山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
さんさんと大地を焦がすように太陽は天高く登っている。日本の空気の匂いは夏一色に染め上げられ、コンビニに行けばやれアイスだの、夜に遠出をすればやれかき氷だのと、嫌でもその季節が来た事を思い知らせてくる。
桜木「.........」
マック「もう、まだ納得してないんですの?」
手に持った新聞から頭を半分だけ出して周りの様子を伺う。大した情報も得られず、俺は隣に座るマックイーンからその内情を読み取られ、結局またその新聞で顔を隠した。
桜木「.........だってさぁ?俺も嬉しいよ?ここまでチームが大きくなって、でもぉ」
横目でチラリとマックイーンの表情を見ながら口を開く。案の定俺の様子に呆れた表情をしている彼女がそこに居た。
なんでこうなったんだろう。確かあれは.........
事の発端を思い出しながら、俺は乗っているバスの走行音を意識から除外して行った。
ーーー
マック「夏合宿に行きますわよ!!!」
桜木「.........へ?」
そう。あれは確か今から数日前の昼休み。いつもだったら一番最初にチームルームに来て、俺の作ったお弁当を食べている筈の彼女が何故か、一番最後に来た。
そしてドアを開けて入ってくるや否や、開口一番にそんな言葉が飛び出してくるから、俺は素っ頓狂な声を出してしまったのだ。
タキオン「あぁ、そういえばもうそんな時期だったね」
ウララ「夏合宿!!すっごく久しぶりだよね!!」
ライス「う、うん!最初の一年目に行ったきりだよね?」
ブルボン「はい。まだ私達がデビューしていない時期でした」
まだマックイーンの言った言葉の意味を理解できずに保けていると、彼女は俺の居る机に置いてあるお弁当とその手に持った紙を交換して、みんなの輪に入っていただきますをしていた。
デジ「夏合宿.........楽しみですねぇ♪」
桜木「ちょっと待って!!?俺何も聞いてないよ!!?」
マック「?今決まったのですから当たり前じゃないですか」
そういう話じゃない。話じゃないんだけど.........マックイーンはそれだけで話を終わらせに来ている。これじゃあ埒が明かない。
とにかく、ここは落ち着いてマックイーンの持ってきた紙を見てみようじゃないか。話はそれからでもできる.........
桜木(うっわぁ〜.........もう生徒会の判子押されちゃってるし、なんならたづなさんと理事長からも貰ってきちゃってる.........)
マック「今年は大事な時期です。特にウララさんは有馬記念に挑戦すると言っていますし、デジタルさんも力を付けるいい機会になると思いますわ」
桜木「う、う〜ん、でも俺の居ない場所で勝手に決めるのは.........」
マック「.........ふ〜ん」
.........え、何その顔は。そんな目を細めてそんな事言うんだ〜って言いたそうに.........クソ、普段絶対そんな顔しないから可愛く見えてきちゃうじゃない。やめてよね。俺君に弱いの絶対分かってるよね。
マック「自分は何も言わずに色々やるのに、私にはそういう態度を取るのですね.........」
桜木「あっ、いや!!!そういう訳じゃ.........」
マック「悲しいですわ。私、トレーナーさんの事を思って.........良かれと思って.........」ヨヨヨ
桜木「あの」
マック「ブルボンさんとライスさんだって新たなライバルが出現しましたのに!!!貴方はそうやって焦らないんですね.........!!!」キッ!!!
桜木「その顔と言い方止めて。心臓に悪いから」
彼女は分かってやったのか無意識でやったのか知らないが、あの雨の時に向けられた顔と似たような言葉を俺にぶつけてきた。本当にやめて欲しい。俺は君のそんな顔はもう二度と見たくないんだよ.........
桜木「.........分かったよ。んじゃ行こっか。夏合宿。もちろん沖野さん達にも話は通してるんだよね?」
マック「勿論です。相談しましたから」
桜木「俺そんな頼りないかな.........?」
酷い話だ。確かに俺の身分はスピカのサブトレーナーで、このチームもいつか別れる為に名義してるだけであって、一応全員スピカのメンバーに他ならない。
だけどそこはさぁ.........俺にも話して欲しかったなぁ.........なんて思っていると、タキオンが不意にクスクスと笑い始めた。
タキオン「実は私も相談を受けていてね」
桜木「ホいつの間に!!?」
マック「ちょっと!!!」
タキオン「愛しのトレーナーくんの為になにかしたいと言っていてねぇ!!提案したのは私自身なのだよ.........!」ケイカクドオリ
まるで企みが思惑通りに進んだどこかの優等生の様な邪悪な笑みを浮かべるタキオン。そしてその隣で顔を赤くして隠しているマックイーン.........
