山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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10月27日

 

 

 

 

 あの時、逃げ出してれば良かったんだ。

 

 

 

 

 そんな言葉が、何度も自分に掛けられる。誰かにではない。[自分に掛けられている]。そんな言葉をぶつけられる度に、後悔の苦さが胸の内に広がって行く。

 

 

 確かに、そうかもしれないだなんて思っていた。大人のフリをした意地なんて張らず、子供のように裸足で逃げ出していれば、少なくとも俺は。もしかしたらあの子も、ここまで苦しむことは無かったかもしれない。

 

 

 悲しいという気持ちや、苦しいという気持ちがその記憶と共に呼び起こされる度に、悲しいフリや苦しむ演技は辞めろと言われる。

 そんな言葉を投げられると、それが本当に自分の感情だったのか、分からなくなった。

 

 

 分からなくなって、出てくるのは身体の奥底からせり上がってくるものだけ。

 

 

 食事は取らなかった。あまり、何かを食べたいという気持ちは湧かなかったから、それは俗に言う胃液だけの吐瀉物だった。

 

 

 そう、胃液だけ。それだけだと言うのに、それが外に出ていく度に、自分がどうにも無くなっていく感じがしていく。

 

 

 手から

 

 

 足から

 

 

 頭から

 

 

 内臓から

 

 

 目から

 

 

 匂いから

 

 

 感覚から

 

 

 心から

 

 

 自分とおなじくらい大切だったはずのものが、消えていく。半分本能となっている理性が、この状況をどう打破すべきかと言って記憶の中をまさぐる。そして、それを身体が拒絶する。

 

 

 思い出したくない。全てを捨てたい。心が動けば身体が動く。身体が動けば心が動く。より強い方に動かされるこの[操り人形]は、心なのか、身体なのか分からない内に、やがて振り返ることを止めた。

 

 

 それでも.........俺の心はまだ、思い出に囚われたままだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てはあの日から始まった。

 

 

桜木「しばらく自主トレがしたい.........?」

 

 

マック「はい。次に走る秋の天皇賞のために、自分を見つめ直そうと思いまして.........」

 

 

 その言葉を聞いた時、俺は前回の事を思い出した。せっかく1着を取り、その前に天皇賞の春秋連覇を果たしたタマモクロスに続いたかと思った矢先、降着で16着になってしまうという過去。

 そんな事を思えば、彼女を止める理由も無かった。強さだけでは勝てないと、その時嫌というほど思い知らされたからだ。

 それでも.........

 

 

桜木「寂しくなるなぁ.........」ウルウル

 

 

マック「もう、これでさよならというわけでは無いのですから.........」

 

 

桜木「いーや!!うちのチームには君が必要だ!!見てみろ!!」

 

 

 涙が溜まった両目を拭って指を差す。そこには、

 実験室を爆発させて出禁を食らったためにここで薬を作っているタキオン。

 同人イベントで収穫してきたウマ娘本を堪能してよだれを垂れ流すデジタル。

 取ってきたカブトムシを戦わせているウララと何故かいるゴールドシップ。

 プラモを作っている最中誤ってテレビのリモコンに触れ壊してしまうブルボン。

 そしてその光景に慣れきってしまって我関せずに絵本を描いているライス。

 そうそうたる面子を見て、彼女も汗を流した。

 

 

マック「.........まぁそこはトレーナーさんにしっかりとしてもらって」

 

 

桜木「そんなご無体な!!?」

 

 

マック「貴方はチームトレーナーなんですから当たり前です!!!スピカの沖野トレーナーのように、たまにはビシッと言ってチームをまとめてくださいまし!!!」

 

 

 机を両手で叩き、可愛らしい表情でこちらを睨むマックイーン。そう言われると、俺も弱い。

 どうするべきか。そんな分かりきった問答に時間を使っていると、彼女はため息を吐いて背を向けてしまった。

 

 

マック「そういう事ですから。では」

 

 

桜木「ああそんな!!!お前ら良いのか!!?うちのエースが!!!」

 

