山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
『何故だ!!!君はまだ成し遂げていない事が沢山あるはずだろう!!?』
『ああ。でもそれを追い求めたら、俺は今度こそ壊れる.........ここらが潮時なんだよ』
.........不思議な夢だ。肌に感じる温度と風は確かに生きている物なのに、それが夢だと何故かはっきりと分かってしまう。
手を伸ばしても届かない。声を上げようとしても響きやしない。まるでそれは映画のワンシーンのように、流れる場面を俺は止める事が出来ない。
『ふざけるな.........!!!ここまで来て君は私の手を離すのか!!?』
『URAファイナルズも開催されるんだぞ!!?』
『.........悪かったな』
悲痛な叫びとも受け取れる彼女の声を聞いても、男はその背を向け、彼女の前から去って行く。お前は一体、何がしたかったんだ.........?
その背中を見送り、男の姿が見えなくなった。彼女は一人だった。一人になってしまった。それを段々と理解し始めたのか、鋭かった目は弱々しくなり、濁ったその瞳は潤いを増していき、やがてその場に膝を着いた。
『.........意気地無し』
それが夢であり、一つの[結末]だと感じた。こういう道も、あったのかもしれないと思った。耳に届くであろう彼女の身体を震わせた嗚咽は、何故か聞こえて来ない。景色は徐々にセピア色に染め上がっていく。
桜木(.........違う)
違う?何が違うと言うのだろう?
俺の追い求めている物じゃない。
だからどうした。これが[本編]だ。
これは俺の[物語]だ。
それこそ違う。
―――?
これは.........
[俺]の[物語]だ。
ーーー
桜木「.........?」
マック「おはようございます。トレーナーさん」
桜木「っ、マックイーン.........?」
時計の針が等間隔で音を刻むだけの空間。その静かな部屋で私達は、彼が目を覚ますのをじっと待っていました。
『酷い汗ね。嫌な夢でも見た?うなされてた様子は無かったけど』
桜木「いや.........というより、気分が悪い夢かな」
マック「気分が.........!!?や、やはり薬だけで治るわけありません!!今すぐ食事を―――」
桜木「ま、待って待って!!そういう体調的な意味じゃなくて、気持ち的な、ね!!?」
彼の為に食事を持ってこようと立ち上がろうとした所、彼は大きい身振り手振りでそれを止めました。その様子に演技をしている様子はありません。どうやら、本当に体調の方は大丈夫なのでしょう。
彼の居るベッドの向こう側で私とよく似た姿の彼女が溜息を吐き、それを睨み付けました。
桜木「.........いや〜、多分色々受け入れられない事が沢山あって、ストレスで変な夢見ちゃったのかもなぁ〜.........」
マック「.........そ、そうですか」
桜木「え、何今の間。アレからまた何かあったの?」
青ざめた顔で私の目を見つめるトレーナーさん。ええ、確かにありました。もう情報量過多で私がここに逃げて一晩明かす程には中々の濁流が自分の中に流れ込んできたと思います。
そう、あれはこの家に.........[未来のメジロ家]に来た時です。
ーーー
能面「ゆっくりくつろいでいてくれ。疲れただろう?」
彼は慣れた手順でこの家までの道筋を辿り、正門から玄関を開け、広いロビーに来るまでを流れで行います。その様子が、もう彼がこの家の住人だということを強く感じさせました。
内装を見渡してみると、そこはやはり私の知っている家。土地も作りも何もかも、[メジロ家]の物と一致しておりました。
そうしている内に、彼は使用人に白銀に身体を預けて意識を失っているトレーナーさんを渡し、空いている部屋に寝かせるよう指示を出しました。
トマト「つーか。アンタも十何年ぶりくらいじゃねーか?」
