山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
秋の予感が日々増していく九月の終わり頃。肌寒さと寂しさの季節だと感じる反面、何かに打ち込める季節とも言える。
ウララが目標にしている[有馬記念]まで三ヶ月を切ろうとしている。俺も本腰を入れて予定を組まなければ行けない。そう思って今日はいつもより早めに学園の方へと来たのだが.........
「うぅ.........き、緊張するなぁ.........」
桜木(ん?誰だろう、あの人.........?)
門の前でソワソワとしているスーツを着た女性。少なくともトレセン学園では見たことの無い人だが、頭の上にある耳からウマ娘である事には間違いない。
という事はつまり、この人はOGという物なのだろう。俺もトレーナーの端くれ。例え卒業生で名前も顔も知らないウマ娘であろうと助けるべき存在だ。
桜木「何かお困りですか?」
「!いえ!お気になさらずとも.........桜木トレーナーさん!!?」
桜木「え?」
俺の顔を見た瞬間、先程までの緊張した顔は一気に驚愕へと変わっていったが、次第にまた緊張。それもさっきよりも強めの物が彼女の中に発生してしまった。
桜木「あ、あの、そんなに驚く程の事では.........」
「驚きますよ!今注目のトレセントレーナーなんですから!!」
やや興奮気味にそう捲したてる女性。俺はそれに気圧されてしまう。確かに最近色んな所で声を掛けられる様になりはしたけど、俺自身はそんな大した人間では.........
かと言ってそれを素直に口にしてしまえば目の前の女性にマックイーンや沖野さんみたく怒られる気がしてならない。ここは素直に飲み込んで置こう。
桜木「あ、ありがとうございます。それよりもしかしてですけど、トレセン学園に用があるんですか?」
「はい。あっ、私こういう者でして.........」
桜木「あっ、これはご丁寧にどうも」
女性は思い出したかの様に手さげバッグからオシャレで可愛らしい名刺入れを取り出し、そこから自分の名刺を俺にくれた。俺も昔の習慣が未だに残っており、自然な動作でそれを受け取る事が出来た。
おぉぉ.........!久々の名刺だ.........!懐かしい。企業営業の時とか、長く使ってくれる個人の方とかとこうやって名刺交換したなぁ.........結構見返すの大好きなんだよ。名刺って。
そうそう。こういう時しっかり粗相が無いようにお名前と会社名は確認。読み方が分からなかったらその都度聞く。営業の上司にみっちり叩き込まれたなぁ.........まぁ売るだけ売って後は放置の人だったし、それが原因で辞めたんだけどね俺は。
桜木(えっと、[ライトハロー]さんか。会社は[白銀コーポレーションイベント企画部])
桜木「.........へぇ、白銀コーポレーション」
ハロー「はい。今日は社長の指示でこうして母校まで呼び出されたんですけど.........」
.........最初はオドオドしてて、可愛らしい女性の方だなって思ったんだ。
やべー会社の人だった。
.........いや、会社のトップが世界でトップレベルで身体能力がヤバくて(良い意味で)頭がヤバい(壊滅的に悪い。意味とかじゃない)だけだから。普通の社員の人に罪は無いから.........
桜木「えと、イベント企画部って珍しい部署ですね?」
ハロー「はい。昨年出来たばかりの部署で、私元々テレビ局の社員だったんですけど」
ハロー「社長が丸々買い取っちゃって」
桜木(ホリ〇モン!!?)
え。何アイツそんな快挙成し遂げたの?えじゃあ何?今ムショで暮らしてるの?あー通りでここ最近見ねぇな思ってたわ。こりゃ今度ニュースの取材来るな。何言うか考えとこ。
えぇマジっすか!!?それは許されないと思います!!か、バキバキ犯罪です。うん。この二つだな.........
