山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マック「浮気ですわ」T「身も蓋もない事言わないで」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 おはよう諸君。アグネスタキオンだ。この様な始まり方をして済まないと思っている。

 

 

 本来であるならば色々季節や天気の話。今自分達の置かれている状況を話すのが常識なのだが、大変な事が起こってしまった。

 

 

 舞台は朝食時間のダイニング。夏合宿はいつも全員が揃ってメジロ家の料理人。詳しく言うならばラモーヌくん専属の超エリートが作ってくれるそれを楽しむ所だ。

 だが.........

 

 

タキオン「す、すまないがもう一度言ってくれないかい.........?」

 

 

「「?だから言ってるだろう(でしょう)?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「俺(私)達、恋人になりました(わ)〜♪」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ぁ.........ガ」

 

 

 ここに居る全員が度肝を抜かれている。沖野くんもあの三バカも同様に驚いた顔を見せている。

 夢にも思わなかった。まさかあの一夜。あの一瞬でこの領域に到達するとは.........考えて居なかったのだ.........

 

 

カフェ「.........え。それ学園の風紀的に私達に伝えて良かったんですか?」

 

 

桜木「えだって皆チームメイトだし」

 

 

カフェ「私は違いますよ?」

 

 

マック「.........まぁこの際チームレグルスの一員ということで」

 

 

神威「ダメだよ!!?」

 

 

 あ、頭が痛い.........いつもの夫婦漫才が進化して最早夫婦.........なんと言う事だ。ここまでクスリともしてこないとは.........

 

 

マック「.........と言うか、何故テイオーまで驚いていますの?」

 

 

テイオー「え」

 

 

マック「貴女が焚き付けたではありませんか?頑張れと」

 

 

タキオン「君がやったのか.........ッッ!!!」ギリィ

 

 

テイオー「ぴぇ!!?何でそんなに怒るのさー!!!こんな直ぐに近付くなんて思ってなかったんだよー!!!サブトレーナーだって卒業まで待つって言ってたしさー!!!」

 

 

 私の圧に最初こそ押されていたテイオーくんだったが、直ぐに反論を見せる。そしてその言葉には私も引き下がらざるを得ない。現に私もそう思い、後を追うことを辞めた一人だからだ。

 だ、だが確認しなければ行けない事がある。それは言うまでもなく彼の事だ。彼は私達に卒業まで告白はしない。というスタンス。その意思表示をした筈だ。だと言うのにそれを裏切って何故そんな行動を起こしたのか。私は聞かなければ―――

 

 

桜木「?ああ、何で今告白したかって事、聞きたい?」

 

 

タキオン「!な、なぜ分かったんだい.........?」

 

 

桜木「ククク.........タキオ〜ン。分かりやすい顔するのね〜君〜」

 

 

タキオン「な.........っ!!!」

 

 

桜木「したくなったからした。それだけの事だよ。信念なんて捨てれちゃうくらいに優先度が高くなった。分かりやすいでしょ?」

 

 

 あっけらかんと彼はそう言いきった。傍から見れば何と心根の弱い男だろうと言われるかもしれない。

 だが私達は知っている。彼という人間ほど一度決めた事をやり遂げる人間はそうはいない。それが誰かの為であるならば尚更。

 そしてそれが、恐らくではあるが彼女の為にならなかった.........よって彼は私達に宣言した事に背いてまでも、行動に移したという事だ.........

 

 

タキオン「.........黒津木くん」

 

 

黒津木「え?」

 

 

タキオン「私はこれからタイムマシンの研究をする事にする」

 

 

「え」

 

 

 

 

 

 ―――突然、タキオンの口から突拍子も無い言葉が出てきた。事情を知っているチームメンバーはともかく、ルビィちゃん一家は何言ってんだコイツ?みたいな表情で彼女を見ている。フォローしたいのは山々だが残念ながら俺には上手い言葉が見つからない。

 

 

黒津木「た、タキオン?お前何を言って」

 

 

タキオン「良いから研究だッッ!!!」クワッ!

