山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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気付いたら愛バの為に覚悟を決めてトレーナーを辞めた話

 

 

 

 

 テイオーが出走した有馬記念。桜木がマックイーンを送り届けたその翌日の事。

 

 

桜木「.........?」

 

 

「よう」

 

 

 トレセン学園の駐車場。そこでアタシは、目の前の男を待っていた。まぁアタシもここに用事があってきた。どちらかと言えばついでの方だ。

 車から出てきた桜木が怪訝そうな顔をして扉を閉める。アタシはそのままゆっくりと目の前に立つように近付いた。

 

 

桜木「.........なんすか?トマトさん」

 

 

「[キンイロリョテイ]だ。もう正体分かってんだから偽名を使う必要もねぇだろ」

 

 

桜木「んで、そのリョテイさんが何の用かって聞いてんすよ」

 

 

 若い男は面倒くさそうにアタシの存在を扱う。片手を首の後ろに添え、凝りを解すように首を回している。

 その姿が気に入らねぇ。何を言うべきか。何を言えばその表情が変わるのか。それを模索している内に目の前の男はアタシの傍から離れようとする。

 

 

リョテイ「動くな」

 

 

桜木「.........だからなん―――」

 

 

 溜息を吐きながらこっちに振り返る桜木。そしてそれを予測し、胸ぐらを思い切り掴んでから股下に空いている空間に向かって蹴り抜く。

 手加減はした。車は壊れない様にしたつもりだが、音は大きかった。普通の奴なら、ここいらでチビってアタシの話を素直に聞くはずだ。

 

 

 だが.........

 

 

桜木「.........弁償してくれるんすか?ブルーエンペラー」

 

 

リョテイ「.........っ、あのクソジジイとそっくりだなアンタ。やりにくいったらありゃしねぇ」

 

 

 そんな状況でも尚、桜木はその表情に怯えや恐怖を一切見せやしない。それどころか、眠たそうに目を細め、今にも欠伸をしだすのでは無いかというくらいふわふわした状態だった。

 

 

桜木「用がないなら行きますよ。弁償は.........あぁいいかな、綺麗な蹄鉄跡が着いてかっこよくなったから」

 

 

リョテイ「待て。お前どうするんだ?」

 

 

桜木「トレーナー辞めます」

 

 

リョテイ「―――は?」

 

 

 何の気なしに、まるで今朝見たくだらない夢をなんの脈絡も無く友人に話すように、桜木は自分のこれからの進退の予想顛末を語った。

 何を言っている?なんでそんな顔が出来る?アタシの頭では到底理解が出来ない。今この男が何を考え、行動しているのかが.........

 

 

桜木「.........夢は、人を壊し、狂わせます」

 

 

桜木「リョテイさん。貴女は言ったっすよね?夢は呪いと同じだって」

 

 

 それは、テイオーが出走した菊花賞の時、アタシがコイツに投げ掛けた言葉だった。それをこうして、今度はアタシが投げ掛けられている。

 別に、大して深い意味は無い。ただあの時、浮き足立って喜んでいるこの男の為に、気を引き締めさせてやっただけの言葉だ。それ以上でも以下でも無い。

 

 

桜木「.........アンタの[夢]は、なんだったんすか?」

 

 

リョテイ「.........はぁ、世界中を[旅]することだよ」

 

 

 目を伏せて、思い出に耽りながらあの日抱いていた夢を語る。それは多くのウマ娘が抱える様な大きい物じゃない。けれどアタシにとっちゃ、見過ごせない物でも無かった。

 

 

リョテイ「アタシは結構ウマ娘としてはいい家の出身でな。テメェの愛バほどじゃねぇけど」

 

 

リョテイ「周りはそれなりに結果を出してて、アタシもそれなりに期待されてたさ。それが、重っ苦しくてよ」

 

 

 そう。アタシの夢は、あの息苦しい世界から解放される事だった。金を貯めて、誰もアタシの事を知らねぇ場所をブラブラとして、宛もなく一人で生きて行く。それが.........[最初の夢]だった。

 

リョテイ「.........それがよう、どういう訳か知らねぇが形を変えて行きやがる。レースなんてもんに手ぇ出したせいか、作った覚えのねぇ繋がりだとかしがらみが生まれて行った」

 

 

リョテイ「気が付けば、引退したアタシは貯めた金で世界を旅行してた。一人じゃねぇ。今まで関わりのある奴ら全員連れて、どんちゃん騒ぎしながらな」

 

 

リョテイ「まぁ.........悪くない、気分だったぜ」

 

 

 アタシともあろうものが、自分でも殊勝に思っちまう。世話になったヤツら。レースで走ったヤツらを連れての世界旅行だなんて、今まで聞いた事がない。

 でも、あの時のアタシはなんでか、一人で世界を回る気にはなれなかった。いや.........一人じゃ、回れなかった。

 別に寂しかったとか、心細かったという訳じゃねぇ。今まで長い間付き合ってきたヤツらになんの恩も返さずにトレセンを卒業するのは、アタシの心にモヤを残す。それだけは避けたかった。

