山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
煌めく海に輝く太陽。夏というシチュエーションでこれ以上の物は無いと言えるほど夏らしいそれを背景に、俺達大人組+αは食事の準備をしていた。
沖野「よーし。バーベキューの準備は出来たぞー」
桜木「OKっす。こっちも良い感じにカレーができてきましたよー」
トレーニングを頑張っているウマ娘達のために俺達が出来ること。それは指導することも勿論ではあるが、モチベーションを維持する事も大切な仕事だ。
特に食事はそれを維持するどころか、向上させる効果を持っている。幸いうちの子達は俺や沖野さんの料理が好きなので、これを使うに越したことはない。
黒津木「肉と飲み物買ってきたぞー。翔也の金でな」
白銀「なんで俺が.........俺の金が.........」
神威「テニスにかまけてゲームやってなかったお前が悪い」
一人大変不憫な思いをしているが、俺は何とも思わない。むしろざまぁみろとすら思う。俺達を散々ゲーマーだのオタクだの罵ってきた罰だ。有難く享受しろこのバカ。
ゴルシ「おっちゃん!!焼きそばも完成したぜ!!マックイーンが30人居ても足りるくらい作ったからな!!」
桜木「うん。それ本人の前で絶対言わないでね。怖いから」
オルフェ「でもおじじは怒ったマックイーン先輩の事も〜?」
フェスタ「バカ。言わせんな恥ずかしい」
桜木「俺のセリフなんですけど.........?」
おにぎりを握りながら顔を俺の方に寄せてそう言ったオルフェーヴルに対し、何故かフェスタが俺のセリフを奪ってきた。その顔はやはり何故か恥ずかしそうだ。もしかしてそういうの結構耐性が無い?
まぁ俺も人の事言えた義理じゃないけど。
ルビィ「うぅ.........日本の人って皆お料理上手なんだね.........」
桜木「あー.........まっ、イギリスの人もちょっと手間かければ美味しく作れるよ。あの人達食事の美味しさに無頓着だから」
あの日々の食事を思い出すと本当に苦痛を感じる.........なんというかこう、食えりゃ良いやって考えが蔓延しているんだろう。節約の為にスーパーで惣菜をそのまま食う生活だったが、結局あの味に慣れることは無かった。
でもまぁルビィちゃん達の料理スキルはそこと比較すればかなり高い物で、味にも健康にもある程度気を使っているのが分かる。これからの成長は期待しか無い。
そんなこんなで、俺達は昼食を作り続けた.........
ーーー
ウララ「お腹空いた〜.........」
スペ「ウララちゃん、お疲れさま!」
ぐったりとした足取りで歩くウララさんと、それを支えるスペシャルウィークさんと合流し、私達は昼食を作っているであろうトレーナーさん達の元に向かっていました。
マック「お付き合い下さりありがとうございます。ラモーヌお姉様」
ラモーヌ「良いのよ。偶にはプロ以外のウマ娘と走るのも刺激になるし、それに.........」
ラモーヌ「.........ちょっと太り気味なのよ」
全員「.........あ、あはは」
ど、どちらかと言えば後者の理由の方が強かった気もしますが.........私達は誰一人それを指摘する事は出来ませんでした。お姉様は凄く真剣でしたから.........
そんなお姉様の言葉に困惑しつつも、私は気になった事をお姉様にお聞きしました。
マック「私と並走してどう感じましたか?」
ラモーヌ「.........そうね。[弱くなっている]わ。確実に」
テイオー「えー!!?でも良い勝負だったじゃん!!」
むっ、お姉様に対してなんという口の利き方.........これはお灸を据えた方が良いですわね.........!
そう思い、彼女の方へ一歩踏み出した所、お姉様に肩を叩かれました。その方を見ると、お姉様は気にしていないと言う様に首を振り、話を続けました。
ラモーヌ「走った距離は[中距離]。その上後100m長ければ[長距離]に分類される。そんな距離で私といい勝負なら、そうね。例えばそこのライスシャワーに負けるわ」
ライス「え、えぇ!!?そ、それはどうかな.........?」
ラモーヌ「まだ長距離が完璧じゃないミホノブルボンが相手だとしても、厳しいでしょうね」
的確で痛い指摘をされ、私は思わず俯きました。公式レースではまた違う環境ですから一概には言えませんが、お姉様から見れば確実に負けると見えているのでしょう。
.........いつもなら、課題とそれに沿った弱点の克服を思い付きますが、これが私の限界だと言うのか、この先を想像出来ずにいます。もうこの身体に、[繋靭帯炎]発症前の力は残されて居ないのでしょうか.........?
