山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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第四部 夢壊れ人編
気づいたらトレーナーやってて五年も経ってた話


 

 

 

 

 

 春の天皇賞。マックイーンとライスの激突も終えた三日後。俺達は海外研修生としての役目を終え、祖国へと帰るニコロを見送りに来ていた。

 

 

ニコロ「.........世話になったな」

 

 

桜木「ああ、まぁ世話してやったのか世話になったのか分かんねぇけど.........楽しかったよ。お前の居た日常は」

 

 

 少ない荷物をトランクに詰め、空港のロビーでそう言うコイツに対して、俺は笑った。別れと言うのは、涙よりも笑顔の方が良い。

 既に、コイツが居る日常に、俺達は慣れてしまっている。それを表すかのように、ここに集まった面々は、寂しそうな表情をする。

 

 

マック「こう、なんと言いましょうか.........少し寂しくなりますわね.........」

 

 

ニコロ「なんだ、俺はこの男を殺そうとした奴だぞ?」

 

 

マック「立場、というものがあるでしょう?少なくとも、今の貴方は立派なトレーナー見習いさんですわ」

 

 

 ぐうの音も出ない。そのような反応をニコロが見せると、討論に勝ったというようにマックイーンは胸を張り、そっぽを向いた。

 やれやれ、という苦笑いをしつつも、俺はこの二人がもうそこまで仲良くなくはないという事は知っている。むしろ、俺が居ない時に良く話していると言うのは人伝で聞いている。まぁ、殆どがトレーニング関連の事務的な物だが、それでも信頼を寄せている証拠だ。

 

 

ブルボン「ステータス[寂しい]を確認。マスターが居なくなった時程ではありませんが、微弱なそれを感じます」

 

 

ウララ「また遊ぼうね!!ニコロさん!!」

 

 

ニコロ「え!!?い、いや違うぞ!!俺はリッティンだ!!!」

 

 

黒沼「.........なぜニコロなんだ?」

 

 

 ウララに勢いよく近づき、人差し指で静かにしろ、というサインをするニコロ。それに気付いたウララはその口を可愛らしく両手で塞いだ。

 だが、疑問に思った黒沼さんが俺に質問を投げかけてきた。う〜ん面倒臭い。これは適当に流そう。

 

 

桜木「ほら、コイツ笑顔下手くそじゃないっすか」

 

 

黒沼「ああ」

 

 

ニコロ「え」

 

 

桜木「ニコって呼べば上手になるかな?って過程を経て皆が呼びやすいようにニコロってなったんです」

 

 

黒沼「なるほど」

 

 

 この人は腑に落ちたのだろう。納得と感心した様子を見せている。一方のニコロはどうやら今まで上手く笑えてたと思っていたらしい。少しショックを受けている。安心しろ。ド下手だお前だ。

 そしてそれを聞いていた俺の親友達は大声で笑っている。「ざまぁw」とか「悔しいでしょうねぇw」とか「ねぇどんな気持ち?今どんな気持ち?w」とか言ってる。死にてぇのか?

 

 

沖野「まぁまぁ、そう言う経験が出来て良かったじゃねぇか。あっち行ってから気付くのとじゃ偉い違いだぞ?」

 

 

ニコロ「むっ、そ、そうか.........?」

 

 

東「そうそう。名は体を表すとも言うからな。これから笑顔が似合う男になるさ」

 

 

 渋々、と言った感じで何とか引き下がってくれた。沖野さんと東さんが居てくれて良かったな。居なきゃ今頃死んでたぞお前ら。

 

 

デジ「うぅ〜、あのエキセントリックな動きが出来る人がいなくなると、デジたんの創作の幅ガガガガガ」

 

 

タキオン「大人しく桜マクを描きたまえよデジタルくん」

 

 

黒津木「そうだそうだ!!!」

 

 

桜木「お前ら何言ってんの!!?」

 

 

 酷い爆弾投下を見た。まさかこんな所で投下されるとは思わなかった.........こんなの、彼女が聞いたら怒ること間違いなしだと言うのに.........