 

 

 だから、アタシの背に期待を乗せて走らせ続けたヤツらに対して、アタシはアタシの夢に付き合わせる事でその義理と恩を精算して見せた。

 

 

リョテイ「夢は呪いだ。例えどんなに人と繋がろうとも、頑固な奴の夢は決して、姿を変えやがらねぇ」

 

 

桜木「.........でも、それはいつか叶う物だ」

 

 

リョテイ「.........?」

 

 

 目を伏せ、顔を俯かせている桜木。その表情は影で良く見えない。だが、その姿を見てアタシは安心した。

 

 

 トレーナーを辞める。初めにそれを聞いた時、アタシは一発ぶん殴ってでも止めようと思った。そんな事をしたら、あのクソジジイと同じ末路を辿る所か、それ以上に面白味もねぇクソみてぇな[ドラマ]になっちまうと思ったからだ。

 

 

 雨が降っている。一部分だけ。この男が俯いている部分にだけ、雨が疎らに降っている。

 

 

桜木「夢は.........呪いだ.........!!!」

 

 

桜木「こんなに苦しいのにッッ!!!諦めた方が楽になるって.........分かってんのに.........!!!」

 

 

桜木「どうしても.........ッッ!!!追っちまう.........ッッ!!!」

 

 

 男は顔を上げて、アタシの方を見た。その顔は涙でぬれぬれで、みっともないことこの上ない顔だった。

 それでも、それでいいと思った。それが良い。それでこそとすら思っていた。

 

 

 この男は[諦めない]。いつか起こるはずの[奇跡]を待つこと無く、自らの手で[奇跡]を超える為に、今はこの居場所から離れる事を決意した。

 [くじけぬ精神]と[決死の覚悟]を胸に、この男は今。夢という[呪い]を解こうともがいている。

 

 

リョテイ「.........一つ、間違えてるぜ?」

 

 

桜木「?.........!!?」

 

 

 アタシは、その場から一歩だけ桜木に近付いた。涙の鼻水で塗れた顔を見て、そのまま片腕を伸ばし、自分の胸に構わず抱き寄せた。

 

 

リョテイ「.........夢は呪いだ。けどな、それを呪いのままにするか、それとも祝福にするかは、その夢を抱いた奴自身だ」

 

 

リョテイ「今のお前に何言っても重荷になるのは分かっけどよ。これだけは言わせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の[物語(ドラマ)]。皆楽しみに信じて待ってんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じれば、コイツが育ててきたヤツらが走る姿が目に浮かんでくる。どいつもこいつも一癖も二癖もある。統一感なんて微塵もありゃしねぇ。

 そんなヤツらを否定せず、コイツは走らせている。縛る事も強制することも無い。それは、アイツらの走り方を見れば直ぐにわかる。

 バラバラだ。普通少しは似通った走り方になるはずなのに、コイツのチームメンバーは誰一人、似た様な走りはしてねぇ。

 それなのに、全員が同じ先を見て歩いている。どこに向かっているかも、何に向かっているのかも分からず、後ろに居るコイツからの指示.........いや、先に向ける視線を頼りに、寄り道をしながらもどこかへ向かっている。

 

 

 ゆっくりと腕を下ろし、押さえていた頭を解放する。上半身をまた真っ直ぐにしていく様子には、もう不安定さは感じられない。その顔に涙も無い。あるのは.........[夢を追う者]の姿だった。

 

 

桜木「.........夢を追うだけじゃ、助けられない人も居ます」

 

 

桜木「俺は.........俺のこの行動は、間違ってると思いますか?」

 

 

リョテイ「ざけんな。合ってる間違ってるじゃねぇ。テメェが満足するか妥協するかだけだ。マルバツ付けられてぇんなら一生学生やってろ」

 

 

 強い眼光で自身の行動の成否を問う。それに対してそういう問題では無いと喝を入れると、桜木はそれを分かっていたかの様に小さく笑った。

 その姿を見て、アタシも目を伏せて笑みを零す。この男は面白い。見ていて飽きない。それどころか、もっと面白くしてやりたいとすら思える。不思議な存在だ。

 

 

リョテイ「それで?目的は分かってんのか?」

 

 

桜木「ええ。昔散々送られてきたアンタの娘さんからのファイルメッセージ。見たらあのクソジジイからでしたよ」

 

 

リョテイ「ハっ、抜け目ねェな。相変わらず」

 

 

桜木「そりゃ、マックイーンが関わってますから」

 

 

リョテイ「!.........へっ、お熱いこった」

 

 

 にへへ。と笑う男の姿に、流石のアタシも呆れて頭をかいた。結局コイツは迷ってはいるが、その決断に後悔も、躊躇いも無い。

 ただこれが、本当にあの子の為になるのか。これから先居なくなっても良いのだろうかという迷いだけだ。自分の起こすこれからについては、一切合切気にしていない。

 

 

