山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マック「か、怪談話ですか......?」T「ああ!!」

 

 

 

 

 

 夏。ジメジメとした日本の気候特有の湿気を多分に含んだ季節の始まり。普段なら、この暑さに頭がおかしくなりそうな人達が発生しますが.........

 

 

カフェ「では次は......私の番ですね......」

 

 

桜木「いよっ!待ってました!!」パチパチ

 

 

マック(なぜこんな事に.........?)

 

 

 時刻は午後7時。いつもの夏でしたら、この時間でも仄暗い程度の筈ですのに、今は雲が太陽を覆っているのか、まるで夜のよう.........

 何故、こんなことになってしまったのか。私はその原因を、恐怖を抑えつつ、思い返しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、いつも通りのトレーニングが終わった先日の事でした。私はチームのエースとして、黄昏時の綺麗な夕日が差し込むチームルームの中、皆さんの今日の様子を日記に書きまとめ、寮に帰る支度をしている時の事。

 

 

「やぁ、マックイーン」

 

 

マック「.........?トレーナーさん?」

 

 

 ニコニコとした表情で、彼は廊下から身体半分を出す形で私に声を掛けてきました。一体どうしたのでしょう?ここ最近はタキオンさんの脚やトレーニング方法について一人残ってお仕事をしているのに.........

 

 

桜木「いやー、流石にそろそろ暑くなってきてさ!!夏になるし、怪談話でもしようと思って!!」

 

 

マック「な、へっ?か、怪談話.........!!?」

 

 

 彼からその身を1歩引き、驚きます。なんせ彼は私以上の怖がり.........ファン感謝祭のお化け屋敷では、そのあまりの恐怖耐性の無さに私が驚いた程です。

 そんな彼が、そのような提案をするだなんて.........思わず私は、チームルームの温度計を見ましたが、まだ彼が頭をやられてしまうほど暑くなってはいませんでした。

 

 

マック「も、申し訳ありませんが、辞退という事には.........」

 

 

桜木「頼むよー!!他の子も呼ぶからさ!!ぜひマックイーンも!!」

 

 

 両手を合わせてお願い。という様に頭を下げる彼。うぅ.........そうされるととても断れないです.........

 私はため息を吐き、恐怖を隠しつつも彼のそのお願いに了承しました。いつも突拍子も無い彼の事です。きっとこれも思い付きで始めた事なんでしょう。

 開催は明日などという、偉く気の早い彼の計画を聞かされ、私は喜んで教室を出ていく彼を見送りました。

 

 

『.........良いの?参加しても』

 

 

マック「だ、だって仕方ないではありませんか.........彼の頼みですもの」

 

 

『そう。でもアレの誘いに乗るの、私は得策じゃ無いと思うけど』

 

 

マック「え?」

 

 

 突然現れたミスターM。その存在は乗り気ではなく、私に誘いを断るよう言ってきました。勿論了承した手前。それを無下にする事も出来ず、私はその誘いに乗ってしまったのです。

 それが、間違いであったことに気付かずに.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「いやー!こんなに集まってもらってありがたいなー!!」

 

 

マック「こ、これは.........?」

 

 

 開催当日。彼に案内されて入った教室の中には既に、ある程度人が集まっていました。そのメンバーは

 

 

 アグネスタキオンさん

 マンハッタンカフェさん

 ツインターボさん

 ライスシャワーさん

 イクノディクタスさん

 ゴールドシップさん

 白銀翔也さん

 黒津木宗也さん

 神威創さん

 

 

 なんともまぁ、見覚えのある人からなんでこの人まで?と言った方々まで、それぞれが時間を潰していました。

 

 

ライス「ま、マックイーンさん!良かったぁ〜。マックイーンさんも居るなら安心かも.........!」

 

 

マック「え?い、いえ。実は私もそれほど怖い話は.........その、得意ではなくて.........」

 

 

ゴルシ「なんだなんだー!!?怖い話ってどういうこったよ!!!アタシはこの教室にゴーストバスターズが来るって聞いたからサイン貰いにきただけだぞ!!?」ガタガタ

 

 

 どういう事ですか。何の話ですか。というより貴方も苦手なんですか。震えが酷すぎて軽く地面が揺れていますよ?

 産まれたての子鹿の様に震えを見せるゴールドシップさんを見て、私は彼の方を睨みつけました。

 

 

桜木「い、いや.........おっかしいな〜?俺ちゃんと説明したはずなんだけど.........」

 

 

マック「.........本当ですか?」

 

 

イクノ「ええ。間違いありません。桜木トレーナーからは、怪談話をすると言った話をしっかり聞きました」

 

 

ターボ「ターボも聞いた!!暑くてうがーってしてる時に来て、怖い話をすると涼しくなるって言ってくれたんだぞ!!!」

 

 

 .........なるほど、彼の性格からして、もしかしたら今回の事はターボさんが発端かも知れません。

 ええ、そうに違いありません。そうでなければあんな怖がりなこの人が自ら怪談話をするなんてこと絶対有り得ませんもの。

 そう自分に言い聞かせ、息をゆっくり吐きながら空いている席に座りました。隣には、タキオンさんとカフェさんが居て下さるので、少し安心します。

 

 

マック「.........?カフェさん?その大きいバックは一体.........?」

 

 

カフェ「.........ああ、ユキノビジンさんから借りた漫画が.........桜木トレーナーさんの物だと知ったので......そろそろお返しした方が良いかと.........」

 

 

神威「ドラゴンボール全巻あるぜ。俺も読ませて貰ったわ」

 

 

 あぁ.........彼から度々愚痴のように、俺の漫画は今どこにあるんだというボヤキを聞いていましたが、ようやく戻って来るのですね.........

