山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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夢の中へ

 

 

 

 

 

桜木(.........)

 

 

 身体が暗闇の中、どこかへ向かって落ちて行く。それに気付いたのは、身体の感覚や目からの情報ではなく、胸騒ぎからだった。

 どこに向かっているのかは分からない。時折長い入り組んだ管の中を通るように右や左、上や下に体を無理やり方向転換されるが、それは確かに、何処かへ向かって行っているのが手に取るように分かった。

 

 

桜木(なんか、ゲームのゲームオーバーみたいな場所だな.........)

 

 

 真っ暗闇の中、為す術もなく、飛んでいる訳でもない。緩やかに底へ向かっている間、本当にゲームオーバー画面の様な状態で身動きは一切取れなかった。

 

 

 しかし、それもやがて終わりに近づく。向かっている先に顔を向け、目を細めると、小さいゴマ粒が[5つ]。近付くにつれ、それが見知った顔と、そうでは無い事が徐々に分かって行った。

 

 

 そして地面へとゆっくり降り立つ。倒れ伏している4人は確かに知っている顔だ。だが、それらを見下すようにしている少女だけは、今まで会ったことのない人物だった。

 

 

「.........してやられたわね」

 

 

桜木「.........ここはどこだ。コイツらに何をした?」

 

 

「何もしてないわよ。勝手に現れただけ」

 

 

 その姿を見て、最初に分かったことは彼女は[ウマ娘]であるという事だった。白毛のロングで、眠たそうな無表情の仏頂面の、それでいてとても生き物の物とは思えない[圧]が、感じられた。

 その少女は可愛らしい見た目によらず、ぶっきらぼうにそう言い放つと、ため息を吐きながら意識を集中させるようにその目を閉じた。

 一体何が始まるというのか?そんな疑問も、次の瞬間には吹き飛んだ。

 

 

 青白い炎の様なオーラが視覚化する。それは、時折見るそれと全く同じ物を感じさせるオーラだった。

 風に揺れるロウソクのように一瞬だけ激しく揺れると、その威圧がこちらへと向かってきて、俺は両手で顔を守った。

 そして他の奴らもそれに当てられ、跳ね起きてから周りの状況を確認し始めた。

 

 

神威「うおっ!!?なんだここ!!?」

 

 

黒津木「ただの夢.........って訳じゃ、無さそうだな」

 

 

白銀「.........」

 

 

能面「.........久しいな。[名も無き女神]よ」

 

 

 この圧の中、ただ一人だけ眠たげに欠伸をしてからその少女の事を呼ぶ。そしてそれに対し、彼女は嫌悪感をその表情に強く表して男を睨み付けた。

 

 

「何をしたの?呼んだのは彼だけなんだけど?」

 

 

能面「何、俺とコイツは全てが同一存在。重複IDの様なものだ。二人でありながら一つとしか認識されない。ソイツらは保険だ」

 

 

桜木「おい、まさかお前.........」

 

 

能面「ああ。俺の仕業だ。最もお前の方は[元からこうなる]予定だったのだがな」

 

 

 ニヤリと笑う横顔。その姿を見て、俺は心底恐ろしくなった。この男は一体、何を見て、何を目指しているのかが全く分からないからだ。

 

 

能面「俺ァ昔っから、テメェの夜泣き見てぇな声に散々悩まされたんだ。その理由も分からずに世界を救って自分は救われない。そんな英雄宜しく[よくある人生(ビターエンド)]で終われる程賢くねェ」

 

 

「.........まさか、わざわざそれを聞く為だけに?」

 

 

能面「フッ、テメェが全部を知る必要がどこにある?俺はされた事は全部仕返ししなきゃ気が済まない質なんでな」

 

 

 威圧同士がぶつかり合う。女神は相も変わらずその青白い炎を纏っているが、それを意に介す事はせず、男はただただそれを見つめる。

 やがて、その男の曲がらなさに折れたのか、女神は溜息を吐き、その炎を身の内に納めた。

 

