山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

157 / 235
マック「野球の時間ですわ!!」ゴルシ「ペルセ〇スでも流すか?」

 

 

 

 

 

 春の風が吹くにはまだ早い二月の初め。ウマ娘の身体は気候変動や気温の変化に強くありつつも、その本質的な寒さとは違う、寂しさに似た物が心を撫でて行きます。

 

 

マック「お待たせいたしましたわ」

 

 

シリウス「.........よく集めたな、その人数」

 

 

マック「貴女こそ、一日でよく一チーム分の人数を集めましたわね」

 

 

 グラウンドの中心にお互いのリーダーが前に出ているこの状況。シリウスさんの後ろには、彼女を慕うウマ娘達が私の渡したユニフォームを着て揃っています。

 

 

シリウス「まさかユニフォームまで寄越してくるとはな。何のつもりだ?」

 

 

マック「野球にユニフォームは欠かせませんから。応援して下さる方々も居る事ですし、わかりやすい方が良いでしょう?」

 

 

 視線を彼女から外し、グラウンドの外側の芝生の方を見ます。そこには急遽立てられた簡易的なフェンスの向こう側に、この勝負には参加しない生徒達、トレーナー。果てには職員の方々までいらっしゃいます。

 そんな彼等彼女等が気に入らないのか、シリウスさんは鼻を鳴らして不機嫌さを顕にしました。

 

 

シリウス「そういうのが気に入らねぇんだ。人の勝負を自分の物みてぇに扱いやがって.........うんざりなんだよ」

 

 

マック「.........その鬱憤も、この勝負を終えた頃にはスッキリしていると思いますわ。勝ち負けは抜きにして」

 

 

シリウス「.........フン」

 

 

 その言葉に納得して居ないのか、彼女は言葉を返すこと無く、自分達のチームのベンチの場所へと歩いて行きます。それに慌てて、チームの皆さんが着いて行く形になっていました。

 彼女達は去りました。私達もいつまでもここに留まっている訳には行きません。そう思っていると、不意にチームの売り子担当のゴールドシップさんが声を掛けてきました。

 

 

ゴルシ「あのよマックちゃん」

 

 

マック「なんでしょう?」

 

 

ゴルシ「アタシらもベンチ行くのは良いけどよ。人数入ん無くね?」

 

 

 .........そう言われて確認して見ると、確かにそうなります。私が集めたチーム。通称マックイーンナインですが、密かに今までひた隠しにしていた妄想そのもののチーム構成になっています。

 しかし、今の私の身体は走る所か、歩く事すらままなりません。本来私が入ろうと思っていた五番の打席はくじ引きで決める特別ルールにしています。

 

 

白銀「あ〜あ〜。玲皇が居たら膝に乗せてやっただろうな〜」

 

 

テイオー「うわ、ちょ!!空気読んでよ!!」

 

 

パーマー「う〜ん.........なんか最初の印象は明るい人かと思ってたけどね.........」

 

 

ヘリオス「シャチョーマジパナイって!!!これが一流の立ち回りってやつって感じ!!!」

 

 

 一流とは程遠いと思う発言なのですが.........遠すぎて錯覚してしまっているのかも知れません.........

 そ、それに!!なんですか膝に乗せるって!!?そ、そんなことされた日には.........!!!

 

 

マック「.........っ、分かりました。私と五番打席のくじを引く方は観客席に移動しましょう」

 

 

 .........そんな事をされた日にはきっと、嬉しくて舞い上がってしまうでしょう。先程まで昂っていた筈の感情が突然、他人事のように結論を出して落ち着きを見せました。

 最近、こんな感じなんです。彼の事を考えると、最初はとても楽しい筈なのに、段々憂鬱になって、頭の中でぞんざいに扱い始めてしまう。そんなのが続いてしまい、もう嫌になってきてしまいます.........

 

 

マック「.........はぁ」

 

 

 観客席の方へと移動し、溜息をつきます。彼が居てくれたら、なんて思う事すら憂鬱で、もう考えたくないくらい.........参ってしまっていました。

 目を瞑り、顔を伏せている状況からゆっくりと瞼を開けると、そこには私の顔を覗き込んでいる桜色の髪が特徴的な彼女が顔をのぞきこんでいました。

 

 

マック「う、ウララさん?どうしたんですの?」

 

 

ウララ「マックイーンちゃん大丈夫?元気無いの?!」

 

 

マック「.........大丈夫、と.........胸を張って言いたいのですけどね.........」

 

 

ライス「マックイーンさん.........」

 

 

 気が付けばチームのメンバーも私の周りに集まり、こんな私のことを心配して下さいます。落ち込んだ顔を見せては行けないと思いつつも、気持ちはどうにも暗さを払えないままです。

 それでも何とかしなければ.........そう思い、私はゴールドシップさんに[お願い]していた事を聞きました。

 

 

マック「そ、そういえばゴールドシップさん?[球審]の事なのですが.........」

 

 

ゴルシ「お?おー!!ちゃんっとスケスケ助っ人を用意してやったぜ!!アタシがな!!」

 

 

マック「そ、そうですか.........」

 

 

 ホッ、と一息.........とは行かず、胸の内に先程とはまた別の不安が広がりを見せ始めました。あの時は確かに頼りにはしていましたが、今になって本当に彼女に頼んで良かったのかと考えてしまいます。

 本来ならば参加しない私が一番適任だったのですが、身体は思うように動かせませんし、何より試合と言うのは観客目線で楽しむのが一番です。

 しかしこんな思いをするなら、メジロ家から一人か二人、野球に詳しい人を呼んだ方が良かったのかもしれません.........

