山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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ライス「犬さんだ.........!」

 

 

 

 

 

 寒々しさがまだ残る一月。トレセン学園からはすっかり正月気分の生徒達はなりを潜め、今は既に次のレースの為、牙を研いでいる人達で溢れ返っています。

 私、メジロマックイーンも例年ならばそれに倣い、新年の新しい展開と出会いを胸にトレーニングへと励んでいるのですが.........

 

 

東「マックイーン。今日のトレーニングメニューだけどどうだろう?」

 

 

マック「そうですわね.........ブルボンさんもそろそろ復帰してもいい頃ですし、調子を整える為に流し気味に様子を見た方がよろしいかと.........」

 

 

東「あぁそっか。そういえばまだだったもんな」

 

 

マック「ええ。彼女の意志を汲んでトレーナーさんが長距離適性を伸ばす期間にしていたんです。今度走る時は完璧に、と」

 

 

 お昼休みのチームルーム。私はカフェテリアでトレーナーさんが残して下さった献立表を見せ、厨房の方に昼食を作って貰ってここで食べております。

 理由はもちろん、今は走れない身という事もありますが、それでもチームに貢献したいからです。こうしてマネージャーとして皆さんのサポートをして居ます。

 

 

 トレーナーさんの業務代理である東トレーナーにこうしてチームメンバーのトレーニングメニューを見せて貰っていますが、中々新鮮です。今までもチームの代表という立ち位置には居ましたが、彼がメニューを見せるのは以前までマネージャーであったデジタルさんだけでした。

 

 

東「そうか.........あの走り方で長距離も楽になっちまったら、一体どうなっちまうんだろうなぁ」

 

 

マック「クラシック級で出来たのなら、敵無しだったでしょう。しかしシニア級は歴戦の猛者が集っています。あの手この手できっと、ブルボンさんに揺さぶりを掛けるでしょうね」

 

 

東「.........アイツならそこ、どうすると思う?」

 

 

 視線を紙から動かすこと無く、彼は私に聞いてきました。その声の力強さから、いざとなれば自分が彼のトレーナー業全ての代わりを果たすという信念が伝わってきました。

 全く、誰も彼の代わりなんて務まりはしないと言いますのに、私達が欲しかったのはトレーニングの調子を上げる人で、彼と同じ人ではありません。

 ですがそれに、嬉しさを感じている自分が居ます。そしてその質問に答えるべく、私の頭の中のトレーナーさんが自動で動き始めました。

 

 

マック「ああ見えて作戦立てや展開作りは上手ですからね.........ですけど最終的には」

 

 

マック「[三十六計逃げるに如かず]。無理そうだったら自分が勝てるプランで走れって、無責任に言うでしょう」

 

 

東「はは、アイツらしい」

 

 

マック「ふふ、本当。困った人です」

 

 

 二人で彼の姿を想像してつい笑ってしまいます。きっとこの人も自信なく作戦を説明した後に、自信満々な顔で無責任にそう言う彼を想像してるはずです。

 いつもこうです。彼がいない所でこうして、彼の話ばかりしてしまう。それでも寂しさはなく、どこか共通の友人の話をしている感じがします。

 そんな形で、お昼休みは以前の様な穏やかさを感じたまま過ぎて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「えー!!!アタシが生徒会長になった暁には!!?レースに出走する度に焼きそばを振るいマース!!!」

 

 

オルフェ「いえええええい!!!お姉ちゃんゴルシちゃんの焼きそば大好きっスーーー!!!」

 

 

シリウス「うるせぇ.........」

 

 

 放課後のトレーニングタイム。以前、チーム[レグルス]。正確には[スピカ:レグルス]とか言うよく分からねぇチームの居なくなったトレーナーの代わりを押し付けられた私達は、どうしてか律儀にその代わりをする為に行動を共にしていた。

 そんな中、チームが集まった中で私を拉致したウマ娘がおもむろにチームの前へと躍り出て、メガホンを手に演説を急に始めやがった。

 

 

沖野「悪いなぁシリウス。ゴルシは毎回こんなんでな。下手に止めるとトレーニングやってくれねぇんだよ.........」

 

 

シリウス「欠陥チーム過ぎるだろ.........」

 

 

シャカ「これでも実力はあンだ。ステイヤーの中じゃ一線級。データを見てもトップクラスの数値を誇ってやがる.........」

 

 

オペ「ハーッハッハッハ!!!ではもしボクが生徒会長に就任したのなら!!!生徒一人一人にオペラオー像を配布しよう!!!」

 

 

二人(一番要らねぇ.........)

