山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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貴顕の使命を貴方(君)と再び

 

 

 

 

 

 一体、どれだけの時間が経ったのでしょう?一年。半年。一ヶ月。それとも、一週間?いいえ。もしかしたら、あの日からまだ一日も経っていないかも知れません。

 もしそうだとしたら、きっと.........きっとあの人は―――

 

 

マック(っ、もう。期待しないで.........)

 

 

マック(お願いだから.........!あの人をこれ以上.........苦しませないで.........!!!)

 

 

 何度も、何度も何度も、私はそうやって彼に期待する。来てくれるのではないか?目の前に来て、その本心からの素顔を見せてくれるのではないか?

 そんな思いを抱いて、彼の苦しそうな笑顔を思い出し、その希望を自ら折って行く。私は決して.........彼のあんな顔が見たい訳じゃない。

 

 

マック「.........雨?」

 

 

 不意に、頭を抱えている内に外の音が耳に入ってきました。それは、地面を強く殴り付けるような雨の音。あの時と、同じような.........酷い雨。

 雷こそ鳴っていないものの、その雨は本当に、土砂降りと言っても過言では無いほどの降り様でした。

 

 

マック(.........けれど、なんだか安心する)

 

 

マック(最近はなんだか、[嘘みたいな晴れ]が続いていたもの)

 

 

マック(こっちの空の方が、素直に見えて良いわね.........)

 

 

 秋の天気は崩れやすい。それでも最近は、まるで嘘みたいな晴天が続いていました。だから、今はこの雨模様も、ようやく空が素直になったようで少し落ち着きます。

 静かに肺に溜まった空気を吐き出し、ナイトテーブルに置いている小説を手に取ります。それは何の変哲もない、夢の世界の様なファンタジー小説です。

 

 

マック(.........)

 

 

マック(ああ、ダメね.........景色の色が全く分からない.........)

 

 

 文の一行を読むのに、いつもより時間をかけて、ページを一枚めくるのに、いつもより力を使う。物語を読むのにこんなに体力を使う事なんて、今まで無かったのに.........

 そして何より、色が分からない。頭に浮かぶ景色はしっかりと想像出来るのに、その世界を表現する色は、全てモノクロで構成されています。まるで、一昔前の写真の様に。

 まるで.........二度と戻ることは無い、[思い出]の様に.........

 

 

マック(.........思い出になるくらいだったら)

 

 

マック(もう、いっその事全て忘れてしまいたい.........)

 

 

 まだ数ページしか読んでいない。その上、その描写もハッキリと頭の中に思い描けていないのに、私はその小説を閉じました。

 読んでいる最中、そうする事は何度もあります。情報が沢山あったり、素敵な表現があると、一旦先を読むことを止め、その景色を思い浮かべたり、その言葉を自分の中で何度も唱えるから。

 けれど、今は違う。今日はもう読む事は無いと表現するように、しおりも挟めず、その本をもう一度、そのテーブルの上に置き直します。

 私をダメにするような暖かさを持っている掛け布団。その下にある、私の脚を一瞬見て、私は枕に顔を埋めました。

 

 

マック「.........」

 

 

マック「.........グス......ヒグっ.........!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ハァ!ハァ!」

 

 

 雨が降り続ける。俺を諦めることを促すように、身体に降り注ぐ一つ一つの雫が、徐々に俺の体力を奪ってくる事を、ひしひしと感じる。

 それでも、止まることは出来ない。俺は、俺が止まることを許さない。他の誰でもない、誰でもあり、誰でもない男の声でもない。ましてや、既に割れ、機能を失った仮面のものでもない。

 

 

 それでも、雨は体力を奪い続ける。人は弱れば、誰でも弱音を吐きたくなる生き物だ。それは俺も、多分に漏れない。

 走りながら、弱りながら、俺は今まで自分に問い続けた言葉を、不意にかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――なんで俺なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い前進を続けていたその足が、雨に圧されて弱くなる。その減速は止まらず、その足は遂に、俺の前進を止める.........瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君じゃなきゃダメなんだよ。君以外、誰が私の薬を飲むんだい?私に火をつけた責任を、君は取るべきなんじゃないかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 知っている声が、記憶から呼び起こされる。ポケットに入れていた王冠のアクセサリーが、有り得るはずもないのに、雨に当てられ音を小さく鳴らした気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――俺じゃなくても良かった筈だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あのね!!わたし、トレーナーがトレーナーが良かったーって思うんだー!!だってだって!!トレーナーと居ると楽しいもん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 雨が降り続ける。胸が苦しい。それでも、雨の水滴が着いた王冠は、街灯の灯りを反射するように、その存在をその中で誇示し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――俺は変わらない、最低な男のままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄さま。ライスが変わろうとした時、言ってくれたよね?変わる責任や義務はないかもしれないけど、変わる権利は、誰でも持ってるって。ライスあの時、とっても安心したの』

 

 

桜木「.........!」

 

 

 雨は止まない。身体はその水を被り、段々と冷たさが広がっていくはずだと言うのに、胸の内は苦しさから熱さが広がってくる。その熱が.........熱伝導のように、王冠のアクセサリーへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――俺には、無理だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター。苦しみも悲しみも、時が経てば明日への糧になります。私は、貴方とチームの皆さんと過ごした日々の中で、それを学びました』

 

 

桜木「っ、っ.........!」

 

 

 雨は、雨は、雨は降ってくれている。まだ、俺の身体に当たって、それを誤魔化してくれている。上手く息が出来ない理由も、詰まるように呼吸する原因も、急かすような王冠の輝きも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――俺に、何が出来るっていうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『走りますッッ!!!芝だってダートだってッ!地方でも中央でもオープンでもG1でも走ってやりますよッッ!!!』

 

 

桜木「.........はぁぁぁぁ...............!!!」

 

 

 雨は、降っている。それでももう、誤魔化すことは出来なかった。頬に流れる熱い感触も、心に溢れる強い力も、決して他の環境による影響では無い、自ら輝く。この王冠も.........

 苦しみから開放されるように、息をゆっくりと吐く。溜め込んでいた涙が、どっと溢れ出すように両目から溢れ出すが、それももう、誤魔化したり、我慢する必要はどこにも無い。

 

 

桜木(みんな.........ごめんな、情けない奴で.........!!)

 

 

桜木(ダメだよなぁ、逃げたくなって逃げるんじゃ.........悪役、以下だよなぁ.........)

 

 

桜木(.........せめて、叶えたい夢くらい、一度くらいは叶えさせようぜ.........!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(トレーナーとして)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(桜木玲皇として.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涙を拭い、心に問いかけてきた[何者]かに対して、深く意識を集中させて行く。これ以上邪魔をするのなら、俺は自分の意思をソイツに伝えるまでだ。

 深い、深い、深淵のような闇の中。けれど、恐れは無い。そこに落ちて行くのは、初めてじゃない。これは、俺の闇そのものだ。

 俺の闇。光には無い力。俺の根幹であり、周りとの違いであり、原動力そのもの。これがあるからこそ、俺は前へと進んで行ける。

 そしてそこに.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [奴]は居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [共鳴]が発動している.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

桜木「.........よう。随分と辛気臭いじゃねぇか。[白バの王子様]?」

 

 

 膝を抱えて、蹲る仮面を着けた存在。それがなんなのか、一目で分かった。あれは、 俺の身体を使っていた何かだ。

 何も無い、景色も風も、温度も存在しないこのじめじめとした雰囲気が漂う中で、コイツはただ、うずくまっているだけだった。

 

 

「.........なんで逃げないんだ」

 

 

桜木「逃げたくねぇからだ」

 

 

「なんで諦めないんだ」

 

 

桜木「諦めたくねぇからだ」

 

 

 分かりきった事を繰り返し聞いてくるそれに、不思議と苛立ちは覚えなかった。それはきっと、この仮面との付き合いが長かったせいだろう。

 自分の弱さが嫌になり、ため息を吐く。そんな事も意に返さず、興味を持たず、奴はただ、会話にもならない言葉を口にする。

 

 

