山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
夏が過ぎ去っていった。日の落ちは明らかに早くなり、肌寒さも感じるようになってきた今日この頃。
チームとしては普段と変わった事は特には無い。やるべき事をやり、そしてそれをこなしていく中で成長を実感していく。そんな毎日だ。
.........唯一、以前と変わった点と言えば。
マック「.........♪」
桜木「Zzz.........」
タキオン「.........デジタルくん。まさか君が来た時からかい?」
デジ「ええ。残念ながら」
私の目の前に居るのはソファーに座るマックイーンくんと、その彼女の膝を枕替わりにして寝ているトレーナーくんだ。ここ最近この二人の距離感が計り知れない所まで来ている。ここは仮にも学校だぞ。
私の問うた質問にデジタルくんは頭を横に振りながら簡潔に答えた。まるで手遅れの患者に宣告を告げる医師の様に。
それを聞いて私は自前の紅茶(砂糖少なめ)に更に紅茶を投入した。理由は口の中が極限的なまでに甘いからだ。
タキオン「マックイーンくん?浮かれるのは良いが君は学生。彼はトレーナーだよ?責めて節度を持ってだね.........」
マック「.........ぐぅ」
タキオン「寝たフリをするなおバカ!!!」
マック「だ、だってだって!仕方ないではありませんか!!!こんなに可愛らしい寝顔をしてるんですよ!!?膝枕しない方が可哀想ではありませんか!!!」
タキオン「どういう理屈だい!!?」
デジ「どれどれ〜?」
マック「見過ぎです!!!」
デジ「一秒も見てませんけど!!?」
.........とまぁそんなこんなで手を焼いている。という訳だ。見たまえ、普段のデジタルくんならばハイになって灰になる所だが最早眉すらピクリとも動かない。完全に耐性が着いてしまっている.........
タキオン「はぁ.........どうするんだい?チームメイトが増えたら、君は言うのかい?自分のトレーナーと付き合ってますと」
マック「.........?何か問題でも?」
タキオン「ああそうかいじゃあ言えばいいさ言えば!!!言って周りに言いふらされて生徒会にまで話が行って終いには理事長の耳に入って彼はクビだありがとうございましたどういたしまして!!!」
マック「.........どうしたんですの?タキオンさん」
デジ「えぇ.........?」
こ、この.........!!!まるで彼がするようなとぼけ方まで似てきてしまって.........!!!
ああ憎いっ!!!あそこまでくっつけくっつけと思っていた私ではあるがもう既に憎い!!!こんな騒がしい所で寝られるその根性賞賛に値する!!!起きて私の言葉を是非とも一度喰らって欲しい物だねぇ!!!
マック「まぁ冗談はここまでにして」
タキオン「冗談.........!!?半分は本気だっただろう!!?」
マック「本気が半分でも九割でも少しでも冗談が混じればそうなりますわ」
デジ「それがまかり通るなら爆破予告とかで人は検挙されないんですよ.........」
もう目の前に居るのは私の知っているマックイーンくんでは無い。私の知っている彼女はもう少し理知的で理論派だった。それが夏合宿のあの日を境に.........
マック「.........私だって、彼の事になると普段通りの自分で居られなくて不安なんです。どこか自分の感情に振り回されている様な.........」
タキオン「マックイーンくん.........」
マック「.........でも、それが[恋]と言うのなら、それに身を任せるだけですわ」
桜木「.........んぁ.........?」
彼女が自分の思いを言葉にし終えたタイミングで彼が目覚めた声を上げる。何ともまぁ寝ぼけ100%の間抜けた声が聞こえて来たが、それが可愛いのだろう。彼女はその頭を撫でていた。
桜木「ごめ.........寝てた.........」
タキオン「おはようトレーナーくん」
桜木「んん.........おはようちゃん.........」
欠伸をして身体を起こす彼。寝起きの挨拶をするとやはり、成人男性にしては可愛らしい反応を返してくる。普段から人畜無害さは前面に出ていたが、この寝起きという本性のでやすい状態でもそれならば、本当にそうなのだろう。
見たまえ。隣に居るマックイーンくんを。あまりの光景に口元を押さえて可愛らしい反応をしている。このバカップルが。何で本当に今までくっついて居なかったんだ?