 

 

 学園の一角にはコイツを模した像が置かれている。それを一人一人に配ると笑いながら。されどその言葉に冗談に感じられない私達は二人で頭を抱えた。

 

 

東「おー。ちゃんと桜木やってんなー」

 

 

シリウス「.........本当にこんな奴なのか?桜木とか言うトレーナーは」

 

 

シャカ「詳しくは知らねぇ.........けど良く理事長室で花火するとか、生徒会長の奴に勝負挑んで夏合宿を勝ち取るとか聞いた.........」

 

 

シリウス「そうか.........私は今、地獄に居るのか.........」

 

 

 聞けば聞くほど、このチームを受け持っている桜木とか言うトレーナーに対して疑問が湧いて出てくる。そんな奴が本当に中央のトレーナーなのか?

 そんな想像もつかない桜木とか言うトレーナーの姿を思い浮かべようとしていると、不意にどこからか騒がしい声が聞こえて来た。

 

 

やよい「制止ーーーッ!!!」

 

 

スズカ「な、何かしら?」

 

 

マック「理事長と.........犬?」

 

 

 ダートの上を颯爽と走る犬。理事長もそれに追って走っているが、衝突する懸念があるのか、はたまたダートの上が走りにくいのか、あまり差は縮まら無い。

 とは言っても犬がターンをする際、その方向を見極めた時のキレは中々のものだった。

 

 

やよい「ふー.........観念ッ!!もう逃がさないぞ!!」

 

 

犬「クゥ〜ン.........」

 

 

やよい「そ、そんな顔をしてもダメだ!!君は大事な友人から預かった家族だ!!お家に帰るぞ!!」

 

 

ウララ「ねぇねぇ!!なんでわんちゃんが居るの?!!」

 

 

 やっとの思いで理事長は犬を捕まえ、疲れを吐き出すように息を吐いた。その姿を見て気になったチームの奴ら何人かが理事長の元に歩いて行く。

 

 

やよい「むっ、桜木トレーナーの受け持つレグルスとスピカ.........この子は私の友人が旅行に行っている間、預かって欲しいと言われてな。今日でそれは終わりなのだが.........」

 

 

やよい「.........後悔ッ!!あまりに可愛すぎて甘やかした結果懐かれすぎてしまった!!ハーッハッハ!!」

 

 

ライス「で、でもライスも理事長さんの気持ち分かるかも.........」

 

 

シリウス「.........はぁ」

 

 

 全く、この学園の甘ったるさはどうやらこの理事長から蔓延してやがるらしい。私が入学する少し前に着任していた手前、人柄を知ること無く海外遠征でここを離れていたが、私は直ぐにそう結論付けた。

 前々からそういう空気はレースへの厳しさとライバル同士の熾烈な雰囲気の裏に見え隠れする程度だったが、今じゃ手に取るように分かってしまう。今の学園がこんななのは、この理事長も一役買ってるらしい。

 

 

 そんな理事長が抱えている犬に対して、ハルウララとミホノブルボンは遠慮も無く身体を撫でる。ライスシャワーもおっかなびっくりとした様子だが、二人と同じ様に犬の身体を撫でていた。

 そしてその姿をじーっと静かに見つめている理事長。そして何かを閃いたようにその目をカッと開かせた。

 

 

やよい「妙案ッ!!君達を見ていて思い出した!!」

 

 

全員「え?」

 

 

やよい「以前、私の猫であるタマの子供を保護していたのは君達だったろう」

 

 

やよい「その実績を見込んで頼みたい!!今日一日この子の面倒を見てくれないか!!」

 

 

全員「はい!!」

 

 

二人(何ィィィィィッッ!!?)

