山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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ゴルシ「ここが未来の世界だぜ!!!」T「はぇ〜......」

 

 

 

 

 

桜木「.........っ、ここは.........?」

 

 

 一体、気を失ってどれくらいの時間が経ったのだろう?と言うより、俺はなんで気を失っていたんだ.........?

 太陽の光を瞼の裏で感じ取り、目を開けようとする。けれどもう体力がそこまで無いのか、異様に瞼が重い。取り敢えず身体を起こそうとするが、誰か上に乗っかっているのか、上手く身体が起きなかった。

 

 

桜木(どうせアイツらの内の誰かだろ)

 

 

「んっ.........」

 

 

桜木(え、柔らか―――)

 

 

 上に乗っている誰かをどかそうと、優しく手を乗せて力を込める。すると、明らかに手のフィードバックから男の身体では無いという結果が弾き出され、俺は思わず閉じていた目を見開いた。

 

 

「.........?トレーナーさん?」

 

 

桜木「!!?ご、ごめ!!!本当に申し訳ない!!!」バッ!!!

 

 

 慌てて手を離す。無罪だと言わんばかりに万歳をするが、時すでに時間切れ。なんせ俺が既に触ったと実感しているからだ。か、彼女の.........その、言い難い部分を。

 しばらく黙っていると、状況を察したのか、彼女は怒ることは無く、少し顔を赤らめながらため息を吐いた。

 

 

マック「.........もう、こんな状況で怒る訳ありませんわ。悪いのは上に乗ってしまっていた私なんですから.........っ、く」

 

 

桜木「マックイーンっ!痛い.........よな」

 

 

 俺の身体から退こうとして、彼女はその左脚を痛める。その苦痛の表情から、俺と過ごしてきた中で一番の痛みだと言うのははっきりと分かった。

 彼女の肩を支えつつ、俺が動く形で何とか彼女の下から脱出する。一瞬しか痛みが走っていない様子だが、既にその額から汗が滲み出していた。

 

 

桜木「.........あれ?そういえば、他にも居たよな.........?」

 

 

マック「え?えぇ.........」

 

 

「おーーーい!!」

 

 

二人「?」

 

 

 二人で何とか近くの木を背もたれにしていると、不意に声と車の音が響いてくる。その方向に首を向けると、大人数が乗れるくらいの車がこちらに向かって走って来ていた。

 それが止まるのを見守っていると、後部座席の方からゴールドシップが出てきた。

 

 

ゴルシ「よう!!寝坊助!!」

 

 

桜木「ゴールドシップ!!この車は?」

 

 

ゴルシ「父ちゃんがレンタルしたんだ!!ここからアタシん家までちょっと遠いからな!!」

 

 

マック「ゴールドシップさんの?ひゃあ!!?」

 

 

 近くまで来たゴールドシップが突然、マックイーンを持ち上げる。あまりに唐突だった為に、彼女は驚きの声を上げた。俺も取り敢えず、何とか身体を動かして車の方へと向かう。

 

 

白銀「よう、死にかけだな!!」

 

 

桜木「お陰様でな。多分創に殴られたせいだわ」

 

 

神威「はぁ?ここ最近の不摂生のせいだろ。人のせいにすんな」

 

 

黒津木「はじ、め.........?」

 

 

神威「楽しい?ねぇ俺の事いじめて楽しい?」

 

 

 ゴールドシップが出てきたドアの一つ後ろの方を開けると、そこにはいつものメンバーが我が物顔でくつろいでいた。俺はそれを見てげんなりとしながら、流石にマックイーンをこの中に座らせたくなかったので、俺自身が死地へと飛び込んだ。

 

 

トマト「よーし。回収したぞーコウ。早く行け」

 

 

皇奇「う、うん。キンちゃんとのスキンシップは嬉しいんだけど、殴るのは痛いからやめてね.........」

 

 

 前方の方で仲良くケンカしつつも、車は発進して行く。車内は賑やかさを増しながら、ゴールドシップの家へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トマト「ここがアタシらの家だ」

 

 

桜木「こ、これは.........」

 

 

タキオン「.........大きいね」

 

 

 車から降りて、全員が彼女達の家だというその大きい一軒家に目を向ける。俺はもちろんの事、足を負傷している為に俺が背負っているマックイーンも同じようにそれを見上げていた。

