山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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第五部 夢覚め人編
気が付いたら流れで未来への片道切符を切っていた話


 

 

 

 

 

桜木「すぅ.........はぁぁぁ」

 

 

 肺の中の重い空気を入れ替えるように、ゆっくりと深呼吸をする。かじかんだ手を暖めるように、吐き出す息に手を当てて、自分が今生きている事を証明させる。

 時間はあれから三十分。マックイーンとの別れも済ませ、あとはトレセン学園で最後のわだかまりを解くだけだ。

 

 

『緊張してる?』

 

 

桜木「.........聞かないからね俺。忙しいから」

 

 

『あの子は着いて来れないじゃない。その代わりよ』

 

 

桜木「丁寧なご説明どうもです」

 

 

 廊下を歩きながら、隣をふよふよと浮遊している女性と軽く会話をする。多分、傍から見たら独り言の激しい人間に思われるだろう。物の声は聞こえなくなったが、こうなってしまっては変わりない。

 だが、そんな中でも気になることはある.........それは、彼女の姿だ。

 

 

桜木「.........」

 

 

『.........何?言わないわよあの子と似てる理由なんて。忙しいんでしょ?』

 

 

桜木「それは良いよ。自分で考察して勝手に納得するから。オタク舐めんなよ」

 

 

 ぎょっ、とした様子で若干引いた様子を見せる女性。これで良い。今はまだシリアスに行きたいんだ。これを終わるまではまだシリアスで居たい。

 けれど.........気になる。なんでマックイーンに似てるだけならまだしも、色々な部分があの子の上位互換的なアレなんだ。身長はさることながら、プロポーションがマックイーンと言うより、ゴールドシップ寄りだ。

 

 

桜木「.........なぁ〜んでマックイーンはちっこいままなんかなぁ〜」

 

 

『私分かるわよ?』

 

 

桜木「え?」

 

 

『食事制限』

 

 

桜木「.........あぁ〜!」

 

 

 その一言で全てが納得した。なるほど、それなら全て片付く。彼女は最初に会った時、大人のアスリートがやる様な絞り方のメニューをしていた。けれどそれは、子供の、特に成長期の時にやるにはお勧めできない物がある。

 そしてそれを恐らく、彼女はトレセン学園に入学する前から独自に実践してきたのだろう。でなければ、たった三週間程度とは言ってもあそこまでヘロヘロになる事はなるまい。

 順当に行けば.........あの子もこの女性のように.........なんて思ってみたけど、俺としてはやっぱり今のマックイーンが好きだ。慎ましやかな胸、平均的な身長、細い手足.........どれを無くすことなんて.........って

 

 

桜木(バカ!!!何考えてんだ!!!シリアスに行くってさっきから言ってんだろ!!?)

 

 

『うわ、頭を壁に打ち付け始めた.........』

 

 

 離れろ煩悩。消え去れ劣情。今の俺に必要なのはストイックな精神。貴顕の使命よろしく気高い精神。

 落ち着けぇ〜.........まだマックイーンと仲直りしただけだ〜桜木ぃ〜.........まだ皆との溝は埋まり切ってないんだぞ〜.........!!!

 そうやって何とか自分の煩悩を払いつつも、俺はこれからに向けて、しっかりと意識を作り直して行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「.........」

 

 

 時計の針が鳴り響く。刻一刻と、一秒が等間隔で人生を消費していく。感覚としてでは無い。明確な事実として、それは確かな物だった。

 もう集まる事など無いと思っていたチームルームで、全員が重苦しい空気を纏っている。例外を言うならば、沖野トレーナーと彼の親友二人。そしてデジタルくんだけだろう。

 

 

デジ「み、皆さん暗いですよ?もっとこう、ハッピーに行きましょう?」

 

 

タキオン「.........そうだね。ではこれから[彼]がどういう事で私達を集めたか議論でも始めるかい?」

 

 

デジ「.........タキオンさん。性格がチームに来る前の頃と同じ感じですよ」

 

 

 珍しく鋭い視線を彼女からぶつけられるも、私は鼻を鳴らして会話を終わらせる。私は[変わって無い]。[変えられた]んだ。彼によって、無理やり変えられてしまった。それが今、正常に戻っただけだ。

 では、それが心地好くなかったかと問われたら、どれだけ時間を要しても私は否定も肯定も出来ないだろう。結果としてこうなってしまったが.........あれは今の私を形成する重要なピースとして存在している。

 

 

ライス「.........なんで」

 

 

デジ「.........?」

 

 

ライス「デジタルちゃんは、どうしてそんなに平気なの.........?」

 

 

 酷く脅えた声が聞こえる。その長い髪に横顔を隠して、彼女は俯きながらデジタルくんに話しかけている。

 この場でおかしいのは、はっきり言ってデジタルくんだ。ここに居るウマ娘達は希望を打ち砕かれ、絶望に打ちひしがれている。そんな中で一人だけ、余裕そうにしているのは彼女だけだ。

 

 

ブルボン「.........っ、足音が」

 

 

ウララ「!トレーナーだ.........っ」

 

 

 その一つの単語に、身体が以上に反応を示す。私だけじゃない。彼に心を折られた者全員が、その身を酷く縮こまらせる。それ程までに、今の彼は、恐怖の対象だった。

 一歩、また一歩とその足音が近付いて、案の定この教室の扉の前で止まる。その扉に手をかける音が微かに聞こえた後、ゆっくりと横へと開けられて行った―――

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 ―――教室の中を見渡す。普通の表情を見せているのは大人だけで、ウマ娘達は全員、暗い顔で俺の方を見てくる。

 今更自責の念に駆られるな。お前がやった事だ。悔やめばそれこそ無駄になる。あれは、ここに行き着くまでに必要な物だったんだ。

 そうやって自分を責めようとする衝動を抑え付け、客観的な思考のまま前へと歩く。長い長いテーブルの先に行き、俺は皆の方を向いた。

 

 

桜木「.........ごめん」

 

 

黒津木「.........ああ」

 

 

神威「まずは、そうだよな」

 

 

 何をするべきか。何を話すべきか。そんな事が頭を過ったけど、俺がすべき事はまず、謝罪だ。今まで掛けてきた迷惑の、謝罪。頭を下げて、自分が悪かった事を伝える。

 だけど決して、許しを乞うものじゃない。そんな物を欲せるほど生易しいことをした訳じゃない。今でも俺は、許されるべき存在じゃないと思っている。

 

 

タキオン「.........謝って済むのか」

 

 

タキオン「君は.........!!!それで全て済ませるつもりなのかッッ!!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

ウララ「トレーナー.........」

 

 