 

 

黒津木「えぇぇ!!?」

 

 

 どこかで見た様な表情を黒津木に向けた後、タキオンはこれから出てくるご飯の事を気にもせずにその勢いのまま席を立った。

 その後を慌てた様子で追いかける黒津木。俺達はそれを黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

オル「.........とりあえずおめでとっス!おじじとマックイーン先輩が付き合ってくれてアタシも安心っス!!」

 

 

フェスタ「ああ、と言うか.........昨日花火だったんだな.........寝てて分からなかったぜ」

 

 

ゴルシ「姉ちゃん達は良い子ちゃんだからな!!代わりにアタシがお土産買ってきたからよ!!」

 

 

 俺の目の前で腕を組み、うんうんと頷く二人。先の事を知っているとはいえ、安心したのだろう。

 その様子をエディが不思議な物を見たような目で見ていた。

 

 

エディ「.........二人はあまり驚いて居なかったな」

 

 

二人「え」

 

 

エディ「知っていたのか?こうなる事を」

 

 

 疑惑の目が二人に向けられる。分からない事は分からなくなるまで追求するのがこの爺さんの質らしい。老い先短いんだから黙っとけばいいのに。

 そしてそれを弁解する為にオルフェーヴルが慌てた身振り手振りで弁解を始めた。

 

 

オル「じ、実はウチら二人から相談されてたっス!!」

 

 

フェスタ「そ、そうそう!!」

 

 

オル「別に未来から来たとか!!?実はウチらが二人の子孫だとかは無いっスよ!!?」

 

 

四人「(お)バカ!!!」

 

 

エディ「何をやってるんだこの者達は」

 

 

 危うく口を滑らせた彼女を四人で取り押さえる。その様子をいつもの日常だと知っているから、ここに居る皆は誰も止めやしない。

 そんなタイミングで朝食が運ばれて来る。俺はともかくマックイーンは自分の家の人の手前。すぐさまその軍勢から一歩身を引いて俺達を止めた。

 

 

使用人「お嬢様。お食事をご用意致しました。お客様もぜひ」

 

 

全員「は、はい」

 

 

マック「お、おほほ.........」

 

 

使用人「?」

 

 

 ご飯がテーブルに並べられている間、彼女は汗を頬に浮かばせながら愛想笑いを浮かべていた。俺達も騒いでいた手前なんて言われるか分からなかったが、使用人さんは優しく笑ってくれていた。

 料理を並べ終えた後、その人が部屋から出て行った。遠くに離れていった事を彼女は耳で確認した後、安堵の溜息を吐いた。

 

 

マック「行けませんわ.........彼と一緒に居るとこう、自分が抑えられなくなってしまいます.........」

 

 

沖野「まぁ、気が合うってのはそういう事だからな。そういう時こそお前が抑えてやるんだよ桜木」

 

 

桜木「えへ〜」

 

 

「照れる場面じゃない」

 

 

 これまた全員にたしなめられる。けれど仕方ないじゃないか。好きな女の子の隣に立ってそれを支える。そしてそれをする様に第三者から言われるってことはつまり、その立場を認めてくれているという訳だ。嬉しくならないはずがない。

 

 

 だが、問題がまだ一つ残っている。俺とマックイーンのこれからに関する重要な事が一つ.........

 

 

桜木「.........とまぁ、俺とマックイーンがこうして前に進んだわけですけどもですよ?一つ問題.........と言うか、まぁやった方が良いなぁと思う事がありましてですね」

 

 

桜木「皆さんの教えを拝借したいなぁと.........」

 

 

ウオッカ「な、なんだよ一体」

 

 

ダスカ「ウオッカ。ティッシュ貸すからそれ替えなさい」

 

 

 鼻に詰め込まれた二つの栓。既に外側に出ている所まで赤赤と染まっている。ウオッカのそれを見かねたスカーレットがポケットティッシュを渡して居る様子を見ながら、俺は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラモーヌさんと仲良くなりたいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

桜木「.........あれ?」

 

 

 場の空気が変わった。ひんやり。とかいう生易しい冷たさでは無く、一瞬にしてカチコチ地獄に様変わりした。

 そしてその冷気の発生源は俺の隣。つまりマックイーンだ。俺は恐る恐る隣に視線を移すと、彼女は俯いて肩を震わせていた。

 

 

マック「.........ふ〜ん」

 

 

桜木「えと、マックイーンさん.........?」

 

 

マック「.........誠実な方だと思っていましたが、まさか堂々と[浮気]宣言をするだなんて.........」

 

 

桜木「え?あっいやっ!そういう訳じゃなくてn」

 

 