 そう思い、チラリと後ろを振り返り彼女の様子を見てみる。しかし、何の事か分かっていないのか、首を傾げて少し待ってから、俺の方へと近付いてきた。

 

 

マック「あの、さくまく.........?とは一体.........」

 

 

桜木「えっちな奴だよ」

 

 

マック「!!?だ、ダメです!!!学生の身分である者がそんなふしだらな!!!」

 

 

タキオン「まぁ良いでは無いかマックイーンくん♪」

 

 

桜木(コイツ.........否定をしねぇって事はマジでそういうの描かせるつもりだったんか?)

 

 

 目の前で暴走しかけているマックイーンにちょっかいを掛け遊んでいるタキオンを見て俺は心底震え上がった。これからの監視対象としてデジタルから目を離さないようにしなければならない。

 しかしこのDr.メガニ=ゴッテル。欲望に忠実と言うか、そう言う性的な物に関しての、なんかこう.........欲というか、アレな感じを感じ取れない。責めて感じてくれ。感じてないから楽しむ為だけにそれやってるんだろう?酷いやつだ。

 

 

ダスカ「う、嘘ですよね?タキオンさん?」

 

 

タキオン「.........あっはっはっ!勿論嘘さ!いやぁ〜マックイーンくんをからかうのは楽しいねぇ〜?」

 

 

マック「こ、この人は!!!一度お灸を据える必要がありますわ!!!」

 

 

桜木「だァァァやめろ!!!こんな場所でそんな事しちゃ行けない!!!」ダキィ!

 

 

マック「離して!!!チームのエースの威厳に関わる事よ!!!」ジタバタ!

 

 

 拳を振り上げているマックイーンを背後から慌てて羽交い締めする。こうでもしないとこの子本当にやっちゃうのよ.........最近ちょっとワガママになっちゃって.........

 じたばたと暴れるマックイーンの気が沈むのを待っていると、先程タキオンに失望し掛けていたスカーレットの肩に黒津木が手を置いた。

 

 

黒津木「見てごらん?アレが桜マクだよ?」

 

 

ダスカ「え、あれが?」

 

 

黒津木「えっちな物と、桜マク。どちらが、上かな?」

 

 

桜木「やめろォ!!!そのネタは今旬すぎてあぶねェ!!!」

 

 

ダスカ「.........桜マクね」

 

 

桜木「君熟考して答えそれなの!!?」

 

 

 顎に手を当て真剣に考えた末の結論。そういえば君、結構脳筋寄りの思考だったね.........すっかり忘れてた.........

 もう既に収集がつかなくなりつつあるこの現状。今日はお別れをしに来たというのに、既にそんな雰囲気は微塵も感じられない。

 

 

沖野「あぁぁぁぁ収集が付かん!!!白銀!!!お前止めろ!!!」

 

 

白銀「へぇ!!?白銀選手がここに居るんですか!!?」

 

 

全員「お前(貴方)だよ!!!」

 

 

白銀「はい止まった〜w俺様ってやっぱ.........罪?」

 

 

ゴルシ「何の罪だよ.........」

 

 

 バカのバカな発言で非常に、ひっっっじょ〜〜〜に、不本意ではあるが、何とかこの場は収まった。

 そんなバカの姿を見て自分達のやっている事がバカバカしくなったのか、バカな行為は皆止めてくれた。良かったバカな子じゃなくて。

 

 

ニコロ「.........では、そろそろ行くとしよう」

 

 

桜木「まぁ待てよ。ライス?」

 

 

ライス「うっ、あの.........えっと」モジモジ

 

 

 今までこの集団からちょっと外れた位置に居たライスを呼び寄せる。前々からニコロに伝えたい事があったらしいのだが、お互い忙しくて中々そんな機会に巡り会えなかったらしい。

 ここが最後のチャンス。俺は彼女が勇気を出せるよう、そっとその背中を押し、その後を見守った。

 

 

ニコロ「.........どうした?」

 

 

ライス「!」

 

 