そんな話を聞いてその姿を見せられてしまったら、もう何も言えまい。結局俺は押し切られる形で、約六年ぶりの夏合宿を開催する事になったのだ.........
ーーー
桜木「はぁ.........」
沖野「そうため息つくなよ。幸せが逃げるぞ?」
桜木「だったら捕まえるだけですよ.........そもそも俺が萎えてんのは夏合宿そのものじゃなくて.........」
回想を終え、ため息をついた俺はその[元凶達]に目を向ける。するとあちら側も俺の方をニタニタとしたような目で見つめ返してきていた。深淵をのぞく時、こちらもまた深淵にのぞかれているのだ。
白銀「良かったね玲皇ちゃん♡ハネムーンよ♡」
黒津木「良かったじゃない♡役得よ役得♡」
桜木「消えろ。ぶっ飛ばされんうちにな」
マジで面倒くさいコイツら。勝手に着いてきてこんな事されてみろ。キレるぞ。
.........まぁいいんだよ。この二人は。ある意味平常運転だし。予想もしてた。ここまで煽られるとは思って無かったけど、それでも範疇の内だ。問題は.........
神威「〜〜〜♪」
カフェ「上機嫌ですね」
桜木「君らはなんでいるのかな〜?俺は敵に塩を送る程心広くは無いんだけどな〜?」
何故か居る神威とマンハッタンカフェ。片方は前回付いて行ったから違和感はあまり無いが、カフェに至っては今度のURAファイナルズでうちのタキオンと競うことになっている。いやマジでどういう神経しとんの?
マック「まぁいいではありませんか。前回の夏合宿でカフェさん。置いてかれて悲しかったみたいですし」
カフェ「トレーナーさんが置き手紙残していた時はそれを媒介にしてお友達のお友達にお仕置してもらいました.........」
神威「覚えてるか玲皇?あの夜の人魂!アレカフェのお友達のお友達なんだぜ!!!」
いやそんな自慢されるノリで紹介されても困る。第一あの後お祓いに行った時お前門前払いされただろ。なんでそんな反応出来るんだよ。
神威「それにカフェの水着姿も見れるしなぁ〜」
カフェ「.........///」
.........はァ?コイツ何言っちゃってる訳?夏合宿を何か恋人と行くバカンスか何かだと勘違いしちゃってるの?
俺は今までに見た事ないくらい嬉しそうな顔をして妄想している神威を見て呆れ果てていた。お前それでいいのか?
桜木「あのさぁ?俺達トレーニングに行くのよ?水着なんかスクールの奴しか持ってきてる訳ないじゃん」
タキオン「えー!!?遊ばないのかい!!?」
桜木「.........宗也〜?」
後方の座席に座っていた遊ぶ気満々だったタキオンが猛抗議を始めた。最初の一言だけ耳に入れて後は横に流す。延々と文句と遊ぶ事による利点を説明し始めたがこれは無視する。
俺は黒津木の奴に説明を求めたが奴は口笛を吹いた。へっっったくそな口笛。音すら出て居ない。人をイラつかせるのが上手いやつだ。
白銀「別にいいじゃねぇかよ。あの可愛い子ちゃんとその家族も来てんだし」
桜木「いやルビィちゃん達は今後の為を思って連れてきたけども」
ゴルシ「アタシも水着持ってきてるぜ!!見たいかおっちゃん!!!」
桜木「夏合宿をリゾートツアーと勘違いしてらっしゃる?」
流石に頭が痛くなってきた。確かに俺は真面目じゃない。仕事は適度にサボりを挟むし、休む時は完璧に休む人間だ。それでもこういう短い期間だけでも真面目にやるくらいには社会人経験はある。
それでもここまでされたら気分も滅入る。俺だけがまさか真剣にやっているのか.........?そう思うと何だかやるせなくなり、俺はマックイーンに助けを求めた。
桜木「君も何か言ってよ〜。夏合宿は遊びじゃないんだってさ〜」
マック「.........///」...フイ
桜木「.........マックイーンさん?マックイーンさん!!?」
彼女は俺の苦し紛れに差し伸べた手を払うかのように、その視線を窓の外へと移した。まさか、君もだと言うのか.........!!?
