山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マック「かっとばせー!!トレーナーさん!!!」

 

 

 

 

 

「お前ら笑うなッッッ!!!!!」

 

 

 トレーナーさんの強い声が辺り一面に響き渡り、私達の耳へと入って来ました。

 

 

 シリウスさんとの革命と維持とを賭けた野球の試合。私達のチームは三点のリードを許した状態で九回裏の攻撃になり、絶体絶命の場面で代打として、彼がグラウンドへと。私達の前へと約[二ヶ月振り]に姿を見せての出来事でした。

 

 

 先程までバットをシリウスさんに向けていた彼でしたが、今はその丸みを帯びた先端を観客席の方へと向けています。

 

 

桜木「良いかッ!コイツはな、毎日俺の作ったチーム[レグルス]で、過酷なトレーナー代理をやってたんだよ.........!!!」

 

 

桜木「お前らはあの[レグルス(俺のチーム)]で毎日トレーナーやった事あんのか?」

 

 

桜木「やった事ねぇやつが.........!笑うな.........ッッ!!!」

 

 

(.........な)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何言ってんだコイツ.........?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰ってきて早々。バッチリと決まった帰還のセリフの後に彼が出してきたのは、トンチンカンな物でした。

 い、いえ。これこそ彼らしいと言えばそうなのですが.........それでもやっぱり、もう少しカッコイイ姿を拝見して居たかったですわ.........

 

 

沖野「ま、まぁなんだ?良かったじゃねぇか。相変わらず何言ってっか分かんなくてよ」

 

 

テイオー「まっ、それがサブトレーナーのいい所だからね!悪いところでもあるけど.........」

 

 

カフェ「それにしても.........すごい盛り上がりですね.........」

 

 

 気が沈んでいる中、カフェさんの言葉を聞いた私は少し周りの様子を伺うと、確かに彼に対する声援がかなり多いと思いました。先程までの試合とはまるで別物。本当にスーパースターが来たのではと錯覚する程の大声援です。

 そんな彼がバッターボックスの方へと入り、バットを構えました.........ん?

 

 

マック「あ、あの人.........!!!バットの握り方が逆ですわ!!?」

 

 

東「何ぃ!!?」

 

 

シャカ「アイツ、あンな意気揚々と出てきたのに、基本も知らねェのかよ.........!」

 

 

 こ、これは行けません.........!あの持ち方では力が上手く伝わりません!折角フルスイングで打ったとしても、期待は凄く薄くなってしまいます.........!!!

 

 

マック「トレーナーさーーーん!!!逆っ!!!バットを持つ手が逆ですわよーーー!!!」

 

 

桜木「ん?.........おー!!!」

 

 

 私の声と仕草で彼は気付いたのでしょう。嬉しそうな顔をして私に手を振りました。これでバットの事は安心.........

 

 

 そう思っていたのも束の間で、彼は何故かバットから両手を離し、左手と右手の拳を縦に繋げ、片方を捻り始めました。

 

 

マック「へぇ!!?な、何をしてるんですの!!?私は逆だと言ったんですのよ!!?」

 

 

スペ「あー!!あれ知ってます!!確かWBCで選手の人がやってました!!」

 

 

ウオッカ「確かペッパーミルパフォーマンスだったよな!!いやーマジで凄かったよなー!!!」

 

 

 な、なんですの!!?WBCでそんなポーズが流行したんですの!!?しかもそれを嬉しそうに私に見せつけて!!!なんですか!!!私が喜ぶと思ったんですか!!!本当にどうしようもない人です!!!

 

 

 そんな荒ぶる心のまま、試合は再度始まって行きます。彼は結局バットの持ち方を直さないまま、シリウスさんとの一騎打ちに望むのでした。

 

 

シリウス「.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

シリウス「.........」ググッ

 

 

桜木「っ―――と」

 

 

マック「な.........」

 

 

 一球目。彼は持ち前のその観察眼でシリウスさんの身体能力を見極めたのか、投球フォームに移行する前の段階で足を上げ、バットを振るまでのロスタイムを軽減させる作戦に出ました。

 ですが、私が驚いたのはそこではありません。彼女が今投げようとしたその時、まるでそのボールがどこに飛んで行くのかを知った様に足を下ろし、姿勢を楽にしました。

 

 

 彼の読みなのか、それとも勘なのかは断定出来ませんでしたが、結局その投げられたボールは、ストライクゾーンには入りませんでした.........

 

 

 

 

 

ゴルシ「おー.........!!!」

 

 

タキオン「球種を読んだ.........いや、あの伸び方はストレートだ。まさか投げる前に、どこに投げるか理解したのか.........?」

 

 

 ―――目の前で繰り広げられ始めた、熱い試合。ちょっと齧った程度のアタシでも分かる。おっちゃんのポテンシャルは相当今、ここに居る誰よりも高い.........!!!

 

 

ブルボン「人間の反応出来るスピードでは無いと察し、マスターは予め足を上げました.........そして踏み込むタイミングも、誰よりも早い物でした.........」

 

 

デジ「あ、ありますよ.........!!これ!!」

 

 

 熱狂だけだった会場に、鋭い緊張感が走った。大半の奴らはすごいって事しか分かんねーと思うが、一部の奴らはおっちゃんのやった事の凄さに驚き、目を見開いている。

 

 

シリウス「.........よく見極めたな」

 

 

桜木「伊達にウマ娘のトレーナーしてないさ。昔っから復習は苦手でね。ビデオを見直さないように普段からしてるんだ」

 

 

シリウス「.........」

 

 

 キャッチャーのグラスからボールを受け取るシリウス。さっきまでの疲れが若干回復してる感じはあるが、ボックスに立つおっちゃんの得体の知れなさに緊張からか汗が滲んでる。

 体力の回復を狙っているのか、シリウスは更に質問をおっちゃんに投げ掛けた。

 

 

シリウス「それでも、アタシの豪速球に反応しようとするなんざ普通じゃねぇ。何者だ?」

 

 

桜木「.........へっ」

 

 

「え」

 

 

 おっちゃんはその質問を待っていたと言わんばかりに背筋を伸ばし、笑って見せた。そこまでだったら良かった。まだ理解出来た。

 けれど次の瞬間。おっちゃんはバットを傍に投げた。その行動にこの場にいる全員が困惑した声を出した。

 

 

桜木「俺は地獄から来た男!!!」

 

 

桜木「大切な心を粉砕する情け無用のキノコ狩りの鉄十字団に心を打たれ、涙を流す少年の友情を粉砕する男!!!」

 

 

桜木「ヘル化ウマ娘キラー。スパイダーマッッ!!!」

 

 

 ズバーンッッ!!!

