山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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タキオン「私達は信じているんだ!!トレーナー君が帰ってくるのを!!」

 

 

 

 

 

タキオン「.........」

 

 

 雑音にしか聞こえて来ない多くの人々の声。その喧騒の中、私達はカフェテリアの真ん中に居る理事長を間とし、生徒と部外者達とを分けてその生徒側の先頭に立っている。

 

 

「それで、お聞かせ願いますか?桜木トレーナーは今どこで、何をされているのかを」

 

 

 目の前の青年がそう語り掛ける。後ろに集っているのは、恐らく同じ記者達だろう。カメラとメモ帳を手に、彼の担当である私達言葉を逃さぬようその目で射抜き、そしてペンを握っている。

 

 

タキオン(.........やれやれ。確か君関係のトラブルが起きた時、判を押して退職届を出せ。だったかな?)

 

 

タキオン(生憎だが、そんなもの初日に破って捨ててしまったよ.........判子は大事に取ってあるけどね)

 

 

 実に惜しいことをした。あれを手元に残しておけば、辞めたと言う事にはなっていないと直ぐに決着を付けられて居た筈なのだが.........捨てた物は仕方が無い。あの時は本当に必要ないと思ったのだからね。

 

 

「どうなんです?辞めたんですか?辞めてないんですか?」

 

 

マック「っ、さっきから聞いていれば辞めた辞めたと.........!!そんなにあなた方はあの人に辞めて欲しいんですかっっ!!!」

 

 

ライス「そ、そうだよ!ライス達のトレーナーさんの事、悪く言うと!お、怒るよ.........!」

 

 

「別に辞めて欲しいとは思っていません。辞めていないのかだけを教えて下されば、私はそれだけで満足ですので.........」

 

 

 記者達の頭に立つ男は、マックイーンくんとライスくんの言葉など意に返さぬ様に飄々としている。少しでも感情的になってくれさえすれば、それを諌めることなど造作もないんだが.........流石は失言を引き出すプロ。自分達がどう振る舞えば良いかも把握している様だ。

 困難な状況に頭を悩ませていると、今まで沈黙を貫いていた理事長が顔を上げ、静かに話を始める。

 

 

やよい「.........どうやら君達は、桜木トレーナーがここに在籍しているという確たる証拠が欲しい様だな?」

 

 

「ええ。多くの名バを育てる彼が引退となれば記事は飛ぶように売れます。しかし私はやはり、真実を書きたい。嘘八百を並べるなんて、そこら辺の素人でも出来るのでね。でしょう?」

 

 

 男は賛同を求めるように、後ろに居る記者達に問い掛ける。そしてその心は同じなのだろう。彼ら彼女らは揃いも揃って首を縦に振った。

 .........全く。本当に面倒臭い事に巻き込まれてしまった。本来ならば今日は外環境がウマ娘に及ぼす影響の細かな調査をと思っていたのだが.........彼女に頼まれたのなら、この状況を打開するしかない。

 そう思いながら、私は目の前の記者の集まりとは外れ、私達側の方に居る記者の方を横目で見て、今日の事を思い出していた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「暇だ.........暇だねぇ.........」

 

 

 校庭のグラウンド。トレーニングに勤しむウマ娘達の走り行く姿を見届けながら、私はコースから外れた芝生の上に置いた装置の数値変動を観察し、仰向けに倒れた。

 どうにもやる気が起きない。いや、やる気はあるにはあるのだが、走る気が全く起こらない。と言うべきだろう。普通の人間ならば良くある状態だが、私達ウマ娘にとっては珍しい事態だった。

 その研究を行いたいと思っては居たが、如何せんその記録を取ってくれる相方が居ない。普段ならば保健室医の黒津木くんの力を借りている所なのだが、理事長に聞けば有給を取ってどこかへ行ってしまったと言う。

 ならばと思い司書の神威くんにとカフェの所を訪ねもしたが、彼も生憎不在。何処へと彼女に聞いてみたが、手土産に持ってきた茶葉の袋が独りでに浮き始めた瞬間。私はごめんなさいを三回言って出て行った。

 

 

 恐らくカフェの言う[お友達]の機嫌が悪かったのだろう。そうだと思いつつも、何かをしなくてはと思い、特段重要性も無い外環境の影響調査に乗り出し、こうなっているというわけだ。

 最近はまぁ、シャカールくん達の活躍のお陰で皆の士気が高まっている。こんな状況なのはむしろ私くらいだ。あれやこれやと色々と試しては見ているが、どうにも走り出そうとした時の風の乗りがイマイチなんだ。皐月賞を駆け抜けた時の感覚を取り戻すにはだいぶ遠い.........

 

 

「―――」

 

 

タキオン(それにしても、担当を一ヶ月半もほっぽり出すだなんて今更考えてみたらトレーナーとして前代未聞だよ)

 

 

「―――ん」

 

 

タキオン(まぁ彼のマックイーンくんへの入れ込み具合を考えれば妥当なんだが.........最初の担当は私なんだがねぇ)

 

 

「―――さん」

 

 

タキオン(これは帰ってきた時彼女に告白くらいしてくれないと私の桜マク隠し撮り貯金がそろそろ底を―――)

 

 

「アグネスタキオンさんッッ!!!」

 

 

タキオン「うわァ!!?な、なんだい!!?まさか私の実験室に隠していた隠し撮り貯金がマックイーンくんに見つかったのかい!!?」

 

 

 半分寝掛けていた私の耳に直接私の名前が聞こえて来る。思わず跳ね起き何事かと思い当たる節を言い、そしてしまったと思いながら口を両手で塞いだ。起こした相手がマックイーンくんだったらきっと今頃大変な事になっていただろう。