 

全員「異議なーし」

 

 

桜木「くっ.........!マックイーン頼むよぉ.........行かないでよ寂しいよぉ!」

 

 

 まるで、振られたのに諦めきれない男のように彼女の足に縋り付く。引き締まった感触がしつつも良い感じに柔らかいそれを堪能していると、ムチのような何かが俺の頬を思い切り振り抜いた。

 

 

桜木「べふぅ!!?」

 

 

マック「全く。私達も成長してるのです。貴方も少しは大人になったらどうですの?」

 

 

桜木「お.........おっしゃる通り、です.........」

 

 

 ぐうの音も出ない程の正論を叩きつけられ、俺は床に伏せた。彼女は鼻を鳴らして、このチームルームを去って行った。

 

 

ゴルシ「おっちゃん.........」

 

 

桜木「見るな.........情けない俺を.........」

 

 

ゴルシ「.........頑張れよ」

 

 

桜木「うん.........」

 

 

 背を天井に向けて倒れる俺を気にかけてくれるのは、ゴールドシップだけだった。これからしばらく会えないと思うと、やはり辛いものがある。

 けれど、それだけじゃなかった。彼女の背中をさする手から、そして声から感じるのは、いつものおふざけじゃなかった。

 それに気付いていれば.........いや、そもそも、彼女をここで何としてでも引き止めていれば、結末はまた違ったかも―――

 

 

 

 

 

桜木「っ―――」

 

 

 身体の奥底からせり上がってくる感覚。その予感が感じた瞬間。寝かせていた身体を何とか跳ね上がらせ、台所に駆け込んだ。

 揺れる視界の中、それに目掛けて頭を突っ込むと、見計らったかのようなタイミングで喉から熱さが逆流してくる。

 

 

桜木「うぅぅぇぇぇええ.........」

 

 

桜木「ハァ.........ハァ.........」

 

 

 それらが一通り終わり、俺は備え付けられている鏡を見た。今までで見た中で、一番酷い顔をしている。

 こんな顔、誰にも見せられない。見せたくは無い。

 だから、見せていない。[仮面]を被った俺の事は、良く知らない。辛い俺の為に、楽にしてやると言われたから、それに従って身体を貸しているだけに過ぎない。

 酸味が広がる口の中、それらを洗い流した後、口直しに煙草を一本口に咥え、火をつけた。

 

 

桜木「すぅぅ.........ふぅぅぅ.........」

 

 

 切り替える為に。明日も、生きる為に。俺は約束を一つ破った。

 

 

 俺はあと何回約束を破る?

 

 

 俺はあと何回人の期待を裏切る?

 

 

 俺はいつ、俺の期待に応える事が出来る?

 

 

 やめろ

 

 

 やめろ

 

 

 やめてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テイオー「やっほー!!サブトレーナー!!」

 

 

桜木「おー!!テイオーおかえり!!一週間ぶりくらいだな!」

 

 

 マックイーンが実家でトレーニングし始めて、10日ほどたった。彼女が居ない日常は騒がしくも、あっという間に過ぎて行った。

 テイオーを含めたチームスピカは、今後新たな時代の礎となるだろう三人のウマ娘。通称BMWの偵察の為に京都に旅行へ行っていた。俺達も先日行われた京都大賞典の時に足を運んだが、テイオー達は観光もしてきたらしい。

 

 

テイオー「はい♪これサブトレーナー達のお土産〜♪」

 

 

桜木「サンキュー!!いや〜、この前行ったけどそんな暇なくてさぁ〜。ホントに助かる.........?」

 

 

 お土産がひとまとめにされた袋を手渡されて喜んでいる傍から、テイオーからもう一袋渡される。その中身を覗いてみると、中身は先程貰ったものとそんなに変わりはなかった。

 

 

桜木「これは.........?」

 

 

テイオー「ふっふっふ.........サブトレーナー、最近マックイーンと会ってないでしょ〜?」

 

 

桜木「うぐっ.........何故それを?」

 

 

