山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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奇跡の境界線を飛び越えて

 

 

 

 

 

桜木「ビデオカメラ.........?」

 

 

 ゴールドシップからブっさんが受け取ったと言う紙袋の中から出てきたのは、俺の良く知るビデオカメラだった。

 それは俺がトレセン学園のトレーナーになった年に、講演会を行って欲しいと理事長に頼まれ急遽用意した六台分の内の一つだった。

 

 

ナリブ「試練を受ける前に見れば、必ず上手く行くって言っていた。あのトンチキが言う言葉だ。あまり宛にはしない方が良い」

 

 

 若干呆れの混ざった忠告を受けている中、俺はビデオの中身を流し見する。そこにはしっかり、俺が撮ってきた講演会の映像やゴールドシップの走行モーションが最初の方に映っていた。

 間違い無い。これはあのビデオカメラだ。それを知れただけで充分。宛にする根拠はある。

 

 

桜木「.........ゴールドシップはそんなヤツじゃないさ」

 

 

ナリブ「.........何?」

 

 

桜木「アイツはいつだって変な奴だ。けど、真面目に変な事してんだ。だったら俺は、アイツのその真面目さを信じてみるさ」

 

 

 それに目をやりながら、俺はそう言った。そして空になった紙袋とそれを持って、試練の場所へと移動する。

 

 

 一歩一歩を踏み締めながら、ここに来るまでの事を思い出す。まるで、これで終わると言うことが分かりきっているかのように、その足で強く前に進んで行く。

 

 

桜木(.........長かったなぁ、一ヶ月半かぁ)

 

 

 ここまで長らくの間、日本を感じなかった事は今までの人生は無かった。自分で決め、自分で進んだ道ではあったが、やはり寂しさと言うのは溢れ出してくるものだ。覚悟でどうこう出来る問題では無い。

 それでも俺は、俺達はここまで来ることが出来た。道無き道を切り開き、それでも人が通れるかどうかも分からない[獣道]を、歩き続けた。

 

 

桜木(.........あの子達も、レースの時はずっとこんな感覚なのかな)

 

 

 誰が勝つかも分からない。レースと言うのは実力勝負ではあるが、それがひっくり返る事すらある。正に道無き道。[獣道]だ。

 その日の為にする事は、先人達が編み出したり見つけたりした物を活用し、決められた道筋を辿って目的地まで向かう。それは、タイムだったり、距離適性が伸びたりと明確に見える位置にある。

 それをした上で、レースは始まる。どんな鍛錬を積んでも、どんなに道を進んでも、例え自分なりの地図を手に持とうとも、ゲートに入った瞬間に、ゴールも道順も定かじゃ無くなる。

 

 

 そして今の俺は、正にゲート入りを果たしたウマ娘に等しい状態。つまり、試練のスイッチの前に立つ一人のトレーナーだった。

 

 

桜木「さてと.........そんじゃ、罰当たりな気もするけど、お守りの中身を覗いちゃおうかな?」

 

 

 お待ちかねのビデオを閲覧する為に、一番古い履歴にまで遡った物を上へとスクロールさせる。

 そして一番初めに送られてきたテイオー達の動画が目に付いた所から一つ一つ、見直して行くことにした。

 

 

『桜木トレーナー!頑張って.........って言わなくても、そうしますよね?』

 

 

『お土産楽しみにしてるぞー!!』

 

 

『ちょっと古賀さん!!?流石にそれは場違い過ぎますって!!悪いマックイーン!これNGな!』

 

 

 一つ一つ見ていると、それこそ送られて来ていない動画が沢山あった。上手く言葉が伝えられない者。雰囲気を掴みきれずにふざけ倒してしまう者。

 特にタマモクロスなんかは、ウルフルズの[ええねん]を俺とマックイーンになぞらえて替え歌して歌ってくれた。歌っていた時は良かったが、歌い終わったと同時にやっぱ無しと言っていた為、それが送られてくることは無かった。

 

 

桜木「いいもん見れたなぁ、帰ったらからかってやろうか」

 

 

 ニヤニヤとしながら歌っている最中、どんどん顔を赤くさせていくタマモクロスの表情を見る。コーラスにオグリキャップやスーパークリーク。そしてイナリワンまで呼んできた筈だが、それが帰って恥ずかしさを助長させているのだろう。

 

 

 そんな色々の理由が詰まって送られてこなかったビデオが沢山ある。本人達は送られるかもしれないと思っていたかもしれないが、マックイーンはそんな事をできる子じゃない。

 いつだって真面目で、けれど本当はどこか抜けていて、それでも抜けないよう、必死に自分を律している.........強い子なんだ。

 

 

桜木(.........そんな君だから、俺もここまで頑張れるんだな。きっと)

 

 

 どこまでも真っ直ぐで、純粋で、そして才能が中心にならないくらい個性的で.........そしてそれを恥ずかしがって隠そうとしてしまう。そんな彼女が.........マックイーンが、俺は好きだ。

 人からの理想像になる為に、自分の立つ場所に相応しい者になる為に、ひたすらに努力をする彼女。そんな彼女の為に俺は、今ここに立っている。

 

 

 きっと、他に適任が居たかも知れない。

 

 

 そりゃ、白銀とかだったら簡単に終わらせられたかもしれないさ。こんな試練。

 

 

 けれどここは.........俺の[特等席]で.........