 しかし振り返ってみると、そこには時々しか見かけない人物。[乙名史記者]が慌てた様子で私を見ていた。

 

 

乙名史「タキオンさんっ!緊急事態です!!」

 

 

タキオン「な、緊急.........?いや待て!!なんでいきなりそんな事を君に言われるのか訳が分からない!!せめて説明してくれたまえ!!」

 

 

乙名史「説明は.........ともかく!今は貴女の様な頭脳を持った[レグルスのメンバー]が必要なんです!!説明は道中行います!!」

 

 

 緊急事態だと、彼女は言った。その意味も内容も分からぬまま、私は先を歩く彼女の方へと付いて行く。

 その道中、何があったのかを彼女はあらかた話してくれた。

 

 

タキオン「なるほど.........あまりにも長いトレーナーくんの不在を知り、多くのマスコミ達がトレーナーを辞任した。と言う認識を勝手に持ってしまっている、と.........」

 

 

乙名史「はい。前回のライスシャワーさんの件で鎮まってはいましたが、ここに来てまたメディアの悪い性質が蘇りつつあります」

 

 

タキオン「.........君はどうなんだい?乙名史記者。君の情報も、殆ど彼らの持っているそれと変わりないんだろう?」

 

 

乙名史「.........ええ。そうですね。ですが私が書かせて頂いているのはレースの結果やトレーニング論の記事。推測や根拠無しの記事は書けませんから」

 

 

 淡々と。しかしその言葉から彼女の記者としての信念が大きく感じ取れた。分かってはいた事だが、彼女の様な記者も居るのだと改めて認識し、私は少し安心した。

 

 

 そして多くの記者と生徒のウマ娘が居るカフェテリア。外ではトレーナー陣がごった返している状態の所へ辿り着き、話は冒頭へと繋がるのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やよい「.........桜木トレーナーは辞めてはいない。と口で説明しても、君達は納得しないだろう?ならばその納得出来ない根拠を先に述べると良い!」

 

 

 理事長の出した提案に、生徒であるウマ娘側と記者側の大勢が驚きつつも、その言葉に同意を示し始める。こちらとしてはなぜあちら側がトレーナーくんの辞任の可能性が強く存在しているのか、いまいち把握し切れていない。

 しかし、同意を示す記者も確かに居たが、そんな物は関係無い。早く結論を言えと言う記者も存在していた。その者達に釘を刺そうと乙名史記者が一歩前へ出ようとしたが、それは私と対峙する男の言葉で止められる。

 

 

「止めなさい。そんな事をしても意味はありませんよ?確たる証拠の記事が書かれなかった場合、それは情報不足の記事だと私がネットで訂正しますからね」

 

 

「なっ!!?この.........!!!新米の癖に生意気な事を言うなッッ!!!俺達の方がベテランだぞッッ!!!」

 

 

「言ったでしょう。しっかりとした情報も無く記事を上げることなど文章を書ける素人でも出来るって。貴方達が書きたいのが妄想なら引き止めません。勿論私がそうだと一般の皆さんにお伝えしますがね?」

 

 

タキオン(おや.........?)

 

 

 私はそのやり取りを見て、この問題は一枚岩では無いと察した。どうやらあちら側はトレーナーくんが辞めたと言う情報を信用している人間という括りで固まっているだけで、仲間では無いらしい。

 これは中々珍しい展開だと思っていると、先程の否定的な声を諌めた男が私の方を見て、頭を下げた。

 

 

「すみませんね。近年はまともになって来てはいるのですが、まだまだああいう輩が多いんです。どうぞお気になさらず」

 

 

タキオン「ああ、十分把握しているよ。今に始まった事では無いし、気にしてはいないよ」

 

 

「それは良かった。それと情報の件ですが、こちら側から話しても、信憑性は薄いでしょう。そちら側に居る[乙名史記者]。彼女の説明なら信じられますよね?」

 

 

乙名史「そうですね。明確な情報としてならあちら側の記者達とはそう差は無いはずです」

 

 

 その言葉を聞き、私はチームメンバー達の様子を見る。彼女達は乙名史記者なら信用出来ると言った感じで、全員が目で会話を交わした後に、私の方を見て揃って頷いた。

 それを確認した私は直ぐに彼女にその情報の証言を頼むと、彼女はそれを快く受け入れ、記者達とウマ娘達の真ん中まで歩き、そこで止まった。

 

 

タキオン(.........本当は保守的な議論なんかより、崩す側の方が得意なんだが.........)

 

 

タキオン(全く.........これはマックイーンくんへの告白だけじゃなく、私の紅茶に入れる砂糖一年分を要求するしかないね)

 

 

 誰にも聞かれないよう配慮しつつ、溜息を吐き出す。勝手に付けた叶えられる事は無いであろう免罪の条件の心理は、呆れから来るただの戯れだ。言ってもいないし言ったところで叶えられる訳が無い。

 

 

 ではこの議論。手を抜くのかと言われたなら、私は迷った挙句にそれはしないと言うだろう。この先彼が辞める選択肢を取ろうが取らまいが勝手だが、目の前に居る自分勝手な者達に、自分勝手な推測を並べ立てられた物をばら撒かれてしまっては、私が気持ち良くない。

 

 

 そう。これは暗に、ただの私の憂さ晴らしをしたいと言う心理に基づいた行動に過ぎないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 証言開始

 

〜桜木玲皇が辞めたと言う情報〜

 

 BGM:尋問 〜モデラート

 

 

乙名史「桜木トレーナーの退職が噂になったのは、年始のトレーナー特番が放送された時です」

 

 

乙名史「普段の彼ならば、どんなに忙しくともスタジオに足を運ぶことや、VTR用のコメントを残す位の事はしていました」

 

 

乙名史「ですがその番組には彼の名前や過去映像はあっても、肝心の彼の姿や声は全くありませんでした」

 

 

乙名史「そんな中非常に褒められない手法ではあるのですが、トレセン学園と彼の自宅を張り込んだ記者が居たのです」

 

 

乙名史「期間としては二週間。その間自宅を出入りする人物は彼の友人一人。そしてトレセン学園から出ていくトレーナーの中に彼の姿はありませんでした」

 

 

 

 

 

タキオン(.........ふぅン)

 

 

 さて。どうしたものだろう。彼等彼女等を納得させる為の情報。それを果たして私達は持ち合わせているだろうか?

