山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
桜木「.........」
秋の空模様は変わりやすい。そう言われて日本では中々の年月が経ってしまっているが、最近は何故か崩れる事は無く、晴天が良く続いてくれている。
窓の外から、チームルームに備え付けられているテレビに目を移し、リモコンを手に取り電源ボタンを押す。時間的には、菊花賞の特別番組が放送されているはずだ。
心の中から声が聞こえてくる。変わらなくて良いのかと。確かに、今でも表に出ているのは辛い。身体は重く、倦怠感や嘔吐の直前まで来るような気持ちの悪さが有る。
だからと言って、担当のレースを見ない訳には行かない。だって俺はあの時―――
桜木「ッ.........ごほッ、う゛.........!!?」
ダメだ。今は、それを思い出しちゃいけない。彼女を連想させては行けない。いつの間にか生きる為のルールが追加されていて、それを思い出せた俺は、這い上がってきた胃酸を口で塞ぎ、その上から手で押えて外には出さなかった。
苦い苦い、酸味の酷いそれをもう一度、元いた場所に押し戻す。酷い後味が、吐き出した時よりも鮮明に残っているのは、気のせいであって欲しかった。
ーーー
タキオン「.........」
胸焼けにも似た胸騒ぎが、地下バ道にも響いてくる観客の声に呼応する様に反応する。深呼吸を何度しても、レースのシミュレーションを何度行っても、それが晴れることは無い。
歓声を浴びた。愛する彼と言葉を交わした。仲間達からの激励も貰った。もうこれ以上貰うものなどないと言うのに、心はまだ、物足りなそうにしていた。
カフェ「......タキオンさん.........?大丈夫ですか.........?」
タキオン「!ああ、君と走れるのが楽しみでね。少々寝不足のようだよ」
嘘では無い。半分は、彼女と走れるという喜びで眠れなかった。かつてのプランB候補であるウマ娘。マンハッタンカフェの真価を発揮出来る長距離レース。[菊花賞]。この舞台で彼女と共に走れるのは、本当に嬉しいことであった。
けれど、無視できない問題も残っている。それは、このレースで勝てたとして、彼を.........トレーナーくんを、元に戻せるのかどうかという事だ。
カフェ「.........」
黒津木「無理、するなよ?長距離は適正じゃないし。ただでさえお前は―――」
タキオン「分かってるよ。そんなの、私が一番.........よく知ってるに決まってるじゃないか」
時限爆弾。いや、諸刃の剣と言うべきなのか。この足は可能性を超える力を有しながらも、それを決して許されない破滅を持っている。まるで、何か超越的存在に生まれる前から枷をはめられたように。
それでも、やらなければ行けない。変わろうとしなければ変わらない。今この現状を、そして.........彼を[救う]のは、私だ。彼にとっての[最初の担当]である、このアグネスタキオンだ。
神威「.........ライバルのトレーナーである俺が言うのも変だけど、頑張れよ」
タキオン「当たり前だ。今回ばかりは、全力より力を出して走らせてもらう.........」
沖野「.........気をつけろよ」
重苦しい空気だ。レースが始まると言うのに、これから何かの終わりを突きつけられているかのような錯覚にすら陥ってしまう重さ。
チームメイトの顔は皆、浮かない顔ばかりだ。その顔が、どこか今の彼を思い出させてくる。私はそっと、目を逸らした。
タキオン(私は、今日勝ちに来たんじゃない)
タキオン(今日、この日を持って全てを変えに来たんだ.........!!!)
