山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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メジロ家従者の誇り

 

 

 

 

 

桜木「.........お〜い、まだ付かない系〜?」

 

 

ナリブ「黙って歩け。案内してくれている子供はまだ息切れもしてないぞ」

 

 

桜木「そりゃウマ娘だからでしょ.........こっちは人間だっての、ねぇ爺やさん達?」

 

 

 まだ日も落ちきっていないと言うのに、今俺達が歩いている森の中は日の光が差し込みにくく、その薄暗さが気味悪い。イギリスの一月はまぁ寒くはあるが、日本とは大差が無い。

 だと言うのに、俺の身体からは汗が吹きでて熱を持っている。既に三時間、休むことなく歩いていると言うのに、先導をしてくれているウマ娘の少女は一向にその足を止める気配は無い。

 

 

桜木(.........それにしても、あの時助けた子がエディ先生の関係者だったとはなぁ)

 

 

 以前ひったくりにあったウマ娘。どうやらあの時俺は英語のメモを落としていたらしく、彼女がそれを拾った事でエディ先生に何か大事な用があると言うことに気付いてくれたらしい。それ自体は非常にありがたい。正直行き詰まりを感じていた所だった。

 けどなに?なんで俺達この森の中を延々と歩かされてるの?もしかしてこれ、騙されてる?俺達見た目幼気なウマ娘に騙されてる?日本と同じ感性で行動してる.........?

 

 

「着きました。ここが私達のお家です」

 

 

桜木「.........ごめんね」

 

 

全員「?」

 

 

 目の前に立っている木造の家を見て、先程まで考えていた物は邪念が作り出していた被害妄想だと知り、罪悪感から居たたまれずについ謝ってしまう。

 そして目の前を歩く少女に誰も疑いの目を向けていなかったのだろう。全員の不思議そうな目が更に俺の穢れた考えをしたという事実を明るみにする。もう死にたい。

 木の幹を背もたれにして体育座りで蹲っていると、先導してくれた少女は家の中へと入って行く。その様子を見守る三人と自分を責め続ける俺。

 数分経っただろう。やがて家の扉が開き、少女とその後ろに立つ長身の老人が見えた。

 

 

「入って良いって」

 

 

ナリブ「.........ほら、行くぞ」

 

 

「全く、人と言うのは勝手だな。[お前]もそう思うだろう?」

 

 

主治医「.........お久しぶりです。[先生]」

 

 

桜木「っ、し、知り合い.........?」

 

 

 唐突に判明する関係性。しかし、詳しい事は分からない。交わす言葉もそれだけで、老人は家の中へと姿をくらます。

 中へと入っていく三人。俺も少女に連れられて、その中へと入って行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな。普段はこの子位しか食べない故、食事と言ってもこれくらいしか用意できん」

 

 

桜木「い、いやいや!元はと言えば俺達が勝手に押しかけたせいですからお気になさらず!」

 

 

「気にしてなど居ない。これを食べたら早く帰れ」

 

 

 目の前に出された食事。この国の家庭的なものなのだろう、正直いって失礼だが、この国に来てようやく[美味しそう]だと初めて思った。

 だが人が悪い。なんだこの爺さんは?俺達はこの人に会うためにわざわざこんな苦労をしてきたのか?

 

 

「ちょっとおじいちゃん!!この人達はおじいちゃんの事を頑張って探してたのよ!!」

 

 

主治医「その通りですエディ先生。私達には貴方の力が必要なのです」

 

 

エディ「ルビィ。世の中には実らぬ努力という物がある。手が届かぬ物に手を伸ばす行為ほど無駄な物は無い」

 

 

エディ「.........以前、お前にも教えた事だと思うが?」

 

 

主治医「.........」

 

 

 無表情、と言うよりは表情を作るのすら億劫と言う思いが伝わってくる。目の色を変えず、抑揚すら変えずにこの男は主治医さんの方を見て冷たくそう言った。

 それでも主治医さんは真っ直ぐとエディ先生の方を見る。その静寂した空気に耐え切れなくなったのは、俺だった。

 