「苦しいのは嫌だ」

 

 

「痛いのも嫌だ」

 

 

桜木「.........分かるよ」

 

 

 だれだって、そんなものからはその身を遠ざけたくなるものだ。俺だって、それから逃げたい一心で生きてきた。

 だから一度、夢を捨てた。あれは俺の夢ではないと、あれは、まやかしだと思い続けてきた。

 けれど蓋を開けてみれば、あれもれっきとした夢だ。俺の夢だったんだ。

 それでも、俺は逃げた。諦める事が、カッコイイなんて思ってたんだ。今にして思えば、そんな自分の浅はかさに笑えてくる。

 

 

「何かに拘らずに、新しい世界を見ればいいのに」

 

 

桜木「.........はぁぁぁ」

 

 

 深いため息が、この空間いっぱいに響き渡る。温度も、風も発生しない世界で唯一生まれた、空気の流れと息の温度の存在が、目の前に居る全てを否定する。

 俺は、目の前に居るそれに背を向けた。決別する時だと思った。コイツに頼り続けるのはこの先の未来にとって、そして、コイツにとって.........良くないと思ったからだ。

 

 

桜木「カッコつけんなよ」

 

 

「.........?」

 

 

 うずくまっていたそれが、顔を上げる。その俺に似た[仮面]は既に、ひび割れ、欠け、そして虚構の素顔が顕になりかけている。もしかしたら、コイツも助かりたかったのかもしれない。

 それでも俺は、コイツの辛さを知りながらも、それではダメだと俺の考えを全てぶつける。

 

 

桜木「大切なもん捨てて強くなったつもりかよ」

 

 

玲皇「俺には逃げてる様に見えるぜ?」

 

 

 

玲皇「お前は捨てたつもりらしいが、それは必ず自分の中に存在する。手放そうとすればする程、強く存在するんだよ」

 

 

「.........」

 

 

 右腕の付け根を触りながら、俺はその存在に言った。実際、捨てようと思っても捨てる事は出来ない。何より、俺はそれが出来なかった。

 だから今でも休みの時は公園に行って、近くの高校の演劇部の子達に指導みたいな事してるし、トレセンではヒーローショーもやった。結局それは、いくら他人の才とはいえ、俺に捨てられる程の無価値さでは無かったんだ。

 

 

桜木「疲れたろ?無理に頼っちまって悪かったな.........しばらく、休んでろよ。次会う時までに、もちっと人受けしやすい仮面でも探しながらよ」

 

 

 ヒーローのお面は子供の憧れだ。誰だって幼い頃。戦隊モノやライダーモノ。ウルトラマンのお面を着けたくなる。けれど、大人になるとそれは眩しすぎて、逆に恥ずかしくなるものだ。

 だから俺はもう、普通のお面で良い。ひょっとこ顔した、祭りの定番らしいお面で十分だ。俺はもう、ヒーローなんてやる歳じゃ無い。

 それに俺は、[悪役]の方が好きだ。意地汚くて、生き汚くて、往生際の悪い。それでいて、救われようとして結局救われないままの[悪役]が好きだ。

 

 

 でも俺は.........中途半端だから。

 

 

桜木「[正義の味方]やりたいんなら別に構わねぇけどよ。俺は俺なりに[悪役]やりたいんだ」

 

 

桜木「[中途半端野郎]に成り下がる人生をご所望なら、俺はお前を受け入れるぜ?」

 

 

「.........!」

 

 

 俺の[理想(エゴ)]と、コイツの[理想(信念)]。どちらが正しいかなんて明白で、決定的だ。きっと、コイツの思い通りに動けば、俺はこれ以上壊れること無く、安定した人生を歩めていたのかもしれない。

 それでも俺は選んだ。[中途半端に生きる事(夢の道を進む事)]を。途中で投げ出したのに、諦めがつかなくて、意地汚く手を伸ばしてまた掴もうとしてしまっている。

 誰もが望む未来を。誰もが知りたい過去を。誰もが救われる今を。俺は求め続けている。だからこうして、散々引っ掻き回してくれたコイツにも、手を伸ばしてしまっている。

 

 

「.........良いのかい?」

 

 

桜木「良いか悪いかは自分で決めろ。俺はただ、苦しそうにしてる奴に手を伸ばすだけだ」

 

 

桜木「それが.........[桜木 玲皇(トレーナー)]だからな」

 

 

 今までそうしてきた。だからこれからもそうする。それだけだ。それが俺の中にある[トレーナー]なら、尚更やめるわけには行かない。

 意識が現実世界に戻って行く。落ち着く薄暗闇から、全てを追い出す光を感じ、何も見えなくなっていく中で.........

 

 

 俺の手は、確かに温もりを感じる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ハァ......ハァ......っ、はぁぁぁ.........」

 

 

 身体の内の熱を逃がすように急かして息を吐く。目の前にそびえる豪邸を前にして、覚悟を決めるように息を思い切り吐き切り、そのインターホンに指を伸ばした。

 指先が震える。ここに来て、怯えている。息も絶え絶えで、その行く末を定める事が出来ない。

 けれど.........それでもその指先は、真っ直ぐ動いてくれた。まるで、この身体は俺の本心だけを読み取り、邪念や戸惑い、恐れを振り払うかのように.........

 

 

「.........大変申し訳ございません。本日メジロ家はお客様のご招待を」

 

 

桜木「マックイーンにっ.........マックイーンに、会わせて下さい.........!!!」

 

 

「!.........かしこまりました。雨で冷えていますところお手数ですが、門を開けて玄関前までお越しください。桜木様」

 

 

桜木「ありがとうございます.........爺やさん」

 

 

 インターホンから聞こえてくる声は、マックイーンの付き人の爺やさんだった。胸に重苦しい、雨でも混じって吸い込んでいるんじゃないかという空気を吐き出し、俺は門を開ける。

 ここからだ。ここからが正念場なんだ。桜木。お前の人生のターニングポイントは、今まさにここなんだ。俺は今、人生を最悪にするか最高にするかの瀬戸際に立っているんだ。

 

 

桜木(頼んだぞ。俺.........もう、嘘も[仮面]も付けるんじゃねぇぞ)

 

 

 ポケットに入れたそれを表には出さず、握り締める。それに今まで込めてきた物に力を借りる様に。今までそれに込めて来たものを、一時の間返してもらう様に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [夢追い人]を取り戻した!!

 

 

 [夢守り人]を取り戻した!!

 

 

 [夢探し人]を取り戻した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(.........?寝ていたのね.........一体どれくらいの間.........)

 

 

 意識の覚醒。それは、まるで朝を迎えるかのようにゆっくりと、そして確実に起こりました。目を覚ます前までにあった不安や苦しみは、幾分かマシになっています。

 部屋に備え付けている時計を見ると、どうやら寝ていたのは30分程度。ですが、最近は寝付きも悪かったので、それだけでもスッキリとします。

 

 

マック「.........これから、どうしようかしら」

 

 

 もう。誰の声も聞こえない。姿も見えない。全ての物や景色から色は抜け落ち、心は硬い殻を持ったように、全ての物から受ける影響を強く阻害しています。

 

 

 

 

 

爺や「.........こちらがお嬢様のお部屋になります。外の音は一切聞こえておりませんので、ご相談事なら今の内に」

 

 

桜木「.........少し、待っててください」

 

 

 ―――長い長い廊下を歩いた。数分が数時間の様な、地獄みたいな時間を過ごしていた。時間が長引く事に、後悔や苦悩が重みを増していく。今更、そんな物が重くなったところで起きた事は変わらないと言うのに。

 俺は一旦、部屋の前で爺やさんに待ったをかけた。別に何か相談をしたかったわけじゃない。ただ、伝えたい事があって、俺は自分のポケットに手を入れた。

 

 

桜木(.........ごめん)

 

 

 その心と一緒に言葉を打ち込み、メッセージを送る。行先はチームのグループだ。直ぐに何人か既読が着いて、俺は一旦通知を全て切った。

 

 

桜木「.........準備出来ました。いつでもいいです」

 

 

爺や「.........分かりました。では.........」

 

