたしのとれーなーさんもきっとあんなひとなんだ〜!!!」

 

 

桜木「.........たはは」

 

 

 もし、彼女が俺の正体を知ったらどう思うだろうか?そんな事が脳裏に過ぎった瞬間、しつこい汚れのようにそこにへばりつく。何がどうなったって、戻れば変わらない関係が続くのに、どうしても不安になってしまう。

 俺がニコロの様にミステリアスで、白銀の様に身体能力抜群で、黒津木の様に天才で、神威の様に頭脳明晰で.........なんて、自分に無いものを指で数え、口を結ぶ。そんなことをしても、無いものは無い。どれか一つでも、俺は持ち合わせては居ない。

 

 

桜木(.........結局、俺は[誰かになりたがってた]から、こんな演技力を身につけちまったのかな)

 

 

 今の彼女を見ると、ありのままでいて、それが外側の形を変えても、芯は今のマックイーンのままだと感じる。

 対する俺はどうだ?他人に興味を持たず、それでいて自分を自分だけで肯定することは出来ないガキが、何とか取り繕って立っているだけだ。

 今のこの子の方が.........よっぽど大人らしい。

 

 

まっく「.........?どうしたの?」

 

 

桜木「.........いや、なんでもない。さぁ、ビデオルームに着いたぞ〜」

 

 

まっく「!!はやくみよ!!おにいさん!!」

 

 

 そう言って、子供とは思えない強い力でまた引っ張られる。そんな彼女に、どこか感謝を感じながら、俺達はそこに入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メジロアサマ先頭ッ!!他二人も懸命に追い上げるッ!!メジロアサマが更に抜け出すッ!!メジロアサマ優勝―――ッ!!!」

 

 

まっく「.........!」キラキラ

 

 

桜木(すげぇな.........ずっと先頭集団をキープしながら最後に抜け出すなんて.........)

 

 

 ビデオルームにて鑑賞しているのは一本のビデオ。DVDやブルーレイでは無いが、画質の荒さを超えるような熱気が、今ここに居ても伝わってくる。

 そして何より、あのメジロのおばあちゃんの姿が、今のマックイーンの様だった。レースを走る姿、その走り方や顔の険しさも、正に走る彼女と瓜二つであった。

 

 

「おめでとうございます!メジロアサマさん!!」

 

 

アサマ「ありがとうございます。これも偏に、皆様の声援と、私の我儘を支えてくださったトレーナーさんのお陰ですわ」

 

 

桜木(っ!!?マックイーン.........!!?)

 

 

 場面は移り変わり、先程のレースを終えてインタビューに受け答えるおばあちゃん。アサマさんの姿が大きく映し出された。それを見れば、最早マックイーンと見紛う程に、喋り方や所作までが、彼女であった。

 

 

アサマ「天皇賞は、我がメジロ家にとって特別な物です。勿論、この場で全力を尽くした彼女達も人並み以上の思いを込めて走っておりましたが、今回は私の思いが勝ちました」

 

 

まっく「おばあさま〜!!すてき〜!!」

 

 

桜木「俺もそう思うよ。こんな子が担当出来たらなぁ〜」

 

 

まっく「お、おにいさんはとてもいいひとだから、きっとできるよ!!」

 

 

 そう強く俺を肯定してくれる少女。とても可愛らしい彼女の頭を思わず撫でてしまった。彼女は恥ずかしそうにそれを受け入れてくれる。

 ふとおもむろに彼女は椅子の上で立ち上がり、俺の方を見た。

 

 

まっく「じ、じつはわたし!おばあさまみたいになれるようれんしゅうちゅうなの!!みててね!!」

 

 

まっく「すぅー.........はぁー.........わ、わたくし!!メジロマックイーンと申します!わよ?」

 

 

桜木「くふふ.........あはは!」

 

 