 疑心。失望。拒絶。憤怒。その四つの視線が俺へと向けられる。こうなってしまったこと。こうさせてしまったことに、俺は後悔を覚えている。

 もっと上手く出来たはずだ。必要な事だったとしても、ここまで行かずに済んだはずだ。悔やんでも、悔やみ切れない。間違えを書いた答案。提出してしまえば訂正は効かない。

 

 

桜木「.........今までの俺は、[弱い自分]を見て見ぬふりしたものだった」

 

 

桜木「自分の追い求める[強さ]。皆が求める[理想]。そして.........俺を含めた者が俺に掛けた[期待]」

 

 

桜木「それを全部ごちゃ混ぜにして出来上がったのが.........皆の知ってる[桜木 玲皇]なんだ」

 

 

「.........」

 

 

 よく出来たお話だ。俺が俺の求める理想を演じていた結果。変えられない結末を目の前にして、その役は[最終回]手前で早々に最後を迎えた。

 残っていたのは.........本当の俺だけだ。

 

 

桜木「あの日.........マックイーンの[繋靭帯炎]の発症を知った日から、それが全部剥がされて、ほとんどが[俺の本心]になった」

 

 

桜木「変わらない。変わりっこない。怪我は怖い。怪我は恐ろしい。消えたい。嫌われたい。見たくない。終わらせたい.........」

 

 

桜木「.........弁解する余地なんて無い。全部、俺の本心だったんだ」

 

 

 [仮面]がしていたであろう皆に対する行動。あれらは全て、俺の本心からの行動だ。ずっと抱き続けていた負の感情を、吐き出した結果だった。

 

 

ブルボン「.........では、なぜ私達を呼んだのです」

 

 

桜木「.........[これからの為]だよ」

 

 

桜木「マックイーンに.........会ってきた」

 

 

ウマ娘「っ.........!!?」

 

 

 驚きの表情を俺に見せ付けるように、俯いていた子も、敵意を剥き出しにしていた子も一斉に表情を変えた。

 

 

桜木「これからどうするのか、どうすべきなのか、全てじゃないけど、俺はあの子に託してきた。それに向かって突き進むだけだ」

 

 

桜木「けれど、納得しない者も居ると思う。言い辛いかもしれないけれど.........」

 

 

ライス「.........チームを、辞めても良いってこと.........?」

 

 

 何かを察したように、ライスが言葉を言う。それを聞いて俺が担当している他の子達は、その顔をまた俯かせた。

 確かに、悪い方法じゃない。けれど、それは[悪くないだけ]だ。決していい物じゃない。そうした所で、結局嫌な思いをするのはこの子達だ。

 それを訂正しようと、俺は首を振って言葉を繋ぎかけた。

 

 

 その時だった。

 

 

「おいッッ!ヤベェことになったぞ!!!」

 

 

「っ!!?」

 

 

 扉を勢いよく開けて姿を現したのは、白銀の奴だった。普段のコイツとは違い、その表情は切羽が詰まったようで、走ってここまで来たのか、肩で息をしている。

 ここに居る誰もが呆気に取られていると、一番最初に声を発したのは黒津木の奴だった。

 

 

黒津木「お前疲れたから寝るっつって玲皇ん家帰ったんじゃねぇの!!?」

 

 

白銀「うるせェッッ!!!口挟むな殺して海に沈めてテメェの家も全部燃やしてグッズも全部転売してからSNSに黒歴史全部晒すぞッッ!!!」

 

 

黒津木「ヤメテ......ヤメテ.........」

 

 

 見事に一語一句が全てクリーンヒットして椅子から床へダウンをする黒津木。そしてその様子を見てシリアスな場面からいつものノリに戻っていいのか手をこまねいている全員を後目に、白銀は話を続けてきた。

 

 

白銀「ゴルシが[未来]に帰るっつって音信不通なんだよッッ!!!」

 

 

「はァ!!?」

 

 

桜木「っ、あー.........」

 

 

白銀「アイツ、メールとかメッセージで嘘つく事ねぇんだよ!!!相手の反応見れねぇから絶対そんな事しねぇッッ!!!だから嘘じゃねぇんだ!!!今は信じろッッ!!!俺の本気をッッ!!!」

 

 

 そう言って自分のスマホの画面を皆に見せてくる。確かにそこには、「[未来]に帰る」。そして「じゃあな」の二言だけが送信されたゴールドシップとのやり取りがあった。白銀からのメッセージは全て既読すら付けられていない。

 

 

沖野「と、とにかくだ。未来に帰るなんてそんなバカバカしい事いくらアイツでも無理だし、ここは一旦桜木の話が終わってからでも.........」

 

 

桜木「反対します!!!何故なら嫌な予感がするからです!!!」

 

 

沖野「お前何言ってんの!!?」

 

 

桜木「俺はまだアイツに謝って無いんですよッッ!!!」

 

 

 俺の声に、全員が驚く。先程の様な受動的なものじゃない。完全に外部からの、俺のその声だけで全員が驚いて見せた。

 

 

桜木「.........もしこのまま明日を待ったら、きっと謝れない。それだけは絶対嫌なんです」

 

 

沖野「.........わかった。ひとまず解散だ!ゴールドシップを探しに行くぞ!!!お前らは―――」

 

 

スペ「わ、私達も探します!!!」

 

 

ダスカ「そうよ!!!急に居なくなるなんて絶対に許さないんだから!!!」

 

 

 二人の言葉に、スピカの面々は立ち上がって教室を出て行った。こういう事になると行動力がずば抜けるのはこのチームの特徴だろう。

 そしてそのあとを追うようにデジタルが立ち上がり、廊下へと出て行った。けれど後ろに誰も着いてきていない事に気付いたのか、直ぐに走ってきてひょっこりと顔を覗かせた。

 

 

デジ「何してるんですか!!ゴールドシップさんを探しに行きますぞ!!!トレセンファイトーーー!!!」

 

 

「お、おー.........?」

 

 

 彼女の余りの熱気に圧され、暗かったタキオン達もやる気を見せないながらも廊下へと出て行く。

 白銀達もそれぞれどこに行くかを言って、残ったのは俺と、[もう一人]だけだった。

 

 

桜木「.........とは言っても、宛はねぇしなぁ」

 

 

『私はあの子に伝えてくるわ。その後上から探して上げる。貴方はまぁ、それまで走り回ってなさい』

 

 

桜木「うへぇ.........俺は今日どんだけ体力無くせば良いんだよ.........っ」クラ...