 彼の心配の種が一つ消えることに安心するようにホッとため息を吐きましたが、両隣に座るお二人の雰囲気のせいで、その安心が少し揺らぎました。

 

 

カフェ「......一応、気を付けてください.........」

 

 

マック「?はい.........?」

 

 

タキオン「.........ふぅン」

 

 

 二人は、彼から一切視線を外すこと無く、言葉を発しました。気を付けるとは一体、どういう事なのでしょう?

 思考の沼にハマりかけたその時、窓から生ぬるい風が入り込んできて、私の背中をぬるりと撫でました。

 

 

マック「っ」ゾワゾワ...

 

 

桜木「今日の為にロウソクまで買ってきちゃったもんねー♪」

 

 

白銀「おっ!本格的じゃん!!」

 

 

神威「誰から行くよ!!誰から!!」

 

 

黒津木「コイツに決まってんだるろぉ!!?言い出しっぺなんだからよぉ!!!」

 

 

 ガヤガヤとした野次が飛び交う中で、彼はしょうがないと言って頭をかきます。いつもの雰囲気を感じさせるやり取りのはずですのに、なんだか不安が込み上げてきます。

 人数分のロウソクに火をつけ終え、彼は自分の手にロウソクを乗せたお皿を持ち上げて、話を始めました。

 

 

桜木「これは、同僚から聞いた話なんだけど.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から約十年前。走る事が好きで好きで仕方の無い一人のウマ娘が居ました。

 

 

 彼女は、それはもうレースに関わらず、走る事が大好きで、何かとつけて誰かと併走を約束したりして、毎日を楽しく過ごしていました。

 

 

 だけどある日、脚に違和感を覚え始めました。けれど、それを言ったら、暫く走ることが出来なくなるかもしれない.........

 そう思ったウマ娘は、その事を自分のトレーナーに言う事はありませんでした。

 

 

 日に日に、違和感は痛みへと変わりだし、周りから見ても彼女の変化はあからさまになった時、病院へ無理やり連れていかれた彼女は、こう申告されました。

 

 

 『繋靭帯炎』です。と.........

 

 

 今の医学でも、治ることはほぼ無いと言って等しい程の症状。彼女は絶望に打ちひしがれました。

 あの時、このことを話していれば、なんて、後悔してもしきれません。

 

 

 他の子が走る姿を見て、彼女は嫉妬と苦しみの渦の中でもがき続けましたが.........

 

 

 ある日、解放されました。

 

 

 トレセン学園の三階の教室。その窓から、飛び降りてしまったのです。

 

 

 けれど、彼女は身体を失ったあとも、まだ走りたい気持ちがあるのか、今でも夜な夜な、一人学園を彷徨って居るそうなのです。

 

 

 .........そう。自分が走る事の出来る身体を持つ、ウマ娘が現れてくれるまで.........彼女は学園の中を走り続けるのです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........ふぅっ」

 

 

マック「.........!」ゾクゾク

 

 

 話し終えた彼は、ロウソクの火を一息で吹き消しました。たった一つの火が消えただけなのに、空間の明るさはなんだか1段階暗くなった雰囲気があります。

 それになんだか、その話をしているトレーナーさんが、まるでトレーナーさんでは無いような気がしてきます。そんな事、ある筈がありませんのに.........

 

 

ライス「お、お兄さま.........!」

 

 

神威「め、滅茶苦茶怖ぇ.........!!!」ガクガク

 

 

カフェ「え......?良くある怪談話だと......思いますが.........?」

 

 

黒津木「何言ってんだ.........めっちゃ怖ぇよ.........!!!」カタカタ

 

 

白銀「玲皇に怪談話出来る同僚が居たなんて.........!!!」ブルブル

 

 

 あっ、そこなんですね。貴方達が怖がる部分.........思わず身体をガクリとさせてしまいます。

 ま、まぁ最初はあまり良いように思われていない彼ではありますが、これでも最近は周りのトレーナーの方との関係も改善されてきたと思います。それくらいのお話はするでしょう。

 次は誰が話をするのか、そう進行を務めるトレーナーさんですが、一人席に座っていない人が居るのに気がつきました。

 

 

桜木「.........あれ?ゴルシは?」

 

 

白銀「.........あ?」

 

 

黒津木「翔也」

 

 

 何故かトレーナーさんの言葉に反応する白銀さん。そんな彼を諌めるように、黒津木先生が肘で彼を突くと、何かを思い出したように悪いと言って、彼は黙りました。

 そんな様子を見ていると、ふと掃除用具を入れているロッカーがガタガタと震えているのが見えました。それに驚きの声を上げるライスさんと私ですが、タキオンさんは気にせず、そのロッカーを開けました。

 

 

タキオン「.........何をしてるんだい?」

 

 

ゴルシ「え?い、いや〜!!ちょっとゴルシちゃんワープの調子を確かめたくなっちゃって.........」ガクガクブルブル

 

 

 寒いなー寒いなー、と言って手で身体を擦るように温めながら、彼女はロッカーから出てきて席に着きました。震えが凄いのか、振動が地面を伝わりこちらまで届いてきます。

 

 

『彼女も苦手なのね。遺伝かしら』

 

 

 純粋な疑問を私の中でぶつけてきますが、そんな事は知りません。彼女の家族の事はあまり知りませんから。

 ですが、先程彼の話した内容が少々引っかかります.........トレセン学園三階の、とある教室.........

 

 

マック(まさか.........ここ?)

