山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

107 / 235
T「出版社襲撃するぞ!!」ゴルシ「ビ〇トたけしかよ!!」 前編

 

 

 

 

 

 賑わいを見せるトレセン学園から少し離れた都会の街中。そんな人々と喧騒に溢れた世界の中にあるとある喫茶店。そこは繁盛しているのかと言われればそうではなく、逆に閑古鳥が鳴いているのかと言われれば、別にそういう訳では無い喫茶店。

 

 

マック(.........どうやら、上手に変装できているようですわね)

 

 

タキオン(そうだね。私はともかく、マックイーンくんが声を掛けられなかったと言うのが大きい。この遠さなら、彼もきっと気付かないだろう)

 

 

「ご注文のシナモンティーとアップルパイです」

 

 

マック「あ、ありがとう.........♪」ニコ

 

 

「!で、ではごゆっくり.........」

 

 

タキオン「.........君、普段と違う態度を演じるのは良いけど、もう少し距離を遠ざけた方がいいよ」

 

 

マック「えっ」

 

 

 どこか慌てた様子でカウンターの方へと急いで戻って行ったウェイターさんの姿を見送り、目の前に居る彼女に視線を向けると、じとっとした目付きでそう言われました。

 そ、そんなに近しい距離感だったでしょうか.........?で、ですが、敬語にすると途端に私だとバレてしまう可能性だってありますし.........って

 

 

マック「い、今はそんな事より彼の事ですわ.........!誰か待っているのでしょうか.........?」

 

 

タキオン「そうだろうねぇ.........時計を先程から気にしているし、何度もスマホを確認しているのを見るに.........」

 

 

マック「.........ああ、何度も確認している筈なのに、時間通りに自分が来ているのか不安になっているのですね.........」ハァ

 

 

 そういう所がどうも抜けているというか、不安症というか、どうしてか気になるのが彼の悪い所です。

 .........まぁ、そういう所も含めて彼であるという事は分かっておりますので、今更私の中での彼の印象を左右する程のものではありません。

 他の人が聞いたら呆れて溜息が出てしまうような考えを思考していると、不意に喫茶店の来店を知らせるベルが鳴り響きました。そして、その方向を見ると、乙名史記者とその部下である男性、真壁総悟さん。そしてもう一人、今まで会った事が無いような.........

 いえ、思い出す事はできませんが、以前あったことのあるような男性。その三人が来店し、トレーナーさんの姿を見つけると、その席へと移動して行きました。

 

 

マック「どうやら、あの方達と会うためにここまで来たようですわね.........」

 

 

タキオン「そのようだねぇ.........帽子をとって聞き耳を立てよう。幸いこの距離なら、声を小さくされても集中さえすれば拾えるからね」

 

 

 彼女の提案に対し、私は小さく頷き、ウマ娘である事を隠すための帽子を外し、聞き耳を立てました。私達の正体がバレる可能性は跳ね上がりますが、喋り方さえ気をつければバレる事はないでしょう。

 そう思い、耳を澄ますと、まずは軽い世間話から。乙名史さんのインフルエンザの完治を労い、最近の調子は.........などと、当たり障りのない会話。

 しかし、それは一人の男性が、テーブルに頭を思い切り付ける事で、突然終わりを迎えました。

 

 

真壁「申し訳ありませんでした.........!!!」

 

 

桜木「え.........?」

 

 

真壁「ずっと.........謝りたかったんです.........!!!私は、ウマ娘という存在に助けられている一人の記者でありながら.........!!!ライスシャワーさんの勝利を.........!!!純粋に喜ぶ事が出来ませんでした.........!!!」

 

 

 その声は、最初は力強いものでした。しかし、次第に震えを帯びていき、鼻水を啜る音が聞こえてきます。正直、ここから聞いているだけでも、とても心苦しい物を感じられます。

 ですが、それでも彼は.........トレーナーさんは、その表情を険しくしました。今まで人に対して優しい姿しか見せなかった彼。謝れば、笑って許してくれると勝手に思ってしまう程、優しい彼が、黙って頭を下げる真壁記者に、鋭い視線を突き刺し続けました。

 

 

