山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「出版社襲撃するぞ!!」ゴルシ「ビ〇トたけしかよ!!」 後編

 

 

 

 

 

桜木「おっ?ここがそうっぽくねぇか?」

 

 

ニコロ「当たりだな。こんな派手な扉など、社長室以外取り付けまい」

 

 

 目の前にそびえるのは、なんともまぁ派手な装飾が施された扉だ。この奥に、今回の主犯とゴールドシップが居ると思うと、なぜだか気が気ではない。

 この扉がもし、トレセン学園の理事長室に付けられているものなら、俺はいい気持ちで居ただろう。だが、この奥に居るのは、俺の大切なチームメイトの心をいたぶり、それで発生した金で私服を肥やしている奴だ。悪趣味にも見えてくる。

 

 

桜木「さぁってと。中がどうなってるか分からねぇ以上、素直に扉開けるのは危険だ.........」

 

 

ニコロ「.........?なぜ下がる?」

 

 

 俺は目的地である扉に対して背を向け、そこから少し歩く。ニコロの疑問も最もだが、それの答えはすぐに分かる。

 俺は、その扉から対角線上にある突き当たりの壁に近付き、もう一度その扉に身体を向ける。今の俺は正に、地上最強の生物、ウマ娘なのだ。

 

 

桜木「―――ッッ!!!」

 

 

 身体は疾走する本能に身を任せるように、その一歩目から、人間には到底生み出せない速度を発生させ、俺の身体を空気にぶつけていく。

 風を切る、などという表現が良くなされるが、そんなものでは無い。その場に留まる空気はまるで水のように、抵抗を徐々に感じさせていく。

 それ用に作られていない靴底は摩擦ですり減り、衣類に隠れていない晒された皮膚は、空気にぶつかり波紋を作る。

 

 

桜木「はッ―――!!!」

 

 

 勢いを殺さぬよう、扉の近くでその場で跳躍し、ゆっくりと身体を曲げながら、背中を後方の壁から、徐々に地面へと向けていく。

 ジャンプの最高到達点にたどり着いたそのとき、俺は曲げていた身体を一気に伸ばしつつ、その足裏を扉に向け―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でいやァァァァァ―――ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その扉を付け根から思い切り、その両足で貫き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八木「さて、そろそろ全身にガスが回ってきた頃だろう?」

 

 

ゴルシ「.........っ」

 

 

 やっべぇ.........目の前の男が、どんどんアタシに近付いてきやがる.........そんなやべぇ状況だってのに、アタシはもう立つだけで精一杯だっての.........こんな事になるなら、ゴルシちゃんもあのメンバーと暴れ回ってやったら良かったぜ.........

 手に持ったスイッチを押して、奴は部屋の空気を入れ替える様に、吸引、そして新鮮な空気を吐き出す機械を起動させた。

 付けたガスマスク嬉しそうに外し、まるでアタシの身体を値踏みするように、男はその視線で舐め回してくる。こういうの、マジで嫌いなんだけどな.........

 

 

八木「やはり、ウマ娘と言うのは身体付きが素晴らしい!これは.........そのカメラを回収する前に楽しませて貰わなければな.........」

 

 

ゴルシ「っ!や、やめろ.........!!」パシッ

 

 

 その視線を顕現させたような指の動きをした手が、アタシに近付いてくる。本気で振り払おうとした筈なのに、マジで普通の女の子みてぇな力しか出てこねぇ.........

 一度払われたその手を見て、男の顔に気持ちの悪い笑顔が張り付い始める。どうやら、アタシの今の力がどれくらいかこれで分かっちまったらしい.........

