山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

166 / 235
ブルボン「ヒーローの条件は」ライス「最後まで立っている事!!」

 

 

 

 

 

『「ぁ、ぁが.........」』

 

 

 かつて天井だった物がひとまとめにしてこの教会に落ちて来た。けれどライス達はそれに押し潰されることはなくて、何故かロボットさんみたいな顔をしたブルボンさんが、それを受け止めてくれたの。

 

 

『え、え!!?ミホノブルボンだよね!!?僕と何回も走って菊花賞で負けたよね!!?』

 

 

『君は少し失礼だな』

 

 

ライス「ひ、ひぃ.........ブルボンさんじゃない〜.........」グス

 

 

『.........君は少し泣き安い子だな』

 

 

 色々な事が起こりすぎてて、もう何が何だか分からなくなっちゃった.........ライスもう、ブルボンさんだと思ってたから.........

 

 

 でも、これで一安心だと思ってたんだけど、まだミシミシって音が周りから聞こえてくるの。それに気付いた時、またライスの身体が震えて、動けなくなっちゃって.........

 

 

ライス「も、もしかして.........」

 

 

『あー.........周りも崩れちゃう感じ?』

 

 

『うむ。倒壊するのは間違いないだろう』

 

 

ライス「ふ、ふぇぇぇぇ〜ん!!!」

 

 

 最初に来た時はとっても素敵な場所だったのに、今はもうボロボロで崩れちゃうなんて.........折角助かったのに、壁まで倒れてきちゃったらもう.........

 そう思ったら、ライスはまた涙が止まらなくなっちゃったんだ.........

 

 

 .........だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ライスゥゥゥゥ―――ッッッ!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえて来る。ここじゃない場所からの声が、何でか分からないけど、何でここじゃないって分かるのかも分からないけど、その声はライスの心に響いて聞こえてきたの。

 しかも、[ひとり分のじゃない]。二人の.........[お兄さま達]の声が、聞こえて来たの。

 

 

 それが聞こえた瞬間。ライスの身体から震えが無くなって、涙も止まって.........俯くしか無かった心が、急に上を見上げたいって思ったの。

 そしたら.........

 

 

ブルボン「!ライスさんッッッ!!!!!」

 

 

ライス「!ブルボンさんッッッ!!!!!」

 

 

 お空はもう真っ暗で、たくさんのお星様が光り輝いてて、大きな川見たいに見えたの。そんなお空の世界から、ブルボンさんがこっちに飛んで来てた。

 もしかしたら、助かるかも知れない。そう思ったライスは、ブルボンさんに向けて手を伸ばしていたの。

 

 

 ブルボンさんが凄いスピードで飛んで来て、ライスの伸ばした手が触れた瞬間。強い力で握られた。ライスもそれを離さないようにギュって力を入れたら、ブルボンさんはそのまま地面に足を付けずに、もう一度お空の方に、ライスの手を掴んで飛んでくれたの。

 

 

ライス「ブルボンさん、ありが「バカッッッ!!!!!」.........!!!」

 

 

ブルボン「マスターは言っていました!!![ヒーロー]の条件は[最後まで立っている事]だと!!!」

 

 

ブルボン「[私のヒーロー]である貴女が諦めてしまって!!!どうするんですか!!!」

 

 

ライス「ブルボン.........さん.........」

 

 

 今まで見たこと無かった。ブルボンさんが怒った姿を.........いつもみたいに、冷静で居てくれるブルボンさんは、そこには居なかったの。

 代わりに居たのは.........怒った表情で涙を流してる、ライスと何も[変わらない]、ブルボンさんだった。

 

 

 手を掴まれて飛び立ってから、気付いたら私は、ブルボンさんの両手に身体を抱き締められながら飛んでいた。さっきまでどうにもならなかった寒さが、ブルボンさんのお陰でようやく、暖かくなってきたの.........

 

 

ライス「ごめんなさい.........」

 

 

ライス「ごめん.........なさい.........!!!」

 

 

 暖かくなって、さっきと違う涙が溢れ出してくる。悲しいだけじゃないんだけど、言葉にするのが難しくて.........でも、何だか嬉しさもあって.........

 

 

 お星様が沢山浮かぶ夜空の中、ライスを抱きしめて飛んでくれるブルボンさんの身体を、ギュって抱き締めたの.........