 そうして、お互い何も言わずに居る中で、桜木は前へと歩き出した。時間はたっぷりとある。そう言うように、その足取りはゆっくりと。しかし確かな物だった。

 その後ろ姿に、かつての[未来だった]姿が重なる。

 執念を燃やし、心を鬼にし、世界を覆し、いつかのどこかに居る愛すべき者の為に悪役となった男の姿。

 それが重なった時、アタシは思わずその背中に声を掛けた。

 

 

リョテイ「月並みなセリフだけどよッッ!!!」

 

 

桜木「?」

 

 

リョテイ「.........変わるといいな。[未来]」

 

 

桜木「.........」

 

 

 まだ誰も、この世界にいる誰もが知り得ぬもの。それをアタシ達は知っている。

 確かに最後は大団円を迎えた。喉に突き刺さる様な面倒臭い痛みは、最後の最後で漸く抜けた。そんな結末を、あのジジイは迎える事が出来た。

 でも、それは結局[妥協]の先にあった幸せだ。道を諦めて歩みを辞めた身分では貰えないはずの物。それを貰えれば誰だって幸せだと思うだろう。

 けれどコイツは違う。まだ[諦めていない]。そんなヤツが同じ道を辿って、同じ結末を迎えたとしても、幸せにはなれない。

 

 

 [未来]を[超える]。この男にとってのハッピーエンドは、それが絶対条件。

 そしてそれを承知の上だと言うように、桜木はその背を向けたまま、アタシに対してサムズアップをして歩いて行った。

 

 

リョテイ(.........全く。男っつうのはどうしてこうもカッコつけたがるのか.........コウのヤツにも分けてやって欲しいぜ)

 

 

リョテイ「さァってと〜?編入手続きの書類は〜っと.........」

 

 

 ショルダーバッグを開けて小さいクリアファイルを取り出す。中身をしっかり確認し、封筒が[二枚]ある事をしっかり見たアタシは、桜木の後を静かについて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 ガヤガヤとした雑踏。見慣れた人種、そうでない人種が入り交じり、向こう側へ、そしてこちら側へと歩いて行く人の波。その波を背に、俺は一人ベンチに座っていた。

 

 

桜木(.........か)

 

 

桜木(かっこつけ過ぎたァァァ.........!!!)

 

 

 今更になって頭を抱える。若気の至り。若さ故の過ち。もう既にそんな歳などとうに過ぎているというのに、未だに若さが抜けきらない自分に苛立ちを覚えながら頭を抱える。

 .........だかまぁ、失敗だと思ったのはその部分だけで、他は全て及第点。出来ることはした筈だ。

 以前はチームの事を考えると後ろ髪引かれる思いで行くに行けない状態に陥り、結局決断が夢を見てギリギリになってしまったが、今回はチームのお陰でこの決断が下せた。俺が居なくても、あの子達は支え合って歩いてくれる。

 

 

 それでも.........その若さの代償が大きすぎる.........

 

 

桜木(大丈夫かなぁ.........リョテイさんゴールドシップ達に言いふらして無ければ良いんだけど.........?)

 

 

 げんなりとしながらどこを見る訳でも無くただ前を見ていると、不意に隣に誰かが腰を下ろした。普段だったら失礼だし、何より俺はトレーナー関連外のコミュニケーションは苦手だ。ガン見することはしない。なんなら見ない。

 けれど今回は話が別。隣に座る人物が履いている靴に見覚えがあり、少し視線をずらすとやはり馴染み深い服。そう、[トレセン学園の制服]を着たウマ娘が足を組んで、スマホを弄っていた。

 

 

桜木「.........」

 

 

「.........?なんだアンタ」

 

 

桜木「え!!?あっ!!!いや!!!こんな所でトレセンの子に会えるなんて思っても居なくて!!!」

 

 

 うわ。なんだそれ。別にそんな手をワタワタさせて言う事じゃねぇだろ。冤罪吹っ掛けられた男の反応か?そして見ろ。相手は挙動不審な俺を見てスマホの画面を見ないまま電話を掛け始めようとしているぞ!!!

 

 

桜木「わァァァ!!!i am trainer!!!in toresen school!!!It’s ok!!?」

 

 

「.........」

 

 

 慌てて弁解を図る。立ち上がりながら何とか怪しいものでは無いと捲し立てるが、充分怪しい。それに日本語じゃない。im Japanese。日本人よ。

 それを冷たい眼差しで見つめる少女。いや、雰囲気的には女性。まるで養豚場のぶたを見る目で俺を見てくる。正直心を抉られる。辛い。

 

 

「.........んで、そのトレセンのトレーナーがどうしてこんな所に居るんだ?」

 

 

桜木「いや〜、言いたいのは山々なんですけども、言い難い事情と言いますか、言いたくないと言いますか.........」

 

 

「.........ふぅん?ん?」

 

 

