山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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逆転への布石

 

 

 

 

 

『よし!これでタキオンの足が何とかなるはずだ.........!!!感謝するぜ親友!!!グッドタイミングって奴だ!!!』

 

 

『.........自殺?そ、そんな訳ない.........だってアイツは俺に.........すげぇ大発見を教えて.........』

 

 

『違う.........キミ達の夢を壊したかった訳じゃない.........俺はただ.........タキオンがどこまで行けるのか知りたくて.........』

 

 

 悪夢だ。最初の数秒だけ見れば、それがそうだとはっきりわかる程の気持ち悪さが胸の内に込み上げてくる。

 最初に見えた希望。突然知らされた最も親しい友の自死。そして、その希望で壊れゆく夢の姿。

 手を伸ばそうにも届かない。目を瞑ろうにも瞑れない。夢の中で寝る事は許されない。夢と言うのは、見た瞬間から起きるまで、見る事を強制される。

 

 

『何でなんだ.........折角また、夢を見る事が出来たのに.........』

 

 

『.........諦めたからか?俺が.........夢をたった一回、諦めたから.........?』

 

 

『諦めなかったせいで.........他の人達が、その夢を諦めなくちゃ行けないのか.........?』

 

 

 暗い暗い、闇より深い瞳の奥。狂った色は抜けて行き、深さだけが増していく。歩いてきた道を振り返れば、思えば多くの夢を壊してしまったと嘆き始める。

 それは、俺もそうだ。俺自身は、自分の担当を勝たせる為に努力してきた。けれど、他の負けた子に対して、何かをしてあげれた事は一つもない。

 けれどその子達は決まって、俺の見てきた子達を今度は目標にしてくれた。自分達の夢の姿にしてくれた。

 では、今目の前にいる男と俺は、一体何が違うんだ.........?

 

 

「諦めなさい」

 

 

『.........』

 

 

 声が聞こえる。無機質な、少女の声。時折、節目節目に現れては消えて行く、謎の多いその声に、男は縛られて行く。

 

 

 常識に

 

 

 運命に

 

 

 レールに

 

 

 奇跡に

 

 

 それに抗う素振りも見せずに、男はゆっくりと顔を上げた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞳には、先程以上の狂気が、強く渦巻いていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ」

 

 

能面「目が覚めたか。良い夢は見れたかな?」

 

 

桜木「.........クソッタレ。テメェみてぇな男の隣で見る夢なんざ悪夢に決まってらぁ」

 

 

 揺れる揺りかごの様に不規則でありながら、心地良い振動を身体が感じる。隣に居る気味の悪い[鏡]から目を逸らし、流れる町の景色を眺めた。

 

 

 少し前、彼女に俺の秘密を打ち明けた(暴走して暴露)後、何故かこの厨二じじいに連れられて車に乗せられた。因みに行先は教えられてない。今どき子供の約束事でもどこ行くかは言うと思うが、未来は違うのだろうか?

 

 

能面「.........そんなに気になるか?何処に行くのか」

 

 

桜木「おーこれは流石元トレーナー。観察眼は曇りきっては無いようで」

 

 

能面「昔取った杵柄だな。見ようと思えば貴様の胸の内も見透せられるが?」

 

 

 でたよ。お得意の厨二病。どうせ邪眼だの魔眼だの言うんだろ?こっちは最近厨二病脱却したばかりのトゥウェンティだっての。まだまだ残ってるんだよね。[真髄]が。

 

 

能面「なるほどな。愛しの彼女に脚フェチがバレたと」

 

 

桜木「よしこの車を俺のブルーエンペラーと同じ末路にしてやる」

 

 

 隣の男はくつくつと笑いながら運転を続ける。俺は気が気でないながらも、平静を装い何とか軽口で返して見せる。

 なんで分かったんだ。落ち込んだ姿を見せても眠いとだけ返して本当に眠そうにして見せていたのに、この男は一体何を知ってると言うのだ?