タキオン「.........そう悲観することもないさ。時間はあるよ。それに私達も居る」
マック「!タキオンさん.........」
デジ「そうですとも!元マネージャーとしての手腕っ!チームのエースであるマックイーンさんの為ならいつでも発揮いたしますよ!!!」
皆さんが落ち込んだ私を励ますように声を掛けてくれます。そんな声を掛けてくれるのに、落ち込み続けていたら皆さんに申し訳が立ちません。
私はふぅっと息を吐き、弱気や焦りを一気に身体の外へと追い出しました。
マック「所で、ウララさんとタキオンさんはどうでしたか?[有馬記念]に向けて、何か身になりましたか?」
タキオン「ああ、やはりスズカくんの安定感は素晴らしいが.........残念ながら私の走法には取り入れる事は出来ない様だ」
スズカ「そうね。タキオンの走り方は癖が強くて、その走り方で身体も作られちゃってるから、今から取り入れても逆効果になっちゃうわ」
なるほど.........確かに、タキオンさんの走り方は安定性とは程遠い位置にあると言えます。スピードを重視した走り。それを武器にこれまで多くのレースで勝ち続けて来たのですから、今更それを変えても意味は無いかもしれません.........
となるとやはり、彼女はまた脚の負担を軽減する為の薬の開発に時間を割かなければ行けないでしょう。黒津木先生の課題も用意されているため、そう簡単に辿り着ける物では無いと思いますが.........
マック「ウララさんはどうでしたか?芝の走り方で分からない部分などは.........」
ウララ「うーんっとねー.........たくさんあるよ!!」
マック「そ、そうですか.........」
カフェ「一応、長く走るコツも教えて見ましたが.........今のスタミナでは厳しいと思います」
彼女に対してはこの場にいる殆どの方々と並走を行い、その走り方を学ぶようにとトレーナーさんから指示を受けています。
しかしこう言ってはなんですが、やはりそれは難航しているようで、彼女が芝を走る。その上で有馬記念の距離を走るとなると、相当根気が必要になって来ます。
マック「私もデビュー時はダートを走っていましたから、教えられれば良かったのですが.........」
ウオッカ「いや、厳しいだろ」
ダスカ「そうよ。アンタの走り方じゃ芝もダートも殆ど関係無いじゃない」
そう。私の感覚としては足裏の違いと進み方だけで、特にこれと言って芝とダートで走り方を変えている感覚は無いのです。
あぁ.........せっかく貴重なダートレースに出走し、その後芝を主戦とした競技者でありながら、それをチームメイトに活かせないだなんて.........!
テイオー「も〜、マックイーン気にしすぎだよ〜!」
マック「だ、だって!私がちゃんとダートの事も考えて走っていたなら、ウララさんにもっと色々.........」
ブルボン「確かにそうかもしれませんが、今はとにかくご飯を食べましょう」
私の肩を叩き視線を誘導させた後、ブルボンさんは人差し指で方向を示します。そこはパラソルが立てられ、トレーナーさん達があくせくとお昼ご飯の準備をしている様子がありました。
そうですね。まずはご飯を食べてから.........そう思いながらじーっとその方向を見ていると、不意にトレーナーさんがこちらに気が付きました。
桜木「!.........へへ」
マック「!.........ふふ」
お互いの視線に気付いた私達は手を振り合いました。彼はその後すぐにまたご飯の準備に取り掛かり、腕で汗を脱ぐう仕草を見せます。
そんな彼の頑張っている姿を見て、非常に恥ずかしい話ですが.........少しときめいた物を胸に感じました。
そして、そんな私に集まる視線も.........
全員「.........じーっ」
マック「.........な、なんですのその目は?ら、ラモーヌお姉様まで!」
ラモーヌ「ねぇちょっと。あんなやり取りをしてるのにまだ付き合ってないの?」
タキオン「ああそうとも!!なんせ二人は[一心同体]だからねぇ!!!」
マック「タキオンさん!!!」
テイオー「そうそう!!今までデートも何回かしてるけど!!付き合っては無いみたいだよ〜?!!」
マック「テイオー!!!」
私をからかい、お姉様にあることないこと吹聴するタキオンさん達に声を荒げましたが、彼女達は反省の色を見せずにトレーナーさん方の居る方へと走って行ったのでした.........