 車に乗って約二時間。場所は過去で言えばトレセン学園近くの住宅街。その中でも一番と言っていい程の大きさを誇る家が目の前にあった。全員それを見て、圧倒される。

 

 

ライス「で、でもこんなお家、無かったよね?」

 

 

ウララ「うん!!空き地だったよ!!」

 

 

ブルボン「恐らく、現代から少し先の未来でこの土地を買って、家が建てられたのでしょう」

 

 

 三人が言うように、俺もこんな家見た事がない。周りにある家にはちらほらと見覚えのある姿があるが、ブルボンの言うように、その時代から少し先に建てられた物だろう。

 

 

皇奇「いやー。マイホームを建てるって凄い大変だけど、人生でトップレベルに嬉しかったなー」

 

 

ゴルシ「よーし!!オマエらをアタシん家に招待するぜ!!母ちゃん鍵!!」

 

 

トマト「わーってるよ」

 

 

 面倒くさそうに荷物の中から鍵を探し当て、玄関へと近づいて行くトマト。一体、中はどのような内装なのだろうか.........流石にここまで一般の家で大きいと気になって来る。

 

 

テイオー「凄いね!門とかもあるし、マックイーンのお家みたい!」

 

 

桜木「ははは.........流石にあの規模だったら一般人じゃないよ.........」

 

 

マック「ですが経済状況が分からないとはいえ、これ程の一軒家を建てられるという事は、それなりに経済的優位に立っている方だと.........ん?」

 

 

 雑談を交わす。ここに居る現代組が手持ち無沙汰でそれぞれ話している内に、段々と口数を減らして目の前のトマトに視線を向けていく。

 何度も鍵を突っ込もうとしても根元まで入って行かない。その背中から焦りとイライラが高まってきているのが分かる。彼女の中で何かを察しはじめているのは、見て取れるように分かった。

 

 

トマト「.........絶対、誰も出ねぇと思うけどよ」

 

 

皇奇「.........う、うん」

 

 

トマト「.........インターホン押してみるわ」

 

 

 恐る恐る、何かの間違いであって欲しいという思いでインターホンに手を伸ばして行く。今二人が何を考えているのか、俺達には分からない。

 自分の家だろう?なんて考えは普通であれば思い付く。だけどこの人達はゴールドシップの両親。普通でない要素はきっと沢山ある。

 その指がインターホンのスイッチを押し、数秒経った後、中から足音が聞こえてきて、恐る恐るドアを開けた。

 

 

「ど、どちら様でしょうか.........?」

 

 

トマト「.........どうなってんだァァァァァァッッッ!!!」ガシッ!

 

 

全員「えぇ!!?」

 

 

 中から出てきた若い男性を怒りのまま掴み上げるトマト。その様子を見て、その夫とゴールドシップが止めに入る。

 だが流石彼女の母親だ。二人がかりでもそれを振り払い、構うことなく男性を掴み上げて凄い剣幕で責め立てていく。

 

 

トマト「どういう事だァ!!!この家はアタシらが苦労して建てた家だぞォ!!?」

 

 

皇奇「そりゃそうだけど!!!キンちゃん落ち着いて!!!」

 

 

「し、知りませんよ!!!僕だって丁度いい値段で[売られていた]のを買っただけなんですから!!!」

 

 

トマト「う、売られてた.........?」

 

 

 胸倉を掴んでいたトマトだったが、その言葉を聞いて血の気が引いて行く。力も抜け、へなへなとその場に座り込んで行った。

 普段は見せないようなそんな姿に困惑しながらも、俺達は現在のその家の住民に頭を下げ、その家の敷居の外へと出て行った。

 

 

トマト「.........あの家には、オマエらとの思い出とか.........アタシらの記憶が残ってたっつうのに.........」

 

 

ゴルシ「げ、元気出せよ母ちゃん?良いじゃねーか家くらい!!!それに売られてたんだからよ!!!家具とかは多分回収されてんだろ!!!」

 

 

皇奇「そ、そうそう!!あっ、あの子達に電話しよう!!なんかやむを得ない事情があったのかも知れないし!!」

 

 

 俺達を蚊帳の外にして話を進めるゴールドシップ一家。電話を掛けようと言われ、二人に肩を支えられたまま荷物から携帯を取り出し、電話を掛ける。

 