その瞬間。俺は.........俺は、その。悲しい気持ちも勿論あったのだが.........それと同時に、なんて言うかこう、高揚感。なのかな?ドキドキというか、ワクワクを自分の胸のうちに感じ始めていた。
.........そんな自分に嫌気が差して、そして何だか彼女の隣が気まずい。その上心地良さもあって、俺はまた新聞記事に目を落として行った.........
ーーー
ルビィ「わー!!海だー!!」バシャバシャ!
ジミー「パール!ルビィが!!ルビィが海に居るぞ!!!」パシャパシャ!
パール「うぅ.........パパから繋靭帯炎の気があるって言われた日は.........こんな日が来るとは思っても無かったわ.........!!!」
遠目から海ではしゃぐルビィちゃんと、それを写真に取る彼女の両親を見る。あの様子だと本当に娯楽のある所に行けてなかったんだと思うと、俺の苦労も報われた気がした。
.........[繋靭帯炎]。出来るならば二度と聞きたくないその単語。ウマ娘にとって不治の病であり、それを宣告されれば最後、レース競技者としての人生を終わらせられる羽目になる。
簡単な原理を言えば、走り過ぎによる炎症。全てのウマ娘がそうなる可能性がある。だがそれはやはり体質によるものが大きく、脚が丈夫ならばしっかりと休養を取り、休んで居れば発症の心配はぐんと下がる。
桜木(.........俺は、マックイーンをそんなに頑張らせちゃったんだな)
強い子だと思っていた。けれどそれはやっぱり仮初の姿で、蓋を開けてみれば普通の子.........いや、普通の子より、身体が弱い子だった。
それを持ち前の才能と努力で、トレーナーの俺ですらだまくらかしていたんだ。そう思うと余計、彼女のその心と強さに惹かれると言うのは.........俺も懲りない男なのだとつくづく思ってしまう。
エディ「.........失礼するぞ」
桜木「?ああ、どうぞ」
浜辺には必要不可欠なパラソルを差して、そんな彼女達を見守っていると、その祖父であるエディが俺の隣に座ってきた。
むさ苦しい男が二人して並んで座る。普段であればなんでこんな時に.........なんて思っても見たりするのだが、不思議と今は、落ち着いて居た。
桜木「.........どうすんだよ。これから」
エディ「.........フッ、元々白紙だった予定表だ。これから埋めて行く」
桜木「やっぱ。イギリスで走らせるのか?」
エディ「.........どうだろうな。手術は成功したとは言え、いきなりあのバ場を走らせるのは酷だとも思っている。それに、距離適性も掴みきれておらん」
そこまで言って、男は汗を拭ってからペットボトルで水分補給をした。日本の夏は暑いとうだる様子を見て、俺もそう思うと苦笑いして言った。
しばらく沈黙は続いたが、それはエディのため息で終わりになった。その吐息に哀愁を感じた為、彼の表情を見るとやはり、どこか辛そうなものを感じた。
エディ「.........あの子の人生を、大分奪ってしまった」
桜木「なんでぇ、まだ幼いじゃねぇか」
エディ「ルビィは来年から小学生だ」
桜木「え」
そう言われて驚き、俺は彼女の姿を凝視する。背丈や身体の作りからも、とても[女児]と言える雰囲気は無く、せいぜい[幼女]と言うのが関の山だ。
その事実を鑑みれば確かにエディの言う事もその苦しみも理解出来る。だが.........
