山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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怪物三冠バの気合い

 

 

 

 

 

ナリブ「はァ.........はァ.........っ」

 

 

 膝に手を付きながら、息を整える。我ながら今の走りは完璧だった。これなら合格ラインに到達出来ただろう。そう思い、私はストップウォッチを持っている桜木の方を見た。

 しかし、そんな私の期待の目を見た奴は目を伏せ、無惨にもその頭を横に振った。

 

 

桜木「合格ラインよりも0.2秒遅い。今日はもう休もう。まだ時間はある」

 

 

ナリブ「っ、大丈夫だ。まだやれ「ブライアン」―――っ」

 

 

 自分の身体に喝を入れながら立ち上がろうとした時、桜木が普段の呼び方では無い名で私を呼んだ。

 そして恐る恐るその方を見ると、奴は怒るでも無く、心配するでも無く、ただ真っ直ぐとした目で私を見ていた。

 

 

桜木「今の走り。お前にとっては最高のパフォーマンスだったんだろう?」

 

 

ナリブ「.........」

 

 

桜木「.........だったら、後は気持ちの問題だ。大丈夫。時間はまだあるんだ」

 

 

 今自分の持てる力。技術。先程の走りはそれらが上手く噛み合ったという実感さえあった。だと言うのに、私は[私の残した記録]に手が届き切っていない。

 桜木は言う。時間はまだあると。だがここで本当に焦るべきはこの男なんだ。もしここで、このタイムを超える事が出来なければ、メジロの使用人達が試練を乗り越えた意味が無くなってしまう。それはつまり、コイツの担当であるメジロマックイーンが復活する可能性が、完全に0になってしまうという事だ。

 しかし焦っているのは私だけで、この男はまだ余裕そうにしている。それだけが唯一、気掛かりだった。

 

 

ナリブ(.........あの日から私は、技術を身に付けた。走り方を洗練した)

 

 

ナリブ(だと言うのに.........何故超える所か、手すら届いてくれないんだ.........)

 

 

 息を整えようとしているが、全く整える事が出来ない。頭を振り、不安や焦りを振り払おうとしたが無意味だと言うようにそれらが私の心に渦巻き、覆い尽くそうとしている。

 自分の不甲斐なさに思わず手を思い切り握り締める。どこかにぶつけるべき苛立ち。だがそれを何処へぶつけていいのか分からず、そして何かにそれをぶつけていいはずもないと知っている私は、その拳で空を切った。

 

 

 何故、こんな事になったのか.........話は一週間前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エディ「今回はここで試練を受けてもらう」

 

 

桜木「.........やけにだだっ広いな」

 

 

ナリブ「.........っ、これは」

 

 

 気怠げなエディに案内された場所は、桜木の言う通り山奥にしては広く、そして平らに整地された場所だった。

 そこに足を踏み入れるエディに着いていくように桜木達は足を踏み入れ、私もそこに踏み込んで行った。

 

 

 そして、その瞬間に気が付いた。足裏から感じる草の感触が、山奥のそれでは無い。という事にだ。

 

 

エディ「ほう、流石現役レーサー。そして三冠バなだけあるな?ナリタブライアン」

 

 

ナリブ「.........私を知っているのか?」

 

 

エディ「当たり前だ。三冠と言うのはそう易々と取れるものでは無い。例えそれが細かくは知らない異国の物だとしてもな」

 

 

 .........[三冠バ]。正直今の私にとってその肩書きは重苦しく、そして相応しくない事この上ない称号だ。彼のその言葉を横に流しつつ、私は足裏だけではなく、自分の手でここに生えるターフの状態を確認する。

 

 

ナリブ「.........随分柔らかいな。まるで日本のレース場のようだ」

 

 

エディ「イギリスの物は硬いからな。そんな所であの子を走らせるのは懸念がある」

 

 

桜木「.........?懸念って、足が悪いのか?」

 

 

エディ「.........聞かなかった事にしたまえ。君達には関係の無い話だ」

 

 

 断片的な情報を口走った後、茶を濁すようにその話題を逸らす。そのまま彼はこの場所の説明。そして試練の内容を説明した。

 

 

 ここはやはり、彼がその手でこのターフを作り上げたのだと言う。気候も環境も日本と違うはずだが、彼の言うあの子。つまりルビィと呼ばれるウマ娘の子供の為、ここを整地したらしい。お陰で貯金がほぼ尽きかけだと言っていた。

 

 

 そして、ここでの試練.........それは、私の出した[記録]を超える事だった。

 

 

エディ「それで、受けるか?[三冠バ]ナリタブライアン」

 

 

ナリブ「今の私は[ただのウマ娘]だ。どうせ知っているんだろう?嫌な大人だな」

 

 

桜木「え?何、知ってるってどゆこと?」

 

 