桜木「何の話してたの.........?」
デジ「新しくチームに人が入ったとして、今のトレーナーさんとマックイーンさんの関係性をどう伝えるかの話し合いですよ」
桜木「.........隠し通せるかなぁ?」
タキオン「今のこの状態だと無理だろうね」
未だに眠そうな顔でマックイーンくんに問いかけるトレーナーくん。私の言葉に賛同するように彼女もコクリと頷いている。
そんな私達の心配を他所に、彼は身体を伸ばしながら凝りを解していく。暫くそうしていると何かを思い出したかのようにあっ、と声を出した。
マック「?どうしました?」
桜木「そう言えば、秋のチーム宣伝イベントに申請出してたの忘れてた」
「「「.........は?」」」
「「「はァァァァァァ!!!??」」」
ーーー
秋のチーム宣伝イベント。チーム陣は入学時には見抜く事の出来なかった良い生徒を。生徒側はその時は持てなかった自信を持って望む。言わば学園側から用意された救済処置.........
なのではあるが、沖野さんの話を聞いているとどうしても高校とかの新入生がカモになるあの部活動っぽい物を感じてしまう。結局はまぁチームの事を知ってもらって、そこから入ってもらいましょうよってな感じのイベントな訳だ。
デジ「もう!そういうのは早く言ってください!!デジたん遅筆なんですからね!!!」
桜木「いや〜ごめんごめん。また選抜レースで見ていくのかなって思っちゃったからさ〜」
デジ「デビュー前なら兎も角、このイベントに来るのは殆どがクラシック期の子達ですし、何ならそのウマ娘ちゃんのトレーナーさんがサブトレーナーになる事の出来るイベントですから」
.........うん。何も知らなかった。これだからレースの事しか頭に無い大人はダメなんだ。先が思いやられるぞ?
はてさてそんなこんなでそのイベントへの知識を深めた俺だが、今回使う手法は[漫画]。それを通して俺達チーム[スピカ:レグルス]の事を知ってもらおうって策略。
.........とか言っておきながら、今回参加するって言った後直ぐに、そういう用意はしてあるか?ってデジタルに言われたんだよなぁ.........最近、とことん抜けてる気がする.........
それでも、ウチのデジたんが三日で書き上げてくれましたぁ〜.........今日はその完成品を見せてくれる予定になっています〜。
デジ「.........なんか、一体一だとトレーナーさんが編集さんみたいですね.........」
桜木「えぇ?良いよ良いよ緊張しなくて。食わず嫌いは無いからどんな物でも読むよ〜俺〜」
チームルーム。テーブルを間にしてデジタルと向かい合って座る。紙袋から一冊の本。つまり原本を出して俺に見せてくれる。
タイトルは.........
桜木「ほぇ〜。[レグルステクニック].........?」
デジ「ひ〜.........!!緊張しますね〜.........!!」
う〜む。タイトルからじゃ内容が想像がつかないな.........これはなんかこう、きっとトレーナーのテクニックでウマ娘が強くなるー。みたいな事を書いてくれたんだろうな。
わざわざチームの為にそんな誇張表現までしてくれるだなんて.........!俺は嬉しいよ.........!!!
そんな感極まりながらも、俺は記念すべき一ページ目を開いた。
デジ[う〜〜〜チームチーム!]
桜木「ちょっと待って」
一ページ目の一コマ目。俺はそれを目にした瞬間すかさずその本を閉じた。
見てはいけないものを見た気がする。いや、正確にはどこかで見た様な物。健全な中高生は決して見ちゃいけない内容の.........こう、インターネットの[聖遺物]に類似した物が見えた。
桜木「なにこれ?」
デジ「レグルステクニックですけど」
桜木「.........よし分かった。最後まで見てやろう」
とぼけた顔で何か?みたいな顔をして彼女は言った。よーしそっちがその気なら俺も覚悟を決めようじゃないか。これが本当にイベントに出していいものなのか.........見定めてやる.........!!!
デジ[今、チームを求めて全力疾走しているあたしはトレセン学園に通うごく一般的なウマ娘]
デジ[強いて違う所を挙げるとすれば、チームに興味があるとこかナ―――名前はアグネスデジタル]
桜木(何でチームに興味ある事が異端なんだよ)
デジ[そんな訳で帰りにレグルスのチームルームにやってきたのだ]
桜木(来ないで)
ふと見ると、ベンチに一人の若い男が座っていた。
桜木(なんでチームルームのど真ん中にベンチがあるんですか?)
ウホッ!良いトレーナー.........