能面「そうだ。因みに彼女は今仕事だからな。内緒で帰ってきている。向こう一週間は「あらこんにちは」.........」
「随分賑やかですわね。朝と夜を何度越した帰りかしら?玲皇さん?」
彼の背中に掛けられる声。それは本来であるならば、私の声帯から出されるべきもののはず。しかし、現にその声は、少し遠いこの家の二階の方から聞こえてきました。
能面「おかしい。俺がハッキングした彼女の予定には今日から一週間フランスの方でインタビューや海外名家との交流の予定の.........」
「蹴りました。貴方の[元相棒]から今日帰ってくるという告発があったので」
能面「.........いやー!!マイハニー!!元気にしてたかい!!?アッハッハッハ!!!」
全員「えぇ.........?」
観念したような表情を見せた後、彼は全力で彼女のご機嫌取り、もとい吹っ切れた様子を見せその階段を駆け足で登っていきました。高笑いを響かせながら。
そのあまりの変貌ぶりに未来の人達は呆れを、私達は困惑した表情をしました。
彼が彼女に近付き、あ、あわやキ.........いえ。これはやめときましょう。それをしようとした時、見事なアイアンクローでその前進を止められました。
能面「釣れないな。俺はこうして十数年ぶりに会えて嬉しいと言うのに」
「何が嬉しいですか。だったら顔を見せないなりに痕跡とかメッセージを遺しておくべきです。要らぬ心配をしたではありませんか」
能面「心配した?俺の事ちょっと心配してくれた?」
「孫や子供達がです。貴方が私を残して死ぬなんて有り得ません。[車椅子を一生押す]と言ったのですからその通りにしなさい。この甲斐性なし」
マック「.........」
呆気に取られる。とはまさにこの事でしょう。目の前で見知った顔より老けた男性と、いつも鏡で見るのと瓜二つの存在が、いつものやりとりとは違うそれを見せてくるのです。
ですが、これでようやく私も未来に来たのだと痛感しました。まだ事情も事態も何もかも分かりませんが、それだけはようやく飲み込むことが出来ました。
デジ「はぁぁぁ.........どのような形でも、アレも桜マク.........しゅごいでしゅ.........♡」
タキオン「普段より少々ハードだが、夫婦漫才には変わりないね。ご馳走様」
ウララ「こっちのトレーナーとマックイーンちゃん!!ウララのパパとママみたいだね!!」
マック「.........はぁぁぁ」
深い深い、世界で一番人間の手で掘られた穴よりも深い溜め息が出て行きます。いえ、別に見ていて見苦しかった訳ではありません。ただ、そうであって欲しかった.........
だって、私と貴方がいつもあのクオリティの掛け合いを見せているとなると恥ずかしい限りではありませんか!!
そんなやり取りをしている内に、彼女はこちらの方。正確には、トウカイテイオーの方を見て、彼をアイアンクローから壁に投げ飛ばして開放した後、その足で階段を降りてきました。
「あら、貴女も来ていたのですね。テイオー」
テイオー「え、え、ボク.........?」
「何を言ってるんですの?私が呼んで貴女が来た。それだけではありませんか。今日は足の調子が良さそうなので、次いでに体調の方の相談も―――」
ゴルシ「ま、待ってくれよばあちゃん!!コイツは過去から来たテイオーだ!!他に居るヤツらもそうだし!!」
「.........?すいません。眼鏡を.........あら、あらら?あらららら.........!!?」
階段を降り、割と近い距離で会話していたのにも関わらず、彼女は私達を認識していないようでした。至近距離で目をしかめた後、従者の方に眼鏡を持って来させてそれを付けると、その表情はみるみる内に驚愕に変わって行きました。
「ど、どどど、どういう事ですの!!?ちょっと玲皇さん!!?伸びていないで説明してくださいまし!!!」
全員(貴女が投げ飛ばしたんでしょ.........)