 

 

 俺の.........[居たい場所]なんだ。

 

 

桜木(.........最後の動画か。ちょっと真っ暗で何か分からないけど.........)

 

 

 多くの人から、応援された。期待された。労られた。そんな動画のサムネイルには決まって、色んな人の笑顔がそこにあった。

 けれど、そこにそんな顔は無い。真っ暗闇で、何も想像出来ない動画の存在が一番上にポツンと存在している。

 一体.........何が映っているのだろうか。責めて心霊系の類では無いことを祈りながら、俺は震える指でそれを選択し、再生させた。

 

 

『あっ.........えっ、と.........』

 

 

桜木「っ、マックイーン.........」

 

 

 戸惑いの強い掠れた声が耳に聞こえてくる。その声だけで、彼女であると俺は直ぐに分かった。

 そこから俺は、先程まで要らぬ心配をして半目にしていた目をしっかり開き、食い入るように画面を見つめる。

 そこから暫くの静寂の後、ゆっくりとカメラのシャッターが移動し、薄暗い部屋の中の彼女の姿が見えた。

 

 

『.........トレーナーさん』

 

 

『.........こ、こうして一人でビデオを送るのは、初めて.........ですわよね?』

 

 

『えっと、そ、そう!最近はようやくトレーナーさんの居ない生活にも慣れてきましたわ!』

 

 

『皆さん、私も含めて最初は大変でしたが、自分達にできる事をしようって、貴方が居ないなりに.........成長しようとしてるんです』

 

 

『あっ、それとあの紙!!手紙と一緒に入ってた退職届ですけど!!!もうありませんからね!!!タキオンさんがビリビリに破いてしまいましたから!!!』

 

 

『だから貴方の選択肢は帰ってくる事だけです!!それだけは肝に銘じておいて下さいまし!!!』

 

 

『それから!!!』

 

 

桜木(あはは.........元気だなぁ.........本当に目の前で怒られてるみたいだ.........?)

 

 

 薄暗い画面の中、まるで俺が目の前にいるかのようにコロコロと表情を変え、声の調子も段々ヒートアップを見せて来るマックイーン。

 だが、その様子が途端にピタッと静かになった。それまで苦笑いをして心に若干痛みを負っていた俺だったが、不意に静かになった彼女を思い、その画面を静かに見つめた。

 

 

『.........それから』

 

 

『.........っ、ダメ、ですわね.........ビデオですもの。責めていつも通りの姿を見せられたら.........なんて、思ってましたのに.........』

 

 

『.........グス......でも、無理でしたわ.........』

 

 

桜木「.........!」

 

 

 ポタリ。雫がレンズに跳ねて映像が不鮮明になる。薄くぼやけたその向こう側で、彼女は目に涙を貯めながら、悲しげな表情で.........それでも笑顔を、俺に向けてくれていた。

 

 

『.........帰って来てください』

 

 

『寂しいんです.........苦しいんです.........』

 

 

『貴方の居ない毎日が.........当たり前になって行って.........貴方の居た毎日が.........当たり前じゃ無くなっていくのが.........とても.........耐えられません.........!!!』

 

 

『貴方がくれた物が毎日.........一つずつ無くなっていくんです.........!日常も、思い出の色も、言葉も.........!!!』

 

 

『だから早く.........帰ってきてください.........!!!』

 

 

『貴方が居ないと私はっっ―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[強がる]事すら出来ないんです.........ッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲しみの音色が耳に響いて来る。その悲しみが俺の胸に直接、突き刺さってくる。こんなにも、遠く離れていて、この映像も過去のものだと言うのに.........

 

 

 彼女がどれだけ苦しんでいるのかは、分からない。その足の痛みも、分かってやれない。

 

 

 けれど、そんな分かってやれない悔しさよりも強く.........

 

 

桜木「.........っ、マック、イーン.........」

 

 

桜木「マックっ.........イーン.........!!!」

 

 

 悲しみだけは、傍に居られない悲しみだけは、自分勝手に理解出来た。彼女の涙と重なり合うように、液晶に俺の涙が雫となって落ちていく。

 今すぐにでも会いたい。安心させたい。抱きしめたい。謝りたい。そんな思いが渦巻いて、やがて悲しみは.........覚悟に変わって行った。

 

 

 マックイーンの撮った映像は終わり、俺は静かにビデオを閉じた。そしてそのまま、元通り紙袋の中へとしまい込む。

 

 

桜木「.........決まったよ。帰ってから言う言葉」

 

 

『.........?』

 

 

桜木「.........まずは、[あけましておめでとう]から言う」

 

 

『!フフ、そうね。まだ新年の挨拶も.........済んでないものね』

 

 

 ポケットに入れていた[王冠のアクセサリー]を取り出し、静かに語り掛ける。それに反応する様に、彼女は笑って応えてくれる。

 そうだ。全てはここからだ。もう一度ここから.........やり直せる。ここを乗り越えれば、俺はあの子に会える。あの子達に、会える.........