 もしここでバカ正直に、辞めてはいないがマックイーンくんの足の為に海外へ行っていると言おう。そうなればその事実を元に要らぬ憶測やら[繋靭帯炎]と言う病の常識を盾にある事無い事を書き始める輩が出てくるのは間違い無い。

 今ここで海外の話を持ち出すのはナンセンスだ。相手は言葉と情報を都合良く使うプロ。慎重にならなければ.........

 

 

デジ(タキオンさんタキオンさん)

 

 

タキオン(ん?)

 

 

デジ(ここは一先ず、現状トレーナーさんが辞めていない。と言う事を教えれば良いのでは無いでしょうか?後の事は後で考えましょう!)

 

 

タキオン(.........確かに、それもアリだね)

 

 

 

 

 

「異議あり」

 

 

 

 

 

全員「!」

 

 

タキオン「君達の察しの通り、トレーナーくんは今トレセン学園には居ないよ」ヤレヤレ

 

 

 私のその言葉を聞き、この場にいる全てが五月蝿い喧騒を生み出し始める。内容は違うまでも、それぞれが私のその言葉に疑問を持ち、それが何なのかを周りの人間に共有し始める。

 そしてチームメンバーである者達はデジタルくんを除き、焦った様に私の方へと詰め寄って来た。

 

 

マック「ちょ!ちょっと!!なんで言ってしまうんですの!!?」

 

 

シリウス「お前っ、この状況でそれを言うってことがどんなリスクを孕んでんのか理解出来ねぇのか!!?」

 

 

タキオン「おいおい。今いる記者達は事実を知りたいんだろう?だったらこちらも出せる情報は出さなくちゃ行けない。あっちが憶測で記事を書かないと言う信頼がある限りは.........ね?」

 

 

記者達「!」

 

 

 先程若い男が刺した釘を、今度は私が刺し直す。そうする事で軽率な事は出来ないと言うことを改めて認識させる。

 そして私の言葉を聞き、チームメンバー達も納得を示し、先程の疑問を晴らす事が出来たようにその表情を緩ませた。

 畳み掛けるのならば、ここだろう。

 

 

タキオン「そしてこれが証拠になるかどうかは分からないが、ここに彼の判子がある」

 

 

「.........何故、そんな物が?」

 

 

タキオン「説明するのも面倒だ。彼の手紙と一緒に渡そうか。デジタルくん。申し訳ないが―――」

 

 

デジ「あっ、さっきオルフェーヴルさんが持ってきてくれましたよ」

 

 

 そう言って彼女はいつの間にかその手に持っていたクリアファイルから一枚の封筒を取り出した。それは正しく、彼が私達宛に書いてくれた手紙が入った封筒だった。

 一体いつの間にオルフェーヴルくんは私の部屋に.........察しが良いのは大変助かるが、あの机にはあまり触れられたくは無い物も沢山ある。今度からはやめてもらうよう言っておこう。

 

 

 彼女に渡された封筒をあけ、中身を再度確認する。入れ違いはなく、トレーナーくんが書いた手紙だとこの目で認識し終えた私は、その足で目の前の男の方まで歩き、手紙と判子を確認させる為に手渡した。

 

 

「.........偽造。という事は?」

 

 

タキオン「残念だがこんな事態になっているのは今初めて知った。手紙だけならばまだしも、判子を買ってくる余裕なんて無かったよ」

 

 

乙名史「.........筆跡も桜木トレーナーの物で間違いありません」

 

 

 これで手紙は彼の物だという確証は与えた。その内容に目を通せば、彼がトレセン学園を辞めていない。と言うのはよく分かる事だろう。

 これで厄介事は片付いた。晴れて私は自由の身になり、またさしも重要じゃない外環境がウマ娘の肉体に与える影響の検証を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これが何だと言うんです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「―――は?」

 

 

BGM:サスペンス

 

 

 集まった野次ウマ達の群れを掻き分け、外へ出ようとした瞬間。その言葉がナイフのように鋭く私の背中へ突き立てられる。

 何だ?何だとは何だ。どういう意味だ?その手紙には書いている以上のことも以下のことも無い。それがこの論争の答えであり、結論である筈だ。それ以上を用意することなど私には出来ない。

 

 

「.........結局これでは、同封された[退職届]が提出されたのかどうか、分かりませんよ」

 

 

タキオン「.........それはそれが届いたその日の内に破り捨てたよ。必要になる事は無いからね」

 

 

「それが嘘では無いと証明できますか?」

 

 

タキオン「証明も何も、無いものは無い。それで納得してくれとしか言い様が―――」

 

 

「困るんですよ。トレセン学園は過去にその手のトラブルがあったお陰で、学園在籍者の退職及び退学処理は年末に行われるんです。実際はもう学園には居ないのに」

 

 

「桜木トレーナーも、実はそんな状況なのでは無いですか?理事長?」

 

