山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
人々はそれを[愛]と呼ぶ
春の季節の代表。四月。
北海道住みだった頃にはピンと来なかった桜が咲くという時期。確かにあっちにも桜はあったが、開花は精々五月が関の山。そういう話題は本州とは一足遅れてしまう。
桜木(全く、[桜木]なんつぅ名前でも、そういう所は親近感湧かねぇなぁ。俺が好きなのは春より秋なんだよ)
溜息をつきながら、手に顎を乗せて窓の外を見る。トレセン学園のグラウンドにも、桜の木が沢山植えられている。そろそろ満開になって、そして散っていくのだろう。
マックイーンの脚が完治してから約一ヶ月。彼女の練習メニューは想定より早くリハビリレベルを脱し、少し軽めではある物の現役の子達と同じ物になってきている。流石にまだ万全だった頃の量と質はこなせないが、着実に戻ってきている.........
.........けれど
レッツゴースタート♪カケヌケテー♪イーマーノコーノジーダイヲー♪
桜木「ん?何だ?」
突然、携帯に着信が入ってくる。普段だったらLINE通話の方で入ってくるはずなのだが、何故か普通の携帯番号の方で掛けられてきている。
誰かと思いその名前を見てみると、この状況で見たくない名前ランキング堂々1位の人。たづなさんであった。
桜木「げっ!!?俺なんかやらかしたか!!?」ピッ!
桜木「もしもし〜桜木です〜」
「こんにちは桜木さん」
その声を聞いた時、俺は安堵した。良かった。怒っている感じは特に無い。俺はすっかり安心した。
「URAファイナルズのファンレター、集計終わってますか?」
はいダウト。完全に終わりです。聞いた事もない単語と明らかな業務の内容。これは完全にやらかしです本当にありがとうございました。
そんなこんなで固まっていると、たづなさんはやっぱりと言って怒った様子を感じさせずに俺に説明をしてくれた。
「桜木さんが海外に行っている間にそういうイベントがあったんです」
「今現在、URAファイナルズに参加して居ない方、或いはトゥインクルシリーズを走って居ないトレセン学園在住の方の参加権が、ファンレター数一位のウマ娘に与えられるんです」
桜木「な、なるほど.........」
「ネットの方でもメッセージを募集していましたが、そちらは私達事務が集計致します」
「あっ、勿論手紙の方は桜木さんがしてくださいね?参加している方々の集計も行っていますので」
「[今日中]にお願いしますね♪」
桜木「へ!!?あの、ちょっとォ!!?」
たづなさんは俺に今明かされる衝撃の事実一方的に伝えてきてあっさりと電話を切ってきやがった。
最初の方はまだ良かったさ。うちのメンバーでURAファイナルズの出走予定名簿に名前を入れていないのはデジタルだけ。だが彼女はまだデビューしたばかりだし、申し訳ないがファンレターは楽に数えられる方だろう。
問題はしっかり参加するウマ娘のも集計するという点。うちのチーム、俺が言うのもなんだがハチャメチャに凄い。G1は勝ってるし(ウララ以外)有馬記念にも出てる(ウララ以外)。そして何よりファンが多い(特にウララは多すぎる)
そんな地獄の様な業務の存在を教えられ、俺は頭を抱えた。
桜木「今日は.........いや、今日もタキオンに頼ろう.........マジでごめんね.........」
本人が聞いたらきっとまたグチグチと文句を言ってくるだろう。それを予感しつつも俺はまず、本人が居ない前で謝る予行演習を済ませて置いたのだった。
ーーー
桜木「これはタキオンの.........これは、またウララか.........凄いな」
マック「本当、皆さん愛されていますわね」
放課後のチームルーム。そこで俺はたづなさんに与えられた業務をきっちりとこなしている。マックイーンと一緒に。
最初の関門、タキオンに事情を伝えるというのは思ってた以上に楽に事が運んだ。怒ることも文句を言うことも無く、まぁ仕方が無いと言って、彼女は軽く俺のお願いを了承してくれたのだ。
だが、想定外の事がある。それは勿論、マックイーンの事だ。
桜木「なぁマックイーン。別に手伝わなくたって良かったんだよ?身体動かしたいでしょ?」
マック「確かにそうですわね、ですが今の私はレグルスのマネージャーです。トレーナーさんが困っているのなら、それをお手伝いするのが最優先ですわ」
マック(.........それに貴方と一緒に居られますし)ボソッ
桜木「え?」
マック「!な、なんでもありません!さっさと終わらせましょう!!?」
彼女は顔を赤らめながら、先程呟いた何かを誤魔化すように俺をまくしたてて手紙の中身を分別して行く。聞いてはいけない事だったろうか.........