 

 

 

 

 

『うわわわわわ!!?ねぇねぇ!!!僕達どうするの!!?』

 

 

『慌てるな、手立てはある』

 

 

『どどどどどーすんのどーすんの!!?』

 

 

 ―――さっきブルボン(?)が受け止めてくれた天井だった物は退けられて、今は周りの壁がどんどんとドッスンドッスン倒れて来てる。

 やばいよこれ!!!さっき倒れて来たのなんてあと数cmズレてたら僕ぺしゃんこだったんだよ!!?

 

 

『.........はぁ、掴まりなさい』

 

 

『え、うん.........うん!!?』

 

 

 僕に手を伸ばす形でこの人は僕を助けようとしてくれた。僕もそれに素直に従って、その人の身体をしっかりホールドしたんだ。

 温かさはちゃんとあったよ?あっ、流石に全部機械じゃないんだ。凄いなぁサイボーグだなぁって思ったの。

 そしたらね?急にブルボンの足から何か出始めてね.........空を飛び始めたの.........

 

 

『何これ何これ!!?意味分かんない!!!怖い降ろして!!!』

 

 

『助けてと言ったり降ろしてと言ったり、忙しいな』

 

 

『忙しいのは君だよ!!!一体誰に改造されちゃったの!!?』

 

 

 今僕を抱えて飛んでくれてる人に至極真っ当な質問をすると、なんと鼻で返された。あれ?え?ミホノブルボンってこんなだったっけ?もっとこう、真面目な感じが.........

 

 

『これは私の趣味だ。かっこいいだろ』

 

 

『あっ、趣味か〜.........じゃあ仕方ない.........のかな.........?』

 

 

 至極真っ当だと言うようにミホノブルボンは僕に答えてくれた。うん、君がいいならもういいや。考えるの面倒だし。

 

 

 そうやってシリアスも何も無い状況でどうすべきか。なんて考えていると、不意に僕達の身体が光に包まれ始めた。

 

 

『ありゃりゃ、やっぱり僕達もこうなっちゃうか〜』

 

 

『[名優]は特別なのだろう。仕方あるまい』

 

 

『.........ねぇ、戻る前に聞かせてよ』

 

 

『僕.........あの子の[ヒーロー]になれたかな.........?』

 

 

『.........君のその[名前]が、何よりの証拠だろう?』

 

 

 僕の名前。[ライスシャワー]。この名前が意味する事はただ一つ。[祝福]だ。結婚する二人に対して贈る、これからの生活が幸せになる様にお米を雨のように撒く一つの習慣。

 かつては[ヒール]であり、[敵役]であり、そして終ぞこの名は[ヒーロー]にはなれず、なれたとしてもその頭文字には必ず[悲劇]が着くような物になってしまった。

 

 

 僕は無理をしたんだ。褒められたくて。頑張ったねって言われたくって、つい、無理をしちゃった。

 僕達は基本的に人間が好きだ。お世話してくれるし、丁寧に扱ってくれるし、ご飯や体調の管理だって、一生懸命してくれる。

 けれど、お話は出来ない。僕達はそういう風に出来ていない。こっちの感情は人間達には完全に読み取れないし、人間達の言葉も、僕達には理解しきれない。

 

 

 でも、この[世界]は違う。[奇跡]が起きる世界なんだ。

 

 

 そして.........そんな世界で、彼女はこの名前を[愛してくれている]。

 

 

『.........頑張ってね。[ライスシャワー]』

 

 

『僕も.........精一杯の[祝福]を.........贈るからね』

 

 

 光の粒子に包まれながら、僕達は空の中で星に溶けていく。折角ならもう少し、あの子とお話してみたかったけど.........それはわがままだもんね。

 

 

 あーあ.........羨ましいなぁ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が止まった世界で、俺は声を上げた。けれどそれは、一つだけじゃ無かった。驚いてそのもう一つの声がした方向を見ると、そこには俺と同じ様に身を乗り出して、緊迫した表情をしている[ある男]がそこに居た。

 

 

桜木(ニコロ.........っ!!?)

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 静止した時間の中で、一際大きいノイズが世界を覆い、そしてそれが[弾け飛んだ]。どう表現すればいいかなんて分かりはしないが、その言葉が一番しっくり来た。

 そしてそのノイズが晴れ、あの[ウマ]達の姿も消え、会場の歓声が大きく響き渡るレース会場に逆戻りした。

 

 

 俺は慌ててライスの姿を見る。そこには.........