 

 .........侮っていた。記者という言葉の裏を自分達の都合の良い様に解釈し、それを吹聴する存在の厄介さを。彼らの厄介さは競争者として一定の地位を持つ家の生まれなら、早い段階から教え込まれる。私もその一人だ。

 だが、その知識や対策もトレーナーくんが[乙名史記者]と言う記者の中では特異な例を贔屓にしてくれたおかげで、大分絆されてしまった感覚もある。私は今、目の前の男に苛立ちを覚え始めている。

 

 

やよい「.........確かに、過去にそう言った事例はある。それを避ける為、トレセン学園に所属する全ての者は年度いっぱいの活動を義務付けている。急病や事故。親族の特別な事情は除いてな」

 

 

「でしょう?なのに彼の姿が見当たらない。海外へ行っていると言うのは分かりました。それが果たして、メジロマックイーンさんを救う事に本当に繋がるのですか?」

 

 

タキオン「.........っ」

 

 

 嫌な男だ。目の前に居る存在はその目で、私の事を真っ直ぐと捉えてくる。私の全体像を貫いて、心の底すら読み込んで来るかのような深さが、私をじっと見つめて来ている。

 

 

マック「.........当たり前です。彼は必ず、帰って来てくれます」

 

 

ウララ「そうだよ!!トレーナーはウララ達との約束破った事ないよ!!」

 

 

ライス「うん!お兄さまはいつも変な事したり、ライス達がびっくりするような事するけど.........!」

 

 

ブルボン「必ず私達の元に来て、マスターは笑ってくれます」

 

 

 ここに居る皆は、彼の事を信じている。疑う事なんて知らないと言うように、彼女達は彼の事をただひたすらに信じ続けている.........

 

 

シャカ「実際会った事ァねェが、でこぼこチームの連中が口揃えて言ってんだ。それで満足だろう?」

 

 

オペ「彼女達は皆先生を信じている!そしてこのボクも!来るべき崩壊の日が訪れるのと同じ様に彼を信じている!」

 

 

シリウス「.........つまりは、だ。アンタら大人の出る幕は端っからねぇんだよ」

 

 

 そして、実際に顔を合わせたことの無い者も、彼と時間を共有した時間が少ない者も、同じ様に彼を信じている。

 それに乗る事が出来れば、なんと幸せだっただろう。目の前の問題のリスクを知らぬ振りして、可能性と言う甘い蜜だけを吸うだけの存在になれたのなら、どれほど楽になれただろう.........

 

 

「.........私が聞きたいのは貴女方の言葉じゃなく、今目の前に居る[彼女]の言葉です」

 

 

「貴女は、そうじゃないんでしょう?[アグネスタキオン]さん?」

 

 

タキオン「っ、わた......し、は.........」

 

 

 狙いを定められている。今この場で、この現状に対して一番危機感を持ち、そして客観的に結論を下せる私を、目の前の男は標的として捉えている。

 私の一言で、私の言葉で、私の思い一つで彼等彼女等の結論が下される。トレーナーくんが辞めたのか、辞めていないのか。そこに最早事実は必要無い。私がこの状況をどう捉えているのが、記者達が今最も欲している情報だ。

 

 

 そして今の私は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーくんを信じる事が出来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汗が頬を伝い、机の上へと落ちて行く。不規則に落ちて音を出すそれに意識を向けることすら出来ず、ひたすらにただ焦りを見せ、私は私の中に残っている彼への信頼を探るように顔を触る。

 

 

 何かがあるはずだ。残っている筈だ。未来での出来事で彼への不信感は払えた筈だ。だったら信じる事が出来るはずだ.........なのに.........私はまだ、心の底から彼を信じる事が出来ていない。

 

 

「.........言えないと言うことは、そういう事と受け取ってよろしいですね?」

 

 

タキオン「.........」

 

 

 ああ、なんて哀れなんだろうか。今この時ほど、自分が研究者である事を呪った事は無い。目の前にあるもの一つに手を伸ばす事が出来れば、こんな事にならずに済んだ。見えない不確定要素を明確にしようとする性さえ無ければ、私は断言出来ていた。

 

 

 ここに立つ[私]が、[私]でなかったのなら.........彼の帰り。そして彼女の復活を、心の底から―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異議あり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘「!」

 

 

記者達「!」

 

 

やよい「!」

 

 

タキオン「!で、デジタルくん.........!!?」

 

 

 俯き、諦めようとしていたその時、隣に立つ彼女から声が上がった。その方向を見ると、彼女は人差し指を強く伸ばし、その先に居る記者達へと向けている。

 その表情は普段見せている柔らかい物ではなく、今までの生活の中で見せた事の無い、強い意志を感じさせる。その表情のまま彼女は、ゆっくりと腕を下ろした。

 

 

デジ「.........信じられませんよ。そりゃ」

 

 

タキオン「え.........?」

 

 

デジ「タキオンさんは人一倍、物事を調べる人です。私達みたいに言った言わないの言葉や文字だけで信じられる程、この人は気優しい人じゃありません」

 

 

デジ「けどだからこそ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「証拠がある時のこの人は、怖いですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「.........!」

 

 

 不敵な笑みを浮かべ、この場の空気を一人で変えてしまった。その姿に私どころか、チームメンバーですら驚いた表情を見せている。

 今までの彼女だったら、決して目立たぬよう、アドバイスやサポートに徹していた。こうして大見得を切って大胆に発現することなんて、予想だに出来なかった。

 そんな彼女に呆けていると、その表情のまま私の方へ顔を向ける。それに驚く間もなく、彼女は小さい声で私に話しかけて来た。

 

 

デジ(何してるんです。タキオンさんならこのやり取りの間に自分の心を落ち着かせる位のことは出来るでしょう?)