 最初は割と上手く出来ていたのに、最後でそれが崩れてしまった。緊張もしていたのか、声も若干震えていた。

 そんな彼女に思わず笑いが溢れてしまった。ムスッとほっぺをふくらませた彼女はぷいっとそっぽを向いてしまったので、慌てて頭を撫でてご機嫌をとる。

 

 

「なるほど!では坂間 雄一(さかま ゆういち)トレーナーにもお話を聞かせてもらいたいです!」

 

 

 ご機嫌取りに忙しい中、テレビのナレーターの人がそう言うと、今度はカメラの視点が、アサマさんの隣に居る少し背の高い。俺より高そうな男性に切り替わった。その姿に、俺とマックイーンは先程のやり取りを忘れ、釘付けになる。

 

 

坂間「そうですね.........彼女は、アサマは出会った当初から、この天皇賞を目標に日々のトレーニングを積み重ねてきました」

 

 

坂間「私から言える事は一つだけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[山あり谷ありウマ娘]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「え.........?」

 

 

 その言葉に、俺は耳を疑った。それは、受け売りでも何でもない、俺の口から出ていた言葉だったはずだからだ。それが、名前も顔も知らなかったアサマさんのトレーナーから出てきた。

 その瞬間、脳裏に過ぎるのは、今までの思い出だった。春を越え、夏を越え、秋も冬も越えて過ごしてきた、大切なチームとの.........マックイーンとの思い出が、一瞬にして過ぎ去って行った。

 

 

坂間「彼女だけではありません。私達のこれまでを支えてきたのは他でも無い、チーム[シリウス]の皆の協力と、ファンの声のお陰です」

 

 

まっく「はぁぁ.........おじいさまもすてき.........」ポワポワ

 

 

桜木「.........うん、かっこいいね」ナデナデ

 

 

まっく「♪」

 

 

 憧れの眼差しをテレビに向ける彼女に手を伸ばし、その頭を撫でる。くすぐったそうに目を細め、その撫でられる感触が気に入ったのか、俺の身体にスリスリと小さい身体を一生懸命擦り寄せる。

 ほっぺと顎先を指でくすぐってあげると、子供らしい笑い声を出して反応してくれる。本当、可愛らしい。

 

 

桜木(.........けれど)

 

 

 このマックイーンも、確かに可愛くて、素敵な女の子だ。なのに、そんな彼女を見て、寂しさを覚える自分が居る。やっぱり、ちょっと成長してる彼女が俺は好きなんだ。

 そう思っていると、流石に撫ですぎたのか、彼女は俺の手から離れるように少し離れた。先程とは違う寂しさが指先から滲み出てくる。

 

 

まっく「こ、こんどはこれみる〜!!」

 

 

桜木「.........?へぇぁ!!?ま、待って!!!それは―――」

 

 

まっく「ううぃ〜ん」ディスクノミコミ

 

 

桜木「ああ.........」

 

 

 彼女の照れ隠しの行動が、俺がひた隠しにしていた事実を白日の元に晒す物になる。そんなこと誰も分からないだろ.........常識的に考えて.........

 入れてしまったのなら最早仕方あるまい。今止めてしまえば逆に不審がられてしまう。もうこうなれば、野となれ山となれと言う奴だ。

 

 

「―――メジロマックイーンリードを1バ身!2バ身と広げていきます!!!」

 

 

まっく「え.........?」

 

 

 見てしまった。彼女の為に築き上げてきた嘘が、一気に崩壊してしまった。そう、彼女が想像していた大きいお胸も、身長も、本当は無いんだ。普通の子より、胸は特に、本当に無いレベルなんだ。

 .........でも、そんな彼女に、惹かれる人間は確かに存在する。そんな彼女の、才能が中心になっていない頑張り屋さんの内面に惹かれて、スカウトした人間が居る。それだけは、どうしても伝えたいと思った。

 けれど.........