 

 

 そう思い始めると、先程までの暗いだけだった雰囲気がまるで意味を持ち始めたように、気持ちの悪いものへと変容していきます。まさかこの為にここを会場にしたのなら.........彼も酷い人ですわ.........

 

 

神威「うっし。じゃあ次は俺から話そうかな」

 

 

桜木「おっ!どんな話が聞けるかな〜?」

 

 

神威「話をしよう。あれは三十六万.........いや、十年ほど前だったか.........」

 

 

 何故か低い声でそう言いながら、足を組み始める司書さん。カフェさんが睨みつけるように彼を見ていますが、お構い無しに話を続けました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当時中学生だった俺達は、365日毎日と言ってもいい程玲皇ん家に集まって、それこそ毎日遊んでたんだ。

 

 

 ある日、俺はクトゥルフ神話TRPGのシナリオを完成させた。それはもう初心者にしては中々クオリティの高いシナリオだった。

 

 

 俺はアイツらを誘ってやろうと思った。そうしたらどうなったと思う?

 

 

 玲皇は良い。職業は探偵で技能も探偵向き。ただちょっとマーシャルアーツとか武道に振ってる血気盛んな奴だった。

 

 

 宗也もまだ良い。警察官だからフィジカル技能に振ってても許せる。目星も聞き耳も着いてる刑事向きの探索者だ。

 

 

 お前だ。お前。翔也。なんだマッカーサー・スターリンって。ふざけんなよ。なんで米軍人が普通に日本のド真ん中にいんだよ。

 

 

 いや、居てもいいんだよ?居てもいいんだ。 俺は別に差別主義者とかじゃないし、政治的に危ない人種でもない。

 

 

 だがな、現代日本でアサルトライフル持ち込むバカはコイツだけだ。ゴリ押しされて通してやったが、隠す技能初期値の癖にバンバン成功させやがってよ。

 

 

 でもな、俺が本当に恐怖を感じたのはここじゃないんだ。このシナリオの終盤。実は神話生物が出てくる。普通の探索者じゃどうにもならん存在だ。確かショゴスとかだった気がする。

 

 

 触れれば即キャラロスの最強生物。普通の探索者なら、見た瞬間発狂するから絶対避けて通りたい。通りたいはずなんだ.........

 

 

 それを.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神威「コイツショゴスぶっ殺しやがったァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

黒津木「そりゃミ=ゴがマーシャル蹴りで腹ぶち抜かれる世界だしな。AR全弾扉越しぶっぱされたら死ぬだろ」

 

 

桜木「.........え?怖い部分どこ?」

 

 

 頭を抱え込みながら、白銀さんの方を勢いよく指を指す司書さん。白銀さんは何故かゴールドシップさんの耳を押えてあげている状態で、その指に対して後ろの誰かだと思い振り返る素振りを見せます。

 正直、それがどのような遊びかはあまり分かりませんが、やった事がハチャメチャだと言うことはしっかりと伝わってきました。

 

 

イクノ「神話生物は闘争機関銃で倒せる。なるほど、今後に生きるかも知れません。知識として蓄えましょう」

 

 

マック「イクノさん!!?」

 

 

ターボ「やだなー!!ターボおっきい音嫌い!!」

 

 

白銀「よーし。次は俺の番だな」

 

 

 隣に居るゴールドシップさんの耳から手を離し、ロウソクを持ち上げる白銀さん。未だ震える彼女に、今だけは自分で塞げというように、黙って片手を頭に当てます。何故未だに付き合っていないのでしょう?このお二人は。

 

 

白銀「あれは、今から丁度三ヶ月前のイギリス大会の事だった」

 

 

全員(最近すぎでは.........?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、大会の予選が行われる前日。なんでか寝付けなかった。普段ならこんなこと無く、直ぐに眠れる筈なんだが、なんだか目が冴えちまってた。

 

 

 まぁ、理由は分かる。俺はそんときダイエットしてた。横腹に肉が着きすぎててな。全力で動くと空気圧で肉がむにるんだ。

 

 

 だからまぁ、二週間ほど水と眉毛で生活してた。え?そんなの人間じゃねぇって?当たり前だろ。俺は白銀翔也って書いて[人外]って読むんだからな。

 

 

 話を戻すぞ。俺はとにかく腹が減って腹が減って仕方が無かった。とにかく何かを腹に入れたくて仕方がなくて、とりあえずまだホテルのビュッフェがやってるはずだから、俺は部屋を出たんだ。

 

 

 その後の事は覚えてない。ただ口の中が甘ったるい物だらけで朝を迎えてたんだ。そして、俺は嫌な予感がして、体重計に乗った.........そしたら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀「10kgも太ってやがったァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

マック「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ブンブン!!!

 

 

 な、なんて恐ろしい話なの.........!!?そ、そんなの聞きたくなかった.........!!!記憶を無くして食べた結果が、10kgの増量だなんて.........リスクとリターンがマッチしていないではありませんか!!!

 

 

桜木「えっと、今の怖い要素、あった.........?」

 

 

マック「.........は?」ピキピキ

 

 

桜木「えっ」

 

 

 怖い要素?一体何を言ってるんですか彼は?要素なんてありません。恐怖100%で出来たお話だったではありませんか?

 私は席から立ち上がり、彼にゆっくりと近付きます。

 

 

マック「貴方、一体何年私と一緒に居るんですの?」

 

 

桜木「え!!?え、えっと.........何年だったかな〜.........?」

 

 

マック「.........へぇ」ゴゴゴゴ

 

 

桜木「ヒエッ.........」

 

 

 そうですかそうですか.........この人はあくまで知らんぷりをしようと言うのですね?酷い話です。初めてあった頃はあんなに親身になって考えて下さっていたのに。こんなからかうような事を.........!!!