 

桜木「あの!」

 

 

エディ「なんだ?」

 

 

桜木「え、エディ先生は、ある病を治す方法を知っているとお伺いしました.........!」

 

 

桜木「不躾な申し出かも知れませんが、その方法を俺達に教えてくれませんか.........!!!」

 

 

 テーブルの上に頭を強く打ち付ける。誠意の見せ方なんて、俺はこれしか知らない。けれど俺は、それでも何とかなると思っていた。俺の気持ちは必ず、伝わってくれると。

 

 

エディ「.........はぁ」

 

 

 .........暫くの静けさの後、帰ってきたのはため息だった。ただの人の吐く息が、これ程までに痛々しく感じた事は今までに無かった。

 そして次に聞こえてきたのは、何やらテーブルの上を何かが擦って移動する音だった。何かと思い顔を見上げると、俺の目の前には先程までエディ先生の晩飯だったはずのパンが入った皿があった。

 

 

エディ「代わりにパンをやる。それを食って帰れ」

 

 

桜木「っ、な...ぁ.........」

 

 

ナリブ「.........ふざけるな。私達はそんな美味くも無い小麦の塊の為に来たんじゃない」

 

 

エディ「それこそふざけている。私にとってアレは悪魔の証明だ。あの存在を認めるくらいだったら、私は死んだ方がマシだ」

 

 

 その言葉には先程とは違い、憎しみめいた物が若干込められていた。それがどうしてなのかを想像する前に、エディ先生は席を立った。

 

 

エディ「.........もう外も暗い。泊まっていくといい。私が起きる前に出ていかなければ警察に連絡する」

 

 

ルビィ「.........ごめんなさい。こんな事になるだなんて.........」

 

 

爺や「いえ。貴女様の責任ではございません。全ては勝手に上手くいくと思っていた私め等の詰めの甘さが原因でございます」

 

 

『厄介な事になったわね。どうするの?』

 

 

桜木(.........どうするもこうも、何も無いよ)

 

 

 少しだけ頭を起こし、テーブルの上に着いた両手を見る。それを目一杯伸ばした所で、今のままでは欲しい物どころか、ちょっとの高所にも届きやしない。

 そんな悔しさを握り締める。両手はそれを握るだけで震えて来る。俺はまだ、[強くない]。

 

 

桜木「.........行こう」

 

 

ナリブ「っ、諦めるのか?」

 

 

桜木「まさか。あのジジイは飯を食ったら、そして泊まったら帰れっつったんだ。だったらその条件を飲まなけりゃ良い。幸い俺達はまだ一口も食っちゃいない」

 

 

桜木「ごめんね。折角こんなに用意してくれたのに悪いけど、これが食べれない理由が出来ちゃったみたいだ」

 

 

ルビィ「ううん。私ウマ娘だよ?これくらいぺろりだよ!だから気にしないで?」

 

 

 彼女は俺達に罪悪感を湧かせないよう、直ぐにその両手にパンを持ち、一気に頬張った。その様子を見て喉に詰まらせるかもしれないと思った俺達は直ぐに駆け寄ったが、そんなことには一切ならず、彼女はその喉にパンを通して行った。

 

 

 一安心した俺達はひとまず、彼女にまた明日と言い、外へと出る。もしもの時があるかもと思い、ブっさんにキャンプ道具一式を持たせておいて助かった。

 

 

桜木「うっし、じゃあ俺は近くの川に釣りに行くから、爺やさん達とブっさんは―――」

 

 

主治医「いいえ。釣りへは私が行きます。貴方はテントを張ってください」

 

 

爺や「では私は調理の支度をしましょう。ブライアン様は火起こしをお願い出来ますか?」

 

 

ナリブ「分かった」

 

 