 

 

まっく「......すっごく、かっこいい.........!」

 

 

桜木「!.........そうだね。この時代の君は、とってもかっこいいんだ.........」

 

 

桜木「それこそ、人々の視線を持って行っちゃうレベルくらいね」

 

 

 初めて、彼女と顔を合わせた時の事は今でも印象に残っている。最初はお互い、取り繕って着飾った、服と仮面を付けての対面。普通は、それを着崩したり、仮面を外すのはマナー違反だ。

 けれど、俺は彼女に何かを感じた。だから、本心を全て吐露してしまった。それが、彼女の仮面を少しずらした。それに気付いた俺も、仮面が少しずれていた。

 お互いまだ、素顔で話すのにはちょっと慣れてなくて、照れ臭いけれど、それでも仮面を付けて話すより、ずっと居心地が良い。

 

 

「メジロマックイーンさん!!悲願となる天皇賞の勝利!!おめでとうございます!!」

 

 

マック「ありがとうございます。この勝利は、現当主のお祖母様。そして、私のお母様が繋ぎ、そして、私が次に紡ぐ事の出来た勝利ですわ」

 

 

まっく「!!お、おばあさまみたい!!」

 

 

桜木「はは、練習の成果、出てよかったね」

 

 

まっく「うん!!」

 

 

 今までよりも、強い憧れの眼差しを、その画面へと向ける。未来の自分が、一番の憧れになると言うのは素晴らしい事だ。それは、なりたい自分になれていると言う証拠だからだ。

 そんな彼女に頬杖を付いて、見守っていた。キラキラしている宝石に魅入られている彼女に、俺は魅入られている。

 だから、気が付かなかった。

 

 

「では次に!!メジロマックイーンさんをここまで育て上げた桜木トレーナーさんにお話をお伺いしましょう!!!」

 

 

桜木「やば!!?」ガタッ!!!

 

 

桜木[.........どうも]

 

 

まっく「え.........!!?」

 

 

 俺の泣き腫らした顔が、テレビの画面で大アップになり、マックイーンは俺の顔とテレビを何度も見る。俺は思わず、その手で顔を押えてしまった。

 

 

「桜木トレーナーさん!!マックイーンさんがここまで強くなった秘訣はなんでしょう?!! 」

 

 

桜木[.........あの子が、頑張ったからです]

 

 

桜木[使命も、期待も、プレッシャーも、その一身に背負って、それでも尚減速することなく、今日まで走り続けてきた彼女の頑張りが、今日実を結んだ]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[これで、多くの人に[メジロ]の[マックイーン]は伊達ではないと証明できた筈です]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんともまぁ、よくもこんな青臭いセリフを素面で言える物だ。いや、今でもノリに乗ったらこんなふうにしれっとこういうセリフを吐くことは出来るのだが.........

 そんな自分の声に具合を悪くしながらも、現実を直視しようと俯いて手で防いでいた視線を少し上にズラした。

 

 

まっく「.........」

 

 

桜木「え.........」

 

 

 そこに居たのは、ただただ俺を放心状態で見ているマックイーンだった。テレビの画面など気にする様子はなく、ただ俺の顔を、姿を、じーっと見つめている少女がそこには居た。

 

 

桜木「あっ、えっと.........サプラ〜イズ.........的な?」

 

 

まっく「.........グスッ」

 

 

桜木「えっえっ」

 

 

 鼻をすする音と共に、その目には大粒の涙が溜められる。そしてその表情はくしゃ、くしゃ、と等間隔で崩され、遂には決壊してしまう。

 

 

まっく「.........うえぇぇぇええぇぇぇん!!!」

 

 

桜木「あああああ!!!ごめんね〜こんな冴えない男がトレーナーさんで〜!!!俺も出来ればもっと美男子に成長したかったんだけどね〜〜〜?なんか気付いたらちょっと強面のおじちゃんになっててごめんね〜〜〜!!!」

 

 

 そんなに声を上げて泣く程嫌だったとは、思いもしなかった。だけど、理想と違って それを受け入れるには、今のマックイーンは幼すぎる。

 抱っこをしながら身体ごと縦に振動し、どうにか泣き止ませようとするが、その涙な止まる気配を感じられない。

 