桜木「.........始まってもないのに悲観すんなよ。もしかしたらブッチギリで勝つ未来もあっかもしねぇだろ?」
エディ「.........どうだろうな」
桜木「聞いたぜ?パールさんの母さん。イギリスの三冠バ候補だったらしいじゃねぇか。しかもデビュー前から。だったら期待できるだろ」
桜木「それにそういう事は全部終わってからあの子にごめんなさいすれば良いだろ?」
桜木「それと、言いたかねぇけど、アンタは良い爺ちゃんだよ。しっかりパールさん達の代わりしてたじゃねぇか」
目の前に居る爺さんは俺の言葉にキョトンとした顔を晒した。そして俺のその言葉に返事を返すような形で鼻で笑う。全く、どこまで行っても偏屈な爺さんだ。
結局その話題は二度と起こることはなく、俺達はまたルビィちゃん達が遊ぶ風景に目を向けていた。
エディ「それにしても良いビーチだな。こんな所でトレーニングしているのか?日本のトレセン学園は」
桜木「え?いや、前来た時は普通の場所だったんだけど.........これみりゃあながちリゾート地だって言われても納得出来るな.........」
そう指摘されて改めて周りの様子を見る。足元に広がる陽の光を反射する白い砂浜と、日本とは思えないくらい綺麗で透き通るコバルトブルーの海。これが夏合宿って名目じゃなけりゃ、俺だってはしゃいでただろう。
.........いや、待てよ?まさかここ、本当にリゾート地とかなんじゃあ―――
「待たせたねぇ、トレーナーくん」
桜木「お?おう。随分着替えに手間取った.........な.........?」
タキオン「.........なんだい?私の水着に見蕩れているのかい?」
いつもの胡散臭い喋り方からタキオンだと思い、俺は後ろを振り返った。そこには水着姿の.........
いや、水着?水着なのか?俺女の子の衣装とか詳しくないんだけど、それ服じゃないの?どちらかと言えば夏衣装って感じじゃない?
タキオン「.........はぁ、ちゃんと着てるだろう?ほら」スル
桜木「いや脱ぐな脱ぐな!!!寄りにもよってホットパンツの方を!!!刺激が強いんだよ!!!」
タキオン「ククク、黒津木くんの反応も面白かったが、君も中々良い反応を見せてくれるねぇ」
あぁ.........既に毒牙に掛かってしまったのか。黒津木よ。お前の事だ。どうせ今頃昔の漫画のベタみたいに鼻血を出して気絶しているだろう。
ああ良かった!!!タキオンに恋愛感情抱いてなくて!!!危うく俺まで同じ末路を辿る所だったわ!!!
そう勝手に安堵していると、その後ろからぞろぞろとメンバーが現れ始めた。その中には黒津木の奴も居たが、やはり鼻血を止めるためのティッシュで両方の穴を塞いでいた。
桜木「.........良かったなお前ら。好きな子の水着が見れて」
白銀「お?おう!!!」
ゴルシ「へへっ、どーよこのゴルシちゃんのナイスバディは!!!これならイカ軍曹もイ・チ・コ・ロだぜ♡」
神威「俺もう死んでもいいや」
カフェ「良かったですね。お友達と正式なお友達になれますよ」ジトー
屈託の無い笑顔で俺の言葉を返すバカ。そして自慢のボディを見せ付ける我が孫。悟りの境地に達したアホにその意見に賛同する大人しい子。なんだろう。この疎外感。もしかして俺だけ楽しめてない.........?
周りの子を見るとやはり、スクール水着の子は一人もいなく、ウララ達もスペ達。果てには沖野さんまで水着で.........
.........あれ?マックイーンは?
桜木「えっと、その.........」キョロキョロ
タキオン「ん?あぁ.........」
マックイーンが居ない。それは一切口には出さず.........いや、恥ずかしくて口に出せずに辺りを見渡してみるが、やはり彼女の姿はどこにも居ない。
そんな俺を見て察したのか、タキオンはまた元来た道を戻り始めた。
「ほら、トレーナーくんが楽しみに待っているよ?」
「へ!!?いえ、その.........へ、変じゃありませんか?」
「それを決めるのは彼だろう?良いから早く来たまえよ」
「で、でも.........ひゃあ!!?」
桜木「おお!ようや.........く.........」
岩陰からタキオンに手を引かれて現れたマックイーン。その姿は俺の中で勝手に作られていた普段の大人びた印象を綺麗に粉々してくれた。
水着と言うよりかは、一見してみれば普通の衣装のようにも見えてしまう。それはタキオンにも言えた事だが、彼女の姿とは違い、今身にまとっている物全てが水着なのだと分かるデザインをしている。
特筆すべきはやはり、その形だろう。一着のワンピースの様な形ではあるが、胸から下に掛けては若干透けている。透き通るような白色が基調ではあるが、そこは完全に透けていて.........その、若干見えてしまっている。
いや、見えていいんだ。あれは水着だ。そうだろう?そうなんだよね!!?