 何も知らないという事をこの男は最大限のリアクションで私に、そして周りの人間に伝えてくる。その無神経さにメジロの人達所か、あのエディですら思わず目元に手を当て首を振っていた。

 

 

主治医「桜木様。ナリタブライアン様は以前怪我をしてしまってから本調子では無いのです」

 

 

桜木「え?嘘。んなわけないじゃん.........ん〜?」

 

 

ナリブ「.........なんだ、ジロジロと見て」

 

 

 私の出来れば隠し通したかった、そして自分で信じたくは無かった事実を教えられても、桜木の奴はそれを即座に否定し、私の身体をまるで粗探しする様に見ていた。

 腕。肩。そこまでは触ったが、腰と足は見るだけで留め、やがて諦めた様にため息を吐いた。

 

 

桜木「.........まぁ、偏屈ジジイの意見だけなら兎も角、爺やさんや主治医まで言ってっから信じられるけど.........」

 

 

桜木「.........寧ろ、俺が初めて見た時より強い気がすんだけどなぁ」

 

 

ナリブ「.........っ、お前には分からないだろうな.........!」

 

 

 この男は本当に、どこまでも私の神経を逆撫でてくる。静かに、だがそれでも確かに私は奴に対して声を荒らげた。そんな様子を見ても気にしない様に、桜木は頭を軽くかいた。

 

 

桜木「.........んで?日程は?まさか今すぐなんて言わねぇだろうな?」

 

 

エディ「そこまで鬼では無い。回数も無制限。行けると思った時に声を掛けると良い」

 

 

桜木「あぁそう。じゃあこっちは早速その準備に取り掛からせてもらう。良いよな?[ブライアン]?」

 

 

ナリブ「!あ、ああ.........」

 

 

 面倒くさそうに試練の概要を聞いた桜木は、それを聞いて安心したように緊張を緩ませる。そしてエディの方から私の方へと視線を移し、私の名を初対面以来の呼び方で呼んできた。

 

 

 そこから、もう既に一週間は経過しているのだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナリブ「はっ.........はァっ.........くっ!」

 

 

 息の戻りが遅い。直近の公式レースでもここまででは無かった筈だ。そうは思いながらも、吸い込む空気自体に重さを感じてしまう。自分の身体の限界。そしてそれが徐々に容量を小さくして行っているという事実に奥歯を噛み締める。

 

 

桜木「お疲れさん。ほれ。爺やさん達が買ってきてくれたドリンクだ」

 

 

ナリブ「.........何故焦らないんだ」

 

 

桜木「え?.........うーん」

 

 

 渡されたドリンクの蓋を開け、一口飲んで口の中の乾きを潤す。身体の状態を確認し、何も問題が無いと思った私はその場に座り込み、桜木に今まで疑問に思っていた事を質問した。

 その私の質問に予想外だと言うような反応を見せた後、顎に手を当て空を見ながら考え込み始める。そして桜木は、突然何かに気付いたと言う感じではなく、元々考えていた物が落ちて行った様な様子でゆっくりと視線を前にした。

 

 

桜木「.........[ブライアンだから]かな」

 

 

ナリブ「何.........?」

 

 

桜木「いやほら。俺がトレーナーになるきっかけのレースって、ブライアンのレースだったからさ」

 

 

桜木「あの時見てた子は古賀さんとこの子だったけど、それでもやっぱあの勝ち方は印象付いちゃうよ。安心出来る強さだなって」

 

 

 その言葉は、桜木からは初めて聞く物だった。普段だったら絶対に聞けない事だと言うのは、考えなくても分かるほど真面目なものだった。

 .........だがそれも、私が怪我をする前の話だ。今では見る影も無い。今コイツが見ている物は、まやかしの私に過ぎない。

 

 

ナリブ「.........私に足りない物は、一体何だ.........?」

 

 

桜木「.........正直言って、レースの運び、テクニック、走る事への意識は初めて見た時より数段上だ。俺が教えることは無い程にな」

 

 

桜木「逆に聞くけど、自分に何が足りないと思う?」

 

 

 .........足りない物。今の私に足りない物は、一体何だろうか?そう問い掛けられて、そう思考を巡らせる。

 レースへの思いは怪我をして走れなかった期間で自分の中で募らせた。技術も座学は好きじゃなかったが、他の奴らが力を付けている間差を開かせないよう学んだ。展開力も、姉貴やアマさん。マヤノトップガンやサクラローレルのレース映像を何度も見て、頭の中で自分を走らせた。

 それなのに、今の私には何かが足りない.........そう、何かが.........