 

 

『.........ゆっくりで良いわよ。自分で啖呵切ったんだから探す振りはしないと』

 

 

 視界の周りが黒くなり、それが中心に向かう様に埋め尽くされそうになる。貧血か、それとも疲労か。今の俺の状態ならそのどちらも可能性として存在している。

 壁に何とか寄りかかりつつ、息を整えようとすると、彼女が労わるようにその背中に触れようとする。けれど実体がないのか、ほんのりとした温かさしか感じない。

 けれど、だからと言ってここに残る訳には行かない。彼女の言った通り、啖呵を切ったのは俺だ。俺が行かなければ格好が付かないどころか申し訳が立たない。

 自分のままならない身体にイラつきを覚え、歯を食いしばって拳を握り締める。俺のそんな様子を見て、安心したのかは知らないが、彼女は窓から外の方へと飛んで行った。

 

 

桜木(.........そうだ。俺がしっかりしねぇと)

 

 

桜木(一度振り払っちまった手ぇ.........掴み直す位の恥知らなさがねぇと、大人やってらんねぇぞ。桜木)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「.........綺麗だな」

 

 

 川の音が聞こえる。ここは山の上にある川の流れる開けた場所だ。もう季節は冬になりかけて風がアタシの肌を傷付けるように冷たいけど、そのお陰で、空は晴れ渡っていた。

 そこには、宝石みたいな色とりどりの光を放つ星が沢山敷き詰められていた。それに絶対、手が届かないとは知っていたけれど、その手を伸ばして掴もうとした。

 

 

 .........結局。アタシには無理だったんだ。

 

 

 じいちゃんが託してくれた望みも、希望も全部、無駄にしちまった。マックイーンは[繋靭帯炎]になって、おっちゃんは[誰か]になって、チームは.........最悪の形で終わっちまった。

 

 

「おい!!お前も手伝えよゴルシ!!」

 

 

ゴルシ「!悪い悪い!!父ちゃん居るなら大丈夫かと思ってよー!!」

 

 

皇奇「いやっ、重いからっ、人間の僕にはちょっと辛いものがあるからっ!!」

 

 

 黙々と手を動かしながら機械を組みたてていく父ちゃんと母ちゃん。そういえば二人ともアタシと比べてこういうのに強くないんだった。会うのも久々で忘れちまってた。

 二人に近付いて説明書を見る。[こっち]に来た時にちゃんとバラせとじいちゃんから言われてたから、部品はちゃんと丁寧に外して母ちゃん達が管理していた。見た所、一つも失くしてはいないっぽい。

 アタシは説明書をブルーシートの上に置いて、コアの部分を作ろうとして、部品を組み立て始めた。

 

 

トマト「.........残っても良いんだぞ」

 

 

ゴルシ「.........別に、アタシが残ってても、出来ることなんてもうねーし」

 

 

ゴルシ「それによ!!じいちゃんに久々に会いてーんだ!!だってこっち来てから「ゴルシ」.........?」

 

 

トマト「子供が親の前で取り繕ってんじゃねぇ」

 

 

 外側の部品を組み立てながら、母ちゃんはアタシの顔を見ないでそう言った。いつも通りの投げやりで、別に深く考えた様子は無かった。

 無かったはずなのに、その言葉を聞いて、アタシの目からぶわりと何かが溢れ出す。それを感じとって袖でそれを擦るけれど、拭う度にまたそれで目が覆われる。

 

 

ゴルシ「.........グス」

 

 

ゴルシ「クソ.........クソ.........ッッ」

 

 

ゴルシ「アタシ、だってっ.........変えたかったっ.........!!!」

 

 

 ぽたぽたと音を立てて、ビニールシートに落ちていく涙。それを慰めること無く、見ることも無く、母ちゃんと父ちゃんは黙々とそれを組み立てている。

 けれど、アタシには分かる。これが二人の慰め方なんだ。昔っから変わらない。辛い事があったら隣に居るだけで、どう立ち直るかはアタシ達に委ねる。それがこの人達の子育ての仕方だった。

 

 

皇奇「.........最近は、[雨が続く]ね」

 

 

トマト「おう。さっさと組み立てちまおう。アイツらに任せたマイホームが今頃どうなってるか.........アタシも怖ーしな」

 

 

 そんな他愛も無い話がされる中、空気は晴れ渡っていて。星空は満点で.........最近の通り雲ひとつ無いのに、なんだか久々に晴れ渡っている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ゼェ......ゼェ.........っ」

 

 

 雨は止んでいる。外の空気は冴え渡っていて、その匂いすら残しちゃ居ない。だと言うのに、その寒さはまるで雨のように俺の体力を奪っていく。もう、歩くだけでも辛かった。

 

 

桜木「.........はは」

 

 

 笑えてくる。こうなったのはお前の責任だ。お前のせいでお前が苦しんでいる。いい気味だ。どうせお前は許されない。このままのたうち回って―――

 

 

桜木(―――違ぇよ。今はその話じゃねぇんだよ)

 

 

 思考が逸れた。今大事なのは俺の結末じゃない。彼女の行く末だ。きっと俺が気持ちを伝えたところで、もう変わることは無いかもしれないが、それならそれでも良い。

 ただ、このまま終わりというのは頂けない。それではあまりにも不完全燃焼過ぎる。それの辛さはもう、他の誰よりも知ってるだろう?

 

 

桜木(笑いてぇんなら.........全部終わった後にしようぜ)

 

 

 濡れて垂れ下がっていた髪を後ろに戻し、いつもより鋭さを持った毛先のままオールバックにする。数本だけ長い前髪を残すいつもの姿で、俺は気合いを入れ直した。

 その時、ポケットに入っている携帯が振動した。等間隔に振動を伝えているという事は電話だと察し、俺は慌ててそれに出た。

 

 

桜木「もしもし?」

 

 

「トレーナーさん!!ゴールドシップさんが行方不明だと聞きました!!」

 

 

桜木「!そうか!!もうあの人見つけてくれたんだな!!今すぐ場所を―――「私も行きます!!!」なんて!!?」

 

 

 無茶だ。君は今絶賛手に負えない病を抱えているんだぞ、と言おうとすると、即座に電話をブツリと切られる。そういえば彼女は意外と強引な所があった。

 どうすれば彼女のその申し出を断れるかと思いながら、もう一度電話を掛けようとしたその時、目の前に見覚えのあるリムジンが止まった。

 そして悟った。ああ、彼女はその強引さに負けず劣らずの行動力を持っていたのだと.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「.........どう思う?」

 

 

デジ「?何がです.........?」

 

 

 行方不明となったゴールドシップさんを探して、あちこち歩き回っている中、突然、タキオンさんが立ち止まってそう言いました。

 その質問の意図に、あたしを含めたチームメンバー全員が、疑問符を頭に浮かべます。その様子を察したのか、彼女はその顔を上げました。最近眠れていない影響か、目の隈が濃くなっています。