マック「.........〜〜〜!!!何にも言わないではありませんか!!!」
桜木「―――!可愛いよマックイーン!!!」
マック「っっっ.........!!!」
あっ、しまった。つい何か言わないとと思ってそのまま心の声を出してしまった。そのせいで彼女は顔を酷く赤面させ、俺は凄く気まずくなってしまう。
.........そんな俺の様子を見てタキオンは笑っている。お前、いい度胸だな.........!!!
桜木(今日という今日は本当に許さ.........!!?)
マック「.........///」グイ
制裁をタキオンに加えるために歩き出した俺の袖を、何故かマックイーンが俯きながら引いてきた。
それに驚いた俺はそっちの方に視線を向けると、普段はそのまま流している髪がツインテールに結ばれているのが目に入った。
桜木「え、え.........っと「どこが」へ?」
マック「ぐ、具体的にどこが.........可愛いと.........?」
俯いた顔を更に俯かせ、彼女は絞り出すようにそう言った。俺の心臓はもうバクバクで、何が言っていい事なのか悪い事なのかも分からなくなって、でも何も言わないのも失礼だし.........
なつ
桜木「その、子供っぽい感じ.........?」
マック「.........」
桜木「.........あいや!!!悪い意味で言ったんじゃないよ!!?たださ!!!普段は大人びてるから!!!そのギャップと言いますか.........」
桜木「だから!!!.........その、スゴクイイトオモイマス.........ハイ.........」
失礼な事を言ってしまった。その後ちゃんと思っていることを口には出したけど、彼女は怒っているかもしれない。
胸の内で荒れ狂う羞恥心と密かにあるこれから来る制裁への恐怖心によって、俺の最後の言葉はしりすぼんで行った。
けれど彼女は俯くばかりでうんともすんとも言わない。流石に呆れてしまったのではないか?そんな別の恐怖が現れ始めたが、その瞬間。俺の顔に何かが掛かった。
桜木「わぷっ!!?なに!!?」
マック「くふふふ.........あはははは!!!」
驚いている間に彼女は俺から走って離れて行く。その手をよく見ると、小さい水鉄砲が握られていた。
してやられた。いつの間にこんなイタズラをする子になってしまったんだ。俺の心にまた相反する気持ちが生まれる。手の上で転がされた事による怒りと、そんな姿を見せてくれるようになったという喜び。また彼女のせいで、心が乱されてしまう。
桜木「あんにゃろ〜.........卑怯だぞマックイーン!!!」
マック「ふふふ♪文句があるのなら捕まえて下さいまし?」
オルフェ「ばぁば嬉しそうっス!!」
フェスタ「爺さん。アタシの片方使うか?」
桜木「サンキューフェスタ!!!おい汚ぇぞマックイーン!!!素手で勝負しやがれぇッッ!!!」
遅れてやってきたオルフェ達。わなわなと震える俺に水鉄砲二丁の内の片方をフェスタが貸してくれた。
俺はそれを有難く受け取り、仲間達が遊ぶ方へマックイーンを追い掛ける。
そんなマックイーンの表情は嬉しげであったが、その顔から赤らみが消える事は、何故か無かった。
ーーー
マック「ふぅ.........」
長距離移動の疲れ。そして遊んだ疲れを[別荘]のお風呂で癒した後、私は少しの間自室で休んで居ました。
マック(.........ふふ、驚いていましたわね。皆さん)
ここが[メジロ家]が所有している土地だとは気付かなかったようで、この別荘の鍵を持ち出した所でようやくトレーナーさんが気付いたのです。
.........まぁ、その後もっと驚く事があったのですけど.........