 

 

 コイツらは相談する事無く、間髪入れずに理事長の提案を受け入れた。そんなつもりなど毛頭なく、増してや不在トレーナーの代わりをしているという不慣れな状況でそんなの受ける訳が無いと思っていた私とエアシャカールはその返事に驚愕し、絶望した。

 

 

マック「ですが、預かるにしても名前が無いと接しずらいですわね.........」

 

 

やよい「むっ、失念していたな!!この子の名前はじろ「ジョセフィーヌ」.........へ?」

 

 

マック「ジョセフィーヌですわ!!今ビビッと来ました!!!」

 

 

ゴルシ「え〜?アタシ的にはサイバネテリアンエクスロード279-Xゴールドエディションが良いな〜!!」

 

 

スペ「長すぎますよゴールドシップさん!!ここはおむすびでどうでしょう!!」

 

 

スズカ「スペちゃん。もしかしてお昼ご飯足りなかった?」

 

 

ウオッカ「デザートブリゲードってのはどうだ?カッケーだろ!!」

 

 

ダスカ「バカねウオッカ。ここは無難にポチよ!!日本で一番ポピュラーな犬の名前じゃない!!」

 

 

東「.........ガンダムかな」

 

 

沖野「お前正気か?」

 

 

タキオン「私はもっと意味のある名前を付けたいね。三日くらい猶予をくれないか?」

 

 

デジ「わんちゃん帰っちゃいますよー!!」

 

 

ブルボン「ライスさんはどんな名前が似合うと思いますか?」

 

 

ライス「ふぇ〜!!?い、いきなり聞かれても.........」

 

 

シリウス「.........こっちを見るな」

 

 

 一気に喧騒が増しやがった。さっきまでは誰かが喋っていても聞き取れるくらいには静かだったが、今はもうどこもかしこもこの犬の呼び名を決める為の話し声が止まずにいる。

 

 

ゴルシ「なー!!姉ちゃん達はどうだ!!?テイオーもほら!!一緒に考えよーぜ!!」

 

 

 子犬もろとも理事長の事を抱き上げるゴールドシップと言うウマ娘が、少し離れた私達の傍に居る姉とトウカイテイオーの方に聞いてくる。

 それを聞いた三人は他の連中と違い、少し戸惑った顔でそれに反応した。

 

 

テイオー「えー?一日で帰っちゃうんでしょー?ボクは付けたくないな〜」

 

 

オルフェ「アタシもパスっス。名前付けちゃうと愛着湧いちゃって帰した時に悲しくなっちゃうっス」

 

 

フェスタ「そうだぞゴルシ。名前なんて付けたらす、好きになっちまうだろ.........」ソワソワ

 

 

 一人もう既にノックアウト寸前くらいまで追い詰められている感じが出ているが、それは至極真っ当な見解だった。それを聞いた騒いでた連中は、今が別れの時だと言わんばかりに落ち込んだ顔を見せていた。

 

 

やよい「.........二郎と名前を付けたのは間違いだったか」ボソ

 

 

全員「え」

 

 

 まさか理事長自身が名前を付けていたとは、この場にいる誰もが想像もしていなかった。

 しかしそんな事をさほど気にする様子を見せる事無く、理事長はせっかく捕まえた子犬を降ろし、腰に差した扇子を取り出して音を立てて広げた。

 

 

やよい「まぁだがしかし!!君達ならばこの子をのびのびとさせつつもしっかり面倒を見られるだろう!!頼んだぞ!!」

 

 

シリウス「なっ!待て!!まだ受け持つと決めた訳じゃ―――」

 

 

全員「はーい!!」

 

 

シリウス「.........〜〜〜!!!」

 

 

オペ「うむ!!中々賢そうなわんちゃんじゃないか!!ボクは賛成するよ!!」

 

 

シャカ「.........はァ」

 

 

 子犬が駆け回る中、私は頭を掻きむしり、オペラオーはこの状況をおおらかに受け入れ、シャカールはどうにも出来ない現状に溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀「ほーらベイマックス。一食五万円の高級ドッグフードだぞー」

 

 

ゴルシ「名前付けんじゃねーよ飯代たけーよどこから聞きつけたんだよ」

 

 

黒津木「そうだぞ翔也。この子にはもう飼い主が付けた名前があるんだから。なータキオン♡」

 

 

タキオン「それは私に言ったのかい?それなら何故その子犬を見て幸せそうな顔で言うんだい?」

 

 

神威「.........」

 

 

カフェ「司書さん.........」

 

 

神威「まだ何も言ってないよ」

 

 

 この状況でトレーニングは出来ないと思った私達は、チームルームまで戻ってきた。今日もまた練習が出来ずこの日を終えるのだろう。

 それはそれとして、目の前にはこの前少し顔を見せていた男達三人.........いや、一人はずっと居たか。ソイツらとアグネスタキオンの同期であるマンハッタンカフェが何故か居た。

 

 

シリウス「.........おい」

 

 