ーーー
「いただきまーす!」
皆さんでそれぞれ用意したバーベキューセットを囲みつつ、両手を合わせて食事の挨拶をします。数台のクーラーボックスの中身はそれぞれ飲み物。そして大量のお肉が用意されていました。
桜木「肉焼いてる間はこっち食べてて良いよー。お腹空いてるでしょ皆」
ゴルシ「ゴルシちゃんの焼きそばとおにぎりがあるぞ!あとおっちゃんのカレーもあるしな!」
ルビィ「わーい!わたしゴルシお姉さんの焼きそば大好きー!」
お肉を焼いている間の空腹を避けるべく、トレーナーさん達は私達に何を食べるかを聞いて来てくださいました。自分でよそると言う方も居ましたが、トレーナーさん達はそれを聞かず、食べる事に集中しろと言いました。
私もその中の一人でしたが、私専用の献立表片手に分量を調節するトレーナーさんを見たら、何だか甘えたくなってしまいました。
桜木「っとと、はい。マックイーン」
マック「ありがとうございます。トレーナーさん」
桜木「良いの良いの。ラモーヌさんも」
ラモーヌ「あら、気が利くのね。焼きそばの方を持ってきてくれるなんて」
桜木「視線の移動回数が焼きそばの方が多かったからね。目はいいんすよ?目は」
また珍しいお姉様のお褒めの言葉.........何故かは分かりませんが、彼はどうやらお姉様に認められている様です。
自慢げに目を指差すトレーナーさん。そしてそれをアピールする為に目の端に映った丁度良い焼き加減のお肉をお姉様と私のお皿に乗せてくれました。
桜木「レアでございます.........」
ラモーヌ「?ミディアムじゃないかしら.........?」
白銀「え?そんなレアリティ存在する?」
黒津木「ブフォwwwバッカおまえwww焼き加減の事だよwww」
神威「バーカバーカ」
白銀「へぇ!!?レアが美味いってそういうことじゃねぇの!!?」
桜木「バっカバカじゃねぇか!!!」
こ、この人は一体今までどう生きてきたんですの.........?お肉を食べられない人生ならまだしも、貴方は世界的テニスプレイヤーではありませんか.........
と、私は頭が一気に痛くなりましたが、お姉様は気にすること無く、むしろそのやり取りを見て微笑みすら浮かべて居ました。
マック「申し訳ございません。普段はもっとまともな方々なんですけど、集まると少々その.........こうでして.........」
白銀「お前ら俺は白銀翔也様だぞッッ!!!」
「「「バカの事白銀翔也って言うの辞めろよッッッ!!!!!」」」
白銀「逆逆ゥッッ!!!」
マック「.........スーーー.........フゥーーー」
こ、この人達のせいで、私達までお姉様に変な印象を与えてしまう.........!こ、ここはお仕置して置かなければ.........!!!
そう思い、お皿に盛り付けられた物を食べ終えて箸を置こうとすると、お姉様がその手の平を見せて私の行動を停めました。
ラモーヌ「もう少し見ておきましょう?」
マック「!ですが!あの人達は.........!!!」
白銀「もう許さねぇ.........!!!ぶっ殺してやっからなァッッ!!!」
黒津木「あぁ!!?それはこっちのセリフだぜバーカ!!!何が世界一や世界最下位やお前!!!」
神威「怖〜、俺達避難してようぜ玲皇」
桜木「創くんが〜、白銀くんの事を〜、殺して〜って言ってました〜」
神威「テメェも言ってただろうがッッ!!!」
あぁ.........既に空気は一触即発。一歩でも動けば手が出るのでは無いかと思ってしまうくらいの緊張感の中。彼らはお互いに目を配らせ、その動向を探り合っています。
それを止めようとする方は.........私以外居ません。こんな流れ久しぶりですから、それを楽しみだと言う方の方が大半です.........
こ、ここは.........ここは私が人肌脱がなければ.........!!!
ラモーヌ「.........?マックイーン?貴女どこに.........」
お姉様の制止も振り切り、私は黒津木先生が持ってきて下さったレクリエーションアイテムの一つであるボールを探し当て、それを手に持ちました。
後は.........彼らが食いつく様な事を言うだけですわ.........!!!