桜木(俺じゃん.........)
そう思っていると突然その人はアタシの見ている前で.........
桜木(やめろォォォォ!!!!!)
有馬記念の実況を始めた。
桜木(どゆこと?)
桜木[走らないか?]
桜木(お前はなに?)
そう言えばこのチームのトレーナーは滅茶苦茶で有名だった。
良いトレーナーに弱いあたしは誘われるままにホイホイと担当契約を結んでしまったのだ.........♡
桜木(ハートマークを付けるなハートマークを)
彼―――ちょっとワルっぽいトレセン学園のトレーナーで
桜木(逆にトレーナーじゃない方が怖いわ)
桜木 玲皇と名乗った。
桜木(そこは違って欲しかった)
トレーニング・レース調整もやり慣れてるらしく、チームに入るなりアタシはG1に出走させられる事になった。
桜木(鬼畜過ぎない?)
桜木[良かったのかホイホイ着いてきて。俺はヒトミミだって構わないでメイクデビューさせちまう人間なんだぜ?]
桜木(お前なんなんだよッッ!!!!!)
デジ[こんなこと初めてですけど良いんです.........]
桜木(良いんだ.........)
デジ[あたしウマ娘ちゃん好きですから.........]
桜木(だからっていきなりG1行く必要も無いと思うけどもなぁ俺はっっ!!!)
桜木[嬉しい事言ってくれるじゃないの。それじゃあとことん走らせてやるからな]
桜木(マジでお前ぶっ殺すぞ)
―――ふふふ、困ってます困ってます。あたしが見たかったのはその顔なんです。
そもそもなんであたしがわざわざこんな手の込んだパロディ.........いえ。はっきり言いましょう。パクリ漫画を書いたのか。それはトレーナーさんを懲らしめる為です。
やりたい放題やって怒られそうになったらすぐに良い人になる。彼は大人ですけど、その態度の使い分け?それがとってもデジたん的には嫌に思えるんです。
今回の話だって、前々から言っていたら別に普通に作ってましたよ?でも、一週間後のイベントの詳細を知らずに、知った後には漫画を作ってくれーって、酷くないです?
桜木「.........デジタル」
デジ(くふふ、さぞかし酷い漫画だったでしょう。泣いて謝ってくれたらちゃんと作った方を)
桜木「これめっちゃ面白いね」
デジ「.........は?」
あれ。さっきまで渋い顔してたのに、なんかケロッとしてます。もしかしてあたし、選択を間違えました?
一から終わりまで読み終わったはずの彼ですが、もう一度最初のページへと戻り、パラパラと中身を流し見して行きます。
桜木「いや〜クオリティ高いわー。特に最後のやつ俺滅茶苦茶好きなんだよね」
デジ(.........あれ、最後何描いたんだっけ?眠くて適当に描いちゃったけど.........)
普段なら絶対に有り得ない状態。ラストシーンを覚えてないなんてあたしはどれだけトレーナーさんの事を思って描いたのでしょう。
彼から返された本の中身を開き、私はその最後のページに目を通しました。
―――休日の朝八時くらいですかね、突然トレーナーさんから「デジタルお前暇か?」って電話が掛かって来たんですよね。
「いや昨日マイルチャンピオンシップ南部杯出て疲れてるんですけど」って答えたら「今次のレースの調整考えてるから良ければお前も来てくれ」って言うんですよ。
それで、ちょっと期待しながら学園に行ってみたら、結構綿密に計画立てていてあたしもちょっとやる気になっちゃったんですよね。
でも詳細が分からなくてトレーナーさんが居ない間に紙捲ったらそのレース計画[香港]だったんですよ(驚)
「トレーナーさん、海外じゃ無いですか!」って文句言ったら「走れりゃ良いじゃねぇか!」って怒るんですよ。
でもまあトレーナーさんの言う事も一理あるなって。外国のレースを走るのもまた経験だなと思ってたら、トレーナーさんが「デジタル。芝を走って貰う事出来るか」って言うんですよ!出来るわけないじゃないですか!
