山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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「.........」

 

 

 静かな空間。本来であるならば居ないはずの四人の男達。それを尻目に、私はその中心となっている[繭]をただ静かに睨み付ける。がんじがらめに[鎖]で固められたそれを、自らが神だと言うのに審判の時を待つように、ひたすら待ち続ける。

 

 

 そして、その時は訪れる。[繭]にヒビが入る。まるで硬い殻にそれが入るように甲高い音を鳴り響かせながら、それは広がり、やがて完全に割れる。

 [鎖]もそれと同時に、弾け飛ぶように霧散して行った。[全ての終わり]か、[私の終わり]を決める存在が、顔を俯けながらそこに力無く座っていた。

 

 

白銀「玲皇ッ!!!」

 

 

 一人の男がすぐさま駆け寄る。そんな事をしても、これから先起こることは何も変わらないというのに、その男の身体を抱き寄せ、揺さぶる。

 そしてその際、その顔を見て酷く身体を硬直させた。

 

 

 私はそれを見て.........[勝ち]を確信した。

 

 

「ククク.........アハハハハハ!!!」

 

 

「結局貴方がどう頑張った所で!!!世界は変わらない!!!人間と同じよ!!!」

 

 

「一瞬期待させるだけさせといて!!!本質は何も変わりはしない!!!これでようやく!!!私は開放されるわ!!!」

 

 

 身体が喜びで打ち震える。目の前に居る存在全てが滑稽に思える。何も変わりはしない。この世界の[神]である私でさえも変えられなかった物を、たかが人間が変えられるわけが無い。

 私は、この戦いに勝利を収めることが出来たんだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせェェェ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒号が耳を切り裂くように聞こえてくる。それは、男に駆け寄った一人が、私に振り返りながら発した物だった。

 

 

白銀「テメェは知らねぇだろッッ!!!コイツが今まで!!!どんだけ苦しい思いしてきたのかをッッ!!!」

 

 

能面「.........翔也」

 

 

 そんな男の姿を、ここに居る全員が驚いた様子でただ見ている。あの能面でさえも、驚きのあまりその目を見開き、男をただじっと見ていた。

 

 

白銀「色んな奴に散々言われて.........!!!大切にしてきた子達が苦しむ姿を見てきて.........!!!」

 

 

白銀「これからだって.........!!!俺も思ってたのに.........ッッ!!!」

 

 

白銀「.........ぶっ殺してやる.........ッッッ!!!!!」

 

 

「.........」

 

 

 私に向けて憎悪を向けてくる。その男の全ての感情が真っ黒になっているのが、手に取るように分かる。そしてそれを余すことなく、その視線と言葉だけで全てぶつけてくる。

 防衛策を取るために片手を前に出し、男が立ち上がる姿を見ていると、それを引き止めるように[繭]から出てきた男が、その手を伸ばした。

 

 

「や......めろ.........」

 

 

三人「っ、玲皇.........!!?」

 

 

「.........それで、答えは出たかしら?」

 

 

 私は前に出した手を下ろし、男へと問い掛けた。すると俯かせていたその顔を、私に向ける。

 

 

 そこには、[道化の仮面]が、まだ不完全ながらも男の顔に張り付いていた。

 

 

「.........アンタ、俺に.........[諦めろ].........って、ずっと言ってきてたよな.........?」

 

 

「.........ええ。そうすれば、素敵な[夢]を見せてあげる」

 

 

「アグネスタキオンは壊れない足を持ち」

 

 

「ハルウララは強くあり」

 

 

「ライスシャワーは最初から祝福を浴び」

 

 

「ミホノブルボンは三冠バとなり」

 

 

「アグネスデジタルは選手としてチームに入り」

 

 

「メジロマックイーンは、繋靭帯炎になることは無い」

 

 

 我ながら、素晴らしい夢を見せることができたと思う。これ以上なんてありはしない。これが[本編]だったのなら、 この男にとっても都合は悪く無いはずだ。

 

 

 [夢]。それはいつしか[幻想]から、[嘘]へと変わって行った。それを語る時、気が付けば[あるかもしれない物語]から、[ありえない話]へと変わって行った。

 

 

 だから、今の人間に力は無い。あるのはただ、[口先]だけの、[紛い物]の言葉だけ。[未来]はそこに存在して居ない。

 

 

 けれどそれを見れたのなら、きっと本望だろう。泣いて喜んで、続きを乞うだろう。

 

 

 私は彼が何を差し出すのか、ただ待っていた。

 

 

「わかっ.........た」

 

 

「諦......める.........」

 

 

能面「.........」

 

 

「.........フフフ」

 

 

 終わり。全ての[嘘]に、終わりが告げられた。人間達が語る[夢]に今、終止符が打たれた。

 勝利宣言にはまだ早い。それでももう、勝ったも同然。私は勝利の高笑いをする為に、その口元を横に広げ、その時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男の顔をもう一度見た時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その仮面は、酷くひび割れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――諦める事を、諦める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は―――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからアンタも.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が諦めるのを、諦めろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――「違う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘「.........え?」

 

 

 彼が口付けをする瞬間。その声が静かながらも、強く耳に響いて来ました。私、メジロマックイーンを含めたチームの皆さんは、その声に、戸惑いを覚えます。

 

 

 程なくして、先程割れ掛け、そして修復された[夢の世界]が、難なく割れました。家の中だった空間はただ、何も無い真っ白な世界へと変貌を遂げました。

 

 

 ポタリ。ポタリと、私の頬に暖かい何かが落ちてきます。その感触は、以前感じた物と同じ物。それを察する前に、彼はその場に力無く、座り込みました。

 

 

桜木「っ、くっ.........はぁぁぁぁぁ」

 

 

マック「と、トレーナーさん.........?」

 

 

 小さな嗚咽の後、全てを吐き出すように息を吐き切る彼。まるで、自分の虚勢を全て追い出すように、彼は悲しみを感じさせる息を吐き出しました。

 

 

 そんな彼に、誰も何も言えずに居る。それでも、納得が行かない一人が、声を上げました。

 

 

タキオン「.........なんでだ」

 

 

タキオン「何故だ!!!ここには君の望む全てがあるだろうッッ!!!どうしてわざわざ傷付きに行こうとするんだ!!!トレーナーくん!!!」

 