「ちょっと!!!貴方達ッッ!!!」
全員「.........!!?」
マック「もう余興はおしまいですわ!!!」
マック「さぁ!!楽しい[ビーチバレー大会]の始まり始まりー!!!」
全員「.........えぇ.........?」
ーーー
突如始まったビーチバレー大会。一体どうなってしまうのか.........なんて言う俺の不安とは裏腹に、白熱した試合が沢山繰り広げられた。
ウララ「ライスちゃん!左側だよ!」
ライス「う、うん!」
黒津木「げっ!!?ウララが俺の動きの癖を読んでくるぞ!!?」
鍛え上げられた観察力で勝利を勝ち取るウララとライス。
神威「っ、届かな―――っと」
スペ「えぇ!!?い、今絶対届いてませんでしたよね!!?」
テイオー「反則だよ!!!ボールになにかくっつけてたんじゃないのー!!?」
カフェ「.........ボールには何もしてません」
オカルト的な事象で相手を手玉に取り、トリッキーな戦略で相手を翻弄する神威とカフェ。
マック「トレーナーさん!」
桜木「よしっ.........!」
「「っ!そこ.........いっ!!?」」
相手の思考と動きを読み、正確なコントロールで相手を倒していく俺とマックイーン。特にスカーレットとウオッカは面白いくらいにハマってくれた。丁度二人の中間の位置に落とすとどちらも取ろうとしてぶつかるという事が何度も起こった。
最終的に二人はいつもの様にどっちが悪いと言い合いになったのだが、つまらない事をするなと言わんばかりのラモーヌさんの威圧に当てられて萎縮した。正直申し訳ないと思う。
.........この大会が始まり、チームが決まった瞬間から優勝候補は決まっていた。それは白銀&ゴールドシップチーム。デカイツヨイヤバいの三拍子が揃った化け物コンビだ。
本当の所を言うと、ウマ娘側の方は分からないが、俺達三人は諦めていた。アイツと当たったら負け確だろうと。そして現に先に当たった神威は蹂躙され、ぼろ雑巾のように転がっていた。
俺も何とか決勝までこれはしたが、こんな針の穴を通すような戦法があの重機機関車共に勝てる訳もない。良くて準優勝だろうと思っていた。
そう、[思っていた]んだ.........
三人「な、ぁ.........!!?」
ルビィ「やったー!!勝った勝ったー!!!」
ラモーヌ「中々やるじゃない。安心してコートを半分任せられるわ」
準決勝。その場所で優勝候補は負けた。どこまで行けるか未知数のラモーヌさんとルビィちゃんのチームに.........見事に蹂躙されたのだ.........
桜木「な、なぁマックイーン.........自信ある?」
マック「.........率直に言わせて貰えるなら、0ですわ」
桜木「だよね〜.........」
とぼとぼと悲しげにコートから離れていく負け組と、嬉しそうにはしゃぐルビィちゃんとそれを褒めるラモーヌさん。対照的な姿が勝ち負けという概念が如何に残酷かということを教えてくれる。
バレーの中で感じたラモーヌさんの動きは精練されていた。柔らかくしなやかでありながら、身体の全てを駆使して勝ちを拾いに行く.........名家の御令嬢らしい姿とは似つかわしくない程の強い意志。アレがレースで出てくるのだとしたら、そりゃ強いに違いないだろう。
一方のルビィちゃんも、あの小さい身なりではあるが一生懸命動いている。しかし特筆すべきはそこではなく、彼女の凄い所は試合コントロールだ。
バレーを知らなかった彼女はルール説明を受けた瞬間。ここに居る誰よりもルールに関しては強くなったと思っている。そしてそれを瞬時に判断し、ネット際やコート外に落ちる様なボールには決して触らない。
そしてそれをラモーヌさんに即座に伝える度胸もある.........これは、どうなるだろうか.........