 

 

八木「さぁ、先ずはその上着を脱いでもらおうか.........!」

 

 

ゴルシ「!や、やだ.........!!!」

 

 

ゴルシ(ごめん.........白―――)

 

 

 正直、もう。どうにもならねぇと思った。アタシ自身、諦めちまってたんだ。ここまで粘って来なかったんだ。こんなタイミングで誰も来る訳がねぇって。

 アタシの上着に手を伸ばされて、片腕が脱がされ、もう片方も.........そう、思った瞬間だった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドガァッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八木「な!!?」

 

 

ゴルシ「え.........?」

 

 

 突然、あの入口のドアが窓の方にぶっ飛んで行きやがった。窓はかなり頑丈そうだったのに、そんなこと気にせずに、飛び出た扉はまるで鳥みてぇに外へと羽ばたき、落ちて行った。

 それに続くように、一人の男が、足を前に放り出して、勢いを殺すようにブレーキを掛けながら着地する。アタシと男の間だったから、男は慌ててそれを避ける。止まった音が聞こえたのは丁度、アタシらの真後ろだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「おっ......ちゃん.........?」

 

 

八木「き、貴様.........!!!」

 

 

 

 

 

 ―――背中を向けて、俺はそう声を発した。そこに居るのは、たった二人の存在だ。それでも、今この俺にとって、それらは大きい存在だ。

 片方は、俺の物語の始まりを示したウマ娘。俺の[居場所]を.........俺の[居たい場所]を、作る事ができた。恩人のような存在。

 そしてもう片方は、俺の大切なチームメイトを傷付け、それどころか、俺の親友にとっても大事なその恩人を傷物にしようとする奴がそこに居た。

 それを振り返って確認したら、次の動きは思考が働く前に、勝手に決まっていた。身体はもう、動いちまっていた。

 

 

桜木「.........」グイッ

 

 

八木「うぐっ.........」

 

 

 間抜けた姿で倒れ込んでいる男の胸ぐらを掴み、その体を持ち上げる。苦しそうな声を出してくるが、俺の耳に、俺の心に響き渡るものは一切存在しない。

 

 

八木「き、貴様がやったのか.........!!!」

 

 

桜木「だったらどうする?テメェが、テメェのケツを拭かねぇまんま生きてきた結果だ。受け入れるんだな」

 

 

八木「こ、こんなのテロと同じだ!!!貴様はテロリストだぞ―――っ!!?」

 

 

 胸ぐらを掴む力を上げ、更に持ち上げる。地に着く程度だった奴の足が、完全につま先すら立てないほどにその身体を持ち上げてやった。

 その瞬間。俺の身体から蒸気が発生する。筋力が常人に戻ったのだ。だと言うのに、身体にほとばしる力は、留まることを知らない。

 

 

桜木「.........テメェが先だ」

 

 

八木「は.........?」

 

 

桜木「テメェが、俺の[居たい場所]を滅茶苦茶にしようとしたんだ。テメェもそれをされる道理は、ちゃんと出来ちまってんだよ」

 

 

八木「.........はっ、何を言うかと思えば.........!そんなもの許される訳が無い!」

 

 

桜木「なんだ?自分が正義だって言いてえのか?」

 

 

八木「そんなものでは無い!必要悪だ.........!」

 

 

 必要悪。そんな言葉を聞いただけで虫唾が走る。コイツのどこが[悪]なのだ?コイツのどこに、俺の好きな[悪役]の要素がある?そんなもの、コイツの中には何処にも存在していない。

 

 

桜木「はっ、んなもん、テメェが許される為の、ただの言い訳だ」

 

 

桜木「良いか、悪ってのはな。正しくない事でしか、救われない奴、或いは救われない者を救う為に悪い事をする奴だ」

 

 

桜木「アンタは十分.........正しい事して救われる人間だったはずだろう?」

 

 

桜木「テメェは、救われる為じゃなく、ただ私利私欲の為に悪い事する―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単なる外道だ。クズ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の男の目には、ゆらゆらと不規則に揺れ、歪な俺の姿が見える。俺は今まで、小さい幸せなんか気付くことの出来ない人間だった。

 不幸で、不幸せで、不出来な人生を歩んできた俺には、道端に転がる綺麗な形をした石ころなんかに、興味を持つことが出来なかった。

 でも、俺は今、幸福で、幸せで、上出来な人生を歩んでいる。一人だったのが、不相応にも、隣に歩いてくれる人達がそれに気付いて、俺にそれを見せてくれる。

 コイツは最初っから.........そんな人が一緒に歩いてくれていた筈なんだ。

 男の目の端から、溜めきれなくなった水が流れ落ちそうになったその時、複数の足音が慌てたようにこの部屋に向かってくる。

 

