山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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一週間投稿が1年連続の称号がpixivの方で確定したので、これからは出来次第投稿します


T「出版社襲撃するぞ!!」ゴルシ「ビ〇トたけしかよ!!」 中編

 

 

 

 

 

八木「な、なんだ!!?一体何が起こった!!?」

 

 

 少し離れた間隔で聞こえてきた二つの衝撃音に、アタシの目の前に居る男は立ち上がって狼狽えを見せ始めた。

 どうやら、おっちゃん達が暴れ始めたらしい。アタシの見立て通り、あの四人はやっぱ揃っちまうとこうなっちまうんだ。

 

 

八木「くっ、君はここに居なさい!今すぐ状況を―――」

 

 

ゴルシ「うおっとー!!そうは問屋とゴルシちゃんが卸さねーぜ!!」サッ!

 

 

 出口のバカデケー扉を開けようとした男の前に、仁王立ちで通せんぼする。アタシの役割は、コイツを逃げねーようにする事だ。

 最初は何がどうなってるか分かんねー様子のコイツに、流石のアタシもイライラが募ってきた。久々に、マジギレゴルシちゃんモードに勝手に移行しちまってる。

 

 

ゴルシ「.........テメェには、たっぷりと聞きてェことがあっからよぉ」ギリッ

 

 

八木「な.........」

 

 

ゴルシ「アンタなんだろ?今おっちゃん.........桜木玲皇を追い詰めてる奴は」

 

 

 アタシが静かに怒気を込めてそう言うと、目の前の男は合点が合ったらしく、一瞬驚いた様子を見せてから、今度は豪華なデスクの傍にある椅子に腰を下ろした。

 

 

八木「.........なるほど、まんまと嵌められたという訳だ」

 

 

ゴルシ「そういう事、言っとっけど、このカメラの前で聞かせてもらうぜ?なんでおっちゃんを執拗に悪く書きやがるのかをな」

 

 

 男はその言葉に大きく笑いながら、デスクの棚を開け、その中に手を入れた。ガサゴソと何かを探すように手を動かしながら、奴はそのアタシの問いに、簡潔に答えた。

 

 

八木「邪魔だからだよ」

 

 

ゴルシ「は.........?」

 

 

八木「あの男は、人々を[夢から覚めさせる]力を持っている上に、その夢を[現実に変えてしまう]力がある」

 

 

八木「そうなると.........金の回りが悪くなるんだよ」

 

 

ゴルシ「そんな理由で―――!!?」

 

 

 アタシが扉から男に向けて一歩目を踏んだ瞬間。耳に何かボタンを押すような音が聞こえて来た。

 何かが起こる。そう察して辺りを見回すと、部屋の天井の四つ角から何か銃身のような物が現れ、ガスを噴射させ始めた。

 もしやと思い、男の方をもう一度見ると、奴は用意周到にガスマスクを装着している。どうやらこの場合、嵌められたのはアタシの方みたいだった。

 

 

ゴルシ「.........へっ、ウマ娘に毒は効かねぇんだよ」

 

 

八木「勿論知っているとも。人ならばしばらく吸ってしまうと寝てしまう程度の物だが.........それでも、身体の変化は感じるだろう?」

 

 

ゴルシ「.........クソッタレめっ」

 

 

 どうやら、アタシの強がりは看破されちまってるみたいだ。目の前の男の表情が、ガスマスク越しでも分かるくらいにニヤついているのが雰囲気でも分かる。

 

 

ゴルシ「それでも、そこら辺のパンピー女子並の力は残ってるぜ.........?」

 

 

八木「そうなると、ここから出るのも一苦労だ。では君が弱るまで、インタビューを続けるとしよう」

 

 

八木「.........さぁ、何が聞きたい?何でも答えよう。カメラなど、君にガスを吸わせ終えた後でどうとでも出来る」

 

 

 さっきまでの慌てた感じと一転、奴は余裕な足取りでまた、部屋の中央に置かれた椅子に腰を掛けた。深々と、休むよう態度で背もたれに背を預ける。

 流石のゴルシちゃんも、絶体絶命ってやつ.........らしいぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「んでェ!!?俺達はどこ向かえや良いんだニコロッ!」