 

 

ライス「っ.........ッッッ!!!!!」

 

 

沖野「なっ.........!!?どうなってんだありゃあ.........!!?」

 

 

 有り得ないほどの前傾姿勢。普通であるならば転倒してもおかしくない姿勢から、ライスは何とか重心が落ちていく部分に足を持っていき、思い切り前へと駆け出した。

 

 

タキオン「ふぅ.........どうやらスズカくんとの特訓が上手く言ったようだね.........!!」

 

 

桜木「え!!?まさか.........あの短期間で.........!!?」

 

 

 あの異常とも言えるスズカの安定感を、まさか一ヶ月足らずで我が物にしてしまうなんて.........もちろん全てでは無いだろうが、それでもレースが始まってからと今のライスを比較すると、調子の違いがハッキリと分かった。

 

 

 七番手に位置した場所からぐんぐんと追い抜いていくライス。長距離の時とはまた違うその展開に驚きながらも、俺はこれなら.........と思っていた。

 

 

 けれど.........

 

 

東「.........まだだ」

 

 

全員「え?」

 

 

 脅威の加速を見せるライスに対して、未だ冷静を装う東さんと黒沼さん。このまま行けば、ブルボンだって追い抜ける。そう思っていたのだが.........

 

 

 俺達はその先頭を走り続けるブルボンを見て、目を疑った。

 

 

沖野「なっ.........!!?」

 

 

桜木「おいおい.........おいおいおいおいおい!!!」

 

 

 ブルボンはライスと同じ様に逃げ続けながらも、更に加速を帯びていた。以前までの彼女ならスタミナを鑑みての均等なペース配分による戦略でこんな事は出来なかったはず.........

 

 

白銀「おい玲皇!!?これどういう事!!?」

 

 

桜木「知らねぇよ俺が聞きてぇよ!!!どういう事なの!!?」

 

 

黒沼「ミホノブルボンの走法は、ラップタイムを意識し、それを軸にスタミナを擦り合わせていた」

 

 

東「だが、身体の成長による身体能力向上により、その上限値が大きく増した事でできる事が見つかった」

 

 

 そこまで聞いて、俺はまさかと思った。まさか.........あの寡黙で愚直なブルボンが.........相手を錯覚させる為の走法を取り入れたって言うのか.........!!?

 

 

沖野「以前と変わらないラップタイム走法をしてると思わせて油断を誘い、その油断を大きく突いて動揺させる.........!!!」

 

 

ゴルシ「はァ!!?そんなことミホちゃんに出来んのかよ!!?」

 

 

テイオー「現に出来ちゃってるじゃん!!!」

 

 

黒沼「.........中距離より先はまだ、トレーニングが必要だがな」

 

 

 もう既に殆どのウマ娘達は開いた口が塞がらず、そして今までその新走法を知らなかった俺達も、あまりの光景に絶句した。

 .........メンタル面で強い東さんと黒沼さんの事だ。この走法で走ってもブルボンが安心出来るよう、新たにラップタイムの目安を作ってくれたんだろう。走る彼女の顔に、不安は何一つ見られない。

 

 

桜木(.........はは、やっぱすげぇや.........ウマ娘って生き物は.........!!!)

 

 

 ここに来て、ライスとブルボンが大きく飛躍を見せるとは思わなかった。こういうのはコツコツと地味な積み重ねで力を着け、それまでの戦い方で勝負を決めるのがセオリーのはずだ。

 それがここに来て、ぶっつけ本番の新走法。しかも二人分も見せられたときちゃあ.........この世界から目を背けるなんざ到底出来なくなっちまった。

 

 

黒津木「すげぇ.........あれ下手すりゃ大逃げも出来んじゃねぇか.........!!?」

 

 

神威「うっへー.........URAファイナルズ中距離に出てなくて良かった〜.........」

 

 

カフェ「トレーナーさん.........」

 

 

マック「あれが東さん達の言っていた!.........えっと」

 

 

東「フッ、そうだ。あれこそが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明鏡止水状態だ」

「ハイパーモードだ」

「オーバートップクリアマインド!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人「.........!」

 

 

「明鏡止水状態だ!!!」

「ハイパーモードだっての!!!」

「オーバートップクリアあだ!!?」

 

 

マック「こんな大事な場面で何ふざけてるんですの!!!」

 

 

 頭に過ぎった今のブルボンの状態。その形態名を俺も答えたが、何故か俺だけマックイーンに叩かれてしまった。何でだ。他の二人も大差ないでしょ。

 それでも何故か俺だけが制裁を喰らい、腕を絡められてしっかり観客席の最前列まで戻されてしまう。横目で二人の方を見ると、何事も無かったかのように腕を組んでレースを見守っていた。アンタらまさかうちのマックイーンが怖いのか?