 にやにやとした顔つきで俺の事をからかい始める。その図星がクリーンヒットしながらも、俺が訳を聞くと、どうやらマックイーンは彼女に最近俺に会えていない事を嘆いていたらしい。

 全く、だったら直接電話でもメッセージでも送ってくれれば良いのに.........そう思い今からでも電話をと、スマホを取り出した。

 

 

桜木「.........げっ、充電が無い」

 

 

テイオー「うっわ〜.........サブトレーナー現代人なの〜?」

 

 

桜木「今日遅刻しそうだったからなぁ.........もしかして充電されてなかったの気付かなかったのかも.........」

 

 

 呆れられた表情と視線が刺さりながらも、俺は一旦携帯を机に置き、ポケットの中に車の鍵が無いか探してみる。普段通勤は徒歩なのだが、鍵だけは常備しているのだ。

 無事上着のポケットからそれを見つける事が出来たので、一旦俺は学園を離れることを決意した。

 

 

桜木「んじゃあ行ってくっかな。ありがとうねテイオー」

 

 

テイオー「ううん!!お土産渡して仲良くして早く告白してね!!」

 

 

桜木「せんわ!!卒業してからやわ!!!」

 

 

 背後から投げ掛けられる爆弾を手早く処理して俺は教室を出た。

 

 

 

 

 

 もし。この時俺が行かなかったら.........

 

 

 もし、この時テイオーが行っていたなら.........

 

 

 結末はまた違ったのかもしれない

 

 

 やめろ

 

 

 終わった話はするな

 

 

 俺は間違えたんだ

 

 

 俺は.........間違えたお前が憎い

 

 

 なんでそれを選んだ?

 

 

 なんで彼女を選んだ?

 

 

 なんでこの道を

 

 

 なんで.........トレーナーなんかになったんだ.........

 

 

桜木「.........」

 

 

「〜〜〜」

 

 

 テレビから流れる音声が、意識を外へと追い出して行く。今はその声が、ありがたかった.........

 

 

『桜木トレーナーにはがっかりです』

 

 

桜木「.........」

 

 

『この様子では他の子も心配ですね』

 

 

桜木「.........」

 

 

『早く辞めてくれませんかね。アイツ』

 

 

 誰もそんな事は言っていない。けれど、聞こえてくる。分かったつもりでいる評論家。何も知らないコメント係と、俺を責めるだけの進行役。

 ありもしない。そんな事なんてないけれど、テレビを見てたらそんな声が聞こえてくる。それが.........ありがたかった。

 こんな奴。居なくなってしまえばいい。消えてしまえば良い。これから掛けるであろう迷惑の量なんかより、一時掛ける多大な迷惑の方が実際安い。

 だからお前は必要無い。誰かの期待に答えられない俺なんか要らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『桜木 玲皇』なんて、誰も必要として居ない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前の着いている存在なんて、この物語(ウマ娘)主人公(トレーナー)であってはいけない.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「うわ、雨降ってきたな.........」

 

 

 走らせている車のフロントに、雨粒が軽く当たる。その雨粒を払う為にワイパーを起動させる。

 10月27日。平日の昼間辺りだろう。けれど行き交う一通りは休日のそれよりかは多い気がした。

 親子連れ、一人で歩く者、カップル、営業の為に早足で歩くサラリーマン。皆それぞれの[物語]の為に歩いている。

 そんなことにも気付かずに、そんなことにも気を止めずに、俺は車を走らせていた。一人で突き進む、孤独の道をただひたすらに進んでいた。

 

 

 彼女の家に着いたのは、午後3時位だったと思う。自主トレがしたいと言っていたが、雨も降っている。きっとお菓子を食べているのだろう。

 俺が見た事もないような上品なお菓子を、大切そうに食べている姿を思い浮かべていると、頬が緩んでいくのがわかった。

 

 

桜木「相変わらず大きいなぁ.........確かインターホンは.........」

 

 

 傘もない中で、多少濡れるくらいならと気にせず車を下り、豪邸の門に備え付けられているインターホンを鳴らす。きっと誰かが出てくれるだろう。そう思っていた。

 