 

「.........何が聞きたいのかしら?」

 

 

能面「全部だ。何故俺だったのか。お前は何者なのか。何がしたいのか。本当にこうならなければ行けなかったのか」

 

 

「欲張りね。まぁいいわ。私のテストに[100点]を取ってくれたご褒美をあげる。そっちの彼は、[0点]だけど」

 

 

能面「抜かせ。どっちも[0点]だ」

 

 

 目の前の謎の存在。女神と呼び、それを否定することの無いそれに物怖じすること無く、逆に気味悪がらせる男。そんな目の前の状況に、俺達は着いてこられない。

 そんな俺達にお構い無しに、その存在は静かに口を開いた。

 

 

「まず、順を追って説明してあげる。私が何者で、貴方達にとっての何であるのか.........」

 

 

 そう言って彼女は、指を鳴らして姿を徐々に消して行った。そしてその声が次に聞こえてきた時には、それは耳ではなく、頭の中で響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界は言わば、鏡のような世界。本物そっくりな箱庭で、ここにはあっちにあるものはあり、無いものは無い。

 [たった一つの例外]を除いて.........

 

 

桜木「っ!!?なんだ.........!!?景色が!!?」

 

 

 ここは夢の世界よ。だから景色も人物も全て自由のまま映し出せる。この景色は、私がこの[人の姿]になる前に居た場所。

 広がる草原、風が吹いて、緑が綺麗で陽の光も心地好い、正に私の思い描いていた理想郷そのものだった。

 

 

 [アレ]が現れるまでは.........

 

 

『〜〜〜!〜〜〜?』

 

 

黒津木「なんだ.........?人間と、動物.........?」

 

 

神威「んな訳あるか、人間は兎も角、あんな生き物図鑑ですら.........」

 

 

 そう。[この世界]には決して存在しない。痕跡すら残って居ない。あの動物はここに来る前の[私]。そして、あの人間共に面白半分で殺された後、骨として後世で見つかった私はこう言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界最古の[馬]、と.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人「ウマ.........!!?」

 

 

 ええ。これがこの世界の真実。あの生き物こそ、この世界に生まれるウマ娘の根幹的存在。私は名前の無い、ただの馬として認識された。

 

 

桜木「ま、待ってくれ!!!お前がウマなのはわかった!!!じゃあマックイーン達は.........!!?」

 

 

 ええ。あっちの世界では私と同じ姿で存在していたわ。メジロマックイーン号。人間達からそう名前を付けられ、短い生涯の大半を走る事に捧げられた、[悲劇の名優]。

 

 

 私はそんな同胞達の姿を何度も見てきた。ただ初めて見つかり、種族の名前をつけられたと言うだけで神格化され、人々の間で密かにその存在を信じられてきた。

 

 

 けれど、見ているだけで何も出来やしない。私は何も出来ない事を歯がゆく思った。それでもチャンスは必ず巡ってくる。人々が馬に対して並々ならぬ思いを起こす時、決まって私には力が集まる。それを利用しようと思った。

 

 

 シンボリルドルフの七冠。オグリキャップのラストラン。メジロマックイーンの天皇賞。トウカイテイオーの有馬記念。スペシャルウィーク達のせめぎあい。テイエムオペラオーの世紀末。ステイゴールドの海外勝利。ディープインパクトの七冠。

 

 

 もっと多くあるけど、特に強かったのはこの時。人々の思いが、私の中に流れ込んでくるのが分かった。

 

 

 そして私はそれを利用して、この新しい世界を作ったのよ。

 

 

白銀「.........ぶっ飛んでるっつうレベルじゃねぇな」

 

 

 それが真実。おめでとう貴方達。この事を知っているのは今は貴方達だけよ。

 

 

能面「歳をとると昔話が好きになると言うのは本当らしいな。実に下らん」

 

 

 .........なんですって?