[菊花賞]。ウマ娘が競走バとして出られるのはほんのひと握り。そして、その人生で一度の出走しか認められて居ない。
そんな大事なレースを勝つ為ではなく、変える為に走る私は、きっと大バカ者なのだろう。
それでも、私はこのレースを利用する。例え誰に貶されようと、罵られようと、私はこのレースを持って、このチームを[元に戻す]。その覚悟は、もうとっくのとうに決めているんだ。
ウララ「.........タキオンちゃん」
タキオン「ん?どうしたのかな?ウララくん」
ウララ「袖、捲ってて良いの.........?」
タキオン「.........!」
気が付かなかった。勝負服の袖は、いつも掌が全て隠れてしまうくらいのまま着ている。特にそうする理由も無いが、気が付いたらそのような着方をしていた。
それを、今この場で変えるのはナンセンスだ。いつも通りの服装で、いつも通りの走りを。そうすれば、きっと勝てる。変えられる。
私は彼女に指摘された袖を直してから、突き放すような光が差し込んでくる出口の方へ、歩いて行った。
ーーー
「晴天広がる空の元、ここ京都レース場芝3000mの舞台にて、開催されるクラシック級GI[菊花賞]」
「人々にとっては年に一度。出場する選手にとっては一生に一度のビッグレース。こちらにも彼女達の緊張が―――」
テレビから聞こえてくる実況の声。えも言われぬ緊張感と無力感が同時にこの身に襲ってくる。
[菊花賞]。その言葉を聞いて、何かを思い出す前に強く目を瞑る。そして、全く関係の無いことを思い出そうとする。
これまで食べた物の中で一番美味しかったもの。一番楽しかった事。一番嬉しかった事。その全てを条件付きで頭の中でソートを掛けても、一人の存在を除外しただけで、全てヒットしなくなる。
苦しかった。それでもどうしようも出来なかった。だって俺は、俺には、力が無いから.........
「各バゲートイン完了しました!」
俺には.........
「[菊花賞].........!」
俺には.........
「今スタートです!!」
ーーー
黒津木「.........」
一斉にスタートを切り、付かず離れずの団体行動の様な序盤のレース展開。タキオンは、得意の先行策で6番手にその身を置いて機会を狙っている。
そして、そのライバルであるカフェは後方で最後に差し切るいつものレース展開に持っていく考えのようだ。
黒津木「.........なんか、空気悪いからお前喋れ」
白銀「あー。じゃあ玲皇に会いに行ってどうなった?」
神威「.........それわざわざ聞くなよバカ」
本当だ。こっちは滅茶苦茶胸糞悪い思いをしたんだぞ。空気を読めないコイツに提案したのがまずバカだった。
それでも展開は澱みなく進んでいる。彼女にとっては絶好の位置だ。ここからいつも通りの、あの皐月賞の時のようなスピードが出せれば、怖いものは何も無い。
何も無い.........はずなんだ。
黒津木(.........なぁ、玲皇)
黒津木(お前、いつもこんな気持ちで付き添ってたのかよ.........?)
酷い胸騒ぎだ。脈を測れば正常に機能している身体。しかし、それすら違和感が満載で気持ちが悪くなってくる。正常で居られる身体に、俺は疑問を抱いてしまう。
今まで、1ファンとして、彼女や他のウマ娘のレースを会場で見てきた。熱いレースに白熱し、勝っても負けても、満足感は他の何にも変えられないほど大きかった。
それが、今はどうだ?大きな苦しみを心に感じながら、それでもまだ、前を見て、レースを見なくちゃ行けないのか?
.........ここに来て初めて、俺は思い知った。トレーナーなんて言うのは、生半可な思いで成れるものなんかじゃないんだと。
そして同時に後悔し、反省した。こんな見えない重い何かに押し潰されそうになりながらレースを見てるなら、ああなっても仕方は無かったんじゃないか、と.........
胸に下げた借り物の王冠。アイツの全てが詰まっていたそれは、風に揺れる。
まるで、今は空っぽで、何も入ってない軽い、何の変哲もないアクセサリーだと主張してくるように.........
黒津木(.........タキオン)
ーーー
タキオン「ハァ......ッハァ......ッ!」
おかしい。何かがおかしい。3000mの中盤。私は身体の中にある違和感にようやく気が付き始めた。必死に身体を前へと動かしながら、可能性を必死に探し求めていた。
何度も導き出されるその可能性を否定し、もう一度計算と仮説と証明をたて直していく。それでも、何度も何度も、その可能性は私の前に現れて、[変わらない]と言うように私のあがきを嘲笑う。
ならば、それに抗うしかない。誰かが導き出して世界に普及した[解]も、私が独自に導き出した[解]も、今はもう枷でしかない。
レースの興奮と体力が徐々にすり減っていく焦燥感の中、私は最後の望みを賭け、私はもう一度、誰も導き出したことの無いそれを、手探りで導き出そうとした。
タキオン(さぁ.........!可能性を―――!!?)