 俺の虚勢満載のガッツポーズを無視した三人はそれぞれ準備に入る。どうやら最早俺にそんな体力など無いという事を察しているらしい。

 これだから他人以外の人間は嫌なんだ。表面だけ見て受け取ってくれれば気が楽なのに、わざわざ内面を嗅ぎ付けてそれを知ってくる。役者にとってはいい迷惑、商売上がったりだ。

 

 

『.........それは、貴方はもう素顔だからじゃない?』

 

 

桜木(っ、うるさいな.........気持ちだけはいつまでも現役のままなの!そういう気持ち悪い奴沢山いるでしょ!!)

 

 

『気持ち悪くなんて無いわよ。気持ちだけは第一線なんて理想そのものよ?』

 

 

 テントの器具を集めて組み立てている間、俺にしか見えないMさんが勝手に内心を読んで話しかけてくる。やはり俺以上に生きているのか、俺の不安や悩みに対して大きな事では無いと言うように諭してくる。

 それが有難いことなのは分かっている。けれどそれを突っぱねる俺の若い感性が生じる。だから、複雑な気持ちだ。

 

 

桜木(.........強く、ならなくちゃな)

 

 

 ただ漠然と。[強さ]の元が[強がり]で、何をどうすれば[強さ]になるのか、俺は未だに分からないでいる。

 [未来]に居た時、彼女.........マックイーンは俺に、自分達には無い[力]があると言ってくれた。その[弱さ]が、[強さ]になるのだと。

 今、それを考えても分からない。俺にはまだ、俺の[強さ]が.........[力]が何なのか、見えてすら居ない。

 

 

 もし、この旅でそれを見つける事が出来たなら.........そう思いながら、俺はテントを張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エディ「.........はぁ」

 

 

 朝日を浴びようと玄関を空け、身体に光を当てる。その過程で眩しい光が目に降り注ぎ、少しの間視界が何も映さなくなるが、徐々にそれは見えてきた。

 溜息を吐く。それはいつもここから見る、自然豊かな景色に感じられるエネルギーに対する敬服。或いは畏怖。若しくは感嘆の物では無く、呆れと苛立ちだった。

 まだ動かせるとは言え、若さとはもう無縁となったこの身体を前へと動かし、目の前に立てられているテントに近付き、その幕を開けた。

 

 

桜木「.........んあ?朝.........?」

 

 

エディ「.........何をしている、私は帰れと言ったんだ」

 

 

桜木「飯食って、家に泊まったら。だろ?」

 

 

 眠気眼を擦りながら、青年は大きな欠伸をしてそう答える。テントから出ると言うのだろう、彼は掛けられたブランケットを横に剥ぎ、テントの中にしまっていた靴を取り出した。

 

 

桜木「ったく、帰る訳ねぇだろ。俺にはどうしても、[繋靭帯炎]を治す方法を知る必要があるんだ。それをアンタが握ってるってのはもうお見通しなんだよ」

 

 

エディ「.........何処でそれを?」

 

 

桜木「さぁね。その方法と一緒に送られてきたメールに返信すりゃ分かるんじゃねぇか?」

 

 

 .........なんて事だ。この男、私が不治の病である[繋靭帯炎]の克服法を持っている事までならいざ知らず、それをどうやってこの手に入れたのかすら知っているのか.........

 この男、実に厄介だ。何者なのかも、この目に見える若さからは到底身につける事など出来ぬであろう底知れなさが、私の無意識を強く警戒させている。

 

 

 ―――だが

 

 

エディ「.........[合格]だ」

 

 

桜木「.........へ?」

 

 

エディ「私の出した条件を回避しつつも居座るその機転。良い着眼点だ。お前達は[繋靭帯炎]を治す方法を知る資格を今、得たのだ」

 

 

 私の言葉を聞き、予想外だったのだろう。未だに保けた様子で私の顔を見ている。そんな彼に気付き、朝食の準備をしていたであろう他の同行者もどこからとも無く現れ、彼の身体を揺すった。