 

 

能面「こっちはそんなどこにでもありそうな世界の真理なんざどうだっていいと言っているんだ。さっさと本題へ移れ。眠くて適わん」

 

 

 .........ふふ、そう。そんなになんで貴方が選ばれたか知りたい?良いわ。教えて上げる。

 

 

 特別な理由は何も無いわ。ただ貴方なら、そう思っただけ。

 

 

桜木「っ、ふざけんなよ.........!!!そんなんで人一人の人生玩具に「まぁそうだろうな」.........は?」

 

 

 あら。以外に飲み込みが早いのね。もう少し取り乱すと思ったのだけれど?

 

 

能面「バカ言え。俺には適性があった。だから選ばれた。俺以上が居ればそっちに行っていたはずだ」

 

 

 そう。流石私が選んだ[主人公(ヒーロー)]。物分りが良くて助かるわ。そっちの彼はそうでも無さそうだけど.........

 

 

能面「仕方あるまい。俺とて日々の出来事にリソースを割いているのならばまだしも、全て繰り返.........いや、なんでもない」

 

 

 あらそう?では続けようかしら。私の目的。そうね。端的に言えば―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――復讐よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 ―――怒気を孕んだ声。復讐というその言葉には、嘘偽りは一切感じられない。この女神は、何かへの復讐の為に俺を利用している。それだけは、ハッキリと分かった。

 

 

白銀「物騒な話だな。誰に復讐するって?」

 

 

「全人類。当たり前でしょう?」

 

 

桜木「あ、当たり前って.........」

 

 

 サラッと規模のでかいことを言ってのける。やはり女神というだけあり、人間のそれとは全くスケールが違う。

 その軽々しく発せられた重々しい言葉に、俺達四人は旋律を覚えた。それでも男は興味が無さそうに見える。

 

 

「この世界を作る時、人間は要らないと思った。その方が[私達]が伸び伸びと暮らせると思ったから」

 

 

「けれど、あっちの世界から私の同胞の[魂]を連れ込もうとした時、大多数が言ったのよ」

 

 

「[人間が欲しい]。[居なきゃやだ].........ってね」

 

 

 地獄残念そうにそう言った女神。そしてまた唐突に指をならす音が聞こえると、目の前にまた、[ウマ]という生物が現れた。

 

 

「理解に苦しんだけど、同胞が居ないのならこの世界を作った意味が無い。だから人間も作ったわ」

 

 

「そして、今度は良いように利用されないよう、私も[対策]を取った.........」

 

 

桜木「.........!!!」

 

 

 対策。女神がそう言った瞬間。ウマの姿がみるみる内に変貌を遂げて行く。俺達の見知った姿に、形に、先程のウマらしい面影を残したままの少女.........[名も無き女神]へと変貌を遂げた。

 そして見せられたホログラムの様なそれから、少女が地面へと降り立ち、俺達の方を向く。どうやらようやく、実体になったらしい。次に聞こえてくる声も脳に響く物から、肉声が耳を通る物になった。

 

 

「0から作るのは骨が折れる。けれど[素体]さえ有れば後は勝手に増えるだけ。だから私は私自身を[始まり]にした。かつてと同じように.........」

 

 

「そして、人間と接触した。純粋に人間を知る為に記憶を消して誕生したのよ。これから先、どう復讐するかの経験としてね.........」

 

 

「.........でも。そうね、[悪くない]気分だった」

 

 

四人「.........え?」

 

 

 そう言った女神は、どこか懐かしそうな表情で何も無い空を見上げる。その姿に俺達は困惑した。男も意外そうな顔で、出し掛けていた欠伸を噛み殺した。

 

 

「初めて人間に触れた。人間という生物。[動くだけの物]じゃない。[高い思考能力を持ち動く者達]。それに私は、触れたの」

 

 

「その中には、あの子達が欲しい。居なくては行けないと言う理由が分かる存在も居たわ.........」

 