 

「は〜い。こちらデリバリー[オルフェスタ]っス〜」

 

 

トマト「よう」

 

 

「.........げっ、ママ」

 

 

 電話に出たのはどうやらトマトの娘だったようだ。ゴールドシップ以外にも子供が居るなんて知らなかったが、どうやらこの子は未来に残っていたらしい。

 電話に出た事を確認したトマトは、そのままその携帯を操作し、ビデオ通話に切り替えた。すると画面にはマスクを付けた栗毛のウマ娘がそこに居た。

 その娘の顔を見て、トマトは額に青筋を浮かべて大きく息を吸った。

 

 

トマト「テメェェェェェッッ!!!アタシらの家ェ売るたァどういう了見だゴラァァァァァッッ!!!」

 

 

「ヒィィィィィ!!?ご、ごめんなさいィィィィィィ!!!」ピッ!

 

 

トマト「あァ!!?おいィィィィィィッッ!!?」

 

 

 言い訳も何もせず、逃げる様に謝って電話を切られる。トマトとしては家を売った理由を問い質したかったのだろう。それを聞けなかったトマトはまた力無く地面に膝を着いた。

 

 

トマト「コウキ〜.........アタシらの.........アタシらの家がァァァァ〜.........!!!」グスッ

 

 

皇奇「うん。うん、辛いよね。沢山あそこで思い出も作ったもんね.........」ヨシヨシ

 

 

全員「.........」

 

 

 普段絶対見ることは無いであろうトマトの号泣。それを取り乱すこと無く慰め、落ち着かせようとする皇奇さんの姿を見て、彼が彼女の夫である事を実感させられる。

 さて。行く宛てもこれでなくなってしまった。一体これからどうなるのだろうと途方も無い不安を生み出していると、不意に声を掛けられる。

 

 

「あれ?キンちゃん?帰ってきてたの!!?お帰り〜!!!」

 

 

皇奇「あっ、姉さん!!」

 

 

トマト「グスッ、あァ.........?」

 

 

 その声がしてくる方向に目を向けた。そこに居たのは、長身で芦毛。大人のウマ娘の人だった。

 その人はタタタとトマトに近付き、嬉しさを伝えるように抱き締めた。

 

 

「お帰りキンちゃ〜ん!!過去ってどうだった!!?ママやパパに会ったの!!?」

 

 

皇奇「.........あー。姉さん、アレ見ればすぐ分かるよ」

 

 

「あれ?.........!!!」

 

 

桜マク「.........?」

 

 

 あれ、と言われて指を差された。その女性は驚いた様子で俺達二人を見て固まっていたが、やがてゆっくりとこちらに近付いてくる。

 

 

「.........」

 

 

桜木「.........ん?」

 

 

マック「.........あの、このお方、貴方に少し似てません?」

 

 

 そう言われて背負っているマックイーンの方を見るが、明らかに似ているのは彼女の方だ。

 綺麗な芦毛色の髪の毛に、どこか上品さを感じる佇まい。それで身体は細.........いや、 一部分は彼女のそれより大きいが、それでも彼女の要素がとても大きい。

 俺の要素と言えば.........まぁ強いて言うなら少々癖毛な所だろうか?

 

 

「.........本物だ〜!!!」ダキィ!

 

 

桜マク「はいィ!!?」

 

 

「私!!ポイントフラッグって言います!!パパとママにはフーちゃんって呼ばれてます!!」

 

 

 その大きい身体で背中におんぶしている彼女ごと強く抱き寄せられる。突然の事と突飛な情報により頭が混乱してくる.........が、つまりはそういう事なのだろう。

 

 

マック「ま、待ってください!!その反応ではまるで私達が親みたいな物ではありませんか!!?」

 

 

桜木「やめろォマックイーン!!シュレディンガーの猫理論で開けなければ確定じゃない!!!まだそうと決まったわけじゃないから開けるんじゃない!!!」

 

 

マック「開けずに居られますかァ!!!こんな爆弾さっさと解体してしまった方が良いに決まってます!!!」

 

 

桜木「君今俺の事爆弾呼ばわりした!!?」

 

 

マック「そうよ!!!当たり前じゃないこのおたんこにんじん!!!いつもいつもトラブルばかり起こして!!!このトレセン学園の火薬庫!!!」

 

 

桜木「俺は悪くないッッ!!!俺のせいじゃないッッ!!!」

 

 

 あんまりだ。俺だってトラブルを起こしたくて起こしてる訳じゃない。結果的にトラブルになってしまっているだけであって、狙ってそうしてる訳じゃない。

 背中に乗りながら腕を高く振り上げブンブンとするマックイーン。やめてくれ。ただでさえ飯をろくに食えてないんだ。バランス取るのが精一杯なんだぞこっちは.........