 

 

 ストライーク!!!

 

 

桜木「.........はァ?ちょ、タイムタイムッッ!!!普通投げる!!?そこでェ!!!」

 

 

 .........変なポーズをバッターボックスで決めたおっちゃんの真横を、シリウスの豪速球がストライクゾーンど真ん中を打ち抜いた。父ちゃんも空気を読んだのか、無効にはせずにしっかりとストライクにした。

 けれどそんな抗議には耳を貸すシリウスじゃねー。ボールを返されてまた直ぐに投げようとする姿を見て、おっちゃんはそそくさとバットを拾い直した。

 

 

ウララ「トレーナー!!何だかいつも通りだね!!」

 

 

ライス「そ、そうだねウララちゃん!ライス何だかちょっぴり嬉しいかも.........!」

 

 

オペ「何だあの美しいポーズは.........!!まるで蜘蛛のような.........今度ボクのオペラにも取り入れてみよう.........!!」

 

 

ゴルシ「.........はー、水吸ったスポンジをいきなり口に突っ込まれたみてーな気分だぜ」

 

 

 溜息を吐いて、アタシは観客席を立ち上がった。アタシも確かにおふざけが過ぎる所もあっけど、真剣勝負の時は流石にしねー。そういう事したりされたりすっと、アタシのやる気スイッチはブレーカーが落とされちまう。

 まー要するに、ちょっと興が削がれちまったって訳だ。良い感じに皆熱狂してるし、そろそろ焼きそばとかほかの食いもん補充してもう一度色んな奴に配ってやろう。そう思っていたけど.........

 

 

ゴルシ「.........あ!!?ねェ!!!アタシの作った焼きそば所か他のサイドメニューもデザートもねェ!!!!!」

 

 

 蓋付きの籠の中に保存してあった焼きそば。たこ焼き。フランクフルト。プリン。あんみつ団子。白玉ぜんざい。全部が全部消え失せてやがった。

 しかもそれぞれ二箱ずつ用意してたんだ。それが全部、物の見事に空になってやがる。い、一体誰がアタシの持ってきた食いもんを勝手に盗んで.........

 

 

 ごくんっ.........

 

 

ゴルシ「.........へ?」

 

 

マック「ふぅ.........♪」

 

 

 轟音っつっても差し支えねーくらいの大きな音。食いもんが喉を通る音が横から聞こえてきて、アタシは言葉を失った。

 そこには昨日まで.........いや、本当にさっきまでやつれちまって、痛々しすぎて見れねーくらいにまでなっていた筈のマックイーンが、元のふっくらほっぺを取り戻していやがった.........!!!

 

 

ゴルシ「お、おま、食ったのか!!?これ一人で!!?」

 

 

マック「むっ、失敬ですわね。私一人だけで食べるわけ無いではありませんか」

 

 

ゴルシ「だ、だよn「たこ焼きは一つずつフェスタさんとオルフェさんにあげましたわ」おい嘘だろ」

 

 

 有り得ねぇ。あんな量をマジで平らげたっつうのかよ.........これ、食欲戻ってきたっつうか、覚醒してんじゃねえかよ.........

 そんなわなわなと震えるアタシを無視して、マックイーンは準備が整ったと言うみてーに大きく息を吸って声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっとばせー!!!トレーナーさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビリビリとした衝撃が耳から始まって、すぐに全身に駆け巡った。まるで本当に球場で、プロ野球を応援する位の熱を入れてマックイーンの奴は応援し始めやがった.........

 

 

マック「ほら!!ゴールドシップさんも応援なさい!!!」

 

 

ゴルシ「えぇ!!?嫌だぜアタシは!!!ちゃんと応援してもふざけられたら意味ねーじゃんかよ!!!」

 

 

マック「それは違います!!!」

 

 

ゴルシ「!」

 

 

 アタシの言った言葉に対して、マックイーンは真っ向から反論してきやがった。少しはアタシの意見も汲んでくれるかと思ってたから、そんな真正面から打ち返してきたから、思わずアタシは身体を少し強ばらせる。

 そんなアタシを真っ直ぐ見つめた後、マックイーンは直ぐにおっちゃんの方へと目を向ける。真剣さはそのままで、そこに熱を入れ込んで行く。

 

 

マック「今の彼は、多分久しぶりのトレセン学園で周りが見えなくて、舞い上がってると思われます」

 

 

マック「ですが私達がしっかり応援すれば、彼はその気持ちをしっかり受け取って、真面目にプレイしてくれます」

 

 

マック「彼はそういう人だって.........貴女もよく知っているでしょう?」

 

 

ゴルシ「!.........っ」

 

 

 そう言いながら、マックイーンはもう一度アタシの方を。今度は優しく笑いながら見て言ってくれた。それを否定する材料を、アタシは持ち合わせちゃいない。逆に、そうだと言えるもんが、沢山ある。

 .........そうだ。今はちょっと、帰って来れてテンションが上がってるだけだ。おっちゃんはいつだって、アタシの悪ふざけだって真剣に聞いて、何なら信じてくれた時もあった.........だったら.........!!!