白銀「おっ、玲皇にハローちゃん。浮気か?」
桜木「え。お前なんで豚箱入ってねぇの?」
白銀「は?」
桜木「お?」
ハロー「え?お、お知り合いなんですか.........?」
ああ、世間一般には俺達の関係性はあまり知られてはいない。癒着がどうたらとかあるらしいから、そこら辺には気を使っているから、メディアとかには触れさせていない。
俺達はお互い胸倉を掴んだ状態からどうすべきかを一考した後、お互いに手を離し、俺は目の前に居る奴のよく分からんブランド品の無地のTシャツ(季節感ゼロ)に鼻をかんだ。
白銀「あァ!!?オイッッ!!!」
桜木「っでぇ。初めて会いました。誰ですかこの見た事も無い珍生物見たいな顔した男は」
ハロー「え、えっと。我が社の社長です」
桜木「あっそう。じゃあお前が白銀?」
白銀「さんを付けろよデコスケ野郎ォッッ!!!」
桜木「死ねェェェェッッッ!!!!!」
(校門前で何をしてるんだこの人達)
―――突然始まった我が社の社長と期待のトレーナーの取っ組み合い。既に校門前には登校しに来ている生徒の人達も居るのに.........や、やっぱり私、入る会社間違えちゃったのかな.........?
そんな事をぼんやりと考えながら目の前の状況をどうにも出来ずに見ていると、学園側の方から人がやってきて、お二人の方に咳払いをしました。
「こほんっ」
桜木「?.........あ、たづなさん。おはようございます」
白銀「おはよう!今日もスタイル良いですね!!俺の愛人枠で会社に入りませんか!!」
たづな「おはようございます!!スタイルを褒めて下さるのは嬉しいですけど会社には行きません!!後取っ組み合いを止めなさい!!!」
二人「ごめんなさい!!!取り敢えずコイツぶっ殺してからでいいっスか!!!」
たづな「ダメに決まってるでしょう!!?」
わっ、わっ!たづなさんだ〜。数年ぶりに見たけど本当に変わってない〜!!
私はつい仕事で来たことも忘れて、懐かしい姿のままのたづなさんに感激していた。すると彼女は取っ組み合いを続ける二人から視線を外して、私の方に視線を向けました。
たづな「.........え!!?ら、ライトハローさん!!!」
ハロー「!お、覚えてくれてるんですか.........!!?私、あんまり活躍出来なかったのに.........!」
たづな「トレセン学園の生徒さんは皆さん覚えてますよ。立派になりましたね」
ハロー「うぅ.........たづなさんは変わらず優しいですね.........」
あぁ.........!なんて優しい。まるで聖母様の様な微笑みで私の事を癒してくれる.........社会で荒んだ心が澄み渡るくらい綺麗にされて行く気分.........
って、行けない行けない。私は今日は仕事で来てるんだから。公私はハッキリ分けなくちゃ.........
そう考えを改めた私は、ここに来た経緯をたづなさんに話した。すると彼女はそれに驚きながらも、私の今の仕事を褒めてくれながら学園の中へと手引きしてくれた。
ハロー「え、あの。あの人達は?」
たづな「?ああ、大丈夫ですよ♪」
たづな「.........そろそろ登校してくる時間ですから♪」
ハロー「ひぇ.........」
怖いくらいのにこやかさを見せながらそういうたづなさんに、私は決して小さくない恐怖を抱きながら、久しぶりの学園に入る事になりました。
桜木「クソッ、汚ぇぞ白銀っ!!両手禁止にしやがれェッッ!!!」
白銀「するかよバーカッ!!!」
桜木「テメェマジで「何をしてるんですの?」.........あ」
白銀「へへェッ!!コイツ校門前で暴れてたぜお嬢!!後は頼んだぞ!!!」
桜木「え!!?ちょおま―――」
「ぬぎゃぁぁあああぁぁぁああああ.........」
ーーー
ふぅ、危ねぇ危ねぇ。俺とした事がアイツのノリについ乗っちまったぜ。ふっかけたのは俺なんだけどな!