 

 

 そこまで考えて、私は桜木の顔を見て不意に思い付いた。今のコイツにあって、今の私に無いものを。

 それは[余裕]。そして、その余裕を生み出している[根幹]。それが今の私にとって必要な物だと結論付け、その余裕を生み出している物を早々に導き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[愛]。だろうか.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........!!?あ、[愛]ィ!!?」

 

 

ナリブ「な、なんだ?私にはそうとしか分からなかったのだが.........?」

 

 

 私の言葉を聞き、暫く保けていた桜木だったが、それを理解した瞬間に噴き出し、そして驚きの声で復唱した。

 私にとってはそれしかないと思っていたのだが、どうやら桜木の考えていた物とは違っていたらしい。

 

 

ナリブ「悪いな、私はお前とマックイーンの様な関係を持ってる奴が居ないんだ。だからそれさえあればと思ったんだが.........」

 

 

桜木「い、いや。正直自分で言うのも何だけど、俺達レベルの絆を全員持ってたら申し訳ないけどちょっと怖い.........」

 

 

桜木「それに。[愛]ってんならブライアンもきっと沢山貰ってるぞ?ファンとか、ハヤヒデからとか。ライバルからとかも」

 

 

ナリブ「?姉貴や、アイツらから.........?」

 

 

 そんなもの、貰っていただろうか?いや、確かに怪我をした時や走りが本調子に戻っていない今も心配の類はくれるが、それが愛なのだろうか?

 考えても分からない。暫くの間桜木の言った言葉の答えを模索していると、私の肩に手を置かれる。驚いてその方を見ると、桜木の奴が心配のしの字も無い笑顔でそこに居た。

 

 

桜木「まぁさ!そこで頭でっかちに悩んでも分かんねぇもんは分かんねぇだろ!だったら後はやるだけやってみようぜ!」

 

 

ナリブ「ああ.........ん?待て、お前何を考えているんだ.........?」

 

 

桜木「決まってんじゃねぇか!チーム[スピカ:レグルス]が今まで困難を乗り越える事の出来た秘策っ、[プランB]!」

 

 

桜木「そしてプランBの[B]は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[ぶっつけ本番]の[B]って事よ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナリブ「.........」

 

 

桜木「おーいっ!こっちの準備はオーケーだぞー!!」

 

 

 スタート地点で立ち尽くすブライアンに、俺は手を振り上げながら準備が出来た事を教える。彼女は素っ気なく手を上げ、聞こえている事を俺達に伝えてくれた。

 この試練。はっきり言ってしまえば不安は拭えていない。ブライアンの身体のコンディションはバッチリだ。だがそれに反比例する様に、彼女の心の具合は悪い。

 いや、身体の調子が良いせいなのだろう。これで不調ならばスランプの原因がよく分かる。逆に調子が良いからこそ、全盛期の走りを出来ない理由が見当たらず、焦っている。

 遠くで身体を解す様に柔軟を続けるブライアンを見ながらそう考え、俺は推測でしか無いその思考を一旦辞め、ため息を吐いた。

 

 

ルビィ「?どうしたの?」

 

 

桜木「.........エディのじいさんが居んのは分かるけど、君はどうしたの?」

 

 

 俺の溜息を聞いてその意図を伺う少女。ルビィの存在に、俺は疑問を持った。今までの試練で彼女は同席していなかった筈なのに、何故今ここに居るのだろうか?

 それを問うと、彼女は恥ずかしそうにその身を揺すりながら言いづらそうに答えてくれた。

 

 

ルビィ「.........だって、三冠バの走り方、見てみたいし.........」

 

 

桜木「おっ、案外興味ある感じ?良いぞ〜ブライアンの走りは〜。正に力を叩きつけるって感じのレースで―――」

 

 

エディ「私の孫をあまり引き込むな。迷惑だ」

 

 

桜木「.........へーい」

 

 

 意外だと思った。なんせこのウマ娘の少女が走っている姿をまだ俺達は一度も見ていない。走る事に興味が無いのでは?なんて思っても居たが、そういう訳では無かったらしい。

 しかし、走る事に興味を持つ事を咎める存在がいる事もまた意外だと思った。それが実の孫に対する物だと言うのもまた、それに拍車を掛けた。

 俺には関係の無い事かもしれない。けれど俺は、[トレーナー]だ。走りたいと思う全てのウマ娘に手を差し伸べるのがそうだと、ハッキリと言える。それでもこれは踏み込み辛い問題だと、いくら察しの悪い俺でも容易に考え付く事が出来た。

 .........[だからこそ]。俺は踏み込まなければならないと思った。

 

 

桜木「.........アンタが何に囚われてるのかは知らない」

 

 

桜木「俺はまだ若造だし、アンタが人生で学んできた事を考慮すれば、口出しする事じゃ無いのも分かってる」

 

 

桜木「けれどさ。頭ごなしに否定するだけじゃ、大人になったその子に嫌われても文句言えねぇぜ?」

 

 

エディ「.........これは私の問題だ。この子を巻き込んで申し訳ないと思っているのも事実だが、こればかりは譲れない」

 