 

 

タキオン「彼を、私達は[また]信じられるのかい?」

 

 

ブルボン「.........タキオンさんは?」

 

 

タキオン「正直、厳しい所だ」

 

 

 自分がした質問をそのまま返され、なすがままに首を振って難なく答えます。その一連の流れに、迷いすら感じる事が出来なかったあたしは少し、悲しくなりました。

 

 

タキオン「一度立ち直ったのは良い。けれど生きている内は[次]がある」

 

 

タキオン「それに至った時、果たして私達は、今回の二の轍を踏まない事は出来るだろうか.........?」

 

 

ライス「.........わから、ない.........」

 

 

ウララ「.........うん」

 

 

 皆さんの表情が、重く沈んで行きます。私もそれに釣られて、気分がどんよりとしてきてしまいます。

 それに、実際の所を言えば、そうなった際にどうなるか分かりません。今回は運良く立ち直れましたが、今度はあたしもダメかもしれません。

 もし.........もし、本当にそうなってしまったら、今度こそ.........そこまで最悪を想定していると、不意に、あたし達のウマフォンが振動し、通知がある事を知らせてきました。

 

 

ウララ「!ゴルシちゃん見つかったって!!」

 

 

ブルボン「山の方.........あちらですね!!」

 

 

ライス「行こう!!」

 

 

 先程までの不安など嘘だったかのように、その知らせを受けて走り出す三人。この人達はきっと、三人一緒なら大丈夫だと思わせてくれます。

 それでも、走り出せない人が居る。先行く人達を見て、手を伸ばそうとする素振りをしますが、それでもその手を引いてしまう彼女を見て、あたしはもう一度、[勇気]を振り絞りました。

 

 

デジ「この先どうなるか、なんて.........分からないことだらけですよ」

 

 

タキオン「.........」

 

 

デジ「けれど分からないからこそ、あたし達は並んで歩いて、石につまずきそうになったら隣で支えるんです」

 

 

デジ「トレーナーだとか、担当ウマ娘だとか関係ありません.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが!!!チーム[スピカ:レグルス]ですッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――知っているさ。

 

 

 そんな事くらい。私は知っている。

 

 

 誰かが前を歩く訳でも無く、後ろを歩く訳でも無い。

 

 

 皆、並んで歩く。それが私達のチームだ。

 

 

タキオン(.........けどね。デジタルくん)

 

 

タキオン(真横に居ると.........視界の端でしか倒れる姿を見られないんだよ.........)

 

 

 次。あんな事があれば。私は彼を支えようとするだろう。

 

 

 だが、もしそれをするならば、隣で歩いて居れば反応が遅れる。

 

 

 私は.........二度と、あんな目には逢いたくない。

 

 

 あんな顔をする彼に、会いたくは無い。

 

 

 そうして彼女は私に背を向け、先に行った三人を追い掛けて行く。そうだ。これが背中を見る感覚だ。これから私が、支える為に見続けなければ行けない景色なんだ。

 .........だと言うのに。

 

 

タキオン(.........本能、と言うものは困るね)

 

 

タキオン(背中を見ると、追い抜かしたくて仕方が無い.........!!!)

 

 

 私のそれは、そんな事を望んでいない。残念な事にこの本能は、前に居られる事を良しとはしない。そのせいで、私はこうやって走っている。

 けれど、そのお陰で今だけは.........走っている、今この時だけは、自分の不安や懸念、そして彼に対する疑心が晴れた様に感じ、救われたのも事実だった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「.........うっし、完成したな」

 

 

 作り上がったその装置を見上げて、アタシは満足した。どっからどう見ても、ここに来た時と同じように出来上がってる。

 父ちゃんは既にクタクタで、母ちゃんもウマ娘と言えども、伸びをしてしまう位には疲れていた。

 

 

トマト「操作覚えてるかー?アタシクソジジイに長々と説明された事覚えてねーぞー?」

 

 

皇奇「いや、そこは覚えとこうよキンちゃん.........」

 

 

トマト「あァ?じゃあテメェは覚えてんのかよ?コウ?」

 

 

ゴルシ「だーーーもう!!喧嘩すんなよ!!せっかくここまで仲良く来たんだから!!!帰る時も仲良くしようぜ!!?」

 

 

 割とシャレにならない空気で座り込んでる父ちゃんの胸倉を掴みあげる母ちゃん。アタシらには優しいんだけど、こと父ちゃんに関しては乱暴者なんだよなー.........

 そう思いながら、アタシは組み立てたリモコンのボタンを押して、その作り上げた装置のハッチを開ける。うんうん。ちゃんと作動してるみてーだな!!

 

 

ゴルシ(.........この世界とも、お別れか)

 

 

ゴルシ「.........さよならくらい、言った方が良かったか?」

 

 

 二人が振り向いたのを見て、アタシは自分の心の声が漏れ出ていた事に気が付いた。普段だったらそんなヘマする訳ねーのに。

 でもそれくらいには、アイツらに別れの言葉一つ言わないって事が、アタシにとっては大きい心残りだった。

 .........けれど時間は前に進んでいく。秒針が戻ることは有り得ない。[人の手を加えない限り]時計の針は前へと進む。それは、本来であるならば無理なはずの時間という概念も同じだ。

 

 

 アタシは託された。有り得たはずの未来を。

 

 

 そして失敗した。結末は変わらない。

 

 

 もう。終わったんだ。アタシの出る幕はもう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴールドシップ(さん)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「―――!!?」

 

 

 ―――俺とマックイーン。二人で見た事もない乗り物に乗り込もうとするゴールドシップの名を叫ぶ。彼女は一瞬身体を硬直させ、ゆっくりとこちらへと振り返り、俺達の姿をまじまじと見つめてきた。

 

 

 マックイーンのことを見て、俺の顔を見る。その表情と目が、嫌悪感を露わにして行く様子を見て、俺はマックイーンの車椅子を持つ手に僅かに力を込めた。

 

 

ゴルシ「.........何しに来たんだよ」

 

 

桜木「謝りに来た」

 

 

ゴルシ「許してやるとでも思ってんのか?」

 

 

桜木「許しは求めてない。ただ俺が間違っていたってことを伝えに来ただけだ」

 

 

 許して欲しくて謝る。なんて、俺には出来ない。それだったら最初から謝るような事をするな、というのが俺の考えだ。だから許しを乞う為に来た訳じゃない。

 ただ、間違っていた事に気付いて、それで傷つけた人達に一言も謝りもせずに終わるのは、情けない。俺としてはそんな別れ方、したくはなかった。

 

 

桜木「俺は、人一倍怖がりなんだ」

 

 