 

「動くな!!!警察だ!!!」

 

 

八木「.........クク、これで貴様もおしまいだな?桜木[元]トレーナー殿?」

 

 

 先程まで涙目だったのに、今ではもう勝ち誇ったような面で俺を見下げる。自分の立場を弁えろという無言の圧が俺に掛かるが、それでも俺は、この手を離しはしない。

 だが、どうしたものか。こうなってしまえば不利なのは俺の方だ。大人しく状況を説明しようにも、やった事がやった事。不利に動くのは想像にかたくない。

 そう思いながら、出入り口を封鎖するように列をなす警察の面々に、睨みを送る。流石公務員。自分達が正しさの中に居る事を知っている為、こんな物では動じることは無い。

 本当、どうしたものか.........そう思っていると、その列を掻き分けるように出てきた人間が一人いた。

 

 

ニコロ「よくやった。後は任せろ」

 

 

「何者だ!!!返答次第によってはこの場で拘束―――」

 

 

ニコロ「ICPO特別捜査官、ニコロ・エバンスだ。この男は、俺の捜査に協力してくれた現地民だ」

 

 

 そう言いながら、電子上に存在する身分証を警察の人達に見せ付けるようにして突き出し、全員に分かるように、列の前を端から端へと移動する。

 その身分証を見た警官達は、臨戦態勢を解き、直立不動で敬礼をして見せる。その光景に少し、衝撃があった。

 

 

ニコロ「.........さぁ、どうする?八方塞がりだ。八木宗明」

 

 

八木「.........それで、勝ったつもりかね?」

 

 

ニコロ「何.........!!?」

 

 

 先程まで入口付近に居た警官達が、一斉に前へと進み出し、俺の周りを取り囲み始めた。彼らの登場に端っから嫌な予感をしていた俺は、あまり驚きは無い。流石に冷や汗は流れるが。

 

 

ニコロ「どういう事だ!!?」

 

 

八木「私はね、こう見えても一つのマスメディアを駆使する会社のトップだ。無論、彼らの一番上の存在とも交流がある」

 

 

八木「桜木くん、君は私を外道だと言っただろう?だがね.........」

 

 

八木「この世には、私の様な外道が、わんさか溢れ返って居るんだよ.........」

 

 

 そう言って、奴はにんまりとその口元を歪めた。下卑た、下品な笑顔が俺に向けられる。

 その顔は、価値を確信したと共に、俺に何かを求めているようだった。それは、失望や無念と言った物だろう。

 だが生憎.........

 

 

桜木「おう。そんな事いいからよ。謝ったら許してやるよ」ニヘラ

 

 

八木「は.........?」

 

 

桜木「大人が汚ぇのは知ってんだ。親父がそうだったからな。今更期待してねぇよ」

 

 

桜木「けどな、せめてあの子らに対して謝ってくれ。そうしたら、俺は許してやるよ」

 

 

 奴の下卑た笑顔に対し、俺は煽るようにヘラヘラと笑って見せた。正直もう、今生きる大人達に期待はして居ない。

 ただ、これから大人になるであろう子供達、そしてまだ、子供の頃に持っていた心を持っているであろう大人達の為に、俺は今この場に立っている。

 奴の顔から徐々に余裕は消え、怒りが見え始める。それこそ、直ぐにでも俺に対して、警官達に捕らえるよう命令を出す程に、それは膨れ上がっていた。

 もう、コイツから謝罪の言葉を聞くことは無いのだろう。大人と言うのは本当、俺を失望させてくれる。それは俺の親父にも、そして幼い頃からあった俺の[大人びた部分]にも散々思い知らされた筈なのに.........未だに期待をしている俺がバカバカしい。

 潮時だ。もうここから助かる見込みは無いに等しい。そう思いながら、俺はその目を閉じ、その時を待っていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「えっ.........!」

 

 