 今度は訝しげな目で俺を見ている彼女だが、直ぐにその目は何か疑うような目に変わった。そしてそれはどこか俺と言うより、俺の後方に向けられている気がする。

 それに気付いた時には、俺の体は耳を頂点にし引っ張り上げられる。あまりの痛さに声すら出ない。

 少し歩かされると、そこで乱暴に放り投げられる。バランスを取ることすら出来ず、そのまま俺は尻もちを付いた。

 

 

桜木「いっ.........何すん......だ.........!!?」

 

 

 俺をここまで連れてきた張本人に対して抗議の声をあげようとしたが、その[人達]を見て思わず言葉を失う。

 

 

「久しぶりだな。皆。遣英使先遣隊隊長の―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ナリタブライアンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「副隊長の爺やです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主治医です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「」

 

 

桜木「な、ぁ...ガ.........」

 

 

 なんだ。なんだこれ。一体目の前で何が起きてるんだ?俺はまず何に対して突っ込めばいい?怒涛の展開だとかそんなヤワなもんじゃない。頭がおかしい。情報量でぶん殴られている。

 最早言葉ですらない声を出し、目の前の光景に硬直する。ビデオカメラに対して腕組と仁王立ちを決める探検服を着たブっさんと上品に立つ爺やさん。そして注射器持ってるバキに出てきそうな顔立ちの主治医。あっ、無理。頭が受け入れてくれない。

 

 

「お前、なんだその格好.........?」

 

 

ナリブ「ん?アンタは.........帰ってきたのか。随分長かったな」

 

 

「いや、そんな事よりお前」

 

 

ナリブ「済まないが私もこれから海外へ行く。会長によろしく頼む」

 

「いや」

 

 

ナリブ「あと前みたいに会長に勝負を吹っ掛けるような真似はしない方がいい。面倒な事になる」

 

 

「」

 

 

ナリブ「じゃ」

 

 

 先程俺の隣に座っていたウマ娘はどうやらブっさんの知り合いだったらしい。そんな彼女にいつも通りのぶっきらぼうな返答と有無を言わせない流れでブっさん流のおかえりと行ってきますと忠告を言うと、彼女はそのまま俺をズルズルと引き摺りながら歩き出した。

 

 

 俺の隣に座ってきたウマ娘の呆気に取られた姿が遠ざかっていく中でようやく意識を取り戻した俺は、引き摺られながらやっと質問が出来るようになった。

 

 

桜木「ブっさん!!?ブっさんなんで!!?」

 

 

ナリブ「うるさいヤツだ。理事長にまた頼まれたんだ。お前の勝手な行動のせいでアタシの紅白を見ながらコタツで年を越す恒例行事が無くなったぞ。大概にしろ」

 

 

桜木(あっ、ブっさん紅白派なんだ.........意外.........)

 

 

 知らなかった。てっきり俺はガキ使で年を越す派だと勝手に思っていた.........って、そこに関心を持って行かれてどうする!!!

 ブっさんがここにいる理由は何となく分かっていた!!!前回の事があるからな!!!微塵も考えてなかったわけじゃない!!!

 けど他二人ィ!!!

 

 

桜木「アンタら何してんのっっ!!?」

 

 

爺や「私共も桜木様のお力添えをしたく」

 

 

桜木「いやマックイーンは!!?ちゃんと見ててくれないと―――」

 

 

爺や「お嬢様ももう高等部でございます。確かに心配ではございますが、無理をして怪我を悪化させるような事は絶対にしません。私達はそれを踏んでここに居る所存で御座います」

 

 

 丁寧に俺の方に体を向け、片手を胸に当ててお辞儀をする爺やさん。そう言われてしまったらもう何も言い返せない。何故なら彼女はもう、一人で無理をする事は無いと俺も知っているからだ。

 

 

爺や「ですがこの事は言っておりません。親戚の急病と言う事でお嬢様に話を通しております故、バレたら大変で御座います」

 

 

桜木「ダメじゃん!!!というか爺やさんは良いかもだけどアンタは絶対ダメだろ主治医ィッッ!!!マックイーンの側に居ろォッッ!!!何でここに居んのォ!!!」

 

 

主治医「私がここに居る理由。それは至極簡潔で分かり易いものです」

 

 

主治医「それは私がお嬢様の主治医だからです」

 

 

 だ.........ダメだ.........もう分からない.........訳が分からないよ.........

 

 

 どれもこれも、意味が分かる(一つだけ全く持って意味不明)。だが、俺のこの一人の旅路に付き合う道理がない。彼女の事を思うなら側に居て支えてあげるべきだ。そう思うことはおかしいのだろうか?