桜木「.........謝る相手、間違ってねぇか?」

 

 

真壁「っ.........!」

 

 

桜木「アンタ達大人が、俺達大人がした事は、決して子供に見せては行けない姿勢だった」

 

 

桜木「その姿勢を謝るのは同じ大人の俺じゃなくて、本来守るべきだった子供であるあの子達に.........ライスとブルボンにしてやるべきじゃねぇのかって聞いてんだ」

 

 

 その、氷のように冷たい、怒気を孕んだ静かな声が、前にいる三人を、そして、ここに居る私達の緊張を最大限にしていきます。

 普段のおふざけで怒る様に、叫び声をあげることはなく、淡々と事実と、正しさを突き付ける彼は正に、非情そのものでした。

 そんな彼が、その自ら作った緊張を解くように、ふぅっと息を吐ききりました。

 

 

桜木「.........でも、謝ってくれるんならそれでいいです」

 

 

真壁「え.........!!?」

 

 

桜木「大人になったら、素直に謝るなんて出来る人はそう居ませんし、俺は[謝った奴は許す]って決めてるんです」

 

 

 彼がようやく、優しい表情に戻り、そう言葉を発しました。真壁記者はその言葉に感謝と頭を下げ、その会話を終わらせます。

 一つの緊張を終え、ほっと一息をつかぬ間に、直ぐに彼はまた、真剣な表情にシフトし直しました。

 

 

桜木「.........今日は、そんな事を言いに来た訳じゃないでしょう?乙名史さん」

 

 

乙名史「はい。それについては彼の方から.........」

 

 

「お久しぶりです。と言っておきましょう。桜木トレーナー。私の事は覚えていないでしょうが―――「覚えていますよ」.........」

 

 

桜木「.........[『強引に内側に入れ』と言う、トレーナーの指示があったともされていますが?]」

 

 

マック「―――あっ」

 

 

 彼のその発言を聞き、ようやく思い出せました。今彼の目の前に居る男性は、私が秋の天皇賞にて斜行をしてしまった際、学園にまで取材しに来た記者の一人でした。

 

 

「.........光栄、とはまた違いますが、覚えていて頂きありがとうございます」スッ

 

 

桜木「.........信楽 京治(しがらき きょうじ)さん。合っていますか?」

 

 

 名刺を渡され、その名前に間違えが無いかを問うトレーナーさん。それを静かに肯定するように、男性記者。信楽さんは頷きました。

 

 

信楽「今日ここに来たのは、今度我が出版社から出される雑誌についてです」

 

 

桜木「?雑誌なら今度乙名史さんから.........」

 

 

信楽「彼女達とは、別会社ですから。記事の内容は違います」

 

 

乙名史「.........違う、程度で済めば良かったんですが」

 

 

 先程までトレーナーさんから感じていた怒り。今度は、乙名史記者から発せられる展開になりました。今度はその怒りに呑まれること無く、スムーズに信楽記者はビジネスバッグから、分厚い雑誌を取り出しました。

 

 

信楽「.........87ページを見てください」

 

 

桜木「.........!!!!!???」

 

 

 促されそのページを開いた彼。最初は、何の気なしに見ていた様子でしたが、直ぐに目を見開き、その部分を食い入るようにして覗き込みました。

 

 

マック「ここからでは全く分かりませんわ.........」

 

 

タキオン「安心したまえ、こういう時の為に、黒津木くんからハッキングのノウハウを教えて貰ったんだ」

 

 

 そう言って、彼女は普段は絶対に邪魔だからと言って持ってこないリュックサックの中からノートパソコンを取り出し、手早く操作を始めました。

 一体何をするのでしょう?その疑問が顔に浮かびつつ、彼女の様子を見守っていると、顎で視線を彼の方へ向けろと指示され、それに従いました。

 

 

マック「.........!!?か、彼のスマホのカメラが.........!!?」

 

 

タキオン「ライブモニターでこの画面から雑誌が見れるよ.........っ、これ、は.........」

 

 

マック「い、一体何が―――」

 

 