 

 いつもの彼女らしくない悲痛な声。必死さが伝わる声で、彼に捲し立てます。それに彼は応える事無く、顔を俯かせ、ただただ涙を流して行きました。

 彼女の苛立ちが高まっているのを肌に感じ始めた時、耐えきれなくなった彼女が1歩踏み出したその瞬間。彼はポツリと零しました。

 

 

桜木「.........強くないんだよ」

 

 

タキオン「.........だったら尚更「俺はッッ!!!」っ.........!!?」

 

 

桜木「俺はぁ.........!!![ひとり]じゃ.........幸せになれないんだよぉ.........!!!」

 

 

 両手で涙の流れる目を押えながら、彼はその顔を上げました。そんな彼の泣く姿を初めて見た人達はその目を大きく開け、驚いた表情でただ見つめていました。

 私は.........彼が何を思い、先程までの光景を否定したのか、それを聞く為に、じっとその場に居ました。

 

 

桜木「ここには.........皆、居るんだ.........」

 

 

桜木「俺.........頑張ってさぁ.........立派にトレーナーして.........皆を、幸せにして.........」

 

 

桜木「きっと.........俺があっちを諦めて.........こっちを選んだこと言っても.........優しく笑って.........許してくれる.........」

 

 

 泣きながらも、彼はこの世界での道のりを思い出し、幸せそうな口調で言いました。実際彼は、この世界で成功を手にし、私達を導いてくださいました。

 そんな彼が苦しそうにそう言ったのなら.........きっと私達も、許していたでしょう。

 それでも彼は、泣きながらも言葉を続けました。

 

 

桜木「.........でもさぁ.........?俺をここまで導いてくれたのは.........[あっち]側の人達なんだぁ.........」

 

 

桜木「ここで.........諦めたら.........ここで.........!!!辞めちゃったら.........!!!」

 

 

桜木「[違う]んだよ.........ッッ!!!」

 

 

 目元を強く腕で拭い、その顔を私達に見せてくれます。涙で濡れ濡れで、跡は赤くなって、鼻水も溢れ出して.........いつものカッコつけたがりな彼は、そこには居ませんでした。

 

 

桜木「あの人達にまだッッ!!!恩を返せちゃいないッッ!!!」

 

 

桜木「アイツらにまだッッ!!!追い付けちゃいないッッ!!!」

 

 

桜木「君達にまだ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も.........っっ!!!返せちゃいないんだぁぁあああぁぁぁあああ.........!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、紛れもない彼の本音でした。

 

 

桜木「俺は弱くて!!!無能で!!!ダメダメで!!!君達にいつも助けて貰ってばっかりで!!!」

 

 

桜木「それなのに.........!!!こっちで楽しく暮らして行けるほど.........!!!強くないんだ.........!!!」

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

 [強くない]。彼はそう言いきりました。しかしその姿は.........[誰よりも強い]。そう思わせる程に、彼の思いが心に直接伝わって来ます。

 そんな彼を支える為に、私は彼の身体をしっかりと抱き留めました。

 

 

桜木「っ、マック......イーン.........?」

 

 

マック「.........もう。折角貴方が傷つかない世界に来ましたのに、これでは台無しです」

 

 

 .........この世界に来た時、身体の自由が効かない中で私は決めました。何があろうと、彼に委ねようと。そして、その時が来るまで、絶対に彼を苦しませるような事はしないようにしようと。

 ここでの生活は、想像以上に楽しかったです。けれど、楽しいだけで.........なんだか、メリハリを感じる事が出来ませんでした。

 これではただ、[平坦な道を進む]だけ。[山あり谷あり]では全く無いんです。

 

 

桜木「.........でもここじゃ俺、納得出来ない.........」

 

 

桜木「あっちで全てが解決しても.........俺.........!!!」

 

 

桜木「自分勝手だけどさぁ.........!!!みんなに、申し訳ないんだけど.........!!!俺.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[あっち]で[トレーナー]やりたいんだ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力強い叫びが、私の.........いいえ。私達の心へ直接響き渡ります。その声に、その言葉に、この場にいる誰もがもう、否定や疑問を示すことは、ありませんでした。

 

 

 その時、彼の首から下げているアクセサリーから、細い糸の様な光が一点に伸びて行くのを、この場にいる全員がその目で見ました。

 

 

桜木「.........ごめんね」

 

 

ライス「.........ううん。ライス、お兄さまの気持ちちゃんとわかったよ?」

 

 

ブルボン「私もです。マスター。やはり貴方が居なければ、私は[楽しい]という感情を上手く表現出来ません」

 

 

ウララ「うん!!ウララもトレーナーと一緒だととっても楽しいよ!!」

 

 

 私の頭を撫でながら、彼は謝りました。そんな彼に、三人がそれぞれ笑顔で近づいて来ました。その三人の耳につけたアクセサリーから、彼のアクセサリーから放たれる光と同じ方向に向かって光が放たれます

 その笑顔を見て、彼は少し驚いた表情を見せます。

 

 

デジ「まぁ!!デジたんは最初からこうなるって思ってましたけどね!!ただちょ〜っと時間が掛かって不安になりましたけど.........」

 

 

桜木「.........迷惑かけたね」

 

 

デジ「.........ふふ、とんでもありません!!デジたんの本領!![あっち]で存分に発揮してみせますとも!!待ってますよ!!トレーナーさん!!」

 

 

 自信満々の表情で胸を張るデジタルさん。その姿を見て、空気が段々と重苦しいものから、いつも通りのチーム[スピカ:レグルス]へと戻ってきているのを感じました。

 そして彼女の付けている耳飾りからも、先程の三人同様に、その光を一点に伸ばして行きます。

 そんな中、ため息を吐く音が聞こえてきます。それは、私達の姿を少し遠巻きで見ていたタキオンさんの物でした。

 

 

タキオン「.........理解に苦しむよ。ここに居れば、君にとっては全てが解決しているも同然なのに.........」

 

 

桜木「はは.........確かに、幸せな結末(ハッピーエンド)には相応しい場所だと思ったよ」

 

 