 

 

ゴルシ「おっちゃーーーん!!!頼むからどデカいの一発打ってくれよーーー!!!」

 

 

桜木「!.........」

 

 

桜木「.........ッッ」

 

 

 アタシはさっきまでの事は水に流して、マックイーンの言う通り全力で応援する。するとおっちゃんはその声だけ聞いて、ちょっとだけニヤついた顔を引き締めて、真剣な表情でシリウスと向かい合い始めた。

 

 

 二人の間には、その目線同士がぶつかる火花が見えて来るくらいの感情が交差している。ここに居る誰もがそれが見えてくちまうくらいの凄い気迫が、緊張感があった。

 

 

 そんな緊張感の中で投げられる二球目。やっぱりおっちゃんは早めに足を強く接地させる事でタイミングを合わせている。

 そして今度は見逃さずに、そのバットを強く振り抜いた。

 

 

桜木「ッッ.........っ」

 

 

 打球はストレート。しっかりとそのバットで捉えることは出来てたけど、時速200キロ超えの球速はやっぱすげー。芯からちょっと外れてたせいか、おっちゃんの打球はファールの方に遠く飛んで行った。

 

 

マック「ああ惜しい!!」

 

 

神威「すげぇなアイツ!!パワプロしかやって来なかったのに!!!」

 

 

黒津木「インドアも極めるとここまで行くのか.........!!!」

 

 

白銀「おい玲皇ォッッ!!!テメェ代打なんだから打たなきゃぶっ殺すかんなァッッ!!!」

 

 

 中には酷い野次が飛んでいってるけど、それでも本当におっちゃん。そしてそのおっちゃんと相対しているシリウスの声援が凄い。

 だって見てくれよ!あのさっきまで三日も水に入ってねーおたまじゃくしみてーだったマックイーンがおっちゃんが出てきただけでこれだぜ!!?半端ねーよな!!!

 

 

 そんな興奮が覚めない中、ようやくおっちゃんの表情はマジになってきたんだ。

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 ―――全く。帰ってきて早々いきなりユニフォーム着せられた時は何かと思ったけど、こりゃ良い。これくらい滅茶苦茶な展開の方が、帰ってきたっつう実感が湧くってもんだ。

 バットを強く握りしめ、構え直しながら俺はピッチャーのシリウスって子の顔をよく見てみる。

 

 

シリウス「.........」

 

 

 やっぱり。空港で会った子だ。まさかこんな形で再会することになるだなんて.........俺って奴は本当、トラブルに巻き込まれる天才だな。

 自分を自嘲しながら、俺は俺に対して何を投げようかと未だ手をこまねいている彼女に好機とみて、一度バットを降ろした。

 

 

桜木「おーい。シリウス、だっけ?」

 

 

シリウス「.........あ?」

 

 

桜木「ちょっと話そうぜ。俺、何でこんな事になってんのか知らないし、ほとぼり冷めて意見が変わる前の君の内心を知りたいからさ」

 

 

 戦う気無し。そう見せるように、降ろしたバットを地面に置いて両手を上げる。その様子を見て彼女は溜息を吐きながらも、いつでもボールを投げれる様な体勢を取ったまま、口を開いた。

 

 

シリウス「.........そういう、身体に染み込んだ甘さが嫌いだって言ってんだよ」

 

 

シリウス「今私が投げたら、お前は打てずにストライクを取られる。考えられねぇのか?」

 

 

桜木「勿論考えてるさ。けどそれ取られてもまだワンストライク残ってる。それだけ残ってりゃ十分」

 

 

シリウス「.........チッ」

 

 

 俺の言葉に苛立ちを覚えながらも、尚も投げてくる様子は無い。どうやら、話をしてくれるようだ。

 

 

シリウス「.........この学園は、生徒の主体性だなんだと謳っておきながら、その実、生徒会長一人の力で成り立っている」

 

 

シリウス「確かにルドルフの力は強大だ。それが一人で出来ちまうくらいにな」

 

 

シリウス「けれどそれじゃ、いつか限界が来る。けれどアイツは頭が固い。疲弊し、衰えてもそれを見せずに、変わらずに居ようとするだろう」

 

 

シリウス「それでアイツが折れた時。アイツを中柱として支えられていたウマ娘。トレーナー。ここの職員の奴らは共倒れだ」

 

 

シリウス「だから私は.........[革命]を起こす」

 

 

 流れる様に、詰まること無くスラスラと言葉が出て来ている。それはつまり、彼女はヘル化する以前から意識的にしろ無意識的にしろ、この考えを持っていたという事になる。

 俺は彼女の言う言葉に感心した。そして興味も湧いた。言葉は確かに厳しい物であったが、その考え方は、本当に優しい人にしか出来ないものだからだ。

 

 

桜木「[革命]って?」

 

 

シリウス「決まってる。私が[生徒会長]になる事だ」

 

 

シリウス「アイツ一人の[時代]を終わらせて、一人で完結して生きて行ける。私は、人任せの奴を量産する[トレセン学園]を、終わらせる」

 

 

桜木「.........ふ〜ん」

 

 

 なるほど。これは結構難題だ。一人の誰かに任せるからソイツが潰れる。だったらそうならないよう、自分だけの力で生きて行く力を養う。そんなトレセン学園を作ろうとしているのか.........