 

 

能面「言っただろう?胸の内を見透せる事が出来ると」

 

 

桜木「んなもん、エスパーじゃあるまいし」

 

 

能面「その気になれば貴様も出来る」

 

 

 そう言って、男は前を見ながら徐に俺の手を握ってきた。正直男に触れられたからと言って嫌悪感も何も抱くことは無いが、この男だけには触れられたく無かった。

 一体、それで何が出来るというのだろう?まさか、相手の脈拍や体温で精密な読心ができるというのか?だとすればコイツは相当な―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[強制共鳴]が発動している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「―――ッッ!!?」バッ!!!

 

 

能面「.........ククク」

 

 

 身体の奥底から何かを無理やり繋げられたような感覚を感じた。まるで、自分の心の奥底にあるものを、鎖で繋がれ、無理やり引きずり出されたような感覚だった。

 俺は思わず思い切り手を引き、奴からの接触から脱却した。その俺の様子を横目で見て、男はまた気味の悪いように笑う。

 

 

能面「なるほどな。自分と繋がると言うのはこうも簡単だとは思っても居なかった」

 

 

桜木「はぁ......はぁ.........誰かで試したのかよ.........?」

 

 

能面「ああ。[お前の担当]でな」

 

 

桜木「っ!!!テメェ.........ッッ!!!」

 

 

 何ともない様な顔で、俺の担当達を実験台扱いしていた目の前の男に対し、俺は嫌悪感から明確な敵対心へとシフトさせた。それでも男は悪びれることも動揺することもなく、ただ淡々と運転を続けていく。

 

 

能面「そう怒るな。[これから先]必要になってくる」

 

 

桜木「は.........?」

 

 

 そう言ったきり、男はそれ以上語る気は無いというように車のオーディオを掛け始めた。その音楽は、俺も偶に聴く洋楽。QUEENの[The Show must go on]が流れ始める。

 その意味は、役者を本気で目指していれば自ずと耳に入ってくる言葉だ。[ショウは続けなければならない]。英語のことわざの様なものだ。

 

 

 ショウを続けろ

 

 

 火を絶やすな

 

 

 終わらせるな

 

 

 もがけ

 

 

 例えどんなトラブルが起きようとも、[道化師]は常に笑顔で居るものだ。

 

 

桜木(.........そうだ。役者ってのは皆、嘘つきの道化師みたいなもんだ)

 

 

 本当では無いことをまるで本当のように。知らない事を知っているように。出来ないことを出来るように振る舞う。それが役者だ。本心とは真逆であろうとも、そうであれと言われれば、そうあるべき存在だ。

 俺も、最初はそれを目指していた。トレーナーになった今でも、時折その道を振り返ろうとした事もあった。

 だけど.........

 

 

桜木(.........俺は、笑えなかったよ.........)

 

 

 あの日。嘘の笑顔が嘘だとバレた瞬間から、俺は役者じゃ無くなった。舞台に立つ資格はもう、無くなったんだ。

 そんな資格が無くなった俺の隣で、まるで見せつけるかのように笑みを浮かべる男。それは既に気味が悪いという印象から、何かを隠し、企んでいる顔に変わっていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「ええい!!キビキビ動きたまえキミ達!!!そんな事では過去へ帰れないぞ!!!」

 

 

神威「おら。お前の愛しの愛バがそう仰ってるぞ。影分身して貢献しろ」

 

 

黒津木「無理に決まってんじゃん。さては空想科学読本エアプか?本好きが聞いて呆れるわ」

 

 

 陽の光が気持ちよく降り注ぐ山の中。私達は時を超えて来た最初の場所へとやって来ていた。

 ここには、マックイーンくんとテイオーくん。そして、トレーナーくん以外の全員が来ていた。

 

 

タキオン「キビキビ動きたまえよ?今は一欠片でもあの機械の一片を集めて帰れる可能性を導き出さなければならないのだから」

 

 

オル「うぅ〜.........今日はデリバリーお休みの筈なのに〜.........ついてないっス」

 

 

フェスタ「あ〜あ。家売ったのはアタシらじゃなくて婆さんの助言だっつったのによ〜。ゲンコツだもんな〜」

 

 