 

 

 

 

マック「!.........なんでしょう、メッセージが―――!」

 

 

 ―――充電を差したままにしていた携帯が震え、何か知らせが来たことを伝えてきます。電源を着け、内容を確認すると、彼から短く謝罪の一文が入っていました。

 それに目を見開き、驚いていると突然、部屋のドアからノックが聞こえてきました。

 

 

爺や「お嬢様。お客様がお見えになられております」

 

 

マック「爺や.........申し訳ありませんが、このようなベッドの上から動けない姿を、誰かに見せるような事は.........」

 

 

爺や「.........[待ち人]が来たのなら、それを出迎えるのが待っていた者の勤めでございます」

 

 

マック「!それって.........」

 

 

爺や「私は外におりますので、お話が終わったらお声掛けください」

 

 

 扉を開けて姿を見せた爺や。お客様と聞き、私は会うことは出来ないと言いました。そしてそれを、彼はよく分からない持論で遮ってきます。

 そして、[待ち人]と聞き、それを聞こうとした時も、彼はそれを全て聞かず、そのお客様を通すように扉を大きく開けました。

 

 

マック「.........!!!」

 

 

 ゆっくりと、片手と片足が目に入ってきます。もう、この時点で誰が来ているのか、明白に分かってしまう。身体が見え、その両手両足が完全に部屋に入ってきたのを見て.........私は、目を伏せました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........久しぶり。一週間、くらいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........何しに、来たんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔は.........見ませんでした。また、彼が[仮面]を付けているのではないか。また、嘘を吐かれるのではないか。そんな不安が大きく募り、私は目を逸らしたんです。

 そして、心にも無いことを言ってしまいます。本当は、ただ理由がなくたって良かった。ただ会いに来ただけでも、心配して来てくれただけでも.........嬉しかった。

 

 

マック「.........何をしに来たかと聞いているんですっっ!!!」

 

 

マック「私は[走りません]ッッ!!![走れない]のではなくッッ!!!もう、決めたんですッッ!!!」

 

 

マック「今更、貴方に何を言われようがッッ!!!何をされようがッッ!!!私は自分で決めましたッッ!!!」

 

 

マック「だから.........!!!もう、放って置いてください.........ッッ!!!」

 

 

 .........最低です。折角来た彼の顔を見ずに、心にも無いことを言って、諦めさせようとする。そうする事で、もう彼が私の中に居ないという事が、強く分かってしまう。

 私は、心と身体を強く結ぶトレーニングをし続けて来ました。自然体で、心の強さが走りに直結する様なトレーニングを.........

 だから、心が苦しめば、身体もその通りに動く。けれど、今は心ではそう思って居なくても、口が勝手に、彼を拒絶してしまう.........

 もう、完全にチグハグになってしまったんです。私の中の[一心同体]は消え、そして彼との[一心同体]も無くなってしまった。

 

 

 彼の顔から目を背け、私の脚からも目を背け.........窓の外を見つめます。雨が降っている、窓の外を。

 今はそれが、唯一の救いでした。まるでこの雨が、私の代わりに泣いてくれているようで.........心が楽になるからです。

 

 

「.........そっか」

 

 

マック(.........そう。それでいいの)

 

 

マック(どんなに頑張っても、私は元通りには走れない.........貴方には未来があるのだから.........)

 

 

マック(こんな私なんて、早く見捨てて―――)

 

 

「それは出来ないかな」

 

 

 一瞬、聞こえてきた言葉の意味が理解できませんでした。だって、どう考えたって諦めた方が賢明ではありませんか。

 [繋靭帯炎]は不治の病。たとえ良くなったとしても前と同じ様に走れるのか、そもそも再発の可能性だって危ぶまれています。そんな病を抱えたウマ娘など、放っておく方が良いに決まっているではありませんか。

 それでも彼は、何の気なしにそう言ってのけます。私は振り返りこそしませんが、彼が近付いてくるのが足音と体温で分かってきます。

 

 

「.........俺はさ。マックイーン。別に君を元に戻したいわけじゃないんだよ」

 

 

マック「え.........?」

 

 

「いや。語弊があるな.........なんて言うのかな.........?」

 

 

「.........[傍に居たい]。うん、君の隣に居たいんだ。俺は」

 

 

 彼が最初に、私を元に戻す気は無い。そう言った時、あまりにも予想だにしていない言葉だった為、思わず彼の顔を見てしまいました。今まで、怖くて怖くて、見ることが出来なかった彼の顔を.........

 そして、ようやく気が付いたのです。今の彼は、[仮面]などとっくのとうに外して、私に対して、ありのままで居ようとしてくれている.........

 胸の内に暖かさが広がっていくのを感じていると、自分の出した答えに一人納得していた彼と目が会い、笑いかけて来ました。

 

 

桜木「やっと見てくれた」

 

 

マック「っ、そうですか!傍に居たいだけならどうぞご自由にっっ!!!勝手にしてください!!!」

 

 

 ああ、違う。そんな事を言いたい訳じゃないんです。ただ、ありがとうと伝えたいんです。なのにどうして、たった一週間も会えなかっただけで素直になれなくなるんですか?

 また、彼の顔から目線を外し、私はもう一度窓の外に意識を移しました。すると、先程までには感じなかった物を.........[色]を、見い出せるようになっていたのです。

 

 

桜木「うん。勝手に傍に居る」

 

 

桜木「だからこれも、俺の勝手な独り言(誓い)だ」

 

 

マック「.........?」

 

 

 彼はゆっくりとその手を伸ばし、私の片手を優しく掴みました。それに釣られて、私の意識ももう一度、彼の方へと向けてしまいます。

 そして彼は空いている方の手で、私の頭をそっと撫でました。

 

 

桜木「俺と君は、[一心同体]だ。君の選択は、俺の選択だ」

 

 

桜木「諦めるのも、諦めないのも、人生だ。俺は諦めた側の人間だ。そういう幸せもあるし、道もある」

 

 

 優しい、彼の言葉.........いつもであれば、彼の優しさは辛い優しさのはずなのに.........今は、涙が出るほどに素敵に聞こえてきます.........

 

 

桜木「.........君がもし、走るのを諦めるんだったら、君の将来を一緒に模索してやる。やりたい事も探してやる」

 

 

桜木「君がもし、走るのを諦めないんだったら、君の車椅子を、死ぬまで押して行ってやる」

 

 

マック「............!!!」

 

 

桜木「舵を切るのは君だ。マックイーン、君は俺をここまで連れて来てくれた。今度は、俺の番だ」

 

 

 そう言って、彼は自分のポケットから何かを取りだし、私に握り締めさせました。誰にも見せることないよう、世界の誰にも、バレないよう。勿論、私にも、それが何か分からないように.........

 けれど.........分かってしまう.........!!!感じ取ってしまう.........!!!それが今まで.........!!!私達をどれだけ支え.........導いてきてくれたものなのかを.........!!!

 

 

 彼の手が離れていく。自分の手に握られているそれを見て、静かに.........けれど多くの涙を流して、それを胸に、大切に抱きしめる。

 私の嗚咽が響く中、彼はその言葉を、続けました。

 

 

桜木「[ひとりじゃない]。君は俺にとって、[夢になってくれた]」

 

 

桜木「俺の夢になってくれた君を助ける為に、俺は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[君の夢]になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その顔は.........優しい笑顔でした。

 

 

マック「トレ......ナー.........さん.........」

 

 

 それでいて.........

 

 

 本当に、何が起きても.........