マック「?ああ、彼等は私達のトレーナーさんの御親友方です」

 

 

 私が全部口にするまでもなく、メジロのお嬢様はそれを察して説明した。桜木とか言う奴本人の話もそうだが、今目の前に居る奴らも相当ヤバイ奴だと言うのは目の前の光景をみて直ぐに分かった。

 そしてそれを見て桜木が本当にヤバい奴なのだと確たる証拠を手に入れた。

 

 

白銀「ほーらジョン。これ結婚相手のリストなー。ほら見ろーこの子可愛い犬畜生だろー?世界的ジャーナリストのペットだとよ。コイツにしとけって!!」

 

 

ゴルシ「オマエマジでヤベーな」

 

 

黒津木「玲皇っ!!おすわり!!!」

 

 

神威「俺は玲皇じゃねぇ」

 

 

カフェ「そんな.........司書さんが桜木トレーナーさんだったなんて.........」

 

 

神威「俺は玲皇じゃねぇッッ!!!」

 

 

 頭が痛い。いや、頭を通り越してもう頭痛が痛い。一人は犬の写真を子犬に見せている。もう既に疲れる光景だ。相手は子犬だぞ?しかも犬種もてんでバラバラじゃねぇか。気でも狂ってるのか?

 他二人は殴り合いに発展した。意味が分からない。そしてそれを止めようとはせずにタキオンとカフェは当たり障りのない日常会話をし始めた。気でも狂ってるのか?

 

 

テイオー「シリウスー。早く慣れないとダメだよー?サブトレーナーの代わりなんだからさ♪」

 

 

シリウス「.........チッ、ここに居るとバカが伝染る」

 

 

 頭に片手を当てて疲弊していると、私の肩に小さい手が乗ってくる。それはトウカイテイオーの物だった。

 今日会った時にも思ったが、最後に見た時よりは随分成長している。中身はクソガキのまんまだが.........

 煽ってきたテイオーに悪態をついて返事を返すと不意に視界が暗くなる。何かと思い正面を見ると、あの子犬に結婚を迫っていたヤバい奴が今度は私に迫って来ていた。

 

 

白銀「今玲皇の悪口言った?」

 

 

シリウス「お前らに言ったんだ!!!」

 

 

白銀「出ていけェッッ!!!」ドカァ!!!

 

 

二人「ふぉッッ!!?」ドンガラガッシャーン!!!

 

 

白銀「これでお前をバカにする原因は取り除いたぞ!!翔也様は味方だからな!!!」

 

 

 あっ、無理。頭がクラクラしてきやがる。こんな奴らと一緒に居られる訳が無いしこんな奴らと一緒に居られるような奴の代わりなんて出来る訳無い。

 この男は特にヤバい。自分に向けられている悪意を完全に受け取る前に全て好意に変換してやがる。救いようが無い。

 

 

シリウス「おいシャカール.........コイツら一体何なんだ.........!!!職員じゃ絶対ねぇだろ.........!!!」

 

 

シャカ「.........殴り飛ばされた内のひょろッとした方は司書だ。タキオンと親しい奴は保健室医だ」

 

 

シリウス「職員なのかよ.........!!!」ギリリ

 

 

 デスクで我関せずと言った様子でパソコンを弄るシャカールに対し、なるべく他に聞こえないよう声を潜めて質問をした。

 そしてその衝撃的な回答に私は自然と奥歯を噛み締めた。このトレセン学園は残念ながら終わっているらしい。

 

 

シリウス「アイツは.........!!!あの子犬に結婚相手紹介してる頭のイカれた男はなんだ!!?清掃員か何かか!!?」

 

 

シャカ「.........白銀翔也っつったら分かんだろ」

 

 

シリウス「!嘘だろ.........?名前と噂だけは聞いてたがもっと.........物好きな聖人君主様だと.........」

 

 

白銀「俺聖人君主だって」

 

 

ゴルシ「オマエじゃなくてアタシの事な」

 

 

 白銀翔也。名前と噂は確かに海外遠征に行っている時も聞き覚えのある物だ。テニススポーツという日本人にとっては険しい世界でその頂点に登り詰め、そしてトレセン学園に多額の融資をしている日本人の男.........

 変わり者だと言う事もそれとなく聞いてはいたが、そんなレベルの物じゃない。変だ。そう強く言ってもまだ足りないくらいこの男はヤバい。

 私が居ない間に何があったんだ.........たった五年の間に、このトレセン学園の空気を以前と似て非なるものに根本的に変えたのは.........一体.........?