 端的に言えば、見えてこないのだ。この人達が俺に着いてくる理由が。明確な決心が見えてこない。それにブっさんは兎も角、他二人がなんで俺の行動を予期してここに居るのかも分からない。そんな事ばっかりだった。

 

 

 既に思考回路はショート寸前。口から魂が抜け掛けていると、不意に俺の下半身から摩擦が一切感じられなくなる。何かと思い俺を引っ張っていた彼女の方を見ると、全員が俺に対して視線を向けていた。

 

 

爺や「.........桜木様は何故、お嬢様から離れる決断をするのですか?」

 

 

主治医「.........」

 

 

ナリブ「フン、大方。また[夢]でも見たんだろ」

 

 

 [夢]。そう言われてハッとする。その言葉を聞いて、思い出す。俺の行動理由。テイオーの[有馬記念]を見て、悔しいと思ってしまった本当の理由。その全てを、俺は今漸く理解する事が出来た。

 

 

 あの日。マックイーンと再び[一心同体]を誓った。諦めるのなら一緒に生きる意味を探すと、諦めないのならばこの先、どうなっても彼女の車椅子を一生掛けて押し続けると。

 

 

 けれど、そんな事は些細な事だ。きっとあの時絶望して居なくとも、俺は同じ事を言っていた。

 

 

 そして、[絶望して居なければ]言え無かった事。そうならなければ、そうあろうと思えなかった事が一つだけある。

 

 

『俺の夢になってくれた君を助ける為に、俺は―――』

 

 

桜木「.........ああ、見たよ」

 

 

全員「.........?」

 

 

桜木「ずっと、その[夢]を[見ていた]さ」

 

 

 片手を着いて、ゆっくりと立ち上がる。俺はもう[諦めない]。それは、[諦める事を諦めた]から。

 それはきっと、[祝福]から[呪い]へと変わる瞬間だったのだろう。あそこで諦めてしまえばあの時のように、かつて志した道を戻るように、遠巻きながらもその道を見て良かったと思える余生を過ごせただろう。

 でもそれは、俺一人で歩いた道だ。今俺の隣には、前には.........沢山の人がいる。俺が戻ってしまえば、それに釣られて戻っていく人達も少なからず居るかもしれない。先に進む力を持ち、誰も到達した事も無い場所へ行ける誰かを、巻き込んでしまうかもしれない。

 そしてその中には、彼女も居る。俺が不甲斐ないせいで、進めるはずの場所を進む事をせず、かと言って戻ることすら出来ない。その場で停滞してしまう最悪の状況に陥ってしまうかもしれない。

 

 

 もし、俺がこの[呪い]を解いたら。

 

 

 もし俺が、もう一度これを[祝福]だと心の底から言えるようになったら.........

 

 

桜木(待っててくれ。マックイーン。皆)

 

 

桜木(俺は今度こそ.........)

 

 

 俺は人間だ。ウマ娘じゃない。だからあの子達が走るその隣を、姿を間近で見る事は出来ない。

 けれどだからってへこたれてちゃダメなんだ。人間だとしても、彼女達よりも足は遅くても、前へ進まなきゃ行けない。

 俺が、彼女達を前へと進ませるんだ.........

 

 

 そんな事を強く思い、そしてそれを願いながら歩き出す。あの日見た[夢]。それをいつか、現実の物にする為に.........

 

 

『断言出来るよ。君は大化けする。人々の視線を持って行くレベルまで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成田空港をご利用のお客様へお知らせがございます」

 

 

「現在ロビーにて、荷物のお忘れ物がございました。お心当たりのある方は、受付までお越しください」

 

 

桜木「.........」

 

 

ナリブ「.........なんだ?そのまま行っても良かったんだぞ?」

 

 

 

 

 

 ―――気迫を感じる背中を見せていた桜木だったが、その放送を聞き終えた瞬間。自分の片手を開いては閉じを繰り返し、恥ずかしそうにこちらへ戻って来た。

 

 

桜木「.........荷物忘れちゃった」

 

 

全員「.........」

 

 

 .........さっきまで威風堂々、鬼迫すら感じる意志の強さを感じていたが、しょんぼりとした顔でそのままとぼとぼとロビーの方へ戻っていく。

 流石に溜息すら出なかった。出なかったが.........アイツの背中が見えなくなった時、不意に笑いを零してしまう。

 

 

ナリブ「.........フっ、本当に調子を狂わせてくる男だ。アンタらにも引けを取らないぞ」

 

 

爺や「それはそうでしょう。将来お嬢様の隣を歩き続けるお方です」

 

 

主治医「私達をコント集団と言っていましたが、彼もそこに加わるのは明白です」

 

 

ナリブ「れ、恋愛という奴らしいな.........分からん」

 

 

二人「それは違うと思われます」

 

 

 突然現れたあのお嬢様の従者と会話を交わしながら桜木を待つ。この二人は本当に突然私の前に現れ、同行を願い出た。

 理由はお嬢様の事だとはハッキリしているが、その胸の内に灯る強い意志はまだ言葉にされて居ない。この旅の中で、それが聞けることを楽しみにしながら私達は桜木が戻ってくるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機内のアナウンスを流し聞きしながら窓の外を見る。既に飛行機は陸から離れ、そろそろ日本から離れていく。

 ここからイギリスまでは14時間ほど掛かる。雲を眺めながら俺は、不確かなまでも、この旅の成功を確信していた。

 

 