 

 

 それこそ、[奇跡]の様な[運命]が起きても

 

 

 全てを[超えて].........覆してくれる気さえ、湧かせてくれる。

 

 

マック「トレーナーさん.........!!!」

 

 

桜木「.........ごめんね。マックイーン」

 

 

 溢れ出す気持ちのまま、私は彼に抱きついてしまいます。[仮面]のない、ありのままの姿で、強くあろうとしてくれる彼に.........私は手を伸ばしました。

 涙と鼻水が絶え間なく出てくる事もいとわず、まるで小さい子供のように、離れ離れになった親子の再会のように、私は泣き、彼は私の背中を落ち着かせるようにトントンと叩きました。

 

 

桜木「遅くなってごめん。勇気が出せなくて.........ごめん」

 

 

マック「グスっ、本当ですっっ!!!」

 

 

マック「苦しかった.........!!!辛かった.........!!!痛かった.........っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっっ.........淋しかったぁぁぁああぁぁぁあああぁぁ.........!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう。恥も外聞も、何もかもありませんでした。ここに居るのは、私の事を思い、この雨の中ずぶ濡れでやってきてくれた私の[トレーナーさん]で、私は[メジロ]でも[エース]でも無い、ただ一人の[メジロマックイーン]でした。

 

 

マック「本当は.........!!!ずっとっ、ずっと会いたくて.........!!!でももう.........!!!会ったらまた貴方を縛り付けてしまうと思って.........!!!」

 

 

桜木「.........俺も。ずっと会いたかった」

 

 

桜木「あの時、俺は本心から治るとか、また走れるとか思えてなかったんだ。だから君に拒絶されても、仕方が無いと思ってた」

 

 

 私の背中を優しく叩いていた手をゆっくりと離し、両手で肩を押さえてきます。そして、私の様子を確認する様に、その優しい表情のまま、私の顔を見つめてきました。

 

 

マック「.........どうして、ですの.........?」

 

 

マック「あの時.........!私は貴方を拒絶したのに.........どうして.........!!!」

 

 

桜木「[まだ見れていない]から」

 

 

 見れていない。私の疑問に、彼は声の調子を変えることなく、淡々としていながら、真剣な目付きで言いました。それが逆に、彼の本心だと言うことが痛い程に伝わってきます。

 そして、それがどういう意味なのか、一体何を見れていないのか、私には検討が着きませんでした。そして、彼から正解を聞くまで、ずっとそうだと思っていたんです.........

 

 

桜木「.........分かるでしょ?俺は、まだ君に会った時に見えた[想像の姿]を、この目で見れてないんだよ」

 

 

マック「.........あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『断言出来るよ。君は大化けする。人々の視線を持っていくレベルまで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日。彼と初めてあったあの日。私にとっての全てが始まり、彼との[物語]が始まったあの時の言葉が、まるで時間を超えてきた様に同じ表情をして見せる彼によって、鮮明に再生されます。

 

 

マック「.........バカ」

 

 

マック「本当に.........!バカな人です.........!!!」

 

 

マック「そんなお世辞を実現させる為だけに.........!!!これから先どうなるかも分からない私を抱え込もうだなんて.........!!!」

 

 

 口からは、思っていた本音が溢れ出てきます。心からは、抱いていた感情が溢れ出てきます。本来ならば相容れない種類のはずであるその言葉と感情は、もう誰がどう聞いても、[好き]というもの以外には聞こえて来ないほどにそれが込められてしまっています。

 

 

 忘れていた訳ではありません。[好き]だから。彼にこの想いを抱いているからこそ、こんな私と一緒に居るべきじゃないと思ったんです。

 

 

 [仮面]を付けていたのは私のほうです。

 

 

 [嫌い]になろうとしていたんです。

 

 

 でも.........ダメだった.........!!!

 

 

桜木「.........なぁマックイーン。こんな[嘘吐き]な俺だけど」

 

 

桜木「君の心の隣に居たいんだ。もし許してくれるなら、俺の心を隣に置いて欲しい」

 

 

マック「!!!もう.........!どれだけ私を泣かせたいんですの.........!!!」

 

 

 私の手の中にあるチームの証。彼との関係を終わらせたと思ったあの雨の日に、どこかへ無くしてしまった私の王冠。

 まるで、その存在を埋めるかの様に、彼は私の手からそれを手に取り、私の首へと掛けました。

 

 

 空は、雨模様でした。

 

 

 今日は絶好の誓い日和でした。

 

 

 私は.........彼に抱き着いて、思う存分、雨を降らせました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv-6→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........落ち着いた?」

 

 

マック「はい.........ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

 あまり触りなれていないその小さくて柔らかさを感じる肩を掴み、彼女を少し離す。大きかった泣き声と嗚咽も収まり、その目の涙を拭い、恥ずかしそうに鼻を啜る。

 その姿を見て、俺はようやく本当の安心を覚える。随分と遠回りと葛藤を繰り返したけど、俺はここに辿り着けたんだ。

 

 

マック「その、トレーナーさん.........」

 

 

桜木「?」

 

 

マック「さ、先程のは.........そ、そういう事で良いんですの?」

 

 

桜木「さっきのって?」

 

 

 途端に、この部屋に敷き詰められていた雰囲気が変わって行く。シリアスで真面目な雰囲気が、俺の疑問を受けたマックイーンのモジモジとした姿を中心に、なにかこう.........懐かしさを感じるものに変わって行った。

 

 

マック「わ、私の車椅子を押すとか.........ゆ、夢になる.........とか」

 

 

桜木「う、うん?俺にはイマイチ話が見えないんだけど.........?」

 

 

 そういう事ってなんだ。別にあれは言葉通りの意味で、深い意味とか隠した意味とか別に何も無いぞ?

 なんだ。なんだなんだなんなんだ!!?さっきから頭をブンブン振ったり急に爆発したみたいに顔を真っ赤にさせてどうしたんだマックイーン!!?こんなの今まで見た事ないぞ!!?

 

 

マック「だ、だって!!!あんな言葉どう考えたってそれしか考えられません!!!」

 

 

桜木「俺にはそれが分からないんだってェ!!!」

 

 

マック「じゃあ教えてあげますよ!!!このおバカ!!!ウマたらし!!!朴念仁のおたんこにんじん!!!」

 

 

 え。え。自分で言うのもアレだけど俺いまさっきめちゃくちゃ良い感じだったよね?覚悟決めて思い伝えてこれから心を入れ替えて頑張ろうって矢先に、なんで罵倒されてるの.........?

 そしてそんな俺の困惑なんて知らずに、マックイーンはマックイーンでそれを言う為の覚悟を決めていく。胸に手を当て、ふぅーっと息を吐き切り、何度も俺の顔を見て、視線を逸らしてを繰り返して。ようやくその口が開いた。

 

 

マック「.........あれは、その、プロp「お取り込み中失礼致します」!ひゃい!!?」

 

 

 彼女の言葉がノックと共に聞こえてくる声に遮られる。その声は爺やさんのもので落ち着いてはいるが、普段からは考えられない焦りが、ノックと同時に聞こえてくる声という状況で容易く察せられた。

 マックイーンの許可なのか驚きなのか分からない声を聞き、爺やさんは部屋へと入ってくる。

 

 

爺や「桜木様。大奥様が貴方を、と.........」

 

 

マック「お、おばあ様が.........?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 うっすらと滲んだ汗。それは目の前に居る爺やさんを見て感じたのと、俺の額に湧いた汗の感触で、この先の展開が優しいものでは無いと感じた。

 

 

桜木「分かりました。俺も、話す事があるのでちょうど良かったです」

 

 

爺や「案内はこちらの者に任せております」

 

 

 彼が手を指し示した部屋の出口の方向。そこから爺やさんと同じ執事服を見に包んだ一人の若い男性が立っている。

 紹介と共にお辞儀をしてくれるその人に、俺も頭を下げ、部屋から無言で出て行こうとした。

 

 

 

 

 

マック「っ、トレーナーさん!」

 

 

 ―――何も言わずに、部屋から出て行こうとする彼に対して、思わず呼び掛けてしまう。おばあ様がお客様をわざわざ呼び出すという事は、今までに一度もありませんでした。

 恐らく、不安が全て、その一声に乗ってしまっていたんだと思います。彼は出て行こうとするその足を止め、優しい笑顔を見せて言いました。

 

 

桜木「大丈夫。まだ何も分かんなくて、迷ってばかりで、[振り返る事]しか出来ないけど、歩く気力はいっぱいなんだ」

 

 

桜木「だから見ててよ。マックイーン。これから俺は、[君の夢]になって―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[奇跡]だって超えてみせるからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「!.........分かりました」