 

 

『最終コーナーを回って先頭を走るのは依然変わらずミホノブルボン!!しかし後続からライスシャワーが上がって.........!!!』

 

 

『いや!!!もう一人!!!もう一人脅威の加速を見せているウマ娘が居ます!!!あれは誰だァ!!!』

 

 

全員「何ィ!!?」

 

 

 その実況の言葉に、思わず俺達は身を乗り出した。土壇場で覚醒を果たした二人。最早追い付けるものなど居ないだろうと思っていたが、まさかここで喰らいついている子が居るなんて.........!!!

 慌てて視線をライスから少し後ろに移してみると、そこには実況の言う通り、[見た事のないウマ娘]が走っていた。

 

 

桜木「だ、誰だあの子.........!!?」

 

 

デジ「.........あああああ!!!??」

 

 

ウララ「わわ!!?どうしたの!!?」

 

 

 突然、大声を上げたデジタルに俺達は驚いた。何かあったのかと思い彼女の方を見たが、その表情はどちらかと言えば、嬉しさにも似たような物だった。

 彼女はその顔のまま俺達に顔を向け、まくし立てて説明を始めた。

 

 

デジ「あの子は[ダンツシアトル]ちゃんって言ってデジたんのクラスメイトなんですよ!!!」

 

 

タキオン「ああ、それは嬉しいだろうねぇ」

 

 

デジ「違います!!![アメリカ]で一緒だったんですよ!!!」

 

 

全員「.........ええ!!?」

 

 

 彼女はさも当たり前だと言わんばかりにその情報を出してきたが、俺達としては初耳であり、正直そのウマ娘の事より衝撃的だった。君アメリカに住んでたのか!!?

 しかしそんな事など気にも止めず、彼女はもう一度レースの方へと視線を向けた。

 

 

デジ「身体もそんな強くないですし!!最近だって怪我をしてあまりレースに出れてなかったんです!!!今日の宝塚記念が初めてのG1ですから見慣れてないのも当然ですよ!!!」

 

 

沖野「そ、そんな事もあるとは思うが.........」

 

 

桜木「そんな初挑戦の場で、ここまで力が出せんのかよ.........ッッ!!!」

 

 

 最終コーナーから直線にかけての勝負どころ。先頭だったブルボンに並び掛けてきたライス。そしてその二人を追い越す気迫とスピードを見せる。

 まさかまさかと思っていたが、その直線の途中。その三人が真横に並び始めた。

 

 

『さぁ夢への栄光を掴むのはミホノブルボンか!!!ライスシャワーか!!!はたまたダンツシアトルか!!!』

 

 

『残り200mを切った―――ッッ!!!』

 

 

 接戦も接戦。大接戦を見せる宝塚記念。ミホノブルボンかライスシャワーか。その思惑を裏切ってのダークホース。ダンツシアトルというウマ娘が意地を見せ始める。

 残り200も無い宝塚記念。予想だにしない展開の連続により、俺達は身を乗り出した。

 

 

友人「「「「ライスッッ!!!」」」」

 

 

T「「「ブルボンッッ!!!」」」

 

 

桜木「っ.........!!!いっっっけェェェェェ―――ッッッ!!!!!二人ともォォォォォ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 白熱したレースを見せ付ける三人。俺達以外の観客も、それぞれの夢を背負ってくれているウマ娘の名を叫びながら、そのゴールの行方を追っていく。

 

 

 始まる前は、この日が来なくてもいいとさえ思っていた。どうにか今日という日を、無かったことに出来ないのか。と。

 

 

 けれど蓋を開けて見れば、考えていた最悪の事態はその寸前で[書き換えられた]。あのノイズは正に、そういう事なのだろう。

 誰のお陰かなんて、分かる訳が無い。だけど一つだけ、分かる事がある。それは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日という日が、[記念]になったという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライス「はぁ......はぁ......」

 

 

ブルボン「.........ふぅぅぅ」

 

 

 ゴールを駆け抜けて、ライスとブルボンさんは掲示板も見れない位に疲れてた。両手をお膝に着いて、肩で息をしていた。

 そんなお互いに気付いて、ライス達はこのレースがどうなったのかと思い出し、慌てて掲示板を見たの。

 

 

 一着は.........