[U=ma2]
Lv1
身体が前へと進む。走る為の持久力も回復し、前進するスピードが増幅する。
それでも、いつもの様にとは行かない。いつもより回復量も、加速量も無い。明らかに、[弱くなっている]。
タキオン「くッ.........!!!」
それでも、以前と同じように前へと進み、先頭に今すぐ立ち、独走していかなければ行けない。
そうしなければ.........きっと必ず.........
カフェに差し切られる。
タキオン(動け.........)
タキオン(動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けッッ!!!)
ただひたすらに、自分の身体を酷使する。無理に前へと出ようと、全力を振り絞って今から前へ行こうとする。
そんなこと、しても意味は無い。今大幅なリードを得たとしても、結局最終直線には力尽きてカフェに.........いや、それ以前に他のウマ娘達にも差し切られてしまうだろう。
そんな簡単な事にも気付かないまま、私はただひたすらに、前へ進もうとしていた。
まるで.........今のこの現状をどうにかしようという風に.........
ーーー
デジ「.........黒津木先生」
黒津木「.........言うな」
レースは終盤に差し掛かっている。タキオンは既に息も絶え絶え。明らかに焦って掛かっている。前へ前へと出ようとするあまり、自分の残り体力にすら気を回せなくなっている。
デジタルの不安そうな視線を感じながら、俺はこの行く末を見守ろうとしていた。それでも、その目を逸らしたいという気持ちは、大きいままだった。
神威「.........こんな時に言うのもなんですけど」
全員「.........?」
神威「トレーナーって.........素直にレースを見れないんですね」
そういう神威の目は、レースをずっと見ていたままだった。その視線の先には、最終コーナーを回って前へと差しに行くマンハッタンカフェの姿がある。
いつもであれば、両手を上げたり、拳を握って興奮を表していただろう。けれど、俺もコイツも、どこか苦しいものを感じながらこのレースを見ている。
沖野「.........俺だって、こんなワクワクしねぇレースは初めてだよ」
沖野「一体俺達は.........どこで間違えちまったんだ.........!!!」
観客席の最前線。そことレースとを仕切る鉄柵を、沖野さんは強く握りしめて言った。その答えは、俺には分からない。
けれど、今のこの現状全てが間違っていると、はっきりと言えてしまう。俺がこの役割に徹している事。アイツがここに居ない事。タキオンが信条に反して走っている事。その全てが、間違ってしまっている。
胸をえぐられるような気持ち。それから救われたいのか、俺は無意識に胸に掛けた王冠に手を伸ばした。そして、それが無駄だということに気が付いた。
黒津木(.........ずるいよなぁ、お前はさ)
黒津木(お前は、誰かの真似して、なりきる事ができるのに.........)
黒津木(俺は結局.........!お前にはなれないんだからさ.........!)
王冠に縋り付く意味も、誰かになる力も、俺には無い。それに気付き、その手をゆっくりと下におろした。
目の前のレースは既に、カフェが先頭に食らいつき、ゴールに向かおうとしている。タキオンの位置はもう.........掲示板には乗らない位置で、走っていた.........
実況の声が、聞こえてくる。
ーーー
「マンハッタンカフェ!!マンハッタンカフェが菊花賞を制しましたー!!」
「今年のクラシック級レース!!最も強いウマ娘が今ここに!!証明されました!!」
「2着には―――」
テレビの音声は延々と垂れ流され続けている。しかし、それを見ている人間は一人もいない。先程まで座って見ていた男も、席を立ってどこかに行ってしまっている。
後悔していたはずだ。ジャパンカップをその目で見ず、レースを見ずして敗北だけを知ったあの日に、男は後悔していた。
「.........ッ」
けれど、その後悔すら意味を成さない。
「う゛ぐぉッ゛うぅ゛う゛.........ケホ゛ッがふ゛ッ」
―――最悪だ。最後まで絶対目を離さないと心に誓っていたのに、何だこの体たらくは。担当のレースを見て、吐いてるなんて、最低じゃないか。
身体に上ってくる得体の知れない恐怖。それを象徴としたような吐瀉物が、職員トイレの手洗い場にある。それを見てまた、恐怖を思い出して苦しいものを吐き出す。
「フゥー.........フゥー.........」
地獄を何とかやり過ごして、目の前の鏡を見てみる。そこには、今まで見てきた中で一番の.........現実も、夢の中もひっくるめた中で一番の酷い顔が、そこに映し出されていた。
やめてくれ。
そんな顔、しないでくれ。
終わらないでくれ.........