桜木「必要以上に本心で近付いて、それを否定されたら、俺はそれだけで壊れちゃうんだ」

 

 

桜木「だから、表面上は嘘で固めて、本音を言っていた」

 

 

桜木「.........ごめん。弱い自分を認められない弱さが、結果的にお前達を傷付けた」

 

 

 頭を下げて、謝った。良いよも、許してやるも、必要無い。結局謝罪なんて独りよがりの物だ。許してくれる必要なんて無い。

 少しの静寂の間、痛いくらいに冷たい空気が肌を撫でる。誰も何も言わない事が、俺の行為を許さないと言っているみたいで、救われているのか痛めつけられているのか、よく分からなくなった。

 そんな中で、ふと自分の手の甲に空気とは違う冷たい感触が触れた。冷たく、それでいてじんわりと暖かさが広がっていく。それは、マックイーンの手だった。

 

 

マック「.........許して欲しい、とは私も言いません。これは貴女と彼の問題ですから」

 

 

マック「ですが、たった一度の失敗で見限るのは、少々酷ではありませんか?」

 

 

ゴルシ「っ、でも.........」

 

 

マック「.........私も人の事を言えた義理ではありませんけどね」

 

 

 彼女はそう言って、呆れたように鼻で笑う。それはゴールドシップに向けてと言うよりも、自分を自虐する様な物だった。

 

 

マック「だから、私と一緒に。もう一度この人を[信じてみませんか]?」

 

 

ゴルシ「.........そんな、簡単な話じゃねぇんだよ。マックイーン」

 

 

ゴルシ「もう。帰るって決めたんだ。だから.........」

 

 

「そりゃねぇだろ!!!ゴルシ!!!」

 

 

 また一人、こんな山の奥で大きな声が響き渡る。その声の方を見ると、一人は息を切らしながら、他は汗をかきながらも、息を切らしている者よりは涼しそうにしていた。

 

 

ゴルシ「トレーナー.........」

 

 

沖野「お前ッ、俺はまだお前からのありがとうもごめんなさいもッ、何一つ聞けちゃ居ねぇんだぞっ!!!」

 

 

スペ「そうですよ!!!私もまだ勝手に蹄鉄をあのすんごく重い奴に変えられたの謝られてません!!!」

 

 

スズカ「そうよゴールドシップ!!私なんて無茶振りされて捻り出した一発芸がネットに拡散されて大変なんだから!!」

 

 

ダスカ「アンタが急にクラスに来てロッカーで消えるマジックした時も大変だったのよ!!?」

 

 

ウオッカ「そうだぞ!!!あん時アンタの事よく知らない子が居て気絶して介抱したの俺達なんだからな!!?」

 

 

テイオー「そうだよ!!!僕なんてゴルシに一日中追い掛け回されてヘトヘトになった所にチームルームの冷蔵庫のプリン腹いせに食べた後にマックイーンのだって後で気付いて何とかサブトレーナーのせいにするの大変だったんだからね!!」

 

 

二人「あれお前(貴女)だったの(でしたの)!!?」

 

 

 唐突に判明した真犯人。張本人は勢い余って言ってしまったのだろう。言い終わってからその口を両手で押え、気まずそうにこちらに視線を送った。

 その事については後で問い詰めよう。あの時のマックイーンの怒りようは半端じゃなかった。なんせ有名スイーツ店の限定10食。しかも朝の開店から30分程で完売するレベルの代物だ。あの時はマジで死を悟った。

 そして、その思いの丈をぶちまけを皮切りに、続々と俺の担当達も集まってくる。そして、一人を覗いた親友達もだ。

 

 

タキオン「思えば、君からは彼に飲ませた睡眠薬が私のだという証拠を出して貰っていない。それを貰わない限りは、帰そうにも帰せないね」

 

 

ウララ「わたし!!ゴルシちゃんと虫取りまた行きたいよ!!今度は絶対ゴルシちゃんのより大きいカブトムシさん捕まえるって約束したもん!!」

 

 

ライス「ライス、ゴールドシップさんのお話を絵本にしたい!!この前聞かせてくれるって約束したよね!!」

 

 

ブルボン「私のメモリーにも、貴女との長距離並走の約束が保存されています。そしてそれは、未だ果たされては居ません」

 

 

デジ「デ、デジたんとしては、ゴルシさんの桜マク観を聞かせてもらいたいなぁ〜、と.........」

 

 

桜木(なんだそれは.........?)

 

 

 一つ不穏な単語が聞こえてきたが、これも聞かなかったことにしよう。今は大事な事じゃない。

 そして未だ黙りを決め込んでいる二人に全員が視線を送る。今度はお前らの番だと.........

 

 

黒津木「.........あ〜」チラ

 

 

神威「.........ん〜」チラ

 

 

二人「特にないんでパス」

 

 

全員「おいッッ!!!」

 

 

 この場にいる全員からツッコミが入る。全員だ。ゴールドシップとその両親も含まれている。ここに来てまさか何も無いとは思わなかった。

 二人は気まずそうにその視線をサッと逸らすが、気まずそうと言うだけで悪びれている気配は全く無い。

 その様子を見て、ゴールドシップは深く溜息を吐いた。

 

 

ゴルシ「.........そりゃ、悪かったよ。それと、そんなアタシに付き合ってくれてありがとうよ」

 

 

ゴルシ「けど、もう決めたんだ。アタシじゃ何も出来ねぇ。悔しいけど.........一度帰って、今度はアタシより役に立つ人に来て貰うよ」

 

 

沖野「.........なぁ、その。今の今まで半信半疑だったが、お前本当に未来から来たのか?」

 

 

トマト「.........うーん、まぁ証明ってのは難しいけど、アタシらは正真正銘未来人だ」

 

 

皇奇「そうそう。そうだ!今年の有馬記念誰が勝つか言ってあげよっか!きっと驚くぐぇ!!?」

 

 

トマト「お前マジでいい加減にしろよ.........?」

 

 

 何か凄そうな予言を言おうとした皇奇さんの首をなんの躊躇いもなく締め上げるトマトハイッテナイパスタ。瞳孔が絞り上がって殺意マシマシ。よく自分の夫にそんな事出来るな.........