桜木(この物の声が聞こえるとか言う力、相当便利だ.........これのお陰でゴールドシップの送ってきたファイルの正体も分かったし、エディ先生がイギリスに行ってから飛行機に乗って無いという情報も得られた)

 

 

桜木(.........絶対、上手く行く)

 

 

 この旅の始まりは、スマホから聞こえて来た声。テイオーの有馬を見て、まず何処に向かうべきかを考えていた時、不意に聞こえて来た。ゴールドシップが送ってきているファイルを開け、と。

 それは、ビデオメッセージだった。あの未来の俺から、マックイーンの繋靭帯炎を治す手段と方法が記されたデータを、エディ先生が持っていると。

 

 

 そして、そのエディ先生がイギリスから離れて居ない事はこの飛行機との会話で判明した。人を運ぶという使命を持って生まれた子の存在は、空から地上の人物を見る事ができ、過去十年間、エディ先生は一つの場所から移動していないと言われた。

 

 

桜木(すぐに答えを聞きたいけど.........ちょっと疲れたな.........)

 

 

 普段自然と耳に入ってくる程度の声を意識して聞くようにする。又は聞かせてくれるよう心を込める。その慣れない行為によって疲労が溜まったのか、まだ昼前なのに眠くなってきてしまった。

 この先は長旅だ。体力はできるだけ使いたくない。そう思った俺は答えは降りてからでも良いと結論付け、ゆっくりとその目を閉じ、眠りに入ったのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりとした意識。一体いつから目の前の景色を見ていたのか分からない。ただ一つ、気が付けば俺は暗闇の中で佇む[三人のウマ娘]と、その端っこで拘束されている[白バ]と[王子様]を視界に捉えていた。

 

 

桜木「え」

 

 

「初めましてだね。子羊くん」

 

 

「会えて嬉しいわ。こうして見ると、やっぱり違うわね」

 

 

「無駄話をしている暇は無いだろう。私達も、彼も」

 

 

 赤。青。黄。それぞれ派手な色をした服を身にまとった女性達が居る。そのうち二人は俺の事を吟味する様に見ているが、黄色の服を着た人は早く話を進めたいのか、腕を組んでただ目を瞑っている。

 

 

桜木「あ、あの、どちら様です?」

 

 

「そう言えば自己紹介がまだだったね、俺は.........っと、時間が余り無いんだった」

 

 

「そうよ?シロ様を無力化できるのは三人の力を合わせても十分も持たないんだから。手短にね?」

 

 

「シロ様がウマ娘にとって[はじまり]の存在ならば、私達は所謂[競走バ]の[はじまり]だ」

 

 

 そこまで言われて、目の前に居る人達の正体がやっと分かる。もしかして、いや、まさかそんな.........

 けれどそうとしか思えない。その答えに辿り着き、それを口に出そうとした瞬間。赤に彩られた服を着た女性が俺の前に一歩近付いてきた。

 

 

「子羊くん。単刀直入に言おう。その力はまだ君には扱えない」

 

 

桜木「へ?」

 

 

「それは確かにとても便利な力.........けれど、絶えず物の心が聞こえると普通の人は、自分の心を見失ってしまうわ」

 

 

「それを一度、私達に預けさせて欲しい」

 

 

 勇ましい目。慈しい目。厳たる目。その三人の性格を表すような視線が俺に集まってくる。

 この力は.........絶対役に立つはずだ。マックイーンを救う為に、多くを救う為にきっと、この力が必要な時が必ず来る。それを今手放して良いのか?

 そう思うと、身体は酷く硬直し、思考は絶えず問答を繰り返し始めた。

 

 

「弱ったな.........その力を今使い続ければ、君は自分の意思かそうでないか分からなくなってしまうんだ」

 

 

「目覚めた貴方はまだ不安定なの。それを安定させる為にも、その力は危ないわ」

 

 

「心配するな。お前が結んだ物は決して消えん。お前が心の隣に置いた物まで持っていくつもりは無い」

 

 

桜木「.........」

 

 

 ほら。その声に反応し、俯いていた顔を上げると、三人とも優しい顔をして俺を見ていた。その理由が、俺には分からなかった。

 

 

 この人達はきっと、[三女神]様なのだろう。走るウマ娘達にとっては、最早超えるという事すらおこがましい存在。

 確かに、神様というのは慈悲深いとよく聞く。けれど目の前にいる人達は話してみればなんてことは無い。雰囲気以外は普通の人達だ。そんな人が理由も無く、俺に優しくしてくれるのは不自然だと思ってしまった。

 

 

 そしてその俺の内心を読み取ったのだろう。三人はそれぞれ目を合わせ、それぞれの笑い方で笑った。

 

 

「お前には感謝している」

 

 

桜木「え?か、感謝.........?」

 

 

「うん、俺達ですら変える事の出来なかったシロ様を、たった一度の問答で変えてくれたんだ」

 

 

「感謝してもしきれないわ。シロ様とはずっと、仲良くしていたかったから.........」

 

 