 入口から聞こえてきた、この大人達が集う場に相応しくない、少女の声。あまりに聞きなれたその声に疑いを向け、思わずその方を向く。

 そこには一人、トレセン学園の制服を来た、俺にとっては見慣れた少女が一人、立っていた。

 

 

ゴルシ「ま、マックイーン!!?」

 

 

桜木「お、お前!!!一人で何しに―――」

 

 

マック「あら?一人ではありませんわよ?」

 

 

「動くな!!!」

 

 

 彼女が自信満々にそう言った。そして、先程の警官達の足音よりも力強い足音が複数聞こえてきた後、俺を取り囲む警官達を更に取り囲むように、若々しい女の人達が取り囲んだ。

 

 

桜木「い、一体何が.........」

 

 

「んもう!!マックちゃん一人で行かないの!!!」

 

 

マック「!そ、外でマックちゃんはやめてくださいとあれほど言ったではありませんか!!!」

 

 

 

 

 

 ―――呆気に取られている表情を見せる彼に思わず見とれていると、私の後ろの方から少し息を切らしつつも、文句を言う女性が現れます。

 全く.........お家ならばともかく、こんな知っている方も知らない方も集まっている場でそのように呼ばれてしまうのは恥ずかしい限りです。

 

 

「まぁまぁ、良いじゃないそんな事♪それより.........貴方が桜木トレーナーさん?」

 

 

桜木「へ?え、ええまぁ。はい」

 

 

「あらあらあらあら!テレビで見るよりずっと男前だわ〜♪いつもうちのマックイーンがお世話になっております〜♪」

 

 

マック「ちょ、ちょっと!!!こんな場所でご近所付き合いのノリで話し始めないでください!!!」

 

 

 警官を取り囲む方々を掻き分け、トレーナーさんを取り囲む警官の方々を掻き分け、彼女はトレーナーさんの空いている方の手を握り、ブンブンとその手を上下に振りました。

 その姿に呆れていると、助けを求めるようにトレーナーさんは私に視線を送り、言葉を発しました。

 

 

桜木「えっと、マックイーン?この方は.........?」

 

 

「あっ、自己紹介がまだだったわね!メジロマックイーンの母のメジロティターンです♪気軽にティタちゃんってよんで♪」

 

 

ゴルシ「え!!?」

 

 

ティタ「あっ!トレーナーさんは特別にお義母さんって呼んでも良いわよ♪」

 

 

桜木「えぇ.........?」

 

 

 照れるように自己紹介した私の母と、呆れて頭に手を当てる私の姿を交互に見る方々の視線が痛く、私に突き刺さります。

 その中でも気にせず、私の母はそろそろ普段の私がどうしているかを聞き出そうとしているため、咳払いをして話題を元に戻します。

 

 

ティタ「あっ、そうだったそうだった。貴方達を囲んでる子達、全員メジロ家武術の達人だから。一歩でも動くと大変よ?」

 

 

八木「な、何をバカな事を.........!!!所詮小娘だろ!!!」

 

 

ティタ「あ〜、防具で隠れてるけど一応全員、成人したウマ娘だから。全治一ヶ月の状態になりたいならどうぞ〜。あっ、私の為に退くのは大丈夫よ♪」

 

 

 そう言って、お母様は軽く手を振るようにあの場所から私の隣までゆっくりと歩いてきました。

 ですが、その動きの重心は正に、武道を極めた者のそれであり、レースをする為に鍛えている私達とは違う力強さがありました。

 

 

ティタ「?なになにマックちゃん♪ママのカッコ良さに見とれちゃってたの?」

 

 

マック「.........はぁ、以前ビデオで見た秋の天皇賞の時のような喋り方でしたら、手放しで喜べたんですけど」ムスッ

 

 

ティタ「無理よ〜♪私ああいうの苦手だもの〜」

 

 

 困った表情で頬に手を当てながら、のほほんとした口調でお母様は言いました。私が小さい頃はもっと、しっかり者だった筈ですのに.........