 

「っ!桜木トレーナー様!!!」

 

 

桜木「うぇ?あっ!どうも爺やさん!!マックイーンの.........様子......を.........」

 

 

 門の中で慌ただしく俺の名を呼んだ爺やさん。彼女の執事でお目付け役。いつも上品な佇まいで落ち着いている様子の彼が、酷く取り乱した様子だった。

 

 

爺や「桜木様!!先程からお電話していたのですが!!何も聞いて居られないのですか!!?いや、聞いたからこそここに.........?」

 

 

桜木「え?あっ!!すいません!!どうやら携帯を学園の方に置いてきちゃったみたいで.........」タハハ

 

 

 慌ててポケットを漁り、着信を見ようとするが、そもそも携帯の存在が見当たらなかった。どうやら、チームルームの机に置きっぱなしにしてしまったらしい。

 しかし、この爺やさんの様子はただ事では無かった。その理由を聞こうとした時、不意に着信音が鳴り響いた。それは、爺やさんからの方だった。

 

 

爺や「.........何かありましたか?」

 

 

爺や「.........なっ!!?お嬢様が療養所から居なくなった!!?」

 

 

桜木「.........は?」

 

 

 療養所。その言葉を聞いた瞬間。俺は頭の中が真っ白になった。真っ白になった背景から最初に見えてきたのは、マックイーンの姿だった。

 その顔が思い浮かんだその瞬間。俺はもう一度車に乗り込んだ。雨は思ったよりも降っていたらしく、余分に水を含んだ皮膚や衣服から勢いよく車内に撒き散らされる。

 俺のその姿に、引き止めようとしてくる爺やさんのことも気にせずに、俺はただ、その車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 それは、最初に思っていた時よりも強く降っていて、それは、この先の展開を予想させるものだった。

 

 

桜木「.........」

 

 

 車から降りて、歩いて行く。雨に濡れながら、全てを晒されながら、俺は前へと.........まだ、[歩けていた]。

 

 

 なんで、一人で見つけようとしたんだろう?

 

 

 爺やさんに頼んで、チームの皆や、アイツらに来て貰ったら、また違ったかもしれない。

 

 

 俺は、一番選んじゃいけない道を選んだ。

 

 

 あの子といたら、[仮面]を上手く付けれないって事くらい、もう分かってただろう?

 

 

桜木「.........っ」

 

 

マック「.........」

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 いつものトレーニングコースで。

 

 

 心は冷えた鉄のように深い沼の中へと沈み込んで。

 

 

 背中は酷く。

 

 

 滝打つような雨に晒され。

 

 

 打たれて冷たく。

 

 

 心は鈍器で叩かれたように震え。

 

 

 そんな雨の中で。

 

 

 ただただマックイーンを.........

 

 

 俺は.........

 

 

 俺は.........

 

 

 .........俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黙って見ている事しか、出来なかった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........トレーナーさん」

 

 

桜木「っ、マックイ―――「繋靭帯炎」.........え?」

 

 

マック「.........貴方も、聞いたことくらいあるでしょう?」

 

 

 顔を伏せながら、雨にその全てを打たれながら、彼女はこの泥だらけの地面の上で、打ちのめされたようにその身体を横たわらせて居た。

 雨は次第に強さを増していく。雷すら、鳴り始めている。光が一瞬強まる中で、彼女はその顔を上げた。

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 それは、絶望に打ちひしがれた者の顔だった。俺にとっては、まるで隣人の様に付き合っていた絶望が、今は彼女の心の中に居た。

 クシャクシャにした顔で、もう、涙なのか雨なのか分からないほど濡れた顔で、彼女は頭を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう.........走れないの.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「どんなに、望んでも.........」

 

 

マック「どんなに!!努力しても.........!!!」

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 繋靭帯炎。その名前は、ウマ娘にとっては二度と走れなくなる不治の病に等しいもの。

 けれど、そんな事は知った事じゃない。いつもの様な、向こう見ずで楽観的な思考で、俺は彼女の肩に手を置いた。

 