 

 

タキオン(お、落ち着かせると言っても、第一証拠何てものはどこにあるんだい?彼を信じられる程の物が、一体どこに.........?)

 

 

デジ(耳を澄ませて下さい。あたし。さっきから予感はしてたんですけど、どうやら現実になりそうですから)

 

 

タキオン(予感?.........っ!)

 

 

 予感がある。彼女の言うそれは大抵当たる。以前何故それほどまで先に起こることを何となくではあるが予見し、そして目の前で起きても冷静に対処出来るのかを聞いた事がある。

 フラグ。つまりそうなる時事前に起こる何かしらのサイン。何かしらの行動、言動、それらのデータが自分には備わっている。と、私の言葉で表すならこういう事を言っていた。まぁウマ娘関連の物なら予見していても真正面から喰らって意識を手放すが.........

 

 

 それでも、彼女の言っていた予感は当たっていた。耳を澄ませば、微かにだが足音が聞こえて来ている。

 

 

 そんな私の立てた耳を見て、他のウマ娘達も耳を立て始める。徐々に近づくにつれ、それが一人だけの物では無いと言うのが分かってくる。

 

 

 四人。四人分の足音が、このカフェテリアまで近付いてきている。ウマ娘達からざわりとした声が漏れ出し、そしてそれはマックイーンくん達も同じだった。

 

 

ウララ(ね!ね!もしかしてトレーナーが帰ってきたのかも!)

 

 

マック(!トレーナーさんが.........!)

 

 

ライス(良かったね!マックイーンさん!)

 

 

ブルボン「.........?」

 

 

 彼かもしれない。その言葉に思考を取られ、すぐ近くまで来たその足音の詳細に彼女達は気付いていない。どうやらブルボンくんだけが、この音の主に気が付いた様だ。

 

 

タキオン(.........やれやれ。エンターテイナーなのはいい事だとは思うが―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時。扉が勢いよく開かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン(.........[血]は争えないとは、正にこの事だね)ヤレヤレ

 

 

 逆行を浴び、シルエットだけをこの場にいる者達に見せつける存在。一歩踏み出す事で、その存在は姿を全員に見せ付けた。

 

 

マック「な、ぁ.........」

 

 

「お?なんだなんだー?みんなアタシの帰りを待っててくれてたのかー!!?」

 

 

「この[ゴールドシップ]様の帰りをよーっ!!!」

 

 

 大きな荷物を背中に背負って、彼女はここに現れた。トレーナーくんだと思っていたマックイーンくんはその姿に、喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなくなっており凄い顔をしている。

 

 

タキオン「全く。急に居なくなったと思ったら急に現れる。君には本当、予測するという行為が無駄だと思わされるね」ヤレヤレ

 

 

ゴルシ「へへ〜、だろ〜?あっそうだー!!マックちゃん達にお土産あんだよ〜!!」

 

 

マック「お、お土産.........?」

 

 

 そう言って彼女はポケットから携帯を取りだし、なにやら操作を始める。暫くしない内にマックイーンくんの携帯が通知を知らせる振動をした。

 何かと思って彼女がそれを確認しようとしているうちに、ゴールドシップくんは「じゃあアタシこれから白銀ん所で鉄拳やってくっから!」と言って周りの目を気にすることも無く颯爽と去っていった。

 

 

マック「な、なんなんですの.........?」

 

 

タキオン「ま、まぁ元気そうでなによりだったじゃないか.........?」

 

 

デジ「ですねぇ〜。はぁ〜♡♡沢山心配した甲斐がありました〜♡♡♡」

 

 

「お〜いバカ女〜!!早く俺に鉄拳教えろォ!!!あの格ゲーバカのプライドへし折ってやんなきゃ俺の気が寝てくれねェ!!!」

 

 

 こちらのことなど露知らず、姿が見えない外の方では聞き慣れた声達がこちらにまで聞こえてきて、終いには何故かまた殴り合いに発展している。

 その後、深い溜息が聞こえて来た。その声が響いた数瞬後に今まで聞いた事ない様な打撃音が三回分聞こえた後、完全に静かになった。

 こちらに来る時とは違い、一人分の重みのある遠ざかる足音が聞こえて来る。きっと拳骨したのだろう。正直私も恋人である黒津木くんのあのテンションはげんなりする。

 

 

 記者達も困惑している中だが、マックイーンくんが先程彼女に送られたデータの存在を思い出し、急いでその内容を見始める。

 そのデータは、動画だった。真っ暗なサムネからは何も情報は得られない。だけど彼女はそれを見て何かを察し、皆が見守る中ゆっくりとその指で動画を再生させた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンカンカンカンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「!!?」

 

 

『おっおーいっっ!!!クソカス共ォ!!!ぶっ殺してやっからなァッッ!!!』

 

 

 携帯のスピーカーから響き渡る怒号。その限界以上の声が出ているのだろう。それは音割れをしながら私達の耳をつんざいてくる。

 そんな耐え難い音に気圧されながらも画面の方に視線を向けると、そこには何故か金属製の調理器具を両手に持ち、黒津木くん達を追いかけ回すトレーナーくんの姿があった。

 

 

『うっせぇッッ!!!テメェいつもいつも勝手に居なくなりやがってよォ!!!置いてかれる身にもなりやがれバカカスがァ!!!』

 

 

『あァ!!?置いてかれる方が悪いんだべやッッ!!!ガキじゃねぇんだ来てぇんだったらさっさと来いやタコライスがァ!!!』

 

 