 

 

タキオン「.........あの二人はいつの間にか元通りになっているね」

 

 

デジ「で、ですね.........」

 

 

フー「あっ!!そうだそうだ!!キンちゃん帰ってきたらパパの所まで連れて来いって頼まれてたんだった!!」

 

 

桜木「ちょっとフラッグさん!!?貴方マイペースすぎやしませんかァ!!?」

 

 

マック「ほら!!!こういう所!!!こういう所ですわ!!!」

 

 

 俺達を置いていくかのような次への展開。彼女からの指摘。周りの喧騒。その全てが懐かしくも今はそれに浸っている場合では無いと心の中で知りつつも、俺はそれに身を預けながら、フラッグさんの行く方へと向かって行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........なぁ、俺まだ何も信じられないんだけど.........」

 

 

マック「.........私も、ここに来た時は信じられましたが、今では何も分からなくなってしまいましたわ.........」

 

 

 前を歩く皆の背中を見ながら、俺達は先程の事を思い返す。あの時は勢いのまま何とか受け入れられたが、今冷静になって考えてみると、到底受け入れられない現実だ。

 俺がパパ?彼女がママ?考えられない。確かにこの子には思いを伝えようとは思っているが、まさか自分が子供。ましてや結婚に至れる程の関係性をこの子と構築出来たというのか.........?

 そう思い、彼女の横顔を見ようと顔を向けると、彼女もこちらにその顔を向けていた。

 

 

二人「.........!!?ご、ごめん(なさい)!!!」

 

 

二人「.........〜〜〜///」

 

 

 暫くお互いの顔を見つめ合った後、彼女の顔が段々と紅くなって行くにつれて俺の顔の温度も上がっていくのが手に取るように分かった。

 関係性が元に戻ったのは嬉しい限りだが、流石にここまで急激に戻られると大変だ.........桐生院さんと一緒にトレーニングで獲得した鋼の意志も機能してくれていない.........

 

 

フー「はい!!着きました!!」

 

 

白銀「ここがバカのハウスね」

 

 

桜木「バカ言うな」

 

 

黒津木「芦毛ロリマニアのハウスね」

 

 

桜木「お前ぶっ殺すぞ.........?」

 

 

神威「.........」

 

 

三人「誰だよお前」

 

 

神威「.........スゥーーー」

 

 

 目の前で立ち止まる皆の中に入り込む。いつも通りの流れで煽り合いに発展するが、神威はこう見えて常識人。狂ってはいるがこんな所でゴタゴタは起こさない。白銀と違って。

 

 

テイオー「そう言えばさ。皆はさっきの話どこまで受け入れられてるの?」

 

 

全員「.........さぁ?」

 

 

テイオー「あっ、そういう感じなんだね。じゃあボクももういいや!!♪」

 

 

 現代組の全員が首を傾げる。正直担当の子達は分からなかったが、コイツらに至ってはもう脳死で話聞いてるだけだろう。あとから理解してきて俺の事をからかってくるのは軽く予想できる。

 そんな会話を挟みつつも、フラッグさんは壁に埋め込まれて隠されているインターホンを探し当て、それを押す。家と言うよりは、どこか研究所のような佇まいだった。

 暫く待っていると、その壁が開き、マイクが出てくる。流石未来。俺達の時代では絶対に有り得ないギミックだ。

 

 

「IDを口頭で言え」

 

 

フラッグ「え?あー。忘れちゃった!!パパー!!キンちゃん達連れてきたよー!!」

 

 

「.........ダメだ。ちゃんとIDを言いなさい。フラッグももう大人なんだから、いつまでもそうだとトレーナーだからって担当のウマ娘に.........」クドクド

 

 