白銀「.........俺が、負けた.........?」
ゴルシ「あ、アタシとイワシで三途の川で積み上げてきたゴルシちゃんプライドが.........二人の鬼に蹴散らされちまった.........」
桜木「残念だったなぁ二人とも。仇は取ってやるさ」
三人「へ?」
珍しく落ち込む二人に慰めの声を掛けると、何故かマックイーンも含めて疑問の声を出してきた。
俺もその声に困惑していると、恐る恐るマックイーンが俺に問い掛けてくる。
マック「あ、相手はラモーヌお姉様なんですのよ?勝てるかどうかなんて.........」
桜木「なんだマックイーン?いつからそんな弱気な子になっちゃったのさ!」
マック「え.........?」
―――彼はそう言って、私の弱気な発言を叱る様に言いました。そしてその言葉によって、今の私と過去の私。その差異をはっきりと明確にしてくれました。
桜木「決勝戦。白銀達だったら負けてたさ。けど相手は戦略を練るタイプ。つまりは読み合い。俺の得意分野だ」
マック「で、でも相手は二人ともウマ娘で「マックイーン」.........?」
桜木「俺が[どんな男]か、忘れてないだろ?」
「俺は、[奇跡]だって超える男だぜ?」
マック「―――!」
自信満々の表情。その笑顔に乗せられるかの様に、私の心にも自然と勇気と自信が生まれてきました。
彼はボールに手を持ちながら、それでもゴールドシップさん達にも負けるつもりは無かったと言い、そのままコートの方へと移動して行きました。
マック(.........ふふ、そうよね)
マック(貴方はいつだって、[勝って帰ってくる]事を、考える人だもの)
例え相手が誰であろうと。人ではなく概念であろうとも、それに打ち勝つ為に己を奮い立たせる。それが出来る人です。
それがきっと、私達[ウマ娘]には無い[強さ]なんでしょう。形の無い、[運命]で決められた物にも抗える.........それが[人間]なのです。
ラモーヌ「準備は良いかしら?」
マック「.........ええ、お待たせして申し訳ありません。ルビィさん。お姉様」
ルビィ「えへへ!このまま勝っちゃうもんね!」
桜木「へへっ、そう簡単に行くかなぁ.........?」
お互いの陣地に入り、これから世紀の一戦が、幕を開けるのでした.........
ーーー
砂浜の上で波のさざめきがうっすらと聞こえてくる。それほどまでに、目の前の勝負に集中する事が出来ている。懸念点も、不安も何も無い。背負っている物すらも、脱ぎ捨てて.........
ラモーヌ(いつぶりかしら。ここまで伸び伸びと出来るだなんて)
ラモーヌ(ただの休暇より、息抜きになるわね.........?)
チームとしてタッグを組んだルビィという少女とポジションを確認し、それぞれの持ち場へと着くと、マックイーン達はその出方を伺うように並んで待っていた。
そしてそこから、その陣形を見て二人は顔を見合せ、アイコンタクトで意見を交換した後、先程までの試合とは違う陣形。彼が[前]。マックイーンが[後ろ]の位置で待機を始めた。
ラモーヌ(!なるほど、考えたわね.........)
ラモーヌ(いくらビーチバレーでも、対ウマ娘用の力で試合を進めたら人間からすると一溜りもない。その穴を突いて逆に前へと出てくる)
ラモーヌ(.........ふふ、やっぱり面白い)
まさかの作戦。奇策と呼ぶには余りに信頼性があり、定石と言うには余りに脆い。どっちに転ぶかも分からないギャンブルを、彼と彼女は選んだという訳ね.........
ルビィ「お、お姉さん。控えめで良いんだよね.........?」
ラモーヌ「そうね。でも、力が出ちゃう時は無理せず出しなさい?それをされても、あっちは文句を言えないんだから」
マック(!.........やはり、バレてるわね)
―――彼と目線で交わした戦略。その魂胆を、お姉様は手合わせをする前から既に見切っていました。半分予想はしていましたが、それでも少し、自信にぐらつきが生じます。
しかし、これは勝負。そんな心の乱れが命取りになる。私は深呼吸をしてから精神を落ち着かせ、サーブボールを天高く飛ばしました。
マック「てやぁッッ!!!」
回転が掛かりながら空気を裂き、後方のお姉様のポジションに向けてボールが向かって行きます。
そのボールをお姉様は、今日対戦してきたどの方よりも安定感のある完璧なフォームでレシーブし、その勢いを殺しつつも上空へと打ち上げました。
そしてルビィさんも、初めてとは思えない程綺麗なトスを見せ、コートネットギリギリの際でボールが上がり、お姉様が前へと向かってきました。
ラモーヌ「フッ.........!」
桜木「っと.........!」
ラモーヌ「っ、く」
普通であるならば、見事なスパイクが決まっていた事でしょう。しかし、ここは目論見通り、ブロックをする為に飛んだトレーナーさんの姿を見た事でお姉様は力を急にセーブせざるを得なくなり、ボールはコートの外へと落ちて行きました。
ウマ娘は幼い頃に、人との触れ合い方を学ぶ事になっています。物心着く前からそれを躾られ、小学生になる前には無意識に、人や他のウマ娘に対して働く直接的な力を加減する事になっているのです。
それを知ってか知らずか、彼は逆手に取る方法を見出し、そして利用しています。
私達の勝ちは十分にある。そう思っていたのですが.........