 

 

ニコロ「最上階の社長室だ!!俺達は騒動の張本人を取り押さえる!!!」

 

 

桜木「そうかいそうかい!!こらまた随分な大役を[俺]に任せたなァ!!!」

 

 

 熱い血潮の流れに身を任せ、建物の通路を力の限りに飛ばして走る俺達[二人]。そう、今この場に居るのは、俺とニコロだけだ。

 黒津木と神威は、ニコロの協力を仰がれ、それぞれデータ保管室、資料保管室に向かっている。

 では、後の一人。白銀はと言うと―――

 

 

ニコロ「.........おい」

 

 

桜木「あ?」

 

 

ニコロ「良かったのか?アイツ一人を残して。警備の格好はしていたが、雰囲気や佇まいを察するにアレは―――」

 

 

桜木「ああ、[前のお前]と同じ、とてもカタギには見えなかったよ」

 

 

 走りながらも、落ち着いて俺に問いかけるニコロ。確かに、普通であるならば最もな質問だ。白銀は今、俺の車が突っ込み、正規の警備会社の者とは思えない奴らがうようよ集まった場所に一人居る。

 

 

ニコロ「だったら「だからこそ」.........?」

 

 

桜木「今のアイツには[丁度良い]」

 

 

 今思い出しただけでも、寒気がしてくる。普段と同じように見えるのは、アイツがキレやすいと思ってる関係の浅い連中だけだ。

 だが実際は、自分がバカで、それを指さされて笑われるのを自ら狙う位の器を持っている。いつものブチ切れは、パフォーマンスに他ならない。

 けれど.........あの時のアイツは、後ろ姿からでも分かる。集まってきた連中が走り抜ける俺達に意識が向けられないのを見れば、それは俺の、俺達の中で明白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブチギレてる、今のアイツには。あれくらいが丁度良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀「.........」

 

 

「.........っ」

 

 

 玲皇の奴の車が燃え盛る背景をバックに、仁王立ちを決め込んでもう時間が経つ。だと言うのに、目の前の連中は竦んでんのか燻ってんのか知らねぇが、俺には向かって来ねぇ。

 

 

白銀「おい」

 

 

「!」

 

 

白銀「死にてぇ奴だけ前に出ろ」クイッ

 

 

 人差し指で挑発する。それでも、大半が、俺の前に来るどころか、後ずさりする始末だ。これでは、とてもでは無いが俺のストレスは発散できない。

 そう思っていたが、度胸のある奴が一人だけ。そう、一人だけ前に出てきた。

 

 

「.........白銀翔也。プロスポーツ選手が、一体何の用だ?」

 

 

白銀「うるせェ。俺が質問する時以外口を開くんじゃねェ」

 

 

「っ.........」

 

 

 それでも、俺が全神経を集中して視線をぶつけると、ソイツは怯み、それ以上口を開く事は無かった。拍子抜けだ。これならまだ、アイツらの方がこの状態でも軽口は言ってくる。

 

 

白銀「テメェ、この中で一番強ェのか?」

 

 

「.........ああ、この制服を来ている中では、一番だ」

 

 

白銀「じゃ、一番って呼ぶぜ.........ハハ」

 

 

一番「.........何がおかしい?」

 

 

白銀「いやァ?楽しみが出来たんだよ―――」

 

 

 地面を蹴った。傍から見れば、一瞬飛んでいるように見えるかもしれない。俺は目の前に立ちはだかった男との距離を一瞬で詰める様に、たったの一歩でそれを済ませた。

 目の前の男の表情に変わりはない。それでも、身体の硬直を見れば分かる。俺の動きに、理性も、感情も、思考も着いていけていない。今あるのは、本能的な理解だけだ。

 ―――だが、今はその時では無い。

 

 

白銀「―――ッッ!!!」

 

 

「あが.........ッ!!?」

 

 

一番「な.........!!!??」

 