マック「こんの.........ウマたらしぃぃぃぃぃぃッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぎゃぁぁぁあああぁぁあああああ!!!?????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「なるほど。つまりあまり会う機会が無いお姉様と仲良くなり、溝を作らぬ様にと.........」

 

 

桜木「最初からそう言ってたよね.........?」

 

 

マック「言葉が足りない貴方が悪いんです」

 

 

 制裁を加えている最中、彼の口からその言葉の真意を聞いて疑惑を晴らすことが出来ました。

 彼は右手首を抑えながら未だ苦悶の表情をしていますが、知りません。これで少し懲りれば良いんです。

 他の皆さんは仕方無い.........というより、呆れが強く感じられる表情でトレーナーさんを見ていました。

 

 

白銀「ヒヤッとしたぞお前!!度胸ありすぎだろ!!」

 

 

桜木「だからそんなつもりで言ってねぇってェ!!!」

 

 

デジ「今回は流石のデジたんもヒヤッとしました。あのタイミングであの発言は創作物でも無しですね」

 

 

ウララ「トレーナー!!浮気はダメだよ!!」

 

 

桜木「皆まで.........うぅ、ごめんなさい.........」

 

 

 彼は申し訳なさそうに私に頭を下げました。彼の悪い所はあまり考えずに行動し口にする事ですが、良い所はそれ以外の所です。自分に非があったら謝る事が出来るのなら、その欠点も些細な物です。

 

 

桜木「ほんとにごめんね.........マックイーン」

 

 

マック「も、もう良いですから。分かって頂けたのなら.........」

 

 

神威「あ、ソイツ言われた事一生引き摺るから気にしなくていいよ」

 

 

マック「尚更気にするではありませんかッッ!!!」

 

 

 ここで明かされる事実。彼はどうやら思った以上に打たれ弱かったそうです。今までそんな事はありませんでしたから勝手に大丈夫だろうと思い込んでいましたが、完全に偏見でした.........

 

 

スズカ「あまり気にしなくても良いんじゃないかしら?少しづつ改善していけば良いと思うわ」

 

 

スペ「そうですよ!サブトレーナーさんが良い人なのは皆さん知ってますから!」

 

 

沖野「お前.........学生の女の子に慰められて哀しくないのか?」

 

 

桜木「今の一言でガッツリ哀しくなりましたよ」

 

 

 ゲンナリとした様子で反論するトレーナーさん。そこから顔をゴシゴシと両手で拭った後の彼は、元通りの表情に戻っていました。

 

 

桜木「とまぁこんな事をしていても埒が明かないので、私は作戦を考えた」

 

 

ブルボン「口調が急に変わりましたね」

 

 

ライス「の、ノリノリさんなんだよきっと.........!」

 

 

桜木「実は夏合宿を頑張ってる皆へのサプライズって事で買い物に行こうと思っててさ」

 

 

フェスタ「それアタシらに言うか?」

 

 

桜木「それに一緒に来てもらう」

 

 

オル「良いんじゃないっスか?おじじの作戦にしては!」

 

 

桜木「ゴールドシップも一緒に」

 

 

ゴルシ「何でだよ!!!」

 

 

 突如挙げられたゴールドシップさんのお名前。それに反発する様に彼女はトレーナーさんに食って掛かりました。

 その表情からは嫌悪感.........とは言わないまでも、やはり苦手なのでしょう。あまり良い顔はしていませんでした。

 

 

ゴルシ「察してくれよおっちゃん!!アタシラモーヌおばさん苦手なんだよ!!!」

 

 

桜木「オラ来いよ孫ォ!!!オメェだよォ!!!」

 

 

ゴルシ「うるせェ!!!事実そうだけどじいちゃんヅラすんじゃねェ!!!」

 

 

 穏やかな海を背中にし、それと相反する騒がしい取っ組み合いをし始めるお二人。もう溜息しか出来ません.........全くもう、先日はあんなに大人でしたのに、今日はどうしてこんなに子供に.........