 ここは久しぶりにお灸を据えなければなりません。そう思い、彼の手を掴もうとしましたが、背後から誰かが私の身体を羽交い締めしてきました。

 

 

カフェ「だ、ダメです......!刺激しないで......ください.........」

 

 

マック「出来ませんわ!!!この方は!!!私の苦労を全く分かっていない!!!」ブンブン!!!

 

 

桜木「ゴメンナサイ.........ゴメンナサイ.........」

 

 

 腕をブンブンと振り回しながら、私は抗議しました。その姿に恐怖を感じたのか、彼は今まで見せたことの無いような怯えを見せています。

 さ、流石にやりすぎてしまったでしょうか.........?で、でも!この辛さを理解してくれると思っていましたのに!!先程の反応は私に対する裏切りにも等しいですわ!!!

 カフェさんの言う通り、これ以上は止めときましょう。ゆっくり深呼吸をしていると、今度は黒津木先生が、その手にロウソクを持ち始めました。

 

 

黒津木「ようし。今度は俺がこの世で一番恐ろしい体験を味わった話をしてやろう」

 

 

タキオン「ほう!ニューヨークの医者として長い経歴を持つ彼の事だ!!!さぞかし恐ろしい体験をしたのだろうねぇ!」

 

 

黒津木「泣かないでね」

 

 

タキオン「そうなったら君の胸を借りるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはそう。いつもの四人で集まって各々好きなゲームしてた時だった。

 

 

 俺は地球防衛軍2のPSP版をやり込んでた。それこそインフェルノとか頑張ればクリアできるくらいにやってた。

 

 

 ふと尿意を感じた俺は、トイレに行った。そして戻ってきたら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒津木「コイツ俺のデータ消してやがったァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

白銀「その事については謝ってんだろォ!!?」

 

 

神威「そういや俺もお前のスラもり2のデータ消してたわ」

 

 

黒津木「シバくぞ゛ォ゛ゴ゛ラ゛ァ゛ッッッ!!!!!」

 

 

 怒号を響かせながら、黒津木先生は二人をもみくちゃにするように巻き込んでいきます。なぜ巻き込まれる事を知っていて司書さんはあんな事を言ったんでしょう.........?

 

 

桜木「何やってんだアイツら.........」

 

 

マック「はぁ.........あの方達を呼んだらこうなる事くらい、目に見えてたでしょう?」

 

 

桜木「そんな......ただ怪談話をするだけだったのに.........なんでこんな.........」

 

 

 頭を抱え始め、もう周りを見ようともしないトレーナーさん.........少し、様子が変です。いつもの彼なら、この人達を叱るか、この流れに乗って自分も参戦する筈ですのに.........

 .........待って下さい。そもそもがおかしいのです。だってどう考えたって、普段怖がりなはずの彼が、怪談話に乗り気になるだなんて、普通有り得ません。

 妙な違和感について思考をこらそうとした時、隣に座るカフェさんが、ロウソクをその手に持ちました。

 

 

 そして、話は冒頭へと戻るのです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........これで、私のお話はおしまいです」フゥ

 

 

 手に持つロウソクの炎が一瞬、激しく揺れた後、その存在を煙にして明かりを消します。今、この教室にあった火のついたロウソクは、これで全て消えてしまいました。

 最初はどうなる事かと思いましたが、私のお話を終え、皆さんは拍手を疎らに響かせました。

 

 

イクノ「面白かったです。マックイーンさん」

 

 

マック「ありがとうございます。それにしても、イクノさんがオカルト好きだとは知りませんでしたわ」

 

 

ターボ「イクノはたま〜に怖い話してくれるからね!!ターボも怖くて逃げ出したくなっちゃうくらい!!」

 

 

 自信満々に胸を張ってチームメイトを誇るターボさん。イクノさんは読書をするのが好きという事もあり、とある本から仕入れた怪談話を披露してくださいました。

 ライスさんとターボさんは、一緒に体験した夜の学園での出来事。タキオンさんはトレセン学園の七不思議を、自分の仮説を交えて発表し、カフェさんは身近で聞いた話を、まるで自分が体験したかのように話を作りあげてくださいました。

 

 

マック「それにしても、ゴールドシップさんは本当に怖いのが苦手なんですのね」

 

 

ゴルシ「あぁ!!?何言ってんだよ!!!怖えーだろテケテケ!!!アイツ滅茶苦茶早えーんだぜ!!?」

 

 

タキオン「それは人間基準だろう?私達ウマ娘なら余裕で振り切れるさ」

 

 

 自分のお話を思い出したのか、彼女はまた凄い形相で震え始めました。その姿を見て、この場にいる人は笑っています。

 そんな空気に意識を移していたせいで、外はもうすっかり暗くなっている事。そして.........彼がずっと拍手をしていることに、今になってようやく気が付きました。

 

 

桜木「いやー!!これで楽しい怪談話はおしまいだなー!!」

 

 

マック「トレーナー、さん.........?」

 

 

桜木「.........[楽しい怪談話]は、ね」

 

 

 パシン。と彼が拍手を止めたその瞬間。空気に漂っていた違和感が急に膨れ上がり、確かな異質な物へと変化していきました。

 

 

『はぁ.........だから言ったじゃない』

 

 

マック(え!!?えっ、こうなる事知ってたの!!?)

 

 

『いや、流石にここまでとは思わなかったけど.........彼は偽物だと言うのは知ってたわ』

 

 

マック「に、偽物.........!!?」

 

 

 身体の奥底から響いてくる存在の、その言葉に驚きの声を上げます。だって、どこからどう見たって彼そのもの。変装とかそんな生半可な物では.........