トマト「オメェらが最初にアタシに抱きつかなかったのが悪い」

 

 

 賑やかな空気の中。私は溜め息を吐く。こんな事では過去に帰る事が出来るのはいつになるのだろう。

 指示を出す為のメガホンから手を離し、憂いを感じながら両手を上げ、伸びをした.........その瞬間だった。

 

 

「動くな」

 

 

全員「.........!!?」

 

 

タキオン「な、ぇ.........?」

 

 

 身体を拘束される。特段何か特殊な装備をしている訳では無い。それは背後からその己の両手のみで、私を拘束して見せた。

 普段ならばそんな事、気にすることもなく解くことは出来ただろう。だが、私はその存在にここまで近寄られるまで気付かなかったショックと、想像以上の力の強さで、上手く思考が出来なくなっていた。

 

 

「なるほど。未確認物体の確認情報が取れたと思ったが、やはり過去から戻ってきたか.........」

 

 

神威「.........何者だ?」

 

 

 それは手を緩めることは決してしない。私はその顔を見ようと視線を逸らして見たが、完全に顔を覆うようなヘルメットを付けており、その正体は見破れなかった。声もどこか、変声機を使ったようなノイズが聞こえてくる。

 そして、司書くんの質問に答える気はないというように、その場から無理やり一歩引き、私の身体の重心を後ろに傾かせられる。これでより一層、脱出は困難になってしまった。

 さて、どうするべきか.........止まった思考にエンジンをかけ直そうとしたその矢先に、一人前へと出てくる。

 

 

黒津木「.........」

 

 

タキオン「く、黒津木くん.........!!?」

 

 

「おいおい。麗しい美少女を盾にしていると言うのに向かってくるのかい?随分と冷血だねぇ。黒津木宗也?」

 

 

 普段であるならば、槍玉とも言えるであろう白銀くんが前へと出るだろうが、何故か彼が前へと出てきた。

 彼の性格は、これまでの生活で良く知っている。攻め時を知らず、引き時を知らない。攻める時に引き、引くべき所で攻める人間だ。感情の赴くままに動く人間だ。

 普段であれば、ここの場面では怖気付く筈が、前へと出ている。その姿を、私はただ見ることしか出来なかった。

 

 

黒津木「仕方ねぇから教えてやる。創は玲皇の奴ぶん殴って利き手を負傷してやがる」

 

 

神威「あら。バレてら」

 

 

黒津木「翔也は自分がこっちで自殺してるって知って完全に意気消沈してる」

 

 

白銀「シンデル.........オレシンデル.........」

 

 

「.........」

 

 

 親指で指を指された司書くんはその右手をプラプラと見せる。そして人差し指で差された白銀くんは何かをブツブツ呟いている。まさかあの時の事を今も引き摺っているとは思わなかった。

 

 

黒津木「だからよ。俺が出るしかねぇんだよ」

 

 

黒津木「好きになった女一人守ろうとしねぇんじゃ、漢としちゃド三流以下だぜ」

 

 

「おやおや.........これは想定外だよ」

 

 

 ゆっくりとこちらに近付いてくる彼の姿。その表情に、今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じてしまう。その真剣な表情と眼差しが私の姿を捉えるように見つめてくる。

 もしかしたら、これがいつも彼女がおかしくなる原因なのだろうか.........?だとしたら、そうなってもおかしくは無い。それ程までの心臓の鼓動。その大きさとスピードを確かに感じている。

 そして、彼が近付くに釣れ、私を拘束している存在も一歩後ずさる。やがて彼の手が伸ばされ、届こうとした瞬間。それはパッとその手を離した。

 

 

「降参だ!!いやー参った参った。少々イタズラのつもりが、変な物を見せられるとは.........」

 

 

全員「は.........?」

 

 

ゴルシ「悪趣味もいい所だぜ。[博士]?」

 

 

 私は拘束が解かれた瞬間。即座に彼の元に駆け寄った。私を守るように片手で防御をしつつ、その目はその存在へと向けられる。

 ゴールドシップくんがやれやれと言った様子でそれに近付き、その顔の見えないヘルメットをコツンと叩いて見せる。

 それに対して、そうだったとでも言うような反応を見せたそれは、おもむろにそのヘルメットを頭から外した。

 