 

 優しい微笑みを浮かべながら、彼女はそう言った。だと言うのに。そんな穏やかそうな様子なのに、彼女の周りにはまだ不穏な雰囲気が漂っている。俺達はそれを敏感に感じ取っていた。

 

 

「.........でもね。大半はやっぱり滅ぼすべき存在だった」

 

 

「悲しいけれど、その大半の中にはそこに含まれない者の家族や友も居る。一緒に絶滅させてあげることこそが、優しさでもあると思った」

 

 

「だから滅ぼすの。今度こそ私達の理想郷を作り上げる為に」

 

 

 滅茶苦茶だ。なんて、とても言えなかった。彼女には彼女なりの信念があり、それは俺達には到底崩す事の出来ない強固な物だと察したからだ。

 何も言えない。何かを聞くことすら出来ない。俺達はただ黙って、次を待つしかない。女神の次を.........

 

 

能面「さて。そろそろ眠気を覚まそう。何故貴様はそこまでこの結末にこだわる?」

 

 

「.........言っている意味が分からないわ」

 

 

能面「とぼけるな。貴様は以前言ったであろう?[過去に戻っても私は気付く]と」

 

 

「.........そんな事、言ったかしら?」

 

 

 本気で考えるような素振りを見せ、顎に手を当てる女神。しかし、結局は思い出せずに終わり、その思考を放棄した彼女は能面の男に近付いた。

 

 

「そうね。覚えてないけど、どこかで言ったかもしれないわね」

 

 

「その通りよ。私は過去での[改変]が起きた瞬間。それを察知できる。神だもの。自分の作った物がどう動くか良く見ておきたいわ」

 

 

「.........でもね。良い事を教えて上げる。今まで幾度も分岐ややり直しはあったけど、全部一つの道に合流してるの」

 

 

「だから貴方がどう足掻いた所で、もうこの結末は変えられない.........折角だし、私の未来予想図でも聞いていく?」

 

 

能面「それは良い。是非聞かせてもらいたいな。君は[ご都合主義の引導役(デウス・エクス・マキナ)]になり得るのか.........」

 

 

 [デウス・エクス・マキナ]。それは舞台や創作で用いられる単語だ。脚本家がごちゃごちゃになったストーリーを終わらせる為に降って湧かせる神。機械仕掛けの神とはよく言ったもので、人の上に立っているとされながら、この世界では一人の都合でその力を奮ってくれる。

 だが、目の前に居るのは本物の存在。しかも俺達人間を絶滅させようとする存在だ。それが薄気味悪い笑みを浮かべる姿を見て、とてもよくある陳腐な大団円を迎えられるとは到底思えなかった。

 

 

「そうね。シナリオはこう。ある一人のウマ娘が、現代社会に置ける自分達のあり方に疑問を持つ」

 

 

「やがてそれは一人から複数になり、大多数へと変わっていく。そして、貴方の経営する組織を乗っ取るわ」

 

 

「行く行くはそこに居る男の医学知識と、そこに与えた[天啓]を使って、自分達だけで生きられるようになる」

 

 

神威「.........は?」

 

 

 女神の言葉に反応したのは、神威だった。俺達は皆、ぶっ飛んだ話を聞かされて脳が停止していたが、コイツだけは何かを聞いて、運転が再開したらしい。

 そして徐々に思考が理解に追いついて行く。愕然という言葉が似合う程に、今の神威は何か絶望に打ちひしがれていた。

 

 

桜木「お、おい!どうし.........」

 

 

神威「その[天啓]って.........まさか」

 

 

「?ああ、そうね。貴方の想像通り。確か貴方が付けた公式名は[ウマ娘筋力比例計算式]。それは貴方に授けた私の知恵よ」

 

 

黒津木「.........じ、冗談じゃねぇ」

 

 

 有り得ない。有り得るはずも無い。それは俺がトレーナーになる事が出来たと言っても過言では無いたった一つの要素だ。それが最初から.........仕組まれていたって言うのか?

