山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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ライス「ライス、やっぱり変わりたい.........!」

 

 

 

 

 

 時計の針が鳴り響く。刻一刻と時間が過ぎて行く。その過ぎ去っていく時間から取り残されるように、この心はまだ、あの時の感情のまま縛り付けられている。

 

 

桜木「.........」

 

 

 保健室の前。皆、暗い顔ばかりだ。かく言う俺も、その一員になってしまっている。今か今かと、来るな来るなと、そこから現れる俺の友人を、その二つの感情で待っている。

 そうして静かに、扉が開く。普段の騒がしさなど微塵も感じさせず、顔を俯かせる姿を見せる黒津木は、今まで見た事無い[医者]としての、黒津木宗也であった。

 

 

黒津木「.........[疲労骨折]だ。適正距離ではない距離を走らせようとしてきたツケが、出てきた」

 

 

桜木「.........治る、のか......?」

 

 

黒津木「所詮骨折だ。治りはする。ただ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子がまた、走ろうとするかは別の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 そう、だ。もし、ブルボンの足が完治したとしても、彼女が復帰するかどうかは、彼女自身が決める問題であって、トレーナー以前に、他人である俺が介入すべき問題では無い。介入できる.........問題じゃない。

 不思議と、視界は安定していた。気持ちも、落ち着いている。けれどそれが、逆に俺の心を焦らせた。

 俺は、あの子に何も期待していなかったのか?俺は、こうなる事を見越してたから、こうなっても焦ってないんじゃないのか?そんな思いが、汗でベトベトになった手に現れる。

 

 

黒津木「処置はした。保健室と言っても、そこら辺の病院くらいの処置できるレベルの設備を整えてるからな。会いたいなら.........」

 

 

ウララ「ブルボンちゃん!!!」

 

 

 入っても良い。親指を保健室に指し示しながら言おうとする前に、ウララが教室の中へと入って行く。それに釣られるように、うちのチームメンバーも、そして沖野さん含めたスピカのメンバー。ブルボンの練習を見ていた東さんと黒沼さんも、急いで入って行った。

 

 

黒津木「.........行けよ」

 

 

桜木「.........どんな顔して?」

 

 

黒津木「いや、そう言われてもよ.........」

 

 

 俺は、一体どんな表情を見せればいいんだ?あの子に対して、あの子の頼みとはいえ、今まで無理をさせてきた俺が、どの面下げて会えばいいんだ。

 .........蛙の子は蛙。結局俺は、クソ親父と同じ。人を傷付けて生きてる人間だ。そう思うと、口の中からカラカラと乾きを見せて行った。

 

 

黒津木「.........逃げんのかよ」

 

 

桜木「はは.........そう、だな。うん。俺は悪い大人だよ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが.........俺の本質なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「.........」

 

 

 静かな。本当に静かな時間が過ぎていきます。どこか冷たさを感じるほどのそれは、決して私を傷付ける様な事はせず、逆に、私の心を癒す手助けをしてくれます。

 開けている窓から風が吹き、カーテンがなびきます。外には、トレーニングを始めた方々の姿が見え、それが少し、羨ましく思います。

 

 

ブルボン(あれから一週間。色々な人がお見えになりますが.........マスターとはまだ、会えていません)

 

 

 この足が、黒津木先生に疲労骨折だと診断され、学園に併設されている療養所で生活を始めてから、既に多くの方々が来ています。

 チームメンバーは勿論、東トレーナーや黒沼トレーナー。果てには、一度共に併走しただけの子も、お見舞いに来てくれました。

 チームメンバーは励ましを。沖野トレーナーからは労りを。東トレーナーと黒沼トレーナーからは謝罪を頂き、他の方からは今後についてのお話を聞きたいと、私に聞いてきました。

 

 

ブルボン(.........今後)

 

 

 ベッドの上で、外の様子を見ていると、そこにまるで、自分が走っているかのようなビジョンが投影されます。その姿は、全てにおいて正確で、何よりも早く駆け抜けようとし、そして何より.........厳しく、辛そうな表情。

 もし、今まで無意識にそう走って居たのなら、友達などできないでしょうと、自分の事ながら落胆してしまいます。

 .........だと言うのに、私には、こんな私には不相応な素敵な友達が、沢山出来ました。それは紛れもなく―――

 

 

「失礼しまーす!!やっほーブルボン♪」

 

 

ブルボン「テイオーさん.........?」

 

