山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
シリウス(.........チッ)
廊下を歩いている最中、その向かっている先の事を不意に思い出し、自己嫌悪する。まだ肌寒さが強い為、制服の上に来ているカーディガンの袖を口元に当てる。
別に、向かっている事やその場所に対する物じゃねぇ。そこへ向かっているという意識すら無く、最早習慣となっている自分自身が嫌になってくる。
だが、色々な物が変わって行ったが良い事もあった。それはいつの間にか相部屋相手になっていた[ナカヤマフェスタ]だ。アイツは中々面白い。最近は寮部屋の夜が暇じゃ無くなった所か、寧ろ楽しくなってきたまである。まぁ本人の就寝時間は祖父の言いつけでかなり早いが、それはそれで可愛げがある。
因みに[オルフェーヴル]は凄い。何が凄いって別に何かを頼んだ訳じゃねぇのに飲み物だとか食いもんを調達してきやがる。しかもその時食いたい、飲みたい物をだ。だが正直門限ギリギリで出るのは辞めてくれ。いくら私でも気が気じゃねぇ。あの寮長はああ見えて面倒臭いんだ。
シリウス(ったく、別に行くのは構わないが、若干言いなりになってる節があるな.........そこだけは頂けねぇ.........ん?)
ルドルフ「確かに先程確認したところ、君達のチームルームの壁が古くなっている事は確認できた。まだ肌寒いから早急に対処するとしよう。報告ありがとう」
「はい!お願いします会長!!」
どうした物か。そんな答えの見つからない問答をしながら進んでいると、目の前に同じ[シンボリ]の名を冠したウマ娘。生徒会長殿のシンボリルドルフ様が居やがった。
相談してきたウマ娘達が頭を下げて去っていく。その姿が見えなくなるまでそれを見送っていたが、彼女は直ぐに私の視線に気が付き、嬉しそうな顔をして近付いてきた。
ルドルフ「やぁシリウス。久しぶりじゃないか。こっちの生活は慣れたのか?」
シリウス「慣れるも何も、私は元々ここの生徒だ。お客さんじゃねぇんだよ」
ルドルフ「とは言っても、君が居た頃とは大分勝手が違うだろう?」
シリウス「ああ、そうだな。例えば.........お前の自慢そうに言っていたあの四字熟語が綺麗さっぱり消えてる所とかか?」
先程から気になっている部分を指摘してやると、ルドルフは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうな顔をしてきやがった。
ルドルフ「良く見ているじゃないか。シリウス」
シリウス「.........ハンっ、嫌でも気付くっつうの」
ルドルフ「はは、そうだな。あの喋り方はどうやら他のウマ娘達。引いてはトレーナー達も敬遠してしまう物らしい。指摘されて直ぐに直したが、思った以上に効果があったよ」
シリウス「そうか。それにしてもあの生徒会長殿に意見を言って、それを通す輩が居るなんてな。一体何者だ?」
純粋な疑問だった。この生徒会長様は品行方正で外面は良いが、私の知りうる中では一番と言っても良い程の頑固者だ。そんな奴の染み付いた喋り方を変えるなんて、ソイツは相当大したヤツだ。
しかし、私のその質問を聞いたルドルフはまるで笑いを堪えるように口元に手を当て、それでもクスクスと笑いを漏らしていた。
シリウス「おい」
ルドルフ「ふふ、すまない。その私の相談に乗ってくれたのは何を隠そう、今君が代わりを担っている桜木トレーナーなんだ」
シリウス「っ!!?な、何.........!!?」
思っても居ない名前が飛び出してきた。[桜木 玲皇].........今私が不本意ではあるが、その代わりをしている事になっている。そんな男が、あの頑固者のルドルフを変えたと言うのか.........?
その時、心の中に少ないながらも、何か得体の知れない物が小さく発生した。それは決して良い感情では無いというのは分かったが、それが何なのか、私には分からなかった。
そしてそれにせっつかれるように言葉が口から溢れ出してくる。
シリウス「ハっ、そりゃいい。あの連中から見れば私はあの生徒会長殿を変えたって言うトレーナーと同じだと思われてんだからな」
シリウス「そうだ。久々にビリヤードでも打つか?今の私は気分が良い」
ルドルフ「っ、い、や.........それは.........その、またの機会に.........しておこうかな」
シリウス「.........?」
つい勢いのまま勝負の誘いをしてしまったが、それを断られるのは目に見えていた。だがその断り方が何故か見た事ないほどぎこち無い。
様子がおかしいとは思ったが、何故か私の口は止まらない。その姿を良い様に受け取り更に背を向けて足早にこの場を去ろうとしていくルドルフを追い込むようにしていく。
シリウス「おいおい、まさか逃げるのか?あの[皇帝]様が?」
ルドルフ「.........」
シリウス「そうかそうか!!ぬるま湯の頂点に居る時間が長かったもんな!!だったら仕方がねぇ―――」
「―――[負ける]のが怖くなっちまってもなぁ!!!」
ルドルフ「.........―――」
瞬間。身の毛もよだつ程の寒気が一瞬で身を包んだ。底知れぬ気配に驚き周りを見渡してみるも、別に変わった、心霊とかの類のものでは無いと言うことは確かに分かった。
.........まさか。そう思い、今も私に対して背を向けているルドルフの方を凝視していると、何故かその寒気の根源が、彼女であると言うのが感じ取れた。
ルドルフ「―――だ」
シリウス「.........あ?」
ルドルフ「嫌だァ.........私はァ.........!!!」
「負けたくないィィィィ―――ッッ!!!」
シリウス「な、なんだとォォォォ―――!!!??」
今まで彼女から聞いた事が無い叫び声。見た事ないような白が混じった蒼い炎の様なオーラ。そして私の方を振り返って見てくるその鋭い、まるで飢えた獣の様なその双眸。そのどれをとっても彼女の物とは思えないと言うように、それが何故か、[シンボリルドルフ]だと理解出来てしまう。
ルドルフ「くはは.........!!!そうかそうか小娘っ!!!平常時であるならばこの私を押え込める事が出来るが、どうやらこの娘相手の時はそう上手くは行かんらしいなァッッ!!!」
シリウス「な、る、ルドルフ.........?お前、何......が.........?」
ルドルフ「フンっ、久々に縛り無く自由に表に出られたのだ。名乗ってやろう。私は[地獄の皇帝]、[ヘルカイザールドルフ]」
シリウス「へ、ヘル。え?」
何を言ってるんだ。一体このルドルフに似ている奴は誰なんだ。ええい近寄るな!顔が怖い!!まるでライオンみたいな威圧じゃねぇか!!そんな物を私に向けんじゃねぇ!!!