 膝が地面に着く。気がついた時にはもう、足に力が入ってくれなかった。

 

 

桜木「.........なんだよ」

 

 

桜木「じゃあ.........俺がトレーナーになったのも.........全部.........?」

 

 

「ふふ、少しサービスしすぎたかしらね?」

 

 

 寒気を覚えるような笑いを零し、俺を見下げる女神。冷たい感覚が身体を支配し始める。結局俺は、掌の上で踊らされていたに過ぎないんだ。

 そうだ。最初から仕組まれていた。あの子達に会うのも、今日この時までの道のりも、苦労と感動も全部、コイツにとっては予定調和に過ぎず、それを知らない俺達は、それを偶然や奇跡だと勘違いして、一喜一憂していたんだ.........

 

 

「その後、ウマ娘達は人の手から離れて行く。真の意味での自立。彼女達が最も彼女達らしく、伸び伸びと自由を謳歌する世界が訪れる.........」

 

 

「まぁ、長い目で見るわ。そんなすぐに人間は滅びないから。私が滅ぼすけど」

 

 

能面「.........やはり。俺にとっての[デウス・エクス・マキナ]には成り得ぬか」

 

 

 俺の背後で、何度目かも分からない溜息をついた男。姿は見えずとも、酷く落胆しているのが良く分かる。

 そして同時に、男からは強い苛立ちを感じた。その苛立ちの勢いのまま頭を強くかいたがそれでも収まらない。次に聞こえてくる声には、それを包み隠そうとしていない物が聞こえて来た。

 

 

能面「それは自立では無い。孤立だ。お前は彼女達の意志を尊重していない」

 

 

「そうよ?私が尊重しているのは私の意志。それに文句を言われる筋合いは無い」

 

 

能面「.........チッ」

 

 

 開き直り。いや、そもそも閉じている訳では無かったからそれもおかしいだろう。それでも男はそれ以上の反論が出来ず、苦し紛れの舌打ちをする。

 にも関わらず、男はその口を直ぐに開いた。

 

 

能面「そろそろ教えろ。テメェはなんでコイツを呼んだ?[俺]ではなく、[コイツ]を」

 

 

「.........」

 

 

 俺の前へと躍り出た男。真っ直ぐと伸ばした人差し指。その先には俺が居る。確かに、[同じ存在]である筈なのに、俺だけが呼ばれるのはおかしな話だ。ましてや、状況把握や理解能力の高さから言ったら、この男の方が高い。無駄話もせずに済んだだろう。

 それを聞かれた女神は、今度は先程の男が取っていた退屈そうな態度を見せ始める。長い白髪に指を巻き込み、クルクルと流し始める。

 

 

「.........飽きたのよ」

 

 

「もう飽き飽き。人間は変わらない。良く分かったわ」

 

 

白銀「っ、んなわけねェだろッッ!!!ライスの天皇賞見てねェのかッッ!!!」

 

 

桜木「っ.........!!!」

 

 

 そうだ。あの日確かに、人は変わった。変わる事が出来たんだ。俺はそれを確かに目の当たりにし、肌で感じとる事が出来た。あれは正しく、変化と呼ぶに相応しいものだった筈だ。

 それでも女神は、まるで俺達が分かっていないと言うように首を振った。本質をまるで分かっていないとバカにする様に。

 

 

「あんなの一瞬じゃない。永遠には程遠いわ」

 

 

黒津木「だったらその一瞬一瞬を積み上げて行けば良いだろッッ!!!」

 

 

「だから、意味が無いのよ」

 

 

神威「意味が無い事なんて.........そんなのやって見なきゃ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしてッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒステリックな声が響き渡る。先程まであんなに余裕を見せていた存在が、徐々に堪えきれなくなり、遂にはそれを爆発させた。

 肩で息をしながら、整えた前髪でその両目が俺達から見えなくなるように、浅く俯いた。

 