モヤッとした気分は晴れていないが、俺も進めなければ終わる物も終わらない。そう思い、手紙の中身をしっかり読み解いていく。
桜木「おっ、これはライスのか。なになに.........?」
拝啓、ライスシャワーさん。
私はしがないOLです。毎日電車に乗り、デスクワークをこなす日々を過ごしています。
貴女の事を知ったのは、何気なく付けたテレビのバラエティでした。そこで、司会の方に話を振られて動揺しつつも、頑張ってそれに応えようとするその姿に、恥ずかしながら心打たれてしまいました。
それから暫くはそんな可愛さ目当て、自分の疲れを癒す為に貴女の姿をテレビやネットで追っていましたが、それでレースを見ないのは失礼だと思い、思い立ったのが菊花賞の時でした。
ミホノブルボンさんの三冠が掛かっていると言うのは、普段レースを見ない私の耳にも情報として入っていましたが、私の気持ちは貴女の勝利だけでした。
その時の姿にいつもの可愛らしさは無く、ただただアスリートとしてのライスシャワーさんがそこに居て、度肝を抜かれるのと同時に、益々貴女に惹かれてしまいました。
けれど、貴女が勝った時、私は声を出す事が出来ませんでした。今思えば、本当になんて臆病だったんだろうと、桜木トレーナーさんの言葉を聞いた時、凄く後悔しました。
メジロマックイーンさんとの勝負もこの目で見ました。もしかしてとも思っていましたが、あのマックイーンさんに勝てるだなんて。貴女は本当に凄い人です。
私も貴女に負ける事ないよう、変わらない日々がこれから、楽しく変わって行くよう意識を持ちたいと思います。
URAファイナルズ。頑張って下さい
桜木「.........なんか、こういうの貰うと元気が出てくるね」
マック「ええ、自分の事ではありませんのに.........」
桜木「OLさんかぁ、もしかしてこの人、あの人なのかな?」
マック「?」
俺の言葉にマックイーンは首を傾げた。俺はそんな彼女に、あの日の出来事を軽く説明した。
春の天皇賞。ライスが勝ったあの日、多くの人々が彼女を、そして彼女と走ったウマ娘達全員を祝福した。
そんな光景を呆気に取られていた時、隣に立っていた女性に言われたんだ。
『私達も、子供に胸を張って居たいですから』
.........もしあの人が送ってくれたのがこれなら、とても嬉しいなぁ。
マック「.........あら、こちらはタキオンさんのですわね」
桜木「おー、どれどれ?」
初めてお手紙書きます!何を書いていいか分からないですけど!この手紙が一票になるなら書かせて頂きます!
アグネスタキオンさんは凄い人です!レースはスマートにこなしますし!雑誌やテレビの取材でも飄々とした感じでとってもクールな方だと思います!
それで自分!以前学園祭に来た時に握手して貰いました!ファンサもできるなんて完璧過ぎです!
でも、菊花賞の時、何だかいつもと違って、追い詰められた様な感じで心配になりました。
アレから大丈夫ですか?風邪とか、怪我とかしてないですか?とても心配です。
自分が出来ることは応援する事しか出来ません。もしタキオンさんや他のウマ娘の方に何か起こっても、それを知るのはニュースで発表された時くらいです。
そんな時、とてつもない無力感が溢れてしまいます。
勝手な心配、余計なお世話かもしれませんが、お身体は十分お気をつけください。レースに出るとしても、仮にレースを走らないとしても、自分はタキオンさんのファンです。
貴女の健康とこれからの躍進を、テレビの向こうで、出来ればレース会場の観客席で、見守って行きます。
マック「.........本当、あの人も変わりましたわね」
桜木「だね。会った時のまんまだったら、きっとこんな手紙は来なかっただろうね」
悪いとは思いつつも、俺とマックイーンはお互いに顔を見合せて苦笑する。最近はそれこそ、あのタキオンが〜って感じの話題で溢れ返っている。
傍若無人というか、他人に無頓着というか、実験以外に興味が無いと言っても過言じゃないあの子が、ファンの人に心配されるまでになった。
きっと、恋人である黒津木の存在もあるのだろう。憎いやつだぜ。きっともうキスとかも済ませちまってんだろうなぁ。
桜木(.........俺もいつか)
マック「?私の顔になにか着いてます?」
桜木「!あいや!別にそういう訳じゃ.........」
桜木「あっ!これブルボンのだ!!」
危ない危ない。まだ俺の心を悟られる訳には行かない。特に彼女には.........
そんな焦りを隠しつつ、俺は箱の中にぎっしり詰まった手紙の内の一つ。ブルボンのファンレターを手に取ってその中身を開いた。
初めてお手紙をお書きいたします。読み辛い部分がありましたら申し訳ございません。
私は現在、大学へ通っております。研究分野は幼い頃から興味のあった宇宙に関する物です。
私は昔から要領が悪く、両親からは大学は就職の為の通過点だと思いなさいと常々言われてきました。高校時代、それも仕方が無いと思い、自分の能力の無さを恨みつつも、両親の言う通り、宇宙の事は片手間に、就職の為の進学を進めていました。
そんな時、私は貴女がランニングする姿を見ました。最初こそウマ娘だから当然だと思って、あまり気にしませんでした。
ですが、貴女がデビューし、貴女の事がテレビやネットで詳細に分かってきた時、気付いた時には私は、親に対して今の大学に行く。と啖呵をきって居ました。
非常に勝手で、気持ち悪いと思われるかもしれません。けれど私は、スプリンターでありながら三冠を目指そうとするその貴女の姿に、いつしか自分の姿を重ねていました。
努力をすれば、夢を追い続ければいつか手が届く。そう思わせてくれる程に、貴女の走りと決意は、私の背中を押してくれました。
三冠を逃したあの日。私は悔しさを覚えつつも、何故か納得感が湧いてきました。自分の事では無いのに、自分に置き換えた時、そうなっても良いかもしれないと思いました。
私の夢は、自分の研究がいつか、宇宙に届く事です。直接的で無くてもいい。私では無い誰かが埋もれた私の研究成果を拾い上げ、それを組み込んでくれるだけで良いとさえ思っています。
この大学で研究に没頭できるのも、そして誰かが成し遂げても良いと思えるようになったのも、全ては貴女のお陰です。
今はまだレースに出られていませんが、次の公式レースは絶対に見に行きます。菊花賞で対決したライスシャワーさん。そして本当に夢のような話ですが、長距離で最強と名高いチームのエースである、メジロマックイーンさんとの対決がいつか見れたら嬉しいと思っております。