 

まっく「うっ、うっ.........ちがうの.........」グスッ

 

 

桜木「え?」

 

 

まっく「たびげいにんさんなんていって.........ごめんなさい.........しつれいなこといっぱいいって.........ごめんなさい.........!!!」ヒッグ

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 その言葉を聞いて、俺は焦るように揺らしていた自分の体を、今度はちゃんと落ち着かせるよう、抱いているこの子を思いやる様に、身体を揺らす。

 背中を優しくトントンとしてやると、次第に安心して行ったのか、彼女はゆっくりと嗚咽を潜ませて行った。

 

 

桜木「.........こんなのがトレーナーでごめんなぁ」

 

 

まっく「.........ううん、おにいさんがとれーなーさんでうれしい.........」

 

 

桜木「なんでぇ?あの外国のお兄さんの方がカッコイイし、他の兄ちゃん達の方が面白い人よ?」

 

 

まっく「だって.........[はくばのおうじさま]みたい.........」

 

 

 はく.........なに?王子様だって?そんな出自とは縁遠い一般家庭所か貧困家庭出身の男なのですが.........

 

 

桜木「は、[白バの王子様]って.........?」

 

 

まっく「しらないの?じゃあおしえてあげる!!」

 

 

 そうして、マックイーンは時折興奮気味に、そして、時折うっとりとした表情で語ってくれた。

 [白バの王子様]。それは、ウマ娘の家庭では聞かないという事は無いほど有名な御伽噺のようで、白毛のウマ娘と、それを愛する遠い昔の一国の王子様のお話だった。

 二人は平和な日常を楽しみ、将来は結婚を誓いあっていた。そんな最中、隣国から宣戦布告され、このままでは負けは確実だった。

 ある日、魔女と名乗るウマ娘が現れ、この国が勝つ方法が一つだけあると言った。それは、魔法で世界中のウマ娘を全て、獣に変えるという物だ。

 魔女は実際、白毛のウマ娘を獣の姿に変えた。それは四本足で、人より大きく、その背中に乗れる程の屈強な肉体を持つ獣であった。

 しかし、王子は選択した。そんな物は要らないと。争いも起こさないと。それを聞いた魔女は女神へと変身し、ウマ娘の姿を戻して、平和へと導いた.........そんなお話だった。

 

 

まっく「そのおうじさまは、らいおんさんのように髪がたっていたそうです!」

 

 

まっく「そのらいおんさんのこころにかんどうしためがみさまは、そのひとを[ししおうしんをもつもの].........?と、いいのこしていきました!めでたしめでたし!!」

 

 

桜木「.........[獅子王心(ライオンハート)を持つ者].........ねぇ」

 

 

 つくづく、その獅子とかいう動物には縁がある様に思える。このチーム名の[レグルス]という星があるのも、獅子座であり、しかも胸の位置だ。偶然とは思えん。

 そして俺の名前も玲皇(れお)。母親は外国でも通用するような名前と言っていたが、実際はジャングル大帝が好きだったらしい。漢字の方はとてもいい意味ではあるのだが。

 そしてこれまたアイツらと出会った時のあだ名がライオン。安直すぎる。これは偶然。はっきり分かる。

 

 

桜木「王子様っつったって、どこ見てそう思ったのよ?顔を見たら、悪役の方がお似合いよ〜?」

 

 

まっく「ちがうもん!!おにいさんはたしかにおかお、ちょっとこわいけど。やさしいひとだもん!!」

 

 

 精一杯俺の発言に対して否定を見せる少女。ポカポカと俺の胸に両手を叩き付けられ痛みを感じるが、それ以上に嬉しい気持ちになる。

 そう思って彼女の白混じりの髪を撫でる。

昔も変わらず、サラサラとしていて触り心地は良い。そんな彼女は、俺の顔をチラチラ見ながら、ソワソワモジモジとし始めた。

 

 

桜木「どうしたの?もしかしてトイレ?」

 

 