桜木「.........けれど、俺はそれを[ここ]じゃなくて、[あっち]で迎えたいんだ。俺のワガママに、付き合ってくれるか?」

 

 

タキオン「.........」

 

 

 彼の問いかけに、彼女は黙りました。ですが、それに対して私達は不安はありません。なぜなら彼女のその表情は、静かに笑っていたからです。

 

 

タキオン「.........全く。君にはつくづく驚かされる。私を担当にした時からそうだ。得体の知れない薬を飲み干すなんて事をしたあの時からだ」

 

 

タキオン「まぁ、今に始まった事じゃないか。観察させてもらうよ?トレーナーくん。[可能性]を.........いや、[奇跡]を超えるその瞬間をね.........」

 

 

 そう言って、彼女もこの輪に加わるように歩み寄りました。そして、耳飾りからその光が放たれます。

 .........もう、きっと大丈夫。私がこうやって抱き留めて居なくとも、彼はもう一人で立てる。そう思い、私はその手を離しました。

 

 

マック「.........トレーナーさん」

 

 

マック「これから先。たとえ、どんな事があろうとも―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――私と貴方は.........『一心同体』ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つの心。それを二つの身体に宿らせる。けれどそれは、言葉通りの意味ではありません。私と彼にとってのそれは、お互いの心の隣に、お互いの心を置く事です。

 決して、どちらか一つを捨てる訳では無い。決して.........どちらか一つを取る訳では無い。二人の持つ[思い]を、半分ずつ分け合うこと。それが.........私と彼にとっての、『一心同体』なんです。

 

 

 その言葉を発し終えた時。耳飾りをどこかへ無くした筈の私からも、その光が発せられました。その光の発生源を見れば、それは私の左胸の位置.........つまり、[心]から発せられた光でした。

 今まで感じてきた温もり。それが今、私の中で生きている.........そう悟った時、私はその両手で、[心]を包み込むようにその胸を触りました。

 

 

 やがて、一点に集まって行く光の先に、扉が現れます。それを開ければ、この[夢]は終わりを告げる。何故かそう、はっきりと感じ取りました。

 

 

タキオン「一応聞いておこうか。アレを開ければ、もう二度と[ここ]へは戻って来られないだろう」

 

 

タキオン「後悔はしないのかい?」

 

 

桜木「.........戻れるさ」

 

 

全員「え?」

 

 

 一言だけ言い、彼は扉の方へとゆっくりと歩き出します。その発言の意味を理解出来ないまま、私達は顔を見合せ、彼の歩みに着いて行きます。

 その足取りには、[芯]がありました。まるで、自分の持っている[使命]を果たす為の歩みのように。彼はその足で、どこかを目指し始めたのです。

 

 

桜木「必ず.........俺はもう一度あの[光景]を見る.........」

 

 

桜木「今度は.........[あっち]の世界で.........!!!」

 

 

全員「!」

 

 

 扉の前まで歩き、彼はその顔をこちらに見せながら言い切りました。[ニカっとした笑顔].........けれど、その顔に[仮面]はありません。

 ようやく。彼はその[素顔]のまま、[強さ]を持つ事が出来たのです。誰の真似でも無い。自分の理想像でも無い.........今の彼が出せる、全ての[強さ]を.........

 

 

 そして、その手をゆっくりと伸ばし、ドアノブへと手を掛けます。

 

 

桜木「さぁ、[夢を見たければ目を覚まそうぜ]?」

 

 

桜木「俺達が次、朝日を拝んだその瞬間から―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[奇跡]を必ず超えてやるッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

 

 

第百三十六話 夢を見たければ目を覚ませ

 

 

 

 

 

 膝を着いた状態から、ゆっくりと。だが確かな足取りでしっかり立ち上がる。顔に張り付いた仮面を右手で強く引き剥がす。それが割れた瞬間から、その全てが灰になって霧散して行った。

 俺のその様子を全員が見る。三人は驚きを。一人は安心を。そして女神は、憎しみを抱いて俺を見ていた。

 

 

「人間が.........!!!」

 

 

桜木「.........ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ふざけるな.........!!!」

 

 

 言い訳はしない。言い返しもしない。俺が人間なのは、紛れもない事実だからだ。俺は女神の言った言葉を、ただ自信を持って肯定しただけに過ぎない。

 だと言うのに、目の前の少女は悔しそうに歯を食いしばって俺を睨む。

 

 

桜木「ふざけるな、か」

 

 

桜木「そうだな。じゃあそれへの返答としては.........」

 

 

桜木「[ふざけるさ]。アンタの呪縛から逃れられる方法がそれしかないなら、そうするだけだ」

 

 

 ふざける事でしか抗う事が出来ないのなら、ふざければいい。そうすることしか出来ないのなら、それをすればいい。

 俺はもう、大切な物を何もせずにただ失っていくのだけは、耐えられないんだ。

 だから.........摺ってでも這ってでも、もがいて、抗ってやる。

 

 

「そんなの.........ただの現実逃避じゃないッッッ!!!!!」

 

 

「目の前の全てから逃げて!!!現実を受け入れて無いだけよ!!!そんなの諦めたも同然じゃないッッ!!!」

 

 

桜木「どうかな。俺としては、全部受け入れて立ち向かおうとする奴の方が、諦めてるように見えるぜ?」

 

 

「な、なんですって.........!!?」

 

 

 目の前の少女は狼狽える。そして、周りに居る奴らも、静かに俺を見守っている。俺は静かに、その瞼を閉じて見た。

 

 

 目の前に広がるのは、戦場だ。例えば、これが何かを得る為の戦い。或いは、何かを守る為の戦いだとしたら.........その時はきっとまだ、命を賭けるべき時では無い。そんな時こそ、命は大事にしなければならない。必要なのは、生き延びる事。そして、逃げ延びる事だ。

 

 

 だから、現状を受け入れて戦う姿は、確かにかっこいい。けれどそれでは.........そこで[終わり]なんだ。[エピローグ]すらありはしない。待っているのは[結末]だけなんだ。

 

 

桜木「.........アンタ。レースはした事あるのか?」

 

 

「っ、何よいきなり.........無いわよそんなの」

 

 

桜木「だったら教えてやる。レースでやったら確実に負ける行動をな」

 

 