「是非ともお前に世界で勝って欲しい。最近ダート続きで流石に飽きてきたと思った」って。
なんなんですかその心遣い。(呆)
普通のウマ娘ちゃんはコース変更なんてコロコロしないしトレーナーもやりたくないんですよ。
結局あたしは香港で芝を走って勝つ事が出来ました。
もう二度とやりたくありません。(疲)
―――ああそうでしたそうでした。ついつい寝ぼけた頭でネットサーフィンしてたら面白い文章を見つけたんで文字ったんでした。
というかなんですかこれ。あたしが書いたとはいえ酷すぎません?鬼畜そのものじゃないですか。普通ダートG1走った後に芝のG1なんて行きませんよ。
それにしても最後文字だけってどんだけ眠かったんですか。いつもだったらもっと描いてますよ.........
桜木「いやー。面白いなー」
デジ「ええ。出しませんよこれは流石に」
桜木「ええ!!?」
デジ「トレーナーさんを懲らしめる為に描いたんですから。こんな反応になるなんて予想外です」
―――溜息を吐きながらデジタルは俺に渡してくれた本を紙袋の方へと戻して行った。こんなに面白いのに勿体ない。
そう残念がっていると、デジタルは先程とは違う本をテーブルの上に出してきた。
デジ「こっちはどうです?結構前から描いてた奴でレグルスの事しっかり描いてますよ」
桜木「う〜ん、まぁデジーがそう言うなら」
デジ「急にあだ名つけて来ますね」
とりあえず先程の本と交代する形で出てきた本を手に取ってみる。ページ数はさっきのとそう変わらないだろうか?
しかし、これはデジタルが以前から描いていてくれたもの。つまり彼女が抱くレグルスに対する真の気持ちが詰まっていると言っても過言では無い代物だ。
一体彼女は普段から何を―――
マック[トレーナーさん♪はい、あ〜ん♡]
桜木[ま、マックイーン?みんな居ないからってそれは.........]
マック[あ〜ん♡♡♡]
桜木[あ、あ〜ん.........]
―――な
マック[あ、の.........二人の時は、その.........玲皇さんって呼んでもいいですか.........?]
桜木[え.........う、うんっ]
マック[で、では.........玲皇、さん.........♡]
桜木[っ.........///]
な、なな.........!!!
桜木[マックイーン〜♪]
マック[ひゃっ♡もう、急に後ろから抱き締めるなんて.........卑怯です♡]
桜木[ごめんね〜、ちょっと甘えたくなっちゃったんだ.........]
マック[ふふ♡そうと言ってくだされば、前からぎゅってしてよしよしして差し上げましたのに.........♡]
な、ななな―――
桜木「.........なんでぇ.........?」
嫌な汗が絶え間なく額から流れ出て行く。絶大な甘さのあるシチュエーション。例えるならばチョコの上にイチゴジャムを塗りたくったような甘さのそれから顔を上げてデジタルの顔を見ると、そこには腕を組んで呆れた顔をしている彼女がそこに居た。
これは彼女の妄想では無い。この一つ一つの内容が実際に俺の記憶の中にある。ここ最近マックイーンとのやり取りだ。俺はしっかりとそれを記憶している。
だ、だけど俺はしっかり「誰も居なかった」―――!
デジ「.........それを確認して、やり取りされてたんですよね?」
また嫌な汗が溢れ出す。まるで刑事ドラマで尋問を受けている犯人の様だ。唯一違う所があるとするなら、証拠はどこだ?なんて取り繕う事なんて出来ない事実が目の前に掲示されている事だけだ。
俺は何も言えずに、ただ口を開閉させるだけの存在になっていた。
デジ「.........一つ目の漫画はトレーナーさんの滅茶苦茶を懲らしめる為です。そしてこっちは.........節度を守らないトレーナーさんを懲らしめるものです」
桜木「せ、節度って.........ま、周りにはちゃんと気を配ってるし!!ちゃんと皆のトレーニングだって」
デジ「このイベントの話をした時、トレーナーさんマックイーンさんに膝枕されてましたよ?」
桜木「.........へ?そうなの.........?」
気付いてなかったんだ。彼女はそう言ってまた溜息を吐いた。え、俺そんな事されてたの?そしてそれをタキオンとデジタルに見られてたの.........?くそ恥ずかしいじゃん.........
デジ「最近、ウララさん達がお昼休みに集まらないですよね?」
桜木「え?あ、ああ.........で、でも放課後にはしっかりチームルームに顔出してくれるし、あまり気にしてな―――」
デジ「トレーナーさんのせいですよ」
桜木「!」
ドキっ。と心が跳ね上がる。俺は今アグネスデジタルに心を掴まれている。勿論、史上最強に悪い意味で。
それに.........今の彼女の表情。完全にあの時と同じ物になっている。俺が壊れ、全てを捨てようとして、消えようとしたあの夜に見た.........