 

 

 しばらくして決着が着いたのでしょう。結局彼はその顔を歪にしながら、ラモーヌお姉様をお買い物に誘いに行きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和な街並みが過ぎていく程の速い世界。府中よりものんびりした雰囲気をビーチから感じていたが、それはここも同じのようだ。車もそれほど混雑しては居ない。

 俺は助手席.........ではなく、後部座席に座ったラモーヌさんの姿をルームミラーで確認する。とても憂鬱そうに外の景色を眺めていた。

 

 

 俺達はこの夏合宿にバスで来ている。本来なら運転する車すら無いはずだが流石はメジロ家。でしたらと言う事で快くピカピカの車を貸してくれた。しかもアンティークで丸っこい。可愛らしい車だ。白銀が乗ってなくて助かった。

 

 

桜木「.........あの」

 

 

ラモーヌ「.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

 会話を試みようと彼女に何度も声を掛けてみるが、聞こえてないように振る舞う。いや、もしかしたら本当に聞こえていないのかも知れない。

 .........いやいや。何を怖気付いて居るのだ俺は。折角マックイーンと恋仲になれたんだ。それを家族や親戚の批判で破局になんてなったら二度と生きちゃ行けないぞ!!

 俺の為にも!そしてマックイーンの為にも!!ここは勇気を出して質問をするんだ!!!

 

 

桜木「え、と.........ラモーヌさんの趣味って「絵」.........それって、描く方です?」

 

 

ラモーヌ「どっちもよ」

 

 

桜木「へ、へ〜.........最近は何か.........?」

 

 

ラモーヌ「.........そう言えばプロになってからは描いてなかったわね」

 

 

 .........え。終わりじゃないですかそんなの。こっからどう話を広げれば良いんです?俺にそんな会話スキルある訳無いじゃないですか!!!

 い、いやいやいやいや!それはお前の質問の仕方が悪いよ桜木!!そんな漠然とした質問じゃお前!!自分と関わりが無いこと出されたら詰むに決まってんじゃん!!

 もっと自分に寄せろ!!!おバカ!!!

 

 

桜木「えと、歌とか演劇とかどうです?どちらも芸術的な物ですし、好きな物とか「無いわ」.........ち、因みにどうして?」

 

 

ラモーヌ「残らないもの。形として」

 

 

桜木「.........そう」

 

 

 あ〜〜〜!!!この人は.........!!!ほんっっっとうに俺と感性がお合いにならない!!!

 一瞬だからこそ生まれる物がある!!!それが[奇跡]だろうが[悪夢]だろうが全部が全部ひっくるまって[作品]になるんだよ!!!

 

 

 .........なんて話した所で、相手にされない事は目に見えている。俺は諦めて運転に集中する事にした。

 

 

ラモーヌ「マックイーンのトレーナー?」

 

 

桜木「?はい」

 

 

ラモーヌ「貴方、つまらない人ね」

 

 

桜木「」

 

 

 お、折れた.........俺の中で、既にこの人と仲良くなろうという気持ちが.........完全に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........と言うか名前覚えられて無くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慌ただしさと静けさが共存する場所。ビーチから離れたショッピングモールは正に、そう表現出来るくらいの多くの人々が居た。

 

 

ラモーヌ「.........」

 

 

桜木「.........あんまりフラッとどこかへ行かないで下さいよ?俺、人探し苦手なんで」

 

 

ラモーヌ「そう」

 

 

 つまらない。なんてさっきは言ったけど、ようやく少しは良い顔つきになった。さっきまでの彼は私が[よく見る人の顔]をしていたのだけど、今ではすっかりその様子も無い。

 彼の背中は何故かすっかり疲れ切っているけれど、私は彼の後を着いて行った。

 

 

 一番初めはアクセサリーショップ。安価で在り来りな物が売っているお店。

 

 

桜木「これとかどうです?」

 

 

ラモーヌ「.........」

 

 

桜木「こ、これとかは?」

 

 

ラモーヌ「ふぅん?」

 

 

桜木「これって.........」

 

 

ラモーヌ「.........貴方が良いと思うなら喜ぶと思うわ」

 

 

桜木「.........じゃあ仮に俺がラモーヌさんにこれをプレゼントしたとして、その時俺の事どう思います?」

 

 

ラモーヌ「センスが無い」

 

 

桜木「」

 

 

 私の言葉を聞いて絶句して彼は放心した。しばらくして動き出した彼はカゴに入れていた商品を全て棚へと戻したわ。

 

 

 そしてその後に向かったのはマグカップや日用品の置いてあるショップ。こっちは実用的な物があって見応えがあったわね。

 

 

ラモーヌ「あら、このスリッパ.........」

 

 

桜木「どうしました?」

 

 

ラモーヌ「かなり材質が良いって聞いたわ。てっきり高級品かと思って爺やに探させていたのだけど、ここにあるなら見つかりっこないわね」

 