 

桜木「.........」

 

 

 いつもと変わらない無表情。それでもその表情の奥に感じる物は、確かに少し悲しい物だった。この男にも、きっとこうならざるを得ない理由があるのだろう。

 それを聞こうか聞くまいか、葛藤しているうちにブライアンの方から声が掛かる。長話は一旦切り上げだ。

 

 

桜木「よし。位置についてーっ!!よーい―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どんっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――桜木の声が耳に届いた瞬間。私は前へと駆け出した。コースはコーナーを含んだ1000M。散々身体を解したおかげで、直ぐにヒートアップさせることは出来ている。

 それでもまだ、何かが足りない。それは走り出して直ぐに実感出来るほどの物だった。

 

 

ナリブ(っ、余計な事に気を割くなっ!少しでもタイムを縮めるんだ.........!!)

 

 

 カーブに差し掛かってからの足運び。重心の掛け方。息遣いとスパートへのスムーズな移行。完璧だ。全てが噛み合わさった私の究極の走りになっている。

 

 

 .........だからこそ。余計に心がザワついた。今の私には、あの頃の[速さ]が無い.........

 もう幾度も無く気付いたそれが、私にもう一度突き付けられた。

 

 

 それでも、乗り越えられる。あの男と、メジロマックイーンを見ていればそう思えてしまう程に、あの二人を結ぶ物は得体の知れない力を生み出していると思っていた。そしてそれが[愛]なのだと、私は結論付けていた。

 今はもう、それに縋るしかない。私のファンが。姉貴が。そしてライバル達が私にくれた愛に.........

 

 

『ブライアンっ!早くその足治して、アタシとタイマン勝負してくれよ?やっぱアンタと走るのが一番張り合いあるからねっ』

 

 

ナリブ(.........)

 

 

『ブライアンさんっ!マヤね?今度走る時は絶対もっとワクワクさせてあげるからね!!』

 

 

ナリブ(.........)

 

 

『ブライアンちゃん。そんな怪我早く治しちゃって、もう一度私と本気のレースしよう?約束だよ?』

 

 

ナリブ(.........っ)

 

 

『ブライアン。流石私の妹だ。鼻が高いぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ダメだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「―――っ」

 

 

 ―――ゴールを踏み切る瞬間。その手前で彼女は強く、歯を食いしばった様に見えた。その姿はどこか、悔しさや苦しみが強く伝わってきた。

 止めたストップウォッチの数字を見れば、目標タイムより0.5秒。先日よりも遠のいてしまっている。その現実を受け止めるために目を伏せながら、俺はブライアンを労る為に彼女の方へと歩き出そうとしていた。

 

 

エディ「.........無駄だ」

 

 

桜木「.........あ?」

 

 

エディ「今の彼女では到底、全盛期の走りを超えることなど出来はしない。これ以上は彼女の選手生命に関わる事になるぞ?」

 

 

 歩き出そうとした瞬間。肩を掴まれ引き寄せられる。そしてエディはこれ以上は危険だと。これからの競走人生に影響を及ぼすと強く警告してきた。

 爺やさんや主治医も言葉にしないまでもその顔を俯かせ、それを肯定する態度を取る。そしてルビィという少女も、ブライアンに対して心配そうな表情を見せていた。

 

 

 .........確かに、そうかもしれない。今の彼女をこのまま走らせ続けたら、いずれ大きな事故に繋がりかねない。それほどの危うさを今、ブライアンからは感じている。

 だけどそれをはいそうですかと済ませてしまえばそれまでで、その行いは[あの子]の事を諦める事だけじゃなく、全てのウマ娘に対しての[可能性]を捨てる事になる。

 

 

 それだけは、いただけない。

 

 

桜木「.........もし、多くのトレーナーが[可能性]を捨てて、多くのウマ娘達が夢を諦めざるを得ないのなら、俺はそれを拾い集めるだけだ」

 

 

桜木「それに知ってるか?頑丈で安全な橋ほど、壊れた時の衝撃はデカいんだよ」

 

 

桜木「そして渡らなければ行けない橋ほど、脆くて、不安定で落ちそうだけど、人はその先。[次]を追い求めちまうんだ」

 

 

桜木「そしてそれは俺達みたいな見てる人間だけじゃ無い。走っている子達。[あの子]も.........そしてブライアンも、それを求めて足掻いているんだ」

 

 

 [次]。成長する者が絶対に求める物。次のトレーニング。次のチャンス。次のレース。次の勝利。次、次、次.........それを追い求め、手を伸ばして掴むために、俺達生きている存在は歩いて行く。

 それを諦めれば停滞となる。置いて行かれる。成長が止まり老いていく。そうなれば後はもう、己が死を待つだけだ。もし屍のまま生きたくないのならば、遅くとも次を求め続けなければならない。