 そう思考の沼にハマりかけていると、私の偽物。という言葉に反応し、アグネスタキオンさんがそれを肯定しました。

 

 

タキオン「ああ偽物だ。ここに居る者達は知ってたよ。君以外」

 

 

ターボ「えぇぇ!!?」

 

 

ゴルシ「おっちゃんじゃ無かったのかよ.........!!?」

 

 

タキオン「訂正しよう。君とターボくんとゴールドシップくんだけだ」

 

 

マック「そんな.........」

 

 

 ショックです。彼とは長い年月を掛けて築き上げた絆があると言うのに.........彼では無いという事にすら気が付かなかったなんて.........こんなの、本物の彼に顔向けなんて出来る訳ありません。

 

 

『これが恋よ』

 

 

マック(貴方に恋の何が分かるのよ!!?)

 

 

『ちょっと黙って。私も私で恋を鎮めるのに大変なんだから.........ふぅ』

 

 

 何をしてるんですか私の中で。一体誰に対する恋心を鎮めてるんですか?いきなりよく分からない事をしないでください。びっくりしてしまいます。

 って、そんな事を悠長に話している場合ではありません!!!彼の姿を模した何かが、ジリジリと近づいてきています!!!

 

 

カフェ「気を付けてください.........!アレは.........凄く危険な悪霊です.........!」

 

 

タキオン「見慣れてる彼女がそう言うんだ.........これは、好奇心が猫を殺す展開になり得るかもね.........」

 

 

「ふふふ.........それにしても驚いたなぁ、正体に気付かれてたなんて.........」

 

 

 徐々に姿が彼からかけ離れて行く影。喋り方もその声も、どんどん彼とは程遠く、おどろおどろしい物へと変わっていきます。

 正直、私はもうその姿に怯え竦みきっています。身体は言うことを聞かず、カタカタとただ震えるだけです.........

 それはみなさんも同じのはず。ですが、その中でも声を上げる方が居ました。

 

 

ライス「分かるよ.........!!!」

 

 

「?」

 

 

イクノ「ええ。桜木トレーナーの事は深く知りはしませんが、それでも貴方が偽物だと言うことはよく分かります」

 

 

ライス「だって.........お兄さまは最初に[やぁ]なんて言わないもん!!!」

 

 

マック「あっ.........」

 

 

 そう言われて、先日彼に会った時のことを思い出します。確かに、彼は[よう]。ではなく、[やぁ]と言って挨拶をしてきました。

 

 

白銀「それにアイツは[ゴルシ]なんて呼ばねぇ」

 

 

ゴルシ「あっ!!そういえばいつもアタシの事[ゴールドシップ]って呼んでたもんな!!!」

 

 

タキオン「なんで張本人が今気付くんだい.........?」

 

 

 思い返してみれば、違和感はしっかりと存在し、疑う余地も確かにあったんです。それなのに私と来たら.........

 しかし、そのような後悔や懺悔などしている暇はありません。目の前に居る悪霊が、私達ににじりにじりと寄ってきています。

 

 

「まぁ関係無いさ今更。私をどうにかしようとしたみたいだけど、ここに来た時点で終わりよ.........」

 

 

 それがそう呟いた瞬間。教室の扉が両方、金属音の音を響かせました。そして、私達は悟ったのです。この場に今、閉じ込められてしまったのだと。

 

 

ターボ「い、イクノ〜!!!これもしかしてやばい!!?」

 

 

イクノ「やばくはありません」

 

 

イクノ「とてつもなくとんでもなくこれ以上に無いくらいすんごくやばいです」スチャ

 

 

ゴルシ「ヒュ.........」チーン

 

 

ライス「そ、それでも冷静なイクノさん.........凄い.........!!!」

 

 

 ゴールドシップさんが気絶したこの状況にも関わらず、イクノさんは冷静にメガネのズレを直します。こんな時でも動揺しないイクノさん.........素敵です!

 って!惚れ込んでいる場合ではありません!もう既に私達は壁まで追い詰められて絶体絶命なんですから!!!

 

 

「えへへ、さぁて、誰を乗っ取ろうかな〜?皆GI走ってるウマ娘だし〜?」

 

 

ターボ「!良くターボがGI走ってるって分かったな!!!さてはターボのファンだな!!!」

 

 

「ふふふ.........そうね。一番元気そうだし。貴方の身体を貰おうかしら.........!!!」

 

 

 不気味な笑みを更に不気味に仕上げながら、それの影から無数の腕が沸いて出てきました。

 それぞれまるで別の生き物かのように動き、間接など存在していないと言っていいほどに、それはうねうねとしていました。

 ゆっくりと私達に近付いてくるその腕に、私は目を瞑ってしまいました。この先起こることを予想すら出来ず、ただただ恐ろしい結末と、ここに来た後悔を胸に、ただひたすらに叫びたくなる恐怖を耐えていました。

 

 

マック(トレーナーさん.........!!!)

 

 

 そんな時でも、希望を捨てる事すら出来ません。彼に対する切望を、捨てきる事が出来ない.........

 彼の事を考えていれば、少しは恐れが小さくなる。けれど、抵抗する事を忘れてしまっている私達は、その手が伸びてくる事に何もすることは出来ず、ただその時を待っていました.........