 

 

 その顔を見て、もう何も心配は要らない。その思いが溢れて来るのと同時に、私も一つ、彼に言葉を送りたくなりました。

 

 

 私達が大事なレースに出る時。彼がいつも掛けてくれる、贈ってくれる言葉。そのお陰で、今まで勝ってこれた。負けてもまた、頑張る事が出来た。

 

 

 だから、何度挫けても、また立ち上がれるように.........今度は彼が[私の夢]になってくれるのなら、今度は私が.........私達が、彼を支える番だと.........首に掛けた王冠のアクセサリーを両手で包み込みました。

 

 

マック「貴方の覚悟がきっと.........[運命]すら覆せる物になると信じています。だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[奇跡]を超えてください。トレーナーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は.........いつまでも待っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の目を見て、しっかりと伝えます。胸の内から暖かさが広がり、それがこの王冠に伝わって行くように、そしてその王冠から彼に伝わっていく様に.........小さい光が煌めきました。

 彼は何も言わずに、その笑顔のまま頷いて部屋を出ていきます。その横顔は、優しさを帯びながらも、凛々しく、強い決心を感じられる表情でした。

 

 

マック「.........?爺やは行きませんの?」

 

 

爺や「私はお嬢様の付き人です。貴方の為に動くのが私の使命であります」

 

 

 いつもの様に優雅な立ち振る舞いでそう言った爺やは、私の部屋の一角まで歩いて行き、車椅子を私の目の前まで持ってきました。

 

 

爺や「お嬢様の事です。お聞きになられたいのでしょう?」

 

 

マック「!もう!!私はそんなじゃじゃウマ娘ではありませんわ!!!」

 

 

マック「.........で、でも、ほんのちょっとだけ気になると申しますか.........うぅ」

 

 

 はしたない.........人の大事な話を、ましてや自分の尊敬するおばあ様と、自分をこれからも導いてくださるトレーナーさんとのお話を盗み聞きしようだなんて.........

 

 

爺や「.........あの、お嬢様」

 

 

マック「?はい、なんでしょう?」

 

 

爺や「口ではそう言いながら.........もう既に車椅子に乗っておられますが.........?」

 

 

マック「!.........〜〜〜///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね。桜木トレーナー」

 

 

桜木「はい。この家に来た時以来ですね。アサマさん」

 

 

 大きな机を隔てて座る年配の女性にそう言うと、その眉をピクリとさせた。けれど変わらず、まるで俺に威圧をかけるようにその視線と意識を、この身体に一点掛けしている。

 名前を呼んだのは、俺がどう呼んでいいか分からなかったからだ。幸い、以前俺とマックイーンが見た過去の春の天皇賞でこの人の名前は知っている。それに、彼女が居ないのにおばあ様と呼ぶのは、なんだか俺には難しかった。

 

 

アサマ「.........単刀直入に言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイーンの事は、諦めて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに、淡々と、それでいて強い言葉が俺にぶつけられる。そしてその言葉の裏に隠されたこの人の感情も、俺には分かる。

 大切だからだ。マックイーンの事が.........同じメジロ家の生まれであるあの子が、きっとこの人にとっては、命よりも大切な存在なんだ。そしてそれは、彼女じゃなくても変わりは無い。

 

 

アサマ「あの子は、私の悲願である天皇賞を制しました。それも二度」

 

 

アサマ「そして、惜しくも負けてしまった三度目も、メジロの名に恥じない、とても素晴らしい物でした」

 

 

アサマ「.........これ以上先があっても辛いだけです。あの子も、そして.........貴方自身も」

 

 

桜木「.........」

 

 

 険しい道のりだ。

 

 

 下手したら断崖絶壁。

 

 

 足場はぐらついている。

 

 

 命綱なんてありゃしない。

 

 

 一歩進めば退路は絶たれる。

 

 

 少し先を予想すれば、そんなネガティブ思考が襲ってくる。長い付き合いだ。もうとっくに慣れている。心が乱される事も、息苦しく思うことも無い。

 

 

桜木「アサマさん。映画は好きですか?」

 

 

アサマ「.........?ええ、人並みには」

 

 

桜木「じゃあ、タイトルに[3]って付く続編物は?」

 

 

アサマ「.........あまり好みではありませんね。その前の作品で最初にやりたかった事は既にやられるでしょうし」

 

 

桜木「.........じゃあ、俺達はまだ大丈夫っすね」

 

 

 何故?そんな表情で、アサマさんは俺の顔を見ている。そうそう。この顔だ。俺が何か自分なりに言葉を言う時、大抵みんなこんな顔をするんだ。

 けれど.........俺のそれは、正しいんだ。俺だけの正しさだ。他の人になんか絶対に譲る事の出来ない。屁理屈の様な正しさ。俺はそれを、いつも自分なりに言葉にしているだけだ。

 

 

桜木「[メジロマックイーン最強伝説]は確かに終わりを告げました。[主人公]は不幸な最後を遂げ、続編なんて有り得ない終わり方」

 

 

桜木「けれど今度は、[W主人公]で始まるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[メジロマックイーン最強伝説2]が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二本の指を立てて、目の前に居る彼女にそう言った。それを聞いて、その人は驚いた表情を見せてくれた。

 [一作目]は挑戦だ。未だ誰も見た事のない作品を作ってやる。そう意気込んで生まれた[名作]は、数多く存在している。

 そして[続編二作目]は実現だ。自分の中にだけ存在していた物を、[一作目]を通して[二作目]という形で多くの人々に伝える。

 俺達はまだ.........[映画]の[一作目]のクランクアップを終えたばかりだ。まだ、やりたいこと。見せたい物は山ほどある。むしろこれからなんだ。

 アサマさんに見せていたその手を下げ、俺はまた自分の本心を伝えて行く。

 

 

桜木「あの子がまた走る選択をするのかは分かりません。ただ俺は、どんな選択をしたとしても支えていくつもりです」

 

 

 そう。例え走らない選択を取っても、彼女が[人々の視線を持っていく]姿が見られれば俺はそれでいい。その隣で、俺はその姿を見ていたいだけなんだ。

 

 

アサマ「.........もし、あの子が走る選択をしたら、どうするつもりなのです?」

 

 

桜木「走らせますよ。舵切りはあの子に任せましたから」

 

 

アサマ「私は.........あの子が耐えられるとは、到底思えません」

 

 

 今まで俺の顔を見続けていたアサマさんが、その顔を伏せた。そしてその行動で、この人が普段、どれだけマックイーンの事を見ているのかがハッキリと伝わってきた。

 あの子は決して[強くは無い]。ただ、[強く在ろう]としているだけの、普通の女の子だ。自分の弱さで、このメジロの名が地に落ちないようにひたむきに努力をしてきた、普通の子。

 それに、俺は大丈夫とは言えない。きっと.........[この人が思うマックイーン]なら、耐えられない。そのビジョンを覆せる物を、俺は持ち合わせては居ない。

 だから俺は、それに対して何も言う事が出来ない。この人の心を、今はまだ安心させきることは出来ない。俺は背を向けて、扉の方へと歩いて行く。

 

 

アサマ「っ、待ちなさい。話はまだ「確かに」.........?」

 

 

桜木「貴方の知っている[メジロ家]の[メジロマックイーン]なら、きっと耐えられないでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けれど俺の.........[俺達]の見てきた[チームスピカ:レグルス]の[メジロマックイーン]を.........甘く見ないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そう言って彼は、礼儀正しく私にお辞儀をして、この部屋を去って行った。

 

 

アサマ(.........きっと、喜ぶべきなのでしょうね)

 

 

 私はマックイーンの[家族]として、そしてメジロ家の[当主]としての選択を優先した。そしてそれを優先した事を、決して後悔していません。

 けれど.........彼の最後の一言で、それが一瞬だけ、大きく覆りました。[家族]としてではなく、[当主]としてでも無い、随分前に消えたと思っていた火が、小さくもゆらゆらと揺れ始めていた。

 

 

 そしてそれは.........[競走バ]としての心だった。

 