だけどいつまでもガキの遊びをしてる訳にも行かねぇ。俺はやよいちゃんとした仕事の約束がある。その為に今ちょっと遅れちまったけど、理事長室に向かってるんだ。
「あっ、白銀さんおはよう〜」
白銀「おう!元気か!」
「はいっ!」
「白銀〜!ジュース奢って〜!」
白銀「今忙しいから!ほら!これで買っとけ!」
「わーい!さっすが社長さんっ!太っ腹〜!」
最初の頃こそサインだとか握手だとか求められたけど、今となっちゃこんな風に普通の職員として扱われる。新入生はそんな事ねぇけど、まぁ半年経ちゃこうなるもんだ。
すれ違う小娘達にファンサービスをしながら目的地まで歩いて行くと、俺の超高性能イヤーに会話の内容が入ってきた。
白銀(おー。これ俺入らない方が良い感じか?スムーズに進んでるし)
ハローちゃんの事が心配だったから同席する予定だったが、話せてるんだったら問題はねぇ。けれど俺も社長の端くれ。せめて話だけでも盗み聞きしてやるぜ.........!
やよい「感動ッ!!まさか君が来てくれるとはな!!」
ハロー「いえいえそんな!むしろ私で本当に良かったのかと.........」
やよい「何を言うっ!君は学園在籍時からライブに関しては右に出る者が居ないほど知識人だっただろう!」
―――私の目の前に居る懐かしい顔。かつては学園の一生徒だった彼女が、今では対等な立場で話す事のできる仕事相手にまで成長して現れた。そこに不安など一切ありはしない。
だがあの白銀翔也にも驚いた物だ。一体彼女をどう見つけて来たのか.........気になる部分ではあるが、今問題なのはそこでは無い。
やよい「早速で悪いが、本題に入らせてもらおう」
ハロー「はい![URAファイナルズ].........そのライブについて、ですよね?」
やはり、彼女は話が早い。私は彼女の言葉に頷く事で肯定し、用意していた封筒から資料を取り出してテーブルの上に並べた。
[URAファイナルズ ライブ企画]。そう銘打たれた資料ではあるが、書いてある事は普通のウイニングライブとそう変わりない。
彼女がそれに手を取り、目を通している。その間に私は、今日という日までに彼と交わした会話を思い出していた.........
『ウイニングライブで困ってる?』
『首肯っ!!世界を知る白銀翔也。君に何かいい案があるのでは無いかと思ってな!』
『無茶言うぜやよいちゃん。俺ただのスポーツ選手だから』
『.........そうか』
『まっ、今度うちの社員でそこら辺何とか出来そうなやついっからソイツ連れて来るわ!!』
やよい(.........思えば、いつも彼の周りの人間に助けられているな。このトレセン学園は.........)
不意に思い返せば、生徒の危機も、そしてこのトレセン学園の危機も、彼等が表立ってくれている。勿論他のトレーナーや生徒達も力を貸してくれるが、先んじて行動に移すのはいつだって彼等だった。
そしてそんな彼等に影響を受けて、トレーナーはトレーナー同士で手を取り合い、ウマ娘達は仲間を支え合い、そして最終的にはお互い、無くてはならない存在.........
そう、[ウマ娘とトレーナー]と言う存在に.........
ハロー「あのー」
やよい「ッ!なんだろうか!!」
いかんいかん。大事な仕事の話の最中であるはずが、関係の無い記憶探りに熱心になっていたようだ。今は集中だぞ。やよい。
私は襟元を正すようにして気を引き締めてライトハローの方を見る。どうやら彼女はこの短い時間で資料を読み込む事が出来たらしく、その両手に持っていた物は既にテーブルの上に置かれていた。
ハロー「考えたのですが、このライブは理事長にとって、どういう物ですか?」
やよい「っ!.........そうだな」
[URAファイナルズ]。そのライブ。それが何の為に、もっと言えば[誰の為]にあるのか。私はそう質問されたと思い、その答えを自分の中から探ろうとする。
このレースは、私にとっても、そしてウマ娘達にとっても、多くのトレーナー達にとっても大きな意味のある物だと思っている。
レースというのは[ウマ娘]によって行われる。多くの人々が関わっている事は事実ではあるが、それはやはりウマ娘。彼女達が居なければ始まる事は無い。
元来ウイニングライブと言うのは、レースによって高まった闘争心。それを穏便におさめる為に勝者の勝利を讃え、そして敗者には健闘を讃える。そんな意味があった。
だがそれでは、あまりに普遍的だ。
大きなレースの閉幕を彩るその祭歌には、もっと特別な何かが欲しい.........