 その画面を覗き込んだ時、私の感情を生み出す器官が一旦、強制停止されました。その後、湧き出てきたのは[怒り]や[憎しみ]と言った憎悪のそれだけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ(なんですか).........これッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柄にも無く、私は声を荒らげてしまいました。彼に見つかると言った心配すらせず、ただ衝動のままに、思いのままに声を上げていました。

 幸い、彼の方が大きい声で、雑誌を叩き付けた衝撃音と立ち上がってくれた事で、注目はこちらへと向く事はありませんでしたが.........これは、早急に手を打つべきです。

 

 

マック「.........行きましょう、タキオンさん」

 

 

タキオン「行くってどこへだい?まさか出版社に突撃なんてバカげた真似は―――」

 

 

マック「それは彼に任せます。あの様子ではどうせ、いてもたってもいられないでしょうから」

 

 

マック「ただ、一人で行かせることは無いよう、手を打つだけです.........」

 

 

 メラメラと自分の中で燃えたぎる炎を、今は静かに小さくし、狼煙が見える程度に留めます。今はまだ.........その時ではありませんから.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社長、来週発売の雑誌の件なのですが」

 

 

「修正せんでいい。バカは群がり金を落とすだけだ」

 

 

 とある出版社の社長室は、煌びやかな装飾に、アンティークなデスクやテーブルと言った華やかさを彩る家財の数々。

 そのデスクに座る男の名は、八木 宗明(やぎ そうめい)。決して一般人では手が届かないようなスーツを着込み、一年掛けて飲む価値のある一杯のワインを水の様に飲み干す。

 

 

八木「見ろ。人というのは対面で見れば大きく見えるものだが、こうして、高台で見れば虫ほどの大きさだ.........」

 

 

「.........」

 

 

八木「.........君は、ウマ娘をなんだと思っている?」

 

 

「何、と申しますと?」

 

 

 その言葉を聞き、男は口元を歪めた。下卑たその笑顔は、もはや見なれているのか、秘書であろうその者は、もはや何も感じていないようだ。

 男は、大きく息を吐き、吸った。待ちに待った瞬間が今、訪れようとしている。それを表すかのように、そして、それを口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金の成る木だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八木「人々は夢を追う、守る、そして探す。潰えれば次へ、潰えれば次へとその手を伸ばす」

 

 

八木「そして、夢のためならば努力は惜しまない、そこに注ぎ込む金も同様だ」

 

 

八木「ウマ娘と言う木だけでは金は生まれん」

 

 

八木「人という虫が居てこそ、我らジャーナリストは儲かるのだ」

 

 

八木「美味しい夢という樹液を吸った虫の養分は.........まるで蜜のようだ.........」

 

 

 男のニヤつきは下卑を超え、醜悪を顕にし始める。そんな時、秘書の懐にある携帯に通知が入り、目配せをして男に対応を選択させる。

 男は何も言わずに、咳払いをした。それを肯定と受け取り、その電話に出る。

 

 

「.........はい、はい。え?」

 

 

八木「どうした?」

 

 

「それが.........ゴールドシップというウマ娘が動画の為に、インタビューをと.........」

 

 

八木「ほう.........通せ」

 

 

「は?」

 

 

八木「あの記事が出てしまえば、少なからず我社には逆風が吹く。今の内に、クリーンな姿を見せなければな.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 憤りを通り越した憎しみを抱きながら、俺は車を走らせる。あの後、昼前には乙名史さん達とは解散した。そして俺は一度家へと戻り、準備を整えていた。あのクソみてぇな出版社に乗り込んで、記事の修正を命令するつもりだ。

 そして今、俺はそこに向かって車を走らせている.........見知った奴らを何故か乗せて。

 

 

桜木「.........なんでテメェらもいんだよ」

 

 

黒津木「あ?別にいいだろ。俺らの勝手だ」

 

 

神威「そうそう。流石に俺も黙ってられねぇしさ」

 

 

白銀「.........」

 

 

 いつもとは違う、ひりついた空気がまとわりつくこの集まり。それは直感でもそうだし、コイツらの見た目もそうさせる。

 黒津木は昔、修学旅行の時に洞爺湖で買った木刀を手にしている。勿論、持ち手には洞爺湖と掘られている。それが掘られてるだけで高くなるから俺は掘られていないのを買った。

 神威は久々に、道着姿だ。高校の時に道場は辞めたらしいが、最近また自己流で鍛え直したらしい。筋力も相まって確実にあの頃よりも強くなっている。

 白銀は.........うん。いつも通りだ。深緑のタンクトップに灰色のスウェットパンツ。しまいにはビーチサンダルと来た。普段と代わり映えはしないその格好だが、この中で一番気が荒立っている。

 まぁ、そこまではいい。どこから聞き付けたかは知らないが、割と予想通りだ。予想出来なかったのは.........