 

桜木「へー。因みにどんな材質なんです?」

 

 

ラモーヌ「ふわふわなの。とにかく」

 

 

桜木「.........じゃ人数分買いますか」

 

 

 自分の事に関しては信じ切れないけれど、誰かの事になると信頼しきる。不安を感じる性質を感じるけれど、そこに関しては私が言うべきことでは無い。

 

 

 後は.........そうね。お昼ご飯も食べたわ。

 

 

桜木「お腹いっぱいなりました?」

 

 

ラモーヌ「ええ」

 

 

桜木「本当に?」

 

 

ラモーヌ「.........ええ」

 

 

桜木「.........ラモーヌさんの普段のトレーニング量から見れば、後ラーメン二杯分くらいは食べれますよ?」

 

 

ラモーヌ「!」

 

 

 こういう時の目ざとさ。とでも言えば良いのかしら?トレーナーって存在はどうも私達ウマ娘の事を隅から隅まで見てくるわ。

 最初こそ鬱陶しい事この上ないと思っていたのだけれど、自分の時間もまともに取れなくなったせいもあって、前にも増して彼等彼女等の存在が必要不可欠であると思える様になった。

 

 

 .........そして、驚くべき事に、目の前の彼という存在がこの時間を通して、面白い程私の中でその立場が変わって行った。

 見ていないようで見ている。見ているようで見ていない。そんなアンバランスさが実に巧妙。だからこそ目が離せない。

 きっとあの子もこういう所に惹かれたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........最初はそう、そう思っていわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラモーヌ「帰る前に寄って欲しい所があるの」

 

 

 買ったお土産をトランクに詰めていると、ラモーヌさんが突然そんな事を言い出した。もしかして、何かいいお店でも知っているのだろうか?

 そんな彼女の提案を呑んで指示通りに運転をすると、ある場所に辿り着いた。

 

 

桜木「ここは.........」

 

 

ラモーヌ「休養期に身体を動かす為の場所よ。傍に作ったら休む事を忘れてしまいそうだから、少し離れた所に作らせたの」

 

 

 何の気なしに彼女はそう言ってのけてくれたが、俺は目の前の光景にただ唖然とするしか無い。

 そこは下手なウマ娘用のトレーニング施設より広く、そして設備が整っている。筋力を鍛える為の屋内や芝ダート両方あるトラックコース。果てには取材陣用の待機場所まで設置されている。

 改めてメジロ家と言うのはドデカイ家であり、俺は今更そんな家の子とお近付きになってしまったという現実がプレッシャーとなって襲いかかって来た。

 

 

 しかし、何故ここに来たのだろう?マイペースなラモーヌさんの事だから走りたくなった.........と言う事もあるかもしれないが、事走りに関しては右に出る者が居ない程にその行為。そしてそのものを愛している。

 .........ってマックイーンが言ってた。彼女が言ってるのなら間違いない。

 

 

 そんな状態で呆けていると、不意に視界に何かが勢いよく近付いてくる。慌ててそれに手を出すと、今まで触れたことの無い様な手触りを感じた。

 よく見てみると、それはラモーヌさんが来ていた上着だった。

 

 

桜木「え、と?」

 

 

ラモーヌ「見てなさい。マックイーンのトレーナー」

 

 

ラモーヌ「[いずれ辿り着く境地]を.........」

 

 

桜木「!」

 

 

 妖しさが含まれた笑みをこちらに向け、身体を解し始めるラモーヌさん。流石はプロ。その身にまとった空気は既に走り始める直前の物へと変わっていた。

 身体の一部分一部分を確かめて行き、ゆっくりと姿勢を前傾にしていく。その動作に気を配る様子は全く無いどころか、目すら瞑っている。彼女にとっては既に何千、いや何万も行った動作だと言うことがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――フッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息を入れた。その瞬間身体は緩やかに前方へ行く。均整の取れたバランス感覚。その身体の比率を極限まで研究した歩幅と腕の運動量。呼吸のタイミング。足裏から地面に対するアプローチ。

 全てが一級品。この世界のプロは学生と大差ないと言っていたが、前言撤回しよう。居るには居る。極限まで走る事を追求した者だけが到達する領域に、足を踏み入れたプロが居るということを。

 

 