 

 

桜木「.........ホント、ありがとうな」

 

 

 それを握りしめて、俺は始まりの場所に立たせてくれた一人の[ウマ娘]に感謝をした。彼女が居なければ.........俺はここに立つどころか、最初のスタート地点にすら居なかった。

 これは[EXルート]だ。本来あるはずの無い、あってはならないかもしれない、一人の[男]によってこじ開けられた未知の世界。誰にも分からない。神様にだって予測の出来ない結末のあるルートだ。

 .........だったら俺は、誰にも辿り着けない。俺一人でも辿り着かない場所を目指す。悲しみも苦しみも、全て受け入れて笑える[最高の場所(ハッピーエンド)]を.........

 

 

 首に下げていたネックレスの金具を外し、自分の王冠を見る。手入れもしていないせいで、最初にあった輝きはとっくのとうに失われているそれの隣に、[泥だらけの王冠]を付け合せる。

 これで一つ。これで一人。そして二つ。そして[一心同体]。誰になんと言われようとも、俺達がどんなに離れようとも.........それは変わらない。

 

 

 世界には[強い人]が沢山居る。最初から強い奴も居ると思うが、 それは本当にひと握りだ。大抵の人は、[強がる]事で強くなって行く。

 

 

 [勝ちたい]という[強がり]で成り上がる奴らが居る。俗に言う王道タイプだ。その強い一つの意思は、真っ直ぐと直線上に伸びて行って、最短距離を駆け上って行く。

 俺は昔から飽き性だ。一つの事に執着出来る事なんてそんなに無い。だから、そんな勝ちたい一心で頑張る白銀を見て、羨ましいと思ったことすらある。

 

 

 [負けたくない]という[強がり]で這い上がる奴らが居る。こっちは最初に負け続けたタイプだ。その取り憑かれたような執念がいつしか、誰にも見せられない瞬間を見せる時がある。

 俺は諦めが良い。自分の夢がダメになった瞬間終わりを悟るくらいだ。だから、いくら周りと差がついたとしても続ける事のできる神威を、凄いなと尊敬した事もある。

 

 

 [強くなりたい]という[強がり]で立ち上がる奴らが居る。これは最初っから強いタイプだ。センスや素質はあるけどやる気が無く、けれどそうと決めた途端、メキメキと力をつけて行く。

 俺は弱い。物覚えも器用さも無いから、最初から何かが得意だった覚えがない。だから、少し本気を出せば何でも出来てしまう黒津木に、嫉妬していた時代もあった。

 

 

 だったら俺は、どうやって[強がる]?

 

 

 何をしたら、何を思えば、[強がる]事が出来る?

 

 

 自分の勝ち負けだとか、成長とかには興味が無い。一喜一憂はすれども、結局はどこかで飽きが回る。

 

 

 けれど俺は、ここまで来ることが出来た。ここに来るまで、[強がる]事が出来た。そう出来た理由は.........今にして思えば、至極簡単なことだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [誰かの為に強がる]。今までそうやって、本来の自分に仮面をしてまで、強がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが分かったのなら、もう見失わない。無くすことも無い。俺の強がりは誰かの為で、俺自身に何の影響も及ぼさない。でもそれで良い。

 この[強がり]が.........あの子を救えるのなら.........!!!

 

 

桜木「サンキュー.........!ゴールドシップッッ!!!」

 

 

 長い道のりだった。自分の事に気付くのに、一体どれだけの年月を費やして来たのだろう?もう二十代も三年で終わると言うのに.........

 そんな自分に呆れを抱きながらも、それに気付かせてくれた。そしてそれを気付かせてくれた人達に出会わせてくれた、俺にとっての[始まり]である彼女に、感謝を伝える。

 

 

 そしてその勢いのまま、俺は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度昼飯奢らせろ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面のスイッチを、渾身の力で踏み抜いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天井が開き、桜木を目掛けて一つ目の丸太が弧を描きながら自らの重さと重力の力。そして括り付けられた縄によって向かって行く。

 それに対して桜木は変わらず、脚を開いて立ち、両手を前にして構えを取って迎え撃とうとしていた。

 

 

桜木「―――っ、グギィッッ!!!」

 

 

ナリブ「一つ目は受け止めたぞ!!!」

 

 

主治医「あと二つです!!!」

 

 

爺や「桜木様.........!!!」

 

 

 手に汗握る、とは正にこの事だろう。ただの人間である桜木が、私達ウマ娘と何ら遜色ない試練を受けている。それだけでも異常だと言うのに、目の前の男はそれを止めて見せた。

 

 

 残るは.........あと二つ.........