 ですが―――

 

 

「.........ッッ!!?」

 

 

全員「.........?.........!!?」

 

 

 その時をひたすらに待っていた。その魔の手が顔に触れる瞬間。それが顔前で硬直するのを感じ取れて、ゆっくりと目を開けました。

 そこには、入れるはずも無いのに、ここに居た訳じゃないのに、トレーナーさんが何故かその悪霊の後ろに立っていました。

 

 

 彼がゆっくりとその手をあげます。彼の威圧感がこちらにまで伝わってくる程、彼が心中穏やかではない事が分かります。

 目の前に居るもう一人の彼が冷や汗を一つ垂らしたその瞬間。勢い良くその手を振り下ろしました。

 

 

「!!!.........え?」

 

 

 しかし、その勢いに反してその手は優しく悪霊の肩を叩きました。私達もその場に似合わない行動に、思わず息を呑みます。

 ゆっくりと彼の方へと振り返る悪霊。その悪霊の顔に対して、彼は人差し指を伸ばすという子供のイタズラの様な事をします。

 

 

桜木「.........なぁ」

 

 

「.........?」

 

 

桜木「[ワンインチパンチ]って知ってるか?」

 

 

 それを聞いた瞬間。悪霊は影の手を彼へと向け、私達の方向へ逃げようとします。

 一方の彼は、先程の悪霊の様な気味の悪い笑みを浮かべ、その小さい動作から拳を作り、悪霊の頬へとねじ込みました。

 

 

「がっ!!?」

 

 

桜木「っ、チィ!一瞬見ただけじゃ完全にコピーは出来ねぇか!!!」

 

 

マック「トレーナーさん!!!」

 

 

桜木「![よう]!!マックイーン!!」

 

 

 いつものような挨拶。いつものようなニカっとした笑顔。あの時のそれは、こんな顔をしてはいませんでしたのに.........なぜ私は気が付かなかったのでしょう.........?

 

 

カフェ「あの......結界が貼られていた筈なんですけど......どうやって.........?」

 

 

桜木「あ?鍵開けたら入れたけど?」

 

 

 そう言って、彼はポケットから見せびらかすように鍵を見せました。どうやら鍵が掛かっていただけのようです.........逃げようと思えば逃げられたのですね.........

 そう思っていると、先程のパンチで壁に激突した悪霊が起き上がろうとしてきます。それを見て、私達は彼の方へと位置を変えました。

 

 

「折角身体を手に入れられる所だったのに.........!!!ふざけるなッッ!!!」

 

 

桜木「身体を手に入れるだぁ?ギニュー隊長見てぇな事言ってんじゃねぇよ!!!んな事出来るわけねぇだろ!!!」

 

 

マック「トレーナーさん!!?」

 

 

黒津木「そうだそうだ!!!」

 

 

タキオン「黒津木くん!!?」

 

 

 何故かこの状況で野次を飛ばし始めるトレーナーさん。先程まで冷静沈着であったはずの司書さんも、そして気絶しているゴールドシップを抱えていた白銀さんも同じように煽り始めました。

 

 

神威「あのなぁ?そういうのはな?創作物だけのお話なのよ。私達入れ替わってる!!?ができるのは妄想の中だけなのよ」

 

 

カフェ「あ、あの、それ以上は.........」

 

 

白銀「出来るってんならやって見せろよ!!!俺が身体貸してやっからよぉ!!!まっ!!!無理だろうけどな!!!」

 

 

ウマ娘「白銀ッッッ!!!!!」

 

 

白銀「ヘェ!!?」

 

 

 刺激に刺激を重ね、悪霊はプルプルと怒りに震えていました。それにトドメを刺すように、白銀さんは決定的な煽りとチャンスを与えてしまったのです。

 悪霊の行動は早い物でした。白銀さんの身体を無数の影の手が引き寄せ、悪霊と重なるように一つになってしまったのです.........

 

 

「くはは.........!!!凄いよこの身体!!!下手したら生身の時より動けるかも!!!」

 

 

三人「何やってんだアイツ.........」

 

 

マック「貴方達が煽ったせいでしょう!!?」

 

 

 煽りに煽った結果がこの始末です.........悪霊は白銀さんの身体を確かめるように、身体の全身を動かし始めました。

 こうなってしまったらもうおしまい.........彼の身体から放たれる攻撃を食らった日には、いくらウマ娘と言えども無事では済みません.........ここから無事に帰ることは出来ないと、私達はもう諦めてしまいました.........

 

 

「貴方達親友なんでしょ?殴れないよねぇ?」

 

 

桜木「.........あ?」

 

 

「大切な友達なんでしょう?じゃなきゃこんなやばい奴とつるむわけないよね?」

 

 

神威「.........」

 

 

「もうこの身体は私の物.........一人だけなんて勿体ないから、ここに居る子達全員、私の身体に―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォルカニックヴァイパーッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬でした。悪霊が喋ってる最中に、黒津木先生が懐に潜り込み、飛び上がりながらアッパーカットを一瞬でやってのけたのです。何が起こったのか、私達も追い付いて居ませんでした.........

 

 

ターボ「えっ、えっ!!?アイツ友達なんでしょ!!?」

 

 

黒津木「あぁ〜友達だよぅ〜?アイツが言ってるだけだけどね〜?」

 

 

神威「そうそう〜!今までボコボコにしようと思ってたけどコイツ最強だからそれも出来なくてさ〜?鬱憤が溜まってたんだよね〜」ゴキゴキ

 

 

「かはっ、ァ.........!!?」

 

 

 先生の攻撃により、壁に背中を激突させてしまった悪霊は、苦しそうに息をします。どうやら過呼吸になってしまったようです。

 そんな事など気にせず、トレーナーさん達はそれぞれ首を鳴らしたり、指を鳴らしたり、肩を回して近付いて行きます。

 

 

桜木「まぁよぉ〜.........コイツもだ〜いじなゴールドシップが危ない目に会いそうになったっつったら軽〜く許してくれるだろうしな〜.........」

 

 

神威「という訳で俺の渾身のシナリオを壊してくれたお礼だオラァァァァァッッ!!!」ドゴァ!!!