 身体のブレも不安を感じさせるような歪さも無い。遠くから見ても、近くに寄っても変わる事は無い。

 

 

 彼女はまさに、[完全]であった。

 

 

桜木(.........凄いな)

 

 

桜木(.........うん。凄い)

 

 

 圧倒的だ。もし学生時代にもあんな走り方が出来ていたのなら、やはり抜きん出ていたに違いない。残念な事に俺の知識は近年の物しか無い。

 正直言って彼女どころか、生徒会長であるシンボリルドルフの走りすら、あまり詳しく見れては居ない。

 それでも、目の前で見せられている物の凄さは分かる。伊達に六年間、この世界に身を置いては居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――けど、[凄いだけ]だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラモーヌ「.........どう?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 ―――ただの気まぐれだった。別に普段から自分の走りを、誰かに見せびらかす様な事はしては居ない。

 けれど、彼には見せておきたかった。私達の大事なマックイーンを預かるトレーナーである、彼には.........

 

 

 彼に近付き、上着を受け取る。その表情は真剣で、真っ直ぐとした物を感じるけれど.........[あの人]とは違う何かを、感じる。

 

 

桜木「.........さっき、貴女は言った。[いずれ辿り着く境地]だと」

 

 

ラモーヌ「ええ。あの子ならきっと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きませんよ。そこには、絶対」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........予想もしていなかった言葉が叩き付けられる。上着の袖に手を通していた所に不意を突かれてつい動きを止めてしまったけれど、その答えが直ぐに私の中に生まれない事を悟ってその動きを再開する。

 

 

ラモーヌ「.........どうして?」

 

 

桜木「全てに置いて完成している。スタミナの消耗効率も、加速度の増加率。そしてピークの持続時間。全部」

 

 

桜木「けれどそれは無理なんですよ」

 

 

 優しい微笑みを見せた後、彼はタープに沈む夕日を眺めていた。その表情はどこか、懐かしい思い出に浸っている様にも見えた。

 

 

桜木「.........初めてあの子を見た時、才能を感じました。それだけの子だったら、きっと目指してたかも知れません」

 

 

桜木「けれどその奥に、確かに[あの子]が居たんです。[メジロマックイーン]の名と才能のその奥に」

 

 

桜木「俺は誰一人として、[同じ走り方]を強要しません。それぞれの強みで、それぞれの個性を持って走らせたいと思っています」

 

 

 .........トレーナーとしての信念。けれどそう言うには些か優しさが過ぎる。誰にも譲れない筈の部分が、その誰かによって成り立ってしまっている危うさがある。

 けれど彼はきっと、その危うさを抱えたままここまで来た。だからその危険性とそこから来る苦難を、よく知っている。

 

 

ラモーヌ「.........それで勝てる程、この世界は甘くないわよ?」

 

 

桜木「知ってますよ。その上で勝つんです」

 

 

桜木「.........いや、ちょっと違うかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、[あの子達と勝ちたい]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラモーヌ「.........!」

 

 

 恥ずかしさを笑顔で誤魔化しているけれど、その言葉は本物の、彼の思いそのものだった。

 そしてようやく分かったわ。何故あの子が、彼に惹かれたのかを.........

 

 

 自分を見てくれる。[ウマ娘]としてでは無く、一人の[個]として向き合ってくれる。

 やりたい事やなりたい物に一緒に向き合ってくれて、進んでくれる。

 

 

 私にとっての[あの人]も.........確かそうだった。

 

 

 私が心の中に抱えていた漠然とすらしていない不定形な理想。それを言葉にし、それを目標にしようと行動してくれた。

 今にして思えば、先の見えない道を歩こうとするなんて、セオリーを考えれば得策じゃない。

 

 

 けれどだからこそ、私は今こうしてここに立っている。

 

 

 [完璧]を超えた先。[完全]と言う場所に.........

 

 

 一つ。楽しみが増えた。彼等が、彼女等が何処を目指し、そして何に辿り着くのか.........