『オメェそれお嬢に言えんのかよッッ!!!』

 

 

『人の話をッッ!!!持ち出すんじゃッッ!!!ねェェェェェッッッ!!!!!』

 

 

『アイテム使ってないのに!!!詠唱も唱えて無いし後ろにも回り込んでないのにッッ!!!』

 

 

全員「.........」

 

 

 修羅の如き勢いで、彼は三人を相手に豪快にそのおたまとフライ返しでタコ殴りにした挙句、白銀くんを焚き火の方へと投げ飛ばした。

 画面のすぐ近くでゴールドシップくんの慌てた声が聞こえた後、直ぐにこの動画は終了する。

 

 

 絶句。その言葉が一番この場の雰囲気に合っているのだろう。記者達も、乙名史記者も、シリウスくん達も、理事長も、そして私達もその動画を見て、突然の事で頭をショートさせていた。

 

 

 .........だが

 

 

マック「―――ぷふっ」

 

 

マック「くふふ.........!あははははは!!」

 

 

タキオン「!?ま、マックイーン、くん.........?」

 

 

 彼女だけがその動画を真剣に見て、そして笑い声を上げ始めた。目尻の涙を拭い、ひーひー言いながらお腹を抱え、まだ込み上げる笑いを堪え何とか息を整えようとしていた。

 

 

マック「も......もう.........この人はどうして.........どこに行っても滅茶苦茶なんですの.........?」

 

 

マック「.........こんな姿見せられたら、心配してるこっちがバカみたいじゃないですか.........ふふ」

 

 

マック「はぁぁ.........おかしい.........ふふふ」

 

 

 心配して損した。そんな言葉とは裏腹に、彼女は嬉しそうに動画を見直していた。先程とは少し感じ方の違う涙を貯め、鼻をすすりながら手の甲でそれを拭っている。

 その姿を見て、私は安心した。何故か、安心出来てしまったのだ。まだ彼の事を信じ切れていないこの状況で、私はホッと不安の霧を晴らす事が出来てしまった。

 

 

タキオン(.........そうか。このチームには主体性が無いと思っていたが、それは間違いだったようだ.........)

 

 

タキオン(このチームの中心が、彼と彼女だと.........無意識下では既に分かっていたんだね)

 

 

 何度も動画を見直しては、同じ場面で笑っているマックイーンくん。そんな彼女を囲んでいるチームメンバーはその姿を見て、心做しか嬉しそうにしていた。

 そしてかくいう私もその一人だ。騒がしい日常を満喫しようと思っていても、何か物足りない物を感じていた。そしてそれは、彼女の心からの笑顔と、彼女の暴走だった。

 

 

「.........そんな物が何だと言うんです?彼が辞めていない証拠にはなり得ないでしょう?」

 

 

タキオン「ああ忘れていたよ。だが済まないね。証拠はこうして、私の手に渡ってきたのだから.........」

 

 

「.........なんと」

 

 

タキオン「勿論私の感情論と言う訳じゃない。君達の様な真実や決まりを重んじる存在が納得出来る材料が今、こうして手に入った」

 

 

 そう言えばこの集まりは、彼がトレーナーを辞めているか居ないかの結論を出す物だった。彼女が幸せそうにしているからついつい忘れてしまっていたようだ。

 だがそれももう終わる。私はマックイーンくんに動画データを自分の携帯に送って貰い、もう一度その映像を良く見てみる。そこには確かに、[今もトレーナーである]と言う証拠が写っていた。

 

 

「それは大きく出ましたね。それで私達が納得出来なければ、どうなるのか.........分かっているのでしょう?」

 

 

タキオン「ああもちろん。証拠は一つだけ.........そのたった一つの証拠だけで―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この議論に決着を付けようじゃ無いか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BGM:追求〜追いつめられて

 

 

 目の前に居る男の姿を真っ直ぐと見つめる。先程までには無かった自分の中の確かな自信を感じている。たった一本の動画で。1分程の映像だけで、私は彼を信じる事が出来た。

 不思議な感覚だ。漠然とした自信が溢れ出してくる。身体が勝手に動き出し、口すらも私の言う事を効かない気さえしてくる。これが[勢い]という物だと察するには、それはあまりにもそのもの過ぎた。

 

 

タキオン(.........フフ、伊達に効能も知らない薬を数本一気に丸呑みする男じゃない訳だ。君とその親友達は、私の根幹すらズラしてくれて.........)

 

 

タキオン(一生恨むぞ?トレーナーくん。私をここまで変えた責任は、角砂糖一年分は軽すぎる。君と彼女の歩みの始終を見せてもらう事も条件に追加しよう.........その為には)

 

 

タキオン(.........[立証]する。これから先、彼が何の憂いも無く私達の傍に居られる為に.........!!!)

 

 

 決意を決め、私は覚悟をした。この映像一つで必ず、決着をつけて見せる。と。

 そしてタイミング良く、私の携帯にマックイーンくんから先程の動画のダウンロードが完了した通知が来る。私はポケットからそれを取り出し、記者達に見せる為に携帯の画面を見せ付けた。

 

 

タキオン「この映像は彼とその友人達のバカ騒ぎを収められている物だ。この映像に、君達を納得させられる物が存在している」

 

 

「ほう。ではそれを提示して貰いましょうか?それで納得出来なければ、この議論は終わりです。構いませんか?」

 

 

タキオン「ああ構わないよ。証拠は[一つ]だけだからね」ヤレヤレ

 

 

 私は先程までの手探りさを無くした口調でそう言い切った。すると記者達の幾人かはザワザワとし始め、少し焦りを見せ始める者もいた。きっと彼は辞めたという事で記事を書くつもりだったのだろう。

 確かに、それも仕方が無い。マックイーンくんの[繋靭帯炎]の発症。彼の彼女に対する入れ込み方は傍から見てもよく分かる。不治の病に犯されたとなれば、失意の中でそういう選択をするトレーナーも居るだろう。

 だが、彼の場合最早それは当てはまらない。トレーナーとしての責任がある。私達を最後まで見守る義務がある。それだけでは無い。

 

 

 彼は.........[未来]から託されたのだ。

 

 

 直接。彼女の辿り着けなかった筈の場所までの導きを.........