長文、失礼致しました。
マック「.........そう言えば、まだブルボンさんとは一度も公式レースで走ってませんわね」
桜木「あっ、言われて見ればそうだね」
マック「今のこの脚で通用するとは思えませんが.........彼女とも走ってみたいものです」
慈しみ、そして愛する様に自分の左足を彼女は撫でる。俺もそれを見てから、手紙を分別する箱の中へとゆっくり入れる。
ブルボンの状態は今のところ、問題は無い。ようやく怪我前のスパルタトレーニングが出来るようになってきて、力も戻りつつある。
けれどだからと言って、長距離を走れるようになったわけじゃない。菊花賞の時も、まだ万全じゃなかった。今度はそれこそ、それを仕上げに取り掛かっている段階だ。
もし、ライス。そしてマックイーンとの直接対決が同時に繰り広げられたら.........なんて、夢みたいな話かもしれない。
けれど、来年の春の天皇賞には.........期待している。
桜木「それにしても、うちの子達のファンの民度良すぎじゃない?俺もっと激励的な奴が飛んでくるかと思ってたよ」
マック「そんな事あるわけないじゃないですか!失礼ですわよ?」
全く、と言って彼女は少し不機嫌になって手紙の選別を再開した。どうやら怒らせてしまったようだ。自分達を応援してくれている人達を悪く言ったと思われてしまった。これは俺が全面的に悪い。
手を必死に合わせて謝りながら自分の真意を伝えると、マックイーンは言い方を気をつけろとピシャリと俺を叱ってくれた。こういうところは本当に頭が上がらない。
桜木「マックイーンは本当、チームのお母さんだなぁ」
マック「言ってるそばからまた.........ふふ、もう良いです」
俺の言葉に呆れながらも、彼女はそれを笑って許してくれた。申し訳ないと思いつつも、そんな彼女にどこか甘えている自分が居る。
最初は面倒なだけかと思っていたけど、彼女とこんな時間を過ごせるのなら良い物になった。そう思いながら、俺達はまた箱の中の手紙を一枚取り出す。
桜木「.........うっはー。またウララの手紙だ!」
マック「まぁ、本当大人気ですわね」
桜木「応援したくなるんだろうなぁ、気持ちは良く分かるよ」
二人で笑いながら、手紙の中身を開く。そこには拙いながらも、しっかりとした文字が書かれていた。
ハルウララおねえちゃんへ
きょうはママがウララちゃんにおてがみをかこうっていわれておてがみをかきました。
ウララおねえちゃんはすごいです。おいかけっこのときはぜったいにつかまらないし、おにになったときはいっつもつかまっちゃいます。
ウララおねえちゃんはとってもはやいとおもっていました。けれどママといっしょにみにいったレースでは3ばんめくらいでした。とってもかなしかったです。
けれどウララおねえちゃんは3ばんめでもすごくえがおで、いつものウララおねえちゃんでした。
でもやっぱりウララおねえちゃんにはかってほしいです。おうえんしてるよ。
こんどあそぶときは、ぼくたちにもはしりかたおしえてね。やくそくだよ。
桜木「こんな小さな子まで.........」
マック「それにもう一枚.........これは、似顔絵ですわね.........」
まだまだ拙いけれど、丁寧に気持ちを込められた物だと分かる手紙。同封されていたもう一枚は、おっきい顔のウララと、周りに居る子供達の絵。これまた分かりやすいように、一人一人名前を振られている。
こういう子供からの手紙を見ると、心がとても温まる。あの子達は本当、多くの人達に愛されているのが良く分かった。
桜木「.........君への手紙があったら、もっと時間が掛かったろうな」
マック「そう、ですわね.........私の出場名簿は[繋靭帯炎]が発症した時、たづなさんに連絡して取り消して貰いましたから.........」
良くは覚えてませんけど、そう言って彼女は悲しく笑った。今でこそそれは治ったものの、やはり当時は酷いショックを受けただろう。夢を絶たれた.........その思いは正直、死ぬ意味を持つと言うよりかは、生きる意味を失うと言った方が正しい。
そんな彼女を見て、俺は無意識のうちに彼女の頭に手を伸ばしていた。髪の毛に触れた途端、しまったと思ったが、彼女の先程の顔を思い出すともう、自分の薄っぺらい自衛心なんてどうでも良くなった。
そんな俺の手に抵抗することは無く、彼女は少し驚きながらも、嬉しそうな表情を見せてくれた。そんな表情を見てるだけで、俺も嬉しく―――
「何をしてらっしゃるんですか?」
二人「っ!!?」
突然、俺とマックイーン以外の第三者の声がチームルームに響いた。俺とマックイーンは驚き、お互い離れるように体を仰け反らせてその声の方を見ると、そこには箱を三段重ねて持つ人が立っていた。
桜木「い、いや〜、マックイーンもお手紙貰いたかったみたいで、慰めてました.........」
「.........そうですか。それなら問題はありません。よっ」
机の上にその箱が下ろされ、ようやくそれを持ってきた人の姿が見れる。そこには、呆れた様な表情を浮かべて俺の方を見るたづなさんが居た。
き、気まずい.........言い訳が苦しすぎたか.........?いや、間違いでは無い。実際彼女がURAファイナルズに参加していたのなら、かなりの数の手紙を貰っていたことだろう。俺はそう信じている。
マック「そ、それでたづなさん。この箱は一体.........?」
たづな「チーム[レグルス]へのファンレターに決まってるじゃありませんか!これではきっと、ファン数一位は桜木さんのチームの誰かでしょうね」
桜木「あの、すいません。これ一箱でこれなんすけど、これも今日中に.........?」
目の前に積まれた箱を見て、俺は恐れおののいた。目の前の現実を直視出来ず、思わずそれを自分に突きつける為の一言をたづなさんに投げ掛けてしまった。
しかしたづなさんは困った顔を一瞬見せ、そして首を横に振った。
たづな「流石に、この量を一日で捌ける人なんて居ませんから。特別ですよ?」
桜木「ほ、本当ですか!!?」
たづな「こういう時の為に予定日は常に前倒しで設定しておくんです。毎回忘れて焦る人が居ますから♪」
マック「ほっ、助かりましたわね。トレーナーさん」
流石のマックイーンもこの量を一日で.........とは思えなかったのだろう。たづなさんの回答によって安心した表情で俺の方を見てくる。
俺もたづなさんの言葉を聞いて一安心することが出来た。後は無理せず、このお手紙達を.........