 ギブアップと言うように自らを締め上げているその腕にパタパタと抗議の動きをするものの、そんな事すら気にも留められず無視される。

 

 

ゴルシ「母ちゃんの反応で分かったろ?マジなんだよ」

 

 

黒津木「はえ〜。ターミネーターじゃん」

 

 

桜木「お前よく空気読めないって言われてたよな」

 

 

神威「オマエモナー.........」

 

 

ゴルシ「.........」ピッ

 

 

 いかん。なんかいつものノリが戻ってきて空気が若干壊れてきてる。そして自動的にしまった乗り物のドアを無言でゴールドシップが開けている。これは非常にマズイ。

 

 

桜木「まぁ待てよ。こう言っちゃあなんだが、お前が会いたいヤツが一人まだ来てねぇだろ?」

 

 

ゴルシ「.........来ねぇだろ」

 

 

桜木「来るさ。アイツはそういう奴だ」

 

 

 顔を背けて吐き捨てる。その顔はどこか痛い所を突かれたみたいに、どこか苦しそうであった。それならば、俺がやる事は一つだけだ。

 アイツは必ず来る。時間指定の約束は破っても、行くと言った約束には必ず来る。そういう奴なんだ。

 

 

桜木「確かに、[二分後]には来ないかもしれない」

 

 

桜木「けどな。[五分後]にはアイツはやってくるぜ?[望遠鏡]を担いでな」

 

 

ゴルシ「.........っ」

 

 

 確信は無い。信用も無い。アイツはバカだ。けれど俺達の期待を裏切った事は一度も無い。その一点だけを信頼している。それは、この場にいる全員がそうだった。

 周りが無駄だ無理だと言われ続けた事をやってのけた事もあった。そのまま継続すればいいのに、気分が悪いと言ってわざわざバッシングを浴びるような態度を貫き通した事もあった。

 その中で、アイツは一度たりとも俺達をガッカリさせた事は無い。いつだって俺達の予想と期待を裏切って、その一歩前を跳んで行くような奴だ。今更悪い意味で裏切るなんて事はしない筈だ。

 

 

 そして、風が少し吹いた。冷たさは自然と感じなかった。風に揺れる音と混じって、徐々に足音が聞こえて来る。

 

 

 明白だった。振り返らなくても、全員。それが誰なのか分かっていた。それを見ているのは、大きく目を見開いて驚いているゴールドシップだけだった。俺達は目を伏せて笑みを浮かべ、その時をただ待っていた。

 

 

 声を上げる為に、息を大きく吸い込む音が聞こえてくる.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカ女ァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までソイツから聞いた事がないボリュームの声が聞こえて来る。ジリジリとした振動が鼓膜を通り、全身に巡って行く。俺達親友はそれを聞いて、何かのイタズラが成功したかのように顔を合わせて笑った。

 

 

白銀「テメェッッ!!!誰の許可得て帰ろうとしてんだァァァッッ!!!」

 

 

白銀「お前が居なくなったらッッ!!!俺はただの変哲もねェ糞も面白くねェテニスの世界王者になっちまうだろうがァァァァァッッ!!!」

 

 

ゴルシ「それでいいじゃねぇかッッ!!!」

 

 

 悲痛な叫びが響き渡る。言葉だけを聞けばいつものツッコミのようにも感じるが、その声を聞けば、それがそんなノリの様なものでは無い事が確かに分かる。

 顔を伏せ、その目をこちらに向けずに俯くゴールドシップ。それに冷や汗をかきながら、静かに見つめる白銀。

 

 

ゴルシ「アタシはお前に出会うべきじゃなかった.........!!!こんな事になるなら.........会うんじゃ無かった.........!!!」

 

 

ゴルシ「ちくしょう.........!!!なんで止まってくれねぇんだよぉ.........!!!」

 

 

白銀「ゴルシ.........」

 

 

 目元を強くその腕で拭う。その姿を見て、その目元を見なくても、今彼女が泣いていることを俺達に察せさせる。

 それを止めることを諦めたのだろう。だくだくとその両目から涙を、鼻からは鼻水を垂れ流しながら、ゴールドシップはその顔を上げた。

 

 

ゴルシ「なんでアタシに構うんだよッッ!!!お前が来ると全部狂っちまうんだよッッ!!!アタシがアタシらしく居られねぇんだよッッ!!!」

 

 

白銀「.........」

 

 

ゴルシ「何とか言えよッッ!!!いつもみたいに意味分かんねェこと言えよッッ!!!鼻で笑って全部諦めてやっからよッッ!!!」

 

 

 大きな身振り手振りで、白銀の言葉を催促する。諦める為に、もう、縋ることを辞めるために。

 そして、白銀は静かに笑った。普段のコイツのキャラじゃない。素の優しさだけが表に出た静かな笑いを零して、白銀はその優しくも、力強い目でゴールドシップのその顔を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........好きだからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「.........!!!」

 

 

 心の内に秘めていた想い。一度全世界に向けて伝え、彼女には伝わらなかったであろうその想いを、コイツは今度は面と向かって言った。

 優しい笑顔のまま、その背中に背負っていた縦長のケースを持ち直し、その中身を彼女に見せる。

 

 

白銀「俺、バカだからよ。こんなバカ高ぇ天体望遠鏡買っても、組み立て方一つ分かりやしねぇ」

 

 

白銀「お前が居ねぇとよ。コイツはホコリ被って、押し入れん中でずっと眠っちまう」

 

 

白銀「それに.........これから先どんなに良い女見つけて、恋して、結婚したとしてもきっと.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の事、絶対忘れられる訳ねぇからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹いた。それは、とても優しい感触だった。その風に当てられて、張り詰めていた緊張の糸が解れていく。

 そして、啜り泣く声が少し聞こえてきた後、それが段々と大きくなり、夜の山の中で、川のせせらぎも気にする事が出来なくなるほど、彼女は.........ゴールドシップは、声を上げて泣いた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ほぇ〜。これが未来の技術ってやつか〜.........」

 

 

トマト「壊すなよ」

 

 

桜木「あい」

 

 

 あれから少し経って、ゴールドシップもようやく落ち着いてくれた。

 彼女達は取り敢えず、帰るのは確定事項だとして、それをするのはまた今度。暫くはこっちでマックイーンの為に何か出来ないかを模索するという事にしたらしい。

 

 

桜木「それにしても、全部知ってたんすか?」

 

 

皇奇「まぁね。僕達はかあ.........じゃなくて、マックイーンさんの[繋靭帯炎]を発症する前に何とかしようとしたんだけど.........」

 

 

トマト「この時代じゃ不治の病だ。アタシらの時代ですら莫大な治療費が掛かる。発症したらまず完治は無理だろうな。今の技術じゃ」

 

 

 手に持ったリモコンを見ながら、その話を聞く。分かっていたことではあるが、こうしてハッキリと言われてしまうと、いくら覚悟を決めたとはいえショックを受ける。

 これから先、彼女がどのような選択肢を取るかは分からない。けれどもし、また走りたいと心から願ったその時、俺はそれを叶えてやりたい.........