 

 

ニコロ「あとどのくらいで着く」

 

 

ゴルシ「あー?ゴルシちゃんナビによりゃーあと二秒と六光年くらいってとこだなー」

 

 

桜木「.........実際距離と体感距離はそんくらい感じてるよ。こんちくしょう」

 

 

 苦虫を噛み潰しながら、俺は運転を何とか続ける。運転中で無ければ即刻退場させるところだったが、俺はゴールド免許だ。善良なる市民としての証を手放したくは無い。

 聞けばニコロはこの件とは別に、俺達が向かう出版社に用があるらしい。

 ゴールドシップは知らん。なんか急に目の前に現れてトランク開けてなんか詰められたと思ったら気付けば助手席に居た。何を言ってるのか分からねーと思うが、俺も何をされ(ry

 

 

桜木「.........っと、到着〜」

 

 

ゴルシ「おっ!!着いたのかおっちゃん!!」ガチャッ

 

 

桜木「は?」

 

 

 この殺気立った空間の中で一番最初に動いたのは、何故かいつも通りのゴールドシップだった。鼻歌を歌いながらトランクを開ける彼女を呆気に取られながら見ていると、彼女はコンコンと窓を叩いた。

 

 

桜木「なんだ?忘れもんか.........?」

 

 

ゴルシ「.........アタシが注意引き付けてっから、あと二、三周してから来い」

 

 

桜木「.........わーったよ」

 

 

 窓の縁側で彼女の輝かしい程の笑顔が隠れ、次にその姿を見た時は、ここに居る者達と同じ様に、熱が篭っていた。

 彼女の言う通り、その方が懸命かもしれない。ここで全員で行って強行突破するよりかは、彼女を陽動に、速やかに目的を果たした方が安全だと思ったからだ。

 

 

桜木「.........異議のある奴は?」

 

 

白銀「はい」

 

 

桜木「はい翔也」

 

 

白銀「俺も行きたい」

 

 

桜木「死んで、どうぞ」

 

 

白銀「お前が死ね。どうぞ」

 

 

 こうして異議のある奴は居なくなり、俺は窓を閉め、もう一度この車を走らせていくのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「いや〜悪いなーほんとっ!!丁度動画のネタを競りで落札出来なくってよー!!」

 

 

八木「ははは、構わんさ。それにしても、インタビューをこんな麗しいお嬢さんから受けるのは、私としても嬉しい限りだ」

 

 

 派手なスーツに身を包んだ腹の出てるジジイは、アタシの対面に座りながらご機嫌そうに声を弾ませる。

 アタシはここに来るまでに、部屋の構造を把握して、白銀の奴にメッセージを送った。変な事しかしねー奴だけど、頭はキレるから、きっといい作戦を思い付いてくれる筈だ。

 

 

ゴルシ(.........アタシはアタシで、やれる事をきっちりやっておかねーとな)

 

 

ゴルシ「実は前から気になっててよー!!記者の奴らって.........ヒマジン?」

 

 

八木「はっはっはっ!!まぁ、普通に過ごしてる君達や社会の人達にとっては暇人に違いない。なんせ、頑張れば仕事で海外にまで行けるんだからね」

 

 

ゴルシ「うわまじかよー!!すんげーじゃねーか!!アタシもジャーナリストになりてーぜ!!」

 

 

 ほんと、今自分のしてる事に嫌気がさしてくるレベルでコイツのご機嫌取りをすんのは最悪なんだけど、後からおっちゃん達に問い詰められて顔を青くする姿を考えると、それも苦じゃなかった。