 

 置いてしまった。

 

 

 少し考えれば良かった。

 

 

 彼女の悲しみに寄り添えば良かった。

 

 

 いや.........そもそも、彼女の前に現れること自体が―――

 

 

 

 

 

桜木「.........まだ、決まった訳じゃない」

 

 

マック「っ、トレーナーさん.........」

 

 

桜木「俺達は[一心同体]。どんな事があっても、俺達なら!!!」

 

 

マック「.........そう、ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はそうやって、[仮面]を付けて笑えるのですね.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........え」

 

 

 そもそもの、間違いだったんだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後直ぐに、メジロ家の人達が来た。

 

 

 マックイーンはそれっきりで、俺に何も言わずに、従者の人に抱き抱えられて運ばれて行った。

 

 

爺や「.........桜木様。風邪をひかれてしまいま「爺やさん」.........はい」

 

 

桜木「今.........俺、どんな顔してますか.........?」

 

 

爺や「.........ご自分で、判断してください」

 

 

 目を逸らされて、そう言われた気がした。俺は爺やさんに背を向けてたから、実際に見ては居ない。けれど、目を逸らされたのは間違いでは無い気がした。

 

 

 そうして、彼も去って行った。俺も、帰らなければ行けない。本来であるなら、苦しいながらも歩くしかないだろう。

 

 

 けれど、歩けない

 

 

 [前に歩けない]

 

 

 [物語]は今、終わりを告げた。

 

 

 [メジロマックイーンの最強伝説]は、 ここで終わりを迎えた。

 

 

 最後の最後に.........希望の詰まったレースを見せられて.........

 

 

 見事に、打ち砕いてくれた.........

 

 

桜木?「.........ははは、なんだよ」

 

 

桜??「ひっでぇ、顔してんなぁ.........」

 

 

 水面に写る顔。雨の波紋に揺らされながら、確かにその顔は酷い顔をしていた。

 もう。どうにかなってしまっていた。とっくのとうに俺は、壊れていたんだ。

 

 

 [夢追い人]が消えてしまった.........

 

 

???「.........はは」

 

 

??「あはは」

 

 

?「あはははははは」

 

 

 あの日には壊れていた。それを直しもせずに、俺はひた隠ししていただけだったんだ。

 俺は夢を諦めたその瞬間から.........夢を追う資格も、夢を守る力も、なかったんだ.........

 

 

 [夢守り人]が消えてしまった.........

 

 

「.........これからどうしよっか?」

 

 

 誰にでも無く、話し掛ける。もう、人が居るかどうかなんて関係なかった。

 それでも、声は内側から帰ってきた。任せてくれれば楽にしてやる。そんな声が内側から帰ってきたんだ。

 

 

 [夢探し人]が消えてしまった.........

 

 

「ほんと?じゃあお願いしちゃおっかな」

 

 

 顔に、何かが張り付いたような感触があった。もう一度水面を見れば、そこには非の打ち所が無い、完璧な笑顔の男がそこにいた。

 

 

 [夢への執着]が再び着いてしまった.........

 

 

 [夢壊れ人]になってしまった.........

 

 

 [悪夢追い人]になってしまった.........

 

 

 [悪夢守り人]になってしまった.........

 

 

 [悪夢探し人]になってしまった.........

 

 

「あはは。凄いや。全部嘘だったんだ」

 

 

「全部全部、演技だったんだなぁ」

 

 

 太陽を目指したイカロスは、その熱さに翼を溶かされ、飛べなくなった。

 それだけで終わったら幸せだった。それで死ねたのなら、まだ幸せだった。

 

 

 俺はまだ死んでない

 

 

 けれど、生きても居ない

 

 

 考えて、考えて、間違いを悔やんで

 

 

 立ち止まっているだけの存在

 

 

 フラフラとした足取りで、俺は立ち上がった。歩みをしながらも、全く前に進んでいないながらも、俺はその足で、家へと帰ったんだ。

 

 

 [強制共鳴]が発動している.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降っていました。

 

 

 彼やチームの思い出が詰まったトレーニングコースで。

 

 

 心は煮えたぎる溶岩でありながら、その熱を外に放出させて行き。

 

 

 背中は酷く。

 

 

 滝打つ様な雨に晒され。

 

 

 打たれて冷たく。

 

 

 心は氷に触れるように震え。

 

 

 そんな雨の中で。

 

 

 ただただトレーナーさんを.........