 

全員「な.........!!?」

 

 

「初めまして。名前は.........もう知っているだろう?呼び方は彼女の様に[博士]と呼びたまえ」

 

 

 ヘルメットを外して現れるウェーブの掛かった癖のある長い栗毛。変声機の機能は無くなり、その声は私がよく聞く物と同じになる。そして懐から眼鏡を取りだし、その濁った瞳の前にレンズを置いた。

 

 

トマト「あー。アンタがうちの孫を誑かしてアタシらが過去に行かなくちゃ行けなくなった原因だな?」

 

 

博士「如何にも。彼女はその類稀なる冒険心と探究心でトレセン学園へ秘密裏に出入りしていた私を見つけられてね。誘い込んだんだ」

 

 

テイオー「そ、それで家族ごと過去に飛ばしちゃったの!!?」

 

 

タキオン「.........なんで私の方を見るんだい?うん?」

 

 

 今は博士と呼ばれる者の話をしていると言うのに、テイオーくん含めた数人が私の方を見てくる。正直言ってあまりいい気分では無い。

 

 

博士「いや。流石に証拠隠滅の為に過去に飛ばす訳ないだろう。悪いのはあの無口無味無臭無趣味スーパー愛妻家で一度死んで戸籍も無くなった悪役好きな男渾名はモルモット未満のせいだ」

 

 

タキオン「待て待て待て待て、あの能面はそんなキャラなのかい!!?」

 

 

博士「キャラと呼べる程の個性がある男だと現役時代は思えなかったけどね」

 

 

 彼女はそう言って、どこか懐かしむ様子を見せながら、その表情からは寂しさを感じ取れた。彼女の記憶と私の記憶はやはり、とても大きな違いがあるのだろう。

 はぁ、と言うここに来て何度も聞いた溜め息を、自分の意思とは関係無く、自分では無い者から聞こえて来る。それでもそれは、戻れない過去に思いを馳せる自分に向けた呆れだと、何故か分かってしまった。

 

 

博士「立ち話もなんだ。ラボに移動しよう」

 

 

デジ「ら、ラボですか?」

 

 

フー「昨日行った所だよ!デジタルさん!!」

 

 

博士「ああ。それと、なるべく早急に行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「政府に目を付けられているのは、事実だからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 ゆっくりとした時間の流れを感じる見慣れた廊下。そこをテイオーと並んで二人で歩きます。

 

 

テイオー「ねぇマックイーン。話ってなんだろうね?」

 

 

マック「さぁ.........面白い人も呼んでいると聞きましたけど、それ以上は.........」

 

 

 時刻はお昼頃。彼女に話があると言われるまでは、私もあのタイムマシンの破片を集めに行こうと思っていましたが、未来の技術で歩行出来るとはいえ、今はまだ病に犯されている。

 そんな状態で同行させるわけには行かないとタキオンさんに強く言われ、テイオーを見張りに付けられた次第です。

 

 

 今向かっているのは、過去と同じ部屋割りならば、客間となっています。隣に歩く彼女と暫し無言の状態のまま、その扉の前まで歩いてきました。

 ゆっくりと息を吐き、その手を挙げ、四回。扉にノックをしました。

 

 

「どうぞ」

 

 

二人「失礼します」

 

 

 私がその扉を開け、中の様子を見ました。そこには記憶通りの洋室は無く、外の内装には似つかわしく無い、畳張りの和室になっており、目の前には黒い洋服に身を包んだ彼女が座っておりました。

 

 

「どうぞお座り下さい。正座も崩しても構いませんわ」

 

 

テイオー「あ、ありがとうございます.........えっと」

 

 

「.........?ああ、そういえば、呼び方をまだ決めていませんでしたわね。私の事は[当主]と呼んでくださいまし」

 

 

マック(.........やっぱり。そうなのね)

 

 