 確かにそれは聞こえは良い。けどその実、酷く脆い。それで生きていけるって奴はそれこそ、今の生徒会長みたいな人しか居ないだろう。

 

 

桜木「あのさ、人って結構弱っちいぜ?一人じゃ生きて行けないんだ」

 

 

シリウス「そうしようとしないからだろ」

 

 

桜木「しようとしたさ。けどダメだ。孤立すればする程、何にも持ってない奴は壊れていく」

 

 

シリウス「.........」

 

 

桜木「それに.........[一人ぼっち]は、さ。笑顔になっても、誰も笑い返してくれないだろ?」

 

 

 人が居ない。友達が居ない。家族が居ない。それだけだけど、本当に辛いんだ。俺はトレーナーになる前。本当に辛くて辛くて、仕方が無かった。

 周りには嫌な奴や、知らない奴、分からない奴ばっかりで。入って直ぐ仲良くなった人も早い段階で辞めてった。大人になればなるほど、友達の作り方が分からなくなる。

 そのせいで孤立して、人より出来ない自分の存在を強く否定して、次第に自分が消えてしまえば世界の全てが解決する.........なんて、根拠も無いのに信じ切るくらいに壊れて行った。

 .........俺は、繋がれないと、[強がる]事すら出来ないんだ。

 

 

桜木「こう見えても社会経験豊富だぜ?元会社勤めだし、海外旅行に二回も行った!」

 

 

シリウス「.........」

 

 

桜木「あっ、そう言えば君も海外に遠征行ってたんだろ?楽しかったっしょ!やっぱ!!」

 

 

 海外と言うのはやはり楽しい。俺自身の経験は散々だとかハチャメチャだとか、その一言に尽きる物しかないけど、それでも異国の文化とか情景とか、結構気に入っている。それにまた行きたいとか思ってる自分が居る。

 あいや、今度はアレよ?今までの行き当たりばったりとかじゃなくて、ちゃんとツアーに参加して、プランとかきっちり建ててさ。観光スポットらしい場所を行き来して、マックイーンとか、アイツらとかも最初から着いてきて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ズバァンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「―――.........」

 

 

シリウス「ふざけるな.........ッッッ」

 

 

 .........俺の真横を、豪速球が通過する。さっきまで投げられた球とは違う、本当に心のこもった球が、捕手のグラスワンダーのミットに煙を出しながら収まっている。

 

 

 折角良い雰囲気になってきたと思ったが、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。俺は緩んだ頬を引き締め直し、肩で息をしながら姿勢を真っ直ぐに戻していくシリウスを、じっと見つめていた。

 

 

シリウス「楽しかっただと.........?私はッッ、勝ちに行ったんだッッッ!!!!!」

 

 

シリウス「日本のレース文化はレベルが高いッッ!!!行く前は私もそう思っていたッッ!!!」

 

 

シリウス「だが蓋を開けて見ればッッ!!!高いだけだった.........!!!」

 

 

 怒りだけだったその声に、徐々に苦しみが混じり始めて行く。その姿に先程まで疎らに声を上げていた観戦者達も、静かに彼女を見始めていた。

 

 

シリウス「大体の外国で行われるレースは日本ほど熱狂的じゃないッッ!!!だがそれでも!!!アイツらの力は私らとは天と地程の差があるッッ!!!なんでか分かるかッッ!!?」

 

 

シリウス「.........死にものぐるいだからだよ。命を懸けてやってる。だから強い。だから勝つ」

 

 

シリウス「私らみたいに.........!!!仲良しこよしでやってんじゃねぇんだよッッッ!!!!!」

 

 

 悲痛な叫び。一体どれほど、海外のウマ娘達に苦い思いをさせられてきたのだろう。俺の目から見てもトップレベルの身体を持っている彼女がそう言うんだ。間違い無い。

 そして同時に、それが根本だと言うことに気付いた。彼女が[革命]を望む理由。その根っこの部分がこれだと。

 

 

 死にものぐるい。負けたくない。勝たなくちゃ行けない。俺は海外のレース事情に詳しくないが、その環境は正に、魔境なんだろう。

 その魔境で彼女は、シリウスはずっと孤独で戦ってきた.........けれどその孤独に打ち勝てず、負けを重ねて行った.........

 

 

桜木「.........へっ」

 

 

シリウス「.........何がおかしい」

 

 

 つい出てしまった笑いに、彼女は強い眼光と語気で反応する。別におかしくて笑った訳じゃない。色々と合点がいって、彼女の導いた答えが[間違っている]と、ようやく胸を張れて言えると思ったからだ。

 

 

桜木「いや、ちゃんと言えんじゃんかって思ってな」

 

 

桜木「さっきから革命だの生徒会長になるだの、飾り気の多い言葉が多かったからな。そういうのは抜きにしようぜ?お互いよ」

 

 

 地面に置いたバットを拾って、俺はボールを打つ準備をする。シリウスの事はこれだけ分かれば十分だ。これだけ真っ直ぐな子なら、絶対に届いてくれる。

 

 

桜木「君の[革命]ってのはさ。要は日本のウマ娘の在り方を、グローバルスタンダードにしようって事だろ?」

 

 

桜木「.........けどそれ。多分ひよってるだけじゃない?」

 

 

シリウス「は.........?」

 

 

 意味が分からない。彼女の表情はその疑問に埋めつくされ、その裏に苛立ちを隠している。まぁ、そんな反応されるだろうなとは予想していたけどね。

 でも、これは俺の本心。決してただの挑発なんかじゃない。

 

 

桜木「そんなのは[革命]じゃない。[支配]。もっと酷く言うんだったら[植民地化]だ」

 

 

桜木「もし本当に[革命]がしたいってんなら―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――この[甘ったれ]を、世界中に蔓延させる事じゃ無いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウス「っ.........知った様な口聞くんじゃねぇ.........!!!」

 

 

桜木「まぁそんな[弱気]になんなよ」

 

 

桜木「[強がって]行こうぜ?お互いさ.........!」

 

 

 彼女に伝えたい事は全部伝えた。後は勝負を決めるだけだ。俺が負けたとしても、彼女がこの先どうするかに影響を与える事は出来た。それだけで十分だろう。

 けれど俺も、負ける気は一切無い。やるなら全力。勝負なら勝ち。それをしてそれを狙う。ただそれだけだ。

 

 

桜木「俺はトレセン学園が好きだ。青春してるウマ娘が好きだ」

 

 

 多くの人に聞こえるように、今度は俺の本心を話す。嘘偽りの無い、今俺が抱えている全ての本音だ。

 この場所は素敵な場所だ。俺が生きてきた場所の中で、比べられない程に素晴らしく、そして生きがいのある場所。

 ここに居れば誰だって、自分の[要る理由]や[居場所]を見つけられなくとも、[要るようになりたい理由]と[居たい場所]を、見つける事が出来る。

 