 目の前に居るレースを知らないウマ娘。それに、俺がこれまで得て来たトレーナーとしての知識を教えて行く。

 追い込みは後方で脚を溜め、最終コーナーより前目の方でのロングスパートを掛けてからの追い抜き。

 差しは先行や逃げの行動を観察しながら、最終コーナー手前で周りと駆け引きをする。

 先行は逃げを打つ相手と後方に居る差し、追い込みに対してプレッシャーをかけながら展開を作って行く。

 逃げは最初から最後までの展開をリードする事を理想とし、それを崩さないように走る。

 

 

桜木「.........まぁ、大まかに四つだ。その中でも走り方や勝ち方に差はあるけどな」

 

 

桜木「その中でもやったら確実に負けること。それは逃げで後方に差し切られた時じゃない。先行で逃げに展開を完全に掴まれた時でもない」

 

 

桜木「差しで捲れきれなかった時でもなければ、追い込みのロングスパートを見誤った時でもない」

 

 

「.........」

 

 

桜木「.........走るのを[止めた時]だ」

 

 

 レースというのは面白い。いつ、一体何が起きるのかが予測出来ない。負けると思ったレースで勝ち、勝てると思ったレースで負ける。そんな事はざらにある。

 それでも、確実に負けてしまう行動がある。それは、走る事そのものを止めてしまう事だ。そんな事をしてしまえば、勝てる物も勝てなくなる。先も無くなる。いつかの筈の終わりが、今になってしまう。

 

 

「くだらない.........!!!それが今アンタが現実を受け入れずに[逃げる]事と、どう関係すんのよッッ!!!」

 

 

桜木「.........まだ分かんねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[逃げる]のだって。レースで勝つ為の戦略なんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!ああ言えばこう言う.........!!!その減らず口が気に入らな―――っっ!!?」

 

 

 強い負の感情を向けてくる少女。しかし、その言葉を言い切る前に、突然跪き、その頭を強く抑え始めた。痛みを訴えるようにうめき声が聞こえてくる。

 

 

神威「なんだ.........!!?」

 

 

黒津木「お前なんかしたか!!?」

 

 

桜木「い、いやいや!!?流石の俺も可愛い女の子相手をいたぶる趣味はねぇよ!!?.........翔也?」

 

 

白銀「俺なわけねェだろカスゥッッ!!!」

 

 

 目の前の少女の様子を見て、ただ事では無いと言うのは一目でわかった。何故か俺が疑われ始めたので弁解し、この中でなんかやってそうな奴に目を向けてみるも、完全に真っ向から否定された。この感じは嘘では無い。

 そんな中、少女は定まらない視線を真っ直ぐと向けている。その方向は、未だに目的の分からない男の方だった。

 

 

「っ、違う.........!!!ここにアンタは[居なかった].........ッッ!!!」

 

 

能面「ほう。ようやく気付いたか。やはり[直接的な過去]には干渉出来んようだな」

 

 

「ふざ、けるな.........!!!一体どこまで遡った.........!!!何故そこまでして過去を変えずにここまで来たァッッ!!!桜木ィィィィ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 [遡った]。その言葉を聞き、俺達は奴の方へと振り返る。奴の表情は、それを待っていたと言わんばかりに満足そうにしていた。

 そんな満足気な顔の口が、真横に広がる。最初は鼻で笑うような声だった。それがいつしか、堪えようとする笑い声になっていく。

 

 

能面「ククク.........」

 

 

能面「クハハハハハ.........!!!」

 

 

能面「ハーッハッハッハッハッ!!!」

 

 

 その女神の姿が愉快だと言わんばかりに、その目元に片手を添え、声高らかに悪役の様な三段笑いを始めた。まるで、勝利宣言をするかのように。

 ひとしきり笑った男は疲れたように息を吐き、女神の方へと目を向け、その口を開き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[最初]からだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

能面「[最初]から、過去の存在達が来るその日まで、俺は一挙手一投足違えずここまで戻ってきた」

 

 

能面「[神魔石]が割れる度に歓喜したぞ?それはつまり、その時間遡行をこの世界で行ったという証拠になるのだからな」

 

 

 不健康極まりない雰囲気の笑みを見せながら、男は自慢げにそう話す。その姿に、俺は.........どこか憧れに近い何かを感じていた。

 そしてそれは何故なのか、すぐに理解が出来た。この男は俺にとって、理想の[悪役]なんだ。

 そんな男の姿を見て、女神は愕然とする。

 

 

「.........有り得ない.........そん、なの.........」

 

 

能面「.........俺はお前の求める[主人公(ヒーロー)]でも無ければ、[世界の歯車(正義の味方)]でも無い」

 

 

能面「確かに同じ道を歩いた。同じ行動を取り、同じ結末を選んだ。だが、明確に違うのは.........俺はある物になりたかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[世界の悪役(彼女の味方)]にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例え、この世界を終わらせようとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ直ぐと女神の方を見て、無表情の威圧を掛ける男。その目は、酷く濁りきっていた。

 人生を掛けて、年月を掛け、経験と道筋を掛け、濁りに濁ったその目で、一人の少女を見ていた。それはきっと、[狂気]なのだろう。

 一度全てを終えた男が、その中身を一度捨て、もう一度同じ物をその身に注いだ。一度注がれたはずのそれを、まるで好きな飲み物の様に注ぎ直したんだ。今日、この日の為に.........