やよい「.........[ウマ娘達が歩んできた道]。それを、多くの人々に伝えたい」
やよい「レースと言うの物は過酷なトレーニングを乗り越えた事を伝えるには十分ではあるが、そのウマ娘達の精神を伝えるには、余りにも一瞬過ぎる」
やよい「.........だから私は、それを多くの人々に知ってもらいたいのだ」
探り探り。自分の中にある無意識に散りばめられた思い。それを這うように手でなぞって一つ一つ拾い上げ、口にする。
華々しい栄光。賞賛される美。輝かしい勝利。目を向けられるのはそればかりで、皆がその裏でどんな思いをしているのかは.........私にすら到底思いが及ばない。
わがままかもしれない。エゴなのだろう。それでも、それを知る機会も無く彼女達の内の誰かが一人づつ居なくなっていくのは忍びない。
そんな私の思いを感じ取ってくれたのか、ライトハローは私の目を見て静かに頷いてくれた。
ハロー「.........分かりました。ではこうしましょう」
「[URAファイナルズ]のライブは、[完全新曲]でやります」
「そしてそれは、[生徒さんだけ]で歌詞を作り上げた物にしようと思います」
やよい「っ.........!!!」
彼女は、私の思いを実現出来る完全択を提示してきた。その度胸、そしてその思考に驚きながらも、私は彼女の優しさに思わず胸をうたれた。
自ずと溢れ出そうになる涙を拭い、私はその場で立ち上がって彼女の手を取った。
やよい「流石は成績首席のライトハローっ!!私だけではここには至れなかった.........!!!」
ハロー「ほ、褒めすぎですよ〜!勉強しか取り柄の無かった私を置いてくれたトレセン学園なんです。少しは恩返しさせてください」
ハロー「それで、この計画なんですけど、実は.........」
やよい「.........なんだって?」
彼女が打ち立てたある[計画]。それを耳にした時私は、一瞬の不安が生まれた。その行動が果たして、[URAファイナルズ]に相応しいライブに成りうるのかと言う疑問。
.........だがそれと同時に、大きな期待も生まれた。これからどうなるのか。私ですら予想も出来ないその計画に、私は不安を振り払い、大きく頷いてそれを了承したのだ.........
ーーー
ハロー「わぁ.........懐かしいなぁ」
理事長とのお仕事の話を一旦終わらせた私はその足で、トレセン学園からそう離れていない多くの生徒さん達が生活をする[寮]へと足を踏み入れた。
何も変わってない。入口の扉を開けてエントランスを見るだけで、ここで生活を始めた頃の思い出が今の事のように想起させられる。
『アナタなんて言うの?』
『!ら、ライトハローです!!』
『そう!良い名前ね!!これからよろしくっ!!』
あの子は今どこで何をしているんだろう。重賞を勝って、G1レースも出走して.........私よりも輝かしい成績を残したあの子の事は、まだ知らない。
けれど、きっとどこかで第二の人生を謳歌している。あの笑顔に勝手にそう思わされながら、私は受付のウマ娘に話し掛けた。
ハロー「すいません。私こういうもので、理事長から.........」
フジ「お話は伺っていますよ。ヒシアマ」
アマ「ああ!ここに全員を集めるのは無理だから、行動するのはアタシらになる。遠慮なく言いな!」
奥の方からもう一人ウマ娘がやってくる。ここは栗東だから、きっとこの子は美浦寮の寮長なんだろう。
私の時代から人は変わっているけれど、雰囲気はやっぱり同じだ。こういう人が寮長なら住んでいる子達も安心するだろう。事実私も門限ギリギリの時に門前で会うあの人達には、恐ろしさを感じた事もあるけれど、やっぱり安心していた記憶も多い。
ハロー「この話は他言無用。勿論自分のトレーナーにも、そしてトレセン学園の職員さん達にも内緒でお願いします」
フジ「おや、それは大きな隠し事になるね。ヒシアマは大丈夫?」
アマ「くっ、アタシはこう見えて隠し事は苦手なんだ.........だが、何とかしてみせるさ!」
少し不安そうな表情は見せたけど、美浦寮の寮長は胸を叩いて了承してくれた。これで話を前に進められる。
ハロー「[URAファイナルズ]のウイニングライブ。その作詞を、生徒の皆さんにお願いしたいんです」
二人「!!.........」
私の言葉を聞いた二人は驚いた後、静かにお互いの顔を見つめ合い、無言の相談タイムに突入した。
けれどその情報量は凄まじく、処理しきれない物だったんだろう。やがて栗東の寮長であるフジキセキさんが、その口を開いた。
フジ「私達は歌ったり踊ったりはしてきたけど.........」
アマ「[創る].........っていうと、途方も無いくらいの門外漢だねぇ」
ハロー「作曲や振り付けはプロに外注しますので安心して下さい。皆さんはレースに対しての思いを、言葉にするだけでいいんです」
彼女達は言葉を綴るだけ。けれど二人はやはり、難しそうな表情を浮かべています。
.........やっぱり、だめだったのかな.........