 

 そしてそこには、必ずウマ娘達が居る。

 

 

桜木「それを支えるトレーナーが好きだ。厳しく育てようとする先生方が好きだ」

 

 

 そしてそのウマ娘を支える[大人]が居る。無茶して無理して、倒れそうになる子達の為に、必死に頑張って[強がって]見せる。

 その相乗効果があって初めて、俺達はお互いの強さを知って、弱さを受け入れる事が出来る。

 

 

 苦虫を噛み潰したような顔のまま、シリウスはこの勝負を終わらせる為に、ボールを持って上へと掲げる。

 彼女が体を逸らし、足を上げるのと同時に俺も片足を上げ、バットを限界まで引いてタイミングを待つ。

 

 

桜木「.........んでもって、代わりが見つからないアイツらが好きで.........!!!」

 

 

 どこに行ったって、どんな世界で暮らしたって絶対に見つかる事なんてない。そう思えるくらいに滅茶苦茶で、けどちゃんと常識はあって、本当に、カッコイイ時は俺よりカッコイイと思わせるアイツらが居る。

 そのお陰で、どんなに苦しくて、辛くて、死んだ方が楽だって思った時も、アイツらと会えなくなる位なら生き抜いた方がマシだと思える奴らが居てくれる。

 

 

 俺の目が、彼女の微かな動きを捉える。その両腕が離れ、振りかぶった瞬間に手指を見て球種を見抜き、その力強い動きで速度を割り出す。

 彼女が投げる前に、俺のバットはもう。決まった位置に向けてスイングを始めていた。

 

 

桜木「そして、絶対に忘れない.........!!!」

 

 

桜木「どんなにボケてもッッ!!!記憶を失っても絶対に離したくない位ッッッ!!!」

 

 

桜木「チームの皆が.........ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好きだァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――渾身の力が込められたフルスイング。全身全霊のストレート。それらがぶつかった瞬間。本来であるならば即座にボールが飛んで行く筈の物が、まるで鍔迫り合いをする様に彼のバットと競り合っていました。

 

 

マック「す、凄い.........」

 

 

ダスカ「っ!ちょっと!!サブトレーナーまだ打ってないのに、ランナーが.........!!!」

 

 

 並んで端の方に居るスカーレットさんが声を粗げて立ち上がります。こんな状況、本来ならば有り得ない事ですが、ボールがミットに収まるかどうか確定していない状況で走るなんて、盗塁する時でしか見た事ありません。

 しかし、塁に居る彼女達の表情を見ると、それはどこか確信があるかのような笑みを浮かべ、その足を次の塁へと進めていました。

 

 

マック「っ、トレーナーさん.........!!!」

 

 

桜木「マックイィィィーンッッッ!!!!!」

 

 

マック「!!」

 

 

 彼の行動が無駄にならないよう、そして、私のチームの努力が無駄にならないよう、自分の力が及ばないことを自覚している私は、目を伏せ、天に祈りを捧げました。彼が、チームが勝てるように.........と。

 しかし、その時彼の、私を呼ぶ彼の声が大きく響きました。ハッとした私はその声に意識を引かれ、顔を見上げて彼の方を見たのです。

 

 

 そこには、苦しそうに顔を歪めながらも、こちらに視線を送るトレーナーさんが居ました。

 

 

桜木「神様に祈ったって何も変わりはしないッッ!!!」

 

 

桜木「今生きてるのは俺達でッッ!!!俺達の人生を進むのは自分の身一つだけだッッ!!!」

 

 

桜木「道に転がる岩コロは退かすしかないッッ!!!穴ボコは飛び越えるしかないッッ!!!」

 

 

桜木「それが[山]になったってッッ!!![谷]になったってそれをやるしかないんだッッ!!!」

 

 

マック「っ.........!で、でも」

 

 

 彼の力強い言葉は、弱々しい心の迷いで行った祈りの行動を打ち消しました。けれど、それでもまだ、私の不安は晴れ切りません。

 そんな私の事を察したのか、彼はその苦い表情を無理やり変えました。汗を掻き、自分の出す全力で歪んだ顔を、その表情をやっとの思いで、[なんとでもしてくれる様な笑顔]に変えてくれたんです.........!!

 

 

桜木「俺は[奇跡]だって超えてやるって言ってきた男だッッ!!!」

 

 

桜木「身体の強さは確かに[君達]の方が分があるさッッ!!!」

 

 

桜木「けどそんな心持ちのまんまじゃッッ!!!いつまで経っても[隣]で歩けないッッ!!!」

 

 

桜木「だからッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メルヘェェェェンッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲットォォォォ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼がそう叫んだ瞬間。打ち込んだ体勢からそのまま一歩踏み込み、腰を落とした状態から強く振り抜きました。

 身体の動きによる威力の倍増。普通の野球の試合では起こる事ないその事態に、彼はたった一度の、しかも逃せば負けという状況で最適解を見つけ出し、その行動に身を移したのです。

 

 

 結果は.........見事ボールを真っ直ぐ打ち返し、ヒットどころか、場外に向けてボールが向かっていく。正に特大ホームランでした.........

 

 

パーマー「やるじゃんっ!!信じて走り出した甲斐あったよ!!」

 

 

桜木「へへっ、おう!」

 

 

 三塁ベースを踏んでいたパーマーがホームに戻ってきて、お互いの肘をぶつけあった後、彼はベースをゆっくりと一周し始めました。

 その姿を見て私は.........不覚にも、野球というスポーツで初めて、涙を流すという状態に陥って居ました.........

 

 

マック「グス.........最高の代打です.........!彼はやはり!![奇跡の代打]でしたわ.........!!!」

 

 

タキオン「.........あっ!!?今思い出したが、これはもしやマックイーンくんが見た夢の話そのものじゃないかい!!?」

 

 

テイオー「あー!!!た、確かにそうだよ!!三年前の話だったよね!!?」

 

 

 涙を拭い、鼻をすする私に確認を取るように、テイオーは俯く私の顔を覗き込んできました。正直こんな顔、誰にも見られたくないので辞めて欲しかったのですが.........