 

 俺は、男の身体のスレスレで跳躍し、その身長を飛び越え、後ろに大量に居る内の一人の頭に、落下と体重と筋肉の動きが合わさった拳骨を叩きつけた。

 手を着くことすら出来ず、顔から床に激突し、鮮血を垂れ流しながらバウンドする様は、見ていて気持ちが良かった。

 

 

白銀「.........死にたくなくなったらいつでも教えてくれ」

 

 

白銀「そうしたら.........ぐちゃぐちゃにしてやっからよぉ」ニヘラ

 

 

一番「.........!」ゾワッ

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!??」

 

 

 身の危険を感じ始めた有象無象がようやく、俺に向かってやって来やがった。その遅さがまた、俺の神経を逆撫でしてきやがる。

 目の前に迫ってきた奴に膝蹴りを一発、横から来る奴には、膝蹴りして顔がこちらに来た奴の頭を掴み、顔面キッスをお見舞する。勿論、壁に叩き付けて、ぐったりするまで繰り返す。

 

 

「や、やめろぉぉぉ!!!」バチチ!

 

 

白銀「うおっと.........へぇ、スタンガンか.........」

 

 

「あ、あれ.........?」

 

 

 間抜けな声を出して、俺に無防備な状態を晒す。ソイツの持っているスタンガンの手首を掴んで、すんでの所で受け止める。

 

 

白銀「そういやよぉ、昔っからドラマとかゲームで見てて疑問に思ってた事があったんだよなぁ」バキッ!

 

 

「〇※□△‪×※〇!!!??」

 

 

 手首を掴みながら横に回り、手首を回して関節が上に曲がらないようにし、思い切り膝を上げる。文字にも表せない奇声を発する目の前の存在にイラついた俺は、奪ったスタンガンのスイッチを押しながら、こめかみに向かって思い切り振り抜いた。

 

 

白銀「あぁ、これ脆いのな。納得」

 

 

一番「い、イカレている.........殺すつもりか!!?」

 

 

白銀「あ?ああまぁ、俺運いいから、大丈夫っしょや」ケラケラ

 

 

 粉々になったスタンガンの破片を払いながら、俺はヘラヘラと有象無象に笑い掛けた。全員、完全に戦意を喪失し掛けている。

 そう。俺は運がいい。と言うより、世界が俺の味方みたいなものだ。俺に都合の悪いことはとことん起きないように出来ている。だからきっと、コイツらも再起不能になってるだけで生きてはいる筈だ。コイツらも人間だし、生きたい気持ちはあるだろう。頑張って生きろ。俺のためにも。

 

 

白銀「さぁて.........まずは手っ取り早く、座って一服する用の人山でも作るかァ」コキ

 

 

 首を回して、音を鳴らす。大抵の快楽と言うのは、初回の効果は絶大であり、回数や時間を掛けなくても満足できる筈なのだが、未だに俺のイライラは晴れはしない。

 まぁ、当たり前か。コイツらは俺を兄だという女子を痛めつけ、それで産まれる金で生活してんだ。言わば、俺の妹に唾付けたようなもんだ。

 

 

白銀「覚悟しろよ、テメェら.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺ァ今回が初のマジギレモードだからよぉ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒津木「さぁて、ちゃっちゃとデータを回収しましょうかねぇ.........」カチッ

 

 

 もぬけの殻になった事務所の、一番大きい机に乗っているデスクトップPCを起動させ、持参したUSBを差し込む。大抵こういうのは足で稼ぐ奴らの親玉がデータを持っている物だ。

 中身を見ている暇は無い。兎に角今は、全てのデータを回収する事に専念する。

 そんな中で、シンと静まり返った部屋の中に、微かではあるが空気の変動が起こる。俺は全神経を臨戦態勢モードに切り替え、そこから出口の方に姿を見せた。

 

 

「貴様!!何をしている!!」

 

 

黒津木(やっばぁい.........)