 

 

エディ「案内する。試験会場へな」

 

 

四人「.........っ」

 

 

 全く、人と言うのはいつもままならん。こうして人里離れ、誰かに会うことも無い状況に身を置いているというのに、こうして年に一回あるか無いかだが、どこからか私の持つ情報を宛にする輩がいる。

 しかも、今回はそれを送ってきた者を知っているそぶりがある。これは私自身も、それを知る為に敢えてこの者達を引き込むのも良いだろう.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........どうせ、[試練]を乗り越える事など出来やしないのだからな.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エディ「お前達には合計四回の試練をそれぞれ一人ずつ受けてもらう」

 

 

エディ「そして.........一つ目の試練はここで受けてもらう」

 

 

四人「.........」

 

 

 エディ先生に連れられ、俺達は山奥の開けた場所へと連れて行かれた。そこは先程までの人の手が入って居ない自然とは違い、明らかに人の手が加えられたとしか考えられない開けた土地。しかも、かなり広大な場所だった。

 

 

エディ「以前。環境開発の為ここは開拓されたが、現地民や町の人達に反対されたらしくてな。結局、ここには何も出来なかった」

 

 

桜木「.........レース場でも作る気だったのか?」

 

 

 俺のそのパッと出た発想に、彼は面白くない物を聞いたと言うように不機嫌そうに鼻を鳴らした。だが、その反応を見るにどうやら少なからず当たっていた様だ。

 

 

エディ「無駄話をしている暇は無いだろう。一つ目の試練は、ペーパーテストだ。こっちへ来い」

 

 

 そう言われ、俺達はそれに返事をせずについて行く。向かう先はこの場所で唯一の建物がある場所。既に放棄され中は廃墟と化しているだろうと予測し、俺は自分の中の恐怖心を押さえ込んでそこに向かった。

 しかし、その扉を開けると中は案外、手入れの行き届いた綺麗な内装をしていた。若干埃は被ってはいるが、廃墟という程では無い。

 彼は一人その奥へ入り、棚の中から一枚の紙を取り出した。それは、答案用紙そのものだった。

 

 

エディ「お前達の中で一人選べ、その一人がこの、[英国トレセン学園]のトレーナー入試テストの過去問題を解く。合格ラインは90点だ」

 

 

桜木(なるほど、だったらここは俺が行った方が―――)

 

 

 トレーナーのテスト。であるならば、ここは現役のトレーナーである俺が受けた方が良いだろう。そう思い手を挙げて立候補しようとしたが、そんな俺を気にすること無く、一人が前へと躍り出た。

 

 

爺や「私がお受けいたしましょう」

 

 

二人「な!!?」

 

 

 まさかの立候補に俺が、そしてブっさんが思わず驚きの声を上げた。そんな声を気にする様子も無く、爺やさんはひたすらエディ先生に向かって歩いていく。

 主治医の方を見てもどうやら爺やさんを止める気など無いらしく、俺は声を上げて彼の前進を止めた。

 

 

桜木「じ、爺やさん!!?ここは俺が行った方が良いですって!!!現役のトレーナーですし.........」

 

 

爺や「桜木様。ここで貴方様の挑戦権を無くす事は危険です。もし仮に肉体的な試練が待っているのでしたら、主治医は兎も角、私は足でまといとなります」

 

 

爺や「貴方様は.........私達メジロ家にとって、そしてお嬢様にとって、残された[切り札]なのです」

 

 

 力強い目が俺を貫く。そんな彼の強い決心と思いを受けた俺は、もう彼を止める事など出来ないと悟った。

 その様子を見守り、沈黙を貫いていたエディ先生が爺やさんが目の前まで来た事で確認を取る為に口を開いた。

 

 

エディ「もう後戻りは出来ないぞ?聞いた所、トレーナーでは無いようだが?」

 

 

爺や「私はメジロ家に使えるしがない従者でございます。勿論、トレーナーではございません」

 

 

爺や「ですが私はマックイーンお嬢様がトレセン学園入学までの間、あの方のトレーナーとして過ごさせて頂きました」

 

 

爺や「メジロ家仕込みのトレーニング論.........侮って貰っては困ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が刻一刻と過ぎて行く。秒針の音とペンと紙が擦れる音だけが延々と鳴り響き、俺は額に汗を垂れ流す。

 

 

桜木(爺やさん。ああは言ってたけど.........大丈夫だろうか.........)