 自分の前へと出てきたライスに視線を合わせるように、片膝を地面に着き、優しくそう問いかける。なんだ、結構良い笑顔出来んじゃねぇか。

 その問いかけに、ライスはドキッとした表情を見せ、可愛らしい顔に赤色をほんのり上乗せした後、勇気を出そうと拳を両手に作り、胸の位置まで待って行く。

 

 

ライス「あ、あのね?お礼。言いたくて.........」

 

 

ライス「ライス、ニコロさんのお陰で、あの時言ってくれた言葉のお陰で、変われたの」

 

 

ライス「辛い事も、あったけど.........変わって思ったんだ」

 

 

ライス「ライス、これからきっと、[良い人生]を送れるって!」

 

 

 嬉しそうに、そして楽しそうに、そう報告してみせるライス。それを聞いている奴の表情は、心地良さそうであった。

 でも、まだ肝心な部分を伝えられていない。彼女が本当に伝えたい部分は、他にある。

 大きく深呼吸をする音。それは彼女から発せられている。目の前でそんな事をされて、少々驚いているニコロではあるが、奴も俺達と同じく、彼女の事を見守っていた。

 

 

ライス「.........またね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコロ.........お兄さま!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコロ「.........な、え?」

 

 

ライス「.........〜〜〜///」ササササ!

 

 

 勇気を出し、自分の思いを伝えたライス。突然の事で酷く狼狽えを見せるニコロの表情を見て、恥ずかしさがMAXになってしまったのだろう。彼女は先程よりも大変離れて行ってしまった。

 どういう事か、そういう視線を俺の方に送る。こう説明ばかりするのも疲れた。俺は白銀の方に向くよう親指で指し示す。

 

 

白銀「あん時言ったろ?[認めてやる]って」

 

 

神威「これで晴れて、お前もお兄さまブラザーズの仲間入りって訳だ」

 

 

黒津木「ようこそ、兄の世界へ」

 

 

桜木「そゆこと。バカンスには日本に来いよブラザー?可愛い妹が寂しがるからな」

 

 

ニコロ「.........フッ、検討しておこう」

 

 

 目を伏せて静かに笑う男。その男に釣られ、この場にいる全員が笑みを零す。そんな団欒する時間も、飛行機の機内へと案内を促すアナウンスが流れる事で、終わりを告げてしまう。

 奴は今度こそ、ここから.........日本からアメリカへと、帰ってしまう。

 

 

桜木「.........またな」

 

 

 その声に振り向くニコロに、人差し指と中指を伸ばして自分の額に着ける。俺の期待、俺の願い、俺の思いを渡すように、その指先を奴へと向けた。

 

 

ニコロ「.........次に会う時は、お互い同じ土俵に居よう。それまではこう呼ばせてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会おう。[Mr.桜木]?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........はは、そういやぁ。そう呼べっつったっけな。デトロイトん時は」

 

 

 懐かしい記憶が掘り返される。あの時の若さが今頃になって恥ずかしさを帯びて帰ってくるのは、中々酷いトラップだ。人生、そんな罠だらけだ。

 けれど、それがいいのかも知れない。その方が良いのかも知れない。後から振り返っても恥ずかしくない人生なんざ、つまらない物だ。

 そう思っていると、今度は奴が俺のした事を真似るように、二本の指先を額に着けてから、俺たちにシュッと向ける。

 

 

ニコロ「.........じゃあな」

 

 

 その言葉を最後に、ニコロは空港のロビーを去っていった。

 春が終わりを告げ、夏に入るという季節の移り変わり。誰かと誰かの出会いを示唆する様に、俺達は、ニコロとしばしの別れをしたのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........はぁ」

 

 

 桜が散り、完全に夏へとシフトして行く季節の流れ。そんな中で俺は一人、溜息を吐いた。

 外の空気は澄み切って居て、汗を流し青春を謳歌しつくそうとひた走るウマ娘達を見ながら、俺は何の気なしに溜息を吐いたのだ。

 

 

沖野「なんだ、悩み事か?」

 

 

桜木「ええ.........まぁ、そんなとこっすよ」

 

 

 桜を一足先に散らし切り、緑を付け始めた大木に背中を預け座り込む。沖野さんはそんな俺から離れる事はなく、その背中を大木に預けた。

 