 

 

 そう考えていると、攻撃側のシリウスさんチームが準備を始めました。一番打席に立つ方。カツラギエースさんがバットを持ち、私達のチームもそれぞれのポジションに移動を始めます。

 しかしそこに一人、明らかに見覚えのある。そして私達の不安を煽る人物が姿を現しました.........

 

 

リョテイ「おーい。早く投球練習始めろーい」

 

 

マック「.........なんで貴女の母親がいるんですの」

 

 

ゴルシ「なんでって、母ちゃんが球審だからだよ!!!」

 

 

マック「」

 

 

 え、なんですかその人選は。本当に大丈夫なんですか?貴女は自信満々そうですが、お姉さん達は表情を変えずに汗を流し始めましたけど、本当に大丈夫なんですか!!?

 

 

 .........なんて、そんな私の思いを無視する様に、ゲームは始まって行きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リョテイ「趣味で球審をやってるゴールドシップの母のキンイロリョテイだ」

 

 

リョテイ「今の打球は完全にファールだった。アタシは嘘つかない」

 

 

リョテイ「趣味でゴールドシップの母をやってる球審のキンイロリョテイだ」

 

 

リョテイ「今アタシにボールが当たった。デッドボールだ。シリウスチームに一点やる」

 

 

リョテイ「キンイロリョテイで趣味のゴールドシップをやってる球審の母だ」

 

 

リョテイ「お前退場。理由はその栗毛が気に食わないから」

 

 

マック「」

 

 

シリウス「」

 

 

 あれから三回表まで進んだが、試合が全然進まねぇ。理由は一つ。アタシが野球のルールを全く知らねぇからだ。

 ゴールドシップに頼まれて仕方無く来てやった。何とかなるだろと思ったが、本当に何とかなってる。難点は試合の進みが遅いだけだ。

 

 

マック「タイム!!タイムですわ!!!」

 

 

 観客席の方から一時中断をシリウスチームの奴らに促すマックイーン。両手でTの文字を作り抗議しているが、何故かシリウスチームの奴らは即座に首を縦に振った。なんだ、以外に仲良しじゃねぇか。仲がいいのは良い事だ。

 懐かしいな、アタシも若い頃は仲良い奴らとつるんで、トレセン学園中のウマ娘やらトレーナーやら、果てには理事長にも噛み付いて.........

 

 

マック「どういう事ですの!!?」

 

 

リョテイ「うお!!?な、なんだよお前ら。アタシは趣味で趣味をやってる趣味の趣味だぞ?」

 

 

グラス「あの〜、私の退場の意味が分からないのですけど〜.........?」

 

 

 目を伏せて思い出に耽っていたらいつの間にか両チームの奴らに囲まれていた。しかもかなり手厳しい目をアタシに向けてきている。なんでだ。真面目に球審してたのに.........

 

 

マック「ゴールドシップさん!!!貴女のお母様、審判の資格を持っているのでしょう!!?なんであんな滅茶苦茶な采配をするんですの!!!」

 

 

ゴルシ「な、なんだよマックイーン!!アタシが言ったこと疑ってんのか!!?資格持ってるよな母ちゃん!!!」

 

 

フェスタ「い、いやゴルシ。持ってるにゃ持ってるが.........」

 

 

リョテイ「持ってるぞ。ほら、いつも財布に持ち歩いてる」

 

 

 ポケットにしまっていた財布を取り出し、資格のカードを取り出すと、ゴールドシップが疑いを晴らす為に私の手からそれをむしり取り、直ぐにマックイーンに見せ始めた。

 最初こそはそのカードを見て感嘆と感心の声が聞こえてきたものの、その表情は直ぐに疑いの目に変わって行った。

 

 

マック「さ、[サッカー審判員4級].........!!?」

 

 

デジ「野球と正反対のスポーツじゃないですか!!!」

 

 

黒津木「いやそれでもああはならんやろ!!!」

 

 

タキオン「なっているだろ!!!」

 

 

 目の前でギャーギャーとわめきはじめた小娘達。うるさいことこの上ない。仕方が無いので私は生贄を用意する為に、電話する事にした。

 

 

「.........もしもしキンちゃん?珍しいね電話なんて。僕の声聞きたくなった?」

 

 

リョテイ「うむ。人肌恋しいのだ。直ぐにトレセン学園に来るように。アデュ」

 

 

「え」ピッ

 

 

 無駄な話をすること無く電話を切る。こう言えばコウキは絶対に来る。アタシの事愛さずには居られないらしいからな。こんな歳にもなって。気持ち悪い。

 だが他の奴らからしたら何の事やらさっぱりと言った様子でアタシの方を見てくる。仕方が無い。ここは説明してやろう。

 

 

リョテイ「本当はこっちが来る予定だった。ただ仕事してっだろうからアタシが勝手に来ただけだ。三回までは何とかなっただろ?」

 

 

マック「な、何とかなった.........のでしょうか」

 

 

リョテイ「という訳でアタシは観客席に行く。コウの方は心配すんな。英才教育でビクトリーズの歴代選手二軍含めてポジション利き打利き投全部言えっから」

 

 

 手を振りながらアタシは小娘共におさらばする。良い暇つぶしにはなったが、所詮その程度だ。ドラマを産む程じゃねぇ。折角ならアタシは、見ててハラハラするドラマが見てぇんだ。

 そしてコウキの奴が何かフワフワした表情で到着し、自分が呼ばれた理由を聞いた後、死んだ顔で審判を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「はぁ.........」

 

 