 

 

タキオン(さて。そうは言ったものの、あの映像を見たのは一度きり。どうやって彼が[辞めていない]という事実を解らせることができるのか.........)

 

 

タキオン(.........いや。違う)

 

 

タキオン([発想]を[逆転]させるんだ)

 

 

タキオン(彼は[辞めていない]のでは無く、彼はまだ[トレーナーである]という事を証明するんだ.........!!!)

 

 

タキオン(それが今、このアグネスタキオンに出来る可能性の全てだッッ!!!)

 

 

 自分の中で生まれた機転。恐らく一人ではここまで来るのに今以上の時間と苦労が掛かっただろう。だが私のトレーナーである彼とその周りの人間のお陰で、私はそれを今手にすることが出来た。

 一つの可能性を追い求める。今までそれに固執していた節が私にはあった。だがそれでは限界がある。いつか終わりが来てしまう。

 だがそれも、今こうして克服した。彼が[諦める事を諦めた]のならば、私は一つの可能性の為に[全て]の可能性を追い求める。無限に広がるそれを持ってして、多角的にそれを追求する。

 

 

タキオン(彼等を納得させる証拠。ならば確実に[アレ]しかない)

 

 

タキオン(これで納得出来ないのなら、私は潔く諦めよう。だが.........)

 

 

タキオン(人の夢を.........[私達の夢]が、そう簡単に終わると思わない事だ.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タキオンは[ユメマモリビト]になった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [U=ma2]

 Lv1→6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くらえっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........何故そこで動画を止めたのです?まだ20秒しか―――「十分だ」?」

 

 

タキオン「彼がアップで映っている。それだけの物があるなら、証明出来ると言ったんだ」チッチッチ

 

 

 男の手に渡った私の携帯を奪い取り、動画を止めてスクリーンショットを撮る。そして画像フォルダを起動させ、ある一部分を拡大させて彼等に見せ付けた。

 

 

タキオン「ここに何が[映っている]かな?」

 

 

「......[トレーナーバッジ].........?」

 

 

 彼等に証拠として突き付けた物。それは彼の服に付けられた[トレーナーバッジ]だった。これが彼が、今はまだ[トレーナーである]という証拠だ。

 しかし、往生際の悪い者達は確かに居る。男の後ろからそんな物は証拠にはならんと、暴論を叩き付ける者もいる。それを聞いて男は溜息を吐きながら、何故か気が進まない様子でそれを肯定した。

 

 

「.........確かに、[ファッション]で付けている可能性もあるかと思われますよ?トレーナーを辞めても、別に同じ様な物を付けていても不思議は.........」

 

 

タキオン「残念だけどそれは無いんだよ。理事長?貴女なら説得力のある説明が出来るだろう?」

 

 

やよい「.........トレセン学園を辞める者は、担当ウマ娘やその他生徒。職員とのトラブルを避ける為に年度いっぱいの業務を義務付けている」

 

 

やよい「.........だがッ!!その者達が辞めると決まった瞬間―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[トレーナーバッジ]は速やかに学園へ返却する事を義務付けられているッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記者達「な、何だって.........!!?」

 

 

 そう。この映像に写っている物こそ答えだ。真実そのものだ。何者にも覆されることの無い、絶対的な現実。それが今、彼自身の姿によって証明されることになった。

 視線の中心となった理事長は先程までの大人顔負けの静けさを払い、いつもの朗らかさと明快さを取り戻し、その表情で皆が見慣れた動きで扇子を音を立てて開いた。

 

 

やよい「此度の議論ッ!!内容は兎も角として実に良い経験となった!!彼の様な存在は初めて故、この様な事態を招く事になるとは思わなかったが、これからの制度改定の大きな足がかりとなった!!だが.........!!!」

 

 

やよい「―――決着ッッ!!!これでここに居る者達全員、ハッキリと突き付けられ、そして認めたという事だッッ!!!」

 

 

タキオン「そうとも。最早他の誰にも、これだけは否定は出来ない.........ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[桜木 玲皇]はッッ!!!ここ[トレセン学園]に所属する[トレーナー]であるとッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れのトレセン学園。校門からはぞろぞろと足並みを揃え、先程までたむろしていた記者達がこぞって帰って行く。

 その大半は肩を落とし、気分を悪くしながら帰って行く者達ばかりであったが、中には嬉しそうに、これから書く記事をどうするべきかを悩む者達も居た。

 

 

「.........」

 

 

タキオン「お疲れ様だね。[八木 天明]記者?」

 

 

 そんな中、未だ校門から出る事は無く、学園の敷地内で学園を見上げる男。[八木 天明]に労りの言葉を掛ける。

 突然自分の名前を呼ばれたら驚くだろうが、彼はそんな事を気にせず、私達の方へと振り返った。

 

 

八木「.........聞いたんですか?乙名史さんから」

 

 

マック「ええ。トレーナーさんが辞めたという噂が出始め、それを記事にすると言う記者達が出てくると言う予想を建てた貴方が、それを止める為にわざわざここまで足を運んだ、と」

 

 