 

 

 

 

 

『行くわよッッ!!!力を入れるタイミングを間違えないでね!!!』

 

 

桜木「わァっ.........てるよッッ!!!」

 

 

 ―――彼の肩に触れながら、力の使い方のレシピを送る。今の彼ならば、二つ目の丸太は受け止める事が出来る。

 けれど、それもギリギリ.........それを受け止めた所で、最後の丸太は止められるかどうか定かじゃない.........

 

 

 けれど彼なら.........

 

 

 [奇跡]を超えると言った.........[桜木 玲皇]なら.........!!!

 

 

桜木「こな.........クッッッソォォォォッッッ!!!!!」

 

 

エディ「.........二つ目も受け止めたか」

 

 

ルビィ「お願い.........!止まって.........!!!」

 

 

 周りの人達が祈る中、彼は汚い言葉を吐き散らしながらレシピ通りに力を込める。そうする事によって、彼一人でやるよりも体力の消耗が幾分か抑える事が出来た。

 人々の祈りが力になる.........この世界では、それがまかり通っている。だったら私も.........それに賭ける.........!!!

 

 

 残るは.........あと一つ.........!!!

 

 

 

 

 

 ―――桜の木が満開に咲く中で、ため息を吐いた。存外ここでの生活も悪くは無いと思っていたが、暫くはこの景色ともお別れしなければ行けないらしい。

 

 

「まっ、コイツは長く咲き過ぎだな。お陰で他の桜がちぃ〜っとも咲きやしねぇ」

 

 

「ここはよ。[桜]は[桜]らしく、派手に舞い散る桜吹雪と行こうじゃねぇの」

 

 

 巨大な大木の幹に触れる。時間が経っても衰えを感じさせない生命力の裏に、僅かながら疲れを感じ取る。

 コイツも咲き疲れている。そりゃそうだ。年中咲いてる桜なんて、特別感が無くてちっとも面白く無い。

 面倒臭がりの自分を奮い立たせる為に頭を掻き、やる気を入れる。今はまだ見ぬ多くの[桜]を見届ける為に、少し派手目な[仮面]を被る。

 

 

「花は[桜木]男も[桜木]ッッ!!!」

 

 

「名も無き役者の大立ち回りッッ!!!」

 

 

「知らぬ存ぜぬで見ぬは損損っ、ここで踊りしは演目最終公ッッ!!!」

 

 

「[桜木仮面物語]ッッ!!!これにて堂々、あっ!!!かんんんんん結なりィィィィィッッッ!!!!!」

 

 

 飛んで振り返りながら大見得を切る。地面に両足を着けた後、両の手のひらを前に見せて首を大きく回す。

 桜の木の葉が落ちて来る。ひらりひらりと舞い落ちる。次の[桜]がいつ咲くのか、それは誰にも分からない。

 分からないからこそ、人は[桜]を待ち焦がれる。春が来れば、必ず人の心に[桜]は咲く。

 だから今は.........枯らさなければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さぁっ、綺麗さっぱり、桜吹雪と行こうじゃねぇの.........ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉が聞こえたのか、桜の花弁が一気に散っていく。それがそれぞれまるで動きをプログラミングされているかのように、形を作りながら地面へと潜り込んで行く。

 そう、その形は正に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今は無き、[鎖]の力だった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「な.........!!?」」」

 

 

 

 

 

 ―――現世から隔離された平原。大穴に映る彼の姿を見て、俺達三女神は違わず同じ驚きの表情をした。

 その理由は.........彼から預かったはずの力が今、その姿を見ただけで分かるほどに感じ取れてしまっているからだ。

 

 

ターク「どういう事だッッ!!![共鳴]の力は私達が預かっているだろう!!?」

 

 

ダーレー「そんな事は分かっているッッ!!!一体何が.........!!?」

 

 

ゴド「みんな、一旦落ち着きましょう?王子様。何か分かるかしら?」

 

 

 噛み付くような勢いで疑問を飛ばしてくるタークに合わせるように答えてしまったせいで、危うく喧嘩になりかける。それを焦りつつも間に入って仲裁するゴドルフィン。

 そしてその疑問の矛先は、長らく彼の中で眠っていた[白馬の王子]に向けられた。

 

 

レックス「.........これは仮説だけど」

 

 

レックス「彼が元々持っていた物が、[共鳴]では無かったら.........?」

 

 

三人「え.........?」

 

 

 有り得ない。そんな事、有り得るはずがない。あの類の力はそんな単純なものでは無いんだ。

 本来ならばそれこそ、人間が持てる寿命で得られる力じゃない。目の前の王子だって、シロ様がウマ娘として転生し、傍に居る影響で発現したものだ。

 そんな彼がどうやって[二つ]も.........?