デジ「皆さん気を使ってるんです。折角マックイーンさんとくっついたんですから、あたしも嬉しいですし、何ならイチャついても構わないと思っています」
桜木「.........」
デジ「でもそれでチームの形が崩れるのが許せないんです。言っている意味、分かります?」
桜木「ひっ.........」
怖い.........もうデジタルの身体から何か、金色のオーラが出ているのが分かる気がする.........これじゃあまるで獅子に睨まれてる小鹿じゃないか.........俺玲皇だけど.........
デジ「.........これからどうすべきか、分かりますよね?」
桜木「はいっ!はいっ!!!そりゃもう!!!チームトレーナーとして気を引き締めて!!!やって行きたい所存でございます!!!」
デジ「.........」
桜木「.........っ」
静かに見つめてくるデジタル。先程の睨みとは違う、相手が信用に足るかを見定めるその目。俺はそこから目を逸らさず、じっとその目を見つめ返す。
ここで信用を得られなければチームは.........いや、俺が終わる。確かにマックイーンの事は大事だ。けれど俺はトレーナー。それと等しく、他のチームメンバーも大事にしないと行けない。
忘れてなんて居ない。けれどその想いが些か足りていなかったんだろう。俺はそれを.........反省している。
デジ「.........分かりました。トレーナーさんを信じましょう!」
桜木「.........ごめん。デジタル」
デジ「いえいえ!浮かれるのは仕方ないですよ!!お二人が幸せになってくれればそれで良いのです!!今の内に解決して置けば心配もありませんから!!」
先程までの真面目さとは打って変わり、彼女はいつも通りの笑顔が多いデジタルに戻ってくれた。そして、彼女の思いを聞いてようやく理解出来た。
結局、これも俺とマックイーンを思っての事なんだ。きっとこれが無いまま過ごして行ってウララ達の事に気付いた時、俺もマックイーンもきっと悲しくなってしまう。
それを防ぐ為にわざわざこうして釘をさしてくれたんだ。この子は本当、いつも俺を助けてくれる。
デジ「.........あっ、そう言えばイベントの方はどうします?後一週間くらい猶予ありますから、描き直せますよ?」
桜木「いや。流石に悪いよ。ここはもうこの身一つで宣伝して行こう」
もう十分助けて貰ったんだ。これ以上助けを求めるのは流石に気が引ける。アイディアは特に浮かんでこないが.........まぁ、他の子達に助け舟を求めるしかない、か.........
ーーー
そうして迎えた秋のチーム宣伝イベント。場所は体育館で時間帯は放課後。想定よりも多くの人達で賑わっている。ウマ娘、新人トレーナー問わずにだ。
他のチームを見ればパンフレットを配ったり映像資料を見せたりと非常に手が込んでいる。リギルに至っては効率の良い練習法やデータの扱い方なんかを簡単に教えてくれている。
桜木(流石だなぁ.........)
チーム[リギル]。そのシステムは他のチームのそれとは大分違う。チームトレーナーとして東条ハナさんが居て、それを中心に所属しているウマ娘の担当トレーナーに指示を送る。例えるなら正に[会社]と言っても良いだろう。
その特異性と機能性。ウマ娘とトレーナーが両方育つ環境を作り上げているが、現在ハナさんが正式に担当を持っている子は居ない.........と言うか、この形態だと持つのが難しいだろう。
一番繁盛しているのがそのチーム[リギル]。肝心の[スピカ:レグルス]はと言えば.........
マック「安いですわよー!安いですわよー!採れたてのにんじんがお買い得ですわよー!」
タキオン「このブランドにんじん!無添加無肥料で作られているのだよ!!普通に購入するとお値段2万9800円の所を!!」
ウララ「チームに入るとねー!!無料なんだってー!!」
ライス「そ、そんなにんじんさんを使った美味しいお料理レシピも付いて来るんだよ.........!!た、食べて見た人の感想もちゃんとあるよ!」
ウマ娘B「私は体質で家電品を扱えませんが、それでも簡単に調理する事が出来ました。これもマス.........桜木トレーナーさんが作ってくれたレシピのお陰です」
マック「そんな美味しいにんじんと素敵なレシピが合わさった物がなんと!!チームに入っただけで無料ですわー!!早い者勝ちですわよー!!」
桜木「.........はは」
他から見りゃな〜にやってんだか.........ってなるかもしれんけど、これがうちのチームである。良い面子が揃ってるんだけど、何故か残念と言うか.........そこが可愛いんだけども.........