「あら、随分とご機嫌ね。マックイーン」
マック「!ラモーヌお姉様!」
ラモーヌ「まさか夏合宿でここを使いたいだなんて言うとは思わなかったわ」
そう。ラモーヌお姉様がいらした事です。トレーナーさんはお姉様の姿を見て背筋を凍りつかせるくらい驚いていましたが、私も同じくらい驚いてしまいました.........
この別荘は名目上[メジロ家所有]。しかしその実態は、ラモーヌお姉様の為の休養施設なのです。
今使用してないのでしたら、チームで使いたいとお電話したのですが.........まさかこんな事になるだなんて.........
マック「その.........やはり、迷惑でしたか.........?」
ラモーヌ「.........ふふ、構わないわ。可愛い妹の頼みだもの」
ラモーヌ「それに、貴女のそんな面白い提案。乗らない訳無いでしょう?」
そうでした。お姉様はこういう人でした.........しっかりしているようで、面白い物や出来事が起こるならフラフラと行ってしまう様な風来坊.........それでいてストイックなのですから、普通の人は接しずらいでしょう.........
『良いじゃない。貴女もその気質はあるわよ?』
マック(あるからこそ。私はしっかりと自制心を持って、メジロのウマ娘としての)
ラモーヌ「告白はしたのでしょう?」
マック「はい.........へ?い、今なんと.........!!?」
心の中に居る彼女の問い掛けに答えているせいで、お姉様に気のない返事をしてしまいました。それも、絶対聞き間違いに他ならない質問を.........
ラモーヌ「.........?おかしいわね。まだなのかしら?」
マック「あ、あの!!申し訳ありませんが、わわわ私ととととトレーナーさんはい、言わばここ子供と大人で.........」
ラモーヌ「昔良く言ってたじゃない。天皇賞を制覇してそのトレーナーと婚姻関係を結ぶって」
マック「〜〜〜っ///昔の話ですわ!!!」
もう.........!!!ラモーヌお姉様はいつもそうやって私をからかってきます!!!そういう時だけパーマーと仲良くするんですから!!!ほんっとうにたちが悪いです!!!
はぁ.........昔はあんなに優しくて、私の想像の話も、面白くて素敵だと言って聞いて下さったのに.........少し悲しいです.........
ラモーヌ「ふふ、ごめんなさいね。じゃあマックイーンは、このままでも良いのね?」
マック「あ、あたあ、当たり前です。ウマ娘とトレーナー。これ以上に健全で綺麗な関係性はありません!」
ラモーヌ「.........そう。じゃあ―――」
「―――[卒業]したら、[お別れ]ね?」
マック「―――ぇ」
少し残念そうな表情でお姉様はそう呟き、そして私に背中を剥けました。それがどういう事なのか、普通に考えれば辿り着けるその答えを得る為に去りゆくお姉様に手を伸ばしましたが、止める為の言葉は終ぞ出てきませんでした。
唐突に突き付けられた現実。突然現れた[卒業]の二文字。夢の様な時間から一転、私の心の中は海の底の様に深く、そして広い深海のように闇が広がっていきます。
マック(.........そう、よね)
マック([卒業]したら.........私はただの[ウマ娘]で、彼は[学園のトレーナー]で.........)
マック(そうなったらもう.........一緒に居られる時間は.........!)ジワ
先程のお姉様の後ろ姿が[彼]へと置き換わり、私の目の前から遠のいて行く。
それを止める為に手を伸ばすけれど、足はその場から固定されているのか、全く動けないでいる。
声も.........たった[一言]の、簡単な自分の思いを伝えるだけの[言葉]も出せずに.........ただただ彼の背中を.........!!!
『.........どうするの?もう諦める?』
マック(.........何を言ってるのよ。まだ時間はある)
マック(でも、私は[テスト]には万全を備えて、予習復習はしっかりやって落ち着きたいタイプなの)
マック(だから.........)
(この夏で、[決着]を付ける.........!!!)
―――暑い夏が幕を開け、人々はその熱に浮かされて冒険に出る。それが海なのか、はたまた山なのかは人それぞれだ。
そしてここに一人。この夏[冒険]をする事を覚悟した少女が居る。
その名は、[メジロマックイーン]
彼女は覚悟した。
[桜木 玲皇]と、この夏で[恋人]になるのだと.........
暑い夏はまだ、始まったばかりなのであった.........
......To be continued