 しかし、彼女の言っている事は事実です。三年前。トレーナーさんがテイオーの為に海外へ行き、帰国してきた後に見た夢。普段ならばユタカが活躍し、ヒーローインタビューを私がする夢が.........代打として彼が登場し、彼のヒーローインタビューをするという、絶対に有り得ない夢.........

 

 

デジ「そ、しょんな.........!!!トレーナーしゃんはままま、マックイーンさんの為にその夢を三年越しの正夢にしようと.........♡♡♡!!?」

 

 

カフェ「そこまで来ると.........何だか、怖いですね」

 

 

神威「言ってやらないでくれ。二人とも愛が重いんだ」

 

 

 

 

 

シリウス「.........」

 

 

 ―――負けた。一体一の、全力をぶつけた勝負で、私は負けた。何度も経験し、何度も屈辱を味わったと言うのに、今の私はそれに対して、スッキリとした感覚になっていた。

 そして、それと同時に救われた。海外で戦ってきたあの時の私は.........確かに勝つ事は出来なかったが、間違っていなかったと。日本と大きく違う世界で、私は日本のウマ娘として戦ってきた。それは間違いじゃないと、心の底から思えるようになった。

 

 

シリウス(.........ハンっ、[革命]か、今にして思えば、何言ってんだって話だな)

 

 

シリウス(私が世界に行った事自体が.........[革命]じゃないか)

 

 

 閉ざされた日本のレース界。一体その力が外で、どれほど通用するのだろう。その膨れ上がった期待に好機を見た私は、世界へと飛び立った。

 苦難の連続だったさ。レースは勝ち切れない。化け物みたいな奴らはうじゃうじゃ居る。終いには、あっちの環境を真似しなきゃ勝てないとまで思う始末だ。救いようが無い。

 .........だが

 

 

『日本から来たというウマ娘。中々勝ちきれないな』

 

 

『ああ、だが何だろう。胸を熱くさせてくれる物を持ってるな!』

 

 

『きっと日本にはあんな娘が沢山いるに違いない!この国にあんな娘が沢山居たら、日本と同じ、いやそれ以上に盛り上がるはずだ!』

 

 

 勝つ事は叶わなかった。だが、[布石]は残した。奴等に日本のウマ娘の存在を、刻み込む事が出来た。

 [コロンブス]は世界で初めて[アメリカ大陸]を発見した偉人だ。だが彼は、その場所を[インド]と勘違いし、その勘違いを正す事無いまま生を全うした。

 それでも私達現代人は、彼の事を[革命家]と呼ぶ。その大陸に別の人物の名が使われていようと、私達はコロンブスが最初にアメリカ大陸を発見した革命家だと、はっきり言える。

 ならば私も、勝つ事は叶わなかった。それでもコロンブスの様に、後の日本のレース界にとっての、[革命家]でありたい。

 

 

 最初に世界で戦った。[日本のウマ娘]であり続けたい.........

 

 

シリウス(.........フっ、負けたぜ。[桜木 玲皇])

 

 

シリウス(こんな盤面を返されちゃ、どれが手持ちの駒だったかすらなんて思い出せねぇよ)

 

 

 三塁からホームベースへと回ってきて、男は最後の一歩を力強く踏み締めた。勝負の緊張感から解放され、一息ついたのも束の間。奴はすぐさま顔を引きしめ、その右手に拳を作り、天へと掲げた。

 

 

桜木「ウマ娘は強い。夢を追う為に、夢を叶える為に強くあろうとする」

 

 

桜木「だったらその隣を歩く為に―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺達トレーナーも、強くなくっちゃな.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇよ桜木っ!!あそこからホームラン打つなんて!!」

 

 

桜木「お、おう」

 

 

「滅茶苦茶感動した!!お前って本当土壇場に強いんだな!!」

 

 

桜木「ま、まぁな?」

 

 

「私!!今日のこと絶対忘れません!!」

 

 

桜木「へ、へー.........」

 

 

 ホームランを打って、ホームベースに戻ってきた後、観客席に居た連中の殆どが俺の周りに集まってきて口々にそう言ってきた。

 ありがたい事ではある。俺の起こした行動や結果一つでこうなるのは、俺の存在を認めてくれた。という事になる。

 けれどそれがなんだか居心地悪くて、俺は目を泳がせる。その泳がせた先に、俺はずっと会いたかった存在が目に映った。

 

 

桜木「っ、マックイーン!」

 

 

マック「!トレーナーさん.........」

 

 

 人の壁を掻き分けて、俺はそこへと向かって行く。彼女達はこの周りに沿って俺に集まってくる事はなく、その外でほとぼりが冷めるのを待っていたようだった。

 

 

マック「もう、折角のヒーローなんですから。もっと皆さんの声に答えませんと」

 

 

桜木「い、いや、そりゃマックイーンの言う通りだけどさ?その、ちょっと.........」

 

 

「気持ち悪い。ですか?」

 

 

桜木「っ.........桐生院さん」

 

 

 少し離れた場所から聞こえてきた桐生院さんの声。その方向を見ると、その言葉の辛辣さとは裏腹に、微笑んでいる彼女がそこには居た。

 

 

桐生院「確かに、桜木さんにとっては急な変化過ぎて、手のひら返しの様な感覚かも知れません」

 

 

桐生院「けれど皆さん、それこそマックイーンさんが天皇賞を勝ったあの日から、貴方の事を少しずつ、認めてたんですよ?」

 

 

桜木「そうは言われても.........ねぇ?」

 

 

 現実は確かに桐生院さんの言う通りかもしれないが、こちらとしては以前まで目の敵にされていた多数の人間が手のひらを返して俺を取り囲んで騒いでる様にしか思えない。俗に言う「はぁ?何話しかけてきちゃってるわけ?」状態である。

 

 

 そんなげんなりとした俺の様子を見て、流石のトレーナー陣も少し申し訳なさそうな顔をし始める。別にそんな顔をして欲しかった訳でも無いし、けどそうさせたのは俺で.........ああもうッッ!!!