 

 

「べふぅ!!?」

 

 

 脳天を捉えた振り下ろしチョップが炸裂し、悪霊は両手で頭を押さえました.........こうなってくると、あんな事をした存在のはずなのに、なんだか可哀想になってきてしまいます.........

 

 

タキオン「も、もういいじゃないか.........彼女も辛そうだし.........」

 

 

黒津木「いいやっ!!!俺の気はまだ済んでねぇ!!!さっきの一発で地球防衛軍のデータ消した件はチャラだが、俺のユンゲラーを逃がした件は許してねぇんだよ!!!ファフニールッッ!!!」バゴォ!!!

 

 

「おごぁっ!!?」

 

 

黒津木「次やったら殺゛す゛ぞォ゛ゴ゛ラ゛ァ゛ッッッ!!!!!」バコォン!!!

 

 

神威「うげぇ!!?」

 

 

 一歩進んでから繰り出される右ストレートが悪霊に、振り向いた遠心力を生かした右フックが何故か司書さんの腹部に捩じ込まれました。恐らく彼がどさくさに紛れて言っていたゲームのお話でしょう。

 既に相手は息も絶え絶え。白銀さんの身体ですが、今まで彼がみせたことのない苦虫を噛み潰した顔ような顔をしています。

 

 

「どうして!!?この身体は最強じゃないの!!?」

 

 

桜木「だから言ってんだろ?ドラゴンボール読めって」

 

 

イクノ「桜木トレーナー。ドラゴンボールなら丁度全巻ここに」

 

 

桜木「おっ!丁度いいや!!」

 

 

 嬉々とした様子でカフェさんが持ってきた バッグに小走りで近寄り、チャックを空けた彼は中身を確認して更に笑顔を満開にさせます。それほどまでに好きな物なのですね.........

 きっと彼の事です.........今この場で悪霊に読み聞かせる位の事はしそうな展開。しかし、彼は予想に反して、そのバッグの端と端を挟み込むように持ち上げました。

 

 

ライス「な、何をする気なのかな.........?」

 

 

マック「さ、さぁ.........?」

 

 

桜木「ほら。これがドラゴンボール42巻分の重さだ。テメェの敗因はたった三つだぜ。たった三つの、シンプルな答えだ.........ッ!!!!!」ズガァ!!!

 

 

ウマ娘「えぇ!!?」

 

 

「あっぽ―――」ドサ...

 

 

 彼は持ち上げたそれを、横から縦へと持ち替えた後、そのまま思い切り。渾身の力で振り下ろしました。私達も読み聞かせが始まると思っていましたが、普通に決着が着いてしまったのです。

 悪霊が憑依した白銀さんの身体が地面に倒れ伏したその時、教室に入った時から感じていた異質な空間が、今ようやく普通の雰囲気に戻りました。

 そんな中、彼は溜息を吐きながら、その幽霊の敗因を語ったのです。

 

 

桜木「一つ。漫画の歴史を変えた分岐点。それを押えて無かった」

 

 

桜木「二つ。あからさまな挑発に乗って翔也とかいう謎に頑丈な奴の身体を奪った」

 

 

桜木「そして三つ。俺の教え子に手を出そうとした。テメェは俺を、怒らせた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして。日常の中の非日常は終わりを告げ、雰囲気も元に戻り、ゴールドシップさんが目を覚まして少し経ったあと、めちゃくちゃにしてしまった教室内を片付けていました。

 

 

マック「.........そういえば、なぜあの悪霊はトレーナーさんの姿をしていたのでしょう?」

 

 

桜木「え」

 

 

 ふとした疑問を誰にでもなく投げかけると、彼が反応を見せました。しかも、何故か冷や汗が一つ、彼の頬を伝うのが見えてしまいました。

 

 

カフェ「.........この教室には元々、御札が貼られ、封印されていたはずですが.........」

 

 

マック「.........トレーナーさん?」

 

 

桜木「.........えっと」ダラダラ

 

 

 冷や汗が一つ垂れていた所から、見るからに汗がダラダラと流れ始めた彼の顔。ここに居る皆さんが目に見えて、彼の方を疑り深く見つめ始めました。

 

 

タキオン「トレーナーくん。ここに居る子達は、君の姿をした偽物に違和感を抱きつつも、私に相談して撃退しようとした勇気ある者達だ」

 

 

タキオン「素直に話す事が、誠意ある行動なんじゃないのかい?え?」

 

 

桜木「.........実は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはそう。夏の暑さが尋常じゃなくなってきた三日くらい前の昼休み。俺は毎年の例に漏れず、頭がおかしくなっていた時の事。

 

 

桜木「暑い〜.........こういう時は怖い話でも聞いて肝を冷やすに限るんだが.........」

 

 

 そう言いながら、俺は学園内の三階を散策していた。同僚から聞いた話では、ここに学園の七不思議の一つであるオカルト教室があるのだが、それを探していたのだ。

 何故かって?知らん。俺が俺だからって俺の全てを知ってると思うな。中央の夏の俺は別人格なんだ。

 まぁ、なんだ。とりあえず一通り七不思議の舞台は網羅したんだが、如何せん怖い雰囲気は無かった。話や雰囲気まではいいんだ。ただ体験するのが滅法苦手なだけで。

 

 

桜木「お?ここじゃね?なんか御札とか貼られてるし.........」

 

 