 

 

 見つかってしまった。一瞬アイツらかと思って甘えた行動を取ってしまった。そんな事あるわけないだろう。頭が良く働いて居ない証拠だ。

 逃げたい。今すぐここから逃げて、俺は無関係だと安全地帯に逃げ帰りたい。だが、そんな弱気を打ち消す様に、俺の中からふつふつと何かが湧き上がってくる。

 

 

「何をしているのかと聞いているんだッ!」

 

 

黒津木「っ、うるせェよカス.........邪魔すんじゃねェ」

 

 

「なにィ.........!!!」

 

 

 恐怖で冷え切った思考が、奴の一言で一気に熱くなった。俺が何しに来たかだって?そんなもの決まってる。俺の大切な一人の[推し]のためだ。ようやく立ち上がって、また綺麗な花を咲かせてくれる筈のあの子のためだ。

 

 

「まだ状況が分かっていないようだな.........貴様の目の前に居るのは、この会社の中でも四本指に入る程の力を持っている」

 

 

黒津木「四本指だァ?くだらねェ指遊びなんざしてねェでまともに働けやクズ。折角だからテメェの事は指遊びって呼ぶぜ」

 

 

指遊び「.........!!!」

 

 

 実力がどうだとか、腕っ節が強いだとか、そんな物は現代社会で何の役にも立たない。普通に働く上で必要なのは、相手を傷付けない思いやりと、誰かを喜ばせたいという気持ちだ。それで食って行きたいのなら格闘家にでもなれば良い。

 結局、そんな力に過信して、人を傷付けても問題は無いと思うバカは一定層居る。それがたまたま、ここに集まっているだけの話だ。

 

 

黒津木「片道二時間、週四回」

 

 

指遊び「.........?」

 

 

黒津木「俺がニューヨーク勤務時代に剣道場へ通ってた頻度だ」

 

 

 ベルト通しに通していた木刀を引き抜き、大きく息を吐く。精神を統一しながら、目の前に居る、これからぶちのめすべき相手をもう一度見る。

 するとどうだろう?先程まで昂っていた感情も、次第に萎えを見せていき、怯えに変わって行く。情けない話だ。怖がりで臆病な性分は、ここに来ても変わらないらしい。

 

 

黒津木(まだ.........一人で覚悟決めるには力不足か.........)スッ

 

 

 懐に手を伸ばし、内ポケットから写真を取り出す。元気が無い時、やる気が出ない時、顔が見れない場合はいつもこれに助けられた物だ。そして、今回も力を借りてしまっている。

 それは、彼女[も]写っている集合写真。チームレグルス全員が写っている集合写真だ。トレセン学園に来た時は、推しはただ一人だけだった.........でも気が付けば、あのチームの存在が、俺の心を支えてくれていた。

 皆、大切な存在だ。なんせ、俺の親友の仮面を、とっぱらっちまう位の子達だ。俺達が出来なかったことを、やってのけてくれた。

 今は、その力をこの写真越しに、少し分けて貰う。

 

 

黒津木「.........我は空、我は壁、我は木」

 

 

黒津木「我はこの一つの身にて全ての推しを愛し、悪を退ける.........!!!」

 

 

指遊び「何を.........言っている?」

 

 

 写真をもう一度懐に忍ばせ、木刀の切っ先を奴の方に向け、空いている手を持ち手の底に添える。

 覚悟は決めた。推しへの愛も込めた。だったら後は勝つだけだ。俺のQOL向上の為にも、推し達の心や道筋を踏みにじる悪は、今この場で潰す。

 

 

黒津木「エクストリーム剣道二段、黒津木宗也.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[推し]を推してから参る.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神威「あ〜クッソ!!!裏帳簿の一つや二つ出てこいよクソ会社!!!ほんっとこういう会社って管理だけは上手ェよなァ!!!」バサァ!