 

『彼女は強い人じゃない。強く在ろうとしているだけです』

 

 

『だから私は[トレーナー]として、メジロアサマを[天皇賞]まで支えて行きたいんです』

 

 

 胸のブローチを開けて、小さな。本当に小さな写真を見て、思い出す。そう.........彼もまた、親族にトレーナーが居ない、一般出のトレーナーだった。

 

 

『え?[山あり谷ありウマ娘]ってどういう意味かって?』

 

 

『あいや、あれはその、突発的に出たと言うか、たはは.........』

 

 

アサマ(貴方、今マックイーンを、貴方の様なトレーナーが支えてくれようとしています)

 

 

アサマ(どうか.........その力を、あの子達に貸してあげてください)

 

 

 変な人だった。

 

 

 けれど、誠実な人だった。

 

 

 誇りしか無かった私に、誇り以外の沢山のものを教え、そして与えてくれた。

 

 

 多くのトレーナーへの道標を残し、新たなメジロの誇りを残し、そして.........私を残した。

 

 

 まだ道も無い場所を通るであろう、彼の力になってくれるよう、私はそのブローチを両手で包み、あの人に願いが届くよう、祈り続けていました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ふぅ.........」

 

 

 アサマさんの部屋から出て扉を締める。そして一息着いた。あの人の覚悟も思いも、全部俺に伝わってきた時間だった。正直、あれほど啖呵を切れたのは自分でも予想外だった。

 

 

マック「トレーナーさん!」

 

 

桜木「え!!?マックイーン!!?き、聞いてたの?」

 

 

爺や「申し訳ありません。お嬢様がどうしても、と」

 

 

マック「な、何を言ってるんですの爺や!!?爺やが連れ出したんではありませんか!!!」

 

 

 目の前で自分の車椅子を押してくれている爺やさんに対して、マックイーンは可愛らしく怒っていた。そんな姿を見るのも、なんだか久しぶりで、少し涙が出てきそうになる。

 

 

桜木「っ.........」

 

 

マック「!トレーナーさん?大丈夫ですか.........?」

 

 

桜木「あ、ごめんね。ちょっと目にゴミが入って.........」

 

 

 心配そうに見てくるマックイーン。今は俺の事なんかより、自分の心配をして欲しいと言いたいけれど、残念ながら俺にそんな強さは無い。心配を跳ね除けるほどの強さを、本当の俺は持ち合わせていないんだ。

 だから、さっきアサマさんに言われた事も、今になって迷いになる。本当に.........俺が彼女を支えても良いものかと。

 

 

桜木「.........爺やさん。一つだけ聞かせてください」

 

 

爺や「?なんでしょう」

 

 

桜木「.........俺は、この子を幸せに出来るでしょうか.........」

 

 

 この場に居たということは、俺とアサマさんの会話を聞いていたという事だ。少なからず、マックイーンは聞いていた。爺やさん本人が聞こえていなかったとしても、彼女を通して話の内容は伝わっている筈だ。

 彼は少し考える様に顎に手を当てていた。けれど俺の顔を見て、いつも通りの優雅な動きで、その手を元の位置に戻して言った。

 

 

や「.........私達は、マックイーンお嬢様、引いてはメジロ家に使える従者でございます」

 

 

爺や「マックイーンお嬢様のこれからの幸せを願うのなら、諦めるのが一番安泰でしょう」

 

 

マック「っ、爺や!!?」

 

 

爺や「茨の多き道のりです。確実な幸せには程遠い。仲直りされて早々ではございますが、今手を引けば、マックイーンお嬢様は幸せになれます」

 

 

 .........それはそうだ。仲直りは出来たんだ。今諦めてしまえば、きっとこの子は幸せになれる。わだかまりは解消されたんだ。隣に居たいのも、人々の視線を持っていく姿が見たいのも、俺のエゴだ。

 納得していないのは、今この場ではマックイーン一人だけだ。大人になるというのは嫌なものだ。自分のしたくない選択も、しなければいけない時がある。俺は彼女をなだめようと、声を掛けようとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人「.........?」

 

 

 その空気を破ったのは他でも無い。爺やさん本人だった。俺とマックイーンは同じような表情で、彼の方をじっと見ていた。

 

 

爺や「この屋敷に居る者全員、メジロ家の従者であると同時に、貴方様のファンなのです」

 

 

桜木「俺の.........?」

 

 

爺や「誠に余計なお世話かも知れませんが、マックイーンお嬢様と等しく、貴方様も幸せになって欲しい。ここに居る者は、勝手ながらにそう思っております」

 

 

 優雅なお辞儀をして、その微笑みを俺とマックイーン。交互に見せてくれる。

 .........誰かの笑顔を見るなんて、本当に久々だ。思えば、あの日から誰かからの笑顔を.........そして、俺も笑顔を誰かに見せた事が無かったように思える。実際、思い返してみればそんな記憶は無かった。

 

 

桜木(あぁ.........なんだか)

 

 

桜木(安心するなぁ〜.........)フラ...

 

 

マック「?トレーナーさん.........?」

 

 

 

 

 

 ―――覇気のない笑顔を私に向け、彼の身体が若干揺れたように見えました。私の声掛けに対して、反応すら見せない彼に不穏さを感じている。

 そして案の定、彼はそこからたたらを踏む事すらせずに、その身体を倒れさせました。

 

 

マック「っ!トレーナーさん!!?」

 

 

爺や「桜木様!!!如何なされましたか!!?」

 

 

 思わず車椅子から立ち上がりそうになりましたが、私より先に爺やが動いてくれたお陰で、彼はその身体を強く地面に打ち付けることはありませんでした。

 けれどやはり、爺やの声にも反応すら見せず、虚ろな目で、彼は天井を見ていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐぅ〜.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爺や「.........」

 

 

マック「.........なんで爺やはなんで私の方を見るんですのっ!」

 

 

桜木「腹、減った〜.........」

 

 

 力無く震える声で、彼は爺やに抱えられながら言いました。その顔をよく見てみると、記憶より痩せこけていて、なぜあれほどまで立っていられたのかが不思議な位でした。

 

 

爺や「お食事の用意をしてきます。お嬢様、桜木様をお任せしても宜しいでしょうか?」

 

 

マック「!え、ええ!大丈夫ですわ!そ、それと.........」

 

 

爺や「?」

 

 

マック「わ、私の分も.........その」

 

 

 ぐぅ〜.........

 

 

マック「.........///」

 

 

爺や「.........かしこまりました。今すぐシェフに用意をするよう伝えてきますので」

 

 

 今まで、少ない食事量でも、そして一日何かを食べなくても決して音を鳴らさなかったお腹が、今になって鳴ってしまいます。

 .........安心、したからなのでしょう。彼の姿を見て、彼の心に触れて、私はようやく、元通りとは行かないまでも、そうなるための一歩を踏み出せたのです。

 車椅子に座りながら彼を支え、私はどこか嬉しさを感じながら、その空腹のお腹をさすりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爺や「それでは桜木様。お嬢様。私は席を外しますので、後はお二人でお召し上がりください」

 

 

桜木「こ、これは.........!」

 

 

 テーブルの上に並べられた数々の料理。沸き立つ湯気が鼻に通ることで、それらが全て絶品である事を俺の本能に直接教えてくれる。

 あぁ.........こんなものを今食べてしまっていいのだろうか.........食う気力もなく過ごしてきたこの一週間.........なんなら今日は断食すらしていたと言うのに.........