たづな「あっ、一つだけ言わせてください」
二人「?」
たづな「寄り添い合うのはいい事ですが.........学園内の風紀を乱さない程度にお願いしますね.........♪」
二人「.........っ///」
普段はしない様なイタズラな笑みを浮かべて、たづなさんは俺達のチームルームを出て行った。
残ったのは.........酷く赤面して、お互いの顔を暫く見る事が出来ない俺達と、机の上に置かれた四つの箱だけだった.........
ーーー
桜木「や.........やっと一箱終わった.........」
マック「お疲れ様です。ココアを淹れましたのでよろしければ」
桜木「勿論頂くよ。ありがとうマックイーン」
空になった手紙が入った箱。テーブルの上には後三箱。俺のデスクの上にはそれぞれチームメイトの名前が書かれたのが四箱、手紙の数を正の数で書かれたプリントが貼られてそこにあった。
彼女がココアを淹れてくれたと聞き、机に突っ伏していた俺は顔を上げ、彼女からココアを受け取る。猫舌の俺に配慮してくれたアイスココアの甘さに脳の疲れを癒しながら、俺は外を見た。
桜木「もう暗いな.........マックイーン、そろそろ帰った方が良いんじゃない?」
マック「!.........お邪魔、でしたか.........?」
桜木「え!!?いやいや!!いくら寮が近くて君が強いウマ娘だからって、遅くなったら危ないだろ?」
マック「そ、その時は一緒に帰ればいいではありませんか!!」
桜木「それは.........そうなるよね.........」
彼女の反論にぐうの音も出ない。俺はその提案を飲み込み、自分の至らなさに呆れのため息を吐いた。なんでこう頭でっかちなんだろう.........
そんな思いを消し去るようにココアの甘みに集中していると、マックイーンが手紙をまた開けていた。
桜木「あら?休憩しないの?」
マック「ええ。私、体力を有り余らせて居ますから、ここで使っておきませんと」
桜木「ふーん.........気を付けてねマックイーン?カミソリとか入ってっかもよ〜?」
マック「!!?そ、そんな事ある訳無いでしょう!!!」
先程よりも強い口調で彼女は俺の事を否定してきた。けれど、さっきと違って俺はあまり、それにダメージを貰わなかった。
.........実際にあった事だ。ライスが菊花賞を勝った後、送られてきた手紙の中にはカミソリが仕込まれていて、俺はその刃で血を流す羽目になった。皆には気付かれて居ないかもしれないが、それ以来手紙の開け方を変えている。
憤る彼女に謝りつつも、それでも気を付けるように言うと、俺の言った言葉が冗談交じりでありつつも、実際に起こりうる事だと察した彼女は、慎重になり始めた。
桜木(.........URAファイナルズか)
桜木「.........[夢]、みたいなレースだよな。ホント」
マック「.........っ、そう、ね」
桜木「.........?マックイーン?」
俺の独り言に、彼女は詰まった言葉で反応する。いつもだったら歯切れのいい返しをする彼女が、なにかに動揺している。
不審に思った俺は席を立とうとするが、彼女はそれをなんでもないと言って止めてきた。
マック「.........私も少し疲れたのかも知れません。次のお手紙を読んだら、ちょっと休憩しますわ」
桜木「.........いや、もう帰ろう。あまり無理しすぎてもダメだよ。折角たづなさんが期間を伸ばしてくれたんだから。ね?」
マック「.........はい」
気まずい沈黙を間に置きながら会話をする。何が原因でこうなったのかは分からないが、現状そうなってしまっている。
俺も何か、そういう空気を壊せるくらいの無神経さがもっとあればと思ったが、どうにも彼女と居るとそんな気が起きない。彼女の大切なその自意識を、俺のそうで居たくないという思いで変えるのは、酷く利己的な物だと思ってしまう。
桜木「.........」
マック「.........っっっ」
桜木「!マックイーン!!やっぱり何か悪戯が―――」
一際大きな反応を、彼女が見せた。明らかに普通の反応では無い。今度は彼女が止めようとしても止まらない勢いで立ち上がり、彼女の傍まで行った。
急いで彼女の手を取り見てみるが、怪我どころか、切り傷一つすら着いていない。けれど彼女の両の瞳には大きな涙の雫が溜まり、そして床へとポロポロと落ちて行っている。
一体、何が.........?