 

 

 そこまで思考を張り巡らせている最中、廊下の方から多くの足音が聞こえてくる。その足音を出す存在達に察しが着いた私は扉が開く前にその方向を見た。

 

 

オペ「やぁ諸君!!待たせてしまったみたいだね!!ボク達、オペラオー救援隊が物資を持ってきた!!もう安心だよ!!」

 

 

ウララ「首輪買ってきたんだよ!!」

 

 

ライス「リードもちゃんと買ってきたから、これでお散歩行けるね!!」

 

 

ブルボン「おトイレも買ってきました。これで今日一日は過ごせる筈です」

 

 

 勢いよく扉を開け、まるでオペラで踊るような動きで部屋の中心へとやってくるオペラオー。桜木の親友らしい奴ら以外はそれを無視し、後からやってきたハルウララ達の方へ目を向ける。

 

 

タキオン「ふむ。散歩か.........そろそろ行かなければ行けないんじゃないかい?体力も有り余っている様子だ」

 

 

テイオー「だねー。誰が行くの?行かないならボクが―――」

 

 

全員「行きたーい!!」

 

 

 テイオーの提案に対してまたもや間髪入れずに返事をする多数。誰も居なければあわよくばと思っていたのだろう、テイオーは分かりやすく肩をガックリと落とした。

 

 

シリウス「.........はぁ、犬の散歩に人手は要らねぇだろ。シャカール」

 

 

シャカ「わァッてるよ.........ッたく、簡単なプログラム組むのも楽じゃ無ェンだぞ」

 

 

 横目でシャカールを見てどうにかするように頼むと、彼女は既に準備をしていたのか、先程まで打ち込んでいたパソコンを全員に見せるように方向を変えた。

 それは俗に言う、あみだくじ方式になっており、一番下には当たりが二つと他ハズレと書かれている。そして別にそこまでする必要は無いと言うのに、上の名前の方は演出の為か隠されていた。

 

 

シャカ「エンターを押しゃァ一気に抽選が始まる。押すまでは乱数が確定されてねェから誰が当たりを引くかは分からねェ」

 

 

全員「おー.........!!!」

 

 

 話をしながらエンターキーを押す。すると画面では一斉にあみだくじが始まり、十秒も経たずに全ての抽選を終えた。

 そしてもう一度エンターキーを押すと、上の方に隠れていた名前が一気に開示された。

 

 

ライス「やった!ライス当たったよ!」

 

 

マック「良かったですわね。ライスさん」

 

 

ライス「うん!えっと、一緒に来る人は.........ひぃ!!?」

 

 

 同行者が誰か。それを見ようともう一度画面に目を移したライスシャワーの表情は先程と打って変わり、恐怖に埋め尽くされた物になっていた。

 何かと思い私達も画面を見ると、その同行者が[エアシャカール]だと言うことを知り、彼女のその反応にも納得が行った。

 

 

シャカ「.........チッ、オレとじゃ嫌かよ」

 

 

ライス「え、えっと、そうじゃなくて.........」

 

 

ライス「し、シャカールさんの事。良く知らないから.........ライス、一緒に居ても良いのかなって.........」

 

 

シャカ「.........あァ?別に、たかだか犬の散歩じゃねェか?遊びに行くンじゃねェ。これはコイツに必要な事で、オレらはそれをするだけだろうが」

 

 

 面倒くさそうに彼女はそう答えた。だがそう言いつつも、彼女はデスクから軽々と立ち上がり、首輪を犬に付けながらリードを持った。

 そのまま犬を抱き抱えて出ていこうとしたが、保けているライスシャワーが着いてこないのを察知し、何も言わずに着いてこないのか?という目線で問い掛ける。

 そしてそれを受け取り、ライスは素早く彼女の背中に張り付く勢いで近付いた。それを確認した彼女はまた面倒くさそうにため息を吐き、ライスと共に廊下へと出て行った。

 

 

シリウス「.........良いのか?私が言うのも何だが再抽選した方が良かったと思うが」

 

 

マック「いえ。ああ見えてライスさんは強い人ですから、きっと仲良くなって帰ってきますわ」

 

 

ブルボン「ライスさんとシャカールさんの相性度は見た所によると[92.3%]。ステータス[仲良し]を獲得出来る可能性は高いです」

 

 