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv6→5

 

 

「.........まだ、決まった訳じゃない」

 

 

マック(.........っ)

 

 

 彼のその顔を見た時、私はもう。何もかも信じられなくなってしまいました。それは、その顔は最早、彼ではなく、別の誰かだと直感してしまいました。

 その笑顔の裏に見えるのは、虚空。ひび割れ、欠けた[仮面]からは、彼の本来の顔が見えなかった。

 

 

 だから、疑ってしまった。

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv5→4

 

 

 今まで見てきた表情も。

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv4→3

 

 

 今まで起こしてきた[奇跡]も。

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv3→2

 

 

 今まで超えてきた[奇跡]も。

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv2→1

 

 

 彼ではなく、別の誰かだったとしたら?

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv1→0 

 

 

マック「.........そう、ですか」

 

 

 拒絶した。

 

 

 拒絶してしまった。

 

 

 今ここに居る理由も、全てがバカバカしくなってしまった。

 

 

 メジロ家の皆は、走るのを止めろと私に言った。その理由は、嫌でも分かる。分かってしまう。

 

 

 けれど、諦めきれなかった。諦めたく.........なかった。

 

 

 ようやく、彼の夢を叶えてあげられるかもしれない。そう思って、ここまで頑張ってきた意味を、私は愚かだと思ってしまった。

 

 

 今まで私は.........

 

 

『ダメよ!![それ]を諦めたら全てが―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はそうやって、[仮面]を付けて笑えるのですね.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな人の為に、頑張ってしまっていたのですね.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv0→-6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [一心同体]が消えてしまった.........

 

 

 [強制共振]が発動している.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 あれから私は従者の人達に運ばれ、ベッドの上で窓の外を見ていました。外の方では、未だ雨は降り続けていて、雷すらも鳴り響いていました。

 

 

マック(.........これから、どうなるのかしら)

 

 

 まるで他人事の様に、けれど、他人の事と思わなければ心が壊れてしまうくらいに苦しい中で、私は見えない先を見えないなりに見つめようとしていました。

 それでも、拒絶したのは彼だけでは無いと段々と気付いていきます。彼と共に、先にある何かへも、私は拒絶していた事に気が付きました。

 

 

マック(.........じゃあもう、出来ることは思い出を振り返る事だけ.........え?)

 

 

マック「ない.........!!?」

 

 

 暫しの間、思い出に慰めてもらおうとその右手で、右耳に付けている筈のものに触れようとしました。リボンは確かにその手に触れましたが、それと共にいつも付けている物が、そこにはありませんでした。

 

 

 チームの証。そう、あの王冠のアクセサリーが.........無くなってしまって居たのです。

 

 

マック(.........そう、よね)

 

 

マック(あの人を拒絶したのに.........思い出で、あの人のチームにすがろうだなんて.........)

 

 

マック「本当.........世間知らずで、都合の良いお嬢様だわ.........」

 

 

 そんな資格は、とっくのとうに無くしていた。

 

 

 過去を振り返る事も出来ない。

 

 

 未来を見据える事も出来ない。

 

 

 ただ、走れなくなったという現状を受け入れることだけしか、出来ない。

 

 

 身体が、心が、まるで氷のように冷え込んで行く。

 

 

 それでも本能は、まだ身体を動かせる様に、熱を逃がさないようにと強く身体を縮こませた。

 

 

 もう。誰の声も聞こえない。あの人の声も、彼女の声も.........聞こえては来ない.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か.........助けてよ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も見ていない部屋の中、木霊するのは、少女の確かな本心だけであった.........

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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