 アタシは、おっちゃん達がここまで来るまで、コイツが逃げねーよう見張ってる。それが、今アタシがするべき最優先事項だ.........!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「さぁて.........そろそろ三週目なんだが、作戦を思いついた奴は?」

 

 

 俺はバックミラーで後ろの席の奴らを確認する。全員それぞれ、違う挙動と表情で、そんなものは無いと言う意志を伝えて来た。

 ついでに隣に座るニコロに視線を送るも、鼻で笑われて終わりだ。お前はちゃんと用意しとけよ。元ヒットマンだろ。

 

 

白銀「あ、悪ィ、窓開けろ」

 

 

桜木「開けて[ください]だろ?」

 

 

白銀「開けてください死にたくねぇならさっさとしろ殺すぞボケカスコラゴミ」

 

 

桜木「すいませんでした.........」ウィーン

 

 

 今まで聞いた事の無い量の暴言と殺意を当てられてすっかり借りて来た猫になる。そんな猫が車を運転してんだぞ。もっと労れよ.........

 仕方なく、窓を開けてやる。まぁ大方、タバコでも吹かしたいのだろう。そう思っていた俺は次の瞬間、度肝を抜かれた。

 

 

白銀「あらよっと」ガシッ

 

 

全員「はァ!!?」

 

 

 奴はなんと、ロックを掛けて開かないようにした取っ手に足を引っかけ、身体を車外へと乗り出させた。呆気に取られながらも、俺達はその様子を見守る。

 ガチャガチャと聞こえてくる音から察するに、恐らくトランクを開けているのだろう。これ、大丈夫?通報されない?俺のゴールド免許剥奪案件じゃない.........?

 しばらくすると、目当ての物を手に入れたのか、奴は身体を揺らした反動でこの車内へと戻ってきた。マジでバケモン。本当に同じ人間か?実はウマ娘でしたって言う方が納得出来る。

 

 

白銀「このままクソ邪魔くせぇ会社の正面まで行け」

 

 

桜木「.........あの、ひとつ聞いていいですか?」

 

 

白銀「なんだ特命係」

 

 

桜木「杉下右京じゃないよ.........その手に持ってるバズーカみたいなの、何.........?」

 

 

 奴がその手に持っている物を見て、この場に居る全員が戦慄する。コイツ、まさかやるのか?それ、俺のゴールド免許剥奪所か、刑務所行きの片道切符を公職の方から貰う羽目になる事をするんじゃないか.........?

 しかし、白銀の奴はその言葉を聞いて、嬉しそうにテンションを上げて語り始めた。

 

 

白銀「おう!!コイツは[ハイメガ・ジョン・バズーカ]だっ!!」

 

 

全員「なんだよそれ!!?」

 

 

白銀「テメェらと夏合宿行った時の花火を改良して作ったんだよ!!」

 

 

 あ、あ〜.........なるほど。つまりこれを囮に使って、注意を引くわけだ。まぁそれにしてもコイツもよく考えてくれてる。確かにそれをすれば前門に注意が向くわけで、裏口から「コイツをそこにぶっぱなす」.........ん?

 

 

白銀「聞こえなかったのか?コイツぶっぱなして再起不能してやるっつってんだよ」

 

 

神威「Wow.........(わぁ)」

 

 

ニコロ「He is crazy(コイツ頭オカシクナイ)!!?」

 

 

黒津木「Don't worry, He is Always this mode(心配すんな、いつもだ)」

 

 

桜木「We are die socially(皆社会的に死ぬ)」

 

 

 そんな騒ぎの中、俺達が向かうべき会社が見えてくる。俺は決断を迫られる。テロリストになるべきか、正義の味方を演じるか。

 いや、後者だろ。どう考えたって、常識的に考えて、爆破はマズイだろ。今まで割とギリギリの事して捕まらなかったんだから、今ここで捕まったら大変だ。

 俺はそう思い、ブレーキに足を掛けることなく、アクセル全開で通り抜けようとした。

 

 

白銀「それで良い」カチャ

 

 

桜木「は?」

 

 