 

 

 普段ならば喜ぶであろう活字が眠る資料室。だが、埃と薄暗さによるダブルパンチで俺の環境適性能力の低い身体は若干悲鳴を上げつつある。

 この様子じゃあ、あまりこの部屋に出入りをしている者は居ないらしい。悪態をつき、机の上に広げた資料の数々を全て薙ぎ払い、裏帳簿を見つけようと棚に手を伸ばした時、不意に扉が開いた。

 

 

神威「.........へっ、どうやらいつもの不幸がようやく起こってくれたか.........逆に安心したぜ」

 

 

「そんな所で.........って言っても、何を探してるかなんて一目瞭然だけどね」

 

 

 妙に若い声が聞こえてきて、俺は警戒心をそのままに振り向いた。そこには、先程まで集まっていた警備の奴らより一回り若い男が立っていた。

 

 

「そう警戒しないでよ。俺は取引しに来たんだ」

 

 

神威「は.........?」

 

 

「アンタを見逃す。その代わり、仲間が何をしようとしているのか、今どこに居るのかを教えて欲しいんだ」

 

 

 余裕ぶった表情と声で、この場のパワーバランスは自然とコイツが優位になったことを俺は察する。

 癪に障る奴だ。俺はそう思い、その顔を睨みつけるものの、男は軽く笑ってテーブルに腰を掛けた。

 

 

「簡単だろ?アンタからは俺と同じ匂いを感じる」

 

 

神威「同じだって.........?」

 

 

「そう」

 

 

 どこかだ。俺は善良なる一般学校図書の司書だ。どこにでも居る人間なんだ。それを目の前の、目が据わっている奴と同じだなんて心外も甚だしい。

 

 

「自分は中心じゃない。だから、裏方に回ってそつなくのうのうと、惰性のまま生きていたい」

 

 

神威「.........」

 

 

「違う?」

 

 

 俺の心を見透かしたように、奴は脚を組み、俺を見下すように顎を上げる。分かりきったように、実際分かりきって、コイツは俺に取引を持ちかけている。

 確かに、俺は中心じゃない。良くてエキストラのような存在だ。居ても居なくても、対して変わりない。それはアイツらがいようがいまいが、関係の無い話だ。

 

 

「まぁ、それも仕方ないよねぇ。なあなあで済ませた方が楽だしさ。人生難しい事ばっかりだし」

 

 

神威「.........そうだな」

 

 

「でしょ?」

 

 

 コイツの言いたい事は、痛い程によく分かる。俺の親友達はそれぞれ、別方向に強い力を持っている。一人は身体能力、一人は才能、そしてもう一人は.........良くも悪くも、運命力。とでも言っておけば良いか。

 物語を動かすには十分な力だ。そんな力を持っている奴らが傍に居ると、力の無い人間は誰しも、その力に憧れるし、その力を妬むし、その力を.........恨む。

 そんな俺が、心を穏やかにしてアイツらの隣に居れるのは、[諦めた]からだ。力の無い自分には、物語を動かす事も、ましてや登場人物になる力量も無い。良くてせいぜい、そこら辺の通行人Aくらいの存在だ。

 主要人物じゃないからドラマなんて起こす必要は無い。あらゆる物事を疎かにしても、俺は俺を許せる。そう思って生きてきたんだ。

 そう。[トレセン学園に来るまで]は.........

 

 

「だからさ、受けてよ取引。俺はこう見えても期待のルーキーって言われてるし、痛いのも嫌でしょ?」

 

 

神威「なるほど.........悪くない考えだ」

 

 

「はは、交渉成立だね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は.........?」

 

 

 最初は俺が上げた疑問の声。今度は目の前のコイツが余裕の表情と声を崩して、もう一度この場に再生する。いい気味だ。どうやら本当に、俺がその取引に応じると思ったらしい。

 先程までのパワーバランスは今、完全に逆転した。俺は人の行動や心理を読むのが好きだし得意だが、読まれるのは嫌いだし苦手だ。

 だが、同じことをすれば、相手と同じレベルになってしまう。それだけは避けたい。だから俺は奴が懇切丁寧、[俺が同類]だとお話してくれたのを、今度は俺が[テメェとは別物]だと教授してやろう。

 

 

神威「兄貴ってのがなんで先に生まれてくるか知ってるか?」

 

 

「は?い、いや。それが取引を断る理由にならないでしょ?知らないよそんなの」

 