一階の方で二階でダウンしている彼に声を上げる彼女。その自分勝手さに呆れた感情を抱いていると、彼が何とか首をさすりながら降りてきました。どうやら歳を取っていても、貴方の頑丈さは健在のようでした。
能面「ん、ん〜.........?説明も何も.........ゴールドシップ、お前行く前にちゃんと家族には言っておけって言わなかったか?」
ゴルシ「言ったよッッ!!!」
「あれ本当の事でしたの!!?」
能面「.........普段から訳分からん事言ってるのが仇になったな」
ゴルシ「アタシは悪くねェ!!!」
普段は見せないようなアタフタとした様子を見せながら、ゴールドシップさんがあれを言ったこれを言ったを身振り手振りをつけて慌ただしく説明をし直しています。
対する私に似た彼女は、それを聞いて覚えている上でそれを全ていつもの変な言動だと片付け、大方気まぐれで世界を家族と放浪していたと思っていたらしく、悪びれる様子は一切見せませんでした。
ようやく彼女も目の前の状況を受け入れ、古い記憶を頼りにするようにそれぞれの顔を見て、名前を言っていきます。彼女にとって懐かしい顔ぶれなのか、その姿はどこか楽しげでありました。
「それにしても、変なメンバーですわね。私の記憶ではそこまで仲良くした覚えはありませんが.........」
全員「え?」
能面「ああ。彼女達はゴールドシップの起こした過去改変で俺がチームを作り、担当している事になっている。出世したもんだろう?」
「ええ。少なくとも、[アグネスタキオン]さんのクラシック級が終わった時点でトレーナーを辞めてる貴方と違って優秀ですわね」
全員「えぇ!!?」
何ともないようにまたしても驚愕の事実が露呈しました。この世界での彼はどうやら、タキオンさんがクラシックを走り終えたのと同時にトレーナーではなくなっているらしいのです。
また、話を聞く所によるとチームなど作っておらず、担当はタキオンさん一人だけ。彼がトレーナーを辞めた後、この世界の彼女は新たにトレーナーを付けることなく、執念で研究とレースを続け、URAファイナルズ中距離部門初代王者に輝いた.........
タキオン「.........にわかには、信じられないね」
黒津木「天職だと思ったけどなぁ。俺もなぁ」
神威「いつもの飽き性だろ。バカなんだから」
白銀「芦毛ロリマニアの癖に」
能面「俺が60代で良かったな。20代だったらお前ら死んでるぞ」
いつもの様子で掛け合う三人に、今の貴方と変わらない返しをする彼。しかし、そのやり取りを終えた後、彼は人知れずどこか懐かしそうで、それでいて何故か悲しそうな顔を一瞬見せ、誰も居ない方へ隠すように逸らしました。
彼が何を思い、そんな表情をしたのか、それがどういう意味なのかを探ろうとしたその時、ゆっくりと玄関の扉が開きました。
「ただいまっス〜.........あ」
「帰ったぞ〜.........あ」
トマト「あ」
ゴルシ「!!姉ちゃん!!」
玄関から入ってきたのは、二人のウマ娘でした。その姿を見たゴールドシップさんは喜びを。彼女の母親は瞬時に怒りの炎を燃え上がらせました。
トマト「テメェら.........」
二人「.........グス」
二人「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」ダッ!
全員「えぇぇ!!?」
静かに怒りを発露させている筈の母親に対して、お二人は泣き出しながら彼女の方へ走って行きます。
怒っていたはずの彼女も最初こそ困惑したものの、直ぐに二人の心情を察し、まるで聖母のような微笑みでその両手を広げました。
トマト「そうか.........!!!寂しい思いさせちまったなぁ.........!!!オルル!!!フェス!!!母ちゃんが帰ってきたぞぉぉぉ!!!」
二人「じいじ(じいさん)ーーー!!!」ダキィ!!!