ーーー
桜木「はァ......はァ......」
マック「.........くっ」
お互いの苦しそうな顔を見てから、得点板の方を見る。戦況は劣勢。あと一本ここで入れられてしまえば、俺達の負けは確定してしまう。
あちら側の様子も険しさを感じている節はあるが、士気はこちらよりも高い。どうしたものか.........
そんな俺の様子を見て、自らの優位性を感じたラモーヌさんはふっ、と笑い、とんでもない提案をしてきた。
ラモーヌ「ただ勝っても面白くないわね」
二人「へ?」
ラモーヌ「ふふ、勝った方は負けた方に何かを命令するっていう罰ゲームはどうかしら?」
二人「はァ!!?ずるっこじゃねぇか(じゃないですか)そんなのォ!!!」
この人、勝つ為なら何でもするっていうのを地で行くタイプらしい。今の発言でルビィちゃんの疲れた表情も一気に吹き飛び、嬉しそうな表情でぴょんぴょんとはね始めた。
ルビィ「よーしっ!!勝っちゃうもんねー!!!」
桜木(くっ、サーブが来る.........!!!)
後方のその場で動かず、彼女は下から上に打ち上げるアンダーハンドサーブでボールを打ち込んで来る。
それをマックイーンはレシーブで打ち上げ、その落下地点に俺は移動してトスでネット際の方へと打ち上げる。そこに目掛けて彼女は助走をつけ、タイミングを合わせてジャンプをした.........が。
マック「あっ!!?」
ラモーヌ「っ、しまった.........!」
目測を誤り、そのボールは手ではなく頭が当たることによってネットを超えていく。マックイーンのスパイクを止める為にブロックをしようとしたラモーヌさんだったが、その彼女を飛び越えてボールは後方へと落ちて行く。
ルビィ「あぶないー!!」
桜木「ちぃッ!!よく見てんなぁルビィちゃん!!!」
それに反応し滑り込んでコート内での着地を阻止するルビィちゃん。マックイーンも疲弊している今、次は俺がスパイクを打ちに行くべきだろう。
そう思い、帰ってきた玉を俺が上へと打ち上げ、マックイーンに目配せする。彼女も俺の思惑が通じたのか、直ぐにボールの下へと行ってその両手をおでこの方へと乗せていた。
マック「トスっ!!!」
桜木「アタ―――ッッック!!!」
ルビィ「ほっと!!!」
桜木(な.........!!?)
俺のスパイクがいとも簡単に防がれる。しかし、そんな事は予想していた。大切なのはマックイーンの体力回復だ。その為にこの一回のラリーを俺は一度捨てたのだ。
驚いたのはルビィちゃんだ。その幼さで俺のスパイクを撃つ場所を、これまでの対戦の癖と経験を合わせて予測して、それを打ち返してきた。正直、ラモーヌさんが返してくるのだとばかり考えていた。
ラモーヌ「やるじゃない。トス」
ルビィ「えへへっ!アターック!!!」
二人「っ!させるかよ(させません)ッッ!!!」
身の丈に合わないジャンプ力。やはりウマ娘と言った所だろう。彼女のスパイクを止める為に俺とマックイーンは二人並んでネット際でブロックを試みようと飛んだ。
.........しかし、その瞬間。ルビィちゃんはその表情をニヤリとさせた。その意味に気付いた時にはもう、遅かった.........
ボールが地面に落ちる。誰の手にも触れる事無く、俺達の目の前で、俺達のコートでそれは落ちた。
そう。彼女は自分がスパイクを撃つというフェイントを全身で俺達に掛け、そしてその作戦を通してしまった。
つまり、これは純粋に.........俺達の負けになってしまった.........