 

 

桜木「おいッッ!!!」

 

 

「!!?」

 

 

桜木「別に俺はお前らを感動させる為に帰ってきた訳じゃねぇッッ!!!」

 

 

桜木「そろそろマックイーンに会わないと死ぬって思ったから帰ってきただけだッッ!!!」

 

 

マック「トレーナーさん!!?」

 

 

桜木「それを忘れるなッッッ!!!!!」

 

 

 俺の背後に集まる奴等に指を指して忠告をする。別にふざけて言っているわけじゃない。本当にそう。俺はマックイーンに会いたい一心でここに来た。そしたら校門前にリョテイさんが居て引っ張られてここに行けと指示されただけ。ユニフォームとバット持たされて。

 そんな俺の言葉に全員が背筋を伸ばして返事を返した。ようしそれで良い。今はアンタらに興味が無い。ほとぼりが覚めてから交友を作るんなら俺は別に構わない。今は邪魔をするな。

 

 

桜木「全く.........」

 

 

シリウス「.........話に聞いていた通り、無茶苦茶だな。アンタ」

 

 

桜木「あら〜シリウスちゃん!ウチのチームがお世話になりました〜大変だったでしょう〜?」

 

 

シリウス「なんだコイツ!!?」

 

 

 ジトっとした目で俺の方に視線を送ってくるシリウス。その隣に並ぶオペラオーと.........えっと、なんかロックンローラーみたいな髪型の子。

 う〜ん、皆素晴らしい肉体の持ち主だ。今すぐにでもチームに欲しい.........何とかして引き入れる事は出来ないだろうか.........?

 

 

タキオン「トレーナーくん。邪推している所済まないが、彼女達はチームに入る気は無いようだよ」

 

 

桜木「ダニィ!!?」

 

 

シリウス「勘弁してくれ」

 

 

桜木「シリウスちゃん.........!」

 

 

オペ「済まない先生.........!ボクもリギルに無理を言って貴方のファントムを務めてきたが.........どうやらここまでのようだ.........!」

 

 

桜木「あぁそうか.........」

 

 

「オレもチームは性に合わねェ」

 

 

桜木「ジュピター.........」

 

 

「エアシャカールだ。誰だそれ」

 

 

 ふ、振られてしまった.........!何でだ!!こんなにも素晴らしいチーム他に無いだろう!!?

 お昼は俺の献立表に沿った俺の手料理だし!!肉体に影響を与える様な実験は快く引き受けるし!!遊びながら出来るトレーニングも考えられるし!!絵本の読み聞かせも出来るし!!プラモデルを作る為の道具も買い揃えてあげられる!!!

 終いにはコミケ!!!俺の手に掛かればアシスタントから印刷、会場の抑えに設営売り子までやって挙げられる!!!しかも無償で!!!

 そ、そんなチームのどこがダメなんだ.........!!!

 

 

デジ「トレーナーさんの頭おかしい所ですかねぇ」

 

 

桜木「君のような言葉の鋭いデジは嫌いじゃないしむしろ好きだよ.........!!!」

 

 

 くそっ、やっぱり俺がダメなんじゃ無いか!!!そんなのどうしようも無いだろうこんちくしょう!!!

 なんて葛藤から直ぐに諦めがつき、俺は立ったままガックリと項垂れる。まぁいいさ。今はまだやる事がある。それを最優先に動けばチームの人数が増えようが増えまいが関係無い。

 

 

マック「.........?」

 

 

桜木「.........[ただいま]。マックイーン」

 

 

マック「.........っ」

 

 

 俺が帰ってきて、最初にやりたかった事。あけましておめでとうはもう伝えた。次に伝えたかった事は、[ただいま]を、自分の口から伝えたかった。

 前は.........本当にカッコ悪い言い方をした。本当、捻くれ者って面倒臭いもんだと自分でも感じるくらい、回りくどい帰り方をしてしまったものだ。

 けれどもう.........俺は[譲らない]。例えこの場所に俺より相応しい人間が居たとしても、絶対にこの[特等席]だけは渡さない。

 ここは.........俺の[居たい場所]だから。

 

 

 俺の言葉を受け取った彼女は、少し呆然とした後に、その目を伏せた。周りの皆がどうしたのかと思い、彼女に目を向けるが、俺は彼女の次を、静かに待った。

 

 

 

 

 

マック「.........何、が.........[ただいま].........ですか.........!!!」

 

 

マック「こんなに人を待たせておいて!!!こんなにも私に.........!!!」

 

 

 ―――車椅子の肘掛けに置いた手を握り締め、私は声を振り絞りました。今まで興奮によって忘れていた感情の堰がまた切られてしまいました。

 

 

マック「貴方はいつもそうです!!!」

 

 

マック「いつも!!!いつもいつも大事な事は言わずに!!!自分が出来る事を自分だけでやろうとして.........!!!」

 

 

マック「もううんざり.........!!!」

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 何度も何度も振り回されて、それでも帰ってきたり、元気な姿を見るとホッと安心して、直ぐに絆される.........そんなの、ただ都合のいい帰る場所にされているだけではありませんか.........

 そして、そんな都合のいい様になってしまう自分が.........一番嫌い。名前を呼ばれただけで、少しでも心が安らいでしまう自分が、大っ嫌い.........!!!