 自らを当主と呼ぶように言った彼女。この家の中での立ち振る舞いから薄々勘づいていたことでしたが、そう言われて最早納得せざるを得ませんでした。

 彼女はこの未来において、[メジロ家当主]の肩書きを背負っている。そして、その肩書きに押し潰される事など無いほどに、確かな存在感がその身から滲み出されていました。

 

 

当主「この部屋はこの館に終ぞ慣れる事が無かった主人の為に作ったんですの。建物の外観と他の内装と比べて浮いてはしまいましたが、私も気に入っておりますわ」

 

 

マック「まぁ、そうだったのですね。過去に戻ったら私もおばあ様に進言してみようかしら?」

 

 

 この部屋は、彼女が彼の為に作ったもの。そうと知ったら、合点が合いました。いくら和室が落ち着くと言っても、私が当主になったからと言って、ここまで大胆な事はしませんから。

 帰った時のその提案をどうおばあ様に出すか。その思案をしていると、隣に座るテイオーの視線が私と彼女。交互に訝しげに見ていました。

 

 

マック「.........あの、何か?」

 

 

テイオー「べっつに〜?ただマックイーンてサブトレーナーの事。大大、だ〜い好きなんだな〜って」

 

 

二人「.........っ!!!///」ボフン!

 

 

 何かが身体の奥底で爆発する様な音が聞こえてくるのと同時に、顔が酷く火照り始めました。そしてそれはどうやら、向かいに座る彼女も同じようで、二人して顔を赤くしました。

 私がテイオーに対して何かを言おうとした瞬間。突然テーブルを叩く音が聞こえてきました。

 

 

当主「違います!!!違いますからね!!?」

 

 

当主「誰があんな無口で無頓着で誰に対しても仮面を被ったりするような男性を好きになるもんですか!!!」

 

 

当主「確かに語らない中で優しさを感じたり、自分なんてどうでもいいと言うような危うい考えを持っていてつい守りたくなったり、家族となってから本当は面白い姿も悪くは無いなと思いますけど!!!」

 

 

当主「誰が!!あんな!!男性を!!好きになるもんですか!!!」

 

 

 まくし立てるように言葉を吐いた後、彼女はそのテーブルを言葉を切るのと同時に強く叩きました。

 テイオーは既に最初の方から耳を塞いでおり、私は呆気に取られて呆然と彼女の取り乱し様を見ていました。

 大きな声を出し、息を切らした彼女はそれを整いきるのを待たず、私の方をキッと睨みつけてきました。

 

 

当主「貴女はどうなんですの!!?あんな良く分からない人のどこが好きなんですか!!!」

 

 

マック「!!?す、すすす、す〜〜〜!!?」

 

 

テイオー「おー!!いいじゃんいいじゃん!!言っちゃいなよマックイーン!!」

 

 

 突然何故か私の方に彼への思いを言うように振られました。そしてそれに何故か乗り気のテイオーが、私に目をキラキラとさせながら迫りより、彼女も顔を赤らめたまま、目を細めて顔を寄せます。

 

 

マック「か、彼は.........トレーナーさんは.........」

 

 

『いや、あげるよ。元々君の為に作ったんだから』

 

 

 彼は、超が着くほどのお人好しです。誰かが困っていたら、手を差し伸ばしてしまう。それが例え、自分のやってこなかった分野でも、出来る限りをしてしまおうとするほどの。

 

 

マック「優しくて、でも.........」

 

 

『夏は合宿!!!』

 

 

 時にその優しさとは無縁のハチャメチャさで、私達を引きずり回す。けれどそれが、私を[メジロのウマ娘]という重圧から手を引き、[一人のウマ娘]として立ち振る舞える。

 

 

マック「周りを巻き込むような、それでいて.........」

 

 

『勝って来い。マックイーン。一着で待ってる』

 

 

 それなのに、何故か私が帰る場所を.........皆さんが帰ってくる場所を、絶対に守ってくれる。そんな気にさせてくれる様な.........強い―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――強い?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れてごめーん!!」

 

 

二人「!!?」

 

 