 

 

 制限時間は90分。現時点でもう既に残り10分を切った所で、爺やさんはようやく最後の問題用紙を捲った。

 

 

 そしてそこで、彼の持っていたペンが初めて止まり、世界には秒針の音だけが取り残された。

 

 

桜木(.........!!!)

 

 

ナリブ「っ.........」

 

 

 非常にまずい問題だ。あのいつも冷静沈着なあの人が、少し眉を潜め、その問題に向き合っている。

 息を飲む。もしこのまま、あの人が動かなかったら.........合格ラインが遠のく事になる.........

 そうなったら、そうなってしまったら.........マックイーンは.........!!!

 

 

 

 

 

爺や(.........いやはや、この事態は予測しておりましたが、これは懐かしい問題と巡り会いましたな)

 

 

 ―――目の前にある文章。それは、かつて私の道の一つを閉ざしたそれそのものでした。この文章一つで、私は今を生きている.........

 

 

 かつての私は、トレセン学園のトレーナーになる事を志し、トレーナーになる為に勉学に励んでおりました。

 そしてその傍ら、トレーナー志望の若い人材を雇い、養ってくださるというメジロ家に、私はあの日、今で言うアルバイトとして初めて、足を踏み入れたのです。

 

 

 毎日が勉強でした。私の担当は洗濯係でしたが、マナー作法や良家の常識。メジロ家専属トレーナーの方々から叩き込まれた理論。その全てを、いつかトレーナーになった時に役に立つだろうと、私は吸収して行きました。

 

 

 ですが.........結果は不合格。私は終ぞトレーナーになる事はありませんでした。

 

 

 代わりに、仕事の勤勉さからかつての旦那様。大奥様のメジロアサマ様の旦那様から、メジロ家の執事として働いてくれないかという打診がありました。

 きっと、私にはトレーナーより、執事が向いているのだろう。そう思い、その提案を受け今日まで至ります。

 

 

 .........そんな私ですが、ほんの十年程前でしょうか。かつての夢を、本当にささやかですが、叶えて下さった方がいました。

 

 

『爺や!!おばあ様から聞きました!!かつてはトレーナーになる為にお勉強をしていらしたのでしょう?』

 

 

『ほほほ、昔の話でございます。今はこうしてマックイーンお嬢様の傍でお仕えすることが何よりの幸せですゆえ』

 

 

『でしたら!私まだトレセン学園に入学するまで時間がありますの!でもこうしている内に、ライアンやパーマー達はどんどん力を付けて行きますわ!』

 

 

『ですから入学までの間!私のトレーナーさんになって下さりませんか?』

 

 

 .........思っても居ない、提案でした。まさかこの歳になって、そしてその上、自分がお仕えする主のトレーナーになれるなどと.........

 ですがその提案に、私はつい自然と、引き受けてしまったのです。あの時のお嬢様の喜び様は、高級スイーツ店のシェフをサプライズとしてお呼びした時以上の物でした.........