オペ「なるほど!!見た目のやり取りでは分からなかったが、二人は仲が良くなると言うのだね!!まるでボクとアヤベさんの様に!!」

 

 

タキオン「.........アレは君が一方的に押し付けてるだけじゃないかい?」

 

 

 かなり疑問が湧いてくるオペラオーの例えに困惑しながらも、マックイーンの残った者はトレーニングをしようという提案を受け、それぞれメニューを手に持ち、もう一度学園のターフへと出掛けて行くのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャカ「.........」

 

 

ライス「.........」

 

 

シャカ「.........はァ」

 

 

 今日、もう何度目かも分からねェ溜息を吐く。それに即座に反応する様に、少し後ろを歩いているライスシャワーは身体を一瞬跳ねさせる。

 面倒くせェ。なんでオレがこんな事を。そんな幾度も無く繰り返した無駄な問答をまた始めようとして、それを払う様に苛立ちのまま頭を搔いた。

 

 

シャカ「.........別に居たくねェンだったら離れても良いンだぜ?今頃お前のチームの奴らは全員。トレーニングしてるだろうしなァ」

 

 

ライス「う、ううん!ライス、シャカールさんとお話したいの!」

 

 

シャカ「.........ア?」

 

 

ライス「ライス、シャカールさんの事、怖い人だって前に聞いてて.........でも、そういう噂話でシャカールさんの事、怖い人って決めつけちゃダメだと思ってて.........」

 

 

 .........予想外の展開になりやがった。コイツ、見た目や弱々しい反応をしていた割には随分な図太さを持ってやがる。まぁ、伊達にG1級レースを二回も勝ってねェって事だ。それだけで判断を下すなんて、オレも[アイツ]の事を言えねェ。

 

 

シャカ「.........火のねェ所に煙は立たねェって諺もあるぜ?迂闊に信用しすぎなンじゃねェか?」

 

 

ライス「!ち、違うもん!ライスもちゃんと、そういう人と仲良くなって!違うって知ったから!シャカールさんもきっと.........!」

 

 

シャカ「それ誰だよ」

 

 

ライス「タキオンさん!!」

 

 

シャカ「あァ.........いや、アイツは噂と違ったと言うより、[違くなった]っつうか.........」

 

 

 自信満々に息巻きながら、アグネスタキオンの名前を出してきやがるライスシャワー。確かに最初の印象を知らずに噂だけを知って、今のアイツを見たならそうなるだろう。

 だが確かに、最初に会った頃のタキオンは噂通りの存在だった。変わったのは、あのレグルスとかいうチームに所属してからだ。

 

 

『エアシャカール。噂は聞いているよ。どうかな?私と共に速度(スピード)の向こう側を見てみないかい?』

 

 

シャカ(.........最初の時はまだ、普通にお互いの理論を話せる位には余裕があったンだけどよォ)

 

 

 いつからだろうな。今思い返してみても、アイツが研究に没頭して、トレーニングや走ることに見切りをつける様になったのは.........

 変わり者ばかりのトレセン学園だ。そういう奴も中には居るだろう。そういう話もあったが、オレはその心の変わりように気付いていた。コイツは[諦めてる]と。自分でその先を見るのは、出来ないことだと。

 そしていつからだろう。そんな奴が、昔の様な余裕さを取り戻し、徐々にトレーニングや走る姿を見せ始めたのは.........

 

 

シャカ「.........なァ」

 

 

ライス「!な、なに.........?」

 

 

シャカ「[桜木]って奴は、そンなに期待出来るほどの奴なのか?」

 

 

 その余裕を取り戻し、またレースという世界に足を踏み入れようとした。そのきっかけは恐らく、いや。その変化は確実にコイツらのトレーナーである[桜木 玲皇]がもたらしたもの他ならないと結論付けた。

 

 

 だが.........

 

 

ライス「.........う〜ん」

 

 

シャカ「はァ!!?お前ここまでやっといてそれはねェだろッッ!!!」

 

 

 事もあろうかライスシャワーはオレの質問に対して、首を傾げるという行動を取りやがった。トレセン学園のトレーナーならいざ知らず、学生であるウマ娘にその代わりをさせるという奇行をしながら、即答出来るほどの信用が無い。その事実にオレは思わず声を荒らげた。

 

 

ライス「.........絶対、は無いかな。おに.........じゃなくて、トレーナーさんがマックイーンさんを治せるって、ライスはまだ分からない」

 

 

シャカ「.........」

 

 

ライス「けれどそれも、絶対じゃないと思うんだ。だから、ライス達のトレーナーさんは頑張るんだと思う」

 

 

ライス「それで、どんな風になっても、一度はここに帰ってきて、安心する為に。ライス達は元通りの元気なライス達じゃないとって思うんだ!」

 

 

 .........周りの人間の思いが、力となり、背中を押す。前までのオレだったら、そンなの鼻で笑ってまやかしだの気の迷いだの、散々言ってるだろう。

 だけど、オレは知っている。たった一人の存在で、オレの[7cm]を[6.9cm]に変えた存在を.........