ルドルフ「貴様、勝負と言ったな?」
シリウス「言ってません」
ルドルフ「言ったな?」
シリウス「言いました.........」
ルドルフ「いい度胸だ。気に入った。では今週のバトルキングダムで会おう」
シリウス「バトルキングダム」
え。え。何。え?バトルキングダム?なんだそれ。どこかのテレビ局の番組か?しかもバトルって物騒だろ。嫌だぞ私はルドルフなら兎も角こんなヤバそうな奴相手にバトルだなんて。
「きゃー!!!久々のヘルカイザー様よ〜!!!」
ルドルフ「むっ、貴様はさっき壁の工事を相談してきた生徒だな。条件を付ける。併走で私に勝ったらその条件を飲もう」
「おひゅ、ひゅ、へりゅかいざーしゃま.........♡」
シリウス「」
こ、こ.........これがあの、シンボリルドルフなのか.........?私がいつか超えてやると誓った.........私が[奇跡]だと認めたあの.........?
ダメだ。頭がクラクラする.........立ってるのがやっとの位だ.........あんな姿を見ただけでこんななのに、それと勝負をしなきゃなんねぇのか.........?
レグルスのトレーナー代理と言い、ルドルフの事と言い.........私は一体、前世で何をしでかしたって言うんだ.........?
「あら、ルドルフさん.........ヘル化してますわね」
「え〜!!?ボクの有馬記念の時はしっかり克服してたよ〜!!?」
シリウス「お、お前ら.........!!!」
二人「?」
私の背後から去っていくルドルフの背中を見送っている車椅子に座ったメジロマックイーンとそれを押すトウカイテイオー。酷くショックを受け、最早立ち直れないとすら思えてしまうくらい打ちのめされた私の顔を見て首を傾げている。
私は二人に縋り付きながら、事の経緯を話したのであった.........
ーーー
マック「なるほど、それは致し方ありませんわね」
シリウス「仕方ない!!?」
タキオン「ヘル化は本能だからねぇ。普段押さえ付けるのが習慣化している会長はそれが強く表に出やすいんだ」
シリウス「ヘル化は本能!!?」
チームルームへと集まった私達は、シリウスさんのお話を聞き、状況を整理しました。
最近は全くと言っていいほど会長のヘル化現象は無くなったのですが、どうやらシリウスさんが煽った事が原因で発現。しかもどうやら、今まで以上にたちの悪いヘル化です。
しかし、彼女を責めることは出来ません。彼女は遠征に行く前から会長と勝負をしていらしたそうで、今回もその時と同じ様なノリでやってしまったのでしょう。悪いのは目の前に居るこのタキオンさんですわ。
タキオン「なんだい?私のせいなのかい?それを言うならテイオーくんだろう。彼女が会長に薬を飲ませたんだよ?」
テイオー「うええ!!?ボクのせいだって言うのー!!?」
マック「辞めなさい!!こうなってしまった以上、勝負に勝って沈静化した所を狙うしかありませんわ。次のバトルキングダムの催し物はなんですの?」
ブルボン「はい。次回は二日後の午後六時より開催される大食いがテーマのバトルです」
大食い.........なるほど、以前のファン感謝祭での光景を思い返すと、これはまた一筋縄では行かないかもしれません.........
デジ「今回は五人一組のチーム戦です。誰が参加されますです?」
シリウス「私、は.........確定だろうな。そこまで食べる自信は無いが.........」
ライス「ら、ライスはちょっと自信あるよ!」
シャカ「ちょっと所じゃねェだろ.........」
パソコンに熱心に何かを打ち込み、こちらの会話など聞いていないと思っていましたが、ライスさんの言葉に指摘を入れてきました。それを聞いてライスさんは少し恥ずかしそうにしております。
シリウス「そうだ。オペラオーの奴はどうした?アイツならこういう事もキャパシティ無視して何とか出来そうだと思うんだが.........」
ウララ「オペちゃんねー!!ドトウちゃんとご飯食べに行ってからお腹の調子悪いんだって!!」
シャカ「.........まァ、アイツの舌に合う飯を普通のヤツが食ったら腹を壊すってのがオチだな」
デジ「ドトウさんは学園屈指の辛党ですからねぇ〜。それに無理だと知りながら付き合うオペラオーしゃん.........はぁ〜♡♡♡」
タキオン「これでチームからは殆ど出られないという事になった訳だ。シャカールくんも空腹感を紛らわせる程度で後はサプリで補うタイプだからね」
困った事になってしまいました.........現状参加出来るのはシリウスさんとライスさんの二人。チーム外から参加を募ることも出来なくは無いでしょうが、時間的制約が厳しいでしょう。
そう考えどうすべきかを思案をしていると、不意に隣に座るブルボンさんが声を上げました。
ブルボン「私も出ます」
マック「へ?ブルボンさん?」
ブルボン「私も食事量ならライスさんに引けを取りません。それに今回の賞品は以前、マスターが欲しがっていた品物です」
シリウス「.........景品なんか出るのか?」
デジ「最近マンネリ化してきたので、その防止策で導入されました。今回はプリファイとプリキュアがコラボした限定フィギュアですね」
シリウス「.........」
それを聞いてシリウスさんは露骨に気持ち悪いという表情をしました。確かに普通の一般男性がその手のフィギュアを欲しがる。と言うのは、理解が無い人から見れば敬遠されてしまうでしょう。
しかし、彼には理由があります。彼の姪がそのシリーズの大ファンなのです。きっと今回も姪っ子さん関係なのでしょう.........