 

 

爺や(.........かつての私は、この問題。怪我をしたウマ娘に対し、どう接するのか。この記述問題を落とし、トレーナーにはなれなかった)

 

 

爺や(辞めたいならば辞めれば良い。続けたいのならば続ければ良い。かつてはそう考え、そしてそれは今も変わりません)

 

 

爺や(変えるべくは.........[私自身]の行動です)

 

 

 止めていた手を動かし、紙の上に文章を作り上げて行きます。それが記憶の片隅に残っていたそれと同じ形を形成して行きながら、次第に若干、その形を変えて行きます。

 

 

 トレーナーとは言わば、ウマ娘という主役に光が当たる限り必ず出来る[影]の存在。そう考えていたが故に私は、彼女達ウマ娘の意志を尊重し、大事にする事が第一だと思っておりました。

 

 

 ですが、それだけでは足りないと.........彼に、桜木トレーナー様に気付かされました。

 

 

 相手の意志を尊重するのと同時に、それに見合った適切な行動を取らなければ、真の意味でのパートナー。ウマ娘とトレーナーという関係性には、なり得ぬのだと.........

 

 

爺や(桜木様。貴方様はご自身の事を未だ、トレーナーとしては不足していると思い込んでいる節がございます)

 

 

爺や(しかしかつてトレーナーを志した私から見た貴方様は.........お嬢様を支え、チームの皆様を支える貴方様のお姿は.........)

 

 

爺や(.........最早、誰よりも立派なトレーナーでございます)

 

 

エディ「そこまでだ」

 

 

 

 

 

 ―――爺やさんが机にペンを置いたのと同時に、エディ先生が試験終了の言葉が告げられる。答案用紙を回収し、その中身をじっくりと見ている間、俺は生きた心地がしなかった.........

 

 

桜木(.........っ、ダメだ。やっぱり俺がなんて思ったら.........爺やさんを信じてないのと同じじゃないか.........!!!)

 

 

桜木(信じるんだ.........!!!この旅は、俺がもう一度何かを心の底から信じられる様にする為の旅でも.........?)

 

 

爺や「.........フフ」

 

 

桜木(.........!)

 

 

 不安に苛まれている中、自身が選び、爺やさんに委ねた選択に葛藤している。そんな中で、彼は一人苦しんでいる俺の姿を見て、心配は無いと言うように、優しく微笑んでくれた。

 

 

エディ「.........はぁ。[突破]したか」

 

 

三人「!」

 

 

桜木「じ、じゃあ.........!!!」

 

 

 やれやれ。そう言った様子で言葉を出さず、彼は答案用紙を置いて部屋から出て行こうとした。

 しかし、何か忘れている事を思い出したのだろう、彼は俺達の方へ視線だけ向け、いつも通りの無機質な声で要件だけ伝えた来た。

 

 

エディ「次の試練は明日行う。準備に手間が掛かるのでな。アドバイスをするならば.........」

 

 

エディ「俺が教えた事を、思い返すと良い」

 

 

主治医「.........はい」

 

 

 それを言ったきり、彼はその視線をまた外し、建物の外へと出て行った。先程までのやり取りを見て、主治医とエディ先生は恐らく、医学を教え、教えられてきた関係なのだろう。

 

 

 そんな堅苦しい雰囲気から開放された俺とブっさんはお互い、安堵の溜息を吐く。正直ようやく、一息つけそうな感じだ。

 

 

桜木「いや〜、それにしても爺やさん!トレーナー試験合格なんて凄いじゃないっすか!!」

 

 

爺や「ほほほ、昔取った杵柄と言う物でございます。桜木様も一目見れば全問解ける問題だと思われます」

 

 

桜木「マジ〜?そんな簡単な訳ないじゃ〜ん.........」

 

 

三人「.........?」

 

 

 爺やさんが解いた問題と問題用紙を見比べる。英語で書かれてはいるが、一応内容は理解出来ているつもりだ。

 そしてそのままの意味で合っているのなら、大問一の問題はトレーナー常識問題。そこまでは良かった。

 だが俺は、その問題に対しての解を、今全く持ち合わせていなかった。

 

 

 俺にはある特技がある。それは、正解を一度知っている問題に対しては覚えて居ようと間違って居ようと、一度はその答えを知っているのだから安心するという物だ。

 しかし、知らない物にそれは少しも発揮されない。

 

 

 今しがた、俺の心臓はバクバクと緊張と安堵で猛烈に動き出していた.........