 疑問が湧き始めたその瞬間。この部屋の入口が勢い良く開けられました。そこには、息を切らした白衣を来たウマ娘の少女が立っていました。

 

 

「急に患者さんが来てさー。ボク対応しなくちゃ行けな.........くて.........!!?」

 

 

マック「て、テイオー.........!!?」

 

 

テイオー「お、面白い人ってまさか.........!!?」

 

 

当主「ふふ。この時代では、私の主治医として腕を奮っています。[名医]とでも呼べば、混乱しないでしょう?」

 

 

名医「え、え!!?ど、どどどどういうことなの!!?マックイーンまたゴルシが変な事したの!!?」

 

 

 混乱した様子を見せる未来のテイオー。そして私の隣で同じように混乱している現在のテイオー。慌て方がまるっきり一緒な所を見ると、時間が進んでいないのでは無いかという錯覚に陥ってしまいます。

 そんな彼女に状況を説明する当主。やはり、この時代でも持ち前の要領の良さで話を飲み込み、名医は当主の隣に座りました。

 

 

名医「そっかー。キミ達過去から来たんだね〜」

 

 

当主「過去、と言っても。私の主人がチームを運営していると言う想像も付かない世界ですけどね」

 

 

名医「.........ねぇ。聞かせてよ。過去の話」

 

 

 そう言って、名医は楽しげな表情を見せながら、その目はどこか寂しげな様子で、私達を見てきました。そして当主も組んだ両手の上に顎を乗せて、退屈そうな表情を見せてきます。

 私達は二人、顔を見合せながらどこから話そうかと、困惑しながらも、その口を開いていきました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

能面「着いたぞ。降りろ」

 

 

桜木「.........」

 

 

 車のエンジンを切り、シートベルトを外して外へと出る男。乗り気じゃないながらも、俺もそれに従うように鼻を鳴らしながら車を降りた。

 どこへ行くのだろう?そう思い、車の鍵を掛ける奴の姿を見ていると、すぐそこだと言うように顎をその方向に上向かせた。

 

 

桜木「.........病院?」

 

 

 少し離れた大きい建物。そのてっぺんには総合病院と書かれた看板が良く見える。しかし、車を止めるならそこの駐車場に停めればいいはずだ。なんでわざわざ少し離れたこんな所に.........

 

 

能面「俺は死んでる事になってる。幸いあの病院はうちの傘下でね。俺が生きている事を知っているが、一般には知られていない。だから裏口から入る」

 

 

桜木「.........すげぇな。あの会社そんなでかくなってんのかよ」

 

 

能面「俺の妻はウマ娘の名門の出だ。影響力も権力もある。利用するような形をとってしまったが、多くを救うのには役立った」

 

 

 そんな下世話な話をする奴の顔は、どこか苦しげであった。しかし、自分でも柄にも無いと思ったのだろう。男はそこまで言って頭を振り、スタスタと先を歩き始めた。

 

 

 .........多くを救う。どちらかと言えば、その妻の名を利用した事より、そこに嫌悪を感じた様な気がした。それが何故なのか、俺には分からない。

 

 

 俺の前を歩く男。事実、俺より前を歩いてきた男は突然、その歩みを止め、俺の方を振り向いた。

 

 

能面「.........一つ、聞いていいだろうか?」

 

 

桜木「.........?」

 

 

能面「お前は多くを救えたり、彼女を救えるのなら、俺と同じ道を辿りたいと思うか?」

 

 

 そう言われて、俺は答えられなかった。なぜ、今こんな質問をされたのか、理解出来なかったからだ。

 道路を走る車が、俺達を横切る。40年経ったであろう今のこの世界でも、車は空を走る事はなく、4本のタイヤに縛られて地面を行く。

 

 

桜木「.........そりゃ、もしマックイーンを助けられるなら.........俺はそうするさ」

 

 

能面「.........はぁ、そうか」

 

 

 俺の言葉を聞いた男は、残念そうな顔を見せた後、また俺に背を向けて歩き始めた。

 

 

能面「思えば。[お前]には裏切られてばっかりだったのにな」

 

 