神威「お?どったのよお嬢。試合いい感じじゃん」

 

 

マック「ええ、そうですわね.........そのお陰で、先程までの事が全て無駄に思えてしまいますわ.........」

 

 

 現在、六回裏で私のチームの攻撃側です。先程の相手側のターンを無失点で抑え切り、勢いを削ぐことが出来ました。

 しかし未だリードを許しており、勝ち越す為にはあと二点討ち取らなければなりません。

 

 

 スポーツというのは恐ろしいもので、観客の焦りが選手に通じるのか、なかなか上手いこと行かない事が多いです。

 結論から言ってしまえば、六回裏の攻撃も現在ツーアウト二塁。打席はくじ引きで決める五番という、何とも絶望的な状況になって来ました。

 

 

マック(先程のくじはフェスタさんが引き、三塁間へのヒットを出しました.........ここでまたヒットを当てられれば.........)

 

 

 少なくとも三塁進出。上手く行けば二点獲得で形勢逆転.........そんな期待を胸に、私はくじを引く皆さんの事を見守りました。

 

 

「バッターだーれだ!!!」

 

 

 掛け声と共に勢い良く割り箸を引き抜き、その結果を見て皆さんが表情を若干曇らせました。私もその内の一人です.........

 

 

白銀「おっ!!俺だっっ!!!」

 

 

ゴルシ「ちぇ〜、ゴルシちゃんもそろそろ焼きそば売り飽きてきたんだけどな〜」

 

 

マック「ま、まぁ、人がバッターの時はピッチャーマシンにするルールにしましたし、白銀さんはプロスポーツ選手ですから.........」

 

 

 当たりを引き抜いた白銀さんは、それは嬉しそうに意気揚々とバットを担ぎ、観客席のフェンスに足を掛けてグラウンドへと飛び降りました。

 

 

シリウス「お前か.........ピッチャーマシンの準備をするぞ!」

 

 

エル「はい!!」

 

 

 あちらもあちらで、きちんとルールに則ってくれるそうです。いくらヘル化していようとも、こういう所はしっかりしているので安心出来ますが.........

 

 

白銀「え、何?ビビってんの?」

 

 

シリウス「.........は?」

 

 

マック「は?」

 

 

神威「は?」

 

 

黒津木「えぇ.........」

 

 

ゴルシ「何言ってんだアイツ.........」

 

 

 ヘル化しているシリウスさん達以上に、このお方達はとても厄介なのです.........今回白銀さんがこのような行動を示しましたが、きっと神威さんも黒津木さんも煽られたら同じようにするでしょう.........

 なんでこんな方をチームに.........私がどうかしていましたわ.........

 

 

白銀「まっ、仕方ねぇよな.........俺球技界のマイケル・ジョーダンって言われてるし.........」

 

 

全員(それはただのバスケでは?)

 

 

白銀「俺野球選手だし。年俸80京円の。逃げても仕方ねぇか〜」

 

 

シリウス「.........」スッ

 

 

 あぁ.........シリウスさんが彼の挑発に乗ってしまいました.........なんでわざわざこんなチャンスにそんな事を.........本っっっ当に有り得ません.........!!!

 そうやって顔を伏せていると、私の肩を誰かが叩いて来ました。その方向を見ると、焼きそばを運んでいるゴールドシップさんが居ました。

 

 

ゴルシ「安心しろよマックイーン!!アイツ土壇場でめちゃんこつえーからよ!!アタシ昔見たんだ!!世界最強に勝ってる所!!!」

 

 

マック「た、確かにあの試合は凄かったですわ.........!!なら、もしかしたら.........!!!」

 

 

 そんな期待を胸に、彼は右側のバッターボックスの方に立ち、スイングを見せます。彼の類まれな身体能力の高さがわかる程の轟音が、バットが振られるのと同時にこちらにまで響いてきました。

 い、行けます!!当たりさえすればホームランも夢ではありません!!

 

 

白銀「へへっ、後悔しろよ[シンボリシリウス]!!!」

 

 

シリウス「シリウスシンボリだ.........!!!」

 

 

白銀「今の俺は、[奇跡]だって超えてんだからよ.........!!!」

 

 

 あぁ!なんて頼もしいのでしょう!!最初あんな挑発行動した時にはこれがプロリーグでしたら即戦力外通告か三年間二軍で干してやろうとすら思っていましたのに!!今はもうホームラン以外目が向きません!!!

 そう!!ここで打てばいいのです!!そうすれば全てが解決しますわ!!

 

 

 ググッ

 

 

 ズバーンッ!!

 

 

 ストライーク

 

 

 ま、まだ一球目ですわ.........

 

 

 ググッ

 

 

 ズバーンッ!!

 

 

 ストライーク

 

 

 あの、白銀さん?なんでバットを振ってないんですの.........?

 

 

 ググッ

 

 

 ズバーンッ!!

 

 

 ストライーク

 

 

皇奇「バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」

 

 

マック「ぁ、が.........」

 

 

 み、見事な三振.........いえ、振ってすら居ないのですから三振ですらありません.........全てストレートの三球、見送りアウトです.........

 こ、これで.........折角のチャンスが潰れました.........最悪進出、最高逆転のとても旨みのあるチャンスが.........

 

 

 そんな私の気も知らず、彼は自分のせいでチャンスが無くなったと言うのに、ヘラヘラとした顔でその足でこちらまで戻ってきました.........

 

 

マック「な、何やってるんですの!!何やってるんですの!!!」バシッバシッ!!