マック「トレ、ナー.........さん.........」
マック「これ.........!!!」
桜木「.........っ、一体何を書いてきやがったんだ.........ッッ!!!」
俺の切羽詰まる姿に観念したのか、マックイーンは恐らくその涙の原因になったであろう[手紙]を俺に渡してくる。
クソ.........!!!こんな事ならやっぱり俺一人で集計して居れば―――
桜木「―――っ!!!」
.........そんなどす黒い気持ちは、手紙に目を通した瞬間に消えて行った。俺は目を見開き、その内容に驚きながらも、しっかりと読み込む為にその紙に、その文字に対して顔を寄せた.........
その手紙は.........
初めて耳にした時、驚きました。
繋靱帯炎のこと。
私はテレビや新聞、あらゆる媒体でマックイーンさん達を見てきました。
かなり前の年末特番では桜木トレーナー達がしてきたことにずっと爆笑してたり、
いつぞやの感謝祭の生放送の時はカラオケタッグバトル以降ずっと「この二人もう結婚してたのか!?」と思ってました。
そして何よりレース。
デビューのレースを見た時から、美しく、力強い走りをする娘だと思いました。
メジロの名を背負う者はこうも強いのか、とも。
菊花賞では、この娘なら天皇賞制覇という目的を優に超えていくのではないか、と思いました。
春天のどこまでも飛んでいけるような走りを見た時、夢を叶える為に、全力で走るマックイーンさんを必死で応援していました。感動のあまり自分が泣いていることにも気づかずに。本当に号泣による脱水症状で死ぬかと。
秋天の走りもその圧倒的な強さに惚れ惚れしました。降着になってしまった時は頭を抱えてしまうほど悲しかったことを覚えています。
そして、テイオーさんとの頂上決戦。
私は初めてレース場まで足を運びました。
その時は本当に、歴史の1ページを目の当たりにしたような衝撃。
ずっと応援してた推しが骨折から復帰してまたレースで見られた感動。
初めて生で見たレースがあのレースで良かった。とそう心の中から言えるような素晴らしいものでした。
ライスシャワーさんとの対決ももちろん生で見ました。もうずっと「かっこよかったよマックイーンさん」と「よかったねライスちゃん」と感動の叫びしか出せてなかったような気がしますw
本当に長々と拙い文章で語ってしまってごめんなさい。
ただ、知ってほしかったんです。あなた達をもう一度、もう一度でもいいから活躍を見たい。と思っている者がいることを。
時に新聞を抱え、時に画面の前で、レースがあれば客席の先頭で。もう一度マックイーンさんがターフに立つその瞬間を、桜木トレーナーがマックイーンさんと共に笑顔で取材を受けているところが見れるまで、私はずっと待ち続けます。
これからも、ずっと待っています。
桜木「これ.........って.........」
手紙を持つ手が震える。視界がどんどん、滲んで歪む。この手紙は、どうやらマックイーンに向けて書かれた物らしい。じゃあ、この手紙のカウントは彼女に乗る.........
だけど、そんな事をした所で.........意味なんて―――
『今現在、URAファイナルズに参加して居ない方、或いはトゥインクルシリーズを走って居ないトレセン学園在住の方への参加権が、ファンレター数一位のウマ娘に与えられるんです』
桜木「―――まさか」
有り得ない。そんなの、起こりっこない。ただの俺の都合のいい妄想で、そんな期待をした所で無駄に終わるだけだ。
.........けれど、それでも俺は、思ってしまった。だったら、それを確かめなくちゃ行けない。
三箱。その中から無作為に手紙を何枚か選び、それを一つずつ開封して行った.........
メジロマックイーン様、桜木玲皇様
普段はファンレターを書かないのですが、今のお二人の事を考えると、筆を持たなければと思ったので勝手ですが送らしてもらいます。
と言っても私は書くのが下手なので多くは語れません。
あなた達は2人だけじゃありません、我々ファンも着いています
現地には行けませんが、これからもテレビの前から御2人を全力で応援しております
御2人のファンである事を誇りに思うただの一般男性より
桜木「これも.........」
マック「.........っ」
メジロマックイーン様、桜木玲皇様、失礼します。日頃から応援させていただいているものでございます。
この度は繋靭帯炎を克服したと言う噂を小耳に挟み、いてもたってもいられず送らせていただきました。
新バ戦が始まってから何年経ったのでしょうか…マックイーン様の選手として、そして桜木様のトレーナーとして初のレースの日が未だに心の中に残っております。
あの時はウマ娘のレースについての知識が全くなかったので、『ジャックポットは狙うべきものじゃない』コレを初め聞いた時はかなり独特なトレーナーさんだという印象、あの重バ場を圧倒的な強さで勝ち抜いたダート主戦のウマ娘といった印象を持っていました。
しかし、追いかけて行くにつれ、桜木様は言葉選びが独特という事に加え、はっちゃける時はかなりハジけるけれど、どんな時でも担当のウマ娘の皆様に真摯に向き合い、支え、共に駆けてゆく立派なトレーナーさん。
マックイーン様は圧倒的な強さという印象は更に強くなり、芝の中長距離を主戦として持ちうる全てを使い勝利を掴み取り、同じチームの皆様と切磋琢磨して更なる高みを目指されている選手といった印象に変わっていきました。
それと、時折番組でのおふた方の絡みなどを見ていると担当とトレーナーの域を超えて背中を預け合える相棒………いえ、まさに一心同体の相棒と言った言葉が一番しっくりくる最強最高のコンビだと思っております。
世間では引退といった噂も流れて来ておりますが、公式発表がない以上は現役を続行することと考えております。