 

桜木「知ってました.........?五年経てば、自動でベテラントレーナーになるシステム」

 

 

沖野「知ってたも何も.........入職式の時に聞かされたろ」

 

 

桜木「生憎、古賀さんに引っ張り回されてさぼりんりんのりんなんですよ」ヤレヤレ

 

 

 酷い話もあったものだ。そんなシステムの話など聞かされたことなんて無い。なんせ居なかったんだもの。改めて説明してくれるとかして欲しかったものだ。

 これでは、以前その話を蹴った俺がバカバカしいじゃないか。結局遅いか早いかの違いでしか無い。

 

 

沖野「おいおい.........そもそもだなぁ?この中央で五年もトレーナー出来る奴なんて本当にひと握りなんだぞ?」

 

 

桜木「そりゃ知ってますよ.........けど俺のは実力じゃなくて、マックイーンとか、他の子がいたから.........」

 

 

沖野「それだよ」

 

 

桜木「.........?」

 

 

 俺の声を遮り、何かを指摘してくる沖野さん。しかし、俺としてはそれを察する事が出来るほどの材料を持ち合わせていない。

 続きを喋ろうとしない沖野さんの顔を伺おうと見上げると、そんな俺の心の内を察したのか、彼は真剣な表情から次第に緩んでいき、溜息を吐いた。

 

 

沖野「お前さん、マックイーンがどうとか、他の子がどうとか言うがなぁ?才能を見つけて伸ばすっつうのも大変なんだよ」

 

 

沖野「勿論、才能があまりない子を育てるのも大変だが、それと同じくらい大変なんだ」

 

 

沖野「.........お前のチームメンバーは少なくとも、お前がトレーナーで良かったと思ってるよ」

 

 

桜木「.........そう、なんすかね」

 

 

 いまいち、そんな実感が湧いてこない。俺がトレーナーで良かっただなんて、俺自身はそう思えない。

 こんな男よりも、もっといい人格者はいる筈だ。遠目からマックイーン達が柔軟している姿を見て、心の底からそう思う。

 ここは、この場所は、この[トレセン学園]の[チーム スピカ:レグルス]は、俺の[居たい場所]だ。それを譲るつもりは毛頭ない。

 それでも、考えてしまう。それは俺のわがままで、彼女達にとって、いいトレーナーが絶対に他に居るはずなんだと。

 

 

桜木「.........俺、ここに居ても良いのかな」

 

 

沖野「.........良いに決まってんじゃねぇか、よっ!」ボカンッ!

 

 

桜木「いっっった!!!??」

 

 

 頭に鋭い衝撃が落ちた。それに数瞬遅れて、鈍い痛みがじわじわと広がって行く。ジンジンと痛む頭を押えつつ、俺は沖野さんの方を見た。

 そこには、珍しく本気で怒っている彼の顔と、痛そうに右手を振る姿があった。

 

 

沖野「あんましバカな事言ってっと、マックイーン呼ぶぞ」

 

 

桜木「.........うっ」

 

 

 痛い。それは非常に痛い提案だ。拳骨よりも痛い。あんな話彼女に聞かれた日には丸一日問い詰められる事になる。それだけは絶対に避けたい。

 .........みんな、優しい人達ばかりだ。ここに居ると、どうしても強くあろうとすることが出来なくなる。それに甘えたくなってしまう自分が居る。

 

 

沖野「お前がどう思おうが、俺達はお前を必要としているし、俺達がお前を遠ざける事は無い」

 

 

沖野「ただでさえこの前一人抜けちまったんだ。縁起でもねぇこと言うなよ」

 

 

桜木「.........うっす、肝に銘じておきます」

 

 

 全く、そう言って沖野さんはまた一つ溜息を吐き、話を終えた。俺もこれ以上、この話を広げるつもりは無い。

 正直に言ってしまえば、まだ迷っている。ここに留まっていて良いのか、どうしてそんな考えがいつも頭に過ぎるのか、俺には分からない。

 時折無性に、逃げ出したくなる時がある。衝動に駆られて、誰も知らない、誰も居ない所に隠れてしまいたい時がある。

 けれどそんな時はいつも、彼女達の.........マックイーン達の顔が思い浮かんで、衝動が収まってくれる。

 