 

 

白銀「いって!!?思った以上に早かったんだよ球がッッ!!!お前やっていい事と悪い事があんだろォ!!!」

 

 

黒津木「お前が先に悪い事したんだよォ!!?」

 

 

 負けて帰ってきた白銀さんに我慢が出来ず、何度も何度もその背中を叩きます。この人を信じた私がおバカでした。そしてゴールドシップさんを信じたのもおバカでした。

 その肝心のゴールドシップさんにも一言文句を言おうとしましたが、その姿はもう既に側になく、あちら側の理事長と生徒会長さんに焼きそばを振舞っていました。

 

 

マック「相変わらず逃げ足の早い人ですわね.........!!!」ギチギチ

 

 

白銀「し、締まってる.........!気道が終わってる.........!!!」

 

 

 

 

 

やよい「美味っ!!やはり君の作る料理は一級品だな!!」

 

 

ゴルシ「やよいちゃんも分かっか!!流石学園のトップな事だけあるな!!」

 

 

ルドルフ「そんなにですか?じゃあ私も頂こうか。ゴールドシップ」

 

 

 へへへ。どうやらアタシの焼きそばは舌の肥えてる奴らにも通用するみてーだな。香川でうどんをこね続けてきた甲斐があるってもんだぜ.........!

 アタシは二人が焼きそばを食べてる姿を見て満足して、試合の方を見てみる。現在七回表。バッターはシリウスだ。

 

 

ゴルシ「なールドルフ?オメエこの試合の事どう思ってんだ?」

 

 

ルドルフ「.........難しいな。私自身、彼女から散々偽善者ぶるのは辞めろと言われ続けた身だ」

 

 

ルドルフ「だがこうして、彼女が必死に何かに打ち込んでいる姿を見ると、複雑だが嬉しい気持ちだよ」

 

 

 複雑だ。なんて言ってるけど、ルドルフの奴の口調と表情は嬉しさだけで固められている。きっと建前って奴なんだろう。アタシにだってそれくらいの事は理解出来る。

 それでもアタシは納得がいかねー。確かにこの堅物が軍服着てるって言われても疑問はねーくらいにはルドルフは超人だ。一人で何でもやって一人で何でも成し遂げちまう。

 アタシの居た未来じゃ、学園卒業した後はURAに就職してトップまで最速で登って、終いにゃ歴代で最も活躍したURA日本中央レース協会会長として割と教科書の最初の方にまで出てくる奴だ。

 そんだけすげーんだから、革命って言われても良く分かんねーんだよなー.........

 

 

シリウス「おいッッ!!!ルドルフッッ!!!」

 

 

ルドルフ「ん.........?」

 

 

 怒号が辺り一面に響き渡る。何かと思ってグラウンドを見れば、アタシらの会話を聞いてたのか、シリウスがこっちの方を見てグローブでアタシらを指し示して来ていた。

 

 

シリウス「コイツら倒したら次はお前だ。精々、その玉座をアタシの為に磨いて置くんだな.........!!」

 

 

ゴルシ「.........ああ言ってっけどよ。どうすんだよ?」

 

 

ルドルフ「どうもこうも、私は彼女からの勝負は受けると決めたんだ。例え、どんな要求が付いたとしてもな」

 

 

 その言葉を聞いて、納得も出来ないままアタシは鼻で返事をした。シリウスがシリウスならルドルフもルドルフだ。秘密主義って感じであんまいけ好かねぇ。

 手持ちの焼きそばもそろそろ売れ切れちまったし、補充しに一旦戻るかー。なんて思った時、ルドルフのウマフォンが通知を知らせる振動をした。

 

 

ルドルフ「.........[ブライアン]?」

 

 

ゴルシ「.........はァッッ!!?」ガシッ!!!

 

 

やよい「のわっ!!?し、衝撃ッッ!!?」

 

 

 [ブライアン]。その名前を聞いた瞬間。アタシは直ぐに振り返り、ルドルフの肩を掴んだ。その過程でやよいちゃんを強い力で押しのけちまったけど、まぁ許してくれるだろ。

 

 

ゴルシ「ぶ、ブライアンって!! ナリタブライアンだろ!!?」

 

 

ゴルシ「なんて来たんだ!!?もう帰ってくんのか!!?おっちゃんは!!?」

 

 

ルドルフ「ま、待ってくれゴールドシップ。私もまだ誰からのメッセージか確認しただけだ.........」

 

 

ゴルシ「あっ.........悪い」

 

 

 頭に思い浮かんだ流れの強さのまま、アタシは思わずルドルフの肩を掴んでグワングワンとさせちまった。その事に罪悪感を感じながら、アタシは押しのけたやよいちゃんにも謝って倒れている所に手を出した。

 そのメッセージの内容を吟味している間、アタシとやよいちゃんは固唾を飲んでルドルフを見守っていた.........が、帰ってきたのは溜息だった。

 

 

ゴルシ「な、内容は.........?」

 

 

ルドルフ「.........桜木トレーナーは帰ってきているか.........と」

 

 

やよい「っ、確認ッ!!本当にそれだけなのか!!シンボリルドルフよ!!」

 

 

 やよいちゃんのその力強い言葉にも、ルドルフの奴は首を振って応える。言葉数の少ないブライアンの事だ。それはメッセージ上のやり取りでも変わらねーんだろう。

 でも、これで一つ分かった事がある。おっちゃんは今、こっちに向かっているという事だ。しかも、たった一人で.........