 

 

「ダンツシアトルッッ!!!なんと一着はダンツシアトルです!!!G1初出場のウマ娘が!!!見事勝利候補を打ち倒しました!!!」

 

 

ライス「あっ.........負けちゃったね。ブルボンさん」

 

 

ブルボン「.........はい。ですが、良いレースでした」

 

 

 実況の人の声が聞こえて来て、誰が勝ったのかがようやく分かった。ダンツシアトルさんって人みたい。最後の方はもう、一番になろうって気持ちだったから、隣にブルボンさんが居たのかも分からなかったの。

 .........でも負けちゃったけど、何だかスッキリした。それはブルボンさんも同じみたいで、二人で顔を見合せて、つい笑っちゃったんだ。

 

 

 そしてライス達は、この宝塚記念を勝ち取ったこの方に視線を向けた。その子は多くのお客さんに紙吹雪を投げられて、とっても嬉しそうにしていた。

 

 

ライス「おめでとう。ダンツシアトルさん」

 

 

ブルボン「貴女と走れて、楽しかったです」

 

 

ダンツ「!お礼を言うのは私の方です!」

 

 

二人「.........?」

 

 

 ライス達が声を掛けると、シアトルさんはビシッと背筋を伸ばして返事を返してくれた。でも、ライスもブルボンさんも特に何かした覚えもないから、なんの事か分からなくて、困った顔をした。

 

 

ダンツ「お二人がクラシックの時!自分は怪我による療養中でした!!」

 

 

ダンツ「デビューから本格的なレース参加はシニアになってからで.........以前はこのまま、引退も.........」

 

 

ダンツ「.........ブルボンさん。そしてライスさん。貴女達と走れて楽しかったです。だから.........」

 

 

ダンツ「.........またどこかで、走って下さい」

 

 

 キリッとした顔で、シアトルさんはライス達に手を伸ばしてくれた。その手はボロボロで、今日の為にこの人は頑張ってきたんだって直ぐに分かった。

 ライスとブルボンさんは顔を見合せた。お互いの顔を見て微笑みあった後に、同時に頷いたの。多分、ブルボンさんの思いも、ライスと一緒だよね?

 

 

 だから、ライスもシアトルさんに手を伸ばす。ブルボンさんも一緒に、シアトルさんの手を包み込むようにして包んだの。

 

 

ブルボン「もちろんです。トゥインクルシリーズは、シニアからが本番ですから」

 

 

ライス「次は負けないよ!ブルボンさんもね!」

 

 

ダンツ「!.........望むところです!!!」

 

 

 多くのお客さんの歓声に包まれながら、ライス達の宝塚記念は幕を閉じた。勝つことは出来なかったけど、それでも、大きな一歩を踏み出せたと思ったの。

 そしてライス達がターフの上から居なくなるまでの間。ううん、居なくなってからも、お客さん達の嬉しそうな声は、ずっとレース場に響いていた気がした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宝塚記念出場おめでとー!!!」

 

 

 日が落ちたトレセン学園の一室。チーム[スピカ:レグルス]のチームルームの中で盛大にクラッカーが鳴らされる。そのクラッカーを向けられているのは今日の主役であるライスとブルボン。その二人だ。

 本当だったらどっちかが勝って.........というのは傲慢だろう。それを今日は痛いほど思い知った。分かった気で居たがやはり、レースというのは何が起こるのか想像も出来やしない。

 

 

ゴルシ「よがっだ.........!いぎでがえっでぎで.........!!!」

 

 

ライス「も、も〜!ゴールドシップさん!大袈裟だよ〜!」

 

 

 ライスの立っている姿を見て、ゴールドシップは盛大に泣き始めた。今日何度目の姿だろう。既に慰め疲れたのか、フェスタもオルフェも無視を決め込んでいる。白銀の奴は律儀に慰めてはいるが、その度にぶっ飛ばされている。お前やっぱドMだろ。

 

 

マック「それにしてもまさか、[ニコロ]さんが居らっしゃるなんて.........」

 

 

黒沼「?.........ああ、[リッティン]か」

 

 

全員「!そ、そうそう!」

 

 