 

桜木(辞めたい.........訳では無いんだけどなぁ)

 

 

「何の話してたんだ?」

 

 

桜木「俺がここに居ても良いのかって話ですよ〜」

 

 

沖野「.........あーあ」

 

 

桜木「.........?あっ」

 

 

 どこからとも無く聞こえてきた声に律儀に先程までの話をする。こう、考え事をしていると周りが見えなくなってしまうんだ。俺の昔からの弱点。直りようもない。

 そして、それを聞かれた相手は.........

 

 

ゴルシ「ふーん」

 

 

沖野「俺知〜らねっ!」ダッ!

 

 

桜木「あっ!!?ねぇちょっとぐぇ!!?」

 

 

 その場から走り去ろうとする沖野さんに手を伸ばした。それでは届きそうになかったので身体の体勢を変えてさらに伸ばす。あともう少し、そんな所で手の前進、そして身体の動きが止まる。止められる。

 

 

ゴルシ「どういうこったー?おっちゃん!」

 

 

桜木「ぐるじぃ.........ギブ、ギブ.........」パタパタ

 

 

 俺の首をその両腕で締め上げるゴールドシップ。俺はそれに抵抗するように彼女の腕にパタパタと手を当てる。

 意識が飛びそうになる寸前で、少しだけ力を緩められる。しかし、完全に解かれた訳ではなく、今も俺の身はこの人類にとって道具が無い状態では全く歯の立たない同じ知力を持った天敵、ウマ娘が拘束している。

 

 

ゴルシ「あっ!そっか!分かっちまったぞゴルシちゃん!!」

 

 

桜木「えっ」

 

 

ゴルシ「そうか.........おっちゃんも遂に、ゴルシップ海賊団の副船長兼ペットとして、アタシと長い、長〜い船旅をする覚悟が出来たんだなー.........!!!」

 

 

桜木「い、いや俺は遠慮―――」

 

 

ゴルシ「.........マックイーン!!さっきおっちゃんが」

 

 

桜木「あぁぁぁぁぁ!!!なぁぁぁんか急に!!?船旅したくなったんですけど!!?船旅する為に?電卓検定取りたくなったんですけど!!!」

 

 

 何とかマックイーンへ告げ口される事は避けれた。だが同時にエデンへと目指す船乗りの一行として正式にメンバー加入してしまった。

 大丈夫?それ、下手したら三十年くらい旅しない?後五年で終わる五年で終わるって言ってその後五年以上旅する奴じゃない?

 

 

桜木(ごめん、助けて誰か.........!!!)

 

 

 

 

 

『.........彼、大変そうだけど良いの?』

 

 

マック(え?ああ、いつもの事ですから.........)

 

 

 突然、また突拍子も無く声が聞こえてきました。その陽炎の言った[彼]、つまりトレーナーさんのことです。

 彼が先程まで居た大木の方を見てみると、ゴールドシップさんに捕まり、何やら騒いでいる様子が見て取れました。

 

 

『.........そういえばなんだけど』

 

 

マック(?)

 

 

『いつ告白するのよ?』

 

 

マック「!!?けほっ!けほっ!!!」

 

 

 予想だにしない言葉を受け、驚いた拍子に飲み込もうとした唾液が気管に詰まり、思わず咳き込んでしまいます。おばあちゃんですか私は。

 まさか.........いえ、あの日にもうコレは他の野次ウマと同じものだと悟ったのです。こう来る事はある意味予定調和.........

 

 

マック(い、良いですか?彼も私も、今はこの学園に属する、この学園の規律を重んじるべき人間なのです)

 

 

『別にいいじゃない』

 

 

マック(貴方.........)

 

 

『あらごめんなさい。こう見えても規律とはほぼ無縁の暮らしをしてきたものだから』

 

 

 おほほほ、とわざとらしい笑い声を上げて、この人は私を挑発してきます。我慢.........我慢よメジロマックイーン。最近あの人のせいか知らないけど、気性が荒立ちやすいんだから.........