 

 

 俺は肩に置かれた手を振り払い、ブライアンの方へと歩く。絶え間なく垂れ流される汗。顎まで伝っているそれを手首で拭いながら、ブライアンは静かにゴールの線を見つめていた。

 

 

桜木「.........何か分かったか?」

 

 

ナリブ「.........私には、合ってない事が分かった」

 

 

ナリブ「普段のレースは、人の事を思い出すなんて事しないが、今回やって見て分かった.........煩わしいだけだ」

 

 

 膝に手を着いた状態から真っ直ぐと立ち上がり、彼女は吐き捨てるようにそう言った。その声からは冷たい、エディの言った物と同じ無駄だったという思いが伝わってくる。

 しかし、その奥底から感じる燻った物が確かにある。それは悔しさであったり、渇望であったり、次を求める姿勢に他ならない。俺はそれを感じ、少し安心した。

 

 

桜木「.........確かに、君にはこのやり方は合わないかもな」

 

 

ナリブ「.........」

 

 

桜木「けどなブライアン。君が貰った物は果たして、本当に[愛]だけだったのか?」

 

 

ナリブ「?.........何が言いたい?」

 

 

 検討が付かない。そんな様子が見て取れるブライアンの表情。しかし、俺には彼女の今の状況が良く分かる。なぜなら一度、こんな状況に陥った事があるからだ。

 三年前の秋。あの時、あの子は多くの人々の。そしてチームの、俺の期待を背負って居た。彼女一人に向けられた訳では無いはずのそれを、意地を張って一人で背負い込んだあの日。

 そんな彼女の姿と、ブライアンの今の姿が重なる。以前の様な走りを見せてくれる。必ず戻って来てくれるという期待。それを今、ブライアンはたった一人で背負っていると、思い込んでいる。

 

 

桜木「俺から言える事は一つだけだ。ブライアン」

 

 

桜木「確かに[愛]も大切だけど.........[気]を抜くなよ?」

 

 

ナリブ「あ.........?」

 

 

 あの時の彼女は、[期待]で空回った。俺を含めた多くの人々の[期待]が強すぎて、潰れてしまったんだ。だから、こういうのも少し恥ずかしいけど.........俺の信じる彼女に対する[愛]で、それを相殺させた.........と、思う。実際マックイーンがどう思っているのかは定かじゃない。

 けれど今度は、その逆。[愛]で空回っている。ならば必要な物もまた前回の逆。[期待]が必要になって来ている。

 

 

桜木「.........とは言っても、今日はもう走った後だ。流石に疲れてるだろうから試練はまた―――「いや」.........?」

 

 

ナリブ「今すぐ、だ。もう一度。走る」

 

 

 俺の一歩前へと出て、その背中を向けて彼女は言った。その背中にはまだ小さいながらも、彼女から何か確信を掴めた様な気配を感じ取る事が出来た。

 それを見て俺の中には、止めるという選択肢は存在して居なかった。代わりにあるのは、彼女の背中を押したいという応援の気持ちだった。

 背中を向け、そのままスタート地点まで歩いて行くブライアンに俺は声を掛ける。

 

 

桜木「ブライアンッッ!!!」

 

 

ナリブ「!.........」

 

 

 振り返る事はしない。だが俺の言葉を聞く為に、彼女はその前進を一旦止めた。

 

 

 何を言うべきか。それはもう決まっている。俺が[あの子達]を送り出す時はいつも、この言葉を掛けていた。だから彼女にも、同じ様に言葉を掛ける。

 

 

桜木「[乗り越えて]こい。ナリタブライアン」

 

 

桜木「きっとその先で―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――君のライバル達が、待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナリブ「.........フッ」

 

 

 俺の言葉を受けとり、彼女は笑った声を出した。それ以外は何のリアクションもせず、ただスタート地点に向かう。

 

 

 けれどその背中は、この旅の中で一番、[初めて会った頃]のナリタブライアンに近いものだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーい―――」

 

 

「―――どんっ!!!」

 

 

ナリブ「―――ッッ!!!」

 

 

 桜木の合図と共に地面を強く踏み締め、前へと前進する。加速力や速度は先程と同じ、全く変化は無い。

 だがそれでも、何故か心は先程より軽い物だった。それもそうだ。私はようやく気が付いた。私が貰っていた物は、[愛]だけでは無い事にようやく気が付いた。

 

 

 1000Mの距離。昔はこの距離を走るのも一苦労だった。幼い頃は良く、姉貴の走り方を真似して無茶した物だ。

 そんな私が、今や[三冠バ]として、ましてや長距離に置いては敵無しとまで言われる程にまでなった。そうなれたのは紛れも無く、姉貴や、ライバル達の存在だろう。

 

 

ナリブ(確かに、今の私は全盛期以上の知識と技術を持ち合わせている)

 

 

ナリブ(だが.........あの時よりも足りない物が確かにあった)

 

 

ナリブ(.........今ならそれが、痛い程に分かる)

 

 

 コーナーに差し掛かる。先程と同じ要領で完璧にインコースを突き、極限にまでタイムを縮ませる。

 それはさっきやった事だ。全盛期の時には出来なかったことをして、全盛期の時より0.5秒遅かった。

 

 

 だが.........