全員が制服の上から法被を着て、ブルボンに至ってはモザイクガラスを手に持って必死に声を作っている。そんな様子を見れば誰だって笑ってしまうだろう。
デジ「.........誰も来ませんね」
桜木「そりゃぁ、速く走れるようになりたいって思ってるのにこんな的外れな宣伝してたら.........ねぇ?」
デジ「やっぱり売ります?桜マク本」
桜木「やめて」
そっちの方が嫌だわ。チームに人が来ないより。そもそも誰が好き好んでこんな冴えない男と知ってる顔の女の子がいちゃラブチュッチュする本を貰ってくれるんだ。万が一売れてもレビューに☆1付けられて送り返されるのがオチだ。
頬杖を付きながら必死に宣伝するマックイーン達の背中を見る。うちの前には見事にお客さんなど居やしない。トレーナーもウマ娘も、チラチラ見て申し訳なさそうに笑っている。逆にこっちが申し訳ない。
デジ「う〜ん、良いチームだと思うんですけどね〜?[スピカ:レグルス].........」
桜木「まっ、結局は俺の人望よな〜。人間関係は大分改善したけれども。多分もうちょい必要なんだろうな〜」
マック「んもう!!サボってる場合じゃありませんわよ!!トレーナーさん!!デジタルさん!!早くしないとにんじんが売れないではありませんか!!」
二人「チームの宣伝に来たんだ(です)よ!!?」
怒り顔のマックイーンにメガホンを渡されて渋々呼びかけに参加する俺とデジタル。楽しい時間を過ごしたけれど、結構恥ずかしい思いをした。
そして結局、誰もチームに入ってくれる事は無かった。途中神威とカフェが来てくれはしたが、俺達の姿を遠目で見て(何やってんだアイツら)みたいな目を向けてそそくさと出て行ってしまったのだった.........
ーーー
マック「はぁ.........ショックです.........こんなにも良いチームですのに.........」
桜木「まぁまぁ、チャンスはあるって。別に今焦らなくてもさ。ね?」
トレーニングの総括を終え、資料やデータを片付けた後も、マックイーンは終始落ち込んだままだった。一緒に廊下へ出てチームルームの鍵を閉めた今もショックを隠せないでいる。
.........う〜ん、た、多分。今は良いんだよな.........?
マック「ひゃっ!!?と、トレーナーさん.........?」
意識を内側に向けていた彼女の身体を片手で抱き寄せ、その手で頭を撫でる。もうミーティングも済ませたし、他の子達は帰ってるし。多分。大丈夫だろう.........
桜木「実はさ。今回のイベントは何か、他の子達がどんなレベルなのか見たかっただけなんだよ」
桜木「まさかこんな形になるとは思ってなくて.........だから元々、チームに誰かを入れるとかは考えてなかったんだ」
マック「そ、そうだったのですか.........」
桜木「うん。今は6人で手一杯だからさ。心配しなくても良いよ.........よしよし」
マック「.........♡」
優しく力を入れない様に彼女の頭を撫でる。時折耳の後ろを上に擦ってあげると擽ったそうに声を漏らしてくれるけど、その声が本当に可愛い。
次第に身体の側面でスリスリしていたマックイーンが、俺の身体に両手を回して抱き締め始める。それに応えるように俺も彼女の身体を抱き締めた。
彼女の不安はきっと無くなっただろう。それがわかるくらい、彼女を包む雰囲気から嫌なものは消えてくれた。
彼女が安心してくれる。幸せになってくれるだけで俺もそうなれる。お互いの顔を見て微笑んだ後、俺達は二人で帰る為にもう一度歩き―――
「.........何を、している?」
二人「.........あ」
―――歩き出そうとしたその先には、鬼の様な形相をした秋川 やよい理事長が.........仁王立ちで立っていた.........
二人「ご、ご.........」
「「ごめんなさぁぁぁぁいっっ!!!!!」」
.........その後、俺とマックイーンは理事長室まで連れて行かれ、鬼の形相をした理事長に叱責。そしてそれと同じくらい何故か祝福をされ、解放されたのは約3時間後だった.........
......To be continued