 ですが、今のお母様がそれで幸せならば、私から言う事は何もありません。今でも十分、素敵なお母様に変わりありませんから。

 そう思っていると、トレーナーさんは安心したようにホッとため息を吐きました。その表情はいつも見る、どこか抜けている彼の表情でした。

 しかし、掴んでいる男性の方にその顔を向ける時には、私が見た事ないような、鋭い冷たさの宿る真剣な表情になっていました。

 

 

桜木「.........さぁて、特別ゲストが沢山来てるんだ。謝るなら今の内だぜ?」

 

 

八木「だ、誰が貴様などに.........!!!」

 

 

桜木「最後のチャンスだ。俺は、[謝った奴は許す]って、決めてんだよ」ググッ

 

 

八木「くっ、は.........!」

 

 

 掴みあげるその手にさらに力を込める彼。掴み上げられた男性は苦しそうな呻き声を上げ始めます。正直、見ていて気持ちの良い物ではありません。

 そんな心に反応して、身体が自然と動いてしまいます。前で組んでいた手の片手を伸ばし、一歩歩いたその時、不意に肩を掴まれました。

 

 

ティタ「ダメよ」

 

 

マック「お母様.........でも」

 

 

ティタ「あんな顔をしている男の人を止めるのは、女の子としてやっちゃダメなのことなの。それに.........」

 

 

マック「それに.........?」

 

 

ティタ「.........可哀想じゃない」

 

 

 私の肩を掴む手に、自然と力が込められます。痛い、という程ではありません。ですが、お母様の表情を見ると、その胸の内が、何となくではありますが、分かるような気がしました。

 今まで、悪いように散々振り回されてきた彼と、私達。そしてお母様も、彼らの様な人達に振り回されてきたと言うお話を、本人ではなく、メジロの従者の方から聞いた覚えがあります。

 きっとこれは、彼と私達だけの逆襲じゃない。お母様にとっても、現役時代、良いように言われてきたお返しなのだと思いました。

 一歩出た足を引き、伸ばした手を引いて、私は元の姿勢に戻り、男性の次の言葉を、待ちました。

 

 

八木「.........謝るものか!!!私は何も間違っては居ない!!!大衆の思いを記事にする!!!それがマスメディアの役割だ!!!」

 

 

桜木「あぁそう。だったら.........ッッ!!!」

 

 

八木「ヒッ.........!!?」

 

 

マック「っ!」バッ

 

 

 呆れたような表情を一瞬見せた後、彼はその鋭さを無くし、ただ冷たい表情で空いている方の手を握りしめ、引きました。私は思わず、その瞬間を捉えないよう、両手で目を塞ぎ、音が聞こえないよう耳をパタリと伏せました。

 ですが.........

 

 

マック「.........?」

 

 

八木「え.........?」

 

 

 目を開けると、そこには拳を当てる寸前で止まっている状態で固まっているトレーナーさんがいました。

 一体、何があったのでしょう?そう思っていると急に、彼は唐突に普段の日常を感じさせるような笑い声を上げました。

 

 

桜木「あはははは!!殴るわけないでしょ本気でさー!!ビビっちゃった?」

 

 

八木「な、くっ.........ふざけるな!!!ここまでしておいて冗談で済ませる気か貴様は!!!」

 

 

ゴルシ「そ、そりゃないぜおっちゃん!!!なんで殴んねぇんだよ!!!」

 

 

ティタ「.........拍子抜けしちゃったけど、逆に安心したわ〜」

 

 

マック「え、ええ。私のトレーナーさんですもの、そんな暴力を振るう訳が.........?」

 

 

ニコロ「.........フッ」

 

 

 彼の笑い声が響き渡る中、その行動に不可解さを見出すゴールドシップさんと、逆に安心を感じてしまう私とお母様。

 しかし、そんな中で一人、その意図が分かったかのように薄く笑い、腕を組んで見守るニコロさんが居ました。

 もしや.........そう思い、未だ笑い声を上げている彼の顔をもう一度良く、見て見ます。確かに、笑っています。でもそれは、笑っているだけです。

 そしてきっとその顔に.........仮面が張り付いている事に気が付いているのはニコロさんと、私の二人だけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八木「!!?ァ、が.........!!!!!???」