 その覚悟を感じ取った俺は、もう一度女神の方を見る。彼女は俯き、項垂れていたが、暫しの沈黙の後、その顔を上げた。その表情は、酷く悲しげな物だった。

 

 

「.........なんでよ」

 

 

「ねぇ?もう良いでしょ.........?あの世界に居れば.........貴方は幸せなのよ.........?」

 

 

「なんなら貴方も来る.........?歓迎するわよ.........好きな夢を見せて上げる.........」

 

 

 俺達二人を泣きそうな顔で見ながら呟くように女神は言った。それが幸せだと。それがこの上ない終わり方(ハッピーエンド)だと、言い切った。

 

 

桜木「.........そう。じゃあ、見せてもらおうか?」

 

 

「!良いわ!!どんな夢でも―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アグネスタキオンの足は脆く」

 

 

「ハルウララは弱く」

 

 

「ライスシャワーは最初から祝福されず」

 

 

「ミホノブルボンは三冠バになれず」

 

 

「アグネスデジタルはチームマネージャーとして入り」

 

 

「メジロマックイーンは.........[繋靭帯炎]になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........その上で、それを全て解決して、俺を納得させる夢を見せてくれ」

 

 

 その内容は、俺が生きている世界と何ら変わりはしない。見る人が見れば、知る人が知る、地獄の様な茨道だ。そんな物を、好き好んで歩くような者はバカですら居ない。

 そして、そんな事を言った俺に女神は驚愕した様な目で俺を見ていた

 

 

「.........何を、言ってるの.........!!?」

 

 

「わざわざそんな道を歩く必要は無いッッ!!!」

 

 

「[運命(本編)]は変わらないッッ!!!例え[奇跡]が起きようともッッ!!!」

 

 

 本編。それは、誰かの手によって書き上げられた一つの物語。女神のその口ぶりから、それを今まで変えようと苦心してきた事を簡単に察することが出来る。

 きっと、幾度となく[奇跡]を起こしてきて、起こそうとしてきたのだろう。それでも、彼女はそれを塗り替え、書き換えることが出来なかった。

 それでも、そうだとしても俺は.........[目覚めなければ]行けないんだ。本物の世界で、しっかりと目を覚まして、[夢を見なければ]行けないんだ。

 

 

桜木「そうとも限らねぇさ。完璧な物語なんて存在しない。だから新たな物語(夢のような話)が生まれる」

 

 

桜木「お前が見せた、その有り得ない筈の未来が、俺を足踏みさせるはずのそれが、逆に俺を前へと歩かせてしまった」

 

 

桜木「未練は出来た。義理も精算してねぇ。約束はまだ終わってない。誓いも立てたばかり。あの子が帰りを待ってる。それだけで十分だろ?」

 

 

 俺はまだ、何も果たしちゃいない。あの子達に何も返せちゃいない。恩人に報いて居ない。アイツらに並び立てちゃ居ない。

 まだ.........俺が[生きた証]を、誰にも見せちゃ居ないんだ。

 

 

桜木「だから今度は俺が筆を執る。お前が終わらせた俺達の物語(エピローグ)を、俺達自身が、物語(プロローグ)として続きを書く」

 

 

桜木「さぁ、見てろよ?神様」

 

 

桜木「今からこの[物語]は.........俺の、俺達の[山あり谷ありウマ娘(目覚めた後に見る夢)]は.........ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[本編(奇跡)]だって超えていくんだぜェッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神様が言った運命という言葉。それは、今まで得体の知れない存在が操り人形を糸で操作するように作り上げているものだと思っていた。

 けれど、目の前の存在を見て、それは違うとすぐに分かった。女神も.........彼女も、その運命に翻弄された一人に過ぎず、それに抗おうとしてこの世界を作り出した.........言ってしまえば、[同じ]なんだ。

 

 

「.........そんな力、人間には無い」

 

 

「もう良い.........同意を得ようとした私が間違っていたわ.........!!!」

 

 

 力無く項垂れ、恨めしそうに呟く少女。肌に触れる雰囲気は最悪な物になっている。周りの奴らも、それを見てたじろぎ、後ずさっている。

 だと言うのに、俺に不安は一切無い。先程まで。夢の中へと送り込まれる前に感じていた恐怖や疑問は、一切湧いて来ないんだ。

 

 

「ッッ!!!」

 

 

三人「っ!!!玲皇ォッッ!!!」

 

 

能面「っ!!?くっ、もう少し若ければ.........ッッ!!!」

 

 

 女神が手を放り出し、その勢いで糸が飛んでくる。その速度は人間の速さじゃとても反応して避けたり、行動できる物では無い。

 

 

桜木「.........―――」

 

 

 それでも俺は、この胸に宿る[鼓動]を信じてみた。なんとかなる。なんとでもなると言うように、俺を勇気づけてくれるこの鼓動を.........

 

 

 そして、女神から出された糸が俺の身体に触れるその瞬間。首から下げたアクセサリーから出された細い光が、その糸と絡み合うようにして、空気へと溶けて行った。

 

 

全員「っ.........!!?」

 

 

「な、何が.........!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう良いだろ?[シロ]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声が、俺の身体の中心から外に向かって響き渡る。それは俺だけではなく、この場にいる全員に聞こえているようで、その目を丸くして俺の方を見ていた。

 風もなくアクセサリーが揺れ動く。そして、先程の様な糸ではなく、まるで光線のような太い光を空へと放ち、俺達の目を強く眩ませる。

 

 

「っ.........!!?なんで.........!!?」

 

 

「.........この姿で会うのは、久しぶりだよね?シロ」

 

 

 強い光が消え、ようやく目がまともに見えるようになった。腕を下ろし、目の前の状況を見ると、どこかで見た様なファンタジー風の衣装を着た男が、俺に背を向けて立っていた。

 シロと呼ばれた少女は、驚愕しながらも、どこか悲しそうな表情でその男の方を見ていた。

 

 

白銀「だ、れだ.........?」

 

 

神威「なんか、玲皇に似てね.........?」

 

 

黒津木「頭のツンツン具合が足りてねぇ.........」

 

 

桜木「それは今関係ねぇだろ.........」

 

 

 仲間内でそれぞれの感想をぶつけ合っていると、その男が俺の方へと振り向く。その顔は、俺とは正反対の優男と言えるぐらい大人しそうな顔立ちでありながら、それに似つかわしくない眼帯を付けていた。

 俺の方を見て近づいてくるその存在に流石の俺も驚き、一歩後ずさる。するとソイツは悪い事をしたかのように苦笑しながら人差し指で頬をかいた。

 

 

「あ、はは.........ごめんね?本当はもっと早く。それこそ初めて目覚めた時から、この姿で会いたかったんだ」

 

 

桜木「は.........?」

 

 

「.........僕も、君と同じ様に世界の全てに絶望した身だ。そしてそのまま、君と違ってこの世を去った。だから、あんな事を君にしちゃったんだ」

 

 

「でも、これでようやく君への恩を返せる。彼女の事は、僕に任せて欲しい」

 

 

桜木「お前、何言って―――」

 