フラッグ「.........皆聞いてー!!実はパパ昔ノートに自分を投入した作品のお話を」

 

 

「おーっと手が滑って鍵が空いてしまったー。いやー入られてしまうなーこれでは。えーっとシステム解除には.........」

 

 

 スピーカーから段々と声が遠ざかって行く。それを気にすることなく、フラッグさんは入口の扉を開けた。

 問題はそこじゃない。完全に流れ弾だ。なんでその事を話してるんだそのパパと呼ばれる人物は。記憶の奥底に封印しとけバカ。お前のせいで俺が酷い辱めを受けたぞ。

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........何も言わないでね」

 

 

マック「因みにどんな作品ですの?」

 

 

桜木「.........強いて言うならバトル系」

 

 

 それを聞いたほぼ全員が引き気味で俺の方を見てくる。マックイーンだけがなるほど.........と言った様子でどこか関心を示していた。

 別にいいじゃないか。男の子なんだ。バトルが好きで何が悪い。取り敢えずこの火種を作った男を俺は絶対に許さない。そう心に決めて建物の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い研究所の廊下。その静かな廊下に似つかわしくない程の足音が耳に入ってくる。その先陣を切るのはフラッグさん。楽しそうに花歌を歌っているのは彼女だけで、トマトさんはピリピリ。後の者は不安を抱えて居た。

 

 

桜木「あの、皇奇さん?さっきフラッグさんがトレーナーだって.........その」

 

 

皇奇「ああ、そうですよ。過去の方では沖野さんが家のゴールドシップを担当してましたが、こっちでは姉さんがトレーナーをしてました」

 

 

桜木「ほぇ〜.........ん?」

 

 

 先程気になったフラッグさんがトレーナーだという件。俺の時代にはまだウマ娘でトレーナーをやっているという話は聞かなかった。だから未来の世界ではそれが出来ているのか、という事が知りたかったのだ。

 だが新たに疑問.........と言うより、気が付いては行けない事に気が付いてしまった。話を聞いていれば皇奇さんはフラッグさんの弟だと言うのは容易に理解出来る。そしてその子供がゴールドシップ.........

 

 

桜木「.........まさk「パパー。入りますよー!」ナイス!!!」

 

 

 ようし!!ここで持ち前のマイペースな展開で良くぞ俺の察し良い脳みその思考を止めてくださった!!ありがとうございますフラッグさん!!

 もう若干テンションが頭がおかしくなる夏の日みたいになっているが、そうでもしなけりゃやってられない。

 一番前で今か今かと扉が開く時をワクワクしているフラッグさん。そしてその期待に応えるように、その扉はゆっくりと開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「.........!!?」

 

 

 その姿を見て、現代組の全員が驚愕する。俺は勿論、ここに来るまで先程の情報を後で整理しようと思考を止めていた者達も、その男の姿を見て流石に悟ったようだ。

 ここが、未来の世界であると.........

 

 

トマト「久しぶりだな。クソジジイ」

 

 

「随分な言い様だな。トマト」

 

 

トマト「アタシはトマトじゃねぇ」

 

 

「お前はトマトだ。古墳に落書きスプレーでイタズラしたんだ。名前を変えられるくらいで済んで有難いと思え。たわけ」

 

 

 目の前でコミカルな言い合いが繰り広げられる。正論で言い返されもうそれしかないと言うようにトマトは拳を振り上げるが、ゴールドシップと皇奇さんにそれを止められる。

 それを見て、扉から出てきた白衣を着た老けた男は溜息を吐く。その視線をその三人から、未来にやってきた俺達の方に向け、俺を見てからまるで知っている顔だと言うように近付いてくる。

 

 

「久しぶりだな。[鏡の道化師]」

 

 

桜木「.........そんな顔、鏡でも見た事ねぇよ」

 

 

「.........?ああ、そうだった。記憶を無くさせたんだったな」

 

 

桜木「?お前何言って―――」

 

 

「中に入れ。この人数だと流石に狭いが、もてなそう」

 

 

 俺の質問を聞くこと無く、男はそのまま部屋の中へと入って行った。俺達は顔を見合せ、どうするべきかをアイコンタクトで意思疎通を図る。

 しかし、足踏みをしているのは俺達だけで、ゴールドシップとその両親、そしてフラッグさんは気にすること無く中に入って行く。その様子を見るに、特に危険はなさそうであった。