繋靭帯炎はウマ娘にとって不治の病と言われていますが、過去には復帰して栄光を勝ち取った方々もいます。
その為には長く険しい道になると思いますが、まだほんのちょっぴりでもレースへの熱や未練が残っているのであれば、諦めないでください。
あなた方がレースのたびに見せてくださる夢はどれも熱く、色鮮やかで、強くて勇気を貰えます。
友人や知り合いに話すと、いい加減夢から覚めて現実を見ろとも言われますが……だとしても、見続けたい夢だってあります。
わがままなお願いをあなた方に押し付けてしまっているというのは分かっています。ですがどうか、あなた方にとって満足するゴールに向かってください。
絶対に最後の最後まで応援し続けます。そして、再び何処かのレース場でお見かけする事を楽しみにしております。
メジロマックイーン様や桜木玲皇様、スピカ:レグルスの皆様のこれからの旅路に幸多からんことを切にお祈り申し上げます。
桜木「これも.........!!!」
マック「っ.........ぁああ」
拝啓、メジロマックイーン様
繋靭帯炎からの復帰、誠におめでとうございます。トレーナーさんや周囲の人々からの応援と、マックイーンさんの弛まぬ努力が産んだ結果なのでしょう。奇跡、などという言葉では軽すぎるだろうと感じる今日この頃です。
私事ではありますが、先日とある試験を受けてきました。去年落ちた経験のある試験なのですが、私にとっては一年かけて再挑戦するほどの価値があるものです。仮にまた落ちたとしても、きっと来年にはまた受験しているでしょう。夢と呪いは紙一重、とはよく言ったものですね。
そんな何度でも追いたくなる夢というものを、私に教えてくれたのはテレビ越しの貴女でした。もし貴女の美しい走りが無ければ。もし貴女の姿を見る事が無ければ、私は何も無い人間のままだったでしょう。
どうか貴女らしく、夢を追いかけてください。私はその軌跡に憧れながら、自分の夢を追いかけます。
まだまだ寒い日が続きます。どうか体調にはお気をつけてお過ごしください。
ファンより
桜木「.........っ」
マック「グス.........ヒグ.........」
中には、寄せ書きの物もあった.........
ぶどうのミルフィーユ
大丈夫だ。俺様達が、マックイーンちゃんの友人が、トレーナーが、そばにいるからな。
トマトオムレツ
弟と共に、デビューから応援させてもらった。叶うのならばもう一度、俺たちに夢を見せてほしい。
謎のトレジャーハンター
「正義と愛は必ず勝つ」、俺はあまり好きな言葉じゃないけど、そうだと信じてる。頑張れ、マックイーン!
仲良し三人組・その三
どうか今一度、貴女に立ち上がる力を。友達と一緒に、いつまでも応援しています。
画家志望
みんなに夢を見せて、ここで終わるのなんておこまがしいんだよ。やれること全部やって、全力で応援するから、がんばれ!!
妹LOVE
↑「おこまがしい」じゃなくて「おこがましい」な。あと寄せ書きに書く内容じゃねえだろ。
まあ、こいつも俺たちも、全力で応援してるからな!
今日の夕飯はオムレツ
大丈夫、みんなついてる、私たちもついてる、いっぱい応援する。イケるイケる!!
青薔薇
信じて進めば、壁は壊せる。大丈夫だ、きっとマックイーンの壁も壊せるさ。
華麗な俺様
きっと大丈夫よ、俺様達が保証してる。嬢ちゃんなら、負けないってね。
商人
ユーならこのヘルにもルーズしない、レジェンドになるって。そうエクスペクテーションしてマース。
桜木「っ、っ.........!」
マック「ぅぅう.........あぁ.........!!」
拝啓。メジロマックイーンさんと桜木 玲皇さんへ。
お二人の事は最初から追っていました。マックイーンさんの方はメジロ家という事もあり、私自身以前から期待をかけていました。
最初の印象は、大丈夫なのだろうか?でした。
片や名家名門のウマ娘。片や一般家庭出身、身内にウマ娘が関わっていないぽっと出のトレーナー。私の中では最初、絵に描いた様なデコボココンビでした。
ですが、時が経つにつれ。レースを迎えるにつれ、実際に並んで立つ姿を見ても、テレビ越しでも、お二人の気持ちが徐々に重なって行く様子が手に取る様に分かりました。
マックイーンさんが最後に走った京都大賞典。あの時私は、頂点を見ました。日本のではありません。全世界の、今この世に生きるウマ娘達の頂点。その称号に相応しい走りだと思いました。
ここで終わっていいわけがありません。貴女の物語も、貴方の物語も、そしてそれを楽しみに待つ私達も、決して納得できません。
まだ貴女に走る気持ちがあるのなら、まだ貴方に相棒を支える気持ちがあるのなら、どうかその空いた隙間に、私達ファンの願いも乗せさせてください。
繋靭帯炎がなんですか。不治の病がなんですか。奇跡を超える。そう言い続けるのなら、それを実現させて見せてください。
私だけじゃありません。きっと多くの方々が、貴女方の復活を待ち望んでいます。
そして、貴女方を応援し続けている人達が居る事を、決して忘れないでください。
そしてどうか.........本当に勝手なお願いかも知れませんが、怪我に苛まれ、自ら競走者としての道を断ち、未だに迷い続けてしまっている私に、貴女方が選んだ正解を、見せて下さい。
これからも、チームの皆さん。そして関係者の方々と仲良く、そして楽しく過ごしてください。
私はずっと。貴女達を応援しています。
駿川たづなの親友。トキノミノルより
桜木「.........嘘だろ」
桜木「じゃあこれ.........本当に、全部.........っ!」
読み上げた手紙を持った手から力が抜け、テーブルの上へひらりひらりと落ちて行く。目を移した先には、三つの手紙がぎっしり詰まった箱。もう、勘ぐる余地は何処にも無かった.........