 

 

『けど、最近行動に移せてないじゃない?』

 

 

マック(.........ええそうですねごめんなさいねヘタレで奥手で臆病で)ドヨ〜ン

 

 

『うわ、暗.........』

 

 

 心の中に重い何かを落とされたように、気分が落ちていきます。分かっています、分かっているんです.........彼から告白を待つ行為が、自分に自信が無いという事の証明だということは.........

 

 

マック(.........でも、でもでも!仕方ないじゃない!私だって女の子なんだもの!好きな人から告白くらいされたい!!!)

 

 

『じゃあそれっぽい雰囲気を作ってみるとか?』

 

 

マック(.........恥ずかしいわ///)

 

 

『全くこの子は.........』

 

 

 その存在は朧気で、とても姿など見えないような陽炎なのですが、何故か頭を抱えている姿を容易に想像できました。

 その陽炎の気配が完全に消え、この場には一人、筋力トレーニングをする私だけとなりました。

 

 

マック(.........あれから、もう五年も経ってしまうのね)

 

 

 先日の天皇賞。彼と出会い迎えた春は四回、彼と出会い過ごした春は五回目となります。

 彼の支えと、チームメイトの協力の日々。それは、私の心に、決して一人では、そして、決して二人では得られない特別な強さが宿っていると感じます。

 

 

マック(.........そういえば)

 

 

 ふと、春の季節となった今年のトレセン学園の出来事を思い出します。

 中等部だった私も、今年からは高等部。トレセン学園の進級制度は、取得単位によって決まります。去年の内に中等部で修める学業の単位を取得し終えた私は、今年から晴れて高等部.........

 それも感慨深い物を感じますが、それよりも大きな出来事がありました。それは.........

 

 

やよい『宣言ッ!二年後の一月よりっ、URAファイナルズの開催をここに決定するッッ!!!』

 

 

 テレビで大々的に、その私よりも幼い姿とは裏腹に、強かさと自信の大きさを見せてそう発表するトレセン学園の秋川やよい理事長の姿が思い起こされます。

 

 

マック(.........一体、どのようなレースになるかはまだ、予想も付かないけど)

 

 

マック(彼と一緒なら、何とかなりそうと思っちゃうのは、ちょっと傲慢よね)フフ

 

 

 二年後に始まるであろう、全コース、全距離を含めた、今まで歴史上見た事もない大規模なレース。トレセン学園の強者、まだ見ぬ中央外の猛者も来るかもしれません。

 だと言うのに、この心は今まで感じた事が無いほど弾んでしまいます。今の私が、一体どれほどの実力を持っているのかを試す、絶好の舞台です。

 

 

マック「.........よろしくお願いしますわね、トレーナーさん.........♪」

 

 

 そう、遠くでいつの間にか木に縛り付けられて居る彼に対して、私は小さく、誰にも聞こえないような声で、彼への期待を込めた言葉を零し、つい小さく笑ってしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ直ぐと続く学園の廊下。その足の行先は、いつも通りのチームルームを目指し、直進している。

 だがしかし、その足取りは決して軽い物では無い。いつもの様に、呑気にその部屋に顔を出し、彼と彼女をからかう様な暇は無い。

 どうしてこうなった。どうして、こうならざるを得なかった。そんな問いや疑問を必死に押し殺しながら、私はそこを目指していた。

 

 

タキオン(何故?どうして?今更そんなものを説いても無意味だ。こうなってしまった以上、受け入れるしかあるまいよ)

 

 

 ゆっくりと、それでも確かにその一歩を踏み出して行く。辿り着く先がいつまでも来ないで欲しいと言うのは、研究者として有るまじき思考だ。

 まさか、とは思っていた。有り得る話だとも知っていた。それでも今までそれを見て見ぬ振りをしてきたのは、あのチームが生み出す空間が、妙に心地良かったからだ。

 それでも.........彼に対しては、多大な恩を感じている。この私の出した結論を伝えないと言うのは、それを踏みにじる行為だ。

 瞳を閉じ、静かに呼吸を整える。目の前にある扉に手を掛ける。そう。手を掛けたんだ。

 