 

 

ダーレー「.........まさか、[夢]か!!?」

 

 

二人「!!?」

 

 

レックス「そうだね。シロは僕より前から夢として彼に接触していた。遠いようで近いその空間が、作用したのかも知れない.........」

 

 

 それならば幾らか辻褄は合う。夢の空間は心の中で形成され、そこに触れるということは、その心の持ち主に良くも悪くも、大きく影響を与える.........

 だが、一番重要なのはそこでは無い。もっと根本的なものだ.........それは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故一番[強く感じた]力が、[共鳴]では無かったのか.........?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ターク「ーーー!!!では私達が預かったこれはッッ!!!一体なんだと言うのだッッ!!!」

 

 

ゴド「っ!!?ターク!!?何をして.........っ!!?」

 

 

 何が何だか分からなくなったタークが遂に手を振りあげ、彼から預かったその力を発現させる。

 眩い光が走り、そのあまりの眩しさに俺達は目を守る為に咄嗟に目を背けた。

 

 

 それでも、感じている。強い力を.........

 

 

 そのタークの手に宿った、[得体の知れない]力を、感じ取っている.........

 

 

ターク「な.........なんだこれは.........?」

 

 

ダーレー「?.........っ、それは.........」

 

 

ゴド「く、[鎖].........?」

 

 

 眩い光が消え、最初にそれを見たのはターク自身だった。その気味の悪さを嫌という程感じさせる声色に恐れつつも、俺達もそれに釣られるようにそれを見る。

 それは[鎖]だった。彼女の手に強く巻き付き、まるで離すことは無いと言うほど強く巻かれたそれに、私達も強く恐怖心を抱く。

 

 

 こんな.........こんな力が、あの青年に.........?

 

 

レックス「.........そうか、これが彼の本来の力が、[変質]した物か.........!!!」

 

 

三人「へ、変質.........?」

 

 

 変質した物。それを聞いた俺達は訳が分からなくなってお互いの顔を見合せた。それでも、誰もその答えを知るどころか、予想することすらもできやしない。

 そんな俺達を見かねて、王子は少し苦笑いを浮かべながら説明してくれた。

 

 

レックス「この力が目覚めた時、彼の精神状態は過去最悪だったからね.........こうなってもおかしくは無い.........けど」

 

 

レックス「これが彼の本来持っている力.........[人と人を繋ぐ力]だよ」

 

 

ダーレー「[繋ぐ].........力.........」

 

 

 王子から聞いた言葉は、今まで俺達が作り上げた力とは似てはいるが、全く別の物だった。その言葉を聞いて、ゆっくりとそれがどんなものかを噛み砕き、言葉として仮定して行く。

 

 

 俺の持つ力は[共鳴]。親なる者達と心を活気付けさせ、一時の軽い興奮状態になる力。

 

 

 ゴドルフィンの持つ力は[共有]。親なる者達と心を通わせ、その者達同士のインスピレーションを感覚的に交換する。

 

 

 タークの持つ力は[共振]。親なる者達と心を震わせ、同じ思いを強く感じさせる。

 

 

 それらとは似ている様で、全く違う。この力が本来の姿だったのなら、恐らく.........

 

 

 まだ見ぬ者達と心から触れ合い、共に歩もうとする意思力.........倒れそうになった時、お互いが支え合える程の強固な絆を結ぶ事の出来る力.........そう、正に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [共生(強制)]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [共に生きる]為に繋がり合う。けれどその力は、生きとし生けるもの全てに宿っている。それが強く発現する事など、本来は有り得ない。

 だがこうして、今目の前でそれが[鎖]として姿を現している。誰にでもある力が姿を見せたとして、それがどうしてここまで強くあれるのか.........俺達には理解が出来なかった。

 

 

「何らおかしいことは無いわ」

 

 

レックス「あっ、シロ」

 

 

 そこで俺達の輪の中に、今の今まで遠くで空を見上げていたシロ様が会話の中に入ってくる。

 表情一つ変えることも無く、シロ様はタークの鎖が巻きついている手に優しく触れた。

 

 

シロ「全ての物は結び付く。人も、物質も、物語でさえも、切っても切れない[鎖]の様に、何かを見つければ巻き付き、しがらみとなる」

 

 

シロ「けれどそれだけじゃ[終われない]。これは[始まる]為の力」

 

 

シロ「この力は、心と心を結び付ける物よ」

 

 

 そう言いながら、シロ様は大穴をのぞき込む。その顔は俺達がこの空間の中では見たことが無いほど、嬉しそうな笑みをしていた。

 

 

シロ「.........ホント、いつも驚かされるわね。彼には.........」

 

 

 

 

 

(っ、何よこれ.........!!?)

 

 

 ―――彼の背中から[鎖]が伸び、私の胸の中へと潜り込んで行く。それが何なのか戸惑いながらも、彼との結び付きがより強くなった事を実感した。

 

 

 けれど、それだけじゃ意味が無い。結び付くだけじゃ、これを乗り越える事は出来ない.........

 

 

桜木(ちょっと良いかッッ!!!)

 

 

(!!?)