その時、デスクに置いてあったノートパソコンの方に通知が届いた。普通だったらこの状況で見る事は無い。後に回すのがいつもの俺だ。
けれど、不思議と俺はそこに向かっていた。何か予感に駆られるように。一通のメッセージの詳細を開いた。
そこには、理事長から何かの管理者権限を貰ったという物だった。
桜木「.........」
マック「グス.........トレーナーさん.........?」
震える彼女の声。それに釣られて、俺はその顔を見た。涙でぐしゃぐしゃになって、目元は赤く、手に持ったハンカチももう、濡れ濡れだった。
そんな彼女の姿を見てから、俺は震える手で、メッセージに添付されたサイトに接続した。
そこは.........URAファイナルズのイベントページ。
そして、多くの人々のメッセージが、びっしりと詰まっていたページだった.........
筋肉侯爵
デビューも引退までも、どうか貴女達を応援させてくれ。世界に幸福を、メジロマックイーンに信頼と力を!
筋肉令嬢
最後まで駆け抜けましょう!へばっても、あたくしやみんな、貴方のトレーナーが背を押しますわ!
また筋肉がついてしまった
涙は勝つまで取っておくさ...今は迷わず、真っすぐ、貴女の力となりましょう...!
兄じゃない方ですみません
大丈夫です。僕なんかが信じるまでもなく、マックイーンさんはやり遂げてくださいます。そうでしょう...?
キテ〇ツ大百科
頑張ってください、マックイーンさん。大丈夫です。馬鹿力はいつも、何もないところからでるんですから!
大盤振る舞い
わたしはただ一心に、貴女達を祈り続けることしかできないけど...精一杯応援しますわね。
祈願の歌を枠がない
シュンとしてちゃ駄目だよね!顔あげて、前向いて、勝利とトレーナーさんを信じるのみ!
ハルウララと声が似ているらしい
上等ですわ!こう、バチコーンと盛大にかましてやりましょうでございますですわ!
動物愛好家
マックイーンさん、かっこいいね。けれど、あなたのトレーナーさんも、貴女の周りの皆もかっこいいのだから...負けるはずないさ!
自称アンナさん
アンナさんの信じる力を、大サービスしちゃう。返品出来ないから、全部使って、勝つわよ!
死神の逆位置
信じれば叶う。不思議だけど、世の真理だ。どうか、あの星の彼方より、愛しき名優の帰還を...!
桜木「.........はは、なんだよ」
桜木「みんな.........!待ってるじゃんかよ.........!!!」
身体が震える。言葉では言い表せない複雑な感情。けれど確かに一つの物で形成されているそれに振り回される様に、俺は何とか必死にこの場は抑えようとした。
マック「トレーナーさん.........!聞かせてくださいましっ」
マック「私が、[URAファイナルズ]に出走したいと言ったら.........!貴方は許してくれますか.........!!?」
―――居てもたっても、居られませんでした。私宛に送られてきた手紙。そこに綴られた言葉を目にして行けば、私の心はもう、決まってしまっていました。
彼の震える背中に申し訳ないと思いつつ、私は追い打ちを掛けるように言葉を投げかけます。この状況なら、きっと断る事もしないという打算も込みで。
ですが.........
桜木「.........ダメだ」
マック「っ、どうして.........!!?」
桜木「.........URAファイナルズは連戦になる。そして今の君の状態から考えて、復帰は本番。それ以前のGII、GIII。それどころかオープンを走る事は出来ない」
桜木「出来てギリギリ。ぶっつけ本番なんだよ」
私の予想に反して、彼は冷静に、そして冷たく言葉を返してきました。そしてそれは正しい物だと、少し冷静になれば私でも理解し、納得してしまいます。
でも、それでも私の心は.........!!!
桜木「.........ごめん。ちょっと、トイレ行ってくる」
マック「!待ってくださいましっ!!私もまだ諦めきれないんですっっ!!!」
私は強く言葉をぶつけ、彼を止めようとしました。けれどそれに構うことなく、彼はこのチームルームを出て行ってしまったのです。
なんで分かってくれないんですか.........?いつもだったら、私のわがままを受け入れてくれたではありませんか.........