 青い色が目立つウマ娘が悲しそうな声色でそう呟いた。その声と言葉だけで、彼女達とあの女神様がどういう関係性だったのか容易に想像することが出来た。

 縛られている二人の方に視線を移す。話を聞いていた彼女と彼は最早抗う気は無いらしく、俺の行く末を見守るようにこちらをじっとただ見つめていた。

 

 

「それでも不安なら、わたしたちから代わりの力を貸して上げるわ」

 

 

「ああ、あいにく人探しや人を繋ぐ力は無いがきっと困難を切り開くのに使えるよ」

 

 

「あまり一人の人間に肩入れするのは気乗りしないが.........お前にはそれをするだけの恩がある」

 

 

桜木「.........ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、良いです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「.........え?」」」

 

 

 俺の声に反応して、三人は揃って疑問の声を上げた。個性的な三人が見せたその表情は同じ様なもので、あまりに揃った顔をしているから思わず笑ってしまった。

 

 

桜木「俺、もう色んな人から沢山の物を貰ってるんです」

 

 

桜木「だから受け取らない、と言うか.........もういっぱいいっぱいで受け取れないんですよ」

 

 

桜木「.........貴女達にも、分けてあげたいくらいだ」

 

 

 今の俺の身体は、沢山の人達の思いがこもっている。俺を信じて待っている人達。俺の帰りを待っている人達。そして、俺が[奇跡]を超えるのを、待っている人.........

 もう身体のキャパシティは完全に超えている。コップから溢れそうになった表面張力ギリギリの水の様に、俺の心と身体はもう、何かを受け取れる余裕が無い。

 

 

 俺は女神様の祝福を受け入れられる程もう、空っぽじゃない。

 

 

 そんな俺の事を呆然と見ていた三人がその顔を見合せ始め、突然大きく笑い出した。今まで大人の女性。という雰囲気の笑顔だったが、今は俺のよく見る皆の表情をして笑っていた。

 今度は俺が呆けた様子で彼女達を見ていると、真ん中に居る赤色が印象的な女性が人差し指で目の端の涙を拭って喋りだした。

 

 

「ごめんよ子羊くん.........いや、君にその呼び方は失礼かな」

 

 

「本当。見た目や年齢以上にしっかりとしてるのね。びっくりしちゃったわ」

 

 

「シロ様が変わった理由もよく分かる。お前のその意気込み。確と伝わったぞ」

 

 

 一頻り笑い終えた彼女達はその表情を柔らかいままに、それぞれの手を差し伸べて手のひらを上にし重なり合わせる。それに手を乗せれば、俺のこの、物の心が聞こえる能力が無くなるというのは察する事が出来た。

 

 

「心変わりをするなら今の内だよ?後でやっぱり必要だと言われても、俺達は君の都合で会える訳じゃ無いからね」

 

 

「でも、わたしたちの都合で会うっていうのもなんだか自分勝手な気がして申し訳ないわ.........」

 

 

「どうする?お前は自分を曲げずに、このまま手を置くか?」

 

 

 三人が優しく俺に問いかける。視界の端で縛られている白バの女神様とその王子様も、どこかその答えを知っていると言うような表情で俺の事を見ている。

 答えは出ている。それを言うにはまだ、俺には皆の様な勇気や彼女の様な覚悟は無い。

 

 

 けれど.........

 

 

桜木「.........男って言うのは、強くなくても良いんです」

 

 

「「「.........?」」」

 

 

桜木「強くなくても、大事な場面で[強がる]事が出来れば良い」

 

 

 いつかの未来で言われた、彼女にとっての[強さ]。[誇り高さ]。その意味を今自分に落とし込み、俺も俺なりに、彼女と同じ道を辿りたいと思った。

 俺は強くない。少年漫画の主人公みたいな特別明るかったり楽観的じゃない。いつも気付けばマイナス思考で埋め尽くされる。小説でよく見る主人公の様に聡明じゃない。分からない事を分からないまま考え続けて一人頭を抱えるなんてざらだ。

 でも俺は、元ではあるが[役者]だ。台本を渡され、その役に徹しろと言われたらそれが出来るくらいの器量は持ち合わせている。

 だから俺は俺に、もう一度.........最後の期待を掛ける。これを裏切られれば今度こそ、俺は俺を見限る事になる。

 

 

 だから、 これが最後だ。

 

 

 俺は、俺に[強がる]為の台本を用意する。

 

 

 確かにこれは[強がり]だ.........

 

 

 でもそれは.........俺にとっての[強さ]になるんだ.........!!!