まっく「ち、ちがうもん!!う、うん。たぶんそうだよね.........?」

 

 

桜木「?」

 

 

 まるで自分に言い聞かせるようにひそひそと語気を弱めるが、俺の耳にはしっかりと届いている。

 しかし、それを指摘することは無い。彼女がどうするか見守り、それを見届けるのが保護者として、そして俺としての今の役割だ。

 そして、徐々に覚悟を決め、その顔を俺に向けた。

 

 

まっく「とれーなーさん!!!」

 

 

桜木「なあに?」

 

 

まっく「わ、わたしのとれーなーさんなら.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしのこいびとさんってこと!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........ん!!?」

 

 

 余りに予想だにしない言葉に思わず面を食らう。どうしたらそう飛躍的な発想になるんだ。

 どうにかこうにかこの子を傷付けないよう、それを否定する言葉を探している内に、段々とヒートアップを見せていく。

 

 

まっく「さいしょはがくえんのターフでこえをかけられて」

 

 

桜木「うん」

 

 

まっく「やさしくはしりかたとか、たおれたときにはおひめさまだっこではこんでくれて」

 

 

桜木「うん.........うん?」

 

 

まっく「おほしさまのしたでふたりでおうたうたったり!おやすみのひにおでーとしたり!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 キラキラと瞳を、今まで以上に一層に輝かせ、自分の想像を語るマックイーン。たしかに、これを聞いてたら砂糖が口から溢れ出すのも目に浮かぶ。

 だが、それは第三者だったらだ。俺は実際.........それやっちゃってる.........

 

 

まっく「おまつりとかすいぞくかんとか!!たーっくさんいくの!!」

 

 

桜木「.........一つ良いかい?マックイーン」

 

 

まっく「.........はっ!ご、ごめんなさい.........はしることがいちばんだいじなのに.........うかれちゃって.........」

 

 

桜木「それ全部やってる」

 

 

まっく「.........へ?」

 

 

 苦しい話だ。これが全て彼女の妄想の中だけの話なら良かった。だが、実際にそれは起こっているのだ。否定をすれば嘘をつく事になる。

 抱っこをしている彼女の身体が、腕を通してどんどん熱くなっていってるのがよく分かる。瞳のキラキラとした星は徐々に混乱を表すぐるぐるとした模様に変わっていき、顔は真っ赤っかになって行った。

 

 

まっく「.........ふしゅ〜〜〜」ポテ

 

 

桜木「え!!?マックイーン!!?ちょっとマックイーンさん!!?」

 

 

まっく「えへへ.........とれーなーさんとこいびとさん.........とれーなーさんのおよめさん.........♡」

 

 

 既に意識は昏睡状態。それでもその頭の中ではトレーナーさんである俺との妄想が未だに繰り広げられている。

 俺は溜息をゆっくり、静かに吐きながら、ビデオルームから出るようその扉を開ける。廊下の窓からは、夕焼けの日差しが差し込んでくる。

 

 

桜木(明日の事は.........考えたくねぇなぁ)

 

 

まっく「しゅき.........とれーなーさんしゅき〜.........」

 

 

 今のこの発言を、意識のない状態でしてくれて助かった。俺と同じ症状だったら、戻った時に記憶は残るからだ。流石に、この告白紛いの言葉をそのまま残すのは可哀想が過ぎる。

 俺は自然に緩んだ頬を実感し、寝込んだ彼女の頭を撫で、寮へと送り届けた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........?ん、んん〜.........!」

 

 

 意識の微睡みの中、何かをきっかけにした訳ではなく、唐突に自我が発生します。顔に当たる暖かさを頼りに、寝ている身体を上半身だけ起こし、伸びをしました。

 

 

マック「.........え?や、やだ!!!なんで裸なんですの.........!!?」

 

 

 スルスルと落ちて行った掛け布団の下から現れたのは、下着も付けていない自分の姿.........辺りを見回して状況を確認すると、ここはどうやら寮の部屋のようです。

 助かりはしましたが、いくら自分の部屋とも言えど、流石に生まれたままの姿と言うのは恥ずかしさを覚えます。私は急いで、着替えを取り出し、迅速に制服に着替えます。

 