能面「.........うん。まぁ、そうなるな」ポンポン
そんな両手を広げた彼女の事など知らないと言うように、二人はその横を素通りして祖父である彼に強く抱き着きました。
それを察していたのはどうやら彼一人だけだった様で、彼女は現実を受け止められないのか、目を瞑りながらその両手で空気を抱きしめ始めました。
トマト「.........おかしいな。何も感じない。そこに居るんだろ?二人とも.........なぁ?」
「ずっと会いたかったっス〜!!!」
「そうだぞじいさん!!!急に死んだって聞かされて葬式に出た時はすげぇ泣いたんだからな!!!」
能面「そうかそうか。お前らに会うのはそう言えば十何年ぶりだったな。痛い。オルフェーヴル足を踏むな。殴らないで、あと顔舐めないで。少しはナカヤマフェスタを見習いなさい」
連続して出される唐突な事実。もう何が何だか分からなくなって頭が痛くなってきました.........
ナカヤマフェスタと呼ばれたウマ娘は比較的普通の触れ合い方で彼の存在を確かめているようですが、オルフェーヴルと呼ばれた方は嬉しさのあまり、彼を壁へと投げ飛ばしてしまいました。
白銀「お前の姉ちゃん達美人だな」
能面「そうだろう。俺の妻が世界で一番の美人だからな」
白銀「でも胸ないじゃん」
三人「は?」
ゴルシ「お?浮気か?」
能面「.........ん?」
落とされた爆弾。そしてアチラが知る由もない彼とゴールドシップさんとの関係。それを察せられるかもしれない情報が一滴垂らされ、彼は顔を酷く困惑させました。
能面「ま、待て待て。なんだお前?うちの孫と付き合ってるのか?」
二人「付き合ってはいねーな」
能面「.........ほっ」
二人「でも告白はした(された)ぞ?」
能面「」
まるで一瞬で凍らされたように身体を硬直させ、絶句する彼。残念な事に、これは事実であり、二人が辿ってきた道のりなのです。今更それを無かったことにすることは出来ません。
しかし、彼はそれを聞いて決心を奮い立たせ、ポケットに手を入れてスマホを取り出しました。
能面「やめとけやめとけ!!そんなろくてもない奴どうせ死ぬ!!!お前らに良いもん見せてやる!!!」
白銀「お?未来の面白ぇ動画か!!?俺こっちでも動画投稿してんだなぁ!!!」
「本日で白銀翔也さんが亡くなって36年ほど経ちました」
白銀「」バタン
ここに居る現代組の全員が、彼のスマホを覗き込むと、そこにはテレビ番組のようなセットの中に、涙ぐむキャストの方々が揃っていました。
余りの出来事にその本人である白銀さんはショックで気を失ってしまい、地面に倒れ伏してしまいます。
ブルボン「.........?白銀さんは死なない人間だと思っていました」
黒津木「あっちのオメェ死んでんのかよwwwこっちもさっさと俺のユンゲラー育て直して死ねな〜?www」
能面「おっと手が滑って最近のやりす〇都市伝説に飛んでしまった」
「ある天才医師の死の真相」
「皆さん。ウマ娘が好きなら勿論彼の事をご存知でしょう!そう、黒津木宗也先生です」
黒津木「アポ」バタン
彼も死んでいました。それを聞いたショックでまた本人が倒れました。タキオンさんが慌てて彼に近寄りました。その番組の方では何やら、発見した手術チャートや不治の病を治す薬などが原因で狙われたと言う、よくある陰謀論の話でした。
マック(.........本当、頭が痛くなってきたわ)
その後の事はよく覚えてません。司書さんが今自分がどうしているのかを聞いて知らないと言われショックで倒れ、トマトさんが二人の娘さんになぜ家を売ったのかを問いただしたり、ゴールドシップさんが私と似ている方と過去の事を話していたり.........