 

テイオー「へ〜、学園の療養所ってこんな感じなんだ〜。最近出来たって聞いたけど、普通の病院と変わらないんだね〜」

 

 

ブルボン「そうですね。黒津木先生の手腕がちゃんと発揮できるよう、理事長が増設したようです」

 

 

 松葉杖を付きながら、私のベッドの横にある椅子を器用にその杖で引き寄せ、彼女は座りました。見たところ、私よりはあまり、骨折による精神的ダメージは見られません。

 他愛も無い話を、それが難しかった以前の私。けれど今は、何となくでそれが出来てしまっています。この状況に少し、今まで自分の中になかった物の違和感を感じつつ、楽しみました。

 

 

ブルボン「テイオーさんは大丈夫なんですか?」

 

 

テイオー「うん!!なんてったってタキオンのスプレーがあるからね!!」

 

 

テイオー「すっごいんだよ〜?今はまだ無理だけど、普通に歩けるくらいになった頃から使えば最短で足を治せちゃうんだから♪」

 

 

 ブルボンも使いなよ。そういう彼女の顔からは、なんの疑いも無い、そしてこれからも走り続けると言った意志を感じ取れました。

 そんな、私よりも年下の中等部のテイオーさんですが、一年先にデビューした方で、私の求めていた無敗の三冠を手にした素敵な人。そんな人の顔を見ていると、不思議と勇気が湧いて来てしまいます。

 そう思っていると、不意に笑っていた彼女の顔が、真剣な物になりました。その空気に触れ、私も元々硬い表情を、更に硬くさせてしまいました。

 

 

テイオー「.........聞いても、良いかな?」

 

 

ブルボン「?はい.........」

 

 

テイオー「ブルボンはさ.........この先、どうするの?」

 

 

 それは、今までこの病室で、何度か聞いた質問でした。ですが、彼女の表情はその方々とは違い、寂しさや悲しみというような感情は少しで、不思議と言ったニュアンスが強い事が分かりました。

 

 

ブルボン「.........なぜ?」

 

 

テイオー「だって.........夢、叶わなかったじゃん」

 

 

ブルボン「.........」

 

 

 その言葉からは、どこか苦しみという感情を感じ取れました。そしてそれは、想像や空想上の物ではなく、彼女自身が体験した苦しみが出ているのだと、その表情で分かりました。

 

 

テイオー「.........ボクの夢は、[無敗の三冠バ]。会長みたいな、強くてカッコよくて、凄いウマ娘になるのが夢だった」

 

 

テイオー「けどね.........?今でも、それが叶った今でも.........偶に、考えちゃうんだ.........」

 

 

テイオー「あの時、サブトレーナーが居なかったら.........あの時、負けちゃってたら.........って」

 

 

 苦しみ。苦しみ。苦しみ。それを必死に抑え込むように、彼女は身体の震えを自らの手でその身体を抱き締めることで、何とか止めさせようとしていました。

 .........夢。私の、(ユメ)。それは、テイオーさんと同じく、[無敗の三冠バ]になる事。そしてそれは残念ながら叶わず、そしてこれから先、一生自分はなる事ができない者.........

 

 

ブルボン「.........走りますよ」

 

 

テイオー「!.........どうして......?」

 

 

 私の言葉で、一瞬にして震えが止んだ彼女は、その顔を、その不思議さをより一層強くした表情を、私に向けてきました。

 .........その顔が、何故かマスターを思い出させてしまいます。

 

 

ブルボン「確かに、私の(ユメ)。[無敗の三冠バ]は道半ばで潰えました」

 

 

ブルボン「.........ですが、データは常に更新されて行くものです。新しい物へ次から次へと、移り変わりゆく物です」

 

 

テイオー「新しい夢を見つけたって事.........?それって―――」

 

 

 何かを言おうとした彼女に待ったをかけるように、私は、自分の口に人差し指を当てました。その姿を見たテイオーさんは、言いかけたそれを飲み込もうとして、その両手を口に当てます。

 正直、この場で言ってしまっても良かったかもしれません。ですが、これを最初に伝えるべきなのは、私が最初に伝えたいのは、他に居るんです。

 

 

ブルボン「その話は、皆さんが集まってからにしましょう」チリーン!