 

マック「それにしても.........今日はいい天気ですわね.........」

 

 

 制服に袖を通し、朝日を全身で浴びる為に、カーテンをゆっくりと開けました。朝日の暖かな日差しとその眩しさが、私の意識をより一層、強く覚醒させます。

 

 

マック「.........ふふふ」

 

 

イクノ「んん.........?マックイーンさん.........おはようござい.........?」

 

 

マック「本当.........良い、天気.........」

 

 

 その日差しは、私の意識が眠っている間に起きた出来事を全て呼び起こしました。お陰で今日始まるであろう素敵な一日が、素敵では無いものに様変わりを遂げるのに、そう時間は掛かりませんでした。

 

 

イクノ「あの、マックイーンさん.........?今日はお休みですよ?こんな朝早くにどこへ.........?」

 

 

マック「.........ええ、少し用事を片付けに」

 

 

 ベッドから手を伸ばし、メガネを掛けるイクノディクタスさんにそう笑顔で告げました。ですが、流石に心の底から燃え上がる激しい感情までは押さえ込める事は出来ず、彼女に何かを察せさせてしまいました。

 私の気迫に押されたのか、彼女は即座にメガネを机の上に戻し、布団をもう一度その身に掛けました。まるで、今の私を見た事を忘れるように.........

 それに感謝をしつつ、私は寮の部屋の扉をゆっくりと開け、寮の廊下を全速力で駆け抜けて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「うわぁぁぁぁぁ!!!!!やめろおぉぉぉぉマックイーンくん!!!!!」

 

 

マック「離しなさい!!!こんな場所!!!残してはおけません!!!」

 

 

 学園の中にある一つの教室。それは、ウマ娘の可能性を求め、多くの薬品や実験記録があるとされる実験室。

 私がそれを爆破しようとしたところ、タキオンさんに見つかり、背後から羽交い締めを受けておりました。

 

 

マック「こんな.........!!!悲劇しか生み出さない場所を!!!私は到底許してはおけません!!!」

 

 

タキオン「気持ちは分かる!!!私もあんな事になるんだったらと後悔したよ!!!反省の気持ちもある!!!その私に免じてどうかそれだけは!!!」

 

 

マック「出来ますかァそんな事ォ!!!今すぐこの実験室にある全ての記録と薬をこの世から抹消します!!!」

 

 

タキオン「君最近行動どころか口調まで彼に似てきてないかい.........?うわぁ!!?」

 

 

 私はついさっきまで極限に力を込めていた身体の力を抜きました。その理由は、彼女の口から彼という言葉.........つまり、トレーナーさんの存在が示唆されたからです。

 そうです。この世には消すべき存在が三つあります。まず一つ目はこの実験室。そして二つ目はあの記憶の元凶である私自身。そして三つ目は.........それを他の方とは違い、真正面から受け止めた挙句、実際にしたと言った彼自身.........!!!

 

 

マック「もう耐えられません.........!!!こうなったら私が死んで!!!あの人も殺します!!!」

 

 

タキオン「物騒な事を言うんじゃない!!!第一その順番じゃどう頑張ってもトレーナーくんを殺せないだろう!!!」

 

 

マック「思いの力を見くびらないでくださいませ!!!今の私の思いならきっと届きます!!!」

 

 

タキオン「それはもっと別の場面で聞きたかったセリフだよ!!!」

 

 

 それでもなお、私を拘束するその手を緩めることは無い彼女。随分と印象が変わったものだと感じつつも、今はやるべき事があります。まずは目の前の部屋を爆破しなければ.........!!!