 

 

 不意に止んだ笑い声。それと同時に、持ち上げられていた男性はその身体を高く上げられ、反対側の地面に、背中から強く、叩き付けられました。

 投げたんです。それも、とても人を扱うような物ではなく、[ぶっきらぼうに投げた]のです。

 強い痛みにより、気絶することすら出来ない男性の胸部に片足を乗せた彼に、私達はただ、呆気に取られるしかありませんでした。

 

 

桜木「.........誰がテメェなんかを、本気で殴るかよ」

 

 

 暖かさの欠片も無い視線、優しさの一つも無い声。そんな彼に、囲む警官達も、それを囲むウマ娘達も、そして私達ですらも、言葉を失ってしまいました。

 そんな彼に意識が向いていましたから、私達は、遥か後方から近付いてくる足音に、気が付くのが遅れてしまいました。

 

 

マック「!あ、あの方は.........?」

 

 

ティタ「マックちゃん。隠れて」サッ

 

 

マック「え?」

 

 

 後方を確認した際、視界に映ったのはここに居る誰よりも、そして私がこの目で見た中で一番大きい体をした男性でした。

 ですが、それを見たのも一瞬で、私はお母様の腕によってその身体を後ろに押し込まれてしまいます。そしてそのお母様の横顔は、まるで私に稽古をつけて下さる様な、真剣な顔付きでした。

 男性が近付いてくる。その圧は正に、一般人には到底出せないもの。どこかニコロさんと似たような感覚を抱きつつも、今の彼よそれはりとても強いと感じました。

 ジリジリと感じる圧が強さを増し、お母様の隣にはニコロさんとトレーナーさんが並び経ち始めたその頃、また複数の足音が奥から聞こえてきました。

 そしてそれは、陽気な笑い声と共に姿を現しました.........

 

 

「「「wwwwww」」」

 

 

ティタ「え」

 

 

桜木「何やってんだアイツら.........?」

 

 

ニコロ「おい、あの手に持ってるのは酒じゃないのか.........?」

 

 

 なんと、角から現れたのはトレーナーさんの親友であるあの御三方でした。肩を三人で担ぎ合いながら、千鳥足でフラフラ、フラフラとこちらへ向かってきます。

 

 

神威「あ?あ〜玲皇ォ!!!もっと骨のある奴居ねェのかよ!!!正中線ぶち抜いたら泡吹いて倒れちまったwww」

 

 

黒津木「あぁぁぁ!!?テメェなにウマ娘ちゃん達いっぱい連れ込んでんだ!!!来いッッ!!!叩き殺したる!!!」ブンブン!

 

 

白銀「でっはっはっはっは!!!バカがいっぱい居るわ!!!特にこの目の前に居るやつなんて.........ぷふっ」

 

 

「「「.........筋肉バカだァァァァwwwww」」」

 

 

ニコロ「おいおいおい」

 

 

桜木「死んだわアイツら」

 

 

 廊下の真ん中で男性がその言葉に、怒りをあらわにするように震え、ついには無言でその腕を横に薙ぎ払いました。普通であればそれに当たり、壁に身体を強くぶつけてしまっていたことでしょう。

 ですが、お酒を飲んでいるにも関わらず、いの一番に反応したのは白銀さんです。三人の真ん中に居る彼が両手を強く下に押すことで、他の方は下方向に、白銀さんは飛び上がる事で上方向に躱す事に成功しました。

 

 

「ぶっ殺す.........ッッ!!!」

 

 

白銀「どっひゃ〜〜〜www今コイツなんて言いました〜〜〜?www」

 

 

黒津木「ぶwっw殺wすwww大wのw大w人wがwww」

 

 

神威「」(笑いすぎて失神寸前)

 

 

白銀「オラこんな大人初めてだァ〜〜〜wwwワァックワクすっぞ〜〜〜www」ズドンッ!