 

「もううんざりなのよ。そんな[いつか]を待つのは.........」

 

 

「それに人を変える人を変えるって、貴方達が頼るのは人じゃなくて、いつも決まって[私達]じゃないッッ!!!」

 

 

「飽き飽きよ。利用するだけ利用して、使えなくなったら捨てるように手を離す。今までそんな同胞を何人も見てきた.........!!!」

 

 

「変わっても一瞬よ!!!永遠を生きない人間はやがて世代が変わるッッ!!!そうなったらどうなると思う!!?全部リセットなのよッッ!!!」

 

 

 悲痛な叫びが痛々しい程に耳に響く。その声に籠った感情を今まで、どれだけの時間と苦悩を掛けて積み上げられてきたのか、俺達では到底理解に及ばないものだ。

 それでも、その様子を想像するのは容易だった。たとえ一個人が変わったとしても、種族としての変化には程遠い。たとえそれで変われたとしても、次の世代も変わった状態かと言われれば、それは違うと言うしかない。

 

 

「だからもう決めたの。未来なんかに期待しないで、もう確定させちゃおうって、覚悟を決めようって」

 

 

「だってその方が楽でしょう?迷いを振り切って信念に従う.........貴方。そういうの好きでしょう?」

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 迷いのない覚悟。その生き様は潔く、綺麗だとすら思える。それは正に、俺の憧れる[悪役]の生き方だ。

 認める訳には行かない。それでもそう言われてしまえば、それを否定する事は出来ない。俺はその姿に憧れ、何度も理想としてきたからだ。

 どうすれば良いという思考の中、泥沼と化し始めた俺の心。しかしそれすらどうでもいいと言うように、俺の前に男がその背を俺に向け立ちはだかった。

 

 

能面「一つ聞く。テメェにはコイツが何に見える?」

 

 

「[希望]よ。全てを終わらせることの出来る。指先一つ力を少し込めて押すだけで解決する私の作り上げた存在」

 

 

「その点、貴方と違って思い通りには動かないけどね。[模造品(レプリカ)]と[玩具(ドール)]は違うわ」

 

 

「何も言わなくても動いてくれる貴方と違って、余計な邪魔で寄り道が増えるもの」

 

 

 心底呆れたような顔で俺を見下す。その目に反抗の意思すら、今の俺には生まれてこない。何故かただ漠然とした罪悪感が胸の内でぐるぐるとした。

 

 

能面「.........クク、[希望]か。大きく出たな?」

 

 

能面「だがコイツはそんな大層な代物じゃねぇ。これはな、お前の[ツケ]だ」

 

 

「[ツケ].........?」

 

 

 俺の方を指差し、[ツケ]だと言う男。ここに居る全員がその言葉にピンと来ず、ただただ男の次の言葉を待ち侘びていた。

 

 

能面「お前は支払うべき信頼という代金を支払わずに、その神の肩書きのまま無理を通して来た。当然そんなお前に無理を通すのは道理が通る」

 

 

能面「[諦めろ]。俺にそれを強いた様に」

 

 

 何度も聞いたその言葉。それを男は強い圧と共に女神へと言い放った。しかし、当の本人はそれに全く響いておらず、つまらなさそうにどうしたものかと考えあぐねていた。

 

 

「.........そうね、貴方。今まで[奇跡]だと思った事は何度ある?」

 

 

能面「.........なに?」

 

 

「例えば[偶然]。[出会い]。[確率]。その全てが[奇跡]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもそれは、私が仕組んだ[必然]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?お代は払ったわ。これで[ツケ]はチャラにしてくれるかしら?」

 

 

能面「.........食えない女だ」

 

 

 苦虫を噛み潰したような表情をする男。そしてそれを聞いても、もう何も言う事は出来ない俺達。そんな事を言われてしまえば、この女神に憎悪どころか、感謝すら覚えてしまう。