 

 目の前の男の発言を聞いて納得する。なるほど、一人っ子か。だったら自分のわがままが共感と同意だけで通ると思うもんだ。

 

 

神威「後から生まれてくる弟や妹を守るためだ」

 

 

 今も偶に読み返す漫画のセリフを目の前の若造にぶつける。それを聞いても尚、俺が取引を断った理由がどうやらピンとこないらしい。

 現代人は読解力が無い。まさかこんな状況でそんな事に憂う事になろうとは思っても見なかった。 俺はため息を吐き、道着の帯をキツく結び直した。

 

 

神威「つまりはよぉ、アイツらの個人的な弱み握られたのを怒ってここに来てんだったら、ルーキー君のそれに乗ってたと思うぜ俺も。バカバカしいしな」

 

 

神威「けど今回は.........俺達の可愛い妹が関わってんだ。申し訳ねェけど―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初っから交渉決裂してんだよ。バーカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まれッ!!!」

 

 

ニコロ「面倒な奴らだ!」バッ!

 

 

桜木「ホントに.........なァッ!!!」ズサァ!

 

 

 こちらに向かって走ってくる二人の警備服を来た男達。それを飛び越えるようにニコロは跳躍した。

 そして、それを視線を動かし、俺からマークを外したのを確認してその二人の間をスライディングで抜けながら両手を広げ、転ばせる。

 跳躍で着地したニコロに手を伸ばすと、その手を掴み上げ、スライディングの勢いを殺すことなくまた走りに移行することが出来た。

 

 

ニコロ「少しは疲れると思ったが、まだまだ元気そうだな」

 

 

桜木「はん、あの駄々っ子タキオンのトレーニングで毎日しごかれてんだ!テメェと会った時より体力は着いてるっての!」

 

 

 縦だけではなく、横にも広い建物の中、しかも間取りはよく分かってはいない。そんな中では階段一つ探し当てるのも一苦労するものだ。

 こういう大きい所ではエレベーターが備え付けられているのが常識ではあるが、それを使用するのは避けたいとニコロに言われた。俺もそれには同感だ。出待ちされる可能性がある。

 そして今は、ようやく階段を登り終え、後は社長を室を目指すだけとなっている。

 

 

「見つけたぞ!」

 

 

ニコロ「くっ!もう少しだと言うのに.........!」キキィ!

 

 

桜木「ひぇ〜。あんまし暴力沙汰は起こしたくねぇんだけどなぁ〜.........」

 

 

 目の前に現れた一人に、先を走るニコロが対応する。相手の攻撃を躱し、ストレート二発。とてもそんなものでは倒れないような身体付きをしている相手だが、やはり元ヒットマン。力の使い方は衰えておらず、男は倒れ伏した。

 

 

桜木「ヒュ〜♪やるねぇ!」

 

 

「この先には行かせん!!!」

 

 

桜木「あっ!!?やっべ!!!」キキィ!

 

 

 ニコロの方に視線を向けていると、曲がり角から不意に敵が現れる。何とかブレーキを掛けてみるものの、慣性の法則に従い、俺の体は敵に向かい、敵は俺のボディに向かってストレートを放ってくる。

 

 

桜木「うぐぁ.........!!!」

 

 

「フン.........っ!!?」

 

 

桜木「.........なんてなぁ?」

 

 

 相手はもろに攻撃が入ったのだと思ったのだろう。口の端をニッと広げた。当たり前だ。俺の身体は横向きになり、身体は相手の攻撃によって少し後退している。

 だが、俺はその攻撃を関節を曲げることで、肘で挟み込む。そのまま足を大きく上げ、前へと強く踏み込み、縮み込んだ身体を大きく開く。

 

 

桜木「ボディが、甘ェぜ?」

 

 

「ぐぬぁっ.........!!?」

 

 

 俺の身体が前進する一方で、敵は大きく身体を見せる。そこに振り被ったボディフックが、普通ならば鍛えることの出来ない横腹辺りに捩じ込まれた。

 

 