 そこで俺はこの教室を見つけた。頭が暑さにやられてたのか、俺は躊躇せずその貼られている御札をシールを扱うように軽く剥がして教室に入った。

 

 

桜木「ヒュ〜♪雰囲気激ヤバヤバの素敵スポットじゃん!よーっし!夏の暑さ凌ぐ為に皆集めて怪談話しよっ!!!すまんここに居る幽霊さん!!!一瞬賑やかな場所にさせてくれ!!!」

 

 

 俺は思ったね。ここは最高の怪談話スポットになるって。もう開けた瞬間から寒気ビンビン警報機カンカンテンション上げ上げ。ここで怪談話すれば今年の夏は乗り越えられる事間違い無しって。

 んで今日になって気付いたのよ。不味くね?って。だから来たの。鍵持って。遅くね?って。もうねアホかとバカかと思いましたよ俺は自分を.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘「」ポカーン

 

 

桜木「いやー!!でもさっ!お陰で今年も夏を何とか乗り越えられそうだわ!!!夏はホラー!!!」

 

 

 彼はそう言って、大声で笑っていました。有り得ません。神経を疑います。他の方達もそう思ったのか、その口を開き、彼の笑う姿をただ見ているだけでした。

 

 

黒津木「やっぱな。お前はやべぇ奴だと思ってたんよ」

 

 

神威「死ね」

 

 

桜木「おいおい。お陰でそいつの鬱憤晴らせたから良いだろ〜?」

 

 

白銀「」ボロ...

 

 

二人「許そう」

 

 

 机の上に寝させられたボロボロの白銀さんを指差し笑う三人。とてもいたたまれません。彼の勝手な行動のせいで白銀さん。そして罪もない幽霊さんをあの様な目に.........

 

 

マック「トレーナーさん」

 

 

桜木「はい」

 

 

マック「助けてくれた事には感謝致します。ですが.........それを差し引いても、今回の事は到底許せる物ではありません」

 

 

桜木「.........はい」

 

 

 ゆっくりと彼に近付きながら、今の彼に対する思いをぶつけます。いくら夏の暑さでおかしくなってしまうと言っても限度があります。今回はその限度を優に超えてしまっている。

 私の感情を読み取ったのでしょう。幽霊さんと対峙した時は見せなかった怯えが手に取るように分かりました。

 

 

マック「許して欲しいですか?」

 

 

桜木「許してくれるんですか.........?」

 

 

マック「どうします?」

 

 

 私は許せません。こうなってしまった原因は彼にあるのですから。けれど、他の方が許すのならば私は手をあげず、その身を引こうと判断を委ねます。

 しかし、皆さんは首を振りました。横方向に、合図も無しに一斉に振ったのです。私は安心しました。どうやらこの怒りを無駄にせずに済みそうだから.........

 

 

桜木「.........ギルティ?」

 

 

マック「ええ。今しがた貴方達の有罪が確定されましたわ」ニッコリ

 

 

黒津木「えっえっ」

 

 

神威「俺らもカウントされてるってこと!!?」

 

 

桜木「.........ごめぇぇぇぇぇん!!!」ダッ!

 

 

 彼らの怯えは私の笑顔を見て、恐怖へと様変わりしてしまいました。最終的にそれは、逃げるという行動に変化を見せ、トレーナーさん達は慌ただしく教室から出ていきました。

 

 

マック「さぁ!!!悪霊よりも悪いトレーナーさんに鉄槌を下しに行きますわよ!!!」ダッ!

 

 

ウマ娘「おー!!!」

 

 

 冷静さを欠いた判断です。タキオンさんの薬を服用しているのならばいざ知らず、生身で私達ウマ娘から逃げようとするなんて愚の骨頂.........!!!

 そうしてタキオンさんとカフェさんを教室に残し、後の人達で私達は必死に逃げる彼等に向かって行きました。

 結局、彼等は私達に直ぐに追い付かれ、今回の事件の落とし前をキッチリ付けられたのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェ「.........」

 

 

タキオン「おや、それが例の御札かい?」

 

 

 先程まで、桜木トレーナーさんがいた位置に落ちている紙切れを拾うと、タキオンさんが物珍しそうに横から覗き込んできました。

 確かに、こういう物はあまり見ないので、好奇心が刺激されるのはよく分かります.........この人は特に、そういう事になると止まりませんから.........

 

 

タキオン「それにしても、こんな文字が書かれただけで効果があるとは、実に興味深い.........!」

 

 

カフェ「そう、ですね......普通の霊なら、必要の無い代物ですから.........」

 

 

タキオン「それで?貼り直すのかい?」

 

 

カフェ「.........いえ、これは記念に貰って置こうと思います.........」

 

 

 話しながら、私達は教室から出ました。廊下の方では、先程逃げた人達の苦痛の叫び声が大きく響いてきています。今回は、自業自得なので......可哀想とは思いません.........

 その声を聞きながら、私は扉の窓から、中の教室を見ました。そこにはもう。入った時の空気を感じる事はないという確信と、さっきは置かれて無かった桜木トレーナーさんの単行本が、ペラペラとひとりでに捲られていました。

 

 

カフェ「.........もう、必要は無さそう、ですから.........」

 

 

タキオン「.........ふぅン?」

 

 

 

 

 

 ―――トレセン学園の七不思議

 

 

 真夜中の校舎の三階の、とある教室から、紙を捲る音が聞こえてくるらしい。

 

 

 中に入っても、そこに誰かが居る訳では無い。

 

 

 しかし、その机の上には、ドラゴンボールの単行本があると言われている。

 

 

 しかも、毎回毎回。巻数が違うらしい.........

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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