濁りきった思考で、沈みきった思いで、その手を前へと伸ばして鏡に触る。
諦めたくない。諦めなければ行けない。その二つの思いがぐちゃぐちゃになって、もう諦めざるを得ない。そんな状況。
「.........俺が、悪かったんだよな」
「普通に生きてるだけで.........幸せなくらいの身分なのに.........分不相応に求めちゃった俺が.........」
振り返れば、苦しい中でも幸せはあった。それがなぜ、幸せだったのか。今ではよく分からない。きっと、普通の暮らしに慣れてしまったから。
だからきっと、これは咎めなのだろう。普通を求めただけでも十分だったのに、それ以上を求めてしまった。俺への咎め。
飯が食えない訳じゃない。夜に寒い思いをして寝る訳でも無い。服がボロボロになっても新しい物を買えない訳では無い。欲しい物を店先で指を咥えて見てるだけという訳もない。
それでも、俺はその先を求めた。今が幸せじゃない訳じゃないのに。その先を求めてしまった。[次]を、性懲りも無く、まるで獣のように、人間性なんて微塵も感じさせず、ただひたすらに、[次]を.........
飯が食えるのならもっと沢山。夜に寒くならないならもっと暖かく。服が綺麗ならオシャレで替えのきく物を。欲しい物が見つかったら調べてそれよりいい物を。
それが行けなかったのかもしれない。誰かとの繋がりを求めて、話題を作ろうとして、幸せになろうとしたのが行けなかった。俺は繋がっちゃ行けない存在なんだ。消えるべきなんだ。幸せになっては行けないんだ。
なんで生きている?なんで幸せになる?そんな資格が俺のどこにある?俺に与えられているのは、せめて普通以下の暮らしをする権利だけだ。それ以上求められるほどの人間じゃないって、知ってたはずだ。
けれど死ぬのはダメだ。お前は極悪人だ。そして俺はお前が死ぬほど嫌いだ。だからこの世の全ての苦しみを感じて死んでくれ。そのために生き続けてくれ。懺悔に懺悔を重ねて、それでも尚許されること無く、死ぬ時はひたすらに命乞いをして死んでくれ。
「.........くっ、ぅあ.........!」
恥の多い人生を送ってきた。
そんな一言じゃ言い表せない程、俺は恥知らずな男だった。
何がトレーナーだ。
何が大人だ。
何が恋だ。
お前には.........過ぎた[夢]だったんだ。
「.........はは」
「そうだよ.........それがいい。それが一番、皆に嫌われる道だ.........」
俺は、この鏡に映っている奴がどんな奴なのか知っている。それは、俺が一番嫌いな奴だ。
俺は嫌いな奴が幸せになるのが許せない。そして、ソイツの事を好きだって言う奴に、考えを改めさせてやりたい。
コイツは、死んで抜け殻になっても誰にも見向きもされないくらいに、嫌われてなきゃ行けない。
だったら、やることは一つだ。コイツは最低だと皆に知らしめるために.........俺がやる事は、たった一つだけ―――
―――トレーナーを、辞める事。
「それが良い.........これでお前は立派なクズだよ」
「なんせ.........犯罪じゃないから、誰にも裁かれない」
「その上で.........人の心を沢山傷付けて行くんだから.........」
乾いた笑いが響き渡る。けれど自分のそれすらも耳に入らない。今は、目の前の男をどんな風にして困らせて、苦しめて、殺してやろうかを考えている。
お前が死ねば、皆幸せになる。
お前がいなくなれば、皆楽になる。
お前が消えれば、皆忘れてくれる。
苦しみも
絶望も
悲しみも
後悔も
全部
全部
全部.........