 

 

 顔を俯かせ、必死に感情を押さえ込もうと拳を握り震わせていました。もう周りの事なんて頭に無く、私はただ自分のこの嫌な気持ちを落ち着かせる為だけに意識を集中していました。

 

 

桜木「.........なぁ、マックイーン」

 

 

マック「っ、何です―――か.........」

 

 

 彼の問いかけに対し、私は少し反発するような声で言葉を出しました。けれど顔を上げた瞬間。出掛けていた言葉は最終的にすぼんでいき、突然暖かくなった身体に困惑しながらも、唖然とした声となりました。

 

 

「な.........!!?」

 

 

マック「っ!と、トレーナーさん.........!!?」

 

 

 周りの驚く声。その声で何が起こっているのかようやく頭が気付きました。この身体の暖かさは、彼に抱き締められている事によって生まれているものです。

 背中にまで手を回され、私の顔の横に彼はくつろぐ様に頭を置き、空いた手で私の頭をそっと撫でてきました。

 

 

桜木「言ったろ?[君の夢]になる。って」

 

 

桜木「その為なら俺。どんな事でもやり通せるんだ。信じ抜く事が出来るんだ」

 

 

桜木「.........けどそれで、君を心配させるのは、違うよな」

 

 

 その言葉に釣られるように、私も両手を、彼の背中に回し始めてしまいます。けれどそうしてしまえば、結局彼を許してしまう事になってしまう.........

 そうなれば、彼はきっとまた.........[居なくなって]しまう。そう思うと、彼の背中を包む勇気が、出て来ませんでした。

 

 

マック「.........口では何とでも言えますわ」

 

 

桜木「はは、そうだね。口だけなら。何とでも言える」

 

 

桜木「.........けどさ」

 

 

マック「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達のこの関係も、[口約束]からだったろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........っ!」

 

 

 優しい彼の声が、いつもなら大きく、自信たっぷりの彼の喋り方が、ゆっくり。そして私の事を労わるように言葉を発しました。

 そしてその言葉によって、彼と私の始まりを思い出させてくれました。

 

 

『1週間後にまた、トレーニングを見に来て下さい』

 

 

『メジロの名に恥じぬ走りを、今度こそお見せ致しますわ』

 

 

 そう。それが始まり。彼と共に本心から歩もうと思い、彼に初めて打ち明けた言葉。書面や文字等ではなく、ただの口で取り付けただけの約束。

 それがどんなに無責任で、効力も無く、脆い契約だったのか、今にして思えば有り得ない話です。

 けれど.........それ以上に、あの時のそれが、言葉だけの契約が.........何よりも素敵だと思えてしまった.........

 

 

桜木「なぁ、[見せて]くれよ。マックイーン」

 

 

マック「え.........?」

 

 

桜木「今度は俺だけじゃなくて―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日本の皆に、[君の走り]をさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「―――っ、ぁぁ」

 

 

マック「っ、ぁああ、うああぁぁぁぁん.........!!!」

 

 

 心臓が血液を送り出すように、身体の全身を血液が巡る様に、私の目からは、ようやく悲しみとは違う涙が溢れて来てくれました。

 運命も、確率も、方程式も、何もかもが存在しないこの先の道のり。それでも彼は、その言葉一つで、私の事を、私のこれからを信じていると言ってくれました。

 周りの目も反応も気にせず、私は遂に、彼の背中に手を回しました。彼の大きい背中に手を回して、彼の胸の中で声を上げて泣きました。

 

 

マック「貴方はっ、どうしてっ.........私の事を信じられるの.........っ?」

 

 

マック「もうっ.........元通りにはっ走れないかもっ、知れないのに.........っ!!」

 

 

桜木「.........信じるよ」

 

 

桜木「だって、俺は[君のトレーナー]なんだから」

 

 

桜木「世界中の誰もが信じられないなら.........俺が70億人分。[信じてやる]」

 

 

 .........そこまで言われてしまっては、私はもう、何も言い返す事は出来ませんでした。たださっきよりも、大きな声を出して、背中に回す手に力を込めて、泣く事しか出来ませんでした。

 それでも彼は、決して私のその涙を無理やり止める様な事はせず、呼吸が苦しくならないよう何度も背中を優しく叩いてくれました.........

 

 

ウララ「良かったね!マックイーンちゃん!」

 

 

ライス「うん......!うん.........!」

 

 

ブルボン「マスター。もし必要であれば私のハンカチを使ってください」

 

 

デジ「ぅうぅう.........!タキオンさん.........!何泣いてるんですか〜.........!」

 

 

タキオン「な、泣いてない.........!断じて泣いてないぞ私は.........!!!」

 

 

 一頻り泣き、心が若干晴れたのでしょう。周りの方々の反応がチラホラと耳に入ってきた私は、急に恥ずかしくなり、彼の胸を押してゆっくりと離しました。

 周りを見れば、私のチームの皆さんの様に泣いている方も居れば、顔を赤らめている人。そしてやれやれと言った様子でそっぽを向いている人。大勢居ました。

 

 

 こ、このままではまた変な風に勘繰られてしまいます.........!そう思い、私はぎこちないながらも彼に質問をしました。

 

 

マック「そ、そういえば!!なんでこんなに時間が掛かったんですか!!!」

 

 

桜木「いぃ!!?あ、いや〜、それは〜その〜.........非常に申し上げ憎い事なので―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?話せば良いじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「―――!!?」

 

 

 突然。この和から外れた校舎側の方から声が聞こえてきました。その声は、ここに居る人達にとって聞き慣れない物.........

 

 

 そして、私達[メジロ家]のウマ娘にとっては.........ここで聞くことは有り得ない物でした.........

 

 

「ご機嫌よう、[桜木トレーナー]?どうかしら、久々のトレセン学園は?」

 

 

桜木「ちょ、パールさん.........!あの人達には上手く伝えたって.........!!!」

 

 

パール「ええ。しっかりと伝えたわ。[桜木 玲皇。怪盗が頂く].........ってね」

 

 

マック「ま、待って下さいまし!!な、ななな、なんでトレーナーさんが.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[ラモーヌ]お姉様と顔見知りなんですの.........!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一難去ってまた一難。彼のトラブルメーカー振りはまだまだ健在のようで、私達は結局、彼の引き起こすとんでもない出会いに巻き込まれるのでした.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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