 

 男は俺に、悲しげな笑顔を見せてからその顔を背けた。そして俺の疑問の声も聞かずに女神の方へと向かって行った。

 

 

「シロ。もう終わらせよう?君の憎しみが消えないのなら、それを全部僕に向けてくれ。きっとそれなら.........全てが上手く片付くと思うんだ」

 

 

シロ「.........相変わらずね。[レックス]」

 

 

 二人の間で、何か話が進んで行く。その様子を静かに見守っていると、突然男の方が腰の方に差した剣を引き抜き、走り出して行った。

 そしてそれを受け入れるように、女神はその身をさらけ出し始めたのだ。

 

 

四人「はァ!!?」

 

 

能面「うるさい。ともかくこれで解決だろう。憎き女神の掌の上から降りれるんだ。せいせいする」

 

 

桜木「お前マックイーン以外の事に本当頓着ねぇのなッッ!!!」

 

 

能面「当たり前だろ」

 

 

桜木「今ようやく理解したわ!!!コイツ絶対自室の畳にマックイーンが使ってるシャンプーぶちまけてるッッ!!!ゴールドシップの言ってた通りだわ!!!」

 

 

能面「おい待てなんでそれをゴールドシップが」

 

 

 何かこれを止める方法は無いのだろうか。そう思いながら自分に出来る事を考えて見る。しかし残念な事に後数秒もしない内にその剣はシロと呼ばれた少女に到達してしまうだろう。

 捻りに捻った作戦は、結局ここまで来て[誰かの真似事]だった。

 

 

桜木「もうこれしかねぇぇぇッッ!!!」ジャララ!!!

 

 

白銀「ジャッジメントチェーン!!?」

 

 

神威「やめろォ!!!旅団以外に使うと死ぬぞッッ!!!」

 

 

桜木「勝手に死ねェェェェェッッッ!!!!!」

 

 

黒津木「お前が死ぬんだよっっ!!?」

 

 

 掌を勢いに任せて振るいながら、目の前を走っていく男に向けて鎖が射出される。重力なんて存在してないようにその鎖は真っ直ぐと男の方へと向かって行き.........

 

 

「ぐぇッッ!!?」

 

 

シロ「レックス!!?」

 

 

 男の片足へと絡まり、その前進を転倒という形で終わらせた。

 もちろん。それだけで終わりはしない。こういう人の話を聞かないようなバカは身体に教え込むのが理にかなっている。俺はその場から全速力で男の方へと駆け出した。

 

 

桜木「急に現れて何しようとしてんだテメェェェッッ!!!」

 

 

「いた!!?ちょ、ごめ、痛いっ!!!」

 

 

シロ「やめて!!!レックスは悪くないの!!!悪いのは私なの!!!」

 

 

桜木「じゃあお前はこれでも食らっとけッッ!!!」バコーン!!!

 

 

シロ「☆#△○☆×―――!!?」

 

 

 うつ伏せになって倒れている男を分からせるために拳を振るっていると、シロと呼ばれる少女が割って入って来た。

 仕方が無いので渾身の拳骨を頭に浴びせると、言葉にならない声を上げて頭を押えて倒れ込んだ。

 荒んだ息を整え、二人の様子を見て暫くは先程の様な事は起こらないと考え付く。俺はそのまま、声を荒らげて思いの丈をぶちまけた。

 

 

桜木「良いかッッ!!!俺はな!!![あっち]の世界で過ごしたマックイーン達に言ったんだッッ!!![こっち]の方で必ず!!!同じ景色を見るってッッ!!!」

 

 

桜木「沢山の人が俺ん家に集まってッッ!!!確かに幸せな終わり方だって感じた!!!でもあそこに居ない人達も居たんだ!!!」

 

 

桜木「必要なんだよ俺にはッッ!!!楽しい事ばかりじゃ出会えなかった人達がッッ!!!俺はソイツらともあの景色を迎えたいんだッッ!!!そこにはもちろん―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタらだって居るんだぞッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人「―――.........」

 

 

 目の前に居る二人は、驚いた表情で俺の方を見た。俺に対して、何を言っているんだと言うような目で、俺を見てくる。

 けれどそれでは止まらない。そんなものは今まで何度も向けられてきた。そしてそれを.........何度も[ひっくり返して]来た。

 下バ評も、困難も、人々の心も、そして.........俺自身の絶望も.........

 

 

桜木「確かに[運命]は変わらないかもしれないッッ!!!それを変える為にアンタは[奇跡]を起こし続け、起こそうとしたのかもしれない.........ッッ!!!」

 

 

桜木「[だからこそ]―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は[奇跡]を超えてやるって言ってんだよッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命は変わらない。それは例え、神の起こす[奇跡]であろうとも。もしかしたら、そんな事は端から知っていたのかもしれない。俺自身、心のどこかで、神様ですら、激流の様な運命の勢いに、抗い切れないのかもしれないと.........

 [だからこそ]。[それでも]でも、[けれども]でも無い。俺は、その[奇跡]を否定する事はしない。その上で、俺はそれを超えてやると、自然と口に出していた。

 

 

 それを言い終えたその時、王冠の首飾りがまた、光を放ち始めた。それは、先程の様な強い光ではなく、弱い糸でも無い。

 複数の線が絡み合い、徐々に形作られていく。それは、まるで人の神経のように張り巡らされ、最終的に.........人と同じ大きさの[手]となって現れた。

 

 

 今までのような[繋がりたい]という思いではなく、鎖のように[縛り付ける]物でも無い。その[手]は、相手から伸ばされる[手]を待つ、[繋がろう]という意思そのものだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [共鳴リンク]が発動している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手を見て、二人はお互いの顔を見る。そこに言葉は無く、あるのは心だけだった。

 暫くして、同時に頷くと、その場で立ち上がり、その[手]へと向かって歩き出した。

 

 

レックス「.........そうか。今ようやく分かったよ」

 

 

桜木「?」

 

 

レックス「君は[獅子王心(ライオンハート)を持つ者]じゃない。一つの心で、全てを従える存在じゃない」

 

 

シロ「そうね。貴方とは大違い.........」

 

 

 二人で顔を見合いながら、ぎこちなさそうに微笑み合う。その姿が久々に再会を果たした物だと、その様子を見て分かる。

 その二人が今度は、俺の方を見る。男の方も、そして少女の方も、先程までの事を感じさせないくらい、負の感情を一切無しに、俺を見つめてくる。

 

 

シロ「貴方。[ひとりじゃない]のね。本当の意味で.........」

 

 

レックス「うん。君の内側から、多くの人達の意志を感じる.........まるで、そこで暮らしている.........[星]みたいだ」

 

 

シロ「.........結局。あの[名優]の言う通り、全部ひっくり返されちゃったわ」

 

 

シロ「[キング]も[ナイト]も.........それどころか、相手の盤面の全ての駒も.........全部、ぐちゃぐちゃになって、どれが敵だったのか分からなくなっちゃった」

 

 

 そう言いながら、二人はその場に浮かぶ手に触れる。その気になれば、そんなものに触れることなく、俺をどうとでも出来たと言うのに.........