 

 

ナリブ「.........まさかお前」

 

 

桜木「.........ま、まぁ?大問一くらい捨てた所で?トレーニング論とか今ならウマ娘との接し方とか?レースのルールなんて朝飯前だし?解けなくても大丈夫っしょや!!」

 

 

主治医「.........大問一の配点は11点と書かれております」

 

 

桜木「」

 

 

 .........え?これ、もしかして俺が受けてたら詰んでた.........?

 

 

 絶句。その主治医の言葉で俺は完全に意識が遠のいた。手に持っていた筈の用紙達がスルスルと抜け、ヒラヒラと宙に舞い、地面へと落ちて行く。

 

 

ナリブ「貴様ァ!!!それでも中央のトレーナーかッッ!!?」

 

 

桜木「俺だって聞きたいよッッ!!!なんで俺トレーナー出来てんのさ!!?ここ全滅よ!!?」

 

 

爺や「桜木様。日本へ帰国したらまずメジロ家にご招待致します。勉学に励み、今一度トレーナー試験を受け直しましょう」

 

 

桜木「そこまでする!!?」

 

 

爺や「合格ラインは100点です」

 

 

桜木「なんで!!?」

 

 

主治医「それは貴方がマックイーンお嬢様のトレーナーだからです」

 

 

 ブっさんには呆れキレられ、メジロ組からは凄い形相で詰められる。帰国後の予定を完全に埋められた俺は、この答案用紙を見た事を後悔したのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

爺や「お隣、よろしいですかな?」

 

 

桜木「ああ、どうぞっす」

 

 

 焚き火の炎に当たりながら、ぼんやりとその揺らぎを見ていると、不意に爺やさんから声を掛けられる。

 今はあの試練の場所から離れ、先日野宿をしたエディ先生とあのウマ娘の女の子が住んでいる場所の近くまで戻り、またテントを張っている。

 

 

桜木「.........爺やさんは、トレーナーだったんっすか?」

 

 

爺や「いえ。昔その道を志しただけでございます。私の肩書きはメジロ家に仕える執事。ただその一つだけです」

 

 

 彼も炎を見ながら、そう言った。けれどその言葉からは寂しさや後悔なんか一切感じられない。代わりに誇りや、聞いていて不快にならない自慢の様に聞こえてきた。

 この人はきっと、妥協や諦めで今の居場所に居る訳じゃない。それがハッキリと分かった。

 

 

爺や「.........桜木様は、今に満足しておられますか?」

 

 

桜木「.........どうっすかねぇ」

 

 

 炎が上がる焚き火の中に、枯れ木を放り投げる。燃料を投下された火は一瞬大きく揺らぎ、天にその先を一層近づけたが、次第にそれは元の形へと収まって行く。

 .........その言葉を聞いて、俺は痛まなかった。それと同時に、確信も無かった。この道を進んで俺はまだ、それが正解なのか間違いなのか、未だに分からずに居る。

 もしかしたらそれが、俺が未だに何かを、そして誰かを心の底から信じられない事に繋がっているのかもしれない。そう思うと何だか、非常に虚しくなった。

 

 

爺や「.........桜木様。人生は長い道のりでございます」

 

 

爺や「例え分かれ道や選択肢を迫られたとしても、それを目の前にして立ち止まれる事は奇跡に等しい程、有り得ません。足は勝手に前へ進んで行きます」

 

 

爺や「思考すべきことは、何が正しかったのかではなく、今どうすれば自分が一番満足できるかどうか。それが良い人生にする為の基本だと私は考えます」

 

 

 俺の方を見ながら、彼は優しく微笑んでそう言った。不思議な感覚だ。俺に優しいおじいさんが居たらきっと、この人と居る様な感じをするんだろう。

 そんな微笑みを向けられ、俺も照れくさいと思いながらも、笑顔で返す。ぱちぱちと弾ける火の音を聴きながらその時間を楽しんでいると、不意に携帯が通知を知らせる為に振動した。