 俺は背中に居るマックイーンの方に顔を向ける。彼女もどこか不安そうではあったが、行くしかないと言うようにその表情を決心で固め、俺の不安を軽くする様に、首に回している手を少し強く締めた。

 

 

 皆に遅れて一歩、その中へと踏み出す。中は壁一面に何が書かれているのか分からないレポートで埋め尽くされ、机の上には設計図や実験道具がしっちゃかめっちゃかになっていた。

 そして先程の男は、その机の下にある収納スペースをこの部屋の主とは思えない丁寧な手つきで探り、やがて何かを取り出した。それの状態を確認し、俺の方へと歩いて来る。

 

 

「確か、左脚だったな」

 

 

マック「!な、何を.........?」

 

 

「丁度スペアが残っていてね。全力は出せないだろうが、ランニング程度なら耐えられる」

 

 

 慣れた手つきでマックイーンの左脚の靴を脱がせ、そこに見慣れない器具を付けた靴を履かせ始める。男の言っていることから、これはきっと彼女が歩ける様になる補助器具なのだろう。

 それをつけ終え、俺の方を見て彼女を下ろせと言うように顎を向ける。渋々それに従い、彼女が少しでも痛がった素振りを見せればまた背負えるよう、俺はゆっくりとかがみ、彼女の足を地面に下ろした。

 

 

マック「っ.........?」

 

 

テイオー「マックイーン!大丈夫!!?」

 

 

マック「え、えぇ。何ともありませんわ.........でも、自分の足では無いみたいで.........」

 

 

「それは義肢の神経接続技術を逆手に取り、自身の足からの信号を一旦その器具に通している。その上負担を掛けているのは98%その器具だ。君の足はほぼ完全に守られている」

 

 

桜木「.........義肢、ねぇ」

 

 

「懐かしいだろう?お前がトレセン学園に行く前、会社で進められていたプロジェクトの一つだ」

 

 

 そう。話だけは聞いていた物だ。近い将来、欠損者に対して見た目だけではなく、しっかりと腕や足の代わりになる物を作ろうと言うプロジェクトがあると言った話は、俺も知っている。

 だが所詮、噂話の域を出ない物だった。あの当時の技術では見た目や質感の再現が限界。そして尚且つそれをしてしまえば、満足に動かせないのに、普通の人と同じに見られ、結局デメリットしか生まれない。

 彼女に取り付けられたその器具を改めて見る。膝から足首に伸びる二本の柱。それが彼女の左足の支えとなり、そして膝に着いている電源部分が神経とのやり取りをしているのだろう。

 

 

桜木「.........ありえないなんて、ありえないって訳だ」

 

 

「そうだ。時間は掛かったが、[普通の生活]を送る分には、[繋靭帯炎]はそれほど恐ろしい病では無くなった」

 

 

「生体電気を吸収、効率化させているから充電も要らん。それと同時に神経回路の電気信号を誤認させ、頭にはその二本の柱が左足だと錯覚する様にされている。痛みが走っている時はアラームが鳴るから、その時は他の人に頼りなさい」

 

 

 そう言って、その器具の部分を指さし丁寧に説明をする。正直話を理解しているのは半数くらいで残りは興味が無さそうにしていた。

 

 

マック「あ、ありがとうございます.........あの」

 

 

「?.........ああ、自己紹介がまだだったな」

 

 

「俺の名前は.........まぁ、呼びにくいだろう。[能面]とでも呼んでくれ」

 

 

桜木「ア゛ッ゛!!!」ビキィ!

 

 

 痛い!痛い痛い痛い痛いッッ!!!なんだよ能面とでも呼んでくれって!!!お前頭ん中中学生で止まってんじゃねぇかよ!!!今どきの厨二御用達のなんちゃって小説でも言わねぇよ!!!

 はぁぁぁ.........コイツマジで殺さねぇとダメだ.........俺の黒歴史が分岐してifルートを勝手に作り始めてやがる.........