桜木「そらっそらッそらァッ!!!」

 

 

 俺は間髪入れずに、もう一歩前進して下がった顎をアッパーでかち上げ、右足で相手の頭を捉えた回し蹴り。俺の力で回転した敵の背中に対して、今度は左足を突き出しながら前進することで壁に叩き付けた。

 

 

「ァが.........」

 

 

桜木「歴史が違うんだよっと」パッパッ

 

 

ニコロ「中々やるな。ヒットマンになった方がいい」

 

 

桜木「ふざけるな。それを言うならお前だって衰えてないぞ。復帰をおすすめする」

 

 

ニコロ「それこそ冗談じゃない」

 

 

 軽口を叩きながら、俺達はまた走る。目的の場所までもう少し。そう、思っていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お遊びが過ぎるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「うぇ.........強そうな奴が来ちまったな.........」

 

 

ニコロ「.........!」

 

 

 目の前に現れたのは、警備服は着ておらず、普通の格好をした巨漢だった。しかも、ただの巨漢じゃない。その肉体には脂肪のしの字すらないほどの筋肉で埋め尽くされており、その顔には日常生活に支障をきたす(人付き合い的な意味で)程の傷があった。

 げんなりしながらどうするべきかと、俺は隣に居るニコロに視線を移そうとしたその瞬間。奴は突然、男に向かって走り出した。

 

 

ニコロ「ッッ!!!」

 

 

「フンッ、向かってくるか.........?」ブンッ!

 

 

ニコロ「くっ.........!!!」

 

 

 なりふり構わず、と言った表現が正しいように、ニコロは駆け出したが、その男から放たれるストレートの速さと圧により、手を出すことなく、背中を反り屈む事で回避に専念する。

 

 

「がら空きだ―――「テメェがなァ!!!」―――!!?」

 

 

 パンチを避け、無防備になったニコロを上から叩き潰すように、またパンチを繰り出そうとした奴に対して、俺は背中を反り、胸を張っているニコロのその胸に手を付き、男の顔面を蹴りつける。

 たたらを踏み、後ずさっていく男だが、ダメージが入っている様子は無い。

 

 

「.........仲間を台の様に扱うとはな」

 

 

桜木「へっ.........コイツの体感の良さは、俺が一番分かってんだよ」

 

 

 そう言って、俺は親指でその存在を指し示す。そして案の定、ソイツは倒れること無く、体勢をゆっくりと戻した。

 しかし、その額にはじっとりと汗が滲んでいる。俺の隣へとゆっくりと近付き、こっそり耳打ちをしてくる。

 

 

ニコロ「気を付けろ」

 

 

桜木「.........?」

 

 

ニコロ「奴は.........アメリカで指名手配中の男だ」

 

 

「ほう。俺を知っているのか?では生かして帰す訳には」

 

 

桜木「うるせぇよ犯罪者。俺ァ今大事な話してんだ.........話の腰を折る奴はモテねぇぞ」

 

 

 そう圧を掛けながらも、軽く受け流すように肩を竦める指名手配犯。それでも尚、ニコロの様子に不可解な点がある。

 そんな俺の視線に気づいたのか、奴は隠しきれないと思い、ため息を吐いてから話す予定の無かった続きを口に出す。

 

 

ニコロ「奴は、俺の正体を知っている」

 

 

桜木「へぇ.........んじゃあ、お仲間ってことだ」

 

 

ニコロ「元、だ。それを付け忘れるな」ポイッ

 

 

桜木「うおっと.........?」パシッ

 

 

 懐から何かを探し当て、手に取ったそれを俺に投げて寄越す。何とかキャッチできたが、出来なければ無くす所だった。それほどに小さい、丸い物体。

 

 

ニコロ「お前のチームに居る栗毛のウマ娘から貰ったものだ。ピンチになれば使えと」

 

 

ニコロ「時間が惜しい。早く飲め」

 

 

桜木「.........へいへい。注文の多い研修生様ですこと」

 

 