「やって見ろよッッ!!!」
三人「!!?」
突然エントランスに響き渡った声。驚いたと同時に振り返ると、そこには.........
白銀「お前らカッコ付けすぎッ!!!」ビシィ!
ハロー(し、社長〜〜〜!!!??)
何故か植木鉢の格好をした白銀社長が厳しい表情で人差し指をこちらへと突き出していた。
こ、ここって確か、生徒のウマ娘以外特例以外立ち入り禁止なんじゃ.........?
白銀「良いかッ!![スター]ってのは勝手には生まれねぇんだッ!!」
白銀「誰かの輝きを貰って初めてなれるんだよッッ!!!」
二人「.........!」
白銀「お前らがもし未来のお茶の間で若ぇ奴の話をしたいんだったら―――」
「―――リスク承知で声を上げろッッ!!!」
社長のお言葉。会議の時でもプライベートでも、独特のセンスのせいで何を言っているのか、言いたいのかが上手く伝わらない人ですが、その熱量はハッキリと伝わってきます。
つまり彼は、未来のウマ娘達の活躍を夢見るのなら、失敗を恐れることなくチャレンジをしろ。そう言いたいんだ。
そしてその言葉は.........
フジ「.........確かに、少しひよっていたかも知れないね」
アマ「ああ、ヒシアマ姐さんとした事が、自分の格好悪さを気にして未来の子供達の事がすっかり頭から抜けていたよ」
社長の言葉によって、二人の顔は自信を持った物に変わった。やはり白銀社長は凄い.........!着いてきて本当に良かった.........!
これで話が前向きに進んで行く。そう思い安堵の溜息を吐いたのも束の間。二人は笑顔のまま顔を見合わせてそのまま社長の元へと歩いて行きました。
白銀「おっ?なんだなんだ?翔也様のありがた〜い言葉で感激したって所か!!?」
フジ「自分から出ていくのと、ゴールドシップを呼ばれるの」
アマ「それからアタシらにぐるぐる巻きにされてたづなさんに突き出されるの、どれが良い?」ゴキッゴキッ
ハロー「.........あ」
そ、そういえばトレセン寮って基本関係者以外立ち入り禁止.........そ、そのうえ確か、男性は関係者であっても立ち入り禁止だった様な.........
対照的な二人の笑顔。けれどそこからはそこはかとなく寮の平和を守るという意思が感じ取れる.........社長はそれを目の前にして臆することなく、笑顔で口を開きました。
「じゃあバカ女呼んでッッ!!!」
ーーー
白銀「お疲れさん」
ハロー「は、はい。あの.........ボロボロですね」
白銀「バカっ!そういう時はなっ!嘘でも綺麗ですねって言うのが生き物の常識だろ!!」
ハロー(し、社会人の常識.........かな?)
夕焼けの空が綺麗に見えるトレセン学園から少し離れた公園。カラスは鳴いて子供達に帰りを知らせて、人の子供もお母さんやお父さんに手を引かれて家に帰る。そんな時間。
そんなまばらに遊ぶ声が聞こえて来る公園のベンチに、社長と二人で腰を掛けて座っている。隣に居る人は.........ちょっと口が裂けても綺麗とは言えないほど顔が腫れてるけど.........