正直、頭の整理がつかなかったので、それからすぐ貴方の寝ている部屋で休息を取ったのです。
ーーー
桜木「.........やべぇな」
全てを聞き終えて彼が発した一言はそれでした。その全てを整理するように顔全体を両手で覆い、溜め息を吐きながらゴシゴシと擦り始めました。
桜木「まず認めたくない.........と言うより、今でも受け入れられない事から整理しよう」
マック「はい.........」
桜木「お、おおお、俺とき、君は、結婚していて.........」
マック「は、はい.........///」
桜木「こ、子供も居て.........」
マック「.........///」
桜木「ま、孫達に囲まれている.........」
マック「.........〜〜〜///」
認めたくない。受け入れられない。語弊はありますが、確かにその通りです。今の私達とあの方達は違う生き方をしてきたとはいえ、同じ人間です。それが結婚し、子供を育み、孫に囲まれている.........
う、受け入れられません!!!そんなの絶対幸せに決まってます!!!そ、そんな幸せ.........感じちゃったら.........♡
桜木「そんで、俺はいつの間にかトレーナー辞めてて、アイツら二人は死んでて、まぁとにかく今の俺達からしたら有り得ない情報が連続してた訳だ.........」
大きな溜め息をもう一つ吐き、彼は横目でチラリと私を見てきました。それはどこか、私の身を案じているような気がしました。
桜木「.........一日経ってると思うけど、ちゃんと寝たよね?」
マック「ええ。ベッドで寝ました」
桜木「.........なら良かった」
少し疑いの目を向けられていましたが、私の顔を見て嘘は着いていないと感じ、安心した様にホッとしていました。
.........まぁ、ベッドで寝たのは嘘ではありません。この部屋から出ていない事も、ベッドの上の誰かと寝た事も言っていませんが、言っていないだけです。
『.........それにしても、未来の世界ってぶっ飛んだ話よね』
二人「.........」
その言葉とは裏腹に、退屈そうに欠伸をしている女性。私達はお互いの顔を見て、何かを思い出し、どちらとも言わずに頷きました。
今まで色々な事があって放って置いていましたが、今はこの世界と同じくらい、彼女が謎の存在である事を。
桜木「なぁ、君は一体何者なんだ.........?」
マック「私も、まだ本質には触れておりません」
『な、なによ二人して!貴女に全部言ったじゃない!!!それを説明してあげなさいよ!!!全くもう!!!』
不貞腐れるように頬を膨らませ、そっぽを向かれてしまいました。しかし、説明と言われましても、私だってまだ分からない事が沢山あります。
元々彼女と私は、[二つの魂を一つの魂にされた者]だった。それが彼の影響で二つに別れてしまった。そこまでは受け入れ、理解しています。
ですが、なぜ二つが一つになったのか?何故、彼に彼女の姿が見えているのか、疑問は新たに生まれていきます。
その疑問を感じつつも、私は以前彼女からされた話を、彼にそのまま伝えました。
桜木「御伽噺.........ねぇ」
マック「にわかには信じられないかも知れませんが.........」
『れっきとした事実よ。それがこの子と私が瓜二つの証明』
そう言って、彼女は胸を張りました。
まるで私への当てつけのように。
私が持たざる者と言うように。
それに見合った効果音が聞こえてくるように。
胸を.........張りました。
マック「.........何が[瓜二つ]ですか」
『「え?」』
自分でも驚く程に低く、そして恐ろしいほどに響く声が出ました。それでもそれは一瞬だけで、直ぐにその感情は激しい憎悪になり、この身体を椅子から立ち上がらせました。
『ちょ、ちょっとマックイーン?顔が怖いわよ?どれくらい怖いかと言えば昔私にちょっかいかけてきたサンd―――』
マック「ッッ!!!」ガシィ!!!
『ひゃん!!?』
桜木「マックイーンさん!!?」
白い純白のワンピース。私が着たら、きっと私とそれ、二つの良い所が丁度溶け合い、驚きの親和性を生み出すでしょう。
ですが、目の前にいる人は違います。彼女。ワンピース。そしてそれに引けを取らない。いえ、それらを押しのけ主張する二つのそれを力任せに鷲掴みしました。
マック「こんな!!!物を!!!見せつけて!!!何が[瓜二つ]よ!!!」バインバイン
『ちょ!!!やめ!!!あん.........♡』
桜木「メジロマックイーンさん!!?お待ちください!!!」ガシィ!!!