乙名史「本当はもっと穏便に話を聞くだけだったのですが.........このやり方が良いと彼が聞かなくて.........」

 

 

八木「.........バカばっかりですよ。この業界。記者だからって自分の妄想、推測、何でも記事にして.........間違っていても文で謝るだけ。謝らない記者もいる」

 

 

 溜息を吐き、先程の議論の中で聞いてきた無機質な声ではなく、悲しげな声が彼から聞こえてくる。

 その姿を見て、マックイーンくん達とオペラオーくんは酷く同情した表情を見せ、シリウスくんとシャカールくんは納得する様に目を伏せた。

 

 

タキオン「.........君は、以前逮捕された[八木 宗明]の息子だろう?その、言い方は悪いかもしれないが、復讐とか考えなかったのかい?」

 

 

八木「まさか。昔こそ優秀で憧れだった記者ですけど、あの時の父は.........闇を見過ぎて、その身と周りを守る為に金の亡者となった悲しい男です。同情や虚しさはありますが、妥当だとは思っています」

 

 

 私とマックイーンくんは、彼の名前を初めて乙名史記者から聞いた際、もしやと思った。そしてそれを彼女に質問した。彼女は苦しそうな表情をしながらも、その首を縦に振った。

 人間は[繋がり]で生きている生物だ。例えそれが腐っていたとはしても、自分の親だったのなら仇を取るという行動に出ることは少なくない。

 だが彼はそれをせず、ただただトレーナーくんに対する根も葉もない噂を払拭する為に、わざわざ悪役に成り下がってここまでしてくれたのだ。

 

 

ライス「あ、あの!ありがとうございまひゅ!」

 

 

八木「へ?」

 

 

ライス「あ、え、えっと.........ライス達のおに.........トレーナーさんの為に、悪者さんみたいに.........なってくれて.........」

 

 

 礼を言いながら頭を下げた彼女は、その後人に聞こえない声量で噛んでしまったと恥ずかしそうに呟いた。

 そんな中、彼はその言葉を呆けて聞いていたが、次第にそれを理解し、その頭を横に振った。

 

 

八木「悪者になったつもりはありませんよ。フリーの記者は常に中立。真実だけを求めるのが仕事です」

 

 

八木「.........それにもし、悪者になるつもりがあったにしても、最初にそれを[彼]に強いたのは、私達ですから」

 

 

レグルス「!」

 

 

 それを言って彼は頭を下げ、何も言わずに校門の方へと向かって行った。それを見て乙名史記者も私達に頭を下げ、追い掛けるようにして学園を後にした。

 .........[彼]が悪者になる事を最初に強いた。その言葉を聞いて、私達チームメイトはライスくんが菊花賞に勝った時の事を思い出した。正確には、その後の記者会見の出来事。

 

 

 あの時、多くの人間がブルボンくんの三冠を願っていた。ライスくんの勝利を心の底から喜んでくれる人間なんて、きっとあの場に埋もれる位の数だっただろう。

 そして記者達はもれなく全員、ブルボンくんの勝利を願っていた。当たり前だ。[クラシック三冠バ]という称号。しかもテイオーくんの年に続いて[二年連続]。そのうえ[スプリンター]と来た。そうなれば記事は飛ぶように売れるだろう。

 それ以外は悪。それだけが正義だと言わんばかりの主張が推し通る中、彼は一人。中継されているにも関わらずその声を上げた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『冗談じゃねぇ.........ッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『子供に胸張ってその姿見せられんのかよッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつかどこかで彼から聞いた。[悪]と言うのは、正しい事や正しさの中では救われない人。若しくはそんな人が周りにいる人が足掻いた先に行き着く場所だと。

 そしてそれは、今ある多くの人々が平和だと言う中、そうでは無いと声を上げるという行為だと。

 

 

タキオン「.........本当。思い返せば簡単に信じられるというのに。私も大概頭が固いね」

 

 

ブルボン「仕方ありません。マスターの様な人は中々居ませんから」

 

 

ウララ「うん!!トレーナーってとっても面白い感じ!!」

 

 

 過去を思い出し、また彼の話をする。そうすることで姿は無いのに、まるで彼が近くに居るような感覚に陥る。そんな不思議な感覚が、なんだか心地良かった。

 

 

タキオン「.........さて、私も実験するネタも尽きてきた頃だし、明日からトレーニングに参加しようかねぇ」

 

 

シャカ「マジかよ.........オマエが参加すると面倒な事になンだろ。絶対」

 

 

デジ「いやいや!タキオンさんこう見えてもトレーナーさんの資料作りを担う位の力量は有りますよ!!きっとシャカールさん達のお役に立つはずです!!」

 

 

シリウス「.........それが長く続かねぇ為に、私は毎日神様にお祈りしてんだけどな」

 

 

 げんなりとした顔でそう呟くシリウスくん。そんな彼女の顔を見て、私達は不意に吹き出し、そのまま笑ってしまった。

 彼女達のお陰で、彼の居ない生活も案外何とかなるものだと実感した。こんなチーム[スピカ:レグルス]も、まぁ悪くは無い。

 

 

 .........だが、それでも。願わずには居られない。

 

 

タキオン(.........トレーナーくん。早く帰ってきたまえよ?)

 

 

タキオン(みんな。君の帰りを待ってるのだからね.........)

 

 

 遠い空を見上げながら、私は静かにそれを願う。彼の帰還を。彼の無事を。そして、彼女の脚が治る未来を.........

 

 

 夕暮れで沈み、その日色を茜色に溶かし込んで行く太陽から[彼]を連想させながら、私は.........いや、[私達]は、ささやかにそう祈り続けたのだった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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