―――男は笑っていた。鏡に映る悲しい顔にも気が付かないまま、男は笑う。ただ一人を不幸せにする為に、ただの一人の心を殺す為だけに。男はゆっくりとそこから出ていく。
男は、今度は[仮面]を付けようとはせずに、この道を終わらそうとしていた.........
ーーー
黒津木「タキオン!!!」
レースが終わった地下バ道で、あたし達はタキオンさんの帰りを待っていました。結果は7着。掲示板入りすらしていない順位でしたが、心配なのはそこではありません。
彼女はよろよろと、視線を下に向けながら力なく歩いてきました。その姿を見て、黒津木先生は彼女に向かって走り出し、その身体を支えるように抱き締めました。
カフェ「タキオンさん.........!!?」
タキオン「っ、心配は要らないよ.........君と走るのが楽しみでね.........寝不足の上に、多少、無理をした.........こうなるのは、見えていたさ.........」
デジ「.........」
嘘です。確かに、彼女は昨日。と言うより、最近寝てなくて、寝不足気味でした。けれどそれは、レースや誰かと走れる興奮によるものでは決して無かった。
研究も実験も無い中で、どうして彼女が起きていたのか?それも違います。[寝れなかった]んです。布団を被って、精一杯目を瞑ろうとしても、タキオンさんは、[夢を見る]ことが出来なくなっていました。
神威「タキオン.........」
カフェ「.........タキオンさん。また、走りましょう」
カフェ「今の貴女に勝っても私は.........素直に喜べません.........」
彼女はタキオンさんの身体に触れようとして、一瞬その手を伸ばしかけましたが、少し止まってからもう一度その手を戻して、その慰めの言葉を掛けました。
それは、マンハッタンカフェさんが送れる、最大の慰めでした。今度は万全の状態で、何の憂いも無い状況で走れたら、きっと結果は違ったかもしれません。
それほどまでに、今のタキオンさんは、いつもの様な圧倒的速さを、持ち合わせていませんでした。
沖野「.........良くやったな」
タキオン「っ.........良く、やっただって.........?」
タキオン「ふざけるな.........!!!」
沖野トレーナーの言葉を聞いて、カフェさんの慰めにすら反応を示さなかった彼女が、黒津木先生の腕の中で怒りを顕にしました。
今にも沖野トレーナーに掴みかかりそうな勢いですが、レースを終え、しかも限界近く体力をすり減らしたせいで、人間である黒津木先生にその前進を抑え込められてしまいます。
それでもなお、彼女は彼の方へと近づこうとしていました。
黒津木「タキオン......!落ち着けって.........!!!」
タキオン「私は勝てなかったッッ!!!」
タキオン「勝たなければ行けないレースで!!!勝てたら何かが変わるかもしれないレースで!!!勝てなかったんだッッ!!!」
タキオン「私は何をしたんだ!!?このレースで[彼]を[元に戻せた]か!!?[彼女]の[運命を覆せた]か!!?」
デジ「タキオン、さん.........!!」
怒りでいっぱいだった顔が、少しずつ変わって行きます。外に向けていた激しい揺れ動きが、段々と自分の中へと向けられて、怒りが悲しみになっていくのが手に取るように感じられました。
タキオン「私は.........!!!変えられなかった.........!!!」
「越えられなかったぁぁあぁぁあああぁぁぁぁあああぁぁぁ..................!!!!!」
[U=ma2]
Lv1→0
[強制共鳴:絶望]が発動している.........
デジ「.........」
デジ(.........違う)
彼女は声を上げ、彼の腕の中で泣き始めました。その姿を見て、周りの人達は皆、悲しみと苦しみが織り交ざった様な表情をしていました。
違う。それは、何に対して言ったのか、あたしにも分からなかった。けれど、今この現状が、追い求めている物では無いということだけは、ハッキリとしていました.........
[強制共鳴]が発動している.........
[強制共鳴]が発動している.........
[強制共鳴]が(違う.........)