 けれど俺は、強引に手を引っ張るなんてことはしたくない。それでも俺は、助けたい人の事を見捨てる事は出来ない。だからこうして.........目の前に手を差し伸ばす。無理やりつなごうとは思わない。

 

 

 彼らがその手に触れて、断片的だけど、二人の事が俺の中に流れ込んで来た。

 出会った時の事、二人で劇場の主役をした事、魔法を学び、学ばせていた事、王様になった事。

 そして、戦争の事、敵の事、彼女をさらわれた事、それを助け出そうとして命を落としてしまった事、そしてその後を追うように自らその場で命を絶った事.........

 

 

 悲しい事の方が多いと感じた。それでも、それに打ち消される事が無い楽しい事もあったと感じた。二人だけにしか分からない事も、それこそ.........[山あり谷ありの人生]そのものだった。

 

 

 瞳を閉じ、その思い出に触れ終えた俺は、気が付けば言葉を発していた。

 

 

桜木「.........[桜]は好きか?」

 

 

二人「え?」

 

 

桜木「人生ってのは、四季と同じだ。違う所を上げるとすれば、わかりやすい特徴は無いし、順番通りには巡りはしない」

 

 

桜木「それでも人は、必ず[桜]を人生で一回は咲かせる。一人だけで咲くのは一本だけだ。けれど、多くの人が同時に咲かせたなら花見をしに人が来る」

 

 

 今まで、俺の人生はなんなんだろうと何度も考えて来た。それでも、答えは見つからなかった。探しても探しても、見つかる事はなかった。

 けれど、今は何だか、それが分かったような気がした。

 出会いの春。活躍の夏。寂しさの秋。悲しみの冬。その訪れが人生にはあるのだと、俺はあの[走マ灯]でぼんやりながらも探し当てることが出来た。

 そして.........いつ咲くかも分からない。春に咲くかも定かでは無い人生の[桜]を咲かせる事こそ、人が生きる。そして俺の生きる意味なのだと.........そこにようやく辿り着くことが出来た。

 

 

桜木「.........花見はいいぞ。どんちゃん騒ぎも許されるからな」

 

 

白銀「許される訳ねぇだろ」

 

 

黒津木「お前空気読めよ」

 

 

神威「アイツあんな事言ってますけど人生で花見なんて一度もした事ありませんよ?」

 

 

 アイツらの方を振り向いてそう言うと、期待していた通り想像もしない言葉が帰ってきた。そして最終的には俺の言葉の説得力を全て無くしてきやがった。アホか台無しだわ。

 しかし、そんな俺達を見て、二人は揃って笑い声をあげた。幸せそうな声が、この暗い空間一体に響き渡る。

 それに釣られるように、俺達も笑い始めた。そしてそれが.........この一件を全て解決したのだと、俺達に知らせていたのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、それはそれ。これはこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャララララ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人「.........え」

 

 

 空間に浮かんでいた手はもう無い。代わりに二人は、俺の手を掴んでいた。そしてその二人の手に、先程俺から射出された鎖が巻かれ始めた。

 

 

四人「お前何してんのっっ!!?」

 

 

桜木「.........レックス。だっけ?」

 

 

レックス「は、はい」

 

 

桜木「お前のやった事は許せる。正直、殆どが俺の本心そのものだったからな.........けど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ウララを引かせた事だけは許されると思うなよッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........っっ!!?」ガバッ!

 

 

 雀の声が微かに聞こえてくる。意識が沈んでは浮き、沈んでは浮きを繰り返して安定した瞬間。まるで地面に足の裏が付いたような意識の覚醒が起き、俺はそのまま上半身を起き上がらせた。

 

 

桜木「.........はは、マジかよ.........」

 

 

桜木「.........[目覚められた]のかよ」

 

 

 周りで寝息を立てる奴らを尻目に、俺は[こっち]に[戻ってこれた]のだと理解し、目元を押えながら息を吐き出した。寝ていた筈なのに、それと共に疲れが押し寄せてくる。

 それと同時に、喜びが溢れ出してくる。俺はようやく、自分の手で初めて.........自分の[居たい場所]に居続けることを選ぶことが出来た。

 

 

能面「よう。気分はどうだ?」

 

 

 そんな喜びに打ち震えていると、不意に声を掛けられる。その方向を見上げると、ココアの甘い匂いがするカップを片手に持った男がそこに立っていた。

 

 

桜木「.........最高だよ」

 

 

能面「.........ふ、そうか」

 

 

桜木「その、こういうのも凄い変で、笑われるかもしれないけどさ.........」

 

 

桜木「アンタが俺で、本当に良かった」

 

 

能面「.........」

 

 

 夢の中で見た男の姿。それは正に、俺の理想像だった。どんな相手だろうと、決して自分の正義を譲ること無く、護りたい者を護る為に立ち向かう。それがたとえ、[世界の平和]、[世界の願望]そのものだったとしても.........

 それを伝えても、男は表情一つ変えることなく俺に背を向けて机に座る。ココアを一口飲んで、心底居心地が悪そうな態度を示していた。

 

 

桜木「.........あー、俺あの子達の所に行くよ。改めて謝らなきゃ」

 

 

能面「.........さっさと行け」

 

 

 ぶっきらぼうにそう言われた俺は、そのまま起き上がり、部屋から出る為にドアノブに手を掛けた。

 その時、少しだけ男の方を見たけど、俺にその顔を見せないよう、そっぽを向いて居た。

 

 

 部屋から出た俺は、もう一度息を吐いた。これで終わりじゃない。これから[始まり]なんだ。今まで起きていた[奇跡]を超える為の、はじめの一歩なんだ.........