 ここには居ない男の名前を呟いて、その訂正が入りヒヤヒヤする。こんなミスをするなんて、マックイーンもよっぽど持ってかれたらしい。

 [ニコロ・エバンス]。元ヒットマンで、テイオーの怪我を何とか菊花賞までに治す為に俺がデトロイトに行った際、ぶちのめした男。

 本人の能力的には天職の様な場所だったが、精神的には普通の人間と大差ないと見抜いた俺は、奴の伸ばしてきた手を掴み、トレーナーとしての道を指し示し、今では[リッティン・シュナイダー]としてトレーナーをしている。

 

 

沖野「出世したよなぁ、研修生の頃からまだ一年だろ?」

 

 

黒沼「元々こっちに研修に来る前からその話はあった。アイツの優秀さなら不思議な事は無い」

 

 

東「おぉ、流石は自由の国。アメリカンドリームだな.........」

 

 

 そう。ニコロは今アメリカで、立派にトレーナーをしている。日本に来たのはライスの宝塚記念を見に来たのであって、それ以外の事はせず、本当にトンボ帰りでアメリカに帰って行った。なんでも、来週担当のウマ娘がデビューするらしい。

 

 

ルビィ「凄いよね!あの人のくれたお花さんたち皆青色なんだよ!!」

 

 

パール「青薔薇の花束.........あの子も成長したわね」グスン

 

 

ジミー「ああ!我が友ながら素晴らしい成長だ!」ダバー

 

 

エディ「.........私の知らない間に息子でも産んでいたのか?」

 

 

 その言葉を聞いて、俺達は盛大に笑う。パールさんの言っていた通り、最初にここに来た時より印象が大分違っていた。なんというかこう、しっかり血の通っている人間になった。とでも言うのだろうか?

 窓の花瓶の中に生けられた青薔薇達の姿を見て、あの男の仏頂面を思い出す。それがなんともまぁ似合わないこって.........

 

 

神威「失礼なんだけど、似合わんよなぁ」

 

 

カフェ「本当に失礼ですよ」

 

 

黒津木「まっ、元気そうだし良かったじゃん」

 

 

タキオン「あの隈のある目を見てもそう言えるのかい?」

 

 

ダスカ「うわ、黒津木先生って命に関わらない限りは元気って言う噂、本当だったんだ」

 

 

ウオッカ「もうちょっとよう、責めて健康は気にかけてやろうぜ.........?」

 

 

オルフェ「あはは.........ん?ああ!!!スペ先輩がご飯全部食べちゃいそうっス!!!」

 

 

スペ「っ、むぐぐ!!?」

 

 

フェスタ「バカ!!!大声出したから喉に詰まらせただろ!!!」

 

 

スズカ「スペちゃん!お水!!」

 

 

テイオー「あ、ははー.........なんか懐かしい感じ.........」

 

 

 .........本当。テイオーの言う通りだ。今まで割と空元気でやってきた部分もあるけど、こうしてデカい事故が起こる結末を、覆す事が出来た。それを知ってか知らずか、皆どこかで安心したんだろう。

 

 

沖野「.........んで?役に立ったのか?うちのスズカとの並走は?」

 

 

桜木「はは、俺にはなーんにも。でもライスにとっては、いい経験にはなったと思いますよ」

 

 

白銀「俺今からピザハットに電話するわ.........ピザーラの奴あるかな.........」

 

 

ゴルシ「おめーマジで迷惑だからやめろ」

 

 

マック「.........ふふふ、あははははは!!!」

 

 

 バカの奇行を見て、マックイーンが笑う。それに釣られるように、この場にいる全員が思いっきり笑った。

 久しぶりだった。こんなになんの気兼ねもなしにバカ笑い出来たのは、本当に.........チームが壊れてからは無かったんだ。心のどこかに、不安が必ずあって.........

 

 

 .........有り得た結末を覆し、有り得ない未来を手に入れた宝塚記念。確かにうちのライスとブルボンは、勝利を収めることは出来なかった。

 

 

 けれど、得た物はある。それは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔に飽きるほど見た、チームの[日常]そのものだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........あっ、そういえば乾杯してなかったや。どうすっかな.........)

 

 

桜木(.........まぁ別に、心の中で言うくらいなら恥ずかしくねぇだろ)

 

 

桜木(これからも、幸せを満喫してくれよな。[ライスシャワー])

 

 

 

 

 

 ―――六月の夕暮れ。バカ笑いから大騒ぎに変わって行く輪の中で一人、男はキザったらしいセリフを心で呟きながらジュースを含んだ。

 その味は、甘ったるしいが酸味のある、これからを[予見]するような、[レモン]の味がしたのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。