 

 

桜木「おっ、マックイーン達かなぁ〜?」

 

 

爺や「ビデオレターですかな?」

 

 

桜木「ん〜、みたいっすね。ん?今日はいつもとメンバーが違うな.........?」

 

 

 グループメッセージに映し出されたビデオのサムネ。そこにはいつもの俺と関わりのある子達、ではなく、今日は[メジロ家]で統一されたメンバーが映っていた。

 その画面を爺やさんに見せながら再生ボタンを押してみる。

 

 

ライアン「桜木さん!それと爺や!ライアンです!!」

 

 

爺や「な!!?わ、私も同行している事がバレてしまっている.........!!?」

 

 

ドーベル「最初マックイーンから聞いた時はビックリしたけど、マックイーンのトレーナーならやりかけないと思ったし、爺やも主治医もマックイーンに過保護だから、なんか納得しちゃった」

 

 

ブライト「うふふ♪それにしても〜、イギリスという国はとても素敵な場所だと聞いていますわ〜♪爺や〜♪お土産待ってます〜♪」

 

 

パーマー「あはは、遊びに行ってる訳じゃないって分かるんだけど、私もいつか行ってみたいな〜!ゴルフの聖地.........って!浮かれちゃダメだよね!」

 

 

アルダン「まぁまぁ、このビデオは応援するという役割もあるでしょうけど、あちらで頑張っている人達の心を解す物にもなると思います。気張らずに行きましょう?」

 

 

マック「トレーナーさん。爺や、主治医も.........私の身体がこうなったせいで、皆さんにとても迷惑を掛けたと思います.........」

 

 

爺や「そ、そんな事は.........」

 

 

マック「ですが、この身体が治った暁には必ず.........必ずまた、[メジロマックイーン]としてターフの上を、優雅に駆け抜けて見せますわ」

 

 

マック「ですから.........どうか無事に、帰ってきて下さいまし.........!!!」

 

 

 メジロの皆からのそれぞれの声援。最後はマックイーンの力強い願いによって締めくくられた。

 その言葉を噛み締め、俺と爺やさんはお互いに空を見上げる。

 

 

爺や「.........行けませんな。まだ終わっていないというのに、歳を取ると心が思いを強く感じとってしまいます」

 

 

桜木「ああ.........俺も、少し泣きそうです」

 

 

 夜空に広がる星達。きっとこの空の向こうに、彼女達は居る。

 必ず帰ってきて欲しい。彼女の.........あの子のその言葉だけで、心が強く揺さぶられる。それだけで、決心が更に強くなる。

 

 

桜木(.........待っててくれ。マックイーン)

 

 

桜木(次に君に会う時は、君の隣に立っても見劣りしない男になる)

 

 

桜木(君にふさわしい.........トレーナーになって見せる)

 

 

 まだまだ寒い一月のイギリス。その寒空の下。視線を下ろし、緩やかに揺れるだけになった焚き火の炎の様な静かな心のまま、俺は一人、独り言の様な誓い言をたてる。

 今はきっと独りよがりだろう。今の俺一人では決して、届かぬ願いだろう。それでも俺は、願わずには居られない。

 

 

 それは、彼女と誓ったから。

 

 

 [一心同体]だと、自分から誓い直したから。

 

 

 それが見合わない男に、成りたくない。

 

 

 その姿を見られて笑われる、トレーナーに成りたくない。

 

 

 君と二人で並んで立って、様になる。そんな[桜木 玲皇]になりたい

 

 

 そんないつかの二人の背中を想像して、俺は静かに目を伏せた。

 そのいつかの為に、今は超えるべき試練を乗り越えるしかない。その覚悟を胸に秘めた俺は、静かに炎の音に集中していくのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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