 

 

 彼の心の声が直接、胸に響いてくる。それに驚きつつも、私はその声に次の衝撃を迎える策があると察し、彼の次の言葉を待った。

 

 

桜木(多分だけどさ!!次の奴ってこれやっても止められないでしょ!!!)

 

 

(っ、そうね。無理だと思うわ)

 

 

桜木(だったらさ!!!ちょっとダメ元かもしれないけど―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――[あの子]の知識を俺に貸してくれる事って出来る!!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ.........!!?』

 

 

桜木(どうかな!!?)

 

 

 彼からの唐突な提案に、私は思わず驚いてしまった。そこでなぜあの子が出てくるのか、私には理解が出来なかった。

 そんな私の困惑を感じたのか、彼は思考スピードを高めて伝えて来てくれた。

 

 

桜木(一度マックイーンと腕相撲した事があるんだ!!!あの時あの子に一勝も出来なかったけど!!!一切力を入れてる様子は無かった!!!)

 

 

『た、確かにそれなら.........けど』

 

 

 その話を聞いて、納得すること自体は出来た。けれど、それを実行に移せるかは話が別だった。

 私が彼に送り込んでいたのは私の持つ情報。果たしてそれ以外の物が送れるのかどうか.........

 

 

(大丈夫よ)

 

 

(っ!!?ゴドルフィン.........!!?)

 

 

 突然、頭の中に声が響いて来る。その声は私に[共有]の力を目覚めさせた張本人。ゴドルフィンバルブだった。

 いきなりの事が多すぎて頭がこんがらがりそうだったけど、何とか混乱する事無く、今は冷静に彼女の声に耳を傾ける事が出来た。

 

 

ゴド(良い?その力は自分の情報だけじゃなく、他者から他者へ情報を与える事も出来るわ)

 

 

ゴド(それが出来るのは、絆を深めた者達だけ.........今の貴女ならきっと、それが出来るはずよ?)

 

 

(今の.........私なら.........)

 

 

 彼女からのお墨付きを貰い、不安は幾らか消えた。今はその言葉を信じ、やるしか無い。

 私は息を整え、もう一度彼の肩に触れる。意識を心の奥底に集中させ、彼女の持つ技術.........そのレシピを心の奥底から探す。

 

 

『良い?この技は相手を倒す為じゃなく、自分の身を守る為の物よ?』

 

 

『え?難しい?ふふ、当たり前よ。ママも体得するのに時間が掛かったもの』

 

 

『けど、マックちゃんなら出来るわ。だって貴女は.........ママの娘ですもの』

 

 

(っ、見えた.........!!!)

 

 

 一つの可能性。砂漠に落ちた時計の針。自らキラリと光を放ってくれたそれに好機を見つけ、私はそれに強く手を伸ばす。

 後はこれを彼に送るだけ.........その記憶を手に握り、胸に置いて思いを込める。

 

 

(お願い.........届いて.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[共有リンク]が発動している.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ッッ!!!ズゥァァァァアアアッッッ!!!!!」

 

 

 ―――天啓が舞い降りたかのように、一連の動きが頭の中で再生される。それを再現する事が出来れば、この試練を乗り越える事が出来る.........

 だが、今の状態ではそれは難しい。そう思った俺は、一度受け止めた丸太を思い切り前へと突き放し、短時間の猶予を作り上げた。

 

 

桜木(足の向きは前にッッ!!!縦に並ばせるッッ!!!)

 

 

桜木(受け止める手も縦に変えてッッ!!!重心を深く下げるッッ!!!)

 

 

桜木(呼吸はッッ!!!自然の流れと一体にッッッ!!!!!)

 

 

 

 

 

爺や「.........!!!あ、アレはまさか.........!!?」

 

 

エディ「?どうした?」

 

 

 ―――青年の動きを見た執事が、目を見開きながらそれの意味を察する。私の問い掛けに反応し、戸惑いつつも彼はそれがなんなのか、分かり易く解説し始めた。

 

 

爺や「メジロ家には古くから、長期戦を主体とした[武術]がありました」

 

 

爺や「そこから現代に合わせて発展を遂げ、今では派生としてその流れを汲む[護身術]が存在致します」

 

 

爺や「あの動きは正しく.........[メジロ護身術].........!!!」

 

 

 そう言われて見れば、確かに先程までのがむしゃらさは感じられない。的確な力の入れどころとその呼吸音がそれを物語っている。

 だが、何ら不思議な事は無い。彼がそれを習っていた可能性もある。メジロのウマ娘のトレーナーなら、よくある話だと思っていた。

 だが.........