ベッドの隣で揉み合う(一方的)私に対して、彼はその両手で私の事を羽交い締めしてきました。ですがそれでも、この気持ちは収まる所を知りません。
マック「楽しいですか!!?持たざる者にこれ見よがしに見せつけて!!!ええそうでしょうね!!!楽しいでしょうねぇ!!!」
桜木「
マック「有り得ないわ!!!この目で見たもの!!!自分の行く末を!!!身長も体付きも何もかも今のままよ!!!」
ここに来て、その姿を見た時にその可能性は無くなりました。私は今と変わらず、貧相な体付きのまま歳をとるだけなのです.........
うふふ。なんででしょうかね。走るのには不要、大きければ肩が凝ったり階段が降り辛かったりと、人伝で聞けばいい事なんてひとつも有りませんのに、涙が出てきてしまう程に羨ましくなってしまいます.........
マック「どうせ.........!!!どうせトレーナーさんも大きい方が好きでしょうね!!!」
桜木「えぇ!!?い、いや!!!そんな事は.........」
マック「.........やっぱり。男の人って大きいのが好きなんですね.........!!!」
ごにょごにょと後ろの言葉をごもらせる彼を見て、私はそうなると知りつつも、悲しくなりました。結局、皆大きいのが好きなんです。私のような小さいのなんて、誰も見向きもしてはくれません。
大は小を兼ねる。そんなことわざがこの世に存在するように、私の小さいそれは、大きいそれに淘汰されて行ってしまうのです.........
マック「.........グス」
桜木「.........マックイーン。聞いて欲しい」
マック「.........?」
私を拘束していた手の力を緩め、彼は肩に手を置きました。振り返ってその顔を見た時、彼は決心を決めつつも、どこか諦めた様な、清々しい顔で私を見つめていました。
桜木「正直、これは墓まで持っていくつもりだった。けど君が、もし君が救われるのなら、俺はその墓を暴いて見せしめるつもりだ」
マック「と、トレーナーさん.........?一体何を―――」
桜木「良いかマックイーン。胸なんて、言わば取り外しの効かない付属品みたいな物なんだよ」
『「何言ってるのよ(ですか)貴方は」』
彼のその潔い発言に、私達は二人で同じように額から冷や汗をつーっと垂れ流します。どことなく彼が暴走している。そんな状態である事を知らしめてきます。
桜木「これから言うことは俺個人の趣向だから、マックイーンが救われるかは分からない。けど、俺は女の子を胸なんかで判断しない.........」
マック「トレーナーさん.........!!!」
桜木「良いかい?女の子の身体の部位で一番魅力的なのは.........!!!」
マック「え、待って待って!待ってください!絶対貴方暴走してますわ!!!これ以上は大丈夫です!!!十分勇気付けられましたわ!!!だからもう―――」
「脚だ.........!!!」
『「」』
その顔は正に、記憶の中にある彼の勇ましい顔そのものでした。彼が真剣に何か物事に取り組む時。私達に対して、自分の意見を言う時。そして、[夢を追う]時。彼はその表情を見せてきます。
今もそうです。まさか今このタイミングで、彼の趣向を聴きながらこの顔を見る事になるとは思っても居ませんでした。
桜木「脚。スラッと伸びた、細くて、綺麗で、繊細で.........」
マック「と、トレーナーさん?」
桜木「それでいてこの世に生まれたどんな人間よりも強くて、逞しくて、カッコよくて.........」
マック「.........///」
桜木「触りたい.........」
マック「へ?」
桜木「君はねマックイーン。最高の脚を持ってるんだ.........スベスベで白くて、細くありつつも骨ばってる訳じゃなくて、程よく柔らかい筋肉で形成されていて」
マック「.........」
桜木「ふくらはぎの部分を少し握ると、指と指の間から君の肌が溢れるんだ.........しかもしっとりしてるから触り心地も良い.........」
真剣な表情からどこか恍惚な物へと変貌を遂げる彼の顔。この五年間でそんな彼は今まで見た事がありませんでした.........