桜木「っ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「期待した俺がバカだった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に、俺は何も言い返せなかった。それは、俺が俺自身にいつも感じていた事だったからだ。

 期待外れの欠陥品。一体何度、俺が俺でなければ良かったと思った事か。俺でさえ無ければ、周りの人に迷惑を掛けてこなかったんじゃないか。俺の期待通りになってくれたんじゃないかと常々思ってきた。

 

 

桜木(.........はは、期待外れか)

 

 

桜木(確かに、そんなんじゃ[皆が望む役者]には.........なれねぇよなぁ)

 

 

 自分の期待にも応えられない。そんな男が、誰かが望んだ[役]になりきれるわけが無い。じわりと悲しみが胸に広がりながらも、俺はどう転んでも夢を叶えられないという納得があった。

 

 

 そんな静寂の中、病院の裏口へと辿り着いた。男は懐からカードを取りだし、暗証番号を入力してから窪みに差し込んだ。

 鍵が開く音が聞こえてから、それを回収する。扉を開けて先行く男に置いてかれないよう、俺もその後に続いた。

 

 

桜木「.........誰に会うんだ?」

 

 

能面「合えば分かるさ。そしてさっきの答えもすぐ否定する事になる.........楽しみだな」

 

 

桜木「.........俺、お前の事嫌いだわ」

 

 

能面「奇遇だな。俺も今が原始時代なら即刻殴り殺している所だ」

 

 

 エレベーターのボタンを押し、中へと入る。7のボタンを押して扉を閉めると、静かながらも確かにそれが上がっていくのを身体が感じ取る。

 一体、誰に会うというのだろう?無言の密室で、ヒントも何も無い問題を自分なりに解いてみるが、何も決定打は思い浮かばない。

 

 

 やがて、目的の階に着いた事を知らせる音が鳴り、扉が開く。先に男が出て、また俺がその後を追う。最初に目が飛び込んできたのは、[外科:ウマ娘]という文字だった。

 

 

能面「行くぞ。約束はして居ないが、急がなければ時間がもったいないからな」

 

 

桜木「待てよ。誰に会うんだ」

 

 

能面「だからそれは「良いから答えろッッ!!!」.........」

 

 

 なりふりなんて構っていられなくなった。病院に入院している人に会う。それだけでも心苦しかったのに、それがウマ娘ともなれば話は別だ。

 大声を出して、俺は奴に迫る。幸い、人目が無い通路だったが、きっと人目があったとしても、俺は同じように大声を出しただろう。

 それでも奴は、その顔を見せるだけで何も言う事はなく、また俺の前を歩いて行った。

 

 

桜木「っ.........クソっ」

 

 

 誰だ。一体、誰に会おうとしてるんだ。気が気でない中、刻一刻とそのタイミングが迫ってくる。時間は止めることは出来ない。俺には、ただ前に進むことしか出来ない。止めることも、戻ることも.........

 

 

 一歩。また一歩近付く度に、悲しい空気が漂ってくる。ここはそういう場所だ。ここに来ると知った時から半分、気付いていたじゃないか。

 

 

能面「ここだ」

 

 

桜木「.........普通、誰がここに居るか表札があんじゃねぇの」

 

 

能面「プライバシーの保護でね。生き難い世の中になったものだ」

 

 

 皮肉を言って、男はその扉を横に開き、中へと入って行った。俺も、そうする覚悟を決めて、少し遅れて中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚悟は決めた.........その、筈だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........お久しぶりです。桜木さん」

 

 

桜木「―――っ」

 

 

「一ヶ月ぶりですね.........?その方は?」

 

 

 そこに居たのは、[二人]のウマ娘だった。一人はベッドに横たわり、もう一人は看護師の制服を着て、花瓶の水を取り替えていた。

 その様子は、[俺の見てきた姿]と何ら変わりはしない。もし、少しでも変わっていてくれたら、二人が誰なのかを少し考え、落ち着けていた筈だった。

 でも、俺は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライス.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、その名を。俺の事を知る事は無い、彼女の名前を、口から出してしまったのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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