そんな悲しみが広がる胸の内でしたが、不意に私の耳が音を拾った事で、それもすぐに解消されてしまいました。
マック「!なんですか、もう.........!!!」
マック「結局.........!!!出てから一歩も歩けて無いではありませんか.........!!!」
扉の向こうから聞こえてくるのは、彼がすすり泣く声でした。きっと、扉を支えに背を着き、座り込んでいるのでしょう。私は彼と私を隔てる壁におでこを当てながら、彼の心に触れようとしました。
桜木「俺だって.........!!!君にその大舞台で走って欲しいさ.........!!!」
桜木「けど俺はトレーナーだから.........!!!君にまた何かあったら.........!!!俺は.........ッッ!!!」
マック「何かあったなら!!!また乗り越えれば良いだけの話です!!!」
マック「私は.........!!!私達二人はっっ!!!チーム[レグルス]はいつも乗り越えて来たではありませんかッッ!!!」
まるで聞き分けのない子供のように、私は泣きじゃくりながら言いました。それに釣られる様に、彼のしゃくりあげて泣く声も大きくなって行きます。
唇を噛み締め、奥歯を震わせ、心の熱を高めながらも、私は彼に懇願し続けました。
マック「お願いします.........!!!」
マック「走らせて.........ください.........!!!」
桜木「っ.........」
マック「貴方となら[強くなれる].........!!![貴方としか]!!!
桜木「っ.........ぐ、はぁぁぁ.........!!!」
堪えていたものを吐き出す様に、彼は溜息を震わせながら吐き出しました。
そこから次第に、彼の嗚咽は収まりました。静寂になった時間。私はそれ以上何かを言うことは無く、ただ彼の次の言葉を待ち続けました。
桜木「.........ダメだよなぁ」
マック「.........ダメじゃないです」
桜木「ううん、ダメダメだ」
桜木「いつもカッコつけてさ、肝心な時に怖気付いちゃうんだもん.........」
知っています。そんなの。一回目の天皇賞の時から.........
けれど、貴方はその弱さを見せて私達を不安にさせるようなことは無かった。一番不安なのは自分なのに。負けたら自分で全部背負う気で.........
泣き声は聞こえてこなくなりました。けれどその声はまだ震えていて、泣いている事が分かりました。それでも彼は.........前へ進もうとしています。
それだけは.........心で感じ取ることが出来ました。
桜木「.........ねぇ、マックイーン」
桜木「さっき言った事と、完全に矛盾しちゃうんだけどさ.........?」
「.........出よっか。[URAファイナルズ]」
マック「!はい.........はいっ」
どこか諦めた様な口調で、彼は言いました。けれどそこには確かに、彼の強い意志を感じ取ることが出来ました。
例えそれが復帰初戦になろうとも。例えそれが、ぶっつけ本番になろうとも、彼はそれを覚悟して、私の思いを汲み取ってくださいました。
そして.........夜の帳が降りたトレセン学園。チームルームと廊下とを隔てた扉。それを境にして、私と彼は暫くの間、涙を流し続けていました.........
「.........」
―――今日の仕事を終え、今お二人はどうしているのか気になった私は、[レグルス]のチームルームへと向かいました。
そこで見たのは、その扉の前で背中を預け泣いている桜木トレーナー。そして扉の奥からは、泣いているマックイーンさんの声が聞こえて来ました。
(.........お二人には本当に、期待しているんですよ?)
そう思いながら、私は普段。学園では取らない帽子をとって、まだ冷たい空気に[耳]を晒しました。
今ではもう、家に居る時以外では見せることの無い.........[私が私である]という、逃れようのない事実を、誰にも見せることなく、ただ自分がそうであるという事だけを教える為だけに帽子を取りました。
階段を降りた先の曲がり角。桜木さんに見つからないよう、私も壁に背を預け、窓の外に広がる星空を見上げました。
『も、もしかして!トキノミノルさんですか.........!!?』
『は、はい』
『私!ファンだったんです!』
.........本当、こんな分かりやすい特徴さえなければ、誰も私だと気付かないくらいには地味な見た目だとは思うんですけど、ひとたびそれを顕にしてしまえば、皆私だと気付いてしまう。
今はもう時間が大分経ったので分からないけれど、当時の私は.........罪悪感と後悔に押し潰されそうだった。握手をする度に、名前を呼ばれる度に、あの選択は正しかったのだろうか.........と。
そして、私は私を[隠した]。これを知っているのは、理事長を含めた数人だけです。
(.........今更隠す必要なんて無いかもしれませんけど、一度初めてしまったものは、そうそう戻せないですから)
(だから、どうかあの時の私が[間違っていた]と証明してください)
(そうすればきっと.........自分でも勿体ないことをしてしまったなって、ファンの方々にも素直に言えると思いますから.........)
これからの彼らの活躍に胸を踊らせ、頬を緩ませながら帽子を被り直します。
不治の病がなんですか。[繋靱帯炎]がなんですか。って、どうか私に.........怪我で諦めて行った[ウマ娘]達に、見せ付けて上げてください。
そしてどうか.........その選択が間違っていたという事を見せ付けて.........私達を吹っ切れさせてください。
たづな(.........ふふ、そうなってくれたら私も、夏場も過ごしやすくなりますからね♪)
本当、外に居る時はオンでもオフでも帽子が取れなくて困っているんです。蒸れた時なんかはもう、言葉に出来ないくらい不快で.........
なんて、そんな下らない事を夢想しながら、私はチームルームからなるべく静かに離れました。
お二人の[想い]がいつしか.........[私達]の[選択]を超えると信じて.........
たづな(頼みましたよ?マックイーンさん。桜木トレーナーさん)
まだまだ寒さの残る四月の始まり。始まりの季節に、[伝説]の始まりを予感しながら.........私は、そのまま仕事を上がるのでした.........
......To be continued
お久しぶりです。
一応活動報告の方でお休みする趣旨は書いていましたが、伝わっていたでしょうか?
これからもゆるゆるとやっていく所存ですので、よろしくお願い致します。