 

 

テイオー「.........え、なにそれ」

 

 

ブルボン「ナースコールができないので、これを鳴らして近くに通りかかった人に来てもらいます」

 

 

テイオー「い、居なかったら.........?」

 

 

ブルボン「連打しましょう。テイオーさんの分もありますよ」

 

 

テイオー「ワァ.........アリガトー.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「.........」

 

 

「.........」

 

 

 静かな、さっきまで感じていた優しい静けさとは違う、痛々しい静寂がこの空間を包み込みます。そしてきっとそれは、私だけでなく、皆さんも感じている事だと思います。

 ここに今いるのは、レグルスとスピカのチームメンバーの方々、スピカと、このクラシックの間私のトレーニングを見てきてくれた三人のトレーナーです。

 でも、まだ肝心な人が来ていません。マスターはまだ.........

 

 

マック「.........遅いですわね」

 

 

ゴルシ「だなー」

 

 

ブルボン「.........推測になりますが、私が期待に応えられなかったから―――」

 

 

「「「「「「「「それは無いっ!!!」」」」」」」」

 

 

ブルボン「!」

 

 

 強い否定の言葉が、私に対して発せられます。マックイーンさんだけではありません。タキオンさん、ゴールドシップさん。テイオーさんに、トレーナーの方々も、皆さん口を揃えて否定しました。

 そして、先程までの静寂が嘘だったかのように、マスターについて皆さんが話始めました。

 今どこにいるだろう?ちゃんと話は聞いていたのだろう?そもそも一度もなぜここに来ないのか?そんな話を、皆さんそれぞれが示し合わせた様に、隣に居る方と話し合い始めました。

 

 

ブルボン「.........ふふ」

 

 

「?」

 

 

ブルボン「マスターは.........絶対来ます」

 

 

マック「.........そうです。いつもいつも、遅い癖に、しっかりとその顔を見せるんですから」

 

 

ゴルシ「ほーんと、そういう所がアタシみてーで憎めねーんだよなー」

 

 

テイオー「それ自分で言うんだ.........」

 

 

 静かだった空間。それが今では、マスターの話題を皮切りに盛り上がりを見せ始めます。やっぱり、なんだかんだ言っても皆さんはマスターの事を良く思っている様です。

 そんな、いつも通りの日常をこの病室で感じていると、不意に廊下の方から誰かが走ってくる足音が聞こえてきます。

 それが徐々にこちら側に近付いて来るのと同時に、皆さんは扉の方に視線を向け、静かになって行きました。

 そして、その足音は推測通り、私達の居る病室の前でピタッと止まりました。深呼吸のする息の音が一度聞こえて来てから、その扉がゆっくりと開けられます。

 

 

ブルボン「.........マスター」

 

 

桜木「.........」

 

 

 それはやはり、マスターでした。彼はこの部屋の入口で立ち止まり、ここにいる人達の顔を見渡してから、ゆっくりと私に近付いてきます。

 そして、私の目の前まで来た彼は、ゆっくりとその頭を下げました。

 

 

桜木「.........ごめん」

 

 

桜木「今まで、顔見せれなくて、ごめん」

 

 

全員「.........」

 

 

桜木「.........どんな顔すればいいか、分からなくて、どんな顔すれば、会ってもいいのか、分からなくて.........」

 

 

 

 

 

 ―――俺はそう言って、目の前に居る彼女に、そしてこの場にいる皆に対して、頭を下げている。

 正直、今でもどんな顔をして良いのか、分かっていない。どんな顔をすれば、彼女に申し訳がたつのか、分からない。

 そんな俺の肩を誰かが叩いた。

 

 

東「.........んなもん。ここに居る全員がそうだよ」

 

 

東「俺達のせいで、ブルボンがこうなった。どんな顔すればいいのか、どう謝ればいいのかなんて、答えは出ねぇし、それを出すには俺達は.........」

 

 

黒沼「.........まだ、未熟で若すぎる」

 

 

 悲しげな声で、二人はそう言ってくれた。それに同調する様に、周りの皆も、首を縦に振る。俺一人だけの、悩みだと思っていた。どうやらそれは、俺の独りよがりだったらしい。

 俺はもう一度、彼女の方を見た。今度はしっかりと、決して、自分が逃げないように恐怖と後ろめたさを押し殺して、彼女を見た。

 その目は、真っ直ぐだった。真っ直ぐ俺の目を見ていた。それは俺を責めるわけでも無く、哀れんだり、慰めるようなものでも無い。

 ただ、未来を見ている物だった。

 

 

ブルボン「.........これで、これからについてのお話が出来ます」

 