 

 

 さて、どうしたものか.........そんな思考の海に潜ろうとしたその時、ふと背中に不穏な気配を感じ取った。振り向いて見ると、そこには無表情の白銀が居た。

 

 

桜木「.........何?」

 

 

白銀「テメェ。俺のゴルシに酷ぇこと言ったんだってな?」

 

 

桜木「.........スゥーーー」

 

 

 不味いことになった。俺の鍛え上げられた危機感地レーダーがビンビンに作動している。たとえそれが作動していなくても、きっと本能がコイツの殺意を感じ取ってくれる。そのくらいのレベルで白銀は怒り心頭状態だった。

 

 

桜木「い、いや〜。俺もさ?ほら、あの状態だったじゃん?不可抗力と言うかさ.........」

 

 

白銀「ファーストキスを俺のディープキスで奪われるか俺に今から24時間サンドバッグにされるのどっちが良い?」

 

 

桜木「どっちも嫌だ」

 

 

白銀「分かった。キスしながら殺す」

 

 

 やっぱコイツ頭おかしい(泣)

 

 

 周りに助けを求めようと視線を送るものの、いつもの事だ。自業自得だとでも言うようにその俺の熱視線を華麗に流して行く。

 その中でマックイーンだけは何故か凄く焦ったような表情をしているが、彼女がその足で歩いてこちら側に来ないよう、ゴールドシップが抱っこをして阻止した。ありがたいけどありがたくない。

 

 

桜木「ダァァァァ!!!悪かったってェェェェェッッ!!!」

 

 

白銀「うるせェッッ!!!それで許してくれんのは警察くらいだろうがッッ!!!」ガシッ!

 

 

桜木「それは一番許しちゃ行けねェ役職の奴らだろうがッッ!!!あァ!!?」ポイッ!

 

 

 思い切り胸倉を掴まれ、引き寄せられる。人生で一番負荷が掛かった気がした。

 白銀と俺の間という短い距離。そのメートルにすらならない距離だと言うのに、あまりの力強さに俺の手に持っていたリモコンは思わず宙を舞った。

 

 

トマト「あァ!!?おいィィィィィッッ!!?」

 

 

皇奇「ちょっと!!?アレないと僕達帰れないんですけどォ!!?」

 

 

桜木「うわぁぁぁぁ!!!誰かキャッチしてくれぇぇぇぇッッ!!!俺の過失だけにはしないでくれぇぇぇぇッッ!!!」

 

 

「っ!!分かりましたッッ!!!」パシッ!

 

 

 俺の後方、遙か遠くへ飛んで行こうとしたリモコン。誰かは分からないが、恐らく今居るメンバーの内の一人が跳躍して取ってくれたのであろう。地面を蹴る音とリモコンを撮る音が聞こえ、この場にいる全員の安堵の溜め息が聞こえて来る。

 

 

桜木「ありがとう、助かったよ.........」

 

 

「危ない所でしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[マスター]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いて、俺は酷く身体を硬直させた。先程まで安堵していた者達も全員、もう一度緊迫した空気を一瞬にしてその身から放出させて居た。

 それでもまだそうと決まった訳じゃない。シュレディンガーの猫。つまり確認するまではYESとNOどちらの状態も存在している。ここでNOを引けば確実に安心出来る。

 俺はそう思い、頭の中の候補に上がる一つだけの名前を、恐る恐る口にした

 

 

桜木「.........ブルボン?」

 

 

ブルボン「はい、なんでしょうか?」

 

 

桜木「.........触って大丈夫?」

 

 

ブルボン「.........えっあっあ、えっ」

 

 

全員「.........」...ギコギコギコ

 

 

 まるで皆、油を差し忘れたような機械の様な音を立てて首を見た事もない乗り物。[タイムマシン]の方へと向ける。

 最初こそ変化は見えなかったが、その俺達の不穏な空気に触発されたのか、その機械も不穏な挙動を取り始めた。

 

 

機械「.........」

 

 

全員「.........」

 

 

機械「.........ジバクシマス」

 

 

全員「.........ハハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁあああぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!??????????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械的な音声アナウンスが自身の行く末を伝えてくる。開く所に付けられたモニターには爆発するまでのカウントダウンが10から開始され始めていた。

 俺達はそれを見て、一目散に退散する。全員が全力で逃げている中、俺は今日の疲れからか、足がもつれて前のめりに転んでしまう。

 

 

マック「トレーナーさん!!?」

 

 

桜木「っ!良いから!!クソッ.........!!!」

 

 

 両手を付いて何とか立ち上がる。全速力で逃げれば、爆発にはきっと巻き込まれない。そう思って足を前に踏み出そうとした。

 

 

 その時だった。

 

 

「待って」

 

 

桜木(!お前.........!!?)

 

 

 身体の内側の方から声が聞こえてくる。それは、俺の身体を使い、問題を起こしながらも何とか日常生活を送らせてくれた存在だった。

 

 

「聞こえないかい?[声なき者の声]が.........」

 

 

桜木(っ、何言って―――)

 

 

「ひぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 

 突然、鼓膜をビリビリと揺らすような声が聞こえて来る。俺は思わずその両手で耳を塞いだ。

 その声が聞こえて来る方を見てみると、それはやはり、タイムマシンと呼ばれる乗り物の方向だった。

 

 

機械「なんでですかぁぁぁ!!!変な電気信号受け取ったと思ったら急に自爆なんてぇぇぇ!!!」

 

 

機械「こ、こうなったら!!!何とか未来に飛ぶしかありませんんんん!!!」

 

 

機械「お願いですぅぅぅ!!!誰か着いてきて下さいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

桜木「っっっ!!!!!」

 

 

 その時、不思議なことが起こった。と、何も知らない者が見れば全員そう思うだろう。なんとカウントダウンが盛り返し、一気に30秒にまでなったのだ。

 けれど、それはこのタイムマシンが全力で力を使ったからだ。その行動が、俺の視線を釘付けにさせて、後退を止めさせた。

 

 

タキオン「何をやっているんだ!!!あんなバグに気を取られている暇は無いんだぞ!!!」

 

 

ゴルシ「クソッッ!!!動けねぇんだったらアタシが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪ぃ!!!俺未来行くわッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「はァ!!?」

 

 

 俺はみんなに顔を見せて、そう言った。そしてその驚愕が静止に変わるのを待たずに、今度は爆発するかもしれないタイムマシンの方へと思いっきり走った。

 先程のような疲れは何故か感じない。まるでこれが正しい行動だと言うように、身体の全てが全肯定してくる。

 

 

 そうだ。[今]に無いなら、[先]を見るしかない。そこでヒントを得て、帰ってこれさえすれば、マックイーンは.........彼女はまた、走れるかもしれない.........!!!