 

 

シャカ「.........そうだな。お前らが普段通りで居りゃァ、桜木って奴も嬉しいだろうよ」

 

 

ライス「!だ、だよね!よ〜し、頑張るぞー.........」

 

 

シャカ「.........ア?」

 

 

ライス「が、頑張るぞ〜.........?」

 

 

シャカ「.........はァ、おー」

 

 

ライス「!おーっ!!」

 

 

犬「ワン!!!」

 

 

 .........ッたく、引っ込み思案なのか押しが強ェのか、分かりゃァしねェ。どこかの[お嬢様]みたく、もっと分かりやすいんだったら助かるんだけどな.........

 

 

 そんな事を考え、そして面倒くさいと思いながらも、ついつつかれる様に出てきた笑いを隠すように、オレは口元を押さえて舌打ちで上書きにしながら、犬の散歩を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ブルーローズチェイサー]

 Lv0→6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たづな「失礼します」

 

 

やよい「許可ッ!!入って良いぞ!!たづなよ!!」

 

 

 軽く響き渡る三回のノックの音。その後に頼りになる声が聞こえてきた私は、その人物の入室を許可した。

 大きな扉を開け、私にその姿を見せたたづなは丁寧に頭を下げた後、両手でその開けた扉を閉める。

 

 

たづな「理事長。様子はどうでしたか?」

 

 

やよい「上々ッ!!桜木トレーナーが不在となりどうなる事かと思っていたが、彼女達は何も心配無かったぞ!!」

 

 

たづな「ふふふ♪それにしても一芝居打つ為に、わざわざ親戚のペットのワンちゃんまで借りるだなんて」

 

 

 彼女は口に片手を当て、くすくすと笑い声を上げた。彼女の言う通り、あの子犬は事情を説明し、親戚から預けさせて貰ったものだ。無論、相手にとっては家族同然の存在。そう上手くは行かないと思っていたのだが、快くそれを快諾してくれたのだ。

 その時のその者達の顔は、一切の疑いや不信はなく、笑顔だけだった。その顔が、一人の男の顔を思い起こさせる。

 

 

やよい「.........たづなよ。桜木トレーナーは、メジロマックイーンを救えるだろうか」

 

 

たづな「.........それは、誰にも分かりません。ですが、分からないからこそ、あの人は.........桜木トレーナーさんは頑張れるんだと思います」

 

 

やよい「.........[絶対など無い]。だからこそ、あらゆる可能性を模索する、か」

 

 

 宛の無い旅路だろう。その道程が容易くない事など簡単に想像出来る。だがそれでも、あの男ならば.........彼ならば、と。かつてトウカイテイオーを[無敗の三冠バ]に導いたその存在を、私は無意識に肯定している。

 

 

やよい(何も見つからなくても良い。だから、桜木トレーナー.........)

 

 

やよい(無事に、必ず無事に.........帰ってくるのだぞ)

 

 

 遠い空に広がる快晴の空。この空の向こうには彼が居る。今でもきっと、たった一人の愛バの為に行動しているのだろう。

 今やこの私が先頭に立つようになったトレセン学園は、彼のお陰で以前とは全く違う、気持ちの良い風が通る学園となった。トレーナーもウマ娘も、知ってか知らずか、彼の影響を受け良い方向に変わって行っている。

 

 

 そんな風が、彼自身にも、彼の進むであろう苦難の道にも吹いてくれるよう、私はただひたすら祈っていた.........

 

 

たづな「.........あっ、そう言えば理事長にお話がある、という方がこの前いらしたのですが」

 

 

やよい「むっ!もしや私が二郎を引き取りに来た時だったか!!それは悪い事をしたな.........それで要件はどうだったのだ?」

 

 

たづな「それが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――桜木トレーナーは今、トレセン学園に居るのか、と.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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