 

 

マック「こんな時間ですし、シェフは余り物でこしらえたと言っておられましたが.........これは」

 

 

二人「.........ゴクリ」

 

 

 テーブルを挟む形で、二人で溢れ出る唾を飲み込む。直ぐにでも料理に手を伸ばしたい気持ちを抑え、俺達はその両手を合わせ、食事を始める合図をした。

 

 

二人「頂きます―――!!!」

 

 

 手前にある食事に使う道具の中から俺は箸を、彼女はフォークを取り、それぞれ目の前にある料理をその手に取った。

 俺がその箸でつまんだのは、春巻き。正直中華料理の中では好きではなく、普通程度の認識だが、何故か今、こいつをいの一番に食べたくて仕方が無かった。

 

 

桜木「っ.........!!うん、めぇぇぇ.........!!!」

 

 

 外の固く揚げられた衣を噛み砕くと、中から油の相まった具材が口の中へと躍り出てくる。口内を全て油に塗れさせながら、旨味をその上からさらに塗りたくってくる。

 三分の一程食べた一本の春巻き。美味さは分かった。ならばやることはただ一つ。残りを一気に口の中に入れ、俺は目の前にある焼き魚へと手を伸ばした。

 

 

マック「っ!っ.........〜〜〜♡美味しい〜.........」

 

 

 向かいに座る彼女は最初こそ上品にパスタをくるくると巻いて食べていたが、一口食べて限界を迎えたのだろう。いつものお嬢様らしさを気にすること無く、フォークでチュルチュルと食べ、その皿をものの数秒で綺麗にした。

 次に目を付けたのは肉料理。普段ならばカロリーを気にする彼女だが、最初にパスタを食べたのだ。そんな事はもう気にしていないのだろう。

 

 

桜木「むぐぐっ、このピザも美味いな!」ガツガツ

 

 

マック「世界で修行してきたシェフですもの!!当然です!!はぁ〜.........このラタトゥイユも絶品.........」パクパク

 

 

 この空間にはお互いしかいない。それを差し引いても、こんな爆食いを見られたら引かれる.........なんて。そんな事すら気にせずに、俺達はただひたすら、出された料理を貪り食っていた。

 

 

桜木「っ、むぐぐむ!!?」

 

 

マック「っ、んんむ!!?」

 

 

 思いのままに食べていると、不意に喉に料理が詰まる。俺は慌てて胸を叩いてみるが、料理が落ちていく気がしない。

 彼女に助けを.........そう思いその方を見てみると、どうやら彼女も喉を詰まらせた様で苦しそうに口元に手を置いていた。

 何とかしなければ。そう思い、俺は自分の方に置いてあるコップに水を汲み、彼女の方へと差し出した。すると.........

 

 

桜木「むぐ.........?」

 

 

マック「んん.........?」

 

 

 彼女の方からも、水の入ったコップがこちらに伸びていた。どうやらお互い、水を汲んで相手に渡そうとしていらしい。

 俺とマックイーンはそれを交換するように同時に受け取り、喉に詰まった物を一気に流し込んだ。

 

 

桜木「.........ふぅっ」

 

 

マック「.........ほぅっ」

 

 

二人「.........ぷふっ」

 

 

「あはははは!!」

 

 

 俺達は笑った。お互いの顔を見て、さっきの状況を思い出し、笑った。俺は額に手を当てて、マックイーンはお腹を抑えて。笑っていた。

 

 

マック「もう.........自分の喉が詰まったんですから、自分を優先してくださいまし」ウフフ

 

 

桜木「それはマックイーンもでしょ.........?」

 

 

 お互い涙を滲ませた目元を拭いながら、先程の行動を指摘し合う。何もかもが久しぶり過ぎて、嬉しさを通り越して幸せを感じてしまう俺はおかしいのだろうか?

 でも、目の前の彼女はそれ以上に幸せそうだ。目が合った俺に対して、頬にほんのり赤色を乗せた優しい微笑みを向けてくれる。言葉にしなくても、それだけで俺に幸せですと伝えてきてくれているような気さえした。

 

 

マック「さぁ!料理はまだまだありますわトレーナーさん!冷めてしまってはもったいありません!!」

 

 

桜木「ああ!!こんな料理人生であと何回食べれるか分からないんだ!思う存分食い尽くすからな!!マックイーン!!」

 

 

 

 

 

「.........大丈夫そうだね」

 

 

 ―――ここがメジロ家であることを忘れてしまった様に、マックイーンと桜木トレーナーさんはすごい勢いで食べ物を食べていた。

 最近食べてなかったという事実を差し引いても、それは私達にとって初めて見るマックイーンの姿なのは、変わり無かった。

 

 

「心配だからって、覗き見するのはどうかと思うけど?ライアン」

 

 

ライアン「べ、別に良いじゃん!!それを言うならドーベルだって!!」

 

 

 そこまで言うと、あたしとドーベルの間に割り込むようにブライトが現れ、人差し指を口元に当てる仕草を見せてくる。一瞬なんのことかと思ったけど、直ぐに気が付いてマックイーンの様子を見る。

 

 

ライアン「.........ほっ、良かったぁ。気付かれて無いみたい.........」

 

 

ブライト「マックイーン様はお耳が良いですから〜。気を付けませんと〜.........でも」

 

 

「今はその心配は無いみたいですね.........」

 

 

 二人が食事している部屋をじーっと覗き込んでいるアルダンさんとパーマー。私達も二人に釣られてもう一度、マックイーン達の様子を見る。

 

 

パーマー「.........良かったね。マックイーン」

 

 

ライアン「.........うん。仲直り出来て本当に良かった」

 

 

ドーベル「あんなに自分をさらけ出すなんて、よっぽど好きなんだね.........」

 

 

ブライト「うふふ♪マックイーン様にとって、桜木トレーナーさまは[白バの王子様]なんでしょうね〜」

 

 

アルダン「小さい頃、いつか迎えに来てくれるってずっと言ってましたからね.........」

 

 

 私達の前でも見せた事ない、マックイーンのありのままの姿。それを強要させる事無く見せさせるあの人とマックイーンの関係性は、初めて会った時には想像もつかなかった。

 だって、 食べる事が大好きなマックイーンが食事をしてる間に何度もあの人の姿を見て、微笑んでるんだもん。マックイーンにとっては、どんな好きな事よりも、桜木トレーナーの事が好きだと言うことが、はっきりと分かった。

 

 

アルダン「.........そろそろ私達も部屋に戻りましょうか」

 

 

パーマー「そうだね。あの二人の邪魔しちゃ悪いし」

 

 

ドーベル「何より、見つかった時何されるか分からないし.........」

 

 

 最後の一言で、この場にいる全員が勢い良く首を縦に振る。もしこの場面をみていたことを知られたら、ものすごい勢いで追い回されるかも知れない.........なんて、今のマックイーンの状態じゃそんな事あるはずも無いのに。

 けれど、そう思わされるくらいには、マックイーンは元気になった。あたし達は部屋に戻ろうとその場を立ち上がり、二人が食事している部屋から背を向けて歩き出していく。

 

 

ライアン(.........頑張ってね。マックイーン)

 

 

 あたしも、そんな思いをマックイーンに投げ掛けてから、部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからたらふく美味しい料理を食べて、マックイーンと沢山お喋りした。一週間ぶりにあった彼女は、以前と変わらずに、楽しそうな表情で居てくれた。

 

 

桜木「おっ、雨も止んでるな」

 

 

マック「も、もう行かれるんですの?よろしければ泊まって行っても.........」

 

 

 寂しそうな表情で少し手を伸ばすマックイーン。後ろに居る爺やさんも賛同するように首を縦に振ってくれる。

 申し出はありがたい。けれど俺も、やるべき事がある。やらなきゃ行けない事が、一つだけ残っている。それは絶対、今日の内に決着をつけなきゃ行けない事なんだ。

 

 

桜木「.........ありがたい申し出だけど、トレセン学園に戻るよ。俺、皆に謝らなくちゃ」

 

 

マック「そう、ですか.........」

 

 

 もし。今の俺に心の音が聞こえる力があるのなら、彼女はシュン、と音を立てている事だろう。それくらい目に見えて落ち込んだ。

 .........落ち込んでくれたんだ。安心して、その心をさらけ出してくれる。俺には出来なかったことを、彼女がやってくれているんだ。

 

 

桜木「落ち込まないでよ。明日も明後日も、また来るからさ」

 

 

 彼女に近付き、その目線を合わせる為に少し屈んで、頭を撫でる。そこに居るのは、幼さを纏う少女ではなく、大人らしさを持つ女性でも無い。ただくすぐったそうに、それでいて嬉しそうな顔をするマックイーンがそこに居た。

 

 

爺や「送って行きましょうか?」

 

 

桜木「いいえ。自分の足で来たんです。帰りも自分で帰りたい」

 

 

マック「ふふ.........やっぱり、変な所で律儀ですのね」

 

 

桜木「え?そうかな?」

 

 

 彼女の言葉に思わずキョトン、とした反応を見せてしまう。律儀や誠実とは全く正反対に居るような存在だと思ってたけど、他の人から見たら存外そうでは無いらしい。

 そう思い、少し自分に対する評価を改めた後に彼女を見る。今日はもう。これで最後だ。明日も来るつもりだけど、朝は無理だし、放課後になるだろう。

 

 

桜木(あぁ.........そう思うと)

 

 

桜木(寂しいなぁ.........)