 

 

ゴルシ「.........うっし!!そうと決まればやる事は一つだけだな!!」

 

 

ルドルフ「?やる事とは、君は一体何をする気だ?」

 

 

ゴルシ「んなもん決まってんだろ!!おっちゃんを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのバカを使ってこの場を治める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........アタシの言おうとした言葉よりも酷い言葉が、背後の方から聞こえて来た。その聞き覚えのある声に振り向いて見れば予想通り、母ちゃんが不敵な笑みを浮かべて腕を組んでやがった。

 

 

ゴルシ「母ちゃん!!?」

 

 

リョテイ「[ドラマ]ある所にキンイロリョテイ有り.........どうやらそれは、生涯変わる事は無いらしいな」

 

 

ルドルフ「失礼。貴女がゴールドシップの親御さん.........?」

 

 

リョテイ「!.........ああ、ウチのバカ娘。あいや、バカ娘共が世話になってる」

 

 

 珍しくアタシの前で、ルドルフに頭を下げる母ちゃん。性格はアタシら以上にハチャメチャだけど、外面はアタシら以上に良い。そんな母ちゃんだけど、今の姿は本心からの行動だと何となく伝わった。

 ルドルフの奴もそんな母ちゃんに頭を下げて挨拶をする。それも直ぐに終わり、母ちゃんはすぐさまアタシの方に向き直った。

 

 

リョテイ「ゴルシ。お前何とか試合を遅延させろ」

 

 

ゴルシ「はァ!!?無茶言うなよ母ちゃん!!んなもんどうやって.........」

 

 

リョテイ「アタシはもう五個思い付いた。お前なら十個は思い付くはずだ。それで何とかしろ」

 

 

 く、クソ.........!こういう時だけアタシらの良い所を持ち出してくんだよな!!卑怯だ卑怯!!カレーに福神漬けなんて付け合せ考え付いた奴と同じくらい卑怯だぜ!!

 そんな母ちゃんの言葉にコロッと絆されて頭をこねくり回す。そしてそんなアタシを少し見てから、母ちゃんはその場から離れようとしていた。

 

 

ゴルシ「ちょ、ちょっと待てよ!!母ちゃんはどうすんだよ!!?」

 

 

リョテイ「校門前で陣取ってやる。お前が上手くやりゃ、九回裏の[代打]で使えるかもな」

 

 

 九回裏の代打。そんな細かい指定までしてきたけど、そんな姿が簡単に想像付いちまう。それはきっと母ちゃんも、そしてルドルフ達も同じなんだろう。そこに疑問を言う奴は居なかった。

 けれどそれでも、疑問があったんだろう。ルドルフの奴は席から立ち上がって、母ちゃんに質問を投げかけた。

 

 

ルドルフ「貴女は何故、桜木トレーナーが絶対に必要だと。そう言うのです?」

 

 

ルドルフ「メジロマックイーンのチームが勝てば、解決するでしょう?」

 

 

ルドルフ「貴女の言い方では.........必ずそうするべきだと言う意思が感じ取れます」

 

 

 それは.........確かにそうだ。この試合、別におっちゃんを待たなくても、マックイーン達が勝てばそれで丸く収まっちまう。それなのにどうして、おっちゃんが必要になってくるのか、アタシにも理解が出来なかった。

 その理由を説明する為に、母ちゃんは面倒くさそうな顔で頭を掻きながら口を開いた。

 

 

リョテイ「.........まぁ、何だ。夢の道から一歩も踏み外した事無ぇ奴には、分かんねぇんだよ」

 

 

リョテイ「夢を諦める痛みも、夢を失う苦しみも、分かんねぇ奴の言葉が今もがいてる奴に届く訳がねぇ」

 

 

リョテイ「夢は[呪い]だ。それでいて[祝福]にもなる。最初からずっと[祝福]のままだった奴の言葉聞くよりも、[呪い]から[祝福]に変わった奴の言葉の方が―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[山あり谷あり]で、聴き応えあんじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「山あり......谷あり.........」

 

 

 それだけ言って、母ちゃんは今度こそこの場を離れて行く。今度はもう、誰も疑問を口にする事無く、母ちゃんのその背中を見送っていた。

 

 

ルドルフ「.........最初からずっと、[祝福]だった。か.........」

 

 

やよい「.........納得。そうであるならば、最初から信念を変えていない私の言葉も、通じないだろうな.........」

 

 

 母ちゃんの言葉が響いたのか、二人は良い本を読んだ時見てーな余韻に浸りながら、試合の方に目を流した。気が付けば舞台は八回表。リードは三点にまで広げられちまっていた。

 

 

 それでも、何とかなる。そんな事を心のどこかで。片隅で思っちまうくらいにはアタシも影響を受けちまってる。

 そんな心を表したように緩んだ顔を叩いて引き締める。[何とかなる]。じゃねぇ。[何とかする]んだ。前に一回それで、痛い目にあったじゃねぇか。

 

 

ゴルシ(もう、アタシはやらねぇぜ?楽ちんな人任せなんてよ.........!!!)

 

 

 アタシはもう。人任せにはしねぇ。それが例え、最強のヒーローだとか、大統領とかでも変わらねぇ。出来ることをやる。自分の出来る限りのことを.........!!!

 そんな思いを胸に、アタシは肩から下げた空の番重を持ち、マックイーン達のいる方に戻って行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「これが最後のくじ引きになりますわね.........!」

 

 

 試合は既に九回裏。三点リードを許したツーアウト満塁の逆転チャンス。ホームランを打てさえすれば、このゲームを終わらせる事が出来ます。

 一発逆転が掛かったラストチャンス.........ここはパワーと正確性のあるミホノブルボンさんに当たりを引いて欲しい所.........