 俺がコイツらと出会えたのも、トレーナーになれたのも、マックイーン達と出会えたのも.........全てが[必然]。この女神にとっては決まっていた事だとしたら、決められていたことだとしたら、俺はこの少女に、頭をあげることは出来ない。

 そんな中、女神が俺の方を見てゆっくりと近付いてくる。それを止める事も、それから逃げる事も出来ずに地面に膝付けたまま、その接近を許した。

 

 

「ねぇ。よく頑張ったと思うわ」

 

 

桜木「え.........?」

 

 

 先程までの雰囲気は無くなり、まるで聖母のような慈悲深い笑みを俺に向けてくる。その手を俺の顎に添えて顔を上げさせ、労わるようにその頬を撫でた。

 涙が溢れそうになった。頑張ったんだ。頑張ってきたんだ。ここに来るまで、一体どれだけ折れそうになりながら歩き、折れてから必死に立ってきたのか.........それを彼女は、心からの理解を俺に示してくれた。

 

 

「辛かったでしょう?苦しかったでしょう?私にも分かるわ。けれど、貴方も[受け入れる時]が来たのよ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、[夢を見たければ眠りなさい]?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人「―――ッッ!!?」

 

 

 風が吹き荒れる。俺と女神を中心にして、周りのヤツらを吹き飛ばすような風が発生し、それに抗うことが出来ずに奴らは紙吹雪のように軽く飛ばされた。

 

 

三人「玲皇ォォォ―――ッッ!!!」

 

 

能面「くッ!!!」

 

 

 地面に倒れた三人はすぐさま体勢を整え、俺の方を見て名を呼ぶ。男は地面に着いたものの、老化により運動性能が格段に落ちているせいか、そこから立ち上がることすら出来ない。

 しかし、その右手を前へと投げ出すと、その掌から[鎖]が俺の方へと伸ばされる。そしてそれが、俺の身体へと強く巻き付かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [強制共鳴]が発動―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄よ」

 

 

能面「っ!一々気に触る女だ.........ッッ!!!」

 

 

 巻き付かれようとしていた[鎖]は、地面から俺を包み込むように発生し始めた[繭]によって弾かれた。それは徐々に俺の身体を多い尽くし、ゆっくりと俺の全身を包み込んで行く.........

 

 

「さぁ、貴方は今から[ヒーロー]になるの.........」

 

 

桜木「ヒ......ロー.........?」

 

 

「そう.........[私の玩具(ヒーロー)]にね.........」

 

 

 身体が完全に[繭]に包み込まれる瞬間。女神はその呼び名とはそぐわない笑顔を見せた。邪悪さが全てを支配したような笑顔で、俺の事を見ている.........

 

 

 そしてそれが、今の俺の意識が最後に見た光景であった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........これで全てが終わるわ。さぁもう帰りなさい?どうせ何も出来ないでしょう?」

 

 

神威「そんな.........」

 

 

黒津木「玲皇.........!!!」

 

 

白銀「くっっっそォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 地面を強く叩く音が聞こえる。普通のアスファルトであれば、ヒビが入るであろう強さだ。それでもこの夢の世界では、ヒビが入るどころか、振動すら無い。

 

 

能面「.........」

 

 

 右手を開き、感触を確かめる。確かに俺の[強制共鳴]は弾かれた。奴との繋がりは感じる事は出来ない。それでも俺は疑心と焦りの心は持ち合わせつつも、不思議とそこに不安はなかった。

 両手を着き、その場に立ち上がる。やはり夢であるせいか、普通は感じるはずの痛みは無い。鈍さも無い。ここが現実でない事で助かったと[改めて]思った。

 

 

能面「.........確かに、何も出来んな」

 

 

「でしょう?後は私に任せなさい。長い時間は掛かるけど、人類は必ず滅ぼすわ」

 

 

能「.........勘違いするな」

 

 

「.........は?」

 

 