 

 

マック「なっぇ、ぁ.........///」

 

 

 

 

 

 ―――彼が私の顔を寂しそうに見つめてきたと思ったら、そのまま流れるように背中に手を回し、優しく抱きしめられました。

 いつもの様に.........ではなく、私の胸に顔を埋める形で抱き着く彼に困惑しながらも、私は爺やの方を振り向きました。彼は何も言わず、そっぽを向いています。

 それをいい事に、私は彼の背中に片手を、もう片方を頭に乗せました。

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

 愛おしい。そんな思いが、絶え間なく溢れ続けます。今までに無いほど、大量に、止めどなく、せき止められることなく、私の心から全身に暖かい感情を送り続けています。

 その時、不意に私の耳に微かな声が聞こえてきました。

 

 

桜木「.........グス」

 

 

マック「.........大丈夫です」

 

 

桜木「ごめ、んっね.........マック......イーン.........!!!」

 

 

桜木「直ぐに.........これ、なくてっ.........!弱くて.........頼り、無くて.........!!!」

 

 

 声を押し殺して、けれど、彼の咽び泣く声は、それでも止まらなくて.........苦しそうにしている彼に、どうにか楽になって欲しくて、その背中をぽんぽんと叩きました。

 

 

 謝りたいのは、私の方です。

 

 

 たった一度の思い違いで、貴方を否定してしまった。

 

 

 拒絶してしまった。それは、私の弱さです。

 

 

 そしてそれを.........他でも無い、貴方のせいにして.........!!!

 

 

マック「.........ずっと、待ってます」

 

 

マック「貴方の[隣]をまた.........!自分で歩ける時を.........!!!」

 

 

マック「グス.........はぁ、もう、今日は土砂降りです.........!」

 

 

 視界が歪んだその両目で外の景色を見る。街に並ぶ蛍光灯と月の灯りはぼやけた様に広がりを見せ、目を閉じる度にその光を視界に広げて行く。

 

 

 土砂降りです。

 

 

 土砂降りなんです。

 

 

 雨の音なんて聴こえなくても。

 

 

 雨の匂いがしなくても。

 

 

 雨の水滴が見えなくても。

 

 

 私達は、思いのまま、土砂降りを降らせていました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [一心同体]を取り戻した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

第四部 夢壊れ人編 ―――『良かった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「.........え?」」

 

 

『ようやく泣いてくれたわ.........え?』

 

 

 突然、隣から聞こえてきた声。最近では聞こえなかったせいで全く意識をしていませんでした。それを聞いて、私と彼は[二人]で反応してしまいます。

 その方向を見ると.........私と瓜二つの存在が、驚いた様子で存在していました.........

 

 

『も、もしかして.........見えてるの?』

 

 

二人「.........」コクコク

 

 

 突然訪れた変化。どうして彼に見えているのか、なぜ見えなくなっていたのか、それすら分からないまま、[物語]は一度、完結を迎えるのでした。

 

 

 先に訪れる、[奇跡]を超える[予感]を残して.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [???(???????)]のヒントLvが1上がった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

第四部 夢壊れ人編 ―――完―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はァ......はァ.........っ!!!」

 

 

 息を切らして、這い蹲る。顔を地面から上げて、目の前にある[試練]に全ての意識を向ける。これを乗り越えれば、全てを越えられる.........

 だと言うのに、俺の身体は言う事を効かない。何度もぶつかって、何度も吹っ飛ばされている内に、心は自然とそれを拒絶し始めている。

 

 

「.........[人間]には無理だ」

 

 

「それとも、[奇跡]を望むか?青年よ」

 

 

桜木「.........」

 

 

 その挑戦をただただ見る老人。まるで人生を無駄にしているかのような目で俺を見下してくる。確かに、これは[奇跡]でも起きない限り、突破するのは不可能に近い。

 そうだ.........いっそ、何か起きてくれれば―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇跡なんか.........望んじゃいねぇ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇跡なんかじゃ.........足りねェ.........ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血が滲んだ両手。その痛みなど気にせずに、土を巻き込んで握り締める。息を吐き切らしながら、何とかその場に立ってみせる。

 疲労困憊、既に身体は悲鳴を上げている。けれどここで立たなきゃ、[奇跡]は越えられない.........それどころか、起きやしない。

 

 

桜木「はァ......!はァ......!良いかよく聞けっ、トウカイテイオーはなァッッ!!![奇跡]を起こしたんだよッッ!!!」

 

 

桜木「誰もが見てる有馬記念でッッ!!!誰もが望む[奇跡]をッッ、アイツは.........!!!」

 

 

桜木「.........だったら」

 

 

桜木「あの子が望んでるなら.........!!!俺はその[奇跡]だって超えなきゃ行けねぇんだよッッ!!!」

 

 

 誰もが望んだ。誰もが願った。起きるはずもない事態を、起こるはずも無い状況を。

 それは[奇跡]と呼べるだろう。有り得ない。絶対に無いと思われていた事が実現するのだから、それは[奇跡]なんだ。

 けれど、有り得ないとすら思われない事は?絶対に無いとすら、思考されない事は?誰もが望みすらしない、誰もが願う事すらない。そんな中で、果たして[奇跡]は起こるのか?

 

 

桜木(.........違ぇだろ)

 

 

桜木(背中を支えらんねぇんなら.........!倒れた時、追い付けねぇんなら.........!!!)

 

 

桜木(その[夢の隣で駆ける]しかッ!ねぇだろッッ!!!)

 

 

 歯を食いしばった。覚悟を決めた。[奇跡]を望むだけの受け身はもうやめた。俺はもう、それに頼れるほど謙虚な男じゃないんだ。

 妥協はしない。[奇跡]なんかで終わらせない。その先に進む為に、俺は走り続ける。あの子の隣で.........[夢を駆ける]んだ.........!!!

 

 

桜木「見てろよ.........未来を決めつけて、若者にガタガタ説教かますクソジジイ.........!!!」

 

 

桜木「今の俺は―――」

 

 

 口元を拭い、足にしっかりと力を入れる。それでも、運命は変えられないと言うようにフラフラと俺の身体は揺れ動く。右へ左へ、たたらを踏んでしまう。

 ダメなんだ。ここで言わなきゃ、俺はいつ言うんだ.........ここで越えなきゃ.........俺はいつ、[奇跡]を超えるんだ.........!!!

 

 

 それでも、身体はもうどうしようもなかった。いくら心が先に行ったとしても、身体が 追い付いてくれない。そんな疲労困憊の身体を置いてけぼりにするように、心だけが、その試練へと向かっていく.........

 

 

 遂に、俺はその身体を支える力を無くし、片膝を着いてしまう。そのまま前のめりになって、土を喰らってしま―――「いや」

 

 

桜木「.........!!?」

 

 

 知っている声と共に、身体が支えられる。 がっしりと、誰よりも強いその力を、俺は知っている.........そしてそれは、[一人]じゃ無かった。

 

 

「これから[俺達]は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[奇跡]だって超えて行くんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだろ?[おっちゃん]!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。俺は.........[独り]じゃ、無いんだ.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [夢追い人]が変わろうとしている.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [一等星の鼓動]が鳴り響く.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

 

 

 

 

 

第五部 夢覚め人編

 

 

 

 

 

coming soon.........

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