マック「.........分かりました。では私も出場致しましょう」
全員「え!!?」
マック「景品がトレーナーさんの欲しがっているものなら出ない訳には行きません。少しでも彼が帰ってきた時に喜んで貰えるのなら、私もこの身を肥やす覚悟はありますわ」
決死の覚悟を決め、私もこの戦いへの参加の意思表明をします。彼が私の為に身体を張って頑張っているのです。だったら私も彼のために何かをしなければ、私は私を許すことは出来ません。
別にご飯を食べたい訳ではありません。ええ、決してそういう訳ではありません。メジロの名にかけてそれだけは言わせて頂きます。本当ですよ?
タキオン「これで残り一人となった訳だ」
マック「問題はそこですわ.........噂によればオグリキャップさんやスペシャルウィークさんは食事系のバトルは殿堂入り。参加は出来ないそうですし.........」
ライス「ど、どうしよっか.........?」
ウララ「私に任せてー!!ウララが探してきてあげる!!♪」
立ち上がり、胸を張った彼女はそこに手を叩きながら言いました。ウララさんは捜し物に置いてはこの場にいる誰よりも上手です。彼女に任せれば間違いはきっと無いでしょう。
そんな安心を抱きながら、私達は決戦の日まで己を高め続けました.........
ーーー
バク「お待たせいたしましたー!!!これより第何回目か既に分からないほど行われているバトルキングダム!!!チーム対抗大食い対決が始まります!!!」
自前の声量のせいで最早マイクなど要らないのでは無いか?という程の声を持っている学級委員長。サクラバクシンオーの開会宣言により、観客達は大いに盛り上がりを見せた。
フェスタ「な、なんだこれ.........!!?ここにこんな施設があったのかよ.........!!!」
オルフェ「うへぇ〜.........人混みが凄いっス〜.........」
東「大丈夫か?具合悪くなったら直ぐに言えよ?」
最前列で目をキラキラと輝かせているナカヤマフェスタ。そして余りの人混みに少し顔を青くするオルフェーヴルにそれに気を使っている東。他の奴らもそこに固まっている。
バク「それでは参加チームを紹介しましょう!!!まずは久方ぶりのご参加!!!第一回バトルキングダムを大いに盛り上げ現在までの人気を確立した立役者の一人!!!生徒会長のチームです!!!」
ルドルフ「フっ、勝利以外不要ッ」
テイオー「やっほーマックイーン!!今日はカイチョーに誘われたからボクこっち側なんだ〜♪」
あっちのチームにはヘル化とかいう意味のわからない状態になったルドルフと、それを何とも思っていないテイオー。そして生徒会役員のエアグルーヴ。マルゼンスキー。同じチームリギルのグラスワンダーが参加していた。
グラス「お久しぶりです。シリウスさん」
シリウス「ああ、体験入学以来だな」
マック「お知り合いですの?」
シリウス「まあな」
知り合いと言っていいほど顔を合わせた訳じゃないが、それでもそこら辺の奴よりかは関係性はある。一度会ってそれっきりだったが、どうやらあの時の私の勧誘を受けてくれたようだった。
バク「ではお次に!!!シンボリルドルフさんと同じく初回に激闘を繰り広げた桜木トレーナーさんのチームメイト!!![スピカ:レグルス+α]です!!!」
観客達に紹介する為、バクシンオーはその手を私たちの方に向けて広げる。観客の熱狂に答えるようにマックイーンは手を振り、ライスシャワーは恥ずかしそうにする。
ミホノブルボンは普段と変わらず余り表情を変えないでいるが、この場で一人不安そうな表情をしている者がいる。
シリウス「.........大丈夫か?」
「っ、当たり前じゃない!!私はキングヘイロー。全てに置いて一流のウマ娘なのよ?この勝負も必ず物にしてみせるわ!!!」
「.........最近頑張ってるカワカミさんの為よ、絶対勝ってみせるわ.........!」
どうやらこのウマ娘は、人の為に今回の大会に参加をしたらしい。人の為に勝負をする.........なんて感覚は私には無いが、コイツらは全員、誰かの為にこの勝負に参加している。
白銀「あ〜あ!!!俺も参加したかったなー!!!」
黒津木「一人で行けばええやん」
白銀「テメェがラーメン三杯も食うから参加出来なかったんだろ!!!」
神威「おかしい.........お前は六杯食ってたはず.........?」
観客の喧騒に交じって頭痛が痛くなる様な会話が聞こえてきたが無視しよう。それが一番良い。
そうこうしているうちにスタッフの手により少し離れあった場所に人数分の椅子と丸テーブルが置かれる。そこに着くよう言われ、この壇上にいる全員それに従い、まだ何も置かれていないテーブルに着いた。
バク「今回は大食いです!!!早食いではありませんので時間制限はありません!!!各々のペースで食べて下さい!!!」
バク「そしてこの勝負でカフェテリア職員の負担を懸念される方も居ますがどうかご安心を!!!お料理勉強をしている生徒達が協力してくれるので負担は食料だけです!!!流石トレセン学園ですね!!!とても自主的です!!!」
シリウス「この声ならマイク要らねぇだろ.........」ビリビリ
最早耳が痺れる程に大きな声で喋っている司会者に、小さく呟きながら耳を押えて睨み付ける。
そんな時に肩を叩かれた。何かと思いその方向を見ると、キングヘイローが手を差し伸ばし、私の手の中に何かを置いた。
キング「耳栓よ。ミホノブルボンさんから頂いたわ」
シリウス「へぇ、中々準備が良いじゃねぇか」
手渡された耳栓をしっかりと詰め、バクシンオーの声が少し軽減される。そのあとも長々とやれバトルキングダム発祥の話だの、歴代王者の話だのが続いた後、ようやく目の前に料理が運ばれて来た。
ブルボン「皆さん。もう耳栓は外して大丈夫です」
キング「こ、こんな山盛りの料理.........は、初めて目の当たりにしたわ.........」
シリウス「私もだ.........だがあっちの方は見慣れてんのか、動揺は少ねぇな.........」
横目で相手チームの様子を見るが、面を食らってるのはエアグルーヴとマルゼンスキーだけで、他は余り動揺は見えない。この勝負、どうやら一筋縄では行かないようだ.........
シリウス(フルスピードで一気に差をつけてやる.........必ずお前を元のルドルフに戻してやるからな.........!!!)
目の前に置かれた箸を手に取り、真ん中に置かれた大皿を見据える。覚悟は決めた。後はそれを実行し、ルドルフに勝つだけだ.........
決戦の火蓋は今、切られた。
ーーー
シリウス「.........ウプ」
キング「うっ.........も、もう食べられない.........」
マック「あら、困りましたわ.........後は私達だけですか.........」
いただきますの合図から猛スピードで食事をし続けていたシリウスさん。そしてそれに釣られるようにキングさんもまた、凄い勢いでご飯を食べていきました。
しかし、それはまるでレースで掛かってしまったウマ娘と、それに釣られて掛かってしまうウマ娘の様でした。
そんな中、私の言葉を聞いてシリウスさんは強く私達を睨み返してきました。
シリウス「お前ら.........!!!そんなお喋りしながら食ってる場合じゃねぇだろ!!!」
マック「え?別にスピード勝負では無いのですから、ペースは関係ないでしょう?」
ブルボン「ご飯は味わって食べるべきだと、私の父とマスターに教わりました。ライスさん。これ美味しいですよ」
ライス「ら、ライスは余り食べるの早くないから.........あっ、本当だ!美味しいね!」
和気あいあいと他の方達とは空気が違う中で食事を食べ進めます。私もライスさんからオススメされたお料理を口にし、その美味しさに思わずほっぺが落ちないよう触ってしまいます。
そんな中ふと隣のテーブルの方が気になり、視線を送ってみると、変わらない様子で食べ続けるシンボリルドルフ会長と、同じくらい食べているグラスワンダーさん。そしてもう食べ飽きたのか、ハチミーを飲み始めているテイオー。他のお二人は既にギブアップ寸前でした。
グルーヴ「も、申し訳ありません、会長.........」
マルゼン「ごめんなさい〜、流石にお腹パンパンでチョベリバ〜って感じ〜.........」
ルドルフ「気にするな。後は任せておけ」
シリウス「.........くっ」
平然とした様子でまだ食べていられるという様子を見せる会長に、シリウスさんは悔しさなのか不甲斐なさなのか、小さく声を上げました。
そんな声に気付いた会長、いえ。ヘルカイザーは意地の悪い笑みを浮かべ、シリウスさんの方へと向きます。
ルドルフ「なんだ?意気込んだ割にはその程度か?拍子抜けだな」
シリウス「っ.........わた、し......は.........」
ルドルフ「.........もっと楽しませてくれると思ったのだがな」
シリウス「.........!!!」ギリリ
歯を食いしばり、握った拳を震わせるシリウスさん。そんな会長の発言に流石に黙っている訳には行かず、私とキングさんは抗議の声を上げる為に、彼女の方を向きました。
ですがそこには、私達の想像に反して、とても残念そうな顔をしている彼女が居ました。その理由を察する事が出来ず、私達は開いた口をただ閉じるしかありませんでした。
マック「.........負けられない理由が一つ、出来てしまいましたわね」
キング「そうね。いくら即席のチームだからと言って、この一流であるキングの、一流のチームメイトにあんな事を言うなんて。生徒会長と言えども許せないわ.........!!!」
あのヘルカイザーの表情。会長とは違う胸の内があるのでしょう。しかしだからと言って、それを許すことは出来ません。
私はふぅっと息を入れ、キングさんは気合を入れるように両頬を強く叩き、新しく運ばれてきた料理に手を伸ばします。
未だにあの言葉を受けたシリウスさんは放心し、目を伏せたまま黙っています。そんな中でも、勝負は着々と進んで行きました.........
ーーー
ゴルシ「まずいなこれ.........マックイーン達の手が止まってきやがった.........」
フェスタ「ああ.........あっちももうヘルカイザーとかいう奴一人しか食ってないが、スピードは衰えてねぇ」
オルフェ「追いつかれるのも、時間の問題っスね.........」
腕を組みながら最前列で勝負の行く末を見守るアタシと妹二人。最初こそ激戦を繰り広げていたが、時間が長引くとその分結末を予想しやすくなる。
このまま行けば確実に負ける。そんな事はこの場にいる誰しもが分かり切っていた。
ウララ「うぅ〜.........マックイーンちゃーん!!キングちゃーん!!ライスちゃんもブルボンちゃんも!!負けないでー!!」
東「お、おいおい!無茶言うな!!いや俺も勝って欲しいのは山々だが、これ以上は.........その.........なぁ?」
白銀「なんスか。お嬢がデブになるって言うんスか?」
黒津木「ガノタくんさぁ〜?空気読んで応援しよ?」
東「.........すぞ」
一触即発という雰囲気があの辺りに立ち込めるが、あのバカ共は中々立ち回りが上手い。即発しても何とか収めることが出来ると思い、アタシらは無視した。
そしてその面倒臭そうな場所から人知れず逃げ、アタシらの隣にいつの間にか陣取っていた一人に声を掛ける。
フェスタ「なぁアンタ。なんか策はねぇのか?」
神威「あァ?何話しかけてきちゃってる訳?」
ゴルシ「待て姉ちゃん!!早まるんじゃねー!!司書のおっちゃん最近弄られすぎて気が立ってんだよ!!!」ガシィ!!
危ない所だった。ゴルシが羽交い締めにしてなかったら今頃右ストレートが炸裂してた。そして追撃の急所蹴りでこの男のダメージと人生が更に加速する所だった.........感謝するぜ、妹よ。
しかしこの男。肝っ玉が座っているのか自分の事なんてどうでもいいと思っているのか全く動じては居ない。横目でアタシを見ながら正直すまんかったと言われたアタシは「お、おう」と返すしか無かった。
神威「ん〜策.........策ねぇ」
オルフェ「何でもいいっス!!マックイーン先輩が勝てるなら何でも!!何ならアタシが今から殴り込みに」
二人「やめろォ!!!お前はジョーダンの所にでも行ってろ!!!」
オルフェ「え!!ジョーダン先輩来てるんスか!!?どこっスどこっス!!?」ダダダダ
危ない所だった。ああやって話題を逸らさないとアイツは肯定も否定も関係なくおっぱじめるからな。良かったおバカで。
とまぁ、会話の邪魔になる奴は消えたし、これで助言が貰える。男が何を言ってくれるのかを期待しながら待っていると、遂にその口が開いてくれた。
神威「.........カレー食いてぇな」
フェスタ「.........何?」
神威「だから言ってんだろ?カ・レ・ー」
わざと強調するようにその[カレー]という単語を口にする男。それは期待していたのとは全く違う物だった。
時間を無駄にした。そう思い溜息を吐いてからもう一度、その勝負の行く末を見ようと視線を移した。
その時、アタシの耳に微かに聞こえてきた。
「気付かねぇか.........」
という、少しガッカリしたような声色のそれが.........
フェスタ(.........待て、まさか.........)
フェスタ「.........おい司会者。調理場まではどう行けばいい?」
バク「ちょわ!!ええとそれはですねぇ!!そこをバーッと行って!!キュッと曲がった先の扉ですよ!!多分ですけどね!!」
フェスタ「分かった。それだけ分かりゃ後は鼻で追える」
不確かながらも、道のりを教えてくれた司会者に礼を言ってからアタシはそこまで歩いて行く。その最中、自分の中でまさかと思っていた部分を詰めて行き、そのまさかまで確定させる。
フェスタ(あんまり、他人の真剣勝負に横槍入れんのは趣味じゃねぇし、されたくもねぇ事だけどよ)
フェスタ(じいさんは言ってた。勝負事ほど、フェアじゃない物は無い.........ってな)
自分の信念。真剣勝負。そしてそれらを否定する、自分の尊敬する人の言葉。それが今になって悪くないものだと思った。
持ちうる物を全てぶつける。小手先だろうと不意打ちだろうと、持ち合わせている物をぶつけなければ全身全霊ではない。
だったらアタシは、アタシに出来ることで仲間に勝ち筋を与えるだけだ。
そう思いながら、奥から香ばしいいい匂いのする扉を静かに開けた.........
ーーー
マック「くっ.........流石に厳しい物がありますわね.........」
ライス「うぅ.........ちょっとお腹いっぱい.........」
ブルボン「内部ストレージ。現在許容量残り8%.........」
キング「わ、私は一流なのよ.........こ、こんな量、軽く.........うぅ」
シリウス「.........あんま無理すんな」
苦しそうに腹を摩る四人。空になったら皿は既にアタシが食べた数より二倍は食っている。
だがそれでも厳しいものを感じる程、ルドルフの方は速さを変えずにどんどんと出てくる料理を平らげ、皿のタワーを高く積み上げていく。
ルドルフ「ククク.........流石にチームで来られると厄介ではあるが、とうとう限界の様だな」
ルドルフ「.........スンスン、丁度新しい料理も来た事だ。ここで貴様らに敗北を.........ん?」
フェスタ「お待たせ致しました。デリバリー[オルフェスタ]自慢の、[伝統カレー]でございます」コトッ
シリウス(なっ、アイツ.........!!?)
姿を現したのはまさかのナカヤマフェスタだった。サービスワゴンの上には既に今食べられる者の人数分よそわれたカレーが乗っており、下の方にはルーが入った寸胴と炊飯器が五つ程乗っていた。
だがアタシが驚いたのはそんな事じゃない。確かに料理を作れた事には驚きだったが、問題はその料理そのものだ。
シリウス「おいっ、ここに来てこんな胃に負担掛かるもんを良く出してきやがったな.........!!!」
フェスタ「ああ、正直コイツは賭けだ。もしこれであの三人が無理だったら.........この勝負はレグルスの負けだ」
キング「さ、三人って、何言ってるのよ!!マックイーンさん達だってもう限界.........」
三人「.........ゴクリ」
二人「.........え?」
喉が鳴る音。それが三人分。丁寧に私達の耳へと聞こえて来た。まさかここに来て、このカレーを食おうとする所か、美味そうだと思っていると言うのか.........?
驚愕を通り越し、最早その三人に恐怖すら抱きつつある。そんな中、ナカヤマフェスタはニヤリと口角を上げ、ルドルフは先に一口そのカレーを口にした。
ルドルフ「.........細工はされてない。どうやら普通のカレーの様だ」
ルドルフ「フっ.........こんな物で勝ったつもりか?こんな程度の量、私に掛かれば楽勝。正にテイク・イット・イージーと言う奴だ.........?」
こちらの方に目を向けながら、余裕そうな表情で挑発をしてくるルドルフ。だがしかし、その言葉尻はまるで、何か見てしまったのか。すぼんでいき、そしてその表情もまた、こちらを凝視し固まっていた。
一体、何を見ているというのか。そう思い、彼女の視線の先を追うように首を動かすと、そこには.........
マック「.........美味しい」
マック「美味しい.........ですわ.........!!」グス
ライス「うんっ、うんっ!」ズビー
ブルボン「これは間違いなく.........マスターが作ってくれるカレーライスそのものです.........!!!」ウルウル
三人(な、泣いている.........!!?)
カレーを一口食べた三人は、その目に涙を浮かべていた。その様子を見ていた私とキング。そしてルドルフは驚きの表情をしてその様子をただひたすらに見ていただけだった。
テイオー「んむ、ホントだ.........これサブトレーナーのカレーだよ!!」
グラス「これが桜木トレーナーさんのカレー.........何と言いますか、優しいカレーですね」
シリウス「.........でも、普通のカレーだよな」
キング「そ、そうよね。味の感じからして、特にこれと言った特別感は.........」
三人「ガツガツガツガツッッッ!!!!!」
全員「な、何ィィィィ―――!!!??」
バク「な、なんと!!!ここに来てまさかの盛り返しです!!!先程まで優雅にゆっくり食べていた三人がここに来て!!!一気にカレーを口にかきこみ始めました!!!」
し、信じられない.........ここに来てまさか、このスピードを出せるなんて.........そう思える程に、三人のその様子は最早早食いと言っても差支えはなかった。
ルドルフ「くっ、負けてたまるものか.........!!!私はシンボリルドルフだッッ!!!そう何度もこの名に泥を塗って堪るものか.........!!!」ガツガツ!!!
グラス「あまりお行儀良くありませんが、勝負という事ならば仕方ありません!私も本気でいただきます!」モグモグ!!!
テイオー「ハチミーの後のカレーって何だかすっごく美味しく感じる〜!!これならいくらでも食べれそうだよー!!♪」パクパク!!!
ここに来て展開が変わり、事態は最早、誰にも勝敗が分からなくなってしまった。どちらもその速度を保ったまま譲ろうとせず、ただひたすらにカレーを食べまくっている。
決着はもうすぐそこだ。どちらが勝つか負けるのか、その分け目に自分が今関われない事が、とても歯がゆかった。
ーーー
フェスタ「.........おいおい.........っ」
マック「っ、後.........一歩でしたのに.........!!!」
恨めしそうに相手側の積み上げられた皿のタワーを睨むマックイーン。数秒後にそこに、一枚上乗せされる。
それを乗せたのは他でも無い。ヘルカイザーその人で、最早余裕は無いものの、勝利を確信した表情で私達を見ていた。
ルドルフ「フっ、フフ.........まさかここまで追い詰められるとはな.........中々手強かったぞ」
ライス「だ、め.........もう一口も、食べられない.........」
シリウス「.........チッ......!」
何とか目の前に置かれた自分のカレーを食べようとしてスプーンを伸ばすが、最早食べる為に口を開けることすら叶わず、乗せたものを元の場所へと下ろすライス。
空いている皿の差は二枚。グラスワンダーとテイオーも最早食べられる状態では無い。あともう少し、本当にあともう少しだけ食べられたのなら、勝機は必ずあったんだ.........!!!
ルドルフ「ほう?悔しいかシリウス。だがこれが現実だ。所詮、[持たざる者]が[持つ者]勝てる訳が無いという事だ」
ルドルフ「貴様らのやってきた事は全て、無駄な努力という事だな.........ククク、ハーッハッハッハッ!!!」
シリウス「クソ.........!!!ちくしょう.........!!!」
私は.........こんな事ですらルドルフに敵わないと言うのか.........?レースでも、習い事でも、遊びだろうと趣味だろうと、先に始めたルドルフの才能に憧れと現実を思い知らされ、後から始めたルドルフのセンスと器用さに脱帽し続けた.........
何だってそうだった.........私がルドルフに勝てる物は何一つありはしなかった.........それでもアイツは.........嫌な奴じゃ無かった。誰もが手本にするくらい、精神も出来きった奴だった。だから私はそんなルドルフに突っかかり、勝負を挑んでいた.........
.........まぁ、当たり前だよな。心の奥底では鬱陶しくて鬱陶しくて、仕方無かったはずだ.........それを口に出さないルドルフに私は面の皮厚く、甘えてただけなんだ.........
そうだ.........私は結局.........
ルドルフには、勝てな―――
ダバーッ!!!
ルドルフ「!!?」
シリウス「!!?」
キング「!!?」
マック「なっ!!?ぶ.........!!?」
ライス「ブルボンさん.........!!?」
突然、今まで沈黙を貫いてきたミホノブルボンが動き始め、マックイーンとライスが先程まで食べていたカレーを、まだ自分の分が残っている皿へと空け始めた。
そしてそのまま先程までの暴食を忘れたかのように、スプーンに乗せられるギリギリまでカレーを乗せ、大口を開けてゆっくりと咀嚼し始める。
最早、食べられる訳が無い。この勝負は誰がどう見てもシンボリルドルフの勝利だった。それを今、たった一人の、たった一瞬の行動でその下バ評を大きく覆した。
ゆっくりと。だがしかし、着実に皿の中のカレーは減って行っている。その様子を誰もが見守っている中、遂にミホノブルボンはその皿の中の物を全て口に入れた。
そして―――
―――ゴクリっ
食い物が喉を通る音。それがわざとらしく、この会場一体に響き渡るようにして鳴った。
あんなに食って無事なわけがない。身体に影響が無いわけ無い。未だに静かにしているミホノブルボンに、観客の目線。そして私達の目線が集まる。
そして彼女は、カレーを食べ終えて初めて、一つだけ行動に移した。それは―――
―――ギロッ
ルドルフ「!.........なんだ、その目は」
ブルボン「.........」
ルドルフ「っ、何だと聞いて居るんだ!!!ミホノブルボンッッ!!!」
静かに、だが彼女は今までの無機質さとは無縁の目で、ルドルフを強く睨み付けていた。
声を荒らげるルドルフに動揺も、何か反応を返すことも無く、彼女は静かに睨みつけ続ける。
その姿に、ルドルフは初めて冷や汗を垂れ流した。彼女のその理由の分からない圧に、ルドルフは今屈しようとしていた。
痛い程の静寂が蔓延し、誰も何も言えなくなった中、最初に口を開いたのは彼女本人であった。
ブルボン「.........私は元々、[スプリンター]としての適正があり、その活躍を期待されていました」
ブルボン「しかし、私の夢は[無敗の三冠]。その為に、血の滲む様な努力をし続けました」
ブルボン「元々[ステイヤー]気質の貴女から見れば、私は貴女の言う[持たざる者]なのでしょう」
ブルボン「私をバカにするのは構いません。今にして思えば、なんて気の遠い、そして大それた夢なのだろうと分かります.........ですが」
「私の周りの人をバカにするのは、絶対に許せる事ではありません」
その言葉に、普段の機械的な物は一切感じられなかった。彼女の感情全てを乗せたその言葉が全て、ルドルフの方へとぶつけられる。
そしてブルボンはナカヤマの方に視線を向け、軽く頷く。それを見たナカヤマは小さく驚きながらも、薄く笑って新品の皿を手に持ち、白米とカレーを乗せ始めた。
シリウス「っ!おいよせ!!こんな意地を張っても意味なんてねぇ!!!」
ブルボン「意味ならあります」
シリウス「はァ!!?」
ブルボン「私の食事量は元々、そこまで多くありません。この食事量は言わば、[スプリンター]を長距離走行出来るようトレーニングした際の副産物です」
ブルボン「まだ公式レース所か、模擬レースですら長距離で[ステイヤー]の方々に勝つことは出来ていません。しかし.........」
目の前に置かれた山盛りのカレー。普通この状況ならばそんなもの見た瞬間に拒絶反応を起こし、足踏みをするはずだ。
だと言うのにこのミホノブルボンはそれをする所か、スプーンを手に持ち、今すぐにでも食べてしまう様な勢いを感じられる程に、メラメラと燃えたぎっていた。
ブルボン「マスターは言いました。[落ちこぼれだって必死に努力をすれば、エリートを超えることがあるかもしれない]、と」
ブルボン「私は、私のマスターを嘘つきにしない為に。そして今まで私を支えてくれたライスさん達やファンの人達の応援が、無駄にならないようにするだけです.........」
ブルボン「.........行動インストール完了。思考プロテクト。限界固定値。能力上昇曲線。書き換え完了―――」
「―――マスターモード。[奇跡超越]に移行します」
[Goo 1st.F∞;]
Lv0→6
その瞬間。まるでその身に何かが宿ったかのように、ミホノブルボンは先程の追い込みとは違う、無我夢中に食事に喰らいつく姿を見せ始めた。
ルドルフ「くっ!負けてたまるか!!おいっ!!私もおかわりだ!!!」
フェスタ「良いぜ?せいぜいひりつく勝負を見せてくれよ?皇帝様?」
こうして勝負の行方はミホノブルボンに委ねられた.........が、流石にここまで来て余裕と言うことは無く、三分の一を食べた時点でそのスプーンを苦しそうに置いた。
ブルボン「っ、こんな.........所で.........私は.........?」
そんな中、ふとその横から皿の上に盛られたカレーを取っていく者がいた。しかもそれは、一人では無かった。
マック「全く。そういう人を頼らない所までインストールしないで下さい。見ていてハラハラしてきますわ」
ライス「そうだよブルボンさん!!ライス達もお兄さまの為に頑張らなくちゃ!!」
キング「このキングの勝利に貢献する権利を上げるわ!!!」
キング「だからこの勝負.........絶対に勝つわよ!!!」
ブルボン「皆さん.........」
最早皆、限界だと言うのに、ブルボンに触発されたのか、これ以上膨らまないであろう胃の中に無理やりカレーを入れ始める。
隣のテーブルのルドルフを見ると、目の前に置かれたかレーに対して流石に動揺を見せ、手に持ったスプーンを震わせながら何とか息を整わせている。
攻めるなら.........今しかない。
シリウス「っ、貸せッ!!!後は私が食べてやるッッ!!!」
全員「な!!?」
シリウス「ガツガツガツガツッッッ!!!」
ルドルフ「な、にィ.........!!?」
―――何という事だ。ここに来て再起することは無いと思っていたシリウスが、再びスプーンを持ち、私に追い打ちを掛けるようにスパートするだなんて.........思っても居なかった。
しかし、焦りとは裏腹にこの手は全くカレーに近付いてはくれない。冷や汗を垂らしながらただ息を整える時間だけが過ぎて行く。
ルドルフ(.........負ける、のか?)
ルドルフ(.........フっ、それも良いだろう.........っ!!?)
賞賛に値する。自らの限界を迎えながら、その中でそれを越えようとする彼女、彼女らの意志に、私は敗北を認めようとした。
だが、その思いとは真逆の行動を、スプーンを持った方の手が取り始める。なんとカレーをすくい始めたのだ。
ルドルフ(ぐっ、貴様ァ.........!!!これ以上は無理だッ!!!腹が破裂するぞッッ!!!)
(おや。[ヘルカイザー]が負けを認めるのか?らしくないな)
ルドルフ(っ、そういう貴様は一体、どういう風の吹き回しだ.........!!?)
(なに。相手をリスペクトし、勝敗は二の次。内容を重視している私にも勝ちたい相手は居る。ただそれだけの事だ)
(分かったら。その身体を返してくれはしないか?)
その提案は、普段の私なら到底受け取る事の出来ないものだった。だがしかし、隣のテーブルでカレーを食らうシリウスの姿。その表情を見て、私は諦めて身体の主導権を彼女へと帰した.........
(.........全く。羨ましい物だな。どんな名声や名誉を得ても、勝負を挑んでくる者が身近に居ると言うのは.........)
―――ゆっくり。ゆっくりではあるが、カレーを口に運んで食べ始めるルドルフ。その姿は、普通の食事を楽しむ様な物で、決して先程まで感じた圧力のある物では無かった。
だが、その姿を見た全員が、彼女の変貌に驚き、戸惑っていた。先程まで見えていた青白い炎のようなオーラは空に消え、柔らかい表情でカレーを食べているルドルフを、ただひたすらに見ていた。
シリウス「る、ルドルフっ、お前.........!!!」
ルドルフ「うん。美味しいな。君達が一口食べてスプーンが早くなったのも頷ける。このカレーには、愛が篭っているようだね」
フェスタ「な、ァ.........な、なんの事だ?べ、別にアタシは特別な事は何もしてないが?」
ゴルシ「姉ちゃん.........黙ってりゃ普通のカレーって事で片付いてたぜ.........」
タキオン「し、信じられない.........!あのレベルの深性のヘル化を、自力で解除するだなんて.........!!!」
会場の盛り上がりも最高潮に達した。そんな中息苦しさと反比例する様に、私達はただひたすらにカレーを口へと運んで行く。
まず最初にキングヘイローが根性で自分のよそった分を食べ終え、ライスシャワーがしっかりとカレーを味わいながら食べ終えた。
メジロマックイーンは最後、口元を押え限界だと思われたが、落ち着いた瞬間に一気に最後を口に入れて完食。残るは私だけになった。
シリウス「くっ、これを食べ切る事が出来れば.........!!!」
現在、ルドルフチームの皿と私達の皿は同数。ここで先に一枚乗せることが出来れば大きなアドバンテージを取る事が出来る。だがどう考えても、この一枚を重ねる事が限界だ。
それでも私は、一瞬だけでも良い。ルドルフに勝てるなら.........私は.........!!!
シリウス「っ、ぐ.........んくっ」ゴクリ
バク「おお!!!シリウスさんがここで完食し!!!一枚相手チームを上回りました!!!果たしてルドルフ会長はもう一枚!!!乗せて引き分けにすることが出来るのでしょうか!!?」
皿を一枚、タワーの上へと積み上げた。これでリードを一枚。取る事が出来た。
観客から大きな歓声が上がる。ゆっくりと呼吸し、先程飲み込んだ物が上がってこないよう細心の注意を払いながら、私達はルドルフの方を見た。
すると彼女は静かに微笑みながら、そのスプーンをまだカレーが半分残っている皿の上へと置いた。
ルドルフ「.........ふふ、なぁシリウス」
シリウス「あ.........?」
ルドルフ「.........私は君との勝負を、いつも楽しみにしていたんだ。君とのこの時間だけが、幼い頃宿していた闘争心をそのまま引き出させてくれる.........」
ルドルフ「約束してくれ。今後も、私に勝負を挑んでくれると.........」
シリウス「っ!」
.........思っても居なかった。まさかこんな所で、そして彼女が私に対して、そんな事を思っていてくれていただなんて.........全く、予想だにしなかった。
その言葉に少し遅れて、自然と口角が上がるのを感じてしまう。私はそれにいち早く気付き、口元を掌で隠し、彼女にそっぽを向きながら答えた。
シリウス「.........ああ、考えといてやるよ。皇帝様?」
ルドルフ「ふふ、ありがとう.........この勝負。私の負けだ」
「―――ワァァァァァァァ!!!!!」
決着。それを知るのと同時に、観客から大きな声が響き渡った。勝った私達のチームは立ち上がって喜ぼうとしたが、思うように身体を動かせず、その場に座ってその勝利を分かちあった。
ルドルフ達の方も、最後まで食べていた彼女の事を労りながら、私達の健闘を称えてくれた。
そして、大きくでっぱった腹を押さえながら、私達は商品であるフィギュアをこの手にしたのであった.........
ーーー
その後。一つのフィギュアを貰ったレグルス一行であったが、それを自らのトレーナーへのプレゼントとする事無く、わざわざ参加してくれたキングヘイローに譲り、親睦を深めた。
そして勿論、あれほどまでの食事をしたせいでもれなく全員太り気味となり、何故か保健室で過ごす事をお互いのチームのトレーナーに言い付けられ、その日の夜は赤いボディコンの上に白衣を着た保健室医の監視の元、就寝に着いた.........
そして、皆が寝静まった頃。[私]は普段なら意識を持つ事の無い夢の世界で、意識を持って草原に立っていた。
『どうも。はじめましてね?[皇帝]』
『.........[名優]、[メジロマックイーン]か。貴様どうやってここに?』
『ちょっと貴方の事が気になってね』
風が吹き抜け、緑の波を作るターフ。その様子を見ている私の隣に、彼女.........いや、彼と言うべきかも分からぬが、その存在は立った。
『貴方、どうして対話をしないの?あの子のレベルならそれくらい出来るじゃない』
『愚問だな。彼女は既に肉体、精神共に完成されている。私が何かを教えたり、授けたりする段階はとっくに過ぎ去ってしまっている。自身の欲求に気付くのが遅かったせいでな』
『ふ〜ん。それで自分の信念を伝え切れなくて欲求不満になって、あんな形で表に出てきたのね〜?』
『.........フン、元はと言えばあの[女神]が私を封印したからだ。性格が移ると面倒臭い等と.........元々は私なんだぞ?似て当然じゃないか馬鹿馬鹿しい』
思い出すだけでも憤怒が溢れ出してくる。そもそもこの世界に私を誘ったのはあちらでは無いか。走れぬ日々に嫌気が差し、ようやくまた肉体。しかも今度は人間と同じ肉体、知能、言葉を駆使する事の出来る身体だ。これは存分に利用しなければ.........
等と思っていた矢先、奴は計画の邪魔になり兼ねないと踏み、私の意識を奥底へと封じた。故にあの器は独自の人格を形成し、私とは似ても似つかん者へと変わってしまったのだ。
『王者としての風格は認めよう。だがなんだあの軟弱さは。敗者など全てそこに生えている名も知らぬ草と同類よ。気にするだけ無駄だと、貴様も思わないか?』
『思わないわね。こういう草も食べたら案外美味しいのよ?』
『食い意地の張った[名優]め。だから貴様の出走時期が遅れたのだ』
『そうやって他の人を見下すから良い所で負けて、しかもその負けがずっと語られるのよ?少しは他人を素直に評価したら?』
欠伸をしながらそう言った彼女は、興味が無くなったと言う様にゆらゆらとその姿を陽炎の様に揺らし、私の前から消えてなくなって行った。
全く。どこまでも気分屋な奴だ。レースでやる気を出し切る事無く勝てたのだから、スイッチさえ持って居れば私の記録も優に越せたであろうに、才能が惜しいな。
『.........評価なら、していたとも』
『私と並走できるのは、彼だけだったのだからな.........』
懐かしい思い出。レースに向けての並走トレーニングはいつも決まって彼だった。私に着いてこられるのが、彼だけだったからだ。
大人しく、聞き分けが良く、調子の良い所もあった。いつか本番のレースで走れる事を密かに楽しみにしているくらいには、彼を評価していたつもりだ.........
だが、その時は結局来ることは無かった。彼は海外へ遠征し、私もそれに合流する予定であったが、運命のイタズラか、その直前で私は足を故障した。
結局その密かな思いは叶う事無く、そして海外での激戦とトレーニングにより、その性格は少し歪んでしまった。
普段の負けん気の中に、不貞腐れを感じさせる物が現れた。善戦しても勝てずじまいだった海外生活が、彼に限界を決めつけさせてしまったのだろう.........
.........だから、私は彼女を羨ましく思う。
『.........精々、その奇妙な友情を大切にするのだな』
『私の様に、立ち振る舞いを考え、君のその大事な友人が傷付く事が無いよう、ここで祈らせてもらおう』
きっと、彼女なら必要無いだろう。私と違う[シンボリルドルフ]である彼女なら、そのような間違いは決してしない。
しかし、名が体を表すとも言う。もしこの名が運命であり、歩くべき道を決められていると言うのなら.........
今度こそ、私は彼女の友人の為に、そうならないよう祈り続けよう.........
『.........むぅ、それにしても長い。まだ朝は来ないのか』
『.........おい、[名優]。まだ居るか?良ければその、並走してやっても構わぬが.........』
『.........はぁ、せめてここにりんごの木が有れば、少しは気が紛れるのだがな.........』
......To be continued