 

 

ゴルシ「おー!!アタシがバッターかー!!!」

 

 

マック「なっ!!?貴女、それ全部取ってるではありませんか!!!」

 

 

 私の手の中にあった割り箸のくじを、ゴールドシップさんは一気に持って行ってしまいました。そしてその中にある当たりを持ち、まるでそれだけを引いたかのような振る舞いを周りに見せます。

 た、確かに。彼女はいざと言う時大変頼りにはなりますが、ここは飽くまで公平に徹さなければなりません。私はバットを担ぎ始めた彼女に抗議しました。

 

 

マック「お待ちなさい!!何のつもりですか!!」

 

 

ゴルシ「うっせーな〜。あんまガミガミしてっと、小じわが増えておっちゃんが気ー使うぜ?」

 

 

マック「誰が怒らせ.........って、ちょっと!!ゴールドシップっ!!!」

 

 

 一瞬、最近の彼女の口からは出なかったトレーナーさんの存在をほのめかされて思考が動揺した瞬間を狙い、彼女は白銀さんと同じようにフェンスから飛び降りてグラウンドに降り立ちました。

 

 

ライス「だ、大丈夫かな?ゴールドシップさん.........」

 

 

ブルボン「信じましょう。あの人はただでは転びません」

 

 

ウララ「ゴルシちゃんー!!ホームラン打ってー!!」

 

 

 不安と期待。そんな感情が織り交ざった声援が会場の隅々から彼女に向けられます。エンターテイナーを自負する彼女は相も変わらず、私の想像通り[昔よく見ていたニカっとした笑顔]を振り撒き、手を振りました。

 

 

 ズキン。とした鼓動。それと同時に、何処か閉ざされた扉が開きました。感じた胸の痛みすら些細な物になった。その笑顔が、もう感じないと思っていた感情が、開け放たれた扉から堰を切って流れ出します。

 

 

タキオン「.........彼女がまさか、マックイーンくんの前で彼の事を話すなんて」

 

 

デジ「.........フラグ。完全に立った気がします」

 

 

マック「っ、い、今は目の前の試合に集中です。彼の事はまた後で考えましょう?」

 

 

 

 

 

ゴルシ「〜〜〜♪」

 

 

シリウス「.........随分と能天気だな」

 

 

 ―――バッターボックスに入る前に、アタシは念入りに素振りする。今日は売り子に徹する予定だったとか何とか理由を付けて長めに時間を取ってっけど、もうそろ限界みてぇだ。

 シリウスは一回から九回まで全投してる。いくらウマ娘っつっても、流石にここまでくりゃ疲弊もしてくる。頬から顎に伝っていく汗を拭いながら、アタシに問い掛けてきた。

 

 

ゴルシ「まっ、ゴールドシップ様のトレンドマークって言や、太陽みてーな明るさだからな!!」

 

 

シリウス「ハっ、たかが太陽。一等星の前じゃ矮小だな」

 

 

ゴルシ「へっ、あんま明るすぎっと、人類の大半がゴルシちゃんフォースで茹で茹でになっちまうからな」

 

 

 会話を半分流しながら、アタシはバッターボックスに入る。これでグラウンドに入って五分。何とか稼ぐ事が出来た。けれど、まだ足りねぇ。

 かと言って流石にこれ以上無駄話をするってのも無い。興が冷めちまえば元も子もねぇ。鉄は熱いうちに打てって言葉があるけど、人の心も鉄みてぇなもんだ。

 

 

 ボックスの右側に立ってバットを構える。ここが一番の難関だけど、上手く行きゃ一番時間を稼げる場所だ。頼んだぜゴルシちゃん。婆ちゃんに褒められた選球眼と当て感をフルで活かしてくれよ.........!!!

 

 

 一球目。オーバースローから放たれる豪速球ストレートを目に捉える事に成功したアタシは、何とかバットを振り、そこにボールを当てる。

 だが、残念な事に結果はファール。進塁することは無かった。

 

 

 二球目。ストレートは打たれると踏んだのか、今度は際どい所にカーブを刺さる。

 だけどゴルシちゃんの両目の視力は10.0。マサイ族もびっくりなスーパーアイが捉えた送球先はギリボール。手を出す事はしなかった。

 

 

 三球目。今度は握り方を大きく変えてきたのを見て、流石のアタシも冷や汗を流す。フォークボールだ。間違いねぇ。初心者が打てる訳ねぇ球を使ってきたって事は、アタシの実力をたった二球で判断してきたって訳だ。

 動揺して送球先を見誤っちまったせいで、結果はストライク。これであと一回範囲内に投げ込まれたら負けが確定しちまう。

 

 

 四球目。さっきのカーブを使ってきた。今度はしっかりと入る様に狙って投げて来たから、アタシは安心して球を打つ。

 けれどやっぱり、打った先はファール。進塁は無かった。

 

 

 五球目。

 

 

 六球目。

 

 

 七球目.........