あの人はきっと、こんな事を望んじゃいない。あの人が望んでいるのは、自分を助けてくれる人。
今まで自分がその役割をしていたから、誰かを助け続けていたから.........きっと、声を上げ慣れていないだけ。自分の心の奥底から静かに聞こえてくる声に気付けて居ないだけ。
だったら、あたしが[それ]になればいい。
今、誰もあの人を助けられないなら。
あたしがあの人を助ければ良い。
[???]
Lv?→0
もう、ただの一般ウマ娘Aは居ません。ここに居るのは、アグネスデジタルです。アグネスデジタルの物語は、アグネスデジタル自身が切り開かなければいけない。
もし、あの人が自分でその身を地獄に置こうとしても関係ありません。あたしは、このチームが好きなんです。チーム[スピカ:レグルス]の皆さんが、沖野トレーナーが、あの人のお友達が、あの人の事を好きなマックイーンさんが。
そして.........マックイーンさんの事が好きな、[トレーナー]である[
デジ(もう。ただのウマ娘ちゃんが好きなオタクなだけのあたしは居ません)
デジ(チームの.........あの人の為ならあたしは.........!!!)
―――周りが苦しんでいる中、一人の少女はその拳を、人知れず握り締めた。その瞳に、強い意志を宿しながら、一人覚悟を決めた。
だが、それはアグネスタキオンが決めたような覚悟では無い。一人で変えられる程、少女は強くないと自分で知っていた。
だから、その覚悟は[全てを変える]のではなく、それをできる一人を、[変える]事。[元に戻す]覚悟であった。
誰もまだ、気付いていない。
[勇ましき者]の目覚めに、まだ、気が付いていなかった.........
ーーー
沖野「.........」
多くの寝息が聞こえてくる帰り道の電車の中。外の景色は秋だからか、時間の割に暗さを帯び始めている。夕焼け空の向こう側は、もう夜になりかけていた。
沖野「.........起きてるか?」
白銀「ん.........」
隣に座る白銀の方を見ると、自分の携帯の画面を開きながら、ボーっとしている様子だった。
チラリとその画面を見ると、それはどうやら、ゴールドシップに何かメッセージを送った様で、物の見事に既読すら付けられていない状態だった。
白銀「なぁ、ゴルシなんかあったのか?今日っつーか。最近見てねぇんだよな」
沖野「.........さぁな、桜木絡みでなんかあったんだろう。授業の方にも、出てないらしい」
アイツの姿を見たのは、数日前が最後だ。まるで変わってしまったという桜木の噂を聞いて、いてもたってもいられなくなったんだろう。
そして、何かを突きつけられて、心を折られた。俺でも、あの状態のアイツになんて声を掛けていいのか分からなかったんだ。そうなるのも無理は無い。
.........だが、この現状が良いとは、俺も微塵も思っちゃいない。
沖野「.........今日、桜木の奴に会いに行く」
白銀「.........」
沖野「古賀さんと、東の奴も連れて行く。お前らはどうする?」
―――正直、もう関わるべきじゃないと思っていた。今のアイツを前にすると、自分を保てなくなって、言いたくねぇことも絶対に言っちまうと思ったから。
けれど、このまま終わっちまうのも後味の悪いもんがある。こんなんじゃ、アイツと親友っつっても、全世界の親友持ちに笑われて指差されんのがオチだ。
俺が笑われんのは別に良い。俺は笑われて当然の人間だ。面白いと思われた方が俺も嬉しい。
けれど、俺と一緒にアイツらが笑われんのは違ぇ。アイツらを笑っていいのは、一緒にバカな事やってきた友達だけだ。
白銀「.........良いぜ。その話乗ってやる」
白銀「偶にはよ、ちゃんとダチっぽいことしとかなきゃ、アイツ俺達がなんだったのか勘違いしちまうだろうからよ」
―――そう言って、白銀の奴は俺に背を向けて寝始めた。普段と変わらない少しふざけたような口調だが、それでも、コイツが本気だと言うことはしっかりと伝わった。
学園に着くのは、5時を過ぎた辺りだ。そこで全部.........
決着を付けてやる.........!
......To be continued