 

タキオン(.........今更、鍵が掛かってて欲しいだなんて、案外私も意気地無しのようだね)

 

 

 触れた瞬間、反射的に手を引っ込めてしまった。その理由を冷静に分析し、私はもう一度手を掛け、その扉を開ける。

 それは、いとも簡単に開いた。目の前に広がるのは、いつも通りの光景。資料に目を落とし、後ろのホワイトボードに磁石をウマ娘に例えたレースプランと睨めっこしている彼がそこには居た。

 

 

桜木「ん?おおタキオン!実は話があってな!」

 

 

タキオン「.........ああ」

 

 

 ココアシガレットを咥え、先程までの真剣な表情から、まるで子供のような無邪気な顔をこちらに向けてそういうトレーナーくん。そんな顔をされれば、この決意も鈍ってしまう。

 

 

桜木「いやぁ、楽々皐月賞を制しましたアグネスタキオンさん!」

 

 

タキオン「.........」

 

 

桜木「見事な走りでした!そこで私は考えた訳ですよ!」

 

 

タキオン「.........っ」

 

 

 そう言って、彼は大きな巻紙を持ち出し、テーブルの上へと広げた。そこには、彼の大きな文字で書かれている[日本ダービー制覇!]という物を見て、私は息が詰まった。

 

 

桜木「次のレースだけどさ、メンバー的には皐月賞とそんな変わりないし、基礎トレーニング積んでけば良いと思うんだよ」

 

 

タキオン「.........トレーナーくん」

 

 

 .........やめてくれ。

 

 

桜木「あいやでも、今回は確かあの娘も出るよな.........それだけじゃ足りないか?」

 

 

タキオン「トレーナーくん」

 

 

 やめてくれ。

 

 

桜木「まぁでも大丈夫だろ!!!だってお前は、超光速のプリンセスのアグネス―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーくん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柄にもなく、声を荒らげた。普段しない事をしたせいか、その一回の声だけで、私の身体は体力を使い果たしたように疲れてしまう。

 彼の顔を見ることが出来ない。私は、彼が丹精込めて作り上げたその画用紙の計画表を上から見渡しながら、その心意を吐き捨てた。

 

 

タキオン「.........それは捨ててくれ」

 

 

桜木「.........え?」

 

 

タキオン「聞こえなかったのかい?[要らない]、と言ったんだよ」

 

 

 .........私はどうやら、期待を裏切るのが得意らしい。きっと彼は、私に全幅の期待を寄せていただろう。もしかしたら、三冠も取れるかも知れない.........と。

 それは、私も同じだ。出来ることなら、この足で、また柄にも無い事だが、歩いてきた道の証を残して見たかった。

 私は今まで、私の期待を裏切ってきたんだ。それが今度は私だけではなく、大勢になった。ただそれだけの事だ。

 

 

タキオン「私がここに来たのは、君に話があったからだ」

 

 

桜木「.........話って?」

 

 

 彼が静かに、それを催促する。言うつもりだ。ここに来て、それを言うつもりだったんだ。いつも通り、あっけらかんとした口調で、確定した未来を告げる為に来た。

 だと言うのに、私の行動はそれに矛盾している。机に置いた両手は画用紙を巻き込むように握り締め、口を開こうとしても、私の歯が、その唇を噛んで離さない。

 幾ばくかの静寂。安らぎの効果どころか、ストレスの要因の一つになっているこの静かな空気を終わらせる為に、私は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はもう、引退しようと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い棒菓子が、地面の上で跳ね返り、地面に落ちた事で発生した衝突のエネルギーをそのままに地面を転がって行く。

 そう、全ては、これと同じように当たり前の事だったんだ。最初から、決まっていた事だった。

 

 

 柄にも無く足掻いてきたこの数年間、春は出会いと別れの季節。私に訪れた春は、最初から対面していた真実との再会と、未だ未練を残している、競技シーンへの別れであった.........

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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