 

 

 

 

 

ゴルシ「ハァ.........ハァ.........」

 

 

シリウス「ゼェ.........ゼェ.........っ」

 

 

 さっきから[打つ球全て]がファールになる。残念とは思ったけど、それは狙い通りだ。どうせなら審議になるくらいギリギリを狙いたかったけど、ガッツリ目のファールしか出なかったから残念だった。

 けれど、シリウスの奴は勘づき始めやがった。明らかに経験者の動きをしてる奴が、さっきからヒットを一本も出さない。そうなればもう、アタシの姿は時間稼ぎをしているか、性格が悪いって風にしか映らなくなる。

 キャッチャーからボールを返されてグローブにそれを収めると同時に、シリウスは歯を食いしばってアタシを睨み付けてきた。

 

 

シリウス「どういうつもりだ.........!!遊んでんのか.........!!?」

 

 

ゴルシ「違ぇよ。[待ってんだ]」

 

 

シリウス「っ.........!どこまで行ってもおめでたい奴らだ.........ッッ!!!」

 

 

 静かな怒りが声に乗って伝わってくる。それを感じ取ったアタシは、シリウスがただただ勝負をしたい奴。だってのは違うって気付くきっかけになった。

 

 

シリウス「お前らがその[桜木]とかって奴にッッ!!!どんだけ入れ込んで、何を買ってるかなんざ知らねェッッ!!!」

 

 

シリウス「けどそれがどんだけ負担になってんのかッッ!!!お前らは考えた事あんのかよッッッ!!!!!」

 

 

ゴルシ「.........シリウス」

 

 

 抑え込まれていた怒りは放出されて、アタシに。いや、ここに居る奴ら全員に対してぶつけられる。それをしている奴も、それをされている奴にも、全員同じく、平等に思いをぶつけられている。

 

 

シリウス「何でも出来るッッ!!!何でもやれるッッ!!!そう思わせてくれるッッ!!!だから任せんのかッッ!!?自分にも出来るって事にすら気付かずッッ!!!押し付けんのかッッ!!!あァッッ!!?」

 

 

シリウス「それでいつか焼きが回って.........!!!痛い目見んのはそれを背負った奴だけだろうがッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らはそれでッッ!!!トレセン学園の生徒だって胸張って言えんのかよッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――.........」

 

 

 .........その言葉に、誰も何も、言い返せなかった。実際、その通りだったからだ。

 きっとシリウスは、今の生徒会長。ルドルフの奴の事を言ったんだろう。生徒会長が居てくれる。生徒会長が何とかしてくれる。困った時に頼りになる。そんな甘ったれが、気付かない内にウマ娘達に、そしてトレーナー達。勿論アタシにも、染み付いちまっていた。

 そしてそれは、生徒会長だけじゃねぇ。アタシ達のおっちゃんにも、同じ事が言えた。頼りにして、全部任せて、何とかしてくれるなんざ、本当に甘ったれだ。そしてそれで、アタシらは一回。[痛い目]を見た.........

 肩で息をするシリウス。その目はキャップ帽のツバに隠れて良く見えない。けれど頬に流れる水を拭い、少し疲れた目でアタシの方を見てきた。

 

 

シリウス「ハァ.........ハァ.........なァ、もう良いだろ?私がそれを終わらせてやるっつってんだ。大人しく、その真ん中にボールを投げさせろよ」

 

 

ゴルシ「.........嫌だね」

 

 

シリウス「.........テメェ、まだ分から「分かってんだよ」―――?」

 

 

 バットを握る力を強めて、怒りを何とか落ち着かせる。この怒りは、自分に対してのもんだ。覚悟を決めて、もうしないって誓ったっつうのに、それでも甘えようとしちまってるアタシに対する怒り。

 確かにそれはダメな事だ。一番やっちゃいけない事だ。難しい事全部丸投げして、できなかった時に責めたり、もっとできるって強要するのは、本当にやっちゃ行けない事だ。けれど.........

 

 

ゴルシ「一人任せにすんのは行けねぇってのは、もう知った。けどよ。ルドルフの奴は兎も角、おっちゃんは良い大人なんだ」

 

 

ゴルシ「おっちゃんが一人でやりてぇ。背負いてぇってんなら、アタシは止めねぇ。けど―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今度こそ、任せっきりには絶対にしねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウス「っ.........!!!」

 

 

 ギリっ、と歯を擦り合わせる音がアタシの方にまで聞こえて来る。どうやらアタシの答えが気に食わなかったみてぇだ。シリウスの奴はもう何も言わず、また投球フォームを見せ始める。

 だったらまたファールにすれば良いだけの話だ。大丈夫、さっきまで出来たんだ。今度も出来るに決まってる.........!!!

 

 

 そして、投げられた十球目。

 

 

 豪速球のストレート球。

 

 

 それをファールにする為に、アタシはバットを振り抜いて、そこにボールを当てた.........

 

 

 けれど―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――バキッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「な―――」

 

 

 そこに当てた少し後に、木製のバットは強く軋んで折れた。先端は空の方に飛んで行って、もうバットとしては使えないだろう。

 けれど、問題はそこじゃない。問題は.........ボールの飛んで行った先.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「っ!!!マックイーンッッッ!!!!!」

 

 

 ファールにしようとしたボールは見当違いの場所。観戦席に居たマックイーンの方へ投げられた勢いのまま飛んで行った。

 あまりに突然過ぎて、その場に居る誰も、ウマ娘達も白銀も振り向くのがやっとで、反応してそれを取ろうとする奴は誰も居なかった。

 

 

 時間がゆっくりに感じる。それ以上に、アタシの身体は遅かった。このままじゃ、マックイーンにボールが当たっちまう。そうなったらもう、おっちゃんが帰ってくる所の騒ぎじゃない。

 何とかしなくちゃ行けない。けれど、何とも出来ない。そんな現実が刻一刻とマックイーンに迫って行く。

 

 

 もう.........そのボールはマックイーンの目前まで迫って行った.........

 

 

ゴルシ(頼む.........!!!誰か.........!!!)