 

 

主治医「あの技は現在、体得難度が非常に高い為に使える者は限られています」

 

 

主治医「完璧に実行出来るのは.........ティターン様とマックイーンお嬢様以外他に居ません.........!!!」

 

 

エディ「なに?.........っ!!?」

 

 

 まさかそんな博打を、彼はこんな土壇場でやってのけようとしているのか?越えられない壁に当たり、僅かな可能性に賭けたのだろう。何とも、胸が苦しくなる状況だ。

 

 

 そんな哀れみを抱き、私は彼の姿をもう一度見た。そして、この目を疑った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(誰だ.........!!?あの[芦毛のウマ娘]は.........!!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この目には確かに、その姿が写っていた。平均的な身長に細い手足、薄い藤色の長く整った髪。そして耳の先にある黒い毛先。そんな細かな所までが、今私の目に写っている.........

 そんな体験など長い人生の中で初めてだった。強い衝撃を受けながらも、私はその光景から目を離す事が出来ずに居た.........

 

 

 

 

 

桜木(.........寂しいなぁ)

 

 

 ―――構えを取る中、俺の心の意識は試練にでは無く、その隣に置いてくれている心に触れていた。

 彼女の動きを真似しているせいか、心が近くに感じる気がする。けれど、気のせいじゃない。彼女の動きという[虚像]の一部を作り出したことによって、[実像]の一部がハッキリとしてきている。

 

 

桜木(そうだよなぁ.........辛いよなぁ.........)

 

 

 遥かに長い旅路だった。けれどその中で、あの子の事を忘れた事は一度もない。そしてそれは多分、あの子も同じだと思う。そう.........思いたい。

 辛かった。苦しかった。寂しかった。そんな感情のでこぼこ道。正に[山あり谷あり]の日々。それを必死に歯を食いしばり、多くを表情にはせず、その道をひたすら進んで行く。

 

 その先に、必ず居る。

 

 

 必ず待ってくれている。

 

 

 確証は無い。確信も無い。

 

 

 けれど、俺にはそれを信じられるだけの、[言葉]がある.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[奇跡]を超えてください。トレーナーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は.........いつまでも待っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺には.........待っていてくれる人が居る。

 

 

 待っていてくれる、人達が居る。

 

 

 その人達との[繋がり]で.........俺はようやく、[強がる]事が出来るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強く前に押し出した二つの丸太に最後の丸太が当たり、強い衝撃音が響き渡る。それと同時に、先程よりも強い推進力でその壁が、俺の前へと迫ってくる。

 

 

桜木「.........なぁ、見ててくれよ。みんな」

 

 

桜木「今の俺は――――いや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[今までも]、そして[これから]も[俺達は]ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[奇跡]だってッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「越えて行くんだァァァァ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――誰もが一度は、無理だと諦める事がある。

 

 

 絶体絶命のピンチ。壁に追いやられ、崖際まで追い詰められ、見ている人はそれがエンターテイメント出ない限り、その先を勝手に想像して完結させる。

 

 

 そんな時、[奇跡]などは到底起こりはしない。人々の願いによって成り立つそれは、願われなければ起こりはしない。

 

 

 それでも、[奇跡]を信じられなくても、その人を信じる心が一つ、有るだけで―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[奇跡の境界線]は、[飛び越え]られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [共鳴リンク]が発動している.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナリブ「桜木ッッッ!!!!!」

 

 

 ―――放物線を描いたその丸太が桜木に触れる。メジロの従者達が言っていた通りの技なら、私はそれを受け止められると思っていた。

 

 

 だが、現実は違った.........

 

 

 桜木の身体は、今まで受けて来た試練の中で大きく跳ね上がり、その身体を宙へと舞わせた。

 

 

 このままでは、後ろの川まで行ってしまう。そう思った私はこの場にいる誰よりも先に身体を動かし、あの男を助けようとした。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピーッ、ピーッ、ピーッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な電子音が鳴り響く。突然の事で私の前進は止まり、その音の発生源を探してしまった。

 辺りを見渡し、その音が強く発生する部分に目を向ける。するとそこには.........

 

 

主治医「ま.........丸太が.........」

 

 

ナリブ「とまっ.........た.........!!?」

 

 

 そこには.........先程の動きなど最初からしていなかったとでも言うように一ミリも動かない丸太達が居た。普通に受け止めるのならこんな事はありはしない。

 それを見て私達は、何とも言えない開放感に襲われた。これで終わったのだと。これで.........帰れるのだと。

 

 

爺や「っ.........お嬢様.........!!!」

 

 

爺や「桜木様は.........!!!貴女様の[トレーナー]はッッ!!!打ち勝ってくれました.........!!!」

 

 

 両膝を着き、感動のまま涙を流すメジロの従者。その顔を片手で覆い、静かに涙を流している。

 

 

 しかし、私はそこでハッとする。ここに居るべき人間が居ない。あまりの出来事に忘れていた現実を思い出し、私は急いで桜木が飛ばされた方向に振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドボンと音を響かせた後、身体が沈んで行く。息の出来ない苦しさと身体に染みる冷たさがとてつもなく居心地悪い。

 ここはどこだろう?俺は.........あぁ、そっか。吹っ飛ばされたんだ。あの丸太に.........

 

 

桜木(ははは.........すげぇなぁ、ホント.........)