白銀「俺がハローちゃんと浮気してると思ったらしいぜ?可愛いところあんだろ?俺のゴルシも」
ゴルシ「おいっ!!言っとっけどなー!!この公園にある全部の遊具で新しい遊び方見つけるまで二人とも帰さねーからなっ!!」
白銀「わーってるよ!!コーヒー飲むか!!」
ゴルシ「飲まねーよそんなの!!アタシらは根っからのアールグレイティーセカンドフラッシュ派だっての!!」
あ、アールグレイ.........セカンドフラッシュ.........何を言ってるのかよく分からないけど、ゴールドシップさん達が紅茶派だと言うのがよく分かった。彼女に付き合う二人のウマ娘達も強く頷いてます。
社長はその返事に気を悪くすることなく、じゃあ仕方ないと言ってその場から立ち上がり、近くの自販機にお札を入れた。
そして人数分の飲み物を買い、その内の三本のミルクティーを彼女達に。ボスの缶コーヒーを私に片方くれました。
ハロー「い、良いんですか?」
白銀「え。もしかしてハローちゃんも紅茶派だった?」
ハロー「いえ!私エメマン大好きです!」
危ない危ない。あともう少しで社長の厚意を無駄にする所だった.........こういう押し引きの見極めも社会人として生活する上で大切なんだよね.........大変だけど。
社長から頂いた缶コーヒーを開けて一口。うん.........テレビ局で働いてた時はよく飲んでたから麻痺しててよく分からなかったけど、やっぱり好きな味してる。
.........そう考えると凄いなぁ。最初はどうなるかなって思ってたけど、今の方が毎日家に帰れるし、お休みも貰えるし.........白銀社長って、もしかして皆が思ってるより経営者向きなのかも。
ハロー「あっ、そういえばテレビ局の方はどうなってるんですか?私部署移ってから何も聞いてなくて.........」
白銀「あーアレ?アレね。一回解体」
ハロー「へ?」
白銀「いやねー。俺が目指してんのは若い奴らの見るテレビだからさ。四六時中やる必要無いんだよね。局所的に放送して、学校とか会社のある時間は裏方作業よ。大きい休みの日とかは力入れるけど」
白銀「テレビつまんないっしょ。昔に比べてさ」
そう言って、社長は一口缶コーヒーを飲んだ。そんな彼の表情はどこか寂しげに見えて、私はその滅茶苦茶でテレビの常識を打ち壊した話を聞いても、何も言えずに居た。
白銀「俺らがガキの頃はさぁ、バラエティ番組はガキも笑えて、カッコイイスターとか、お笑い芸人もカッコよく映ってたんだぜ?」
白銀「それが気付けば、面白くもねぇニュースのうんちくだとかわざと小難しくした政治とか経済の話をしてきやがる。そういうのは格ゲーの話する玲皇の奴だけで十分だっての」
白銀「俺はさ。ジジイになったら若ぇ奴の話をしたい訳っ!今の俺すら霞んじまうくらいの大スターの話をなっ!!」
彼はコーヒーを飲み干し、満面の笑みでそう言った。社長の底抜けの明るさ。けれどそこにはしっかり私達と同じ様に、行動する為の原動力がある。それを知って更に、この人に着いてきて良かったとまた感じる。
ハロー(.........社長、やっぱり私、貴方に着いてきて本当に良かったです)
白銀「おーっしオマエらっ!!俺様がこのそもそも遊び方分からねぇ鉄棒もどきの遊び方を教えてやらァ!!!」
ゴルシ「おっ!!ようやく来たか白銀!!!さっさとアタシらに無限の可能性を見せてくれよ!!!」
うんていの端。スタート地点の場所を片手で掴み、身体を一回振る力だけで、社長は背面側からうんていの上に踊り立った。
そしてその後、まるで鉄骨を渡るかのようにバランスをわざとらしく取りながら前へと進んで行く。そんな姿が、テレビ局を買い取ったあの日を思い出す。
『ここに500億あるっ!!この金でここの権利全部買うッ!!!』
『お、お前正気かッッ!!!』
『バカ野郎がッッ!!!正気な奴が番組作ってっから面白くねぇんだろッッ!!!』
『な、何ィ!!?』
『良いかッ!!!必要なもんはなァッッ!!!』
『鼻ったれたガキと暇してる女の子に夢を見させる物なんだよッッ!!!男は勝手に動くわッッ!!!』
テレビ局の買収。未だかつてこの日本でそれをした人は居ない。それをやってのけた上で、あの人はそう啖呵を切った。荒唐無稽な絵空事を本気で実現させようとする。
大人がそれを見た時は無理とか無駄とか、そんな諦めのいい言葉を使って勝手に高を括る。けれど子供がそれを見た時は、世界が広がった様に感じるだろう。
この人には.........未来を[思わせる]力がある.........