 

 

ラモーヌ「.........じゃあ、ひとつ聞こうかしら?」

 

 

ラモーヌ「貴方が目指している物。それを言葉で表してくれる?」

 

 

桜木「.........簡単ですよ」

 

 

 ターフに落ちる夕日。それから目を離した彼は、私の方を真っ直ぐと見つめる。若々しい表情と心意気がその目から伝わってくる。

 そして彼のその言葉を聞いて、真に理解する事が出来たわ。

 

 

 彼が目指している場所が.........私の居る場所と対極的な位置にあるのだ、と.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[奇跡]のその先。[それ]を超えた場所です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オル「うわぁ〜ん!!もっと泳ぎたいっス〜!!!」

 

 

フェスタ「ワガママ言うんじゃねー。第一遊びに来てたんじゃねーんだぞ」

 

 

 バスの入り口で通せんぼをするオルフェーヴル。その背中を蹴っ飛ばして強引に乗車させるフェスタを見て、ようやくこの合宿が終わるのだという実感が湧いてきた。

 

 

マック「来年も楽しくなりそうですわね」

 

 

桜木「いや〜.........良いかなまた暫くは」

 

 

ウララ「えぇー!!?ウララ来年も強くなりたーい!!!」

 

 

 夏合宿。その前とかその最中とかは気にしなかったが、終わった途端の疲労感が半端ない。歳を食ったとかそんな生易しい物では無い気がする。

 来年.........来年はまぁ、やってもいいかな?ここ以外の場所で.........

 

 

 そんなこんなでゲンナリしていると、足音が背後から聞こえて来た。振り返ってみるとそこには、ラモーヌさんが立っていた。

 

 

ラモーヌ「あら、もう帰るのね」

 

 

桜木「いや〜、マックイーン達の夏休みも終わりっすからね。流石に?」

 

 

ラモーヌ「夏休み.........?ああ、確かにそんなものあったわね」

 

 

 マジかよこの人。夏休みの存在を知らずして学生を終えたのか.........?その言葉に俺含めた数人の大人が冷や汗を垂らしている。流石はメジロラモーヌ。走りに全てを捧げている女性だ.........

 

 

 しかし、そんな俺達を気にすることなく、彼女は微笑んで別れの言葉を言った。

 

 

ラモーヌ「マックイーンの事を頼むわね。桜木トレーナー」

 

 

桜木「ええそりゃもう!!大事にしますとも!!」

 

 

全員「.........はぁ」

 

 

マック「.........///」

 

 

桜木「.........え?え!!?俺変な事言っだだだだ!!?」

 

 

 俺の言葉に何故か殆どの人達が溜息を吐き、マックイーンに至っては俺の脇腹に手刀を当てて更にバスの中へ詰め込もうとしてくる。お、俺が一体何をしたって言うんだ.........!!?

 

 

 .........でもまぁ、ラモーヌさんと仲良くなるって言う目的は達成出来たんじゃないだろうか?さっきも笑ってくれたし、俺の名前だって.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........え!!?名前ッッ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ちょ!!!待って!!!今ラモーヌさんに俺名前!!!」

 

 

マック「何ですか!!!名前くらいでそんな鼻の下を伸ばして!!!」

 

 

「いや!!!伸ばしてないから!!!」

 

 

「だったら何でそんなに喜んでるんですか!!!やっぱり浮気.........!!?」

 

 

「へぇ!!?何でそっちの話になるのォ!!?」

 

 

「っっ.........!!!トレーナーさんの.........おバカァァァァ―――ッッ!!!!!」

 

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ.........!!!」

 

 

 

 

 

 ―――遠ざかっていくバス。けれどその騒ぎ声はこっちにまで響いて来る。あの中にマックイーンが居ると思うと、何故だか嬉しい気持ちが生まれてくる。

 

 

ラモーヌ「.........そろそろ夏が終わるわね」

 

 

 波のさざめきを聴きながら、風に揺らされる髪を押さえる。夏が終わればまた、プロとしての責務を背負わされる事になる.........

 

 

 今まではただ面倒なだけだったけれど、今は少しだけ、心が違う。

 

 

 私も[強い]だけでは無い.........[あの人]の様な、[大人]になる為に.........

 

 

ラモーヌ「.........そう言えば、次のレースの予定を聞きそびれていたわね」

 

 

ラモーヌ「面白い相手が出てきてくれれば良いのだけれど.........」

 

 

 上着のポケットに入れている携帯電話を取り出し、番号を入れながらその電話の向こう側の人を心待ちにする。

 .........結局私も、マックイーンの事を言えないくらいには、あの人に色々提供されているかも知れない。

 

 

 そんな自分も悪くない。芸術品には粗がある方が丁度いいのと同じくらいには.........そう思える事の出来る夏にはなったのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし?次のレースはいつかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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