 

 

桜木(こんな事まで出来ちゃうんだなぁ.........マックイーンは.........)

 

 

 相手からの力を全て利用し、それを完全に殺しながら自分の力に転じる。正直真似が得意な俺でも、今度同じ事をやれと言われてしまったら、きっと何も再現されていない動きになるだろう.........

 それに、身体にもう力が入らない。水から浮かび上がる為の動きも、出来そうにない。こう見えても泳ぐのは、得意な方なんだけど.........

 

 

桜木(.........いやいや、これでもいいじゃない?万々歳よ.........)

 

 

桜木(あの子が.........あの子達の日常が戻るなら.........それで―――)

 

 

 まるで何かに引き寄せられるように、深い深い水の底へと向かって行く。それでも良い。それが代償となるならば、俺は喜んで受け入れよう.........

 そんな考えを頭に過ぎらせていると、不意に視界から水面で乱反射して届いてくる太陽の光が遮られるのを瞼の裏で感じ取った。

 

 

 光が背景となり、影がシルエットとなる。その形は正に、人の[手]だった。

 

 

桜木(.........何がそれで良い、だ)

 

 

桜木(ようやく、始まったんじゃねぇか.........)

 

 

 長い長い、プロローグだった。ここに来るまでに張り巡らされた物語。それを顕にしてようやく今、本編が始まろうとしている。

 それを見ずして何が人間か。人の結末は人によって変えられる。俺の終わりはここじゃない。ここで離脱するのだけは、有り得ない。

 

 

 目を開けず、その手が誰のものかも定かじゃない。もがくと言うには余りにも力の無い動きだったが、俺は確かに、自分の手をその影の方に伸ばした。

 

 

桜木(.........帰ろう、日本に)

 

 

 

 

 

 ―――世界の真実。数多の試練。時空を超えた邂逅。物語に置いて面白い要素が詰め込まれていた出来事の連続であったが、桜木はそんな物を望んでいない。

 

 

 望んだものはただ一つ。[奇跡]を超えた大団円。ただそれだけを追い求める男にとって、真実や栄光。そして未来の事など些細な事であり、そしてそれは[奇跡]に対しても同じだった。

 

 

 これから始まる[物語]

 

 

 ここから始まる[大レース]

 

 

 その結末を見届ける為に、手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 夕日の広がる遠くの空。太陽を背にした芦毛のウマ娘を、男は月を背景にタープの上でその瞳に映した。

 

 

 ここから始まるのは、ただの[奇跡]で語れる物では無い。誰もが熱狂し、歓喜し、そして待ち侘びていた。

 

 

 [信じる]事で紡がれる逆転劇。そう、それこそが.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [山あり谷ありウマ娘(奇跡を超える物語)]であるのだから.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

第五部︎︎ㅤ夢覚め人編ㅤ―――完―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春の風が吹き始める三月。トレセン学園の生徒やトレーナー達も春に開催される多くのG1に向けて精を出す時期だ。

 テレビのニュースでは[桜]の開花時期を予想する番組も多くなり、私が愛飲するファーストフラッシュの茶葉もそろそろ収穫される頃だろう。

 

 

タキオン「.........」

 

 

 .........だと言うのに、[未だ]に彼は帰って来ない。居なくなってから[二ヶ月]も経つと言うのに、一向に帰ってくる気配さえ無い。

 だが実際、驚く程に彼が居ない事で起きるあまり弊害は無かった。トレーニングも東くんがしてくれるし、私達のストレス解消もシリウスくん達が担ってくれている。

 一つ、問題があるとするならば.........

 

 

デジ「あ、あの.........マックイーンさん?」

 

 

マック「?はい.........?」

 

 

デジ「なんか最近、痩せてきたと言いますか.........なんならやせこけて来てませんか?」

 

 

 昼休みのチームルーム。目の前に出されたお茶菓子をひとつまみもする事無く、注いだ紅茶をひたすら当たり前のように飲むマックイーンくん。ここ最近、彼女の姿はめっきりと変わってしまった。

 

 

マック「えぇ.........なんと言いますか、食欲が.........」

 

 

ウララ「マックイーンちゃん、この前も同じ事言ってご飯食べてなかったよ!!」

 

 

ライス「ええ!!?た、確かにライスも、最近マックイーンさんが何か食べてる所、見てないかも.........」

 

 

ブルボン「マックイーンさん。何か食べましょう。このままではステータス[栄養不足]になってしまいます」

 

 

 チームメイトの忠告の中、彼女は問題無いと笑い掛け、また紅茶を一口飲んだ。

 

 

タキオン(全く.........一体いつ帰ってくると言うんだい?トレーナーくん)

 

 

 先の見えない不安を抱えながら、私も紅茶を一口飲む。角砂糖を7つ程入れている筈だが、どうにも味気が無い。この空間には、何かが足りない.........

 

 

 私達の[試練]はまだ.........終わっていない.........

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

第五部ㅤ夢覚め人編

 

 

 

 

 

......To be continued

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