 

 

ゴルシ(マックイーンを.........助けてくれ.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パシッ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伏せた瞳。聞こえると思っていた音とは違う音。まるでボールがグローブに収まったかのような音を聞いたアタシは、まさかと思い、その瞳を上へと上げた。

 

 

 そのボールは、確かにグローブの中に収まっていた。けれどそれを持つ人物は、アタシが見た事もない人物だった.........

 

 

 

 

 

マック「な.........?」

 

 

「ふぅ、ギリギリセーフだったわね!」

 

 

 ―――間一髪。そんな言葉がようやく頭に過ぎる程に、あまりに一瞬の絶体絶命が見知らぬ誰かによって打開されました。

 その方は黒いライダースーツを身に纏い、そして[ウマ娘用フルフェイスヘルメット]を着用して、私の前へと現れました。

 

 

「それにしても、面白い事やってるのね♪[日本]のトレセン学園は♪」

 

 

マック「え、っと.........貴女は.........?」

 

 

 不躾な質問かと思いましたが、その声には生憎聞き覚えが無さすぎた為、つい質問をしてしまいました。

 それを聞いた、彼女は一旦そのヘルメットを外し、長く綺麗な栗毛の髪の毛と琥珀色の瞳を外へと露出し、私の事をじっくりと見てきました。

 

 

マック「あ、あの.........?」

 

 

シャカ「.........知り合いか?」

 

 

オペ「いや、この様子からしてお互い初対面だろう.........」

 

 

「.........なるほどなるほど。貴女。[メジロマックイーン]ね?」

 

 

 自分の名前を呼ばれて反応を示すと、目の前の彼女は嬉しそうに顔を緩ませ、そして自分でナイスタイミングと称えました。

 それでも、彼女の正体は未だに掴めていません。それを再度質問しようとした時、それを遮るように彼女はもう一度その顔を私の顔へと寄せてきました。

 

 

「私はある人の[お手伝い]をしに来たの」

 

 

「[盗んで]来てあげたわ。貴女の[相棒]。この―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――怪盗。[クレシェンテ=ルーナ]がね.........♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「え―――っ」

 

 

 彼女が.........怪盗が何を言っているのか、私には理解が出来ませんでした。けれど、時間は過ぎていきます。

 

 

 その過ぎ行く時間の中、静かになった瞬間に。私の耳には、一つの足音が確かに.........しっかりと、響いて聞こえて来ました。

 

 

 まさか.........いえ、そんな.........!!

 

 

 揺れ動く鼓動。先程の様な痛みは無く、純粋な高鳴りをし始める心臓を強く抑えながら、私達は.........その足音に耳と目を向けていました.........

 

 

ゴルシ「.........へっ、そういう事かよ.........!!!マックイーンッッ!!!」

 

 

マック「!は、はい!!?」

 

 

ゴルシ「[代打]だッッッ!!!!!」

 

 

 グラウンドのバッターボックスで私に向けて叫ぶゴールドシップさん。折れたバットを大きく空へと放り投げ、観客席の外にまで飛ばした後、彼女もその足音のする方へと向きました。

 

 

ゴルシ「お膳立てはしてやったぜぇッッ!!!後はマックちゃんにカッコイイ姿見せるだけだッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[おっちゃん]ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強く。着実に聞こえて来る足音。特設スタジアムの影が出来た場所に、人影がユラユラと揺れ動きながらも、そこに確かに.........誰かが.........いえ、[彼]が居る事を知らしめます。

 

 

 それでも、理解が追い付きません。頭がそうだと、断定してくれません。まだ他の可能性を考え、喜ぶのは早い。と言うように、心を落ち着かせようとしてきます.........

 

 

 ですが.........

 

 

マック「―――あ」

 

 

マック「―――あぁ、ぁぁ.........!!!」

 

 

 影からやがて、光の射すグラウンドに足を踏み入れたその時、その姿がようやく、顕になりました。

 

 

 縞模様のユニフォーム

 

 

 背番号。[27]

 

 

 バットを手に持ち、若干記憶よりも無精髭が生えた姿を見て私は目を見開き、声を漏らし、涙を流しました.........

 

 

 この場にいる誰もが、その姿を見て驚き。そして興奮を顕にしました。彼が帰ってきた事を.........本当に誰もが、待ち望んでいたのです.........!!!

 

 

マック「トレ、ナ.........さん.........!!!」

 

 

マック「トレーナー.........さん.........!!!!!」

 

 

 彼の事を呼ぶ度に、蓋をしていた物が吹き出してきます。寂しさも、悲しみも、今までの分を全て吐き出すように、涙と共に溢れて行きます。

 

 

桜木「.........ははっ」

 

 

マック「!.........〜〜〜」

 

 

 涙で濡れ濡れになった私の顔を見て、彼は優しく微笑み掛け、手を振ってくれました。それを見ただけでさっきまでの物は直ぐに消え失せ、今度はそれと入れ替わるように恥ずかしさが表に出始めました。

 

 

 私の顔を見せたくない.........けど、もっとトレーナーさんのお顔が見たい.........そんなせめぎあいの中、顔を隠したりチラ見したりしていると、彼はその優しい表情から一変し、引き締めた顔でバットをシリウスさんの方へと向けました。

 

 

シリウス「.........やっぱアンタが、[桜木]か」

 

 

シリウス「っ.........待っていたぞォォォッッ!!!桜木ィィィィィッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........[あけましておめでとう]。トレセン学園」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――待たせたな.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力強い言葉が、会場の中に響き渡ります。両者共に気迫に満ち溢れ、そして闘志も感じられます。

 

 

 今ここに、[恒星の貴公子]対[代打の神様]の一騎打ちが.........始まるのでし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お前ら笑うなッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。