 

 

『くっ!もう一回だブライアンッ!!今度こそアンタにタイマンで勝ってみせるよ!!』

 

 

ナリブ(ああ、私もアマさんとの勝負は、いつも胸が踊るよ)

 

 

 私に向けられていたものは、[目標]だった。同期でデビューを果たした連中は皆、こぞって私を打倒しようとしていた。その思いが、更に私を強くさせた.........

 

 

『ブライアンさん。マヤ、まだ負けてないからね』

 

 

ナリブ(ああ.........そうだな。私もまだ、勝ったつもりは無い)

 

 

 私に向けられていたものは、[熱意]だった。圧倒的な強さとレースを見せつけた。それを初めて受けたアイツは、見た目の軽さとは裏腹に圧のある思いを私にぶつけて来た。

 

 

『今はまだ無理だけど、いつか絶対レースに出て、ブライアンちゃんを倒すからね!それまで、待っててね?』

 

 

ナリブ(.........フッ、確かにお前には負けたが、あの勝利はお前も、本意じゃなかっただろ?)

 

 

 私に向けられていたものは、[憧れ]だった。他の誰よりも私の姿に光を見出し、そして私の怪我を誰よりも惜しんだ。それほどまでに全盛期の私を叩き潰したいという強い意志は、正直。悪い気分では無かった。

 

 

『なんだ?また私の真似をしているのか?ブライアン』

 

 

『それじゃあいつまで経っても、お姉ちゃんには勝てないぞ?』

 

 

ナリブ(.........姉貴)

 

 

 私に向けられていたものは、[期待]だった。誰よりも私の成長を傍で見てきて、そして誰よりもそれを喜んでくれた.........いつか、共に走れる日が来る事を、お互いの全力をぶつけ合う日を、姉貴は昔から望んでいた.........

 

 

ナリブ(.........ああ、そうだな。桜木)

 

 

ナリブ(私にはどうやら、まだ[愛]とか言う力の使い方を、理解出来てないようだ)

 

 

 うざったいだけ。面倒なだけだと思っていたそれにいきなり名前を付け、力にするなんて事は私には出来ない。そんな事が出来るやつは、よっぽど器用な奴なんだろう。

 だったら今は無理に理解しないでもいい。いつかそれを理解し、物に出来るのなら.........今はまだ、[これ]で良い.........

 

 

ナリブ(フッ、いくら技術やレース力。肉体を鍛え上げようとも、あの頃を超えられない訳だ。あの時の気持ちをすっかり忘れている.........礼を言う。桜木)

 

 

ナリブ(やはり私は.........!!!)

 

 

 全盛期の頃にあって、今は無かった物。それは[気持ち]だった。[勢い]だった。小手先だけの技術だけを身に付けてそれをおざなりにしていたから、私は全盛期を超えられなかったんだ。

 そう、ただ我武者羅に走って.........気が付けば[三冠]を取っていた、あの日々の気持ちを.........

 

 

 残り200M。直線だけが伸びて行きゴールの線を後は踏むだけ。そこに向かうとなった時にようやく、[懐かしい感覚]が蘇ってくる。

 迸る様でいて.........どこか飢え、渇いている。それをただ満たそうとして全力を注いでいた.........あの頃の気持ち.........その勢いを.........

 

 

ナリブ「やはり私は.........ッッ!!!」

 

 

 強く地面を踏み抜ける。地面に生えた草をその根ごと抉り出す勢いで力強く、そして鋭く差し込み、蹴り出すのと同時に素早く前に足を動かして、それを繰り返す。

 感じる風も、身体の内から込み上げる熱も、全てが戻ってきている.........

 

 

 [ライバル達]が.........戻ったその先で、私を待っている.........