 次の瞬間。法定速度を完全に無視して走り出した車から身を乗り出した白銀が、バズーカをぶっぱなしやがった。普通、当たる訳が無い。

 だが、俺達は知っている。俺達の中で、反射速度も、AIM精度も、キル率もコイツが一番高い。アホか、なんでそんなんでテニスしてんだ。

 法定速度を破ったお陰で、俺達はその会社の姿を見る事は無かった。無かった.........無かったが、明らかに壮絶な爆発音が耳に痛いほど響いてきた。俺が放心していると、シートの背中を思い切り蹴り付けられる。

 

 

白銀「裏に回れ」

 

 

桜木「え、マジで言ってる?」

 

 

白銀「分かった。次はフロントガラスに向けて撃つ」

 

 

桜木「やめろ!!!わかったよ!!!ふざけんなよ俺のブルーエンペラーを人質に取りやがってよォッッ!!!」

 

 

 俺は涙を堪えながら、しっかりと前を見ながら運転をし続ける。コイツは俺が社会人なりたての頃に買った戦友だ。出社も営業も、コイツと一緒だったから行けたのに.........こんな所でさよなら出来るもんか!!!

 俺は会社の裏口に回れるよう、最短距離を曲がって、曲がった。割とでかい会社のお陰で、前方の被害はこちらに来ておらず、社内の人が慌ただしく前の方に流れて行ってるのが分かる。

 

 

桜木「.........さっ、気を取り直して裏口を」

 

 

白銀「アクセル踏め」

 

 

桜木「W h y ( な ぜ )?」

 

 

白銀「可哀想にな、明日にはお嬢が犯罪者がトレーナーしてたって事に」

 

 

桜木「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」ブゥゥゥン!!!

 

 

 俺はもう気が気じゃなくなってた。傍から見れば俺の目には狂気のグルグル模様が浮かんで.........いや、刻まれていたことだろう。それほど、この状況に俺は呑まれていた。もう何をしても犯罪者なのに。

 俺はアクセルをベタ踏みした。教習所で教えて貰う前に既に「あっ、やったらやばいな」ってなって、自ら危険でやっては行けない行為をしている。

 

 

桜木「白銀さぁん!!!ブレーキはいつ踏みますか!!?」

 

 

白銀「俺が良いって言うまで」

 

 

桜木「いま良いって言いました!!?言いましたよね!!?踏みますね!!!」

 

 

白銀「あーフロントガラスにぶっぱ」

 

 

桜木「やってやろうじゃねェかこの野郎ォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 マックイーンを出汁に脅され、ブルーエンペラーを人質に取られた俺にもはや退路は無い。こうなったらコイツがブレーキの指示を出すまで踏むんだ。前を見ると怖いからもう目を瞑るんだ。合図があったら俺はブレーキを踏むだけでいいんだ。

 

 

白銀「.........良し」

 

 

桜木(キタ!!!踏むぞーーー!!!)

 

 

白銀「シートベルト外せ、コイツはシートも倒せ」

 

 

桜木「えぇぇぇぇぇ!!?」

 

 

 ブレーキを踏もうとした瞬間。俺の身体を預けていたシートの背もたれが倒され、見当違いの場所に足を叩きつけた。そしてもう壁にぶつかる直前。俺の首根っこを掴み、白銀は外へと脱出した。

 

 

 スローモーション。世界の動きは緩やかに、絶望へと向かって落ちて行く。俺の愛車が、無慈悲に、主の制止を最後まで待っていた蒼き皇帝は、衝突と共に真っ赤に燃え上がりを見せ始める。

 

 

桜木「.........あは、アハハ」

 

 

白銀「良し。踏んでいいぞ」

 

 

桜木「ああ.........そうだ、ブレーキ踏まなきゃ.........あれ?おかしいね.........ブレーキ、無いね.........アハハ」クイ、クイ

 

 

 目の前の光景を受け入れられない俺は、必死に左足の足首を曲げていた。白銀に首根っこを掴まれ、未だハンドルを持っているかのように手を上げ、宙ぶらりんになった二本の足の内一本が抵抗も無く、動く様は見ていて面白いに違いない。

 

 