ーーー
ルビィ「う〜ん、どうしよっかな〜」
桜木「もう一思いに煮るなり焼くなり.........」
唐突に始まったビーチバレー大会。優勝はルビィちゃんとラモーヌさんチーム。穴だったかと言われればそういう訳ではないし、じゃあ注目していたかと言われれば微妙な立ち位置だった。
俺はそんな中、彼女が下すであろう命令をひたすらに待つ。せめて可愛げのある物にしてくれ。私のトレーナーになってとか言わないでくれ。下手したら君の爺さんに殺される羽目になる。
エディ「ルビィ。あんまり困らせるなよ」
桜木「!爺さん.........!」
エディ「私の小切手を貸してやるからこれに好きなだけ数字を書いて.........」
桜木「おいジジイッッ!!!」
子供になんてやり取りさせようとしてんだテメェは。質が悪すぎるだろ。そのどす黒い太陽みたいな笑みは一体いつどこで習得したんだ。え?
とまぁ、周りからはアレはどうだコレはどうだと提案され続けるが、ルビィちゃんは一向に唸り声を止ませない。ここは一つ、保留という手を使うのもアリだと言おうとすると、彼女は決心したようにこちらを見上げた。
ルビィ「お兄さん!」
桜木「!お、おう!」
ルビィ「私のお願い決まったよ!」
ルビィ「.........大きくなったら、また勝負してね!」
「今度は[レース]で.........!」
桜木「.........!ああ!」
可愛らしい幼さ。と言うには、少し熱が篭もりすぎている。これを言い表すならば、純粋な若さだろう。スポーツマンが持っているものを彼女は既に、この年齢で持ち合わせている。
そんな俺の感傷なんて気にも止めずに、彼女は両親に褒められて気を良くしている。その微笑ましい様子を見ていると、俺の隣に沖野さんがやってきていた。
沖野「.........良いのかよ。あんな約束して」
桜木「良いも何も、命令だから仕方ないじゃないですか。後付けの約束だろうと、子供の期待は裏切れません」
沖野「そういう事じゃ.........はぁ、まぁいいか。頑張れよ、桜木」
桜木「?はい」
俺の返答を聞いた彼は、まだ何か言いたい事を言い終えて無いにも関わらず、それを有耶無耶にした。正直何を懸念していたのか聞きたい気もあったが、せっかく言わない選択肢を取ったんだ。それを聞き出すのも野暮だろう。
ようやくひと段落ついた。そう思った瞬間。俺の腹から限界アラートが鳴り響く。そういえばまだ昼飯にありつけていなかった。他の試合は審判を買って出ていたから、すっかり胃がすっからかんだ。俺も何かを.........
桜木「.........無い」
白銀「あぁ?当たり前だろ。もう全部食っちまったよ」
黒津木「さっさと食えよカスゥ!!!」
神威「お前ほんとバカだよなぁ」
桜木「て、テメェら.........!!!」
既に鉄板の上に食材は無い。目の前に居る奴らと他のウマ娘達の取り皿にはまだ若干残っていたものの、薄情な物で俺に分け与えるつもりは無いとでも言うように自分の分をササッと食べ、マックイーン達の分は見事に確保されてしまった。
俺の昼飯は無い。そう悟った瞬間。空腹感とアドレナリンの影響によって.........
「覚悟は良いなァ―――ッッ!!!」
結局、ビーチバレー大会の発端となった確執は今、殴り合いの喧嘩に発展してしまったのだった.........
......To be continued.........?
ーーー
マック「.........あの、お姉様?」
勝負を終え、お姉様の命令を聞こうとした私は、今皆さんがいる所から少し離れた岩陰の方まで連れてこられました。
ラモーヌ「ここなら、例えウマ娘でも聞こえないわ」
マック「え、えっと。すみません。何が何だか「マックイーン」.........?」
背を向けたお姉様が私の名前を呼ぶ。いつもその表情を見なければ、それが怒っているものなのかそう出ないものなのかを判断出来ない程、お姉様はあまり感情を表には出しません。
しかしこの時は.........凄く嫌な予感がしたのです。
ラモーヌ「私から貴女への命令。それはたった一つよ」
マック「.........ゴクリ」
そう言ってからようやく、お姉様はその背中を翻し、その顔を見せて下さいました。その表情は穏やかで柔らかく、とても怒っているようには見えません。私は緊張しながらも、少し安心感を覚えました。
次の言葉を聞くまでは.........
「明日開催される夏祭り。彼とデートに行きなさい?」
「そして、そこで[恋人]になるのよ?」
マック「.........はぇ.........?」
お姉様は、私に与えたのです。
[命令]ではなく。
[試練]を.........
私の全ての感覚が消え、どこに居るのかさえ分からなくなった一瞬。一番最初に戻ってきた物は、静かに。そして穏やかに押し寄せる波の音でした.........
......To be continued