 そう思って前に行こうとすると、不意に視界の真横から誰かが現れる。

 

 

白銀「バーカ!!!そんなんぜってぇ面白いだろ!!!しゃしゃんなや!!!」

 

 

桜木「えぇ!!?」

 

 

黒津木「お前ェ!!!やっぱうつ病確定だわ!!!行動が極端的すぎる!!!精神科医じゃねぇけど分かるわ!!!カウンセリングはあっちでしてやる!!!」

 

 

桜木「俺はうつじゃない!!!」

 

 

神威「あっ、なんか面白そうだから俺も行くわ」

 

 

桜木「誰?」

 

 

神威「死にてぇのか?」

 

 

 いつも通りのメンバーが揃って前を走る。俺以上に元気いっぱいだ。もう既に疲労困憊気味の俺は置いてかれている。

 早く来いと言うようにタイムマシンに手を付き、俺を挑発してくる三人。その光景に久々に感じるイラつきを覚えていると、また俺の横を通る存在が居た。

 

 

ゴルシ「おっさきー!!」

 

 

桜木「はァ!!?お前マックイーン抱えて何やってんだ!!?」

 

 

マック「ふんっ!!!」

 

 

二人「べーっ!!!」

 

 

 タイムマシンの方向へ走りながら、二人は俺の方を見て舌を出す。まるで俺の言うことなんて聴く気はない、と言うように。

 

 

 

 

 

タキオン「.........」

 

 

 ―――何をやっているんだ、彼らは。あんなの自殺行為じゃないか。何を根拠に無事に未来へ行けると確信持って自爆寸前のアレに、全力で向かっていっているんだ.........?

 

 

皇奇「キンちゃん!!僕達も行かないと!!!」

 

 

トマト「はァ!!?お前あのノリを見て気でも狂ったか!!?」

 

 

皇奇「違うッッ!!!ゴルシが行ったんだ!!!親である僕達が行かなきゃ!!!見捨てた様なもんでしょ!!!」

 

 

トマト「っ!お前それは卑怯なんじゃねぇか.........!!!」

 

 

 一人。また一人と駆けて行く。ウララくんも、デジタルくんも、ライスくんやブルボンくんだって、あれほど彼に打ちのめされ、痛い目にあったと言うのに、彼に釣られて走り出す。

 だが、私は違う。私は懲りたんだ。未来に行きたければ勝手に行けば良い。そう思い、彼等に背を向け、スピカのメンバーがいる方へと顔を向けた。

 しかしそこには、黙ってこちら側。つまり、タイムマシンのある方向を見ているテイオーくんが居た。

 

 

テイオー「.........ボクも行くッッ!!!」

 

 

全員「えぇぇ!!?」

 

 

タキオン「君まで.........!一体何を考えているんだ!!?」

 

 

テイオー「だって!!マックイーンが治るかもしれない方法が未来にはあるんでしょ!!?だったら行くしかないじゃん!!!」

 

 

テイオー「それに.........もうサブトレーナー一人だけに任せたくないんだ」

 

 

 強い決心の表情を見せた後、彼女はいつも通りの笑みを私達に向けてから、あのおバカ達と同じ様にその方向へと走って行った。

 一体、何が起きているんだ。そんな事をしても、何も変わらないじゃないか。彼女の怪我も、彼の後悔も、絶望も、何も変わりはしない。だと言うのに.........何故?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........あぁ、そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [変わらない]から、か.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「.........ククク」

 

 

沖野「.........?タキオン?」

 

 

タキオン「アーッハッハッハッハ!!!」

 

 

スピカ「!!?」

 

 

 ようやく気が付いた。何故、彼らがそこまでして足掻くのか。それはきっと、[変わらない]からだ。何をしても、きっと変わることは無いと思い込んでいる。

 だからこそ、現状を少しでも0からプラスの方向に行く為に、0から少しでも遠ざかる為に、必死に生きている。

 そして何より、私達が歩んできたチームとしての道のりは、変わりはしない。

 

 

タキオン「どうやら、私もあてられ過ぎたらしい」

 

 

タキオン「すっかり忘れていたよ。私も[スピカ:レグルス]の一員だということをね」

 

 

沖野「お前、まさか.........!!?」

 

 

タキオン「沖野くん!!!あとは頼んだ!!!」

 

 

 なりふりなんて構っていられない。じっとなんてして居られない。それがこのチームだ。

 ヘトヘトの様子の彼を労る事なく、その隣を走り抜ける。私の姿ではなく、彼はその通り過ぎた後に発生した風に気付き、ようやく私の事に気が付いた。

 

 

桜木「タキオン!!?お前まで!!!」

 

 

タキオン「勘違いしないでくれたまえよ!!!まだ君を信用しきっちゃいない!!!君が無くした信頼はこの程度じゃ補えない!!!」

 

 

タキオン「だが!!!私にはまだチームの信頼が[残っている]!!!これからは君の行動しだいだよ!!![トレーナー]くん!!!」

 

 

 

 

 

 ―――タイムマシンの方向へ走りながら、タキオンは俺の方に顔を向けた。その顔は、今まで見てきた中で、一番と言ってもいい程自信に満ちた表情をしていた。

 バカども。俺のチーム。ゴールドシップとその両親。そしてテイオーが、タイムマシンの傍に居る。あとは俺だけ。残り三秒を残して、俺は数メートル先にあるタイムマシンに辿り着きたい一心で.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跳べよぉぉぉぉおおおおッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きく、前へと行く為に、強くジャンプをしたのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「桜木ッッ!!!」

 

 

 ―――アイツの手が機械へと届こうとしたその瞬間。眩い閃光がそれを中心に、桜木達を包み込むように一瞬にして広がった。

 あまりの眩しさに、俺達はその両目を庇うようにして目を背けた。

 そして、その目をもう一度向けた次の瞬間には.........

 

 

ウオッカ「き、消えた.........!!?」

 

 

ダスカ「ば、爆発したってこと!!?」

 

 

沖野「.........いや、そんな音は聞こえなかった。多分、無事に飛べたんだろうな.........」

 

 

 さっきまでアイツらが居た地面は、強い熱を当てられた様に真っ黒に焦げている。だがそこには、まるで最初から誰もいなかったかのように、痕跡も何も残っちゃいない。

 

 

スペ「だ、大丈夫でしょうか.........サブトレーナーさん達に、テイオーさん.........」

 

 

スズカ「.........今は、無事を信じましょう?」

 

 

沖野「.........だな」

 

 

 今となっては、安否の確認も取れやしない。俺達は、アイツらが未来に行ったと信じて、ただ待つ事と、無事を祈ることしか出来なかった。

 

 

 背後から聞こえて来る地響きに気付いたのは.........その後だった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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