 

桜木「.........これから」

 

 

ライス「ど、どうするの.........?」

 

 

 俺を含めた全員の視線が、ベッドの上にいるミホノブルボンへと向けられる。皆、彼女の次の言葉を待っている。

 外の風が、気持ちの良いそよ風が部屋の中へと入り、窓のカーテンや、ここに居る者達の髪を、少し揺らす。そんな中で、彼女は口を開いた。

 

 

ブルボン「走ります。これからも」

 

 

桜木「.........」

 

 

 それは、決意に満ちた表情だった。決して、他の誰かにも変えられることの出来ない、確固たる彼女の意志であり、彼女にとっての、確定事項。

 .........でも俺は、それに納得することが出来なかった。

 

 

桜木「.........なんでだよ」

 

 

桜木「なぁ、なんでなんだ.........?だって、お前の夢はもう.........!!!」

 

 

全員「.........」

 

 

桜木「なぁブルボン。それがもし、俺や、他の皆に対して感じている恩義への返しだと言うんだったら、俺達はそんなこと望んじゃ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違います。これは、私の[新しい夢]の為です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そよ風が一層強く、部屋の中へ吹き抜けた。それでも彼女は、根っこを張った大木みたいに、身体を微動だにさせず、俺に向かってそう言った。

 

 

ブルボン「確かに、私の夢は[無敗の三冠バ]になる事でした」

 

 

ブルボン「そしてそれは、今でも私の[夢であった]と言えます」

 

 

桜木「じゃあ.........どうして」

 

 

 純粋な、疑問だった。今までそれから逃げ続けてきた俺にとっては、不思議としか言い様のない答えだったからだ。

 [夢が壊れる]。それは、俺も一度経験している事だ。今までその為に、その為だけに生きてきた人間が、それを壊されればどうなるかを、俺はよく知っている。

 その筈なのに、今この目の前にいる少女は、そうならない。壊された夢を、夢ではないと偽ること無く、しっかりと向き合い、克服し、前へと歩き出している姿に.........俺は、疑問を抱いていた。

 

 

ブルボン「.........ライスさん」

 

 

ライス「!」

 

 

ブルボン「私は貴女に、夢を奪われてしまいました」

 

 

 そうだ。ブルボンは、最後の最後で、あと一歩というところで、ライスにその夢を阻まれてしまった。そしてライスも、その事に負い目を感じている。

 だが彼女は、なんて事ないように言ってのけた。その姿に、ここに居る全員が緊張する。

 

 

ブルボン「.........でも、何故でしょう。負けた相手が貴女で良かったと、思ってしまったのです」

 

 

ライス「え.........?」

 

 

 俯いていた顔を上げ、ブルボンの顔を見るライス。その顔は驚きの表情に満ちていた。彼女自身、そう言われるとは思っていなかったのだろう。それは、ここに居る全員も同じであった。

 

 

ブルボン「私は、皐月賞とダービーを無敗で制しました」

 

 

ブルボン「貴女は、菊花賞を制した上に、それが初めて勝利を収めたGIレース.........」

 

 

ブルボン「そう。私達は.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人揃って[無敗の三冠バ]なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「だから、貴女も胸を張って、走り続けてください」

 

 

ブルボン「私はもう一度.........貴女とレースで走りたい」

 

 

 そう言って、彼女はライスに微笑みかけた。そんな彼女の姿に、俺は、一つの友情の極地を見た。

 これからも走り続ける意志。そして、共に走ろうとする意志。その思いを全て、彼女はライスへとぶつけていた。

 

 

ライス「ブルボンさん.........」

 

 

ライス「ブルボン、さん.........!」

 

 

 そのブルボンの言葉が、心の底にまで届いたのだろう。ライスはその目に、涙を貯め、遂には頬へと流れて行った。

 しばらくの間、彼女のすすり泣く声が病室に響いた。彼女をスカウトした時も聞いたはずの声だが、今はもう、あの時とは印象が違って見える。

 ただの泣き虫な少女は、ここには居ない。今の彼女は、泣き虫だが、とても強い心を持った少女だった。

 その証拠に、先程まで両手で顔を覆っていた彼女は、学生服の袖でその涙を拭い、未だ光を乱反射させる瞳を俺に向けてきた。

 

 

ライス「お兄さま.........!」

 

 

ライス「ライス、やっぱり変わりたい.........!!!」

 

 

桜木「ライス.........」

 