白銀「っ!」ツルッ
フェスタ「あっ!!?」
オル「ひっ!!お、お股が.........!!!」
ゴルシ「お、落ちた.........!あの騒がしい白銀が黙って.........!!!」
白銀「うっぐぁ.........絶対片方無くなった.........誰か宗也呼んで.........ここで移植手術する.........」
.........やっぱり、ただの頭の悪い人かも知れない.........
ーーー
ライトハローさんと出会って一日が経った。俺はあの後マックイーンに手痛い制裁を貰い、二度と公然で喧嘩はしないと誓わされた。覚書まで書かされた。
桜木「はぁぁぁ、腕痛い.........」
マック「これくらいしないとまたやるでしょう?」
桜木「そうだねぇ.........おバカさんだからねぇ」
反論も疑問も無い。最近こそごたごたが立て続けに続いてそんな気も無くなっていたが、夏合宿を終えてからはもう前の様に戻ってしまった。
また日常の一部が帰ってきた。そう思うととても嬉しいが、あの日から変わった事も沢山ある。
桜木「.........でもだからって朝から迎えに来なくても良いんだよ?」
マック「!!べ、別に!!私は自分のトレーナーが恥ずかしい事をしないか見張る為にこうして一緒に登校しているだけで!!」
マック「.........その、朝から一緒に居たいとか.........そういうのでは.........」
桜木「.........ふぅ〜ん」
マック「!な、なんですかその顔は.........!!!」
もじもじして顔を赤くするマックイーン。そんな姿を見せられると俺も自然に顔がニヤついてしまう。本当、可愛いお嬢様だ。
すっかり気を良くした俺は隣で歩く彼女にもう少し近付き、彼女の腕と俺の腕を一瞬だけ接触させる。
それに反応して彼女は一瞬驚き、より一層顔を赤くさせた。
マック「もう、おバカ.........♡」
桜木「おバカな生き物ですよ。彼女持ちの男なんてね♪」
俺がそう言うと、彼女は頬をふくらませて顔を背けてしまった。そういう仕草がまた可愛らしい。
そうやって楽しい登校を感じていると、トレセン寮の前まで来ていた。その時、学生服を着たウマ娘が寮から出てくる.........のでは無く、逆にソワソワとした様子で中へと入っていった。
桜木「?忘れ物でもしたのかな?」
マック「!は、早く行きましょう!!?」
桜木「え!?ちょ、押さないで!!?」
ハロー「中等部42人。高等部65人分の作詞.........はい!確かに受け取りました!」
フジ「皆に伝えたら結構乗り気でね。私達が何がする必要も無さそうだ」
アマ「ああ!これなら一ヶ月もありゃ、全員分の作詞が集まるだろうね!!.........けど」
ハロー「?」
二人「.........いくらカモフラージュとはいえ、学生服を着てくるなんて.........」
ハロー「!あ、あはは.........///」
―――巡る季節。過ぎ行く時間。変化は常に起きている。
その変化が何を作り上げるのか、それを知る者はまだ居ない。
桜木「ほ、本当にどうしたの!!?」
マック「良いから行きますわよ!!」
桜木「マックイーン何か隠してない!!?」
マック「隠してませんから!!!」
人通りの少ない早朝。二人の男女が慌ただしく歩いて行く。その姿はどこにでも居る、普通の男女だ。
そんな二人が巻き起こす、日本中を虜にした世紀の大レース。[URAファイナルズ]。
伝説の誕生まで、残り、半年を切った.........
......To be continued