 身体のそこから熱いものが溢れ出す。かつては何度も押し消してきたそれが、気付けば完全に消えていたと思っていたそれが今になって、再び現れ始める。

 [夢]で助かった。それは何も[防衛]的な意味だけでは無い。ここでしか出来ない事が確かにある。俺はそれに.........柄にも無く[賭け]たんだ。

 

 

「[俺達]は何も出来ない」

 

 

「.........何が言いたい訳?」

 

 

?「そのままの意味だ。[俺達]は.........と言いたいんだ」

 

 

 俺のその言葉に数瞬、女神は思考を停止させ、その後何かを察したように辺りを見渡した。されど、今この場にいるのは確かに俺達だけだ。

 焦りの表情に汗が滲んだまま、それは俺を笑い嘲る。

 

 

「はっ!なに?ここに来てただのハッタリ?随分と足掻くじゃない。[優等生]?」

 

 

??「ああ。[それ]が出来るのならば、俺は[それ]をするだけさ」

 

 

???「[夢]は良い。直接会わんでも繋がれるからな.........」

 

 

「っ、何を言って―――!!?」

 

 

 女神は焦ったまま[繭]の傍で立ち上がり、完全に意識を俺に向けた。俺はこの瞬間をずっと待っていた。

 俺の力が弾かれるのは想定内だ。相手は神。あれしきの事で状況を打破し、世界を覆せるのならば誰でも出来る。

 掌を[繭]に向けてかざした瞬間。その地面から[六本]の[鎖]が飛び出し、[繭]の上からがんじがらめに拘束を始める。

 

 

「!!!一体何を「さぁ、見てろよ?神様」.........!!?」

 

 

???「今のコイツは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「[奇跡(テメェ)]だって超えられるんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

 暗闇だ。けれどさっきまでの暗いだけの空間とは違う。まるで瞼を閉じている様な、暖かみのある暗闇。これからまるで、[夢]でも見るかのような、寝ている世界。

 頭がジリジリと痺れをましていく。水の中を漂うように身体が感覚を無くしていく。そしてそれに.........抵抗しようとすらしない、自分が居る。

 

 

(あぁ、なんか本当に.........ゲームオーバーみたいな.........―――)

 

 

 薄れていく意識。もはや思考すら覚束ず、満足に答えを出すことも考えることも出来ない。それは正に、あともう少しでクリア出来そうな面で予想外のアクシデントが起こり、一瞬でゲームオーバーになってしまった様な感触だ。

 そう.........それは本当に.........鮮明な.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 G A M E O V E R

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セーブ地点からやり直しますか?

 

 はい

 いいえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ん〜〜〜.........!」

 

 

 噴水の音が聞こえて来る。昼の日差しが気持ちよく身体を暖めてくれる。季節は春でまだ肌寒い季節だと思うが、道民生まれの俺にとってはまだ温かい方だ。

 

 

桜木「さてさてさてと♪お昼休みはもぐもぐイーティン♪」

 

 

 手に持った袋の中身を確認しながら、噴水の淵に腰をかける。袋が飛ばされないよう中身を抜いた後、俺はそれを無理やりズボンのポケットに入れ込んだ。

 両手に持ったのは、[コンビニサンドイッチとストレートティー]。意識の高い若者に人気の組み合わせである。俺もその流行りに乗って、それを一口食べ、そして一口飲んだ。

 

 

桜木「ムググ.........コンビニサンドイッチとストレートティーの組み合わせは大人臭過ぎやしねえか.........」

 

 

 

 

 

 探し物はなんですか?

 

 

 見つけにくい物ですか?

 

 

 カバンの中も

 

 

 机の中も

 

 

 探したけれど見つからないのに。

 

 

 まだまだ探す気ですか?

 

 

 それより僕と踊りませんか?

 

 

 夢の中へ

 

 

 [夢の中]へ

 

 

 行ってみたいと思いませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山あり谷ありウマ娘 ―――完―――

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