 

 

タキオン「良いかいマックイーンくん!!!昨日の事はあまり知っている人物は居ないし!!!アレは過去の者だ!!!今の君とは違うとしっかりと区別も着いている!!!そう早まるな!!!」

 

 

マック「貴方には分からないでしょう!!!あんな.........!!!自ら捨てた黒歴史のノートに無理やり自分の手で続きを書かせられるような感覚なんて.........!!!」

 

 

タキオン「トレーナーくんと共有すれば良いじゃないか!!!良かったねぇ話のネタが出来て!!!」

 

 

マック「ふーっ!!!ふーっ!!!」

 

 

タキオン「あぁぁぁぁ!!!ごめんよごめんってごめんなさい!!!別に煽った訳じゃないんだよぉぉぉぉ!!!」

 

 

 私は頂点に達した怒りの勢いで身体を音が出るようなレベルで振り、彼女の拘束を解こうとします。なんでか知りませんけど、彼女の口調が私をおちょくっているように感じられるのです。

 

 

タキオン「そ、そうだ!!!トレーナーくん!!!彼から話を聞こうじゃないか!!!」

 

 

マック「出来るわけないでしょう!!?今更どうやってあの人と会えって言うのよ!!!」

 

 

タキオン「マックイーンくん!!!口調口調!!!」

 

 

 感情の昂りが激しすぎて、つい思わずいつもの言葉遣いを忘れてしまいました。こ、ここはそろそろ一旦落ち着いた方が懸命かも知れません.........

 私は溜息を吐きながら、精神を落ち着かせていきます。その様子が分かったのか、タキオンさんもその拘束をようやく解きました。

 

 

マック「.........そうですわね。昨日のアレを聞いて、彼がどう思っているのかを聞く事が、結果はどうあれスッキリしますわ」

 

 

タキオン「決まりだねぇ。いやぁ、爆弾を持ったマックイーンくんが実験室の前で振りかぶっている姿を見た時は、生きた心地がしなかったよ。因みにそれはどこで?」

 

 

マック「?学園校舎の近くに砂糖の山があったので、そこに手を入れたら取れましたわ」

 

 

タキオン(そもそもなぜそれに手を入れようと思ったんだい?)

 

 

 私に向けられる疑問の視線が少々刺さってきますが、今はそれほど重要なことでは無いので無視します。今は、彼からの話を聞く事が重要です。実験室の爆破はその後でもゆっくり出来ます。

 そう思っていると、制服のポケットに入れていたウマホンが振動します。私がそれに気付き、取り出すと同時に、タキオンさんも同じような動作をします。どうやら、チームのグループにメッセージが送られてきた様です。

 

 

マック「.........今日のトレーニングは急遽休みにする、ですって?」

 

 

 それは、トレーナーさんから送られてきた一文。いつもの彼なら、もう一言二言、世間話や謝罪の文言が添えられて柔らかく感じられますが、これにそれはありません。

 同じメッセージを見たタキオンさんの方を見て見ますが、彼女は肩を竦め、首を振りました。どうやら、彼女も皆目見当もつかない様子です。

 

 

マック(.........ああなるほど、私から逃げようとしているのですね.........!!!)

 

 

 勝手に勘繰って、勝手に怒りを湧き上がらせて、普段の自分であれば自己中心的だと自身を蔑んでいた所ですが、昨日まで幼児の頃だったせいか、それを自制する気が湧いてきません。

 

 

マック「.........行きましょう、タキオンさん」

 

 

タキオン「へ?い、行くってどこにだい.........?」

 

 

マック「決まっているではありませんか.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人で逃げようとする彼の所に.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「なんだよ.........これッ!!!」

 

 

 中々強い衝撃音が、どこにでもある喫茶店に響き渡る。周りの人の事など気にせず、目の前に居る人の事を気にせず、俺は手に持った[出版前の雑誌]を、そのテーブルに叩き付けた。

 別に今更、俺の事をどう書かれようが知らない事だ。俺の熱愛報道だとか、汚職だとか、あることないことを書いて記者の人が食って行けるのなら、それでも良い。

 だが、その記事にはこう書かれていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [菊花賞、八百長レース疑惑]、と.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ......To be continued


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