 改めて手に持っている球体。恐らくアグネスタキオンが作ったであろう丸薬を一目見て、口に放り込んだ。

 流石に小さいと言えど、丸呑みできるサイズでは無いので奥歯で噛み砕き、破片から身体の中へと流し込む。

 全身に駆け巡る熱が昂りを見せ始め、それは次第に身体表面に蒸気として姿を見せ始める。久々の感覚に、どうやら自ずと興奮してしまっている。

 

 

「なんだ.........あれは.........?」

 

 

桜木「気を付けろよ.........こうなったら俺はテメェどころか、奇跡だって超えちまうぜ?」

 

 

ニコロ「うっ.........気持ち悪い.........」

 

 

 顔を青くして、口元に手を当てうずくまるニコロ。どうやら、この姿を見てデトロイトでのあのシーンを思い出してしまったらしい。可哀想に。

 このまま放っては置けないので、背中をさすろうとしたその時、普段は存在しない頭の上にある耳が音ではなく、空気の振動をキャッチし、脳に危険信号を送る。

 身体を本能の赴くままに動かしてやると、案の定、奴は俺に対して攻撃をしてきていた。

 

 

「.........!!?」

 

 

桜木「.........ウスノロ」ニヤ

 

 

 それを難なく手で掴み、軽く挑発をする。それに乗るように奴は手を引こうとするが、筋力が人間のそれではなくなった俺の力に、全く歯がたたなくなっていた。

 

 

桜木「ふふふ.........」

 

 

「なっ.........何がおかしい.........!!!」

 

 

桜木「悪ぃなァ.........テメェのパンチが、お遊戯会のお遊びみてぇな威力だったもんでよぉ.........っ!!!」

 

 

 その場から動かずに、目の前の男の顎を捉え、なるべく加減して蹴りあげる。それでも威力は十分。一瞬両足が地面から離れ、身体が伸び切ったところに右ストレートを腹部にねじ込んだ。

 呻き声を上げ、身体をくの字に曲げる巨体。少し遊んでやっても良いが、あのゴールドシップが今の今まで大人しくしているというのは考えられない。

 何かがあったのだと言う考えに至り、俺はその場で少し飛び上がり、遠心力と筋力を使って、下がった顔に後ろ回し蹴りを決めた。

 

 

桜木「ふぅ.........流石に死んでねぇよな?」

 

 

ニコロ「安心しろ。あんなので死んでるなら今の今まで生きちゃ居ない。そういう世界だ」

 

 

 元本職のお墨付きを頂いたことで、俺達は安心してもう一度走り出す。今度こそ邪魔が入ることないよう祈りながら、社長室を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「ええ、はい。お願いします。私も現地で合流しますから」

 

 

 そう言って、私は先程まで通話をしていたウマフォンの電源を落とします。最後に慌てたような声が聞こえてきましたが、聞かなかった事にして無視をします。

 

 

タキオン「誰に電話していたんだい?」

 

 

 机の上に置いたパソコンに視線を向けながらも、私にそう聞いてくるアグネスタキオンさん。さて、どう答えたものでしょう?あまりこの事は公にしないで欲しいと言われておりますが.........

 

 

マック「.........あまり、チームメイトに隠し事をするのは好きではありませんから、正直に話します」

 

 

マック「メジロ家には、代々からその身を守る為に護身術が存在します。かく言う私も、その心得がありますわ」

 

 

 そう。いくらウマ娘と言えども、家の権力が大きいものならば、普通の人間と同じように攫われたり、人質に使われる可能性は出てきます。

 そうなった際、一人でも抵抗、或いは相手を無力化させる事の出来る技が、メジロ家に代々伝わる護身術です。一般の方にも講習を開いておりますので、その名を聞けば、誰もが理解を示すでしょう。

 

 

マック「ですが、それはあくまで護身術。歴とした武術はしかと存在します。私も護身術としてではなく、武術として手ほどきを受けましたわ」

 

 

マック「.........今電話しましたのは、メジロ家に配属されている特殊部隊の隊長。そして私に厳しくも、優しく丁寧にそれを教えてくださった―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のお母様ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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