 

 

桜木「.........ありがとうな」

 

 

 胸から下げた王冠のアクセサリーを軽く握り、そう呟いた。微かだけど、温かさが生まれたような気がした。

 これからの道を歩き切るために、覚悟を決め直した俺は、あの子達と会う為に、その足を進めて行った―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [夢覚め人]になった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――生き恥の多い人生。他人から見たら[山あり谷ありの人生(ノーマルエンド)]かも知れないが、俺にとっては[失敗そのもの(バッドエンド)]だった。

 

 

能面「.........お前達は行かなくていいのか」

 

 

神威「.........眠いから二度寝するわ」

 

 

黒津木「右に同じく」

 

 

白銀「あの女可愛かった.........もう一度会いてぇ.........」

 

 

 戯けたことを言う男達。その姿を見て、俺は何故か、安心を覚えてしまう。

 

 

 辛い事の連続だった。だが幸せも確かにあった。俺にとっては、かけがえのないものを得た人生だった。それと同時に.........かけがえのないものを失った人生でもあった。

 

 

 夢を失った。希望を失った。道を失った。そして、友を失った.........数えても数え切れない。誰かが俺の人生に、例え百人。或いはこの世界の神に[100点]を付けられたとしても、俺は自ら[0点]としてしまうほどの人生だった。

 

 

神威「.........まぁでも、二度寝する前にさ」

 

 

黒津木「泣き虫を慰めねぇとな」

 

 

白銀「あのじゃらじゃら付けたらまた会える.........?」

 

 

二人「お前ほんと死ね」

 

 

能面「.........っ、っ!!」

 

 

 水滴が零れる。一つ、二つと落ちたのを見てなんとか堪えようとしてみるが、どうにも抑えることが出来ない。

 変な奴だと思われているかもしれない。歳をとってボケたのかと勘繰られているかもしれない。けれど俺にとって、今のこの目の前の光景は.........!!!もう二度と戻って来ないものなんだ.........!!!

 

 

能面「俺は.........!!!本当はお前達ともっと騒いでいたかった.........!!!」

 

 

能面「けど!!!俺は弱くて意気地無しで頑固だから!!!一度得た物を失いたくなかった!!!」

 

 

能面「それをバカにされたり!!!コケにされたりする覚悟はあったんだ!!!なのに.........なのにぃっっ!!!」

 

 

三人「.........」

 

 

 あの男は言った。アンタが俺で良かったと.........この道を進んだ俺を否定する事無く、バカにしたり、コケにしたり、嘲笑うことも無く.........むしろそれを、誇りに思ってくれた。

 情けない声を上げないようにしていると、不意に背中に温かさが触れた。三つの手が、俺を慰めるように撫でて来るのを感じた。

 そこからはもう.........年甲斐も無く、恥も外聞も無いままに、今までの後悔を全て懺悔し、洗い流して行くように俺は.........その涙を流し続けて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロ「.........」ムクリ

 

 

レックス「.........酷い目にあったね」

 

 

 目が覚めて、上半身を起こした。隣から声が聞こえたから、その方向を見る。そこには、その言葉とは裏腹に楽しい夢を見たとでも言わんばかりの表情を浮かべた馬鹿が居た。

 

 

シロ「どこがよ。よく分からない学校の生徒にされた挙句変な同級生やら先輩やら後輩やらに囲まれて挙句の果てに教師は滅茶苦茶。地獄ったらありゃしないわ」

 

 

レックス「そうかい?制服姿のシロ。可愛かったな〜」

 

 

シロ「.........」

 

 

 彼は起き上がる事無く、その場に寝ながら顔をふにゃふにゃとさせる。せめて本人の居ない場所でその発言と顔をして欲しいものだけど、それは今に始まったことじゃない。

 

 

シロ「ねぇ。シロっていうのやめて。安直過ぎて好きじゃないわ」

 

 

レックス「え?じゃあどう呼べばいいんだい?名前無いんでしょ?」

 

 

シロ「.........うぐっ」

 

 

 そうだ。普段馬鹿っぽい雰囲気をまとっている癖に、言ってくる事は一丁前に的を射てくるんだった.........すっかり忘れていたわ。

 仕方が無い。そう思った私は、話題を逸らそうとした。

 

 

シロ「それにしても、彼は本当に超えられるのかしら.........」

 

 

レックス「.........超えられる。なんせ彼は、僕には出来なかった、[心の無い者に心を宿らせる力]がある.........名前を付けるんだったら―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[獅子星心(レグルスハート)を持つ者].........かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロ「.........ダサっ」

 

 

レックス「えぇ!!?カッコイイよ!!?」

 

 

 ネーミングセンスもなんか悪い。別に普通に言えば良いのに、心の中のいい名前でしょこれ?自分が自力で考えましたーっていうのが顔に現れてて酷いと思う。

 それでも、そんなやり取りが懐かしくてつい笑ってしまう。彼と過ごした年月は、意識がある中では決して長い訳では無いと言うのに.........

 

 

レックス「.........変わるといいね。[運命]」

 

 

シロ「.........そうね。きっと変わってくれる」

 

 

 私ですら変えられなかったもの。それでも、それを変えてくれるかもしれないと感じさせてくれる存在。

 その存在に思いを馳せながら、この暗い空間に一筋の光が.........陽の光が差し込んで、辺り一面を照らし始める。

 そこは、草原だった。私が望んだ楽園。私達がのびのびと生きていける場所。そんな場所に[人間]と二人、並んで居る。

 

 

 私の思いを変えてくれた.........[彼]のように、きっと。[本編(運命)]も心変わりをしてくれる。そう思いながら、私は隣に居る彼の手にそっと触れた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、思ったのだけれど、走るのってそんなに楽しいのかしら.........?」

 

 

「.........さぁ?」

 

 

「.........今度下界の方に走りにまた降りましょうか」

 

 

「.........え」

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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