 

 

ナリブ「[愛]より―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[気合い]だァァァァァ―――ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナリブ「.........はぁぁ」

 

 

桜木「ほいっ、お疲れさん。凄かったな!ブライアン!初めて見たレース思い出したよ!」

 

 

 燃え盛る焚き火の前で、疲れた身体を癒していると、桜木が美味そうな肉を乗せた皿を私の方に寄越してきた。

 久々に見る肉と美味そうなソースの匂いに驚き一瞬固まるが、私は直ぐにそれを受け取った。

 

 

ナリブ「おい、こんなのどうしたんだ?」

 

 

桜木「あぁ、ルビィちゃんが街に降りるっつーからお使い頼んだんだ。久方ぶりの肉だろ?味付けも日本で食べる奴に寄せてるから、今日はお祝いだと思って、な?」

 

 

ナリブ「.........フッ、気が早い奴だな」

 

 

 照れながらも嬉しそうに笑う桜木の顔を見て、私は笑う。確かに私は試練を突破することが出来た。全盛期のタイムを0.3秒縮める事ができたのは、流石の私も予想外だった。

 そんな雑談も程々に、私はフォークを握って皿の上に置いてある肉。恐らく牛肉だろう。それを差して口に運ぶ。

 瞬間。久方ぶりに味わう肉の旨みとソース.........ガーリックだろう。その濃いフレーバーが私の口の中に広がり、味はとても満足出来た.........が。

 

 

ナリブ「硬いな」

 

 

桜木「まぁ!文句言うんじゃありません!ママはそんな子に育てた覚えは無いわよ!!?」

 

 

ナリブ「お前はいつから私のお袋になったんだ」

 

 

 わざとらしく怒った顔を見せ、そっぽを向く桜木。それにツッコミを入れて暫く静かな空間が続くと、どちらからともなく、不意に笑い声が広がった。

 

 

ナリブ「.........アンタのお陰だ。正直、感謝してもしきれない」

 

 

桜木「あら珍しい。俺を褒めるなんて変な物でも食べた?」

 

 

ナリブ「茶化すな。真剣な話だ」

 

 

 2/3程食べた肉を皿に置き、私は今回。この旅に同行した理由を思い出し、それを桜木に語った。

 

 

 最初は.........本当に来るつもりなんて無かった。

 

 

『指令ッ、ナリタブライアンよ!君には前回同様、海外へ行く桜木トレーナーに着いて行って欲しい!』

 

 

 それを電話越しで聞いた時、私の選択肢は断る以外の物は存在して居なかった。なんでまたあの地獄の様なデトロイトを体験して、もう一度桜木なんかと共に行動しなければ行けないんだと、つくづく思った。

 だが、理事長は言った。この旅でもしかしたら、私のスランプを脱する何かを、得る事が出来るかもしれない。と.........

 

 

 それを聞いた時、私は不覚にも、そうかもしれない。と思ってしまった。

 事実、あのデトロイトから帰ってきてから少しの間、私のレースの調子少し良かったからだ。着いて行けば、今度はなぜそうなったのかを突き止められるかもしれない。そう思って、この旅に望んだんだ。

 

 

ナリブ「結果はアンタの思っている通り、概ね正解だった」

 

 

桜木「.........俺は何もしてないよ。ブライアンが凄かっただけさ」

 

 

ナリブ「人の好意や謝意は素直に受け取れ。でないとまたパールさんに怒られるぞ」

 

 

桜木「!ははっ、懐かしいな!」

 

 

 以前一度会った共通の知り合いの名前を出すと、これまた嬉しそうに桜木は笑い声を上げた。まぁ怒られたのは私の方だが、今の私なら素直に受け取る事が出来るだろう。多分。

 .........だが本当に、ここに来て良かったと思っている。自分でも分かるくらいに大分憑き物が落ちた感覚がある。私は残りの肉を口に入れ、しっかりと味わい尽くしてから飲み込んだ。

 

 

ナリブ「.........お前に話すことでも無いかもしれないが、実は以前ドリームトロフィーリーグの招待を受けた」

 

 

桜木「え!!?マジかよブライアン!!すっげぇな!!!」

 

 

ナリブ「今の状態で入っても成績は残せないと思い渋っていたがな.........お前のお陰でまた、飢えと渇きを思い出せる事が出来た」

 

 

 私が全盛期の頃より忘れた物。それはきっと、果てなき欲求だったのだろう。一度怪我をした私は、戻ってこられるだけでも運が良かったと、無意識にそう思ってしまっていた。だからそのまま、長く停滞を続けていた。

 それをようやく今、思い出せる事が出来た。これでまた.........私はライバル達と共に競い合い、そしてこの絶え間ない飢えと渇きを満たし続ける事が出来る。

 

 

桜木「君がそっちに行っても、俺は全力で応援するぞ!なんせ初めて名前を覚えたウマ娘だからな!!ブライアン!!」

 

 

ナリブ「.........なぁ」

 

 

 私が差し出した皿を受け取りながら、桜木は何の気無しにそう言った。しかし、今更ながら違和感を感じる。私はその原因を知っているが、その理由を知らない。

 それを知る為に私は、桜木の顔を見て一つ質問を投げ掛けた。

 

 

ナリブ「なんで今更私の呼び方を変えた?」

 

 