先程の冷や汗より、一段階程気持ちの悪い汗が背中を伝います。一歩後ずさると、彼はそれに気付居ていないのか、私の肩に置いていた手がするりと抜けていきました。
マック「.........まさか、今までトレーニング後のケアの時、脚を重点的に見ていたりしていたのって.........」
桜木「.........あっ、い、いや、今のは言葉の綾と言うか、あああ、脚フェチな訳ないじゃん!!?トレーナーだよ!!?一番そうであっちゃ行けない人間じゃん!!!」
私の言葉でようやく我に返ったのか、彼は取り繕うように身振り手振りを加え、弁明を測ります。しかし、それは思っても無いことを言ってしまった焦りと言うより、言うべきでは無いことを言ってしまったという焦りに見えてしまいました。
私はいつも彼が脚に気を配っていたのを思い出し、そしてそれが、単に心配している物では無いということを知りました.........思わずジャージの裾を引っ張り下げ、脚を隠すようにしてしまいます。
マック「っ!」キッ
桜木「ま、マックイーン.........?」
マック「さ、最っっっ低.........!!!///」
今まで彼にそんな目を向けられていただなんて、思っても居ませんでした。あまりの恥ずかしさに耐えきれなくなってしまった私は、足早にその部屋から出て行こうとしました。
桜木「待って!!!流石に皆にそんな目は向けてないから!!!」
マック「っ!!!し、知りません!!!」
桜木「あぁ!!!マックイーン!!!」
部屋の扉を開け、廊下へ出た後、私はその扉を強く閉めました。最初こそ憤りにも似た恥ずかしさがその歩を進めていましたが、十数歩ほど歩いた所で、私はしゃがみこみました。
マック(そ、そんな目で見られていたなんて.........///)
マック「.........く、くふふ.........♡」
口ではああ言ったものの、結局私は彼の言葉で十分。いえ、十二分に元気づけられてしまいました。自分でも気持ち悪いと思う笑いを噛み殺しながら、ゆっくりと立ち上がります。
まさか、今までそんな素振りをどんな女性にも見せた事は無く、恥ずかしがり屋なだけだと思っていたトレーナーさんが.........私の足だけにその様な思いを向けていただなんて.........
私.........だけ.........♡
マック(.........こ、今度プライベートで出かける時、もう少し足のラインがくっきりする物でも履いて来ようかしら.........///)
桜木「.........」
『.........行っちゃったわね』
―――力強く閉められたドア。もう暫くは開く事の無いそれをじっと見て、初めて見た彼女の取り乱し様を思い出してみる。それを思い出し、なんて失礼で、デリカシーの無い事を言ってしまったのだろうと今更後悔が押し寄せてくる。
桜木「.........嫌われた」
桜木「完全に.........嫌われちゃった.........」ポロポロ
折角.........折角仲直りしたのに.........もうきっと、口なんて聞いてくれないんだろうなぁ.........多分、俺との思い出は全部シルエットに移し替えられて、変態のレッテル貼られたマネキンが代わりに居るんだろうなぁ.........
桜木「グス.........言わなきゃ良かった.........」
『だ、大丈夫よ。次のデートの時は短めのスカートを履いて来るに決まってるわ!』
桜木「.........生足よりジーンズが良い」
『めんどくさ.........』
背中をさすられ、慰められる。それでも溢れ出した涙は止まらない。こんなくだらない事なのに、あの日からまた泣き虫に戻ってる気がする。
これから先、どうするかなんて分からない。どうすればいいのかも分からない。彼女に嫌われた今、何をすればいいのかも思い付きやしない。
結局俺は、一日眠った癖に、不貞腐れてまたベッドの上で横になるのであった.........
......To be continued