 

 未だにその目に涙を滲ませながらも、彼女は力強い決心を感じさせる表情で俺に顔を向け、そう言った。

 今までに見た事ない、気迫とやる気に満ちているライスに若干気圧されながらも、俺の気持ちは、嬉しさでいっぱいだった。

 

 

ライス「皆に認められるようなライスに.........ブルボンさんが負けて良かったと思われるライスに.........!変わりたい!!!」

 

 

桜木「.........そうだ」

 

 

桜木「変わる責任も義務も無い。けれど、変われる権利は、誰にだってあるんだ」

 

 

 変わりたい。その強い意志と心が、俺を包み込む霧を晴らしていく。そして、たどり着くべき場所に、俺を導いてくれる。

 俺は、[夢追い人]であり、[夢守り人]であり、[夢探し人]だ。こんな暗闇で突っ立っていても、変わる事なんて出来やしない。

 光なんて無い。それでも、その場でグルグル回ってた方が止まっているよりずっとマシだ。そっちの方が、自分を誇れる筈なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [苦しみ]の影が引いていく

 

 

 [悲しみ]の足音が遠のいて行く

 

 

 [悪夢]が切り払われ視界が開く

 

 

 [???]のヒントLVが1上がった!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(うじうじ考えるのは止めだ。どう考えたって答えは出ないし。何より俺の性にあわない)

 

 

 今はまだ、何が正しいかなんて分からない。この選択が、ブルボンをまた走らせようとする選択は間違っているのかもしれない。

 けれど、それはもう俺にはどうすることも出来ない。彼女達の選んだ道を、俺が変える訳には行かないんだ。

 そう思い、一人決意を固めていると、隣に誰かが立つ気配を感じ、そっちの方に視線を向けた。

 するとそこには、俺と同じタイミングで、俺の方を少し見上げて居るマックイーンが、真剣な眼差しで立っていた。

 

 

桜木「.........マックイーン?」

 

 

マック「トレーナーさん。私にも、ライスさんとブルボンさんのお手伝いをさせて下さい」

 

 

 彼女はそう言って、俺にニコリと笑いかけて来た。そしてその視線を俺から、ライスの方へと移すマックイーンの表情は、優しさを感じる柔らかい物だった。

 

 

マック「ライスさん」

 

 

ライス「ひゃ、ひゃい!!」

 

 

マック「貴女の覚悟、そしてブルボンさんの思い。確かに伝わりました」

 

 

マック「.........ですから、そのお手伝いをさせて下さい」

 

 

 彼女は優しくライスに対して言った。俺に背を向けてはいるが、その顔は先程見た時より、優しさに満ち溢れた物だろう。

 そして、彼女は深呼吸をする。何かを覚悟するように、息を大きく吸って、ゆっくりと吐き出して行った。

 そんな彼女の行動を見守っていると、覚悟が決まったのか、俺の方へ振り返った。そこには先程の優しさはなく、覚悟を決めた彼女がそこに居た。

 

 

マック「トレーナーさん」

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「私は産経大阪杯に向け復帰しようと思います」

 

 

 拳を作るように握った片手を、胸に当てるマックイーン。瞳を閉じながら、その決意を俺に真っ直ぐと伝えて来る。

 .........きっと、そうだろう。彼女と長く過ごしてきた今の俺には、分かってしまう。それでも彼女は、仲間の為、友の為、その選択をしようとしている。

 俺は目を閉じた。今度は、逃げる為じゃない。向き合う為に。しっかりと受け止める為に、心の準備をした。彼女の口から出る結論を、否定せず、肯定する為に.........

 

 

マック「.........お願いします。来年の春の天皇賞」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライスさんと競わせてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 .........分かっていた。彼女がそれを言うのは、察していた。けれどそれは、分かっていたつもりで、察していたつもりだった。実際にそれを聞いた衝撃は、思ったより強かった。

 やっぱり。俺は弱い。一人じゃ立てないダメな人間なんだ。闇は晴れた筈なのに.........また、見えなくなって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぎゅっ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「え.........?」

 

 

マック「.........貴方が何も言ってくれないと、今のは全て、私の虚勢になってしまいます」

 

 

 確かに感じる、右手の温もり。不安そうな表情を見せる彼女の両手が、俺の手を優しく、そしてその存在を確かめるように包み込んでくれている。

 それが何よりも暖かくて、光が差し込まない闇の中を歩く、勇気になってくれる。こんな所で、未来を憂いている暇など無い。俺はその右手をゆっくりと上げ、彼女の両手を左手で覆った。