黒津木「あちゃー。こりゃどう見てもおしゃかだなぁー」

 

 

神威「ご愁傷さま、玲皇」

 

 

ニコロ「だがこれで、入口は出来た。ここからが鬼門だぞ」

 

 

白銀「つうかよ、 俺達テメェも居る理由が検討つかねぇんだけど?」

 

 

 放心状態の俺を地面におろし、少しはストレスをリフレッシュできた白銀が疑問の目を向ける。確かに、コイツが居る理由を俺もまだ聞いてはいない。

 未だ覚束無い足で何とか立ち上がり、ニコロの方へ視線を向ける。全員から同じ物を向けられた奴は、諦めるように溜息を吐いた。

 

 

ニコロ「.........実はな、日本のある出版社が、裏組織に繋がってるという情報が出された」

 

 

白銀「情報源は?」

 

 

ニコロ「ICPOだ。信用は出来る」

 

 

 その言葉で、先日マックイーンが幼くなった時に聞いたコイツの通話を思い出す。そうか、アレはこの話だったのか.........

 それでも、まだ引っかかる事がある。それは、あの時渋っていたコイツが、急にこんな乗り気になったかだ。普段慎重なコイツが、俺達が乗り込むってだけで着いてくるとは思えない。

 

 

桜木「なんで来たんだよ。俺達に任せて、最後だけかっさらえば良いだろ」

 

 

ニコロ「.........」

 

 

神威「.........?」

 

 

 俺のその言葉を聞いて、奴は俺達に背を向けた。言いたく無いのだろうか?ならば、そこに踏み込まないのが大人のルールだ。そう思い、俺達はこの話を終わりにしようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てられなかったんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人「え.........?」

 

 

ニコロ「.........」

 

 

白銀「.........へっ」

 

 

 してやったり、と言うような表情で、ニコロの方を見る白銀。対するニコロは、また諦めの溜息を吐く。どうやら、白銀の指摘は図星だったらしい。

 

 

ニコロ「.........今ようやく、彼女が立ち直ろうとしている」

 

 

ニコロ「それを、薄汚い亡者共に、邪魔されて良い訳が無い」

 

 

桜木「っ.........!!!」

 

 

 奴の見せるその表情からは、力強さを感じた。あの日、デトロイトで会った時には感じられなかった、強い信念を、今のコイツからはしっかりと感じられる。

 俺は気付いたら、笑っていた。さっき見たいな、現実を見れなくなった笑いじゃない。 熱くて、熱くて、どうしようもない時に出てくる笑い。

 

 

桜木「.........どうする?」

 

 

神威「いや〜、これは歓迎するしかないよね〜」

 

 

黒津木「まぁ、後からあの子に言えば困惑するだろうけど、受け入れてくれるでしょ」

 

 

ニコロ「?、!!?、な、何の話だ.........!!?」

 

 

 突然、隣に立ち始める俺達に困惑を見せるニコロ。まぁ、無理も無い。さっきまで散々疑いの目を向けていたのに、今では全幅の信頼を寄せている。

 でも、仕方が無いだろう?俺も、コイツらも、皆同じ思いでここに来ている。今、頑張って苦難を乗り越えようとしているあの子の為に.........ライスの為に、ここに居る。

 訳が分からず、まだ不審な様子を見せるニコロの背中を、白銀が張り手をかまし、大きな音をたてた。

 

 

ニコロ「っ!!?」

 

 

白銀「認めてやるって言ったんだよ。お前も」

 

 

桜木「そうだ、俺が.........[俺達]がッッッ!!!!!」

 

 

 騒ぎを聞き付け、やってきたのだろう。警備に当たっていた制服の男達が、ゾロゾロと俺達の目の前に集まってくる。

 だが、そんなものはもうどうでも良い。俺達のこの思いをどうすることも出来やしない。

 次第に全員、表情から柔らかさを無くし、鋭い刃の様に目をギラつかせる。今この場に置いて必要な物は、肉体の強さじゃない。ましてや、権力でもない。今俺達に必要な物は、ただ一つ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「お兄さまだ.........ッッッ!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――立ち上がろうとする妹を見守る、お兄さまの心だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ......To be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。