 

 

能面「お前はさっきから何をやっているんだ?」

 

 

桜木「お前のせいだよ!!!妙にスカしたキャラしてさァ!!!歳を考えろよな歳をマジで!!!ジジイがふざけてんじゃねぇよマジで殺すぞ!!!」

 

 

能面「お前はまだ、[痛み]が分かるのか.........?」

 

 

桜木「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!神様お願いしますゥゥゥッッ!!!俺諸共コイツを殺して下さいィィィッッ!!!」

 

 

 あまりの苦しさに土下座をする。土下座で神に懇願する。俺が一体何をしたって言うんだ.........?何をしたら[痛み]を忘れるって言うんだ.........?

 

 

能面「はは、冗談だ。今までの人生で一番ダメージを負っただろうな」

 

 

桜木「はァ!!?お前ふざけんなよ!!?諸刃の剣なの分かってんのかよそれェ!!!」

 

 

能面「はっはっは。それで辛くなるんなら俺は今まで生きちゃいない」

 

 

 あーーー.........ダメだコイツ話通じねぇ.........

 こんな奴にいつまでも頭を下げる気も湧かず、土下座の体勢から立ち上がろうとした俺は一瞬、体がふらつかせた。

 まぁ、そんな事は常時ある。たまたまバランス感覚を失っただけだ。そう思っていたのだが、いつまでも足元は覚束ずにフラフラとしてしまう。

 

 

桜木「あ、あら.........?」

 

 

白銀「バカ、何やってんだ。支えてやるよ」

 

 

桜木「さ、サンキュー.........」

 

 

 それを見兼ねたのだろう、白銀は溜息を吐き、頭を掻きつつも俺の肩に手を回し、しっかりと支えてくれた。フラつきが止んだ今でも、支えを無くしてしっかり立てる自信はなかった。

 一体何が.........そう思っていると、あの能面とか言うクッソ痛いジジイが俺の前までやってきて、その顔を覗き込んでくる。

 

 

「.........お前、最近ろくに食ってないだろ。栄養失調だ」

 

 

桜木「.........マジ?」

 

 

ウララ「と、トレーナー大丈夫.........?」

 

 

マック「栄養失調.........とても辛いでしょうね.........」

 

 

 心配になったウララがその可愛らしい顔を覗き込ませる。何とか安心させるように笑って見せたいが、上手く笑えて居ない。どうやら俺の[仮面]はもう、完全に使えなくなってしまったようだ。

 そうしていると、背中を誰かがさすってくれている。それは、一度この辛さを体験しているマックイーンだった。俺の身体を労る様に、優しくさすってくれていた。

 

 

能面「.........仕方が無い。積もる話と記憶を戻そうと思ったが、場所を変えよう。車の手配をする」

 

 

ゴルシ「お!!遂にじいちゃんも帰んのか!!」

 

 

能面「ああ。その時が来たからな。皆外で待っていろ。直ぐに迎えが来る」

 

 

 来ている白衣のポケットから携帯を取りだし、何処かに電話を掛け始める。それを見届けない内に、俺は白銀に連れられてみんなと一緒に外に向かって行った。

 そんな途中で、俺はひと段落ついた影響か。それとも安心が出来そうな場所に移動出来るという安堵からなのか。どちらとも分からないまま、その意識を手放してしまった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

能面「ああ、済まない。俺も帰ろうと思うから、これからは食事は自分で.........何?[オルフェスタ]でお前専用に俺の料理をデリバリーさせろ?」

 

 

能面「.........断る」ピッ

 

 

 先程の電話相手とは違う、[かつての相棒]との通話を終わらせる。普段はここから出る事はないが、今日は偶然、講演会で外出していた。

 全く。彼女を見ているとつくづく自分はトレーナーに向いていないと痛感する。自主的に生活する能力を向上出来なかったのは一重に俺の責任だ。

 溜息を吐きながら、俺も外に出ようと振り返ったその時、どうやら彼等と共に出ていかなかった一人が、まるで俺を待っていたかのように壁を背にしてもたれかかっていた。

 

 

能面「.........なんだ。[キンイロリョテイ]」

 

 

キン「なんだ。ちゃんと呼べるじゃねぇか。アタシの名前」

 

 

能面「雰囲気で分かる。真面目な話をしたいんだろう?」

 

 

 分かってるじゃねぇかと言って、彼女は手を組んだままその壁から離れ、俺の前へと立ち塞がる。その目はいつもの凶暴性はなりを潜め、純粋な圧で俺の事を見てくる。

 

 