桜木「え?だって、前からやだって言ってたし、試練以外のストレスはかけたくないと思ってさ。それに、あんな末脚見せられたらもう君の事を変な風に呼べないよ」

 

 

 少しバツが悪そうに、そして恥ずかしいのか顔をほんの少し赤くし、頬を人差し指でかきながら桜木は言った。本当、今更だ。

 今にして思えば、本当に変な男だ。初めて会った時の第一声が、長いから呼び辛いと来た。周りに居る奴らは皆ブライアンと呼んでいたのに、コイツは律儀にフルネームで呼ぼうとしてやがった。

 そんな出会いから、もう随分と経ってしまった。顔を合わせる事も少なく、共に過ごした時間も少ないが.........それでもコイツは、あの頃とは全く違う。

 

 

ナリブ(.........アンタは強いな)

 

 

ナリブ(さっき私を推し潰そうとした[愛]を、アンタは今、受け止め切れるんだろう?)

 

 

 私達は人間より強い。力が強い。同じ形を有して居ながら、何が違うのか、まるで生き物としての枠が完全に別物だと言うレベルに。

 そんな私達でも、のしかかられたら潰れる物がある。それは、多くの人々の[想い]だ。我武者羅に走っていた時には気付かなかった。だが気付いてしまえば、それを地面に置くことも、投げ飛ばす事も出来ず、重すぎる荷物を背負ったまま走っていた。

 

 

 人間は私達より弱い。力が弱い。だがそれでも、そんな生物でも私達より優れている。人の[想い]を乗せられても、潰れにくいからだ。

 どんなに重くて、辛くて、投げ出しそうになっても、気付けばそれを背負って立っている。気付けば平然とそれを背負って道を歩いている。

 

 

 トレーナーと言うのは、荷物持ちに近いのかも知れない。私達ウマ娘が勝手に乗せられたその荷物を無言で奪って、その有無すら知らせず、なるべく何も持っていない状態で走らせる。

 走らせた後も何も言わず、背負った荷物をそのまま持つ者達。多くのウマ娘が見て見ぬふりをする所か、自分がいつそれを背負わされ、そして代わりに持ってもらったのかを理解して居ない。

 

 

 私もその一人だった。そして、ある日それに気付き、私は自分のトレーナーに渡す分を意識的に減らしていた。

 

 

ナリブ(.........だが、お前は随分下手くそだな)

 

 

ナリブ(こんな所までされたら、メジロマックイーンはもう気付いているだろうに.........)

 

 

ナリブ(.........そうか。これが[愛]、か)

 

 

 勝手に目の前の男を評価し、そして勝手に一人納得する。気付いてみればなんて事は無い。コイツは荷物を取るのが下手すぎて、気付かれて半分位しか持たされていないんだ。

 それでも、それが愛だと思った。思いやりだと、支えるトレーナーと走るウマ娘にしか出来ない。そんな関係性だと思った。

 なるほど、それなら納得が行く。こんな関係性の奴らで溢れ返ったら、今頃学園内は相当甘い匂いを蔓延させているはずだ。

 そう思ってしまうとどうしても、鼻で笑った声を抑える事が出来なかった。

 

 

桜木「?何さ?」

 

 

ナリブ「フフ、いや.........」

 

 

 .........だが、コイツに私の荷物を背負わせる訳には行かない。この男は言うなれば私のファン。初めてウマ娘のレースを見て、この世界へ連れ込ませてしまったのは私だ。

 そんな男に荷物を持たせるのはあまりに礼儀を知らなさ過ぎる。その荷物は、一旦返させて貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ブっさんで良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「!.........ああ、頑張れよ![ブっさん]!!」

 

 

 星が光る夜空。暖かい焚き火で疲れた身体を癒しながら、私は一度持っていかれた荷物を、もう一度自分の背に背負った。

 これはコイツの持つべきものじゃない。この荷物は、私と私のトレーナーが持つ物だ。金輪際、コイツがこれに触れる事は決して無いだろう。私も決して、これを触れさせる事は無い。

 

 

 帰ったら、何を話そうか.........スランプを脱した事。姉貴やライバル達の印象が変わった事。全盛期のタイムを超えた事。それらを話しても構わないかも知れない。

 だが今、私が帰って相談したい事は.........ドリームトロフィーリーグに挑戦したい。うん、そうだ。帰ったらそれを言おう.........

 

 

 一時、歪なトレーナーとウマ娘としての関係を築き上げ、見事私の殻を破る事が出来た瞬間だったが、もうその関係性は何処にも無く、そして今後も現れることも無い。

 これからも、コイツの中での私は[ブっさん]であり続け、私の中でのコイツも[頭のおかしい奴]であり続ける。

 

 

 そうであろう。そうで、あり続けて欲しい.........そんな事を思いながら、私は両腕に頭を乗せ、夜風を堪能しながらゆっくりと、その目を閉じたのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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