 

 

桜木「.........分かった。それが君の選んだ答えなら、俺はそれを支える」

 

 

桜木「それが、[トレーナー]だ」

 

 

マック「!.........ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

 不安げだった表情が、ゆっくりといつも通りの自信と気品に満ちた表情に戻って行く。俺の心はようやく、いつも通りの穏やかさを取り戻す事が出来たようだ。

 

 

桜木「いつもごめんね.........俺、助けられてばっかりだ」

 

 

マック「.........それは、こちらのセリフです」クスクス

 

 

桜木「え?」

 

 

 疑問の声と表情がつい出てしまう。それが聞こえたのか、彼女は若干顔を紅潮させ、咳払いをして俺から身体を背けた。

 

 

マック「もちろん!やるからには勝つつもりでやりますわ!.........だからライスさん」

 

 

ライス「!」

 

 

マック「.........お互い、全力を尽くしましょう」

 

 

 彼女はライスの方へと近付き、手を差し伸べながら言った。ライスは戸惑いながらも、決心を決めて行き、やがてのその手を力強く取り、握手を交わした。

 

 

 こうして、春の天皇賞で、メジロマックイーンとライスシャワーの激突が起こる事が今、約束された.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライスが覚悟を決め、マックイーンが決心した冬の日から、気がつけば、桜が既に散り、その枝には緑がちらほらと見え始めるようになった。

 普段であれば長く、そして楽しく過ぎて行った時間も、今年はとても短く感じてしまった。それは、俺の感性が完全に大人に近付いたことを示していた。

 

 

マック「では、行ってまいります」

 

 

ライス「行ってくるね!お兄さま!」

 

 

 薄暗い地下バ道。その二人の姿を見る俺は、正直まだ、複雑な気持ちだ。また.........どちらかが負け、どちらかが勝つ。どちらもという選択肢は、どこにも存在していない。

 

 

桜木「.........なぁ、二人とも」

 

 

二人「.........?」

 

 

 俺に背を向け、歩みを始めようとした二人を呼び止める。その二人の表情は既に、この先どうなろうとも後悔は無い。そんな事を物語るような強い意志が宿っていた。

 そんな二人の足を引っ張る訳には行かない。俺はトレーナーだ。たとえ自分が力不足だと自覚していても、彼女達が俺を信頼してくれている。ならばそれに答えられなければ、俺は俺を、この先認めることなど到底出来ない。

 

 

桜木「この先、何が待っていようと。俺は二人を支える」

 

 

桜木「例え、何を言われようとも。俺はそいつらに向かって、堂々と文句を言う」

 

 

桜木「だから、後の事は気にせず―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ってこい。二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、二人の普段通りの姿を待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、自分の本心を二人に打ち明ける。俺は弱くて、本当にダメな大人だ。ここで、ライスに勝ってこいとも、マックイーンに頑張って来いとも言えない男だ。

 .........それでも俺は、彼女達がこの先も変わらず、笑っている姿を待っている。普段通りの日常が戻ってくる事を、皆と変わらず、変わっていく日常を送りたい。

 

 

マック「.........ふふ」

 

 

ライス「.........えへへ」

 

 

桜木「?な、なんか変だった.........?」

 

 

 キョトンとした顔でお互いの顔を見合った後、二人は示し合わせたかのように、一緒のタイミングで笑った。

 何か変な事を言ってしまっただろうか?そんな俺の心配をよそに、二人はまた、俺に背を向けて歩いて行こうとする。

 

 

マック「そんな所ではなく、もっと高い所で待っていてください」

 

 

ライス「うん!ライスもマックイーンさんも、お兄さまが居る所なら必ず行くから.........!」

 

 

 背中を見せつつも、横顔を見せながらマックイーンはそう言い、ライスは俺に身体の前面を向け、力強くそう言った。

 .........二人とも、本当に強くなった。そして、以前とは大きく変わったと思う。俺が取り残されてしまったと、思ってしまう程に。

 

 

 天皇賞・春。春の桜が散り終わり、その代わりと言うように、彼女達が陽の光を浴びた途端、人々の声が辺り一面に散りばめられる。

 春の風が吹く、日本GIレース最長距離。春の天皇賞の激突が、始まろうとしているのであった.........

 

 

 

 

 

 ……To be continued

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