キン「随分と用意が良いじゃねぇか。え?[ウマ娘の救世主(ヒーロー)]さんよぉ」

 

 

能面「.........道というのは面倒だ。そのつもりなど無くても、その道筋を見てきた者が勝手に俺の行動に意味と名を持たせてくる」

 

 

キン「言えよ。なんでこんなピンポイントな時期にフラッグの奴にお願いしたんだ。全部知ってたのか?」

 

 

 その小さい身体のどこに、一体その圧をしまえるのか聞きたい程に彼女は俺を威圧する。彼女は俺を見上げる形で近付き、そして俺も目を逸らすこと無く彼女を見下げる。

 

 

能面「.........その逆だ」

 

 

キン「あ?」

 

 

能面「[全てを知りたい]から、俺はここに[戻ってきた]んだ」

 

 

キン「.........!!!まさか!!?」

 

 

 俺の言葉で何かに気が付いたリョテイは、そのまま俺の横を素通りし、駆け足で先程の部屋に入って行った。

 恐らく、[それ]は見つかるだろう。だが見つけた所でどうしようも無い。俺は[ここ]に、[この時]に、[この場所]に、[戻ってきた]のだから.........

 

 

キン「テメェッッ!!!」

 

 

能面「おお、早いな。目当ての物は見つけたかな?」

 

 

キン「やりやがったな.........!!!」

 

 

 それはやはり、見つかった。彼女は苦虫を噛み潰したような顔で、俺にそれを見せてくる。それは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粉々になった[目覚まし時計]の破片であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キン「[過去]に戻って何しやがったッッ!!!テメェの都合で誰かが振り回されんなんて事したらタダじゃ―――」

 

 

能面「その場合、その[時点]で、その[目覚まし時計]は原型を[留めている]はずだ」

 

 

キン「.........何、言って.........」

 

 

 タイムパラドックス。本来その時有り得るはずがない出来事が起きた際に用いられる単語だ。そしてそれは、偶然と必然によって織り込まれている。

 例えば、時計の針をネジではなく、その指で直接動かそうとした時、多少の抵抗感が生じるだろう。そしてそれは時間の概念も同じ、いや、それ以上に強い抵抗感が生まれる。

 

 

能面「意図して歴史を変えるのは簡単だ。意図せず変えるのもまた容易」

 

 

能面「だが、[元来た道]を戻り、[辿り直す]のは難しい物だな」

 

 

能面「それには何もしてない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[今の時].........はな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐らくアレは、俺が壊した最初から[二番目]の物だろう。元来た道を辿り、本来の俺がそうした物なのだから、アレは本来壊れるべきなのだ。

 [時を記憶する]。それがあの目覚まし時計に内蔵された鉱物。通称[神魔石]の特徴だ。本来の壊れる運命のレールのまま動いているコレらは、今の俺が何かをしないまでも、過去の俺がそうしたように勝手に砕ける様になっている。

 

 

 .........最初にそれを見た時、俺は酷く。安心を覚えたものだ。

 

 

 それこそが。歴史を変えずに戻ってきたと言う、唯一の証拠になるのだから.........

 

 

キン「.........何がしてぇんだ。オマエ」

 

 

能面「それは言えん。誰が聞いてるかも分からないしな」

 

 

 ムスッとした表情のまま彼女は無言で俺を少しの間睨みつける。やがてどうしようもない、と言うように溜息を吐き、何も言うことなく外に出て行ってしまった。

 

 

能面(.........誰が聞いてるかも分からない)

 

 

能面(そう、例えばそれが―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([名も無き女神]なら、尚更だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつか訪れるであろう、[神との邂逅]。その時までに、俺は[布石]を打っておかなければ行けない。

 

 

 [ウマ娘の救世主(ヒーロー)]などと言うような、誰かが見て名付けた存在では無く

 

 

 たった一人の、[彼女の味方(世界の悪役)]になる為に.........

 

 

 そして、[奇跡]を超えるであろう、[桜木 玲皇(トレーナー)]の為に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。これは、時を超え過去に戻りながらも

 

 

 神を欺き、己こそがそれに対しての[バッドパラドックス]になる為だけに、ここに戻ってきた.........

 

 

 一人の道化師の、[逆転サーカス]の幕開けに過ぎないのである.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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