 

 

「〜〜〜!!?」

 

 

 ゲラゲラとしたこの場に相応しくない笑い声を出しながら、白銀さんは予備動作なしで右ストレートを男性の横腹に捩じ込みました。ウマ娘の耳を持ってしなくても、その音が拾えてしまう程に高い威力です。

 その痛みを何とか堪える男性に不用心に近付きながら、白銀さんは拳を鳩尾の部分に軽く当て、何か考える素振りを見せ始めます。

 

 

白銀「う〜〜〜ん.........あっれ〜.........俺なんつってたっけ?ドクマリの横スマ打つ時」

 

 

桜木「.........インパクト頂き、な」

 

 

白銀「ああそうそう!!それそれ!!」ズドンッ!

 

 

「が―――」

 

 

 スッキリした。そんな表情をこちらに向けている白銀さんと、何故か聞こえてくる衝撃音。そして崩れ落ちる大柄の男性.........

 もう、情報量が多すぎてどうにかなりそうでした.........この方達、特に白銀さんが規格外すぎます.........

 

 

ティタ「い、今の。ワンインチよね.........?」

 

 

ニコロ「.........しかも浸透勁だ。背中に抜けずに痛みがしばらく身体の中で回るぞ.........」

 

 

ティタ「ねっねっ!あの子貴方のお友達!!?武術とか興味無い!!?」

 

 

桜木「ないっスよ。アレやってんのテニスだけで、喧嘩は全部感覚です」

 

 

 呆れ半分、恐怖半分と言った表情でトレーナーさんはそう言ってのけました。ここに居る私達は全部恐怖です。なんですかあれ。天然物の戦闘マシーンではありませんか。

 正直、いくらパワーやスピードがあると言った私達ウマ娘でも、彼の攻撃を貰うことになったら.........なんて、ありもしない妄想を勝手にして、勝手に怖がります。

 

 

桜木「.........んで?機嫌は治ったのか?翔也」

 

 

白銀「あ?ああ、なんか一番強ェとか言う奴が思ったより弱くてよ。本気でこめかみぶち抜いたら痙攣して動かなくなっちまって」

 

 

ティタ「死んでない?ねぇそれ死んでない?」

 

 

白銀「タバコ持ってねぇからよ。コンビニまで言ってついでに酒も買ってきたんだわ」

 

 

 頭に手を当て、ため息を吐きながら、彼はあの御三方に近づいて行き、一人ずつその頭を叩いていきました。その様子はもう、普段の日常と言っても差支えはありません。

 

 

ゴルシ「なー?この伸びてる奴らどうすんだよ?」

 

 

ニコロ「アメリカ本土に送還する、が.........何か証拠もあれば.........ん?」パシッ

 

 

黒津木「受け取れ。バッチリそのデータにやり取りが残ってる」

 

 

神威「ついでに裏帳簿もあるぜ?バカって何でも残したがるのな」ピラピラ

 

 

 不意に投げられた物を難なくキャッチして見せるニコロさん。その手には、USBメモリが握られていました。そしてあそこでたんこぶを生やしている司書さんも、分厚い冊子の裏帳簿を揺らして見せ付けていました。

 

 

マック「.........ではこれで、一件落着で「ちょっと待ちなさい」.........お、お母様?」

 

 

ティタ「マックちゃん?私、来ないでって散々言ったわよね〜?」

 

 

マック「い、いやでも」

 

 

ティタ「言 っ た わ よ ね ?」ニッコリ

 

 

 そう言いながら、お母様は優しく、それはもう優し〜く。私の肩に両手を置きました。だと言うのに、私はそれに対し抵抗する事が出来ず、へなへなと力無くその場に座り込んでしまいます。

 気が付けば、トレーナーさんは御三方に無理やりお酒を飲ませられ、ゴールドシップさんは特殊部隊のウマ娘の方に絡みに行き、ニコロさんは電話をし、私は気が付けば正座して、お母様に怒られている。

 いつもとは違うメンバーだと言いますのに、何だかいつもと同じ、チームルームの様な混沌渦巻く空間に少し居心地の悪い心地の良さを感じながらも、私は大人しく、お母様のお説教を聞いておりました.........

 

 

 

 

 

 ......To be continued


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