 

 

桜木「何を言ってるんだと言われるのかもしれません。けれど、俺は[強がる]事が出来ない奴が本当に[強くなれる]とは思えません」

 

 

桜木「だから.........この力の代わりは、要りません」

 

 

 彼女達の重ねられた手の上に、俺はゆっくりと右手を置いた。三人は何も言わずに俺の事を優しく見つめ、その目を伏せる。

 

 

 置いた手から仄かな光が現れる。それと共に自分の体力が吸い取られ.........いや、感覚的には体力の上限値が持って行かれる感覚がする。何とも言えない、不思議な感覚だ。

 

 

 その光の行先は、それぞれの女神様に向かって行く。その光が彼女達の胸の中に入り消えて行くと、途端に睡魔が襲って来る。

 

 

桜木「あ、れ.........」

 

 

シロ「はい。もうおしまい。そろそろ起きる時間よ」

 

 

「おや、もうそんな時間か.........短い時間だったけど、君とのお喋りは楽しかったよ」

 

 

 くらりとする視界。何とか踏みとどまって見ようとするものの、足に力が入らずにそのまま倒れそうになる。

 気が付けばそれを支えるように縛られていたはずの白バと王子様が俺の身体を二人で押さえてくれていた。

 

 

「次に会う時はもっとお話しましょう?貴方のお話。とっても気になるわ」

 

 

「そうだな。最も次がいつになるかは分からないが.........」

 

 

シロ「案外すぐそうなるわよ」

 

 

レックス「うん。だって彼は、[奇跡]だって超えてくれるんだから」

 

 

 瞼が重い。夢の中だと言うのに、まるでこれから眠りにつくかのように身体も、意識もふわふわとしていく。

 薄れ行く意識の中。かすれゆく視界の中で、俺の目の前にいる人達は.........

 

 

 まるで、俺に期待を込めた優しい眼差しを向けていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ん〜.........!!!」

 

 

 雑踏が行き交う英国の空港。キャリーバッグから手を離し、両手を上げて強く伸びる。その俺の様子を同行者の三人は静かに見つめている。

 

 

ナリブ「良く眠っていたな。疲れていたのか?」

 

 

桜木「まぁな。でももう大丈夫。たっぷり寝たから」

 

 

爺や「桜木様はお嬢様のトレーナーでございます。短い時間で完璧な休息を取る。それが出来て初めて一流なのです」

 

 

桜木(うわ、俺寝付き悪い方なんだけどな.........今度からそっちも頑張ろうかな.........)

 

 

 ただ眠っていただけの筈なのだが、爺やさんは何故かその行いに感心していた。困った。俺はどちらかと言えば万年夜更かし気味の男だ。帰ったら良い睡眠方法でも勉強してみよう。俺の生活がバレてマックイーンを任せられないと言われたら大変だ。

 

 

主治医「桜木様。エディ先生の居場所はもう分かっておられるのですか?」

 

 

桜木「いんや?」

 

 

ナリブ「は?お前まさか何も分からずにここまで来たのか?」

 

 

桜木「あはは!なわけ〜」

 

 

 エディ先生の居場所は分からない。そう伝えるとブっさんが怨念を込めた様な目で俺の方をじーっと見てきた。彼女としては紅白の為に何としても年末には日本へ帰国したい所なのだろう。

 だったらここに立ち止まっている暇は無い。俺はキャリーの取っ手を掴み、空港から出る為に歩き出した。

 

 

ナリブ「待て!!!せめて何処にいるかくらいハッキリさせろ!!!」

 

 

桜木「それは分からん!!!」

 

 

ナリブ「はァ!!?お前さっきから支離滅裂だぞ!!!」

 

 

 力強い声が俺へと向けられる。しかし、分からないものは分からない。だけど、この国に居ることは間違いないんだ。

 俺はそんなブっさんの声に応える為に振り返った。

 どこからとも無く湧き出てくる、根拠の無い自信を表情に乗せながら........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エディ先生は絶対居るッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イギリスのどこかにッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........んじゃ!!!宛のない旅路に〜!!!しゅっぱーつ!!!」

 

 

三人「.........はぁ」

 

 

 後ろから聞こえてくる三人分の溜息。俺は意気揚々と、三人は既に疲労困憊の様子で前へと進む。

 

 

 そう。進んでいるんだ。

 

 

 誰も、この道の先をまだ、通った事は無い。

 

 

 神様ですら、この先を知らない。

 

 

 [王道]という言葉は、誰もが通る、わかりやすい道の事を指し示す物だ。

 

 

 でも俺は、それは[公道]だと思っている。

 

 

 真の意味での[王道]とは、王が誰も歩かぬ道を、自ら先陣を切って歩く事。そしてその道を、多くの人々。民が安心して通る事だと思っている。

 

 

桜木(.........夢を見たければ目を覚ませ。難しい話だよなぁ)

 

 

桜木(なんせ俺は今でもこうして.........現実的じゃない事考えてんだからよ)

 

 

 胸に提げた[王冠]のアクセサリー。それを優しく指先で包む。今はこれだけが、あの子達と俺とを繋ぐ、唯一の繋がり。

 その王冠に恥じない男になる為なら、俺はなんだってなれる。例えそれが、夢物語の[王様]だとしても.........

 

 

 そんな決意を固め、空港の外へ出る。日本の気候のそれとは大分違う海外だが、このイギリスの空は.........

 

 

 満点の星空が、これからの俺の道のりを、期待して見守ってくれているように感じたのだった.........

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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