山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
マック「.........」
夜の暗さが外をつつみ、部屋の小さな灯りを感じながら、私は寝よう寝ようとしていました。
しかし、いくら目を閉じ、意識を落とそうとしても上手くは行かず、眠る事が出来ませんでした。
今は何時かと思い、寮部屋に備え付けられている時計に目線を合わせると、短い針はもうすぐ、頂点へとたどり着きそうになっています。
マック(早く寝ないと........?)
視線をもどし、もう一度眠りにつこうと今度は掛け布団を深く被ります。しかし、その行動をした時、机の上にあった[ここにあるはずの無いもの]が目に移り、私はゆっくりと身体を起こします。
普段だったらそんな物は気のせいだと思い、眠りに着いたでしょう。けれどこの時私は何故か無性に、そのカメラが気になって仕方がありませんでした。
ベッドから身体を動かし、恐る恐る足を床へと付けてゆっくりと立ち上がる。最近は同室のイクノさんの気遣いのお陰で、部屋の中でも立つこと無く、車椅子で生活していたので、自分の足で体を支えるということ自体が、本当に久しぶりでした。
きっと来るであろう痛みを想像し、私は重心を無事な足の方から、繋靭帯炎を発症している方に傾け、一歩歩きます。やはりその通りに痛みが走り、思わず呻き声をあげそうになりましたが、寝ているイクノさんを気に掛けていたので、何とかその声を抑えつつ、カメラの方へと歩き出しました。
マック「.........これは」
そのカメラを手に取り、中のデータを確認して見ると、そこにはやはり私達が今まで撮ってきた映像があり、それが今まで使ってきたカメラだと確認できます。
しかし中には知らない間に撮影されていた物もあり、どういう事なのかと考えを巡らせましたが、眠りたいのに眠れないこの頭で正解に近しい物に辿り着くことは出来ず、私は結局。そのカメラを考え無しに起動させてしまいました。
マック「あっ.........えっ、と.........」
今更になって、自分は何をしているのか。何を言おうとしているのか。それをそこまで考え、私は言葉に詰まりました。今までこんな、何も考えずに身体が動いた事なんて無かったのです。当然自分の事ながら驚いてしまいました。
けれど、私の感情はそんな理性などを気にする事もなく、絶え間なく。絶え間なくこの胸の全てを満たしつつ、締め付けてきます。
そして私は、その口を開きました.........
「―――トレーナーさん」
ーーー
吹き荒ぶ風。その風を肌に感じながら、ボクは目の前に立つ存在達に目を向ける。
場所は荒野。周りに建物は何も無く、あるのは死を運んでくる風。それ一つ。ここが.........ボクの故郷だった。
苦しくも多くの思い出が眠るこの地に今、ボクは宿敵達を眠りに付かせようとしている。
オペ「さぁ!この場所で終わりにしよう!!君達の度し難い哀歌っ!!燻っていたボクの間奏曲の様な毎日をッ!!!」
地面に突き立てられた杖を持ち、彼女達に向ける。春の桜色をした髪の少女を筆頭に、これまでボクの配下達、腹心達を突破してきた者達への敬意と敵意を向ける。
それぞれが武器を構える。刀を、薙刀を、弓を、ナイフを、素手を、そして旗を。
ボクが動き出せば彼女達が動く。逆に彼女達が動けばボクが動く。そんな共通認識の中お互いその場で拮抗状態に陥っていた。
しかし.........風が止んだ瞬間―――
オペ「さぁ!!!始めようじゃないかッッ!!!」
オペ「君達のッッ!!!若しくはボクの夜明曲をッッ!!!」
大きく跳躍し、杖を振り被る。彼女達もそれに応戦するべく、武器を振り被りながら助走を付けてボクに向かってくる。
戦いの火蓋は今、切って落とされ―――
「―――カァァァットッッ!!!」
オペ「なっ!!?どわっ!!?」ドサッ
ウララ「わわわっ!!オペちゃん大丈夫!!?」
グラス「怪我はありませんか!?」
マック「ご、ごめんなさい!!オペラオーさんなら大丈夫だと思い、無茶な場面でカットしてしまいましたわ.........」
予想していなかったカットの言葉に、ボクはついバランスを空中で崩し、着地が上手く出来なかった。
先程まで凛としていた顔付きの彼女達も酷く心配した様子で駆け付け、ボクを抱き起こすように手を貸してくれる。
オペ「は、ははは.........ボクの演技は舞台用だからね。やっぱり[映画]となると勝手が違ってしまうね」
彼女達に支えてくれたお礼を、そして心配をかけさせてしまった謝罪をする。その支えから離れて自分の身体を確認する為に軽く跳ねてみるが、特に異常は無さそうだ。
スペ「ど、どうしましょうか?あんな事があった後ですし、今日はもう.........」
オペ「!いや、続けよう!!これはボクのワガママだからね!!君達の貴重な時間を無駄に割いては、先生に顔向け出来ない!!」
キング「そ、そう?でも無理は禁物よ?直ぐに何か違和感を感じたら言ってちょうだいね」
スカイ「遠慮しないでね〜。オペラオーは強がりさんな所あるからさ〜」
皆がボクの身体を心配する中、ボクは撮影の続行を選んだ。理由はこれが、ボクのワガママだったからだ。
そしてこれが何故、ボクのワガママなのか.........その理由は丁度、三日前に遡る.........
ーーー
オペ「っ!.........っ!!?」
マック(.........凄い食い付き様ね)
ある日のチームルーム。お昼休みの食事は早々に終え、手持ち無沙汰になった方々はそれぞれの方法で暇を潰す為に、ここから居なくなった時でした。
その日は珍しくオペラオーさんと私だけがこの部屋に残り、楽しく談笑をしていたのですが、そこで彼の話になったんです。
『先生の演技は本当に素晴らしいものなんだ!!それは君も分かるだろう!!?』
『ええ!!彼の役者としての能力はそれこそハリウッド級ですわ!!なんせ映像から伝わる物が一流映画のそれなんですもの!!』
『え、映像があるのかい!!?も、もし良かったらボクにも見せて欲しい!!』
と、この様な会話の流れで今、私と彼女は以前撮ったトレーナーさんとウララさん達とのチャンバラごっこを保健室医の黒津木先生が編集した映像を見ております。
その一部始終を彼女は固唾を飲んで見守り、時に大きな驚きを見せつつも決して声に出すことは無く、映画の音をしっかりと捉えていました。
そして映像が終わり、演出の為のスタッフロールが流れました。
オペ「.........」ポカーン
マック「いかがでしょう?満足出来ましたか?」
オペ「す、素晴らしい.........!彼の全てがこの一本に詰まっている!!!」
全てを見終えた彼女はDVDプレイヤーからディスクを取り出し、ケースに戻した後それを愛おしそうに抱き締めました。
もしこの現状を知らず、そして彼女の今の立場を知らない人から見れば、彼女もまたこのチームの一員なのだと勘違いしてしまうでしょう。
そしてそれと同時に、何故彼女がそこまでトレーナーさんを慕っているのかが疑問として浮かび上がってきます。
DVDケースに頬擦りしている彼女にそれを聞こうと思い、声を掛けようとしたその時。彼女は何かに気付いたように先に私に声を掛けてきました。
オペ「そう言えば、この作品の最後。続く様な形で終わりを迎えたが、その作品は無いのかい?」
マック「え?え、ええ.........これを見た後是非作りましょうと言ったのですが、彼にそんな気が無かったらしく.........」
オペ「そうか.........そうか!!」
マック「へ?」
一度、残念そうな表情をしてその事実を受け入れる様な[そうか]。の声が響きましたが、次の[そうか]には、何かに気付いた様な力強さが宿っていました。
一体彼女は何を言うのか。その様子を見守りながら、私は彼女のその気付きの答えを待っていました。
オペ「ボクがここに居る理由は正に、この為だったんだろう.........」
オペ「彼の作り出したこの序曲。それを次へと繋げる為にボクはここに居る!!今そう確信したよッ!!」
マック「!こ、この超名作の続編を作ってくれるんですの!!?」
それは思っても居ない事でした。私自身この作品の続きがあれば.........と、この映像を思い出し、そして見返す度に思っていた事でした。
彼女の強いその決心に、私は思わず立ち上がりそうになってしまいますが、すんでの所で気付いた彼女に肩を押さえられ、その立ち上がりを阻止してくれました。
オペ「ハーッハッハッハっ!!任せてくれたまえ!!ボクはテイエムオペラオー!!覇王でありながら今は君達の為の[聡明な理髪師]だからね!!」
マック(り、理髪.........?あぁ、多分[セヴィリアの理髪師]の事かしら?)
高らかに笑い声を上げながら自分の立場を宣言するオペラオーさん。その言葉に若干戸惑いつつもその言葉の意図を察しました。
しかし、そうしている間に気が付けば彼女の姿は目の前に無く、チームルームの扉の方を見た時には最初からそこが空いていたかのように風を通していました。
マック「.........ふふ、本当。オペラオーさんはあの人の様に行動力がありますのね.........」
ーーー
そうしてボク達で[チャンバラウォーズ]の続編。[チャンバラウォーズep2.時を超えた因縁]の制作が始まった訳なのだが、その制作は難航を極めた.........
オペ「なっ!!?台本は無い!!?」
グラス「はい。前回の時もその場のノリでやってましたし、その方がリアリティが有りつつ、前回の制作環境と同じになりますから.........」
初めにこれだ。映画と言う決まった道に沿って完成を目指すという作品に、まさかのその道が無いと来た。
それを聞いたボクは思わず絶倒しそうになったが何とか気を取り直しつつ、一日で台本を書き上げて出演者の皆に配ってみたのだが.........
ウララ「く、苦しい?辛い?」
オペ「ウララ君。それはくしんと読むんだ!」
ウララ「う〜。難しいよ〜」
二つ目は漢字が読めないという事だ。ウララ君だけならば兎も角、スペ君も中々思う様に読めず、結局ボクの書いた台本は没となってしまった.........中々の力作だったのだが.........
けれどこの二つはまだ序の口。極めつけは.........
スカイ「ありゃ、照準がブレちゃった」
オペ「わぁ!!?」
キング「あ!!避けて!!!」
オペ「ひゅお!!?」
エル「ノー!!!頑張って避けてくだサーイ!!!」ドゴォ!!!
オペ「」
殺陣の中起こる数々のアクシデント。幸い全て事なきを得ているが、最後のエル君の寸止め失敗パンチは本当に死を悟った。幸いボクの背にあった岩へと当たったが、それが砕け散る寸前にボクはもう意識を手放していた。
滅茶苦茶だ。ボクがこれまで行ってきた舞台の為の練習法や準備が全く通用しない。台詞がアドリブなら殺陣もアドリブ.........前回もそれでやっていたのなら、やはり先生の役者魂は一流のそれだ。
だがまぁ、それでも慣れない方法でやる演技作りと作品作りはとても有意義だった。辛く苦しい物だったが、そのお陰でボクの役者としての腕前は一段階。いや、三段階位まで上がったと思えてしまうくらい、この短期間での上達は自分でも目を見張る物があった。
オペ「ふぅ.........」
ウララ「オペちゃんお疲れ様〜!!はい!!ポカリだよー!!」
オペ「!ありがとうウララ君。丁度喉が乾ききっていたんだ.........」
手渡されたペットボトルの蓋を開け、ボクはスポーツ飲料で口の中を満たした。極度の緊張か、それとも慣れない演技法のせいか、そのスピードは普段のオペラ練習よりも早く、そしてその速さに気を向けることも出来ない程だった。
ようやく喉の乾きを潤せたと思い、口を離して空気を取り込もうとしてはしたなくも声を出してしまう。どれくらい飲んだのかと思いペットボトルに目を移すと、既に2/3程の量が無くなっていた。
そんな少なくなったスポーツ飲料の残りをボーッと見ていると、ふと周りの皆がボクの方へと集まっている事に気が付いた。カメラマン兼監督のマックイーン君も、車椅子をわざわざ動かしてボクの方へと近付いてきている。
グラス「お疲れ様です。オペラオーさん」
スペ「さっきの動き!とってもカッコよかったです!!」
オペ「!ははは、褒められるのは嬉しいけど.........まだボクは、先生の足元にも及ばないよ」
ペットボトルを地面へ置き、座っていた体勢から立ち上がる。皆の輪から少し外れた場所で背を伸ばし、軽くストレッチをする。
しかしそうしていると、そんなボクの方に視線が集まっている事に気が付いた。何かと思い皆の方を見てみると、キョトンとした目でじーっとボクの方を見つめていた。
オペ「な、なんだい?」
マック「その、前々から気になっては居たのですが.........」
ウララ「オペちゃんはどうしてトレーナーの事好きなのー?」
オペ「.........ふむ。好き、か」
ウララ君から出された言葉に反応し、ボクはそれを噛み砕いてみる。そしてそれを吐き出す事無く飲み込めてしまったということは、確かにボクは先生の事が好きなのだろう。
だがそれは飽くまで憧れとしての好きだ。恋愛感情は全く持ち合わせて居ない。とは言っても、恋の一つも舞台の外でした事の無いボクがそう断定出来る訳でも無いのだが、今はそれが正解だ。
グラス「聞いた話によると、オペラオーさんはヒーローショーの時に感銘を受け、その思いを持ち始めたとか.........?」
オペ「.........そうだね。それは間違いでは無いよ。ただ―――」
「―――ボクと先生の関わりは、この中で一番古い筈だよ」
「―――え」
「えええぇぇぇぇぇッッッ!!!??」
ーーー
あれはそう。年度替わりの春。丁度ボクがチームリギルへの所属が決まった時の春の事だった。確か、先生がトレセン学園に入った年のことだよ。
その前の年は中々模擬レースで成績が振るわなくてね。一応担当トレーナーも着いてはくれていたんだが、彼の要望もあってリギルの入団テストを一年通して受けていたんだ。
オペ(トレーナー君はボクに、それに相応しい強さと才能があると言ってはくれたが.........)
あの頃のボクはまだ、自分の実力を測り損じていた。端的に言えば、自信が無かったのさ。だから彼の言われた通りリギルの入団テストを受けては居たが、他のテストを受けるウマ娘達と比べてまだ、ボクは抜きん出た物を見せる事は出来ずにいた。
.........え?想像出来ないって?ふふん。それはそうだろう。この時はまだ誰も、ボクの内心なんて気付かなかった。トレーナー君でさえも、覇王たる振る舞いこそがボクそのものだと信じて疑わなかったからね。
話を戻そうか。ある日ボクは、まるで天啓の様に舞い降りた言葉をノートに書き留める為に、遅くまで起きていた。それは覇王が覇王である為の言葉。言わば、台本の様な物だね。
これがあってこそのボク。ボクにとっての覇王とは常に頂点でありつつ、尚且つ常に人々にとっての絶対でなければならない。それは強さだけではなく、立ち振る舞いや言葉遣いもそうでなければならない。
その為の言葉がその時、本当に無数にボクへと舞い降りたんだ。まるで天使から聖剣を施された選ばれし者の様な、そんな言葉達さ。一語一句逃さず、ボクはペンを走らせた。
そのおかげで、その次の日は寝不足。それでもボクはその時降りてきた言葉を我が物にするべく、普段なら夜の寮部屋で黙読するはずのそれを学園まで持ち運んでしまっていたんだ。
「?オペラオー。それどうしたんだ?」
オペ「あぁ、実は昨日。天啓が舞い降りてね!ボクがより覇王らしくある為の言葉達さ!少々眠いが、必ず今日中にこれをボクの物にして見せようと思ってね!」
オペ「もちろん物にした暁には、君に一番に見てもらおうと思う!ボクの気高さと魅力に更に虜になってしまうと思うと、少し申し訳なく思うけどね」
彼のトレーナー室で台本を読み耽っていると、至極真っ当な疑問を受けた。当然だろう。ボクがこうして人前で台本を読むなんて、恐らく初めての事だったからね。
きっと、焦っていたんだと思う。今のままでは多分、いつか舞台の上で外しては行けない[仮面]を外してしまいそうで、無意識の内に怖がっていたんだ。
トレーニングの最中も、その小休憩の間は台本を読み込んで、それらを物にしようとした。
だけど寝不足だったせいか、入ってくるのは言葉だけで、その中身までは入り切らなかった。幾ら覇王に相応しい言葉とは言っても、中身が無ければそれは嘯いているだけになってしまう。それを本物にするにはやはり、その中身を探り、そして自分の心を通わせなければ行けなかった。
そしてその日のトレーニングが終わった夕暮れ。ボクは少し一人になれる場所で台本を読もうと鞄の中に手を伸ばした.........が。
オペ「!無い.........!!?」
そこに台本はなかった。普段のボクだったらしない様な失態だ。幾ら寝不足とは言え、大切な自作台本をどこかに置き忘れてしまうだなんて.........それは役者として有るまじき行為だった。
やっけになってボクは台本を探し回った。トレーニングで使った場所を探し、歩いた場所を探し、挙句の果てにはトイレや木の上まで探したんだ。
けれど、台本が見つかる事は無かった。
幸い、言葉だけは覚える事が出来た。台本は無くなってしまったがあとやる事を考えれば、あれは最早不要な産物。そう思い、その存在を諦めようとした。その時だった。
「〜〜〜♪」
オペ「.........!!?」
鼻歌を歌いながらボクとすれ違う若い青年。普段のボクならファンサービスの一つや二つするくらいの余裕はあったかもしれないが、台本を無くすという自分にとっては酷い失態をしたせいで、そんな気も回らなかった。
けれどすれ違ったその瞬間。その彼が手に持っている物を見て目を見開いた。それは正しく、ボクがどこかに置き忘れてしまっていた覇王になる為の台本そのものだったんだ。
そんな台本を見ず知らずの男性が持っている。その事実にボクは驚愕し、少々固まってしまった。お陰で完全に声をかけるタイミングを逃してしまったが、あれは確実に返して欲しいものだった。
仕方が無い。ここは彼に着いて行って、機会を伺い返してもらおう。そう思って彼に着いて行く事にした。
幸いトレーナーバッジを付けていることは確認していたから、これから向かうのは恐らくトレーナー職員室だろう。勝手にそう勘ぐり後を着いて行ったが、彼が向かったのは職員室では無く、何故かレッスン室だった。
オペ(な、なんでこの人はレッスン室に来たのだろう.........?)
扉を少しだけ薄く開け、中の様子を伺ってみると、彼はボクの書いた台本を手にし、そして真剣にその中身と向き合っていた。
長い時間一ページと向き合い、一度捲る。そして次のページに納得すればもう一度。納得出来なければ一度引き返して再度読み直す。その作業は正に、台本を読み込む役者の姿そのものだった。
「.........スゥーーー」
オペ(っ!待て、まさか―――)
一度台本を最後まで読み終えた彼は、それを閉じて大きく息を吸い込んだ。その姿を見てボクはまさかと思った。
出来るわけが無い。覇王であるボクが更なる覇王になる為の物。しかもそれをまだボク自身物にしていないんだ。そう易々と成れるのならそんな苦労はしない.........そう、思っていた.........
「あぁ―――この世界は、なんて退屈なんだろうか―――」
オペ(―――.........)
「世は欺瞞に満ち溢れ、人々は安寧と言う平坦さを仕方なく享受し、その結末。自らのラグナロクを迎える事を忘れてしまっている.........」
「.........ならば、ボクは絶対的な存在となろう」
「ボクだけが真実であり、ボクの存在で世の中を混沌とさせ、人々に疑問と試練を与える。多くの人々に自らの真の幸せ。ラグナロクへ到達しようとするだけの出来事を植え付けよう」
「そう―――それこそが覇王が覇王たる所以.........その覇王こそッッ!!!このボク―――」
彼がその次を言う前に、ボクは居ても立っても居られずに扉を大きく開けてしまった。だけどボクは開けようと思って開けた訳じゃない。自然と手が、伸びてしまったんだ。
言葉を言いかけた彼が硬直し、まるで油の手入れがされていない機械人形の様に首をギコギコと動かし、ボクの方へと振り返った。
オペ「っ、あの.........えっ、と」
なんて言えば良いのだろう。言葉が出ない、と言うのはこういう事なんだと、ボクは久々に思い出した。良いオペラを見た後はいつもこうなってしまう。家族で感想を言い合う事も出来ないまま、その日は終わってしまう。正にその状態だった。
そんな静かな状態が続く中、いつの間にか彼は顔を真っ赤にしながら、台本を丁寧に床へと置いた。そしてそのままレッスン室の窓を開ける。
声でも出すのだろうか?確かに慣れない人が人前であの様な事をしたら恥ずかしくなっても仕方が無い。そう思ったボクはその恥ずかしさを払うべく、彼に賞賛の言葉を送ろうと一歩歩いたその瞬間。
「桜木漢の大ジャンプッッッ!!!!」
オペ「えええぇぇぇぇぇッッッ!!!??」
何と、彼は窓から飛び降りてしまったのだ。あまりの出来事にまた固まってしまったボクだが、今度は人が飛び降りたのだ。慌てて直ぐに窓の方へと向かい、彼の姿を追おうとその目を真下に向けて凝らしてみるが、彼の姿は既にどこにも居なかった。
オペ(.........素晴らしい演技だった)
床に置かれた台本を拾い、先程のシーンを振り返る。あれこそ正にボクが追い求めていた覇王としての立ち振る舞い。声。そしてオーラだった。
会話をしている相手だけでは無い。それを聞いている人達ですらも気圧されてしまうほどの熱.........それが、ウララ君達のトレーナーである、[桜木 玲皇]先生との出会いだった.........
ーーー
オペ「彼は素晴らしい役者だ。だが残念な事に、あの時感じられた全身全霊の演技はまだ皆に見せていない.........あのDVDの中でさえも、ね」
彼女はどこか悲しげな表情でそう言いました。あれ程まで彼の演技に絶賛していたと言いますのに、まだそれ以上の物を持っていると言ってのけた彼女に、ここに居る全員が驚きました。
マック「そ、それはヒーローショーの時もですの?感謝祭の時は?」
オペ「うん。どちらも彼の全力では無かった。目の前で見たから分かるよ」
オペ「アドリブ力はズバ抜けて居るが、ボクから見た彼はやはり、台本と時間があって初めて完成する役者なんだ.........」
憧れ。それに大切に触れるように彼女は自分の胸をそっと触り、静かに微笑んでいました。それほどまでに彼の演技が素晴らしかったと言うことでしょう。
ウララ「やっぱりトレーナーって凄いんだねー!!よーっし!!ウララも負けないぞー!!ウララ手裏剣シュシュシュ〜!!!」
スペ「わー!!凄いですウララちゃん!!いつの間に手裏剣投げれる様になったんですか!!?」
ウララ「えへへ〜、トレーナーが帰ってきた時に驚かせようと思って!!」
掌に手裏剣を重ねて置き、ウララさんはスライドさせる要領で何枚も真っ直ぐに飛ばして見せました。この撮影を始めた頃では考えられない上達です。
その目を見張る成長に私を含めた全員が感心していると、彼女は自信満々に胸を叩きながら笑顔で言いました。
ウララ「私だってトレーナーのチームの一員だもん!!少しずつだけど、強くならなくっちゃ!!」
ウララ「これからウララはっ!スーパーウララになるぞ〜!!!」フンス!
右手を天高く突き上げ堂々の宣言。今まではただ明るさだけだったのが、その姿からは彼女なりの覚悟と決心が伝わって来ます。
その姿を見たスペシャルウィークさん達もまた、撮影の為に身体を解すために立ち上がり、それぞれの持ち物の調子を確かめ始めました。
そんな中、一人だけまだ座っているオペラオーさんに気付き、彼女の顔を見ると、その顔はどこかの誰かさんの様な優しい笑顔で、彼女達をそっと見守っていました.........
[ワクワククライマックス]
Lv1→6
ーーー
オペ「てりゃぁぁぁ!!!」
高く跳躍したオペラオー。その姿を見て息を飲む少女達。やがてその宙に浮いた身体は重力に倣い地面へと向かって行く。
振り下ろされた杖は地面へと叩き付けられ、荒野の中に大きなクレーターを作り上げるが、少女達はそれを見事に跳んで回避していた。
スカイ「がら空きですよっと!!」
キング「一流のナイフ捌きをその身に教えてあげるわッッ!!!」
ウララ「スーパーウララ手裏剣〜!!!」
地面へ着くまでの間、セイウンスカイは弓で矢を放ち、キングヘイローは無数のナイフを手早く投げる。ハルウララもそれに負けじと手裏剣を的確に投げ込んだ。
しかしオペラオーはそれを視認するまでも無く、片足の爪先を軸とし、杖と己の身を回転させながら飛び道具を難なく弾いた。
オペ「ハーッハッハッハ!!バレリーナの様に美しいボクッッ!!!」
スペ「てりゃあー!!!」
グラス「―――ッッ!!!」
髪を掻き上げて高らかな笑い声を上げるオペラオー。そしてその隙を見計らい、スペシャルウィークは鎖鎌を投擲し、その杖を絡めて引き上げた。
丸腰になった事をしっかりと確認し、彼女の武器が届かないと判断したグラスワンダーはそのまま薙刀を手に真っ直ぐと突進を仕掛けてくる。
オペ「素早い突きだ!!素晴らしいよグラス君っ!!!だが.........!!!」
グラス「っ!!?」
オペ「体操選手の様なしなやかで美しい動きをするボクッッ!!!」
無数の突きと薙ぎ払い。その有効打無効打を一瞬で見分け、数回ヒラリと身を躱した後、彼女は身体を後方に逸らして地面に手を付き、両足を蹴り上げる事でその手から薙刀を離させる。
エル「ここはエルに任せてくだサーイ!!」
オペ「おおお.........!!素晴らしいパワーだよエル君っ!!」
体勢を立て直す頃には既にエルコンドルパサーがオペラオーの眼前へと迫っていた。かなり大振りな攻撃だが当たれば怯み、そこを狙われて投げられてしまう。高速タックルからのパワーボム。そのリーサルコンボをオペラオーは一番警戒していた。
テイエムオペラオーは防戦一方を貫きつつも、反撃の機会を伺っていた。
エル「ふふん!腕を上げましたね!ですがまだまだ脇が甘いデース!!」
オペ「ハーッハッハッハ!!君ならこの隙を見逃さないと思っていたよ!!」
エル「ケッ!!?」
オペ「まるで昭和の亭主関白のちゃぶ台返しのようにエル君を投げる美しいボクッッ!!!」
上げられた硬いガードの弱点を見抜いたエルコンドルパサーは、その部分にタックルをしようと一歩だけ身を引いた。
しかし、それはオペラオーの練られた作戦であった。そうと知ったは良い物の、既に前進を始めたその身体を止めることは出来ず、一瞬で横に周り込んだオペラオーは突進の勢いをそのまま利用し、エルを投げ飛ばした。
相対する者達が殆ど、苦虫を噛み潰したような顔をしている。その顔を見て満足そうに笑い、オペラオーは弾き飛ばされた杖を拾い直した。
オペ「どうだい?これが世紀末覇王の力。テイエムオペラオーの力だ!!素晴らしいだろう?」
ウララ「.........むんっ!」
五人「う、ウララちゃん(さん).........!!?」
そんな中で一人、着地に失敗して倒れていたハルウララが勢い良く飛び起き、テイエムオペラオーへと近付く。
背中に背負った刀。それを引き抜き、オペラオーの目の前でしっかりと構えを取って見せた。
オペ「.........一騎打ちのつもりかい?」
ウララ「うん!ウララと勝負だよ!!」
オペ「.........ハーッハッハッハ!!面白い!!その決して揺らぐ事の無い闘志!!実に美しいよ!!」
オペ「無論、ボクの次にだがね.........!!」
お互いに持っている物の先端を相手に向ける。ハルウララの頬には冷や汗が流れ、テイエムオペラオーの前髪が風に揺れる。
先程の膠着状態が二人の間に訪れる。一瞬でも動きがあれば、どちらも次を仕掛けるだろう。そんな緊張感が、その姿から伝わってくる。
そして、最初に動いたのは―――
ゴゴゴゴゴ.........!!!
ウララ「うわわ!!?なになに!!?」
オペ「な!!?い、いくら何でも早すぎる.........!!?」
最初に動いたのはハルウララでもテイエムオペラオーでもなく、何と二人が立っている地面だった。
大きな地響きと揺れを見せながら、二人は他の者達と同じように地面に手を付いた。そしてオペラオーがじっと見つめる先を、他の少女たちも恐る恐る見つめていた。
そして、そこには巨大な怪獣の姿が―――
ーーー
マック「素晴らしい.........映画でしたわ.........!!!」グス
上映の為に借りていた視聴覚室を出て、私はハンカチを手に涙を拭きました。他の生徒の方々も楽しかった様で、廊下で先程のオペラオーさんとウララさんの真似をしている方まで居らっしゃいました。
オペ「うむ!どうやら大成功の様だね!!本当は前に出ていたゴルシさんや白銀さん!出来ればボクのトレーナー君も出て欲しかったのだけど.........」
マック「ゴールドシップさんとあの御三方は最近姿が見当たらないので、またどこかに行ってるんだと思います。オペラオーさんのトレーナーさんはどうしたんですの?」
オペ「ああ!良くぞ聞いてくれた!!実は今出張に行ってるんだよ!!どうやらボクが先生のファントムになると決めた時に決まったらしい.........」
運命はいつもボクに試練を与えてくるね。と言いながら、彼女は満更でもなさそうに嘆いて居ました。
.........ですが、そんな急に出張になる事なんてトレセン学園ではそうありません。第一任意性らしいですから、きっと厄介事に巻き込まれたくないと踏んで自ら申し出たのでしょう。良い判断だと思いますわ。
それにしても、ゴールドシップさん達は一体どこに行ってしまわれたのでしょう?本当に突然、それも何も言わずに居なくなってしまうだなんて.........今までは少なくとも、一言くらいあったはずですのに.........
そう思いながらオペラオーさんに車椅子を押してもらっていると、曲がり角から見知らぬ男性が現れました。その首からは、来客用の名札が下げられており、学園関係者では無いという事がハッキリと分かりました。
「メジロマックイーンさんですね?」
マック「?ええ、そうですが。貴方は.........?」
「私はフリーの記者をやっている者です。怪しい者ではありません」
その男性は表情一つ変えずに、私の方を真っ直ぐと見ながらそう言いました。しかし、怪しくない人はそもそも自分を怪しくないと言う事はしません。
先程映画を見たせいか、妙に勘ぐり深くなっていた私ですが、彼の用件が何なのか聞こうと次の言葉を待っていました。
マック「.........あの、それで、何か御用ですか?」
「.........では、単刀直入に聞きましょう」
「桜木トレーナーは、トレセン学園を退職したのですか?」
マック「―――.........」
彼のその言葉に、私は何も言えませんでした。傍から見れば学園に在籍しているトレーナーが長期間居ない、と言うのはとても異常だからです。
これが一週間。長くて二週間なら言い訳も出来たのでしょう.........ですが、既に彼がこの学園を去り、海外へ渡った事を知ったあの